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雑誌目次

論文

臨床検査56巻12号

2012年11月発行

雑誌目次

今月の主題 MDS(骨髄異形成症候群) 巻頭言

MDS診療に臨床検査が貢献するために

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1309 - P.1309

 臨床検査(検体検査)は,機械化の発展により,検査する個人の技術,特性にとらわれることのない,客観的に結果が得られるものがほとんどを占めるようになった.しかしながら,おそらく今後しばらくは主観的判定能力が求められる検査として残るのが細胞や組織の鏡検判定であろう.血液造血器腫瘍分野では,表面抗原と遺伝子核酸の解析による情報が診断にほぼ必須なものになってきているが,今回のテーマである骨髄異形成症候群(MDS)の診断の基本は,あくまで普通染色標本の細胞異型の判定である.そういう意味ではMDSは,臨床検査技師,臨床検査医がその能力を発揮できる,または発揮しなければいけないターゲットと言える.

 しかし,細胞異型の判定はかなり曖昧なものという印象が強い.そのような想いを受け,2007年に厚生労働省の研究班(主任研究者:自治医科大学小澤敬也教授)から,不応性貧血(骨髄異形成症候群)の形態学的診断基準に関する指針が出された.MDS診断標準化の大きな一歩と期待され,この指針の理念を日常検査で具現化していく努力が必要となろう.ところで注目すべきは,“偽Pelger核異常”と“顆粒球乏顆粒”という末梢血でも観察される異常が代表的な所見として認定されたことである.ほかにも大きめで不ぞろいの赤血球,好中球の過分葉,巨大血小板など,末梢血でMDSを疑える所見は少なくない.骨髄像検査を実施していない施設,個人においても末梢血から得られる情報を積極的に報告していただきたい.

総論

MDSの病態とその理解の変遷

著者: 通山薫

ページ範囲:P.1310 - P.1316

骨髄異形成症候群(MDS)は,不応性貧血と前白血病状態という元来異なる概念が統合された後天性骨髄障害としてFAB分類で提唱され,この30年間の間に広く認知されるようになった.この間に複雑な病態を理解し,的確な治療戦略を選択するために病型分類の改訂と予後スコアリングシステムの改良が加えられてきた.従来MDSは診断・治療のいずれにおいても難渋する疾患とみなされてきたが,近年では病因・病態の分子基盤の解明が急速に進展し,分子診断の開発研究や新規治療薬の開拓など,本疾患を取り巻く状況に新たな展開が期待される.

MDSの分子生物学

著者: 田部陽子

ページ範囲:P.1317 - P.1324

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)の本態は,遺伝子異常をもつ造血幹細胞のクローン性増殖であるが,その分子生物学的病因については,いまだ不明な点が多い.しかしながら,最近の遺伝子解析技術の進歩と分子標的薬剤の開発によってMDSの分子病態が急速に解明されつつある.なかでも注目すべき点は,MDSの分子病態の形成過程において,エピジェネティックな変化と,点突然変異などの微細な遺伝子異常が重要な役割を担っていることである.本稿では,MDSのエピジェネティック異常とその責任遺伝子変異について述べるとともに,MDSに特徴的に認められるRNAスプライシング関連遺伝子異常やヘテロ接合性の消失の結果生じる複数の遺伝子変異について,MDSの分子病態形成における役割を含めて最近の知見を概説する.

MDS診断の手順

著者: 古牧宏啓 ,   竹下明裕

ページ範囲:P.1325 - P.1335

骨髄異形成症候群(MDS)の診断上,末梢血の血球減少と血球の形態異常が重要である.さらに染色体,遺伝子検査などの結果を踏まえ系統的に診断する.現在,MDSの診断基準として,WHO分類第4版の疾患概念と病型分類が一般に使用されている.MDSは,病型によって予後が異なり,治療の時期と内容が異なるため,正確な評価に基づき慎重に診断を進めていくことが重要である.最近では,5q-症候群にレナリドマイドなどの分子標的薬も登場し,診断基準の改定と治療方法の進歩から目が離せない.

各論

MDSの血液生化学検査

著者: 西郷勝康 ,   炬口真理子 ,   田窪孝行

ページ範囲:P.1337 - P.1342

骨髄異形成症候群(MDS)を疑うべき末梢血血液生化学検査所見の特徴について概説した.血球減少の存在に加え,MCVの増加,細胞形態異常の存在,フェリチン値の高値や溶血所見などが,診断を疑うきっかけになることが多い.さらに,ルーチン検査では使用されていないが,自動血球計数装置から簡便に得られる情報や,免疫学的検査結果が,さらにその存在を強く示唆する場合もある.これらの所見は,診断確定のための骨髄検査,染色体検査など精査をすすめる根拠となる.

MDSの骨髄像

著者: 栗山一孝

ページ範囲:P.1343 - P.1348

MDSの診断は,今なお細胞形態に依拠している.最適な骨髄塗抹染色標本を作製し,芽球と形態学的異形成(dysplasia)を同定・評価することが最も大切である.芽球は顆粒を有しない芽球(agranular blast)と顆粒を有する芽球(granulated blast)に大別され,前骨髄球との鑑別はゴルジ野の有無による.各血球系の異形成を点数化してMDS診断に応用すると診断確度に有用かもしれない.異形成の種類とMDS病型には,5q-症候群における単核巨核球を除き関連性はない.

MDSの病理組織像

著者: 定平吉都

ページ範囲:P.1349 - P.1354

現行のWHO分類に従って骨髄異形成症候群の診断を行うには,骨髄生検標本の病理組織学的検索も考慮しなければならない.骨髄生検標本は,HE染色,細網線維染色,鉄染色,必要であれば免疫組織化学的染色を行って,細胞密度,骨髄芽球を含めた造血細胞の増減・形態異常・分布異常,環状鉄芽球や微小巨核球などの異形巨核球,および線維化を含めた間質の異常の有無を判定する必要がある.

MDSの染色体,遺伝子検査

著者: 東田修二

ページ範囲:P.1355 - P.1358

MDSでの染色体異常は染色体の全体もしくは部分の増加や欠失が多くみられ,相互転座は稀である.MDSの診断,病型分類,予後分類に染色体検査は必須である.染色体異常に対応する蛍光標識プローブがあればFISH法で治療効果の判定を行うことができる.近年,MDSにおける多数の遺伝子異常が新たに見いだされている.融合遺伝子形成は稀で,主に遺伝子の点突然変異であり,現在の日常診療では遺伝子検査はほとんど用いられておらず,今後の開発が望まれる.

MDSのimmunophenotyping

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1359 - P.1365

フローサイトメトリー(FCM)によるimmunophenotypingは骨髄異形成症候群(MDS)の診断にも利用されているが,その役割は現状では小さなものである.しかし骨髄や末梢血のimmunophenotypingをMDSの診断に利用する試みについては,近年多くの知見が得られており,スコアリングなど手法の進歩もみられ,その価値は変化しつつある.これらの状況について解説し,MDSにおけるimmunophenotypingの標準化についても言及する.

MDSと鑑別を要する疾患の検査所見

著者: 海渡健

ページ範囲:P.1366 - P.1371

MDSは汎血球減少と形態異常を呈する腫瘍性造血器疾患であり,再生不良性貧血,巨赤芽球性貧血,発作性夜間血色素尿症などが代表的鑑別診断として挙げられる.症例をくまなく検討し,形態異常や遺伝子異常の有無から再生不良性貧血を,ビタミンB12あるいは葉酸値から巨赤芽性貧血を,CD55,CD59陰性細胞や溶血所見の有無から発作性夜間血色素尿症を,それぞれ鑑別する.診断後の治療方針や予後に大きな違いがある疾患群であるため,慎重かつ確実な診断が必要である.

話題

治療関連MDS

著者: 大屋敷一馬

ページ範囲:P.1373 - P.1376

1.はじめに

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)は血球減少と造血細胞の異形成を特徴とする疾患単位で,芽球細胞の占める割合は5~20%までとされ,幅広い病像を呈することから,様々な病態が想定される.そのなかでも,抗癌剤や放射線治療後に発症するものが知られ1),第4版WHO分類(2008年)では従来のMDSの分類から独立した疾患単位であるtherapy-related myeloid neoplasmsとして分類されている2).therapy-related myeloid neoplasmsには,治療関連急性骨髄性白血病(therapy-related acute myeloid leukemia;t-AML),治療関連MDS(therapy-related MDS;t-MDS),治療関連骨髄異形成/骨髄増殖腫瘍〔t-MDS/MPN(myeloproliferative neoplasm)〕が包含され,腫瘍性疾患の有無にかかわらず,細胞障害性の化学療法や放射線治療の既往歴がある患者において発症した血液悪性腫瘍を取り扱っている.この疾患単位は特徴的な臨床症状を呈するが,MPNから進展したものは含まれない.

 悪性腫瘍に対する治療は格段に進歩し,治癒や長期生存を目指す治療法が展開され,それにつれ晩期障害の一つとして二次性の造血器悪性腫瘍がみられる.

小児のMDS

著者: 長谷川大輔 ,   真部淳

ページ範囲:P.1377 - P.1384

1.はじめに

 小児骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)はわが国での年間発症数が50例前後と稀な疾患で,成人MDSと異なる特徴を有する1).例えば,小児では鉄芽球性貧血と5q-症候群は極めて稀である.Fanconi貧血に代表される遺伝性骨髄不全症候群(inherited bone marrow failure syndrome;IBMFS)やDown症候群などの先天性疾患にしばしば続発する.特に小児特有の骨髄異形成症候群/骨髄増殖性疾患(MDS/myeloproliferative disorder;MDS/MPD)である若年性骨髄単球性白血病(juvenile myelomonocytic leukemia;JMML)は,1型神経線維腫症やNoonan症候群(Noonan syndrome;NS)に合併しうる2,3).これら成人MDSとの相違点を鑑みて,2003年にヨーロッパ小児MDSワーキンググループ(European Working Group of MDS in Childhood;EWOG-MDS)は小児MDS/MPDの分類を提案した(表1)4).世界保健機関(World Health Organization;WHO)分類では急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)とMDSを分ける芽球割合を20%と定義しているが,小児において骨髄中芽球が20~30%である群に対するAML型化学療法の意義が示されていないことから5),移行期の芽球増加を伴う不応性貧血(refractory anemia with excess blasts in transformation;RAEB-T,末梢血または骨髄芽球20~29%)をMDSとして残している(表1).これら各病型は2008年に改訂されたWHO分類第4版において独立した章で扱われている.

 本稿では,小児のde novo MDSとJMMLについて概説する.

MDSの最新治療

著者: 永井正

ページ範囲:P.1385 - P.1389

1.はじめに

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)は,造血幹細胞レベルで生じた異常クローンの増殖に起因する疾患である.臨床的には血液細胞の質的・量的異常を認めるとともに白血病への進展リスクを有している.したがって,MDSに対する治療は,造血機能の改善・維持や白血病進展の防止,生存期間の延長を目的としており,支持療法単独から造血幹細胞移植に至るまで様々な治療法が年齢やリスク分類に従って選択されてきた.しかしながら,いわゆる標準的治療は確立されておらず,効果が期待される薬剤も限られていた.近年,免疫調節薬(immunomodulatory drugs;IMiDs)や,DNAメチル化やヒストンアセチル化など,いわゆるepigeneticsを標的とする低分子治療薬の有効性が示され,MDSへの臨床応用が積極的に進められている.

 本稿では,現在のMDSに対する治療戦略について概説し,今後の方向性についても考えてみたい.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーD4―細胞の“こころ”を生きた個体で観察する―蛍光生体イメージングの最前線

ページ範囲:P.1335 - P.1335

日 時:2013年1月23日(水) 10:00~17:00

場 所:大阪府・千里ライフサイエンスセンタービル 5階ライフホール

第42回日本臨床神経生理学会学術大会

ページ範囲:P.1354 - P.1354

会 期:2012年11月8日(木)~10日(土)

大会長:片山 容一(日本大学医学部脳神経外科学系神経外科学分野)

第49回日本臨床神経生理学会技術講習会

ページ範囲:P.1354 - P.1354

会 期:2012年11月9日(金)~10日(土)

会 場:東京・新宿NSビル

あいまにカプチーノ

カラオケの消費カロリー

著者: 前川真人

ページ範囲:P.1336 - P.1336

 世の中にはカラオケが好きな人と嫌いな人がいる.好きな人の中には,歌うのが好きな人,聞くのが好きな人,騒ぐのが好きな人がいると思う.さて,一曲歌い終わったら消費カロリーがでる機種があるのをご存じであろう.機種なのか,店によるのか,詳細は知らないが.

 ネット検索すると,第一興商,通信カラオケDAMシリーズの調査に「カロリーカラオケ」消費カロリー標準値ランキングというのがあった(http://gigazine.jp/img/2011/03/29/karaoke_diet/snap237.png).このランキングの消費カロリーデータはあくまで標準値で,歌唱条件,個人差などにより変化するため,記載の数値を保証するものではない.また,標準値については,スポーツクラブの協力を得て,カラオケを歌う“声の大きさ”と“発声している時間”と実験によるサンプルデータを掛け合わせて,歌っている人のカロリー消費を計算して表示しているとのことである.したがって,曲の長さ,曲調,歌い方などに大きく左右され,同じ人でも,そのときの状況によって異なった数値が出ることになる.そりゃそうだ,一生懸命に声を張り上げて歌ったときと,だらだら歌ったときとで消費カロリーが同じでは,一生懸命歌った意味がない(まるでカロリー消費のために歌っているかのようである).

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・7

抗酸菌感染症

著者: 石井誠 ,   長谷川直樹

ページ範囲:P.1390 - P.1396

はじめに

 抗酸菌感染症は結核と非結核性抗酸菌症に大別される.わが国では,結核はその罹患率は年々減少傾向にあるものの1),医療安全・感染対策の点からも,その早期診断と適切な治療は重要である.2012年に約3年ぶりに日本結核病学会から「結核診療ガイドライン」の改訂版が発刊された2)

 一方,非結核菌抗酸菌は詳細な疫学的データは存在しないものの,近年増加傾向にあり3),外来を受診する抗酸菌感染症の患者は,結核に比べて非結核性抗酸菌症の患者のほうが多くなってきているのが現状である.2007年に米国胸部疾患学会(American Thoracic Society;ATS)と米国感染症学会(Infectious Disease Society of America;IDSA)合同のガイドラインが改定され4),それを受けて,わが国でも日本結核病学会と日本呼吸器学会から合同で2008年に診断に関する指針5)と化学療法に関する見解(2008暫定)6)がおのおの発表され,さらに2012年には化学療法に関する見解が改訂された7)

 本稿では,抗酸菌感染症における診断,治療に関して,これらの“ガイドライン”や“見解”を中心に概説していく.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・11

JABの役割

著者: 久保野勝男

ページ範囲:P.1397 - P.1399

1.はじめに

 人々が快適な社会生活を営むためには,何らかの共通な取決めが必要である.組織体が町や村から大きな都市,国家規模となり,さらには経済のグローバル化,ボーダレス化が進む現在の世界においては,普遍的な共通の取決めが必要不可欠となる.その活動が“標準化”である.臨床検査の領域においても同様であり,ひとつの検査結果がどこで実施されても同じ評価ができるものでなければならない.ここではわが国の標準化において,国際的な整合をとりながら健全で公正な経済活動を支える適合性評価の仕組みに関与している認定機関の役割について解説する.

検査の花道・11

人の多様性,検査技師の可能性

著者: 須磨展子

ページ範囲:P.1400 - P.1401

偶然か必然か

 現在,臨床検査技師としての仕事に従事していない私に執筆の機会をいただいたことに,まずは御礼申し上げます.

 現在私は,Win Coachの代表として企業研修とコーチングを実施しています.さかのぼると臨床検査技師として社会人のスタートを切ったのは四半世紀以上前のことですが,検査技師学校に入ったのは,ほんの偶然から.最初に日本赤十字社に入社したのも,とにかく早く就職を決めたい一心で,たまたま採用された(ような気がする)という誠に不謹慎極まりないものです.日赤に17年勤務ののち検査機器試薬メーカーに転職し,畑違いの人事部門で研修業務に携わったのも,当時の人事部長に「須磨さん,研修やってみない? 向いていると思うんだけど」と軽く言われ,その気になってしまったからです.いま思えば,なんとも大胆な上司です.私自身も当時,日赤で30人ほどのチームのリーダーをしていて,メンバーとのコミュニケーションをより高めたいと産業カウンセラーの資格を取ったところでした.人とのかかわりを仕事にできるのは,渡りに船! と転職を決めました.

短報

小型レーザ蛍光顕微鏡の開発―DAPIによるDNA染色観察への応用

著者: 庄野正行 ,   仁木裕史 ,   中村教泰

ページ範囲:P.1402 - P.1403

1.はじめに

 近年,蛍光染色による診断および研究が非常に重要になっている1,2).しかしながら,観察道具である蛍光顕微鏡は非常に高価で,重くて持ち運びが困難である.そこで今回筆者らは,安価で携帯できる小型のレーザ蛍光顕微鏡を開発し,DAPI(4',6-diamino-2-phenylindole)染色よるDNA測定を検討したので報告する.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.1306 - P.1306

欧文目次

ページ範囲:P.1307 - P.1307

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.1308 - P.1308

「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1316 - P.1316

次号予告

ページ範囲:P.1348 - P.1348

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1371 - P.1371

書評 顕微鏡検査ハンドブック

著者: 山中喜代治

ページ範囲:P.1404 - P.1404

 小学生の頃,雑誌の懸賞で手に入れた顕微鏡(100倍率程度)を用い,植物の葉脈やたまねぎの表皮細胞,昆虫の羽などを観察した経験が,私を臨床検査の道に進めさせた.40数年前に直面した臨床検査は,まさにミクロの世界が基本であり,連日,多種多様な尿中細胞を学び,多くの虫卵や原虫を速やかに捉え,100%好酸球性白血病を見つけ,ガフキー10号の真っ赤な標本にも出会えた.これらの功績は,職場の先輩や教育機関の先生方の指導の賜物と感謝しているが,何より頼りにしたのが各種専門書であり,数少ない写真集を食い入るように見入ったものである.

 本書は,顕微鏡で探る多くの疾患を対象とし,診断に直結できる鏡検所見をそろえ,検査手技,鏡検像の特徴解説,病態解析に至るまで簡潔にまとめており,冒頭では,顕微鏡の原理と使い方,顕微鏡写真撮影のコツをわかりやすく概説している.続いて部門別に紹介されているが,微生物検査では,鏡検で判断できる感染所見や薬剤影響による変化などの概説,主な原因微生物の鏡検像の特徴解説に目を奪われた.一般検査では,尿沈渣,寄生虫,穿刺液などの標本作製法,染色法,症例と鏡検所見が紹介され,昔懐かしい虫卵など貴重な写真に出会えた.血液像では,末梢血,骨髄の採取,標本作製,染色原理,手技が概説され,各論では健常者の血液像を把握することから始まり,異常血液像,造血器腫瘍のWHO分類が紹介され,専門知識修得に最適と思えた.細胞診では,細胞所見や判定基準の基礎解説,一般的塗抹法,集細胞法,各種染色法の手技がわかりやすく記述され,各論では疾患別症例の鏡検像とその細胞特徴の解説がそろえられており,鮮明な画像に見入った.そして病理では,細胞診,末梢血,尿沈渣,細菌検査との違いが解説され,標本作製法,染色法,迅速診断,腫瘍診断を適正に表し,幾何学模様を連想させる鏡検像を堪能した.さらに,随所挿入のCOLUMNもまた,適切なアドバイスとして楽しめた.

投稿規定

ページ範囲:P.1405 - P.1405

あとがき

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1406 - P.1406

 6月号のあとがきで,「暦のうえで春を迎えても寒い日が続いていますが,本誌が出る頃には流石に暑くなっているでしょうか」と書きました.今回の担当は11月号ですが,“あとがき”を書いている9月中旬の段階では,まだまだ暑い日が続いています.それでも,本号が出る頃にはすっかり秋めいていることでしょう.

 さて,今月号の特集は「MDS(骨髄異形成症候群)」です.私は曲がりなりにも血液学検査を専門としておりますので,一般の医療関係者よりはMDSについて知っているつもりでしたが,今回の特集も(毎度のことではありますが)大変勉強になりました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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