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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査55巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

今月の主題 カルシウム・リン・ビタミンDの再評価 巻頭言

カルシウム・リン・ビタミンDの温故知新

著者: 北島勲

ページ範囲:P.947 - P.948

 血中カルシウム濃度は,人種,性,年齢を超えて厳密に調整されている.副甲状腺ホルモン,カルシトニン,ビタミンDがカルシウム代謝調節にかかわる主役であることは古くから知られていた.そこでカルシウム・リン代謝について,まず総合的に理解を深めていただくために竹内靖博先生に現状を俯瞰していただき,引き続き,岡野登志夫先生には,ビタミンDの基礎的知識を深める目的でその基礎と臨床につきご執筆いただいた.

 血中カルシウム濃度と副甲状腺分泌の間にはネガティブフィードバック機構が存在することより,生体におけるカルシウム濃度の変化を感知する仕組みが注目されている.この新しいカルシウム・リン代謝調節機構の理解には,Brownら(Nature 366巻,6455号,1993)により発見された甲状腺カルシウム感知受容体(calcium sensing receptor;CaSR)とCASR遺伝子異常によるカルシウム代謝異常発症機構を知ることが重要である.CaSRはカルシウム代謝を再評価するきっかけとなった.そこでCaSRと病態とのかかわりについて,難波範行先生・大薗恵一先生に最近の知見を中心にまとめていただいた.また,カルシウム・リン・ビタミンDの病態生理と検査の関連を,山内美香先生,田中弘之先生,道上敏美先生,田井宣之先生に臨床の立場から執筆していただいた.

総論

カルシウム・リン代謝調節機構の新展開

著者: 竹内靖博

ページ範囲:P.949 - P.955

カルシウム・リン代謝調節は主に副甲状腺ホルモン(PTH),ビタミンDおよび線維芽細胞増殖因子23(FGF23)により制御される.その標的組織は腎尿細管,小腸および骨である.内分泌学の知識に基づいたフィードバックシステムがカルシウム・リン代謝においても精緻に構築されているが,各ホルモンの作用機序の詳細についてはいまだに未解明な問題も多く,今後の研究課題となっている.

ビタミンD代謝の基礎と臨床

著者: 岡野登志夫

ページ範囲:P.957 - P.965

ビタミンD3は,肝臓でCYP2R1により25(OH)D3に代謝され,次いで腎臓でCYP27B1により1α, 25(OH)2D3に代謝され生理活性を発現する.また,標的細胞では1α, 25(OH)2D3が活性発現後に速やかに不活化されるための酵素としてCYP24A1が発現している.ビタミンD3の代謝的活性化機構と不活性化機構は骨・ミネラル恒常性維持にかかわる様々な因子による制御を受けている.ビタミンDの生理作用を明らかにするうえで,ビタミンD代謝の全貌の解明が必要である.

ビタミンD測定の進歩

著者: 渭原博

ページ範囲:P.967 - P.972

血清中の主たるビタミンD代謝物(Dビタマー)には,1α,25-ジヒドロキシビタミンD3〔1α,25(OH)2D3〕と25-ヒドロキシビタミンD3〔25(OH)D3〕がある.1α,25(OH)2D3はカルシウム代謝の評価に,25(OH)D3はビタミンD栄養の評価に用いられる.血清25(OH)D3濃度の測定は,方法間差,施設間差が大きく標準化が求められている.アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の常用参照標準物質(SRM972)を用いた標準化作業を紹介する.

カルシウム感知受容体における病態

著者: 難波範行 ,   大薗恵一

ページ範囲:P.973 - P.978

細胞外イオン化Ca(Ca2+o)濃度は厳密に制御されており,その要となる分子がCa感知受容体(CaSR)である.CaSRは副甲状腺,腎尿細管をはじめ種々の臓器で発現しており,Ca2+oに応じて臓器特異的生理作用を発揮し,Ca恒常性を維持する.CaSRの機能亢進,機能低下をきたす病態の発見によりCaSRの生理作用に関する理解は深まったが,シグナル伝達機構の詳細など未解明の領域もあり,CaSR作動薬の開発・応用とともに今後の研究が期待される.

各論 〈病態生理と検査〉

高カルシウム血症・低カルシウム血症

著者: 山内美香 ,   杉本利嗣

ページ範囲:P.979 - P.985

Ca代謝異常症はよく経験する電解質異常をきたす疾患であるが,測定するまで気づかないことが多い.血清Ca,副甲状腺ホルモン(PTH),1α,25(OH)2D3値などの測定により鑑別診断は比較的容易である.PTHの値から原因が副甲状腺か否かを判断し,高Ca血症では原発性副甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍に伴うもの,低Ca血症では頸部手術後や薬剤性など頻度の高い原因を念頭に置いて鑑別を行う.血清Ca値は厳密に調節されているため,軽度の異常でもCa代謝調節機構の異常を考えるべきである.

副甲状腺機能障害

著者: 田中弘之

ページ範囲:P.987 - P.992

副甲状腺機能異常の中で機能低下症について,その原因と病態,病態生理からみた治療管理の概略を述べた.副甲状腺機能低下症は様々な原因で発症し,その鑑別は治療方針の決定に重要である.また,治療においては欠落ホルモンを補充することは難しく低Ca血症を活性型ビタミンDの投与で補正しているだけであるため,高Ca尿症の発症に注意する必要がある.

低リン血症

著者: 道上敏美

ページ範囲:P.993 - P.997

健常成人においては,通常,血清リン値は2.5~4.5mg/dl程度に維持されている.小児の血清リン値は成人よりも高い.低リン血症は,①腸管からのリン吸収の低下,②腎臓からのリン喪失,③細胞内へのリンの移動により生じる.腎臓からのリン喪失は,Fanconi症候群や種々の遺伝性低リン血症性くる病,腫瘍随伴性低リン血症性骨軟化症など,様々な病態に伴う.低リン血症の中には,線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の作用の過剰に基づく病態がいくつか存在し,FGF23の測定は低リン血症の鑑別診断において有用である.

ビタミンD代謝異常

著者: 田井宣之 ,   岡崎亮

ページ範囲:P.998 - P.1002

ビタミンD代謝異常を示す疾患は様々であり,血中には多くのビタミンD代謝物が存在するが,25(OH)Dと1α,25(OH)2Dの2つを測定すれば,ほとんどのビタミンD代謝異常症の病態解析が可能である.25(OH)Dはビタミン充足状態,1α,25(OH)2DはビタミンDの活性化状態を表す.ビタミンD欠乏はくる病/骨軟化症の原因となるが,25(OH)Dが従来の基準値内であっても低めの場合はビタミンD不足と呼ばれ,骨だけでなく多臓器(心血管,糖尿病,癌など)にも悪影響を及ぼす可能性がある.

話題

FGF23によるリン・ビタミンD代謝調節機構

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.1003 - P.1006

1.はじめに

 慢性の低リン血症は,骨石灰化障害を特徴とする,くる病/骨軟化症の原因となる.逆に高リン血症は,異所性石灰化のリスク因子である.健常人にはこれらの異常が生じないことから,生体には血中リン濃度を一定の範囲に維持する機構が備わっていると考えられる.従来,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)や1α,25-水酸化ビタミンD〔1α,25(OH)2D〕が,血中リン濃度を変化させることが知られていた.一方,PTHの分泌は主に血中カルシウム(Ca)濃度によって規定され,1α,25(OH)2D産生はPTHによって促進される.したがってPTHや1α,25(OH)2Dは,Ca調節ホルモンとして作用するものと考えられてきた.当初一部のくる病/骨軟化症の発症に重要な役割を果たす因子として同定された線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23;FGF23)は,生理的にも血中リン濃度を調節する液性因子であることが明らかにされてきた1,2).以下本稿では,FGF23の作用につき概説する.

α-Klothoによるカルシウム・リンの恒常性維持機構

著者: 鍋島陽一

ページ範囲:P.1007 - P.1012

1.はじめに―α-klothoの発見

 α-klothoは顕著な電解質代謝異常により多彩な老化様症状を呈する変異マウスの原因遺伝子として同定された1).α-klothoはI型膜蛋白をコードしており,その大部分を占める細胞外ドメインは2個のβ-glycosidase familyホモログより構成されており,腎遠位尿細管,上皮小体,脈絡膜で発現している1,2).これらの組織の細胞内には多量のα-Klothoが存在し(細胞内型),また,細胞膜型,さらに細胞膜貫通ドメインの直上で切断された分泌型(血清,脳脊髄液,尿中より同定される)3)が知られている(図1).細胞内型のα-KlothoはNa+,K+-ATPaseと結合しており4),一方,細胞膜上ではFGF23(fibroblast growth factor 23),FGFR1(fibroblast growth factor receptor 1)と三者複合体を形成しており5),これらの結合分子の機能制御を介してカルシウム,リン代謝の制御にかかわっている.事実,α-klotho変異マウスは血管中膜の石灰化,内膜の肥厚を特徴とする老化に伴って発症する動脈硬化,骨密度の低下,軟部組織の石灰化など電解質代謝異常を推定させる表現型を示し,血清リンの顕著な上昇,血清カルシウムの亢進,1α,25(OH)2D3(活性型ビタミンD)の持続的上昇,血清FGF23の顕著な増加が観察される(図1).

 α-klothoの発見以来,その分子機能はながらく不明であったが,最近の研究によりα-klothoはカルシウム・リン代謝制御の中心的な制御因子であることが示され,カルシウム・リン恒常性制御機構の新たなコンセプトと分子機構の理解がもたらされた.

ビタミンDと癌

著者: 溝上哲也

ページ範囲:P.1013 - P.1016

1.はじめに

 高緯度地方に癌が多いことは古くから指摘されていた.1980年,Garland兄弟1)は米国における結腸癌の死亡率が北部に高く,日射量が多い南部の都市は低いというデータにもとづいて,ビタミンDが結腸癌を予防するという仮説を提唱した.筆者2)は,日本において県を単位として分析したところ,米国での観察と同様,大腸癌を始めいくつかの癌の死亡率は,過去30年間の日射量が多い県ほど低いという相関を認めた.

 1981年,Sudaら3)の研究グループはビタミンDの発癌抑制に関する実験データを発表した.マウスの骨髄性白血病細胞に活性型ビタミンDを添加すると,その細胞が分化し,増殖が抑制されたのである.その後,細胞増殖抑制やアポトーシス促進といった発癌メカニズムにおけるビタミンDの予防的役割が明らかになっていった4,5).大腸を含むいくつかの組織(臓器)では生物学的活性型である1α, 25-ジヒドロキシビタミンD〔1α, 25(OH)2D〕を局所において産生する酵素が存在し,また,そのような組織にはビタミンD受容体があり,この受容体を介して1α, 25(OH)2Dが細胞に作用する可能性がある.このような事実は,ビタミンDが大腸癌を予防するという仮説が生物学的機序からも妥当なことを示す.

 ビタミンDと癌との疫学研究は大腸以外の部位,特に乳房,前立腺,膵臓についても報告されているものの,特に大腸癌において関連の一貫性を認める.本稿では,ビタミンDと大腸癌,あるいはその前癌病変である大腸腺腫との関連を調べた疫学研究を概説する.

ビタミンDと身体機能評価

著者: 若林秀隆

ページ範囲:P.1017 - P.1020

1.はじめに

 ビタミンD投与が転倒予防に有効という報告が発表されてから,ビタミンDと身体機能評価に対する関心が高まっている.骨だけでなく筋肉にもビタミンD受容体があるため,骨粗鬆症だけでなく筋肉量や筋力の改善にもビタミンD投与は有効という報告もある.

 本稿では,ビタミンD欠乏症の場合とビタミンD欠乏症ではない場合に分け,ビタミンDと身体機能評価の関連を検討した系統的レビューを中心に解説する.

緊急連載/東日本大震災と検査・4

震災医療の問題点―慢性疾患を中心に

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.1024 - P.1027

はじめに

 東日本大震災は,政治も経済も,そして人の心も激しく揺さぶったが,医療の世界もこれにより様々な問題提起を受ける形になった.わが熊本大学でも医師を派遣することが決定し,石巻に3月下旬から約1か月ほど,医師,コメディカル,事務からなる6人の編成で,支援チームを派遣した.私自身も東北地方の惨状に,いてもたってもいられなくなり,3月28日から3日間石巻に医療支援に行った.医師として様々な思いを抱いたが,その3日間に診察した救急外来の患者,避難所の患者を通して,現地で垣間見た惨状の中から特に慢性疾患に関する臨床検査に関連して感じたことを本稿で紹介したい.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 非腫瘍・10

肝硬変のマクロ・ミクロ像

著者: 小松明男 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.944 - P.945

 肝硬変は,非腫瘍性慢性肝疾患の最も進行した不可逆性の病変である.すなわち,正常な小葉構造の消失,異常な小葉改築,および著明な線維化が肝臓全域に認められる疾患である.原因は,日本では慢性ウイルス性肝炎,欧米ではアルコールが最も多い.原因により肉眼像,組織像に若干の差異はあるが,ここではあえて共通する事項を注視する.

 最初に肉眼像であるが,特徴的な所見は肝臓の委縮とびまん性小結節性変化である(図a).肝臓の委縮は初期段階ではみられないことがあるが,進行した状態では著明である.びまん性小結節性変化は,肝実質の小葉改築と線維化による凹凸であり,割面のみならず,表面にもびまん性にみられることが多い.

INFORMATION

2011年度日本サイトメトリー技術者認定協議会技術講習会

ページ範囲:P.966 - P.966

 下記の要領で,技術講習会を実施します.奮ってご参加いただきますようお願い申し上げます.

 本講習会は,「認定サイトメトリー技術者」認定試験の指定講習会と,サイトメトリー初心者のための入門講習会を兼ねております(午前は共通,午後はコース分け).従来の技術講習会(2007年度まで)の「基礎コース」に相当します.

第14回日本サイトメトリー技術者認定試験

ページ範囲:P.966 - P.966

受験資格:①~⑤のすべてを満たす者
①申請時に日本サイトメトリー学会の会員である.

第35回(平成23年度)東京電機大学ME講座―先端技術がひらく医療と福祉の未来

ページ範囲:P.972 - P.972

開講期間:2011年9月27日(火)~12月6日(火)

 毎週火曜日,全10回〔10月25日(火)を除く〕

千里ライフサイエンスセミナー「匂い・香り・フェロモン」

ページ範囲:P.1016 - P.1016

日 時:2011年11月4日(金) 10:00~16:50

場 所:大阪府・千里ライフサイエンスセンター5F ライフホール

映画に学ぶ疾患・20

「127時間」―痛みの臨床

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.986 - P.986

 アーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)はある金曜日の夜,仕事を終えた後,ユタ州,ブルー・ジョン・キャニオンで大好きなロック・クライミングをするため,はやる気持ちを抑え慌ただしく準備を始める.映画「127時間」の始まりである.土曜日の朝,車で目的地に着くと原野をマウンテンバイクで颯爽と駆け抜け,行けるところまで行き,後は岩や洞窟を一人で登り降りしながらクライミングを楽しんでいた.アーロンは,誰もいない澄み切った空気の中で,一人でいる自由を満喫しながら,歩き馴れた原野を軽い足取りで気ままに散策していた.広大な大地にあるものといえば岩くらいである.目的地もなくどんどん歩いていくアーロン.と,そのとき突然,岩に足を滑らせ,1トンはある岩とともに谷底に落ちてしまう.岩は彼の右上腕部分にのしかかり,もがいてもその腕は自由にならない.前腕は動くが上腕が挟まれ,上腕から指先にかけて虚血になっていく.助けに来る者はいない.彼は,これまでもこうした危機を乗り切ってきた経験があるのか,次第に落ち着きを取り戻し,まず持っていた万能ナイフで岩を削り取り始める.しかしそれはほとんど何の役にも立たないことを悟る.日曜日になり次のチャレンジが始まる.今度は持っていたクライミングロープで岩を吊り上げようと格闘するが,大きな岩はびくともしない.渓谷は夜になると昼間の暑さが嘘のように寒い.そして突然のように雷雨が襲う.そんな中で腕の痛み,空腹に耐えながら試行錯誤を重ねるアーロン.そして最後は口渇との戦いとなる.

 月曜日,ついに給水袋に貯めておいた自分の尿も飲み干し,意識も薄れ始めていった.数々の思いがまるで走馬灯のようにアーロンの心に蘇ってくる.恋人だったラナに対してはずっと思いを寄せていたのに,なぜか心を開くことができなかった.両親にも,必ずしも優しくできず,辛く当たったこともあった.火曜日,水曜日と時間が過ぎるにつれ,いよいよ体も心も弱り,ついに木曜日の朝を迎える.薄れていく意識の中で,死を意識したそのとき,アーロンの心に突然光がともり,笑っている小さな子どもの姿が現れる.それは他でもない,こんなアクシデントに見舞われなければ生まれていたはずの,アーロンの未来の子どもの姿であった.その姿にアーロンの心は奮い立った.待っていたはずの未来の家庭,未来の子孫のために,彼は最後の力を振り絞って自分の腕を渾身の力で切り取り始める.アーロンは激しい痛みに耐えながら,ついに骨を切り,神経を切断し,格闘の末,右腕を切り落とす.アーロンはようやく岩間の拘束から解放される.

学会だより 第60回日本医学検査学会

震災復興への力強い息吹き

著者: 市川徹郎

ページ範囲:P.1021 - P.1022

 初めに,本年3月の東日本大震災で被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに,一日も早い復興を祈念いたします.

 第60回日本医学検査学会は,2011年6月4日(土)~5日(日)に東京国際フォーラムで行われました.担当は長野県臨床衛生検査技師会です.長野県と言えば,3月11日の東北での震災に引き続いて,12日の未明に北部で大きな地震があり多くの人が被災した県でもあります.その意味で,今回の学会を長野県が担当したことは,震災復興という観点からも意義深いものと感じます.当日は梅雨の合い間の晴天に恵まれ,会場は多くの参加者の熱気で溢れていました.

微生物検査の革新と普遍性

著者: 久保田紀子

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 今回の学会では一般演題が600題を優に超え,全国の検査技師がそれぞれの検査分野で研鑽を重ねた成果が発表された.

 私の専門である微生物検査領域では,マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(matrix assisted laser desorption/ionization―time of flight mass spectrometry;MALDI-TOFMS)を用いた微生物同定に関する一般演題が登場した.質量分析装置で得られた微生物の蛋白質ピークのパターンマッチングによる同定法で,迅速・簡便・安価と3拍子そろった同定法として,ここ数年大きな話題となっている技術であるが,ついに日本の臨床検査の現場に導入され始めたことを示す一例として注目すべきであろう.

研究

マルチプレックスPCRによるハイリスクHPVのタイピング検査法

著者: 成澤邦明 ,   淺野克敏 ,   小澤信義 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.1028 - P.1032

 型特異的プライマーを用いてマルチプレックスPCRを行い,その産物をマイクロチップ電気泳動で分離するジェノタイピング法を開発した.ハイリスクHPVの13種類のうち,わが国で前癌状態や癌への進展リスクの高い7種類のHPV(16, 18, 31, 33, 35, 52, 58型)についてはジェノタイピングを行い,その他の6種類はA群として一括同定した.本法は安価であり,感度,精度に優れ,多検体処理も可能であるため,検診への導入も容易であろう.

私のくふう

圧力鍋を用いた病原性大腸菌の検査法

著者: 高井誠子

ページ範囲:P.1033 - P.1033

はじめに

 通常,大腸内に存在する大腸菌は下痢などの病原性は示さない.下痢を起こす大腸菌は病原性大腸菌と総称され,5種類に分類されている.また,病原性大腸菌は特定の血清型を示す場合が多いことから,血清型を調べることにより病原性大腸菌を推定することができる.

 その方法に筆者の施設では,デンカ生研の“病原大腸菌免疫血清”による抗原抗体反応により,病原血清型を検出している.その方法の操作の中で,O抗原の試験を行うためには,オートクレーブで121℃15分間,または100℃60分間の加熱処理を行い,K抗原を取り除く必要がある.

 今回のくふうでは,オートクレーブの代わりに,圧力鍋を使用する.

 圧力鍋はオートクレーブを小型化したものであるため,代用可能であると考えられる.それどころかオートクレーブは大量の培地を滅菌する場合など内部温度上昇に長時間かかり,また減圧にも時間がかかるのに対し,圧力鍋は小型なため,最初から湯を沸騰させておくことができ,また減圧も一気にできるため,時間短縮が可能という利点もある.またK抗原,O抗原の特性からも,圧力鍋は使用可能と思われる.

 そこで,以下にオートクレーブに代わる圧力鍋の使用法を紹介する.準備するのは家庭用の圧力鍋で,蓋がきっちりと閉まり,圧が一定にかかるものであればよい.

迅速細胞診染色の末梢血液像への応用

著者: 大森智弘 ,   山田貴正 ,   山崎直樹 ,   今村ちさ ,   樋口久晃 ,   布施川久恵 ,   當銘良也

ページ範囲:P.1034 - P.1035

1.はじめに

 近年,自動血球分析装置の高性能化に伴い,短時間で精度のよい血球数の測定や白血球分類が可能となったが,異常フラッグが表示された場合,自動分析装置での判定は困難であり,直ちに塗抹標本を作製し目視法による確認が必要となる1).しかしながらこのような場合でも多くの施設では通常のMay-Giemsa染色やWright-Giemsa染色を用いていることが多く,染色に30分近くを要しているのが現状である.

 今回筆者らは,細胞診部門でごく一般的に使用されている迅速染色法を血液塗抹標本に応用した.その結果,自動血球分析装置で異常フラッグが表示された場合の確認方法として有用と思われたので報告する.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.942 - P.942

欧文目次

ページ範囲:P.943 - P.943

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.946 - P.946

「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.956 - P.956

「検査と技術」10月号のお知らせ

ページ範囲:P.1002 - P.1002

次号予告

ページ範囲:P.1023 - P.1023

投稿規定

ページ範囲:P.1037 - P.1037

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1038 - P.1038

 梅雨明け直後の少し涼しかった夏はいよいよ本番となり,連日35℃超の猛暑が続いております.原子力発電所の稼働停止に伴う電力節減の必要性から,室内の冷房は28℃に抑えられており,また夜間の冷房についても,極力夜の活動を控え,不必要な冷房の使用を避けることが求められています.おかげさまで,東京の都心ではいわゆるヒートアイランド現象がいくらか和らぎ,夜から朝にかけては,窓を開けて外の風を入れさえすれば,冷房をつけなくても,何とか過ごせるような環境になって参りました(もっともセキュリティー上は,窓を開け放して安心して眠れるような,のんびりとした世の中というわけではございませんが……).10年前の電力使用量に戻れば,原発による電力を当てにしなくてもやっていけるというのですから,この10年間で私たちがいかに多くの電力を消費するようになっていたのかをつくづく感じます.10年前に電気が使えなくて不便だなどと決して思ったことはなかったのですから.便利さと快適さを追求した結果が,都市部の大きな電力消費につながってきたのかなと,都会に住む住民の一人としては,やや反省している次第であります.今後の再生可能エネルギーの利用促進と,日本国民の“少しだけ我慢”に期待したいと思います.

 さて今月の主題は「カルシウム・リン・ビタミンDの再評価」です.私は小児科医ですので,カルシウム・リン・ビタミンDというと,もっぱら早期産・低出生体重児や腎不全児における骨代謝でかかわる機会が多かったのですが,カルシウム・リン・ビタミンDの関係は複雑で難しく,患者さんに対するカルシウム・リンの補充や,ビタミンDの投与量,骨代謝の評価では常に悩んでいた記憶がございます.一方で,ビタミンDは,近年骨代謝のみならず,癌や自己免疫疾患,心血管疾患との関連性についても研究が進み,その作用については,臨床上改めて注目されている物質だそうです.今回のご企画は,富山大学大学院医学薬学研究部臨床分子病態検査学講座の北島勲先生にお願いいたしましたが,基礎・臨床の現場で実際に活躍している専門家の先生方を著者に選んでいただき,わかりやすく解説していただきました.様々な分野で臨床検査医学に携わる読者の皆さまにとって,カルシウム・リン・ビタミンDの臨床的意義を理解するためにきっと役立つ内容だと思いますので,是非ご一読いただければ幸いです.(岩田 敏)

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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