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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査54巻6号

2010年06月発行

雑誌目次

今月の主題 注目されるサイトカイン 巻頭言

注目されるサイトカイン

著者: 吉村昭彦

ページ範囲:P.576 - P.576

 現在サイトカイン研究が極めて高い注目を集めている.歴史的にはサイトカインハンティングの時代に続いて,受容体遺伝子のクローニング,シグナル伝達研究と発展し,さらに遺伝子改変マウスの活用によってサイトカインの生理的な意義が解明されてきた.しかし,主要なサイトカインは出揃い,機能も大枠ではほぼ解明されてきたせいか,なんとなくサイトカイン研究は下火になった時期があった.特にサイトカインそのものを疾患治療に使おうという試みが,エリスロポエチンやG-CSFなどの造血因子を除いてなかなか成功しなかったという現実もあった.しかし,抗TNFα抗体が関節リウマチに奏効することが発見されて,逆にサイトカインの活性を抑えることで免疫疾患へアプローチできることがわかり,にわかに活況を取り戻してきた.そんな時期にゲノム解読が終了し,まだまだ機能不明のサイトカインが存在することも明らかとなった.

 その流れの中で,サイトカインを産生する細胞の主役のひとつであるヘルパーT細胞に新たな仲間が加わった.1980年代に提唱されて以来ドグマのように考えられてきたTh1/Th2サブセットに加えて,近年Th17が発見され,さらに制御性T細胞(Treg)も多彩な機能が解明されつつある.一方,炎症を抑制するサイトカインとしてはTGFβとIL-10が古くから知られているが,その作用機構についても解明が進んでいる.これら以外にもIL-27やIL-10のファミリー分子,あるいはIL-35といった新規抗炎症性サイトカインの発見も相次いでいる.

総論

サイトカインと免疫応答

著者: 吉村昭彦 ,   武藤剛

ページ範囲:P.577 - P.584

 免疫応答には自然免疫と獲得免疫がある.自然免疫細胞は食作用などで殺菌を行うとともに,Toll-like-receptor(TLR)やRIG-Iファミリーなどの異物認識機構を介してサイトカインを産生して炎症を促進し,獲得免疫系のリンパ球の活性化,動員を行う.次に獲得免疫系(T細胞とB細胞)が活性化される.T細胞やB細胞は自然免疫系の細胞から抗原を受けとり,抗原に特異性のある細胞だけが増える.T細胞にはヘルパーT細胞(CD4)と細胞障害性T細胞(CTL,CD8)がいる.ヘルパーT細胞は免疫の司令塔といわれ,各種サイトカインを放出して,実行部隊であるB細胞,CTL,自然免疫系の細胞群を増員,活性化する.このような免疫応答は正と負のバランスが保たれて進行し恒常性が維持される.また免疫系の負の細胞やサイトカインは寛容と呼ばれる自己や特定の異物に応答しない状態を作り出す.これらの免疫応答とサイトカインの関係は現在精力的に研究され次第に全容が明らかにされてきている.

サイトカインと受容体,シグナル伝達機構

著者: 久保允人

ページ範囲:P.585 - P.592

 サイトカインは細胞間の情報をつなぐ一群の蛋白質として,生命現象の様々な局面において重要な働きを有する.それぞれのサイトカインは,特異的な受容体に結合することにより,細胞内に備えられたシグナル伝達経路を活性化する.サイトカインはその受容体の構造によって7つに分類され,Ⅰ型とⅡ型受容体は,サイトカインシグナル経路で特徴的なJAK-STAT経路を使っている.このほかTNFなどのⅢ型,インスリンなどのチロシンキナーゼ型受容体,TGF受容体タイプ,ケモカイン型受容体,IL-1受容体型などがあり,それぞれ異なるシグナル経路によって制御され,細胞の運命決定を左右する機能を保有している.

サイトカイン,可溶性受容体の測定と診断への意義

著者: 窪田哲朗

ページ範囲:P.593 - P.598

 全身性エリテマトーデス患者に精神症状が出現した場合には,原疾患の中枢神経病変に起因するのか,ほかの原因による症状なのかを迅速に判断して対処する必要がある.前者では髄液中のIL-6が高値を示すことが多く,鑑別診断の参考になる.血球貪食症候群は,高サイトカイン血症により多臓器不全に至る重篤な病態であるが,血中可溶性IL-2受容体が著しく高値を示し,診断や予後の予測に有用である.

各論

IL-12サイトカインファミリー

著者: 吉田裕樹

ページ範囲:P.599 - P.605

 IL-12関連サイトカイン,IL-27, 23は抗原提示細胞から産生され,Th1細胞の分化・維持を制御する.さらに,IL-23は炎症誘導作用をもつTh17の分化を促進する.一方,IL-27には,IL-23と逆にTh17の分化を抑制するほか,様々なサイトカイン産生を抑制し,炎症を抑制する作用をもつ.IL-27に類似した作用をもつIL-35は,制御性T細胞から産生され,その免疫抑制作用の一部を担う.IL-12サイトカインファミリーは,ヘルパーT細胞の分化や機能を微細に制御している.

抗炎症性サイトカインIL-10とIL-35

著者: 溝口出 ,   森嶋紀子 ,   奥村昌恵 ,   千葉祐規乃 ,   善本隆之

ページ範囲:P.607 - P.613

 interleukin(IL)-10は,免疫寛容の誘導・維持や過剰な免疫反応の制御に重要な抑制性サイトカインであり,病原体排除や自己免疫性反応におけるエフェクターT細胞による過剰な炎症反応の制御や,腸内細菌と腸管免疫系との共生によって保たれている腸内環境の恒常性の維持に関与している.IL-10の産生は,内在性Foxp3制御性T(Treg)細胞や誘導性Treg(iTreg),IL-10を産生するタイプ1型のTreg(Tr1)細胞,Th1細胞,Th2細胞,Th17細胞など種々の細胞で見られる.IL-35は,一番新しいサイトカインで,Treg細胞から産生され,IL-10やtransforming growth factor(TGF)-βと同様にTreg細胞の免疫抑制活性を担っているサイトカインの一つである.

TGF-βと免疫応答

著者: 市山健司

ページ範囲:P.615 - P.622

 TGF-βは免疫抑制あるいは抗炎症性サイトカインとして古くから知られている.しかしその作用機構は以外と知られていない.最近TGF-βにはヘルパーT細胞の分化を制御する機能があることが明らかにされた.特にFoxp3陽性抑制性T細胞(Treg)を産み出す能力があることが発見されて,免疫抑制やホメオスタシス維持のメカニズムのひとつとして注目を集めている.しかし一方でTGF-βはIL-6と共存すると炎症性のTh17細胞も誘導する.TGF-βによるTregの誘導はSmad2/3に依存するが,Th17の誘導はSmad2/3非依存性である.このような分子機構の解明により免疫制御の新たな方法が開発されることが期待される.

造血因子と臨床応用

著者: 中畑龍俊

ページ範囲:P.623 - P.629

 造血に関与するサイトカインのうち,造血を正に制御するものは一般的に造血因子と呼ばれ,20数種類が知られている.造血因子は造血幹細胞の分化決定には作用せず,対応する受容体を発現している細胞の増殖因子として働き,分化がもたらされると考えられる.造血因子の臨床治験が数多く行われたが,医薬品として臨床応用されるようになったものはG-CSF,エリスロポエチンなどごく一部にとどまっている.トロンボポエチン(TPO)に代わり,TPO受容体作動薬の開発が進んでいる.

アレルギーとサイトカイン

著者: 浅井友香里 ,   北島裕子 ,   井上博雅

ページ範囲:P.630 - P.635

 アレルギー性炎症の病態には,IL-4,IL-5,IL-9,IL-13などのTh2(T helper 2)タイプのサイトカインが重要な役割を担っている.これらのサイトカインは,細胞膜上の受容体に結合し受容体が活性化すると,JAK/STAT系,Ras/ERK系などのシグナルが働くことにより応答遺伝子発現を変化させ作用が発現し,サイトカインシグナル抑制因子の発現も変化させる.最近,これら従来からのTh2サイトカインに加え,アレルギー性炎症におけるIL-18,新規Th2サイトカインIL-25,新規Th2関連サイトカインIL-33などの役割が注目されている.

注目されるケモカイン,ケモカイン受容体とその応用

著者: 松島綱治

ページ範囲:P.637 - P.643

 ケモカインは白血球遊走活性を有するタンパク質からなる生理活性物質であり,大きなファミリーを形成する.ケモカインは炎症・免疫反応を制御するのみならず癌に伴う血管新生・転移・増殖,HIV感染などにもかかわる.最近,AIDS治療薬としてのケモカイン受容体CCR5拮抗剤Maravirocと自家移植用幹細胞動員薬としてのCXCR4拮抗剤Plerixaforが臨床開発された.現在も多くの薬剤開発がケモカインシステムを標的として進行中である.

抗サイトカイン療法

著者: 亀田秀人 ,   竹内勤

ページ範囲:P.645 - P.650

 生物学的製剤,特に抗サイトカイン療法は,従来の低分子化合物と比較して非常に高い選択特異性と直接毒性の低さに基づき,十分量投与での画期的なリスク・ベネフィットバランスを可能にし,“proof-of-concept”の治療を実現した.主に点滴静注と皮下注射の製剤があり,現在わが国で市販されているのは腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン(IL)-6を標的とした製剤である.これらの製剤のより,関節リウマチなどの多くの難治性疾患患者にも寛解導入が可能となりつつある.

骨代謝とサイトカイン

著者: 高柳広

ページ範囲:P.651 - P.658

 骨と免疫系は,骨髄微小環境をはじめ,サイトカイン・受容体・転写因子などの制御分子を共有し,緊密な関係にある.関節リウマチにおける炎症性骨破壊の研究は,T細胞と破骨細胞の相互作用におけるサイトカイン制御の重要性に光を当てた.破骨細胞は破骨細胞分子化因子RANKLや炎症性サイトカインを介した正の制御とともに,インターフェロンによる負の制御を受けており,複雑なサイトカインネットワークの制御下にある.免疫細胞でのサイトカイン産生制御の鍵を握る転写因子NFATは,破骨細胞の運命決定因子としても機能する.このような研究から,骨と免疫の相互作用や共通メカニズムを解析する骨免疫学が発展し,様々な疾患の制御に重要な知見を提供するようになってきた.

話題

抗IL-6受容体抗体療法

著者: 西本憲弘

ページ範囲:P.659 - P.664

1.はじめに

 インターロイキン6(interleukin-6;IL-6)は,免疫応答や炎症反応の調節など多彩な生理作用を有する生体防御にとって重要なサイトカインである.しかし,多彩な作用を有するために,もしIL-6が持続的かつ過剰に産生されると様々な病態を引き起こす.関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)をはじめとする多くの炎症性免疫疾患や血液疾患の根本的な原因はいまだ明らかではないが,その病態形成においてIL-6の過剰産生が重要な役割を果たしている.したがって,IL-6のシグナル伝達を阻害することにより,治療効果が得られる可能性が考えられる.そのようなコンセプトにより開発されたのがヒト化抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ®)である.

 トシリズマブは本邦オリジナルの初の治療用ヒト化モノクローナル抗体である.IL-6がIL-6受容体に結合するのを特異的に阻害することで効果を発揮する.トシリズマブは2005年に希少疾患であるキャッスルマン病に,2008年にはRAと若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis;JIA)の治療薬として世界に先駆けて本邦で承認された.さらに日本から世界に発信し,2009年に欧州連合で,2010年1月には米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)によりRAに対し承認された.

 本稿ではサイトカイン研究の疾患治療への応用として,トシリズマブによる抗IL-6受容体抗体療法について紹介したい.

内分泌器官としての脂肪組織とメタボリックシンドローム

著者: 津田直人 ,   菅波孝祥 ,   小川佳宏

ページ範囲:P.665 - P.669

1.はじめに

 内臓脂肪型肥満を背景として発症するメタボリックシンドロームは高血糖や脂質代謝異常,高血圧を重複して有する病態である.近年,その基盤病態として全身の軽度の慢性炎症反応が注目されている.肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態であると定義され,脂肪組織では脂肪細胞の肥大化(中性脂肪蓄積量の増大)と脂肪細胞数の増加が認められる.一方,肥満の脂肪組織では脂肪細胞自身の変化のみならず,血管新生や細胞外基質の増加,マクロファージや好中球,Tリンパ球などの免疫担当細胞の浸潤が増加することが知られている(図1).そのような“脂肪組織リモデリング”とでもいうべきダイナミックな組織学的変化により引き起こされる炎症性変化は,アディポサイトカインの産生調節の破綻を引き起こしメタボリックシンドロームの病態形成に関与する.

 本稿ではアディポサイトカイン産生調節破綻に大きな影響を及ぼす,脂肪細胞と免疫担当細胞の関係に焦点を当て概説したい.

サイトカインと癌治療

著者: 井上博之 ,   谷憲三朗

ページ範囲:P.670 - P.676

1.はじめに

 悪性腫瘍は,世界的に罹患率および死亡率において最も重要な疾患であり,難治性疾患として今後も診断,治療など様々な面から新たな研究アプローチが必要とされている.近年,手術療法,抗癌剤治療,放射線治療,分子標的薬治療に加え,様々な腫瘍免疫療法の基礎研究,臨床研究が行われるようになった.腫瘍免疫療法は,樹状細胞やTリンパ球などの免疫細胞を用いた細胞療法,補体系やADCC(antibody dependent cell cytotoxicity)活性を利用したモノクローナル抗体療法などの多岐にわたるが,免疫応答(炎症)の主役を担うサイトカインおよびケモカインをアジュバント(免疫賦活剤)あるいは免疫担当細胞や腫瘍細胞に遺伝子導入して用いられるワクチン細胞療法(免疫遺伝子治療)が,有害事象の少ない新規治療法として注目を集めている1)

 本稿では,後者の免疫遺伝子治療にかかわる近年の報告を中心に展望を述べる.

サイトカインシグナル阻害薬の現状

著者: 山岡邦宏 ,   田中良哉

ページ範囲:P.677 - P.681

1.はじめに

 サイトカインは生体内の局所において,ごく微量存在することで,生理的役割を担っている生理活性物質である.個々のサイトカインはネットワークを形成することで,それぞれの作用に過不足をきたさないように制御されている.しかし,その制御がなんらかの原因により破綻することで免疫応答の異常をきたし,関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の発症につながると考えられている.

 関節リウマチの病態は種々の炎症性,抗炎症性サイトカイン,自然免疫,獲得免疫が複雑にからみあった病態であるが,キメラ型抗TNF(tumor necrosis factor)抗体であるインフリキシマブによる治療の成功は,TNFが関節リウマチ病態のサイカインカスケードにおけるチェックポイントであることを初めて明らかにした.インフリキシマブの投与により歩行困難であった関節リウマチ患者が数日で歩行が容易になるだけでなく,階段昇降も可能となることも今では珍しくない.しかし,約3割の関節リウマチ患者はTNF阻害療法に抵抗性を示すだけでなく,非経口投与であることに加え,高価であることから,治療導入や治療継続が困難となることが少なくない.

 そこで,最近,サイトカインが細胞表面上の受容体に結合後に活性化する細胞内蛋白であるチロシンキナーゼを阻害することで同様の効果を狙った薬剤が注目されている.チロシンキナーゼは,細胞内のサイトカインシグナル伝達の起点となる蛋白質であり,サイトカインがその生物学的活性を発揮するには必須の蛋白である.生体内には約90のチロシンキナーゼが存在することがヒトゲノムの解析で明らかとなっているが,中でも活動性の関節リウマチ患者の炎症局所において発現が確認されている,mitogen-activated protein kinase(MAPK),Janus kinase(JAK)とspleen tyrosine kinase(Syk)に対する阻害薬で関節リウマチを対象とした臨床試験が既に行われている.

 本稿では,最近の臨床試験の結果と,臨床での使用が間近と考えられるJAK阻害薬の作用機序につき概説する.

サイトカインのシグナル伝達異常により発症する免疫不全症

著者: 峯岸克行

ページ範囲:P.682 - P.686

1.はじめに

 サイトカインは,様々の細胞から放出され細胞間相互作用を媒介する蛋白性因子で,免疫,炎症,造血などにおいて極めて重要な役割を担っている.それに共通の特徴は,①多くが糖蛋白で,②極めて微量(pg/ml~ng/ml)で効果を発揮し,③細胞表面の特異的レセプターに結合し,細胞内シグナル伝達経路を活性化し,④主として産生局所で働き,⑤多様な生理活性を有している(pleiotropy).⑥異なるサイトカインが同一の作用を有することがあり(redundancy),⑦複雑なネットワークを形成し,⑧生理的インヒビターが存在する(IL-1R antagonist etc).⑨複数のサイトカインの相互作用は相加的,相乗的,拮抗的など様々で,⑩生理作用に必須であるが,一方過剰産生された場合など病態形成にも関与する,などがある.サイトカインがヒト免疫系にとって必須の働きを果していることが,サイトカインまたはその特異的レセプター,さらにその下流のシグナル伝達因子の欠損を有する遺伝性疾患,原発性免疫不全症の存在により明らかになった.

 原発性(=先天性)免疫不全症は,ヒトの免疫担当細胞の異常に起因する疾患とである.ノックアウトマウスが作成される以前は,ほとんど唯一のin vivoモデルとして免疫担当細胞,さらにはそれに発現する遺伝子の機能を明らかにすることに大きな貢献をしてきた.ノックアウトマウスが作成できるようになった後も,ヒトとマウスにおいて,同一の遺伝子異常が異なる表現型をとる例が多数あることが明らかになり,ヒトの免疫系遺伝子の機能理解のためには,原発性免疫不全症の原因遺伝子同定と病態解析の重要性がますます高まっている1).ヒトの原発性免疫不全症の原因遺伝子はこれまでに150個以上が明らかにされており,いくつかの共通の病態の免疫不全症があり,8個のグループに分類されている(表)2)

 本稿では,サイトカインとそのレセプター,さらにはその下流のシグナル伝達分子の異常により発症する免疫不全症について概説する.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 悪性腫瘍・6

肝癌のマクロ・ミクロ像

著者: 海野みちる ,   小松京子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.570 - P.575

 肝癌はアジア・アフリカの高齢男性に多くみられ,わが国の肝癌死亡をみると,2007年の部位別死亡数は,肺癌・胃癌・大腸癌に次いで第4位である.また,肝癌の罹患には地域差があり,近畿地方以西に多い.肝癌の原因のひとつとして肝炎ウイルスの感染がある.感染により慢性肝炎,肝硬変になり,肝癌へと進行することが知られている.特にC型肝炎ウイルスの感染が引き起こす肝癌は全体の約70%といわれている.

 肝臓癌は原発性肝癌と転移性肝癌に分類され,さらに原発性肝癌は肝細胞癌・肝内胆管癌(胆管細胞癌)・混合型肝癌などに分類される.肝癌の組織型の主なものを表に記した(表1).日本では原発性肝癌の90%以上が肝細胞癌で,残りの約5%が肝内胆管癌である.混合癌とは肝細胞癌と肝内胆管癌が混在する癌である.

シリーズ-ベセスダシステム・5

細胞診の自動化

著者: 小松京子 ,   山本阿紀子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.687 - P.694

はじめに

 細胞診の自動化には,標本作製に関連するものと,スクリーニングなど診断にかかわるものとに大別される.免疫染色の判定やDNA量などを客観的データとしてとらえることを目的とした機械化も進んでいる.米国では1987年にThe Wall Street Journal紙による細胞診の精度管理の問題が提起され,スクリーニングの一日鏡検限度枚などの指導や婦人科陰性検体の10%以上の再鏡検などが義務付けられ,細胞診の自動化も急速に普及した.報告様式はベセスダ・システム1988「The 1988 Bethesda System for reporting Cervical/Vaginal Cytological Diagnosis(TBS)」が提唱され,現在3回目の改訂(ベセスダ・システム2001)1)がなされている.わが国においては,婦人科領域での液状処理法による標本作製が脚光を浴びつつあるが,診断分野の自動化は,多量の検体を処理する施設以外の多くの病院ではまだ普及されるには至っていない.

 本稿では検体処理ならびにスクリーニングの面から細胞診の自動化とその展望について考える.

シリーズ-検査値異常と薬剤・5

―投与薬剤の検査値への影響―末梢神経系作用薬・Ⅰ

著者: 片山善章

ページ範囲:P.695 - P.700

局所麻酔薬

 局所から中枢神経への感覚伝達が遮断された状態を局所麻酔という.局所麻酔薬は神経線維のNaチャンネルの活動を妨げて興奮を妨げて興奮の伝達を遮断することによって神経麻痺を起こす.麻酔薬の分類はエステル型(コカイン,プロカイン,テトラカインなどが含まれる)とアミド型は(リドカイン,メピバカイン,ブピバカイン,オキセサゼインなどが含まれる)エステル型はアレルギーが起こりやすい.また,血中エステラーゼで分解される.アミド型は肝臓でゆっくり代謝される.

研究

酸化マグネシウム服用者と未服用者における血清マグネシウム濃度の比較

著者: 萬谷直樹 ,   岩崎友之 ,   小尾龍右 ,   藤井泰志

ページ範囲:P.701 - P.703

 酸化マグネシウム低用量服用群,高用量服用群,未服用群における血清マグネシウム濃度を比較検討した.低用量群の39.1%,高用量群の72.7%,未服用群の33.3%に軽度の異常値(2.5~2.8mg/dl)がみられ,各群の平均値には有意差がなかった.未服用群でみられた2.5~2.8mg/dl程度の異常は,酸化マグネシウム服用が原因とはかぎらず,十分な経過観察の元で服用を継続することは可能かも知れない.

Coffee Break

私が命名した“PTK総会”と“HIP会”

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.614 - P.614

 今回は私がさりげなくつけた2種の名前について紹介しよう.

 本誌“coffee break”欄ですでに何回か紹介したように,私は札幌医科大学附属病院中央検査部に移る前の昭和26年から10年近く微生物学教室で研究に従事していた.教授,助教授を中心に若い教室員は,それぞれのテーマの研究を続けていたが,臨床側からも学位論文作成の目的で数人の若い医師達も合流して,常時和やかななか研究に取り組んでいた.また,時折息抜きのため夕刻教室内で会食(当時の定番は“湯豆腐”程度)をしたり,各教室対抗の親睦野球大会も定期的に行い,若い力を発散していた.同時に私らは夜巷に足を運こびパチンコ(当時は球1個宛打つ台のみの時代)に挑むことも多く,パチンコをしない教授らから「昨晩の収獲は?」と聞かれることが多かった.私もその都度真面目に答えるのも面倒で「夕べはPTKの総会へ行ってましたので…」と言葉を濁した.Pachincoを発音から“Patinko”へと変え,これを略してPTKとしたもので,教授も初め目を白黒させていたが,それ以降教室では「“PTKの総会”へ行く」という言葉が流行し出し,「夕べの“PTKの総会”の収獲はどうだった?」と聞かれるようになった.

随筆・紀行

袖振り合うも(その2)

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.644 - P.644

 音楽の世界では巨人といわれた作曲家の山田耕筰さんとは浅からぬ縁があった.そもそもは戦時中に私の故郷の町に陸軍飛行学校が設けられ,数少ない開業医の父が校医を依託されたことに始まった.

 耕筰氏の長男の耕一君が予備学生として入校し,人なつっこい性格でわが家に度々遊びに来るようになった.戦局が激しくなり疎開が始まると彼の頼みで耕筰氏夫人と妹さんをわが家の離れに疎開させることになった.耕筰氏は東京で頑張っていたが,一度だけ飛行学校卒業式に来てわが家にも挨拶に寄った.気さくな人柄で,「この町の町歌でも君が作詩してくれれば曲を作りますよ」などと申されたのを思い出す.私にとって大作曲家との合作の千載一遇の機会だったかもしれないが,戦局苛烈となり耕一君も南方に羽ばたき,合作も夢に終った.

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あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.706 - P.706

 人は生を授けられてから,加齢という一方通行の時間軸のなか,ある意味で炎症と腫瘍の谷間をくぐりぬけながら一生の歩みを続ける.炎症は生体内外の刺激に対し反応し修復に至るまでの一連の免疫応答であり,このなかにあってサイトカインは炎症を主に局所微小環境における細胞間相互作用により,恒常性を維持する役割を担う低分子糖蛋白である.近傍細胞,自身の細胞をも標的とし特異的リセプターと結合,細胞内シグナル伝達を介して多様な作用を示す.炎症は時に遷延慢性化,あるいは悪性腫瘍をもたらす.生体防御と同時にその機能の破碇は直接的,間接的に異常病態の発症をも導く.

 今や200を超える成分が同定され,複雑な病因ネットワークのなかから基軸となる成分が病態ごとに同定されて,より根源的な病因の引き金の解明へと迫りつつある.30年以上にわたるサイトカイン研究の積み重ねのなかから,抗TNFα抗体,可溶性リセプターによる関節リウマチ治療という大きな成果がもたらされた.また,最近健常者を対象として進めている基準範囲の設定においても,若年段階からBMI,腹囲,血清脂質濃度などと血清CRP,SAA濃度との高い関連性が認められ,脂肪細胞の増殖,肥大により産生されるサイトカイン群が密接にかかわることも明らかにされている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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