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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査55巻4号

2011年04月発行

雑誌目次

今月の主題 静脈血栓塞栓症と凝固制御因子プロテインS 巻頭言

血栓性素因とプロテインS異常症

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.326 - P.327

 静脈血栓塞栓症は日本人などアジア人には発症頻度が少なく,一般的にはあまり馴染みがない疾病でした.しかしながら,食生活など生活習慣が欧米化するにつれて,近年,著しく増加しています.また“エコノミークラス症候群”として知られるようにもなりました.2000年の統計では約4,000名が,2006年の年間発症症例は2万人を超えているとの報告がありますが,実際はもっと多くの発症者がいるのではないかと推測されています.下肢大腿深部の静脈に血栓が形成される深部静脈血栓症がその典型的な疾病です.長時間にわたり下肢を動かさずにいると下肢大腿静脈の血流が澱み血栓が形成され,その血栓が血流にのって肺などの重要な臓器に塞栓を起こし,生命にかかわる重篤な状態になる場合もあります.発症頻度が高い欧米ではよく研究されており,個人の体質的素因(遺伝的素因)がその発症に大きく影響を与えることが知られています.そのような素因(血栓性素因)を探し出し予防治療に役立てるための研究が欧米では盛んに行われておりました.

 欧米白人の場合,血液凝固第Ⅴ因子の多型(Factor Ⅴ Leiden)やプロトロンビン遺伝子非翻訳領域の多型(prothrombin G20210A)の素因を有している人々は,このような素因を有していない人々よりも静脈血栓塞栓症に罹患する危険が高いという統計が報告されております.しかしながら,その後の研究で白人以外の人種(アジア人,黒人など)には,欧米白人種に見られるこのような素因を有する人々は非常に稀であることが明らかになり(少なくとも,日本人ではこれらの素因を有しているという報告はありません),これらの人種での血栓性素因研究やそれに基づく血栓症対策は未解決な問題として残っていました.近年,日本,タイ,中国,台湾からプロテインS異常症が血栓性素因である可能性が報告され,プロテインS異常症がアジア人の血栓症発症要因として大きくクローズアップされるようになってきました.プロテインSとは凝固制御系因子で活性型の凝固第Ⅴ因子や第VIII因子を制御して過剰凝血が起こらないように制御している凝固制御因子の一つです.

総論

血液凝固と凝固制御機構

著者: 一瀬白帝

ページ範囲:P.328 - P.339

21世紀は“血栓症の時代”である.最近の“細胞基盤凝固モデル”によれば,活性化マクロファージや傷害内皮細胞上の組織因子によって凝固反応が開始され,活性化血小板の表面で増幅され,増大し,生じたフィブリン血栓は活性化第XⅢ/13因子によって安定化される.血液の流動性を維持するために,活性型凝固因子に対する阻害因子や,プロテインC,Sからなる抗凝固システムが凝固反応を抑制してバランスをとっている.血栓は,線溶酵素プラスミンによって分解され,溶解される.

凝固制御因子プロテインSの構造と機能

著者: 鈴木宏治 ,   林辰弥

ページ範囲:P.340 - P.346

プロテインSは,肝臓や血管内皮細胞などで産生されるビタミンK依存性血漿蛋白質で,主として抗凝固セリンプロテアーゼの活性化プロテインC(APC)の阻害因子として機能する.プロテインSは,血漿中ではその約40%が遊離型として,その約60%が補体系制御蛋白質のC4b結合蛋白質(C4BP)との複合体として存在し,遊離型のみがAPCに対するコファクター活性を有する.最近,プロテインSのAPCコファクター以外の機能が明らかになりつつある.

プロテインS異常症・欠乏症の遺伝子解析

著者: 鈴木敦夫 ,   小嶋哲人

ページ範囲:P.347 - P.355

先天性プロテインS欠乏症の確定診断には,遺伝子解析によるプロテインS遺伝子異常の同定が非常に重要である.現在の解析方法は,ダイレクトシークエンス法を用いた直接的な塩基配列の決定で,これまでに230以上の遺伝子変異が報告されている.しかし,先天性プロテインS欠乏症例のうち,約半数には遺伝子変異が見つからない問題があり,その解決策として新規解析方法であるMLPA法が脚光を浴びている.MLPA法は遺伝子欠失の検出に優れており,先天性プロテインS欠乏症の新たな解析方法として期待されている.

深部静脈血栓症とプロテインS異常症

著者: 濱﨑直孝 ,   隈博幸

ページ範囲:P.357 - P.365

欧米白人種の血栓性素因は,15年ほど前に凝固系第Ⅴ因子の変異〔Factor Ⅴ Leiden(R506Q)〕であることが明らかとなり,その血栓症対策は急速に進歩した.一方,黒人やアジア人など欧米白人以外の人種では,血栓性素因は別の要因であると推測されてきたが,最近の筆者らの研究結果から,日本人の血栓性素因は凝固制御因子プロテインSの遺伝子変異であることが判明した.アジア各国からの同様の結果の報告などと考え合わせると,この蛋白質の遺伝子変異が日本人のみならずアジア人の血栓性素因であることが証明されつつある.今後は,凝固系第Ⅴ因子とプロテインS凝固制御因子の関係を詳細に研究し,アジア人の血栓症発症予防と治療対策,ならびにプロテインS異常症の正確・簡便な検査法の開発を推進すべきと考えている.

各論

静脈血栓塞栓症の予防

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.367 - P.372

静脈血栓塞栓症(VTE)は本邦においては発症頻度が低いと考えられていたが,生活習慣の欧米化や高齢化社会の到来などの理由により,近年その発症数は急激に増加している.欧米から20年以上遅れて,2004年2月に本邦でもようやく複数の団体が参画してVTEの予防ガイドラインが策定され,さらに同年4月から「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設されるに至った.実際には,入院時や術前にVTEのリスク評価を行い,適切な予防法を選択する.予防の基本は理学的予防法であるが,日本麻酔科学会の調査結果から理学的予防法の限界,抗凝固療法の積極的導入の有用性が示唆されているため,今後は適切な抗凝固療法の導入によりさらなるVTEの減少が期待される.ただし,抗凝固薬には出血の副作用も報告されているので,リスクとベネフィットを十分に勘案したうえで使用を決定し,投与中の出血の評価および止血対策にも心がけていただきたい.

Protein S-Tokushima(K155E)

著者: 林辰弥 ,   鈴木宏治

ページ範囲:P.373 - P.377

protein S-Tokushima(K155E)は,タイプⅡプロテインS欠損症の女性の血漿中に見いだされたプロテインS分子の155番目(プロテインS前駆体では196番目)のリジンがグルタミン酸に変化した分子異常プロテインS分子であり,活性化プロテインC(APC)コファクター活性が著しく低下している.これまでのところ,protein S-Tokushimaは欧米人ではみられないことから,アジア人種,特に日本人に特有の変異であり,日本人における静脈血栓症の危険因子であることが示唆されている.

妊娠とプロテインS

著者: 月森清巳

ページ範囲:P.378 - P.384

妊娠時には生理的な過凝固状態となる.この現象は分娩時出血の止血に合目的である反面,血栓症を起こしやすい状態でもある.凝固抑制因子であるプロテインSは妊娠の経過に伴い低下することが報告されている.プロテインS異常症では,妊娠中に静脈血栓塞栓症の発症リスクのみならず胎児死亡,胎児発育遅延や妊娠高血圧症候群といった周産期合併症の発症リスクが高くなる.プロテインS異常症合併妊娠においては,全妊娠経過中,予防的低用量未分画ヘパリン治療が必要である.一方,正常妊婦においても,生理的なプロテインS低下は胎児発育遅延,妊娠高血圧症候群,早産の発症と関連することが示されている.今後,妊娠に伴う生理的なプロテインS低下と周産期合併症との関連を明らかにするとともに,生理的なプロテインS低下における妊娠分娩管理方針を策定することが望まれる.

プロテインS低下と不育症

著者: 森下英理子 ,   關谷暁子

ページ範囲:P.385 - P.388

大規模臨床研究により,血栓性素因の一つである先天性プロテインS(PS)欠乏症は不育症リスクが15倍,特に22週以降の死産(後期不育症)リスクが7倍増加することが証明された.発症機序としては,胎盤内血栓による母児循環不全や胎盤梗塞によると考えられているが,血栓形成以外の機序の可能性もある.治療法としてはまだ一定の見解は定まっていないが,ヘパリン療法が推奨されており,妊娠成功率の改善が得られている.

話題

プロテインS測定原理

著者: 家子正裕

ページ範囲:P.389 - P.392

1 . はじめに

 近年,本邦における血栓症の増加が指摘されているが,血栓性素因として先天性血栓性素因が最も強い危険因子と考えられる.その中でも先天性プロテインS(protein S;PS)欠乏症は日本を含むアジア系人種で多いとされる1~3)

 PSは分子量84,000のビタミンK依存性蛋白質で,主に肝臓で産生される.血中では40%が遊離型,60%がC4b-binding protein(C4BP)との複合体として存在している4).PSは血管内皮細胞上のトロンボモジュリン,血管内皮プロテインCレセプター(endothelial cell protein C receptor;EPCR)と共同して活性化プロテインC(APC)による血液凝固制御に重要な役割を果たしている.遊離型PSのみがEPCRに結合したAPCの補酵素活性をもち,APCのもつ凝固第VIIIa,Ⅴa因子の失活化作用に関与する5).さらに,PSは単独でも活性化第Ⅴ,X因子と相互作用しこれらを不活化する.このためPS欠乏症では過凝固状態を示し,主として静脈系の血栓症を発症する.先天性PS欠乏症は常染色体優性遺伝であり,欧米人では0.03~0.13%でみられるのに対して日本人では1.12%程度に認められ3),プロテインC欠乏症と酷似した臨床症状を示す.本邦ではPS抗原量と活性に乖離を認める分子異常型であるtype Ⅱ PS欠乏症が多いとされる.特に,protein S-Tokushima(K155E)6)は頻度が高く,注意を要する病態の1つである.健常人のPS抗原量および活性は表1に示す7)

 PS測定は日本人を含むアジア人では重要な検査項目と考えられ,しかも抗原量と活性の双方を同時に測定する必要がある.本稿では,現状で可能なPS抗原量および活性の測定方法を解説しつつ,その問題点に言及したい.

新しいプロテインS定量測定法と活性測定法

著者: 金秀日 ,   津田友秀

ページ範囲:P.393 - P.398

1 . はじめに

 血漿中のプロテインSは,補体系制御因子であるC4b結合蛋白(C4b binding protein;C4bBP)と結合した結合型(60%)と遊離型(40%)の2つのフォームがあり,活性化プロテインC(activated protein C;APC)に対する補酵素活性を示すのは,遊離型のみである.プロテインS異常症は,反復して血栓症を発症することが知られており,特にアジア人に高頻度に存在することが近年数多く報告されている1~11).日本人では,プロテインS徳島という遺伝子変異が静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;VTE)リスクファクターの1つとして注目されている5,7~9,11~13).したがって,プロテインS活性低下を伴う遺伝子変異の検出は,日本人のVTEの予防,さらにアジア人の血栓症の病態解明におおいに役立つものと思われる.

 プロテインS徳島のような遺伝子変異は,血中に分泌されるプロテインS抗原量は正常であるが,活性が低下するⅡ型異常症である14).よって,プロテインS活性とプロテインS抗原量を測定し,プロテインS比活性(比活性=活性/抗原量)を求めることで,間接的にプロテインS遺伝子変異を検出することが可能であると考えられる.注意することは,測定する抗原量と活性両方とも遊離あるいは総プロテインSでなければならない.

 現在,総プロテインS活性測定法は存在しないため,遊離プロテインS抗原量と活性の測定を行うことで,プロテインS比活性を求めることになるが,測定系の性能が不十分であるため,プロテインS遺伝子変異の検出は困難である9).遊離プロテインSは総プロテインSに比べ血中濃度が低く,測定誤差の影響を受けやすいので,プロテインS遺伝子変異検出には,総プロテインSの測定が最適であると思われる.しかし残念ながら,総プロテインS測定法には,用手法で操作が煩雑な抗原量測定法のみで,活性測定法は存在しない.そこで筆者らは,汎用自動分析装置で測定可能な,ラテックス凝集法による総プロテインS抗原量測定法と比色法による総プロテインS活性測定法を開発した(投稿中).

プロテインS定量測定法の経験と問題点

著者: 松原由美子 ,   村田満

ページ範囲:P.399 - P.401

1 . はじめに

 近年,日本における血栓症の罹患率・死亡率の高さは欧米同様,トップクラスに位置している.本特集のタイトルである静脈血栓塞栓症は,日本では欧米と異なり発症頻度が低いとされ,注目度は低かったが最近の調査研究などにより,患者数は増加傾向にあり,病態によっては欧米における罹患率に迫っているものもある1).このような背景の中で,静脈血栓塞栓症の発症や進展に重要な役割を演じているプロテインSに着目した研究成果が発信され,より有用性の高いマネージメントに向けて,プロテインS測定の重要性が示唆されている2)

 プロテインS活性や抗原量測定に関しては,トータルプロテインS抗原量測定,フリープロテインS抗原量測定,プロテインS活性測定が種々の方法で開発されている.本稿では,それらプロテインS測定値の実際について自験データを交えて概説したい.

肥満とプロテインS

著者: 津田博子

ページ範囲:P.403 - P.406

1 . はじめに

 静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症)は典型的な多因子疾患であり,遺伝要因と環境要因の相互作用で発症する.1856年にVirchowは血栓症の誘発因子として,①血流の停滞,②血液凝固能亢進,③血管内皮障害を提唱したが,現在でもこの概念は変わっておらず,遺伝要因と環境要因はいずれもこの3主徴に関連している(図).

 血液凝固調節の分子機構に関する研究の結果,凝固制御因子の先天性機能低下による血液凝固能亢進が,静脈血栓塞栓症の遺伝要因となることが明らかになった1).一方,環境要因としては,①血流の停滞として長期臥床,長距離旅行,肥満,妊娠など,②血管内皮細胞障害として手術,外傷,骨折など,③血液凝固能亢進として悪性疾患,妊娠,炎症などがある2).肥満,なかでも腹部肥満(内臓脂肪型肥満)は動脈硬化性疾患の危険因子であることはよく知られているが,近年,静脈血栓塞栓症の危険因子でもあることが明らかになってきた.

加齢とプロテインS

著者: 宮田敏行 ,   岡本章 ,   小久保喜弘

ページ範囲:P.407 - P.409

1 . はじめに

 プロテインSの血中抗原量や活性は,遺伝因子や環境因子により変動する.遺伝因子としてプロテインSの抗原量や活性に影響を与えるミスセンス変異やプロモータ領域の変異が挙げられる.環境因子として,年齢,性,ホルモン,妊娠,肝疾患,炎症が挙げられる.一方,プロテインSの抗凝固活性はC4BP結合型には見られず,C4BPに結合しない遊離型プロテインS(free protein S;fPS)が抗凝固活性を示す.プロテインS抗原量の測定は,総プロテインS(total protein S;tPS)抗原量およびC4BPに結合していないfPS抗原量が測定可能であり,fPS量がよりプロテインS抗凝固活性を反映すると考えられる.

 本稿では,プロテインS抗原量および抗凝固活性の加齢による変動を中心に,これまでヨーロッパおよび本邦で行われた一般住民を対象にした研究の成果を紹介したい.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 非腫瘍・4

脳出血のマクロ・ミクロ像

著者: 小松明男 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.324 - P.325

 脳出血には,くも膜下出血と脳内出血とがある.くも膜下出血は,くも膜下腔の比較的大きな筋性動脈の破綻性出血である.臨床症状は重篤な場合が多く,初回の出血で約1/3が死亡する1,2).この疾患の最大の原因は囊状動脈瘤の破裂である.囊状動脈瘤は,剖検で詳細に検索しても小児期にはみられないが,成人(30代から60代)では有病率に年齢差が認められないことが定説とされている.すなわち先天的に筋性動脈中膜形成不全・欠損があり,初期には形態的にも臨床症状においても変化はみられないが,成長とともに圧負荷に抗しきれなくなり,閾値を超えると動脈瘤が形成され,しばしば破裂することがあると考えられている3).また高血圧,多囊胞腎,大動脈縮窄症,褐色細胞腫などは危険因子であり,その発生頻度には正の相関関係がある3).好発部位は,内頸動脈系の分岐部(約90%)で,ウィリス動脈輪付近ことに前半球である.剖検症例のくも膜下出血の20~30%に多発病巣が認められる1~4).アメリカ合衆国400万人を対象にした剖検と血管造影の結果によると,検索の約2%に無症状の囊状動脈瘤がみられる1~4).図1はくも膜下出血の原因となった左中大脳動脈領域の血管分岐にできた脳動脈瘤で,破裂し広範な出血を惹起し,死の転帰を取った.

 くも膜下出血がウィリス動脈輪付近の比較的大きな筋性動脈の破綻性出血でくも膜下腔への出血であるのに対し,脳内出血は小型血管の破綻性出血である.すなわち脳実質内の直径300μ以下の小型筋性動脈ないし細動脈の微小動脈瘤(Charcot-Bouchard microaneurysm)の破裂と考えられている.高血圧との関係が深く,約50%に高血圧を認め,逆に高血圧の死亡原因の15%が脳内出血である2).好発部位は,視床・被殻が殊に多いが大脳基底核領域(約65%),橋(約15%),小脳(約8%)である2).天幕切痕ヘルニア,側脳室穿破などの重篤な合併症がしばしば続発する.図2は高血圧症例の髄膜内の細動脈で,中膜に著明な硝子様変性がみられる.進行した高血圧症では全身の細動脈に硝子様変性が出現することが多い.

映画に学ぶ疾患・14

「君がくれた夏」―ユーイング肉腫と父子

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.356 - P.356

 骨肉腫やユーイング肉腫は特に小児に発生する悪性腫瘍で,小児の骨に発生する悪性腫瘍としてはそれぞれ1位と2位を占める.最近の染色体検査技術の進歩により,この病気も確定診断がつくようになってきた.その詳細な腫瘍形成機序はいまだにわかっていないが,ユーイング肉腫を患う患者では,摘出腫瘍組織から染色体を抽出しこれを解析し,染色体の転座であるt(11;22)(q24;q12)を検出すると確定診断となる.

 肉腫では骨ではなく,肺から腫瘍が発生し,腫瘍が増殖する過程で骨に転移するといった逆の進行パターンを呈するケースも稀ではあるが報告されている.2007年に放送されたドラマスペシャル「君がくれた夏」に登場する木崎直也少年は,不幸にもこの進行パターンを呈するユーイング肉腫を患う運命を背負った.このドラマは730日間も癌と闘った彼の壮絶な闘病記,両親との心の触れ合いを綴った母親の手記を元にしている.

シリーズ-検査値異常と薬剤・14

―投与薬剤の検査値への影響―循環器系作用薬・ I

著者: 米田孝司 ,   片山善章 ,   澁谷雪子

ページ範囲:P.411 - P.419

心不全治療薬

1 . ジゴキシン

 Na,KATPaseのαサブユニットの細胞外領域に結合し,NaとKの能動輸送を抑制するため,心筋収縮力,徐脈,抗不整脈作用をする.さらに,腎でのNa再吸収を抑制して利尿作用をする.

 特徴:無色~白色の結晶または白色の結晶性の粉末で,においはない.ピリジンに溶けやすく,エタノール(95)に溶けにくく,酢酸(100)に極めて溶けにくく,水,クロロホルム,ジエチルエーテルまたはプロピレングリコールにほとんど溶けない.融点は230~265°Cである.消化管吸収率は約70%程度,組織への移行は速く,経口投与は1時間以内に作用する.腎臓から排泄され,血中半減期は33時間である(図1,表1).

 代謝物における経路を図2に示した.また,digoxigenin-bis-digitoxiside,digoxigenin-monodigitoxiside,digoxigeninはジゴキシンと同様の活性を持っているが,還元代謝物であるdihydrodigoxinおよびその糖鎖部分が脱落した代謝物はジゴキシンの1/7~1/36の低い薬理活性を示す.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.322 - P.322

欧文目次

ページ範囲:P.323 - P.323

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.366 - P.366

「検査と技術」4月号のお知らせ

ページ範囲:P.398 - P.398

次号予告

ページ範囲:P.401 - P.401

投稿規定

ページ範囲:P.421 - P.421

あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.422 - P.422

 平均寿命の増加と生活環境の変化も相挨って近年手術,妊娠などに合併して血栓塞栓症が増加してきており,プロテインS異常症,欠損症が日本人では病因として少なからぬ比重を占めることが,遺伝子解析,疫学調査などから明らかにされています.これは日本発の独そう的な研究の成果によるところも大きく,永年にわたり病因・病態の追及,検査開発に取り組まれた諸先生方の成果が随所に濃縮された読者必読の主題です.

 全く門外漢のつぶやきですが,凝固血栓線溶システムで面白いと思うのは,一連のカスケードの下流で産生されたトロンビンが血栓形成に働くと同時に,血管内皮上のトロンボモジュリンと結合することで,今度は上流に向けて抗凝固作用を発揮し,線溶も含め幾重にも促進抑制制御のネットワークの形成が伺えます.局所で瞬時に起きている生理・病態変化を見分け,システム全体で振り子のようにしなやかに一定の幅におさめ制御に働く.この中で先天性の欠損,機能異常は,いわばシステムに最初から大穴があいた状態であり,通常,通常以下の環境因子の影響にでも対応能力が低下して病態異常を呈してきます.しかし,このような状態でもほかのシステムが代償的に働き,バランスを維持する予備能力を維持されている機能は驚異としか言いようがありません.促進制御に対する別の促進,制御作用が無限に連なり健常状態に至る過程は,あたかもイェルネの免疫の自己・非自己循環理論を想起させるものがあります.プロテインSの学問体系がさらにほかの因子との相互作用へと拡散して,今後“健常状態”に向かって新たな因子の発見へと続く道筋が見えてきました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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