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雑誌目次

論文

臨床検査55巻11号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 ここまでわかった自己免疫疾患 巻頭言

ここまでわかった自己免疫疾患

著者: 宮坂信之

ページ範囲:P.1044 - P.1045

 本書は「臨床検査」の2011年増刊号であり,「ここまでわかった自己免疫疾患」というやや挑戦的なタイトルをつけてある.

 臨床検査に免疫学が導入されて久しいが,その間に免疫学は長足の進歩を遂げ,これをフォローすることは容易ではなくなった.そして,自己免疫疾患に関する知識が不十分なままでは,臨床検査を語ることができなくなった.本号は,このような現況を鑑みて作られたと言っても過言ではない.

総論

1.自己免疫とは

著者: 石垣和慶 ,   藤尾圭志 ,   山本一彦

ページ範囲:P.1046 - P.1054

自己免疫とは免疫系が自己を非自己と誤認して応答することである.膨大な研究にもかかわらず詳細な病態生理は解明されていないが,獲得免疫のみならず自然免疫も多分に関与し,両者の協働が重要であることが近年明らかになりつつある.免疫学における多くの知見がマウスから得られているが,ヒトの自己免疫疾患と疾患モデルマウスとの間には複数の相違点があるため,ヒトにおける自己免疫発症の機序を明らかにすることが今後の免疫学の研究における大きな課題の1つである.

2.自然免疫とは

著者: 杉山正仲 ,   改正恒康

ページ範囲:P.1055 - P.1063

自然免疫はマクロファージや樹状細胞がToll様受容体(TLR)などのパターン認識受容体により微生物由来の構成分子を認識して炎症性サイトカインやI型インターフェロンの産生を行い,Tリンパ球へ抗原提示して獲得免疫に反応を引き渡すシステムである.TLR1,TLR2,TLR4,TLR5,TLR6は細胞膜上に存在し,細菌の細胞表面分子を認識し,TLR3,TLR7,TLR9はエンドソーム内に存在し微生物由来の核酸を認識する.時としてTLR7,9は自己のDNAやRNAを認識する場合があり,このような自己の分子のTLRの認識が全身性ループスエリテマトーデスや尋常性乾癬などの自己免疫疾患の病態形成に重要と考えられている.

3.獲得免疫とは

著者: 三宅幸子

ページ範囲:P.1064 - P.1073

リンパ球を中心とする獲得免疫は,自然免疫系による生体防御の初期応答を突破した外来微生物に対応する.獲得免疫系は,その発動に日単位の時間を要するが,同一病原体が再び侵入した場合には,効率的に病原体駆除ができる免疫記憶が存在する.抗原特異性と免疫記憶は,遺伝子組換えにより生み出される多彩な抗原受容体を発現するリンパ球レパートリーからのクローン選択により支えられる.リンパ球の活性化と分化には,抗原刺激に加え,副刺激分子からのシグナル,サイトカインによるシグナルが重要である.

4.疾患感受性遺伝子とは

著者: 高地雄太

ページ範囲:P.1074 - P.1080

一部の単一遺伝子疾患を除いて,自己免疫疾患の多くは,複数の遺伝因子と環境因子によって発症する多因子疾患である.ここ数年で行われたゲノムワイド関連解析によって,多くのありふれた遺伝子多型(common variant)が疾患発症にかかわっていることが明らかになった.これらの多くは複数の自己免疫疾患によって共有される疾患感受性遺伝子であるが,一部には疾患特異的な感受性遺伝子も存在する.すなわち,これらの疾患感受性遺伝子の組み合わせによって,個人における疾患の発症リスクが規定されているものと考えられる.さらに,次世代シークエンサーの登場により,個人の全ゲノム配列の解読が可能となり,疾患にかかわる稀な変異(rare variant)についても,その探索が始まろうとしている.

5.樹状細胞の多様性とその役割

著者: 鈴江一友

ページ範囲:P.1081 - P.1089

樹状細胞は1973年に同定された,免疫細胞の中では比較的新しい細胞である.その5年後にはSteinmanとWitmerらによって獲得免疫を活性化する細胞として報告された.彼らは純化された樹状細胞は純化されていない脾細胞と比較してリンパ球混合培養反応を100~300倍高率に惹起することを示した.本稿では樹状細胞のサブセットがT細胞の活性化に重要な役割を演じていることを紹介する.最近では樹状細胞を用いた免疫療法が行われており,その臨床応用についても記述する.

6.サイトカインネットワーク

著者: 田宮大雅 ,   吉村昭彦

ページ範囲:P.1090 - P.1098

サイトカインには大きく2つの役割がある.炎症性サイトカインの多くは自然免疫系の細胞から産生されて炎症と獲得免疫を誘導する.もう1つはヘルパーT細胞から産生されるサイトカインで,実行部隊の自然免疫系の細胞,B細胞や傷害性T細胞(CTL)を活性化する.活性化されたエフェクターヘルパーT細胞はそれぞれの機能に応じて異なったサイトカインを産生する.また制御性T細胞(Treg)から産生されるIL-10やTGFβは免疫抑制に働く.したがってサイトカインは産生する細胞と受ける細胞が複雑なネットワークを形成し,免疫応答を巧妙に制御している.しかしその破綻はアレルギーや自己免疫疾患の原因となる.

7.制御性T細胞の機能と意義

著者: 西尾純子

ページ範囲:P.1099 - P.1112

制御性T細胞(Treg細胞)は,末梢性免疫寛容を維持するうえで,極めて重要な細胞である.Treg細胞は,自己免疫のみならず,炎症や感染,腫瘍においても,制御作用を発揮している.Treg細胞に特異的に発現しているFoxp3遺伝子は,Treg細胞の分化とともに抑制作用にも不可欠である.Treg細胞の大部分は胸腺で分化したnatural Treg細胞である一方,末梢ナイーブCD4T細胞がFoxp3を発現した細胞をinduced Treg細胞という.Treg細胞を介する抑制の低下が自己免疫疾患の発症にかかわっている可能性があり,注目されている.

8.オミクス:システム生物学を介した医療への貢献

著者: 登勉

ページ範囲:P.1113 - P.1120

ヒトゲノム計画による全塩基配列の解読は,生命科学研究に多くの変化をもたらした.そして,分析技術の進歩は,迅速かつ効率よく多くの分子を一度に測定することを可能とした.ゲノムから転写されたトランスクリプトを網羅的に測定し,発現プロファイルを病態と相関させて診断法として利用することは,臨床応用されている.組織,血液,あるいは体液といった検体を用いて網羅的に測定された分子は,全体を意味する接尾辞オームをもったプロテオームやトランスクリプトームなどの新造語で表わされる.そして,これらの分子全体について研究するオミクスが相互に交流して,システム生物学という新しい学問体系を確立しつつある.今後,生命現象の解明や個別化医療の実現に向けて,大きく貢献することが期待される.

各論 1.自己抗体の検査法と意義

自己抗体の検査法と意義

著者: 三森経世

ページ範囲:P.1121 - P.1126

自己免疫疾患患者に検出される自己抗体は特定の臨床像と密接に関連し,疾患の補助診断,病型分類,予後の推定,治療効果判定など,臨床的に有用である.100種類以上におよぶ自己抗体とその対応抗原が確認されており,かかる自己抗原の多くは遺伝子の複製,転写,RNAプロセッシング,蛋白の翻訳など細胞の重要な生命現象に関与する酵素あるいは調節因子であることが判明している.自己抗体の測定法として様々な方法が開発されているが,自己抗体の検出に当たっては,各測定法の特徴を十分に理解したうえで,その結果を解釈することが大切である.

2.補体の検査法と意義

補体の検査法と意義

著者: 関根英治

ページ範囲:P.1127 - P.1134

補体系は,それを制御する因子も含めると30種類以上の可溶性蛋白と膜結合蛋白で構成され,3つの補体経路(古典的経路,レクチン経路,第二経路)を活性化することによって,生体を微生物(病原体)から防御する.一方,過剰な補体の活性化は,炎症による様々な障害を引き起こす.血中の補体値の測定は,ある種の腎疾患や肝疾患,血液疾患,自己免疫疾患の診断と病態の理解に役立つ.自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)では,核蛋白などに対する自己抗体が出現して免疫複合体が形成され,古典的経路の活性化を通じて腎などの標的臓器で炎症が引き起こされる.その結果,補体の消費によって血清C1qやC4,C3,血清補体価(CH50)が低値を示し,それらの値は疾患の活動性と逆相関を示す.

3.膠原病と類縁疾患

1) 全身性エリテマトーデス

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.1135 - P.1140

全身性エリテマトーデスは若い女性に好発する原因不明の自己免疫疾患で,多彩な自己抗体の出現と腎炎をはじめとする多臓器病変を特徴とする.その診断はアメリカリウマチ学会の分類基準に準じて行われるが,定型的な症例では必ずしも困難ではない.しかし,病像は不均一で,前景にたつ病変によって治療に対する反応性や予後にも相違が認められる.したがって治療に際しては個々の症例が有する臓器病変の病態と重症度を勘案する必要がある.ステロイドおよび免疫抑制薬が治療の中心となるが,病態によっては難治性の経過をとり,機能障害を残したり,致死的な経過をとることもある.この問題を克服するために現在,より特異的な効果を有する新たな免疫療法が開発されている.

2) 関節リウマチ

著者: 田中良哉

ページ範囲:P.1142 - P.1149

関節リウマチ(RA)は,関節炎を主座とする自己免疫疾患である.発症早期から関節破壊が進行し,不可逆的な身体機能障害を生じる.したがって,発症早期からの適正な診断と治療が必要である.2010年,将来的に関節破壊,遷延化する関節炎を分類する目的でRAの新分類基準が策定された.また,関節破壊を生じないことを治療目標とした寛解基準が公表され,目標達成のための治療指針が提言された.すなわち,標準的な抗リウマチ薬メトトレキサートに加え,TNFやIL-6を標的とした生物学的製剤が導入され,臨床的寛解や構造的寛解を目指すに至った.さらに,適正治療により長期にわたり身体機能を維持し,他の内科疾患と同様に治療のエンドポイントを生命予後に置くことが可能となった.

3) 多発性筋炎/皮膚筋炎

著者: 上阪等

ページ範囲:P.1150 - P.1155

多発性筋炎(PM)と皮膚筋炎(DM)は,自己免疫機序による横紋筋のびまん性炎症性筋疾患であり,特徴的な皮疹を呈するものはDMとされる.筋病理組織所見から,前者はCD8T細胞,後者はCD4T細胞に介助された抗体による筋血管傷害とされてきたが,免疫学の進歩に伴い,この考えに疑義が生じてきている.症状は,筋力低下が主であり,急速進行性間質性肺炎と悪性腫瘍は予後を左右する合併症である.これまでに種々の筋炎特異的自己抗体が明らかにされてきた.ただし,血管特異的なものはない.病変分布の把握には,核磁気共鳴画像が有用であると明らかになってきた.治療は,副腎皮質ステロイド薬を中心とする免疫抑制療法が中心であるが,免疫抑制薬もしばしば併用される.

4) 強皮症

著者: 川口鎮司

ページ範囲:P.1156 - P.1163

全身性強皮症は,皮膚の硬化だけでなく,血管病変の合併がほとんどの症例でみられる.その2種類の病態に同時に対応できる治療薬は今のところない.線維化に対しては,免疫抑制薬での治療となり,血管病変に関しては血管拡張薬での治療となる.この10年で,治療薬の有効性がかなり明確になってきた.線維化病変には,シクロホスファミドや他の免疫抑制薬,血管病変には,プロスタノイド,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ5阻害薬を用いることが多くなってきている.しかし,まだ治療に反応しない症例は多く,近い将来の病態解明と新規治療薬の開発が待たれる.

5) 血管炎症候群

著者: 尾崎承一

ページ範囲:P.1164 - P.1171

血管炎とは血管壁の炎症をきたす病態の総称である.その多くは多因子疾患であり,発症には遺伝因子と環境因子が関与する.両者の相互作用の結果,一部の血管炎では自己免疫現象を介して血管の障害に向かうと考えられている.自己免疫現象は細胞性免疫および液性免疫のそれぞれで起きることが知られており,前者では肉芽腫形成性の自己反応性T細胞,後者の自己抗体には抗糸球体基底膜抗体,抗好中球細胞質抗体,抗内皮細胞抗体などがある.血管炎症候群の発症には,自己寛容の破綻により自己反応性T細胞や自己抗体が出現する過程が重要である.

6) 混合性結合組織病

著者: 片山雅夫 ,   吉田俊治

ページ範囲:P.1172 - P.1178

混合性結合組織病(MCTD)は1972年米国のSharpらにより提唱された疾患概念で,SLE,SSc,PMの3つのうち,2つ以上の臨床所見が混在し,抗U1-RNP抗体が高値陽性を特徴とする疾患である.本邦では厚生労働省が特定疾患に指定しており,広くMCTDの概念は行き渡っている.MCTDの経過では手指・手の腫脹は長期にわたって持続することや肺高血圧症(PH)の合併率が他の膠原病に比較して有意に高いことが示されている.PHはMCTDの予後を規定する重要な合併症であり,MCTDの診断と同時にPHについても早期発見に努めることが重要である.PHの治療薬,治療法の進歩により予後の改善が期待されている.

7) Sjögren症候群

著者: 住田孝之

ページ範囲:P.1179 - P.1185

Sjögren症候群(SS)は慢性唾液腺炎,乾燥性角結膜炎を主症状とし,血中に多彩な自己抗体が出現する膠原病の1つである.病理学的には,唾液腺や涙腺などの導管,腺房周囲の著しいリンパ球浸潤が特徴であり,その主体となるのはCD4+T細胞である.腺房の破壊,萎縮をきたした結果としての乾燥症(sicca syndrome)が主な自覚症状であるが,唾液腺,涙腺だけでなく,全身の外分泌腺が系統的に障害される疾患である.その発症機序は,自己抗体や自己反応性T細胞の存在が明らかにされたことから自己免疫疾患と考えられている.近年,唾液と涙液分泌に関与するアセチルコリン受容体であるM3Rに対する自己免疫応答が発症に強く関与していることが示唆されてきた.SS発症の分子機構の解析により発症機序に基づく根治的な治療戦略が開発されよう.

8) 成人Still病

著者: 長澤浩平

ページ範囲:P.1186 - P.1192

成人Still病(AOSD)は全身の炎症性疾患であり,不明熱を呈する代表疾患の1つである.病因は不明で,自己免疫機序を示す証拠はないが,病態形成には炎症性サイトカインが深く関与している.治療には,一般に中等量のステロイドを使用するが,重症例にはステロイドパルス療法や免疫抑制薬,生物学的製剤も必要となる.特にマクロファージ活性化が著明となった血球貪食症候群(HPS)や播種性血管内凝固(DIC)などの合併は重篤で,注意を要する.予後は一般に良好であるが,再発や遷延化する例も少なくなく,ステロイドから完全に離脱できるのは,1/4~1/3に過ぎない.また,慢性関節炎型はしばしば手関節の強直を起こす.

9) 抗リン脂質抗体症候群

著者: 渥美達也

ページ範囲:P.1193 - P.1199

抗リン脂質抗体症候群(APS)は,自己免疫血栓症あるいは妊娠合併症である.APS患者の半数は全身性エリテマトーデス(SLE)に合併し,APSを定義する抗リン脂質抗体はSLEの分類基準の項目にも採択されていて,APSはSLEの類縁疾患である.本邦でのAPSの診断には,凝固検査であるループスアンチコアグラントと免疫検査である(β2-グリコプロテインⅠ依存性)抗カルジオリピン抗体が用いられている.近年は抗β2-グリコプロテインⅠ抗体や,ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体も本邦の臨床検査に導入されつつある.

10) リウマチ性多発筋痛症

著者: 古賀智裕 ,   川上純

ページ範囲:P.1200 - P.1205

リウマチ性多発筋痛症(PMR)は高齢者に特異なリウマチ性疾患であり,しばしば側頭動脈炎(TA)を合併するとされているが,本邦でのTA患者数は少ないとされている.高齢発症関節リウマチの症状と類似することがあるが,傍腫瘍症候群として発症する例も少なくなく,悪性腫瘍の検索が必要である.TAの合併がなければステロイド薬に反応し,基本的には予後良好な疾患である.医師がこの疾患を知っているか否かによって患者のQOLが大きく変わる疾患の1つとも言える.

4.そのほかの自己免疫疾患

1) 自己免疫性溶血性貧血

著者: 別所正美

ページ範囲:P.1206 - P.1211

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の代表疾患である温式抗体によるAIHAは,赤血球膜のRhポリペプチドあるいはバンド3蛋白に対する特異的な自己抗体が産生されることによって発症する.自己抗体の大部分はIgGであり,IgGの結合した赤血球は,脾のマクロファージにより貪食される(血管外溶血).自己の赤血球抗原に対する免疫寛容が破綻して自己抗体が産生される機序には,いくつかの仮説が提唱されている.診断にはCoombs試験が有用であるが,赤血球に結合しているIgG分子数が少なく,通常の試験では陰性を呈するCoombs陰性AIHAの存在も知られている.治療の第1選択は副腎皮質ステロイドであるが,多くは慢性の経過をたどり,軽快,悪化を反復しやすい.

2) 免疫性血小板減少症

著者: 桑名正隆

ページ範囲:P.1212 - P.1219

免疫性血小板減少症(ITP)は,血小板膜糖蛋白に対する自己抗体により誘導される自己免疫疾患である.抗血小板抗体が結合した血小板がFcγ受容体を介して網内系マクロファージに捕捉,貪食される病態に加え,巨核球障害による血小板産生低下も関与する.網内系マクロファージ,自己反応性CD4+T細胞,B細胞による病的ループが成立すると抗血小板抗体産生が持続する.最近,制御性T細胞や抑制性Fcγ受容体を介した免疫制御の破綻が発症にかかわることも明らかにされた.新規治療標的が数多く同定され,自己免疫病態を是正する新規治療法の開発が期待される.

3) 血栓性血小板減少性紫斑病

著者: 山口雄亮 ,   森木隆典 ,   村田満

ページ範囲:P.1220 - P.1227

血管内皮細胞で産生され血中に放出されたunusually large VWF multimerは,血小板との結合能が高く容易に血管内血栓を形成するが,ADAMTS13で適度に切断されることにより制御されている.TTPはADAMTS13活性が低下することが病態と強く関連しており,先天性TTPではADAMTS13遺伝子変異が認められ,後天性TTPでは多くの症例でADAMTS13に対する自己抗体が検出される.近年,ADAMTS13活性測定法や自己抗体の解析が進展し,TTPの診断,予後,治療効果の判定に大きく貢献している.

4) 発作性夜間血色素尿症

著者: 小澤敬也

ページ範囲:P.1228 - P.1233

発作性夜間血色素尿症(PNH)は,PIG-A遺伝子に後天的な変異をもった造血幹細胞がクローン性に拡大する溶血性貧血である.赤血球ではGPIアンカー型蛋白質であるCD55やCD59(補体制御因子)が欠損するため,補体に対する感受性亢進による血管内溶血が起こる.感染症などが溶血発作の誘因となる.また,骨髄不全症や深部静脈血栓症がみられることがある.治療では,補体のC5に対するヒト化抗体医薬であるエクリズマブが奏効し,溶血が劇的に抑制されるためLDHが速やかに減少する.ただし,根本的な治療薬ではないため,エクリズマブ治療は長期的に継続する必要がある.

5) 重症筋無力症

著者: 岩佐和夫 ,   山田正仁

ページ範囲:P.1234 - P.1240

重症筋無力症(MG)は易疲労性を特徴とする筋力低下をきたす疾患で,約8割の患者で神経筋接合部に存在するニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体が病因にかかわっている.MGと胸腺との関係は古くから知られているが,発症メカニズムや胸腺における免疫学的な機構については不明な点が多い.また,抗AChR抗体のほかにも,神経筋接合部における抗筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体,抗Lrp4抗体など新たな病因に関与する抗体や骨格筋由来の蛋白と反応する自己抗体も報告されている.今後,MGの新たな治療戦略を考えるためには,発症メカニズムやその病因を明らかにしていくことが望まれる.

6) 多発性硬化症・視神経脊髄炎

著者: 千原典夫 ,   山村隆

ページ範囲:P.1241 - P.1248

中枢神経の炎症性自己免疫疾患の代表である多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)では,T細胞やB細胞の介在する炎症病態が詳細に解析され,新しい治療法の開発につながる研究成果が挙がっている.中枢神経組織は通常血液脳関門(BBB)によって保護されているが,一度,神経細胞が障害されると自己再生能に乏しいために,徐々に神経脱落症状が蓄積する.MSやNMOの自己免疫病態を考えるうえで,標的臓器である中枢神経の特殊性を考慮しなければならない.一方で,血液リンパ球を用いた解析は次々に新しい知見を生んでおり,他の自己免疫疾患の研究にも影響を与えている.本稿では,MSおよびNMOにおけるその病態の特徴や両者の違いについて最新の知見を紹介する.

7) Guillain-Barré症候群

著者: 駒ヶ嶺朋子 ,   結城伸𣳾

ページ範囲:P.1249 - P.1257

C. jejuni(Campylobacter jejuni)腸炎後に発症する軸索型Guillain-Barré症候群は,分子相同性による抗体産生機序が立証された最初の自己免疫疾患である.患者から分離されたC. jejuniのリポオリゴ糖はヒト神経組織に存在するGM1ガングリオシドと糖鎖相同性を有していた.ヒト組織に類似した構造をもつ病原体に感染することにより病原抗体である抗ガングリオシド抗体が誘導され,神経組織の傷害が起こり弛緩性四肢麻痺に至る.抗ガングリオシド抗体の病的意義の確立は,抗体の種類によるGuillain-Barré症候群とその類縁疾患の分類再編を支持する.

8) Crohn病・潰瘍性大腸炎

著者: 鈴木雅博 ,   永石宇司 ,   渡辺守

ページ範囲:P.1258 - P.1264

分子生物学・免疫学が飛躍的に進歩したことによって,潰瘍性大腸炎やCrohn病といった炎症性腸疾患(IBD)は何らかの遺伝的背景を有する宿主において免疫学的異常と環境因子が関与して誘導される病態であることが明らかになりつつある.そうした病態によって腸内細菌もしくは食餌抗原に対する過剰な免疫反応と腸管粘膜の防御機構の破綻が慢性的な腸管の炎症を形成しているものと理解されている.本稿では,これまでに明らかにされているIBDの病態に関与する粘膜免疫学の知見を概説する.

9) 原発性胆汁性肝硬変・硬化性胆管炎

著者: 畔元信明 ,   熊木天児 ,   恩地森一

ページ範囲:P.1265 - P.1271

原発性胆汁性肝硬変(PBC)は,中等大の小葉間胆管あるいは隔壁胆管の慢性非化膿性破壊性胆管炎により,また原発性硬化性胆管炎(PSC)は,肝内外の胆管周囲の線維化により,どちらも慢性肝内胆汁うっ滞をきたし,進行すると肝硬変,肝不全に至る.どちらも自己免疫疾患と考えられているが病因は不明である.近年,全ゲノム関連解析を用いた病因研究も行われている.今日でも治療薬は,ウルソデオキシコール酸(UDCA)のみである.治療反応性PBC,無症候性PBC,small-duct PSCは予後良好であるが,治療非反応性PBC,症候性PBC,large-duct PSCは予後不良である.根治的治療には肝移植があり,長期予後は良好である.

10) 自己免疫性甲状腺疾患

著者: 高須信行

ページ範囲:P.1272 - P.1279

自己免疫性甲状腺疾患にはBasedow病と橋本病がある.Basedow病は甲状腺機能亢進症,橋本病は甲状腺機能低下症の原因である.血中甲状腺ホルモンが高値になり,甲状腺中毒症状のあるものを甲状腺中毒症という.Basedow病の病因は自己免疫異常により甲状腺刺激物質TRAbができることである.この異常甲状腺刺激物質はリンパ球がつくる抗体で,TSH受容体に対する抗体TRAbである.このTRAbは甲状腺刺激抗体TSAbである.橋本病(慢性甲状腺炎)では甲状腺濾胞細胞が変性・萎縮し,甲状腺機能低下症に陥る.橋本病の甲状腺組織所見は①高度リンパ球浸潤,②線維増殖,そして③濾胞上皮細胞変性の3つである.甲状腺抗体TGAb・TPOAbが陽性になる.本稿では,Basedow病と橋本病について概説

11) 1型糖尿病

著者: 長谷田文孝 ,   寺前純吾 ,   花房俊昭

ページ範囲:P.1280 - P.1287

1型糖尿病は,膵β細胞の破壊に伴う絶対的なインスリン欠乏状態に起因する糖尿病と定義される.1型糖尿病では膵β細胞破壊の成因による分類がなされており,自己免疫機序が成因と考えられるものを1A型,また,自己免疫の関与が不明なものを1B型としている.一方で,発症様式から分類すると,急性型(典型),緩徐進行型,劇症型の3つに分けられる.急性型の多くは抗GAD抗体や抗IA-2抗体などの膵島関連自己抗体が認められ,1A型と診断される.緩徐進行型も抗GAD抗体などの自己抗体陽性例を対象としており,1A型に分類される.現在までのところ,劇症型の多くは膵島関連自己抗体の存在が証明されない(たとえ陽性であっても,低力価である)ため1B型の亜型として分類されている.1A型に関する成因として,疾患感受性を呈する遺伝因子(HLAなど)を有していることを背景とし,これにウイルス感染(エンテロウイルスなど)や食物要因(乳幼児の牛乳摂取),化学物質(ストレプトゾシンなど)といった環境因子が加わることによって,膵島に対する自己免疫応答が惹起され,膵β細胞が破壊されると考えられている.

12) ネフローゼ症候群

著者: 清水芳男 ,   富野康日己

ページ範囲:P.1288 - P.1296

ネフローゼ症候群は,大量の蛋白尿によって生じる低蛋白血症や脂質異常症・浮腫を伴う症候群であり,一次性糸球体疾患によって生じる一次性とその他の原因による二次性に分類される.免疫系の調節不全,免疫複合体や補体による組織障害などが原因として想定され,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が一定の効果を上げているものの,一次性ネフローゼ症候群の原因となる疾患の病態は明らかになっていない部分が大きい.近年,細胞生物学的アプローチから糸球体濾過障壁の構成成分であるポドサイトの障害がネフローゼ症候群の病態形成に重要であることが判明してきた.

13) IgA腎症

著者: 板橋美津世 ,   秋葉隆

ページ範囲:P.1297 - P.1302

IgA腎症は学校検尿や職場健診などでチャンス蛋白尿・血尿として発見されることが多い.診断は腎生検による病理診断が必須である.慢性進行性の経過をとり透析へ移行する例も少なくないため,わが国でも透析導入リスクの層別化を図るための重症度分類が改訂され,重症度に応じた治療介入が必要である.近年,ステロイドパルス療法,扁桃腺摘出術により寛解例が増える一方,治療抵抗例に対する治療戦略も課題である.

14) 自己免疫性心筋炎

著者: 小西正則 ,   磯部光章

ページ範囲:P.1303 - P.1311

心筋炎は心筋を主座とした炎症性疾患であり,心膜まで炎症が及ぶと心膜心筋炎と呼ばれる.心筋炎はその臨床病型から,急性,慢性心筋炎に大別される.またその病因から,感染性,非感染性,特発性心筋炎に大別される.また,組織学的特徴から,リンパ球性,巨細胞性,好酸球性,肉芽腫性心筋炎に分類される.本稿では,自己免疫性心筋炎について理解を得られやすいように,はじめに心筋炎について臨床病型ごとにその特徴を示し,さらに自己免疫性心筋炎としての膠原病性心筋炎,および特殊な自己免疫性心筋炎について説明する.

15) Goodpasture症候群

著者: 高田俊範 ,   鈴木栄一

ページ範囲:P.1312 - P.1317

Goodpasture症候群は,抗基底膜抗体によるⅡ型アレルギーが病因の“臓器特異的自己免疫疾患”と考えられている.抗基底膜抗体が認識する抗原は,肺胞と糸球体基底膜を構成するⅣ型コラーゲンα3鎖非コラーゲンドメイン(α3NC1)である.α3NC1領域のエピトープは,構成蛋白質の特殊構造により被覆されており,しかも組織特異性が高いため,物理的に抗体と接触しにくい.本症候群の治療には,副腎皮質ステロイド薬,シクロホスファミドと血漿交換を行う.予後を決定する最もよい指標は,腎生検で保存されている糸球体の割合である.

16) 自己免疫性水疱症

著者: 山上淳 ,   天谷雅行

ページ範囲:P.1318 - P.1326

自己免疫性水疱症は,表皮細胞間接着にかかわるデスモグレインに対する自己抗体により表皮内に水疱を形成する天疱瘡群,表皮と真皮の接着に関与する分子に対する自己抗体が表皮下に水疱を形成する類天疱瘡群に大別される.本稿では,それぞれの自己免疫性水疱症における自己抗体の標的抗原および病態,診断に必要な検査および血清学的解析,臨床の現場における自己抗体検査の現状と将来の展望について解説する.特に天疱瘡と水疱性類天疱瘡におけるELISA法は,診断だけでなく治療効果判定にも有用であり,今後その重要性は高まると考えられる.

17) IgG4関連疾患

著者: 梅原久範

ページ範囲:P.1327 - P.1332

IgG4関連疾患(IgG4-related disease)は,血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の腫瘤形成あるいは組織浸潤を特徴とする新たな疾患概念である.その発見から現在まで,日本が中心となって世界に情報を発信してきた.この疾患は,自己免疫性膵炎,Mikulicz病をはじめ,これまで後腹膜線維症,炎症性偽腫瘍,Küttner腫瘍と呼ばれていた疾患を含み,間質性腎炎,間質性肺炎の一部をも含み,全身の諸臓器に発生する可能性がある.そのため,リウマチ膠原病,消化器,呼吸器,腎臓,血液,神経,内分泌などの内科系領域に加え,口腔外科,眼科,耳鼻科,放射線科など広く各診療科に周知する必要がある.

5.副腎皮質ステロイド療法の利点と欠点

副腎皮質ステロイド療法の利点と欠点

著者: 川合眞一

ページ範囲:P.1333 - P.1342

副腎皮質ステロイドは,現在でも多くの自己免疫疾患の標準的治療薬であるが,稀少疾患も多いため臨床的エビデンスは十分とは言えない.一般には,重症臓器障害を有するまたは予想される例には高用量,それ以外の例には低用量が使われているが,利点を示すエビデンスは必ずしも十分ではない.最近では免疫抑制薬を積極使用する傾向もあり,ステロイドは,より低用量・早めの減量が一般的となっている.また,この薬物には欠点である重篤な副作用が知られている.利点と欠点のバランスを取ることがステロイド療法では最も大切である.

6.免疫抑制療法の利点と欠点

免疫抑制療法の利点と欠点

著者: 赤星透 ,   竹本毅

ページ範囲:P.1343 - P.1348

自己免疫疾患においては,自己成分に対する過剰な免疫反応を抑制することを目的として,ステロイドホルモンや免疫抑制薬が投与される.自己免疫疾患に用いられる免疫抑制薬には,アルキル化薬,核酸代謝拮抗薬,カルシニューリン阻害薬がある.それぞれの薬剤は,作用機序や副作用の発現などが異なるため,薬剤の特徴,利点と欠点などを熟知して使用することが求められる.また,わが国では免疫抑制薬の自己免疫疾患への適応が限られていることにも注意が必要である.

7.生物学的製剤の利点と欠点

生物学的製剤の利点と欠点

著者: 長坂憲治 ,   針谷正祥

ページ範囲:P.1349 - P.1358

生物学的製剤とは,生物が産生する蛋白質を利用した製剤である.生物学的製剤は標的分子に高親和性を有し,病態にかかわる分子の機能を制御する結果,関節リウマチ(RA)をはじめとする多くの自己免疫疾患に有効であることが明らかとなった.生物学的製剤は,有効性が高い,複数の疾患に対して有効,臓器毒性が低い,といった利点がある.一方,経口投与ができない,コストが高い,抗製剤抗体産生による効果減弱,特異な副作用などの欠点がある.本邦ではRA治療薬として,TNF(tumor necrosis factor)阻害薬(インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ),IL-6(interleukin-6)阻害薬(トシリズマブ),T細胞抑制薬(アバタセプト)が用いられており,関節炎の軽減と骨破壊抑制に優れた効果を発揮している.

話題

1.自己炎症疾患とは?―自然免疫の異常がもたらす過剰な炎症

著者: 窪田哲朗 ,   伊藤さやか

ページ範囲:P.1359 - P.1361

1.はじめに

 炎症にかかわる何らかの分子に変異を生じて,発熱などの炎症発作を繰り返す一群の先天性疾患が自己炎症疾患(autoinflammatory diseases)と呼ばれている.1997年に家族性地中海熱(familial Mediterranean fever;FMF)の原因がpyrinという分子の変異によることが突き止められ1,2),これを嚆矢として,いくつかの疾患の原因遺伝子変異が同定されてきた(表1).これらの発見と相俟って,従来知られていなかった様々な分子が自然免疫の基本的な機能を担っていることも次第に明らかになり,自己炎症疾患の研究は臨床と基礎免疫学の両面から注目を集めている3,4)

2.自己免疫疾患のゲノム診断は可能か?

著者: 山田亮

ページ範囲:P.1362 - P.1363

1.はじめに

 いただいたタイトル「自己免疫疾患のゲノム診断は可能か?」は大変大きなテーマである.なにが不可能であると宣言することは非常に難しいので,ここでは,“可能か,不可能か”という判断はいったん棚上げにする.

 そのうえで,ゲノム科学の進展に伴って得られる疾患に関する知見と個人の遺伝因子とが臨床診断に当たってどのように位置づけられるかを解説し,“自己免疫疾患のゲノム診断”が“可能と不可能の間のどのあたりに位置するか”を考えてみることとする.

3.喫煙は抗CCP抗体産生に影響を与えるか?

著者: 熊谷俊一 ,   杉山大典

ページ範囲:P.1364 - P.1366

1.喫煙と関節リウマチ

 喫煙は全身性エリテマトーデス,Basedow病,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)などの自己免疫疾患のリスクファクターであるとの報告がある.多くの自己免疫疾患は遺伝的因子と環境因子とのかかわりとで発症する多因子疾患であり,喫煙は自己免疫疾患発症の重要な環境因子の1つと推察される1)

 喫煙とRAとの関連の報告は古くからあり,発症リスクであるのみならず,重症度や骨破壊の進行度と関連するとの報告や,リウマチ結節や心合併症などの関節外病変との関連も報告されていた2).またリウマトイド因子(rheumatoid fac-tor;RF)陽性や抗体価と関連するとの報告もあるが,喫煙量との関連など,不明確な点も多かった.

4.IL-6阻害薬による感染症のマスキングとは?

著者: 梅北邦彦 ,   日高利彦 ,   岡山昭彦

ページ範囲:P.1367 - P.1370

1.はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の原因は明らかではないが,その病態形成には炎症性サイトカインの持続的な過剰産生がかかわっており,病態の増悪とも関連している.近年,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)やIL-6など炎症性サイトカインの作用を阻害する治療薬が開発され,これらは生物学的製剤と称されている.本邦では,炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤として4製剤が承認され,キメラ型抗TNF-α抗体であるインフリキシマブ,可溶型TNF受容体であるエタネルセプト,完全ヒト型抗TNF-α抗体であるアダリムマブ,ヒト化抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブ(tocilizumab;TCZ,商品名:アクテムラ®)がRA治療に用いられている1).これら生物学的製剤は従来の抗リウマチ薬と比較しても関節破壊抑制効果や治療の有効率,継続率が優れており,RA治療のパラダイムシフトを起こした2)

 一方,生物学的製剤は炎症反応に重要なサイトカインの作用を阻害するため,感染症が合併した際に炎症反応が抑えられ,臨床症状や検査値異常が典型的な経過をとらないことがある.感染症の重症度に比較して非常に軽度な臨床症状にとどまることを“マスキング”と呼び,特にIL-6阻害薬の投与下では典型的なマスキングが報告されている3)

 本稿では,炎症性免疫疾患の代表であるRAにおけるIL-6の病的意義とIL-6阻害薬について概説し,IL-6阻害薬による感染症のマスキングについて症例を提示し解説する.

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欧文目次

ページ範囲:P.1042 - P.1043

あとがき

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.1372 - P.1372

 2011年の増刊号は「ここまでわかった自己免疫疾患」です.東京医科歯科大学の宮坂信之先生(膠原病・リウマチ内科)に企画をお願いいたしました.総論では,自己免疫疾患の概念,発症機序,関連遺伝子,将来の展望などに関する総括的な基本情報を解説していただき,各論では,自己免疫疾患・膠原病に関連する臨床検査法,代表的な疾患の検査診断・治療の最新情報について,それぞれの専門の先生方にわかりやすくまとめていただきました.一般的に,自己免疫疾患・膠原病については,検査も診断も治療もなかなか難しいと考えられておりますが,この増刊号を手元に置いておけば“鬼に金棒”ではないかと思っております.

 校正の時点で原稿を読ませていただいて,最近の進展を特に感じさせられたのは関節リウマチの医療です.感染症など病因が明確になる疾患と違って,自己免疫疾患・膠原病は病因が明確になっているわけではないと理解しております.そのような疾患について,症状,検査データ,発症環境などをスコア化・定量化したうえで,それに基づいて早期診断,早期治療ならびに治療目標の道程を明確にして医療を施行する方向性や,先端的な免疫学研究の成果を利用して次々と開発されている新薬などを考えると,遠からず,自己免疫疾患・膠原病の根本的な治療が完成する期待を抱かせてもらえます.臨床検査にかかわっているものといたしましては,関連する検査の開発や標準化の努力をせねばならないと思っている次第です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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