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雑誌目次

論文

臨床検査56巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

今月の主題 尿路結石 巻頭言

尿路結石症の現状と将来

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.235 - P.236

 尿路結石は,食生活の欧米化と関連深い生活習慣病の1つで,近年その発病率は増加の一途をたどっている.2005年の全国疫学調査によると,40年前に比べ約3倍に,この10年間に限っても1.6倍に増えている.男性の7人に1人が一生涯に一度は尿路結石を罹患しており,いまや“尿路結石は国民病”と言っても過言ではない.

 このたび,本誌「臨床検査」において,尿路結石をテーマに取り上げていただいた.恐らく初めてのことで大変嬉しく,企画担当をされた伊藤喜久先生をはじめ関係の方々に,心より感謝と敬意を表したい.というのは,わが国の医学界では,国民病になっているにもかかわらず,尿路結石に関心が低いことに常々懸念を抱いていたからである.

総論

上部尿路結石症の診断,治療,再発予防

著者: 奴田原紀久雄

ページ範囲:P.237 - P.242

疝痛発作時の画像診断としてもっとも正診率の高いものはCTである.感染を伴う症例では血液尿検査も必須である.珊瑚状結石の治療には経皮的腎砕石術を主体にした治療が考慮される.多くの長径2cm以下の腎結石は体外衝撃波砕石術で治療されることが多いが,体外衝撃波砕石術抵抗性結石(例えば下腎杯結石など)は経皮的腎砕石術,軟性腎盂尿管鏡手術が有効である.尿管結石の治療は長径10mm以下で条件がそろえば薬物による排石(MET)を試みることもできる.METに反応しないもの,長径10mm以上の結石に関しては体外衝撃波砕石術や尿管鏡手術が行われる.再発予防の基本は飲水とバランスのよい食事である.結石の成因によっては薬物療法もあり,これらを有効に組み合わせた患者指導が必要になる.

全国疫学調査からみた尿路結石症

著者: 井口正典 ,   安井孝周 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.243 - P.249

2005年に実施された尿路結石症の全国疫学調査結果(対象患者:約10万人,個人調査対象患者:約3万人)を報告した.尿路結石症の発生頻度は40年間で約3倍に増加し,男性の7人に1人,女性の15人に1人が一生涯に一度は尿路結石症に罹患する計算になる.好発年齢は男性では40歳代をピークに正規分布がみられ,女性では50歳代以降に急増した.尿路結石症の発生に肥満と遺伝的素因が大きくかかわっていた.尿路結石症は生活習慣病の一病態であると理解し,再発予防策を講じることが重要である.

結石の形成機序

著者: 吉岡厳 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.250 - P.254

シュウ酸カルシウム結石形成機序は,まず過飽和となった尿中で結晶が形成されることが起点となる.結晶による尿細管細胞傷害があり,引き続き酸化ストレスの誘導,結晶の凝集,付着が起こる.その後,管腔内から細胞内に取り込まれた結晶の一部が間質へ移動して,結晶を中心に尿細管および間質の炎症がさらに進行する.間質において,尿中蛋白や炎症性に破壊された細胞片と結晶と一塊となったものが結石原基であり,尿細管管腔構造の破壊は結石原基を再び尿流に放出することとなる.この結石原基がさらに成長したものが結石である.

結石と炎症生体反応

著者: 戸澤啓一 ,   安井孝周 ,   岡田淳志 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.255 - P.259

メタボリック症候群の基盤病態として慢性炎症が考えられており,肥満の脂肪組織そのものが炎症性変化をきたすことも明らかになっている.尿路結石患者では高脂血症や高コレステロール血症,肥満,運動不足の患者が多いことが指摘されており,尿路結石も生活習慣病の一疾患としてとらえることができる.特に,尿路結石と動脈硬化は疫学的に類似点が多く,形成機序も類似している.動脈硬化の発生は,内皮細胞の障害,血小板の粘着・凝集,サイトカインの産生・分泌,平滑筋細胞の遊走・増殖,マクロファージと平滑筋細胞の泡沫細胞化,細胞外脂質沈着といった機序が推定されている.オステオポンチンは結石関連蛋白であるが,動脈硬化の石灰化にも関与しており,発生機序の類似点である.本稿ではメタボリック症候群を慢性炎症反応に起因する代表疾患群ととらえ,尿路結石との関連について概説する.

各論 〈結石の臨床検査〉

尿検査

著者: 山口聡

ページ範囲:P.261 - P.268

尿路結石症は,疼痛や血尿といった症状だけではなく,時には重症な尿路感染症などの合併症にも関係することから,その初期診断や初期治療は極めて重要である.一方,尿路結石症は非常に再発しやすい疾患として知られ,並行して結石素因の解明と適切な再発予防対策が必須である.これらの観点から,「尿路結石症診療ガイドライン」において,尿検査を含む,多くの臨床検査の施行が推奨されている.尿路結石症の再発に対する尿検査の目的は,どのような結石やどのような患者の状態が再発を招きやすく,それに対してどのような対応をなすべきかを認識することにある.診断が適正に行われれば,尿路結石の再発に対する適切な指導と薬物療法につながる.

血液・内分泌代謝関連の検査

著者: 三浦健一郎

ページ範囲:P.269 - P.274

尿路結石の診療においては,基礎疾患や代謝異常の有無を考慮する必要がある.その目的では尿検査以外にも血清電解質,血液ガス検査が有力なツールであり,これらに異常を認める場合や,再発性,多発性の結石では血液・尿電解質,内分泌代謝関連の検査を加えて鑑別診断を進める.これには小児期に発症する多くの遺伝性尿細管疾患,プリン代謝異常,シュウ酸代謝異常などが含まれる.本稿では,各検査項目(血液・内分泌代謝関連の検査)の異常からみた尿路結石症例へのアプローチを概説する.

超音波検査

著者: 呉屋真人 ,   斉藤誠一

ページ範囲:P.275 - P.278

尿路結石症は,生涯罹患率が12%,そして再発率は50%にのぼり,稀な疾患ではない.診断のアルゴリズムにおいては,急性側腹部痛を伴う患者に対する一次検査として,超音波検査は安全,迅速,そして非侵襲性に尿路結石の同定ができる手技であることより,推奨されている.もちろん,小児や妊娠女性に対しても,安全に行える検査であり,ストレスなく実施ができる.本稿では,超音波検査による尿路結石症の特徴的所見や,診断の問題点や落とし穴,さらに診断能を高めるための工夫について概説していく.

結石分類と成分分析法

著者: 戸塚一彦

ページ範囲:P.279 - P.283

尿路結石に含まれるヒドロキシアパタイトとカーボネートアパタイトは結晶度が極めて低く,X線回折法では見逃されやすい.赤外分光分析ではカーボネートアパタイトはリン酸カルシウムと炭酸カルシウムの混合と判定されることが多い.尿路結石の成分分析では赤外分光分析とX線回折法の併用が望ましいが,カーボネートアパタイトないしヒドロキシアパタイトからなる大結石では,少量のリン酸マグネシウムアンモニウムの検出は困難なことがある.

結石マトリックス成分と分析法

著者: 森山学 ,   宮澤克人 ,   鈴木孝治

ページ範囲:P.285 - P.290

尿路結石症は臨床では一般的な疾患であるが,その発生機序はいまだ明確にされていない.尿中の結晶が成長し凝集が起こり,さらに結石芽形成を経て結石化(固化)に成長する過程で,様々な有機物質(結石マトリックス)がその成長・凝集に対して抑制あるいは促進の方向に関与し,含まれていく.それらの各物質を同定し解析することや,個々の物質ごとの関連性を解明することにより結石発生機序の解明に迫り得るものと思われる.本稿ではこれまで報告されている代表的な結石マトリックスとそれらの一般的な分析法について紹介する.

話題

メタボリックシンドロームと結石

著者: 柑本康夫 ,   佐々木有見子 ,   原勲

ページ範囲:P.291 - P.295

1.はじめに

 わが国における上部尿路結石の年間罹患率をみると,2005年には人口10万人対134.0人(男性192.0人,女性79.3人)であり,1965年の43.7人(男性63.8人,女性24.3人)と比較して約3倍に増加している(図1)1).こうした増加の原因としては,画像検査における診断率の向上,検診などによる無症状結石の発見,人口の高齢化などが挙げられるが,おもに食生活や生活様式の欧米化によるところが大きいとされている.すなわち,疫学的観点からみて尿路結石症は生活習慣病の1つと考えられる.尿路結石症の再発予防のための食事療法や生活指導は,高脂血症・動脈硬化症,高血圧,糖尿病といった生活習慣病の予防法と共通点が多いことも以前から指摘されているが,最近では,肥満,糖尿病,高血圧など,個々の生活習慣病のみならず,メタボリックシンドローム(metabolic syndrome;MetS)と尿路結石症の関連性を示す疫学研究が多数報告されている.また,MetSの本態であるインスリン抵抗性が結石形成に関与していることが解明されつつあることから,今日では“尿路結石症はMetSの1疾患”との考え方が提唱されるようになってきた.

 本稿では,尿路結石症とMetSの関連性についての最新の知見を紹介するとともに,MetSとの関連性からみた尿路結石症に対する新たな予防法の可能性についても言及する.

Randallのプラーク

著者: 梅川徹

ページ範囲:P.296 - P.302

1.はじめに

 様々な結石関連蛋白の同定やその制御機構の発見により,腎臓結石の発生機序はずいぶん明らかになったが,今なお不明な点も多い.本稿で取り扱うRandallのプラークは,この答えの一つを示すものである.ところで,腎結石にはいくつかの成分があるが,そのほとんどはシュウ酸カルシウム結石(calcium oxalate;CaOx)である.以下この項では,もっぱらこのCaOxについて述べることとする.

 ずいぶん昔のことになるが,Randall1)が70年以上前に報告した腎結石の発生機序の仮説への関心が,このところ再び高まっている.それは,尿路である腎盂内に直接腎結石が発生するのではなく,まず腎実質内の腎乳頭部間質に石灰物質が沈着し,それに二次的・連続的にその周囲(腎盂内)に腎結石が形成されていくという仮説である.Randallは,多くの剖検所見などから,この腎結石発生メカニズムに関する仮説を立てた.後述するが,いくつかの問題点により,その後あまり注目されなくなってしまった経緯がある2~4)

 一方で,1970年代ごろより2003年ごろまでは,著者の師匠であるKhan(フロリダ大学医学部病理学教室教授)ら5)を中心として,Randallとは異なる結石発生メカニズムが唱えられてきた(fixed-particle theory).それは過飽和となった尿より結晶塊が発生し,さらに集合管などにこれらが閉塞した後,やがて腎盂に露出することで結石の基になるというものである.これは主に動物実験やin vitroにおける膨大な実験結果により提唱されたものであり,世の中に広く認められてきた.著者も,大いにこの分野での仕事をさせてもらってきた.

 しかし,2000年ごろからの泌尿器科内視鏡学の進歩(細径内視鏡の発達)により,比較的容易に腎盂・腎杯内の様子を尿道から逆行性に観察・処置できるようになり,様子が変わってきた.この手法による腎結石除去の手術中には,腎乳頭部における結石とそれが接する腎盂粘膜との関係を直接観察し,その部位の組織を採取・分析できるようになったからである.このような実際の結石患者における詳細な観察により,動物実験とは異なりヒトにおける結石形成を誘発する最初のイベントは,腎乳頭部の間質で発生する微小なリン酸カルシウム(calcium phosphate;CaP)の石灰化変化であることがわかった.これに連続して尿路内(腎盂内)に発生した腎結石形成自体は,ただの二次的現象である可能性が高いと認識されるようになった.

 先のKhanらによるfixed-particle theoryとは大きく異なり,これはまさに70年以上前にRandallが報告した仮説と酷似する内容であったことは,多くの研究者に驚きをもって迎えられた.以下に,①Randallが70年以上前の当時に報告したプラーク仮説について,②古典的fixed-particle theoryについて,③Evanら6~12)の最近の報告による新Randallのプラークとでもいうべき最新の結石発生メカニズムについて,順次述べていくこととする.

尿路結石症の遺伝子多型

著者: 安井孝周 ,   濵本周造 ,   岡田淳志 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.303 - P.308

1.はじめに

 尿路結石の生涯罹患率は食生活の欧米化に伴い上昇し,日本人男性の15%,女性の7%が罹患する1).その発症は,生産年齢の男性に多く,成因の究明と再発予防法の確立は急務であるが,遺伝子レベルに研究が進んでからも画期的な再発予防法は開発されていない.

 尿路結石は,原因遺伝子により発症する単因子遺伝病と,疾患感受性遺伝子と環境因子が加わり発症する多因子疾患の両者が存在する疾患群である.単因子遺伝病と考えられるのは尿路結石のごく一部で,シスチン尿症,原発性高シュウ酸尿症,Dent病,遺伝型遠位尿細管アシドーシス,2,8-デヒドロキシアデニン結石などが存在し,責任遺伝子が報告され,機能解析が行われている.一方,尿路結石の約90%を占めるカルシウム結石は,遺伝要因の存在下に,食生活,生活習慣などの環境因子が重なり発症すると考えられているものの,単一の遺伝子異常では説明できていない.しかし,家族性発生の報告や,5年で50%程度と言われる高い再発率などからも,いわゆる素因といった先天性因子の存在が考えられる.2003年4月には,約30億のヒトゲノムシーククエンス解析2)が完成されたが,遺伝子産物の機能が完全には解明されていないのが現状である.

 本稿では,カルシウム結石の遺伝子多型の知見を中心に概説する.

LC-MS/MS法による尿路結石の分析

著者: 金子希代子

ページ範囲:P.309 - P.314

1.はじめに

 分析科学の手法が様々な分野で応用されている.近年,“プロテオミクス”と呼ばれる“蛋白質の網羅的解析”にLC-MS/MS法が応用され,尿路結石に含まれるマトリックス蛋白質として多くの蛋白質が検出されている.

 本稿では,LC-MS/MS法を用いた蛋白質分析法の原理を紹介する.

映画に学ぶ疾患【最終回】

「命の相続人」―多発性硬化症―

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.260 - P.260

 ディエゴはとあるスペインの総合病院のペイン・クリニックで働いている.映画「命の相続人」の話である.彼は,様々な疾患に伴う疼痛をもった患者を診ているが,患者にさしたる共感もなく,機械的に診ていた.医師として長らく痛みを訴える多くの患者と接してきた過程で,無感動,無感覚になっていったのかもしれない.彼は救急医療にも関与しているが,生死の決着が早い救急医療の最前線で慌ただしい生活をしていると,やはり個々の患者に対する共感が薄れていくものなのかもしれない.彼は研修医に対して,「一生懸命治療しろ.でも患者と目を合わすな」と嘯いたりする.彼は妻とも上手くいっておらず,別居同然の生活をしているようである.こういう場合,心が荒むものだ.

 ある日,外来で診ていた多発性硬化症の女性患者サラが痛み止めを大量に飲み,昏睡状態でアルマンという男に付き添われ救急外来に運ばれてくる.彼女は身重である.治療中,彼女は心肺停止となるが,何とか蘇生する.ディエゴがアルマンに病状が厳しいことを告げると,彼は激しく動揺する.我を失ったアルマンは,ピストルを手にディエゴをこう脅す.「サラを必ず毎日診察しろ.とにかく治すんだ.最後まで診続けろ」.患者に特別な感情をもてないディエゴは「昏睡に陥っている患者を頻繁に診ても意味がない」と言い返すが,アルマンは突然発砲し,ディエゴの胸を撃った後,自分も自殺する.実はアルマンとサラは不倫関係にあり,難病を抱えながらも彼女は彼の子どもを身籠っていたのだった.

INFORMATION

第18回第1種ME技術実力検定試験および講習会のお知らせ

ページ範囲:P.274 - P.274

社団法人 日本生体医工学会

第1種ME技術実力検定試験実行委員会

〈講習会実施要領〉

千里ライフサイエンスセミナーD1―スーパーコンピュータ「京」の医療・創薬分野への応用

ページ範囲:P.314 - P.314

日 時:2012年4月20日(金) 10:00~16:50

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル

    5階ライフホール

あいまにカプチーノ

仕事とスポーツの両立

著者: 種村正

ページ範囲:P.284 - P.284

 私が出場したトライアスロン大会の中で最も想い出深いのは,秋田県で行われた北欧の杜アドベンチャートライアスロンである.この大会は川下り4.6km,マウンテンバイク(MTB)53km,ラン16kmで自然の地形を生かした日本最初のアドベンチャーレースであった.私は第6回と7回大会に参加したが,残念ながら1998年の第7回が最後となってしまった.

 まず,川下りというのが本来は清流の流れに乗って川を下ったり浅瀬を走ったりするのであるが,第6回は日照り続きで水が少なかったためにコースのほとんどを走ることになった.気温が30℃にもなる中でウェットスーツを着て川原を走るのだから,足下もおぼつかないし本当に大変だった(かみさん曰く“ゴリラの行進”だったそうだ).それでも川の流れに身を任せられる所があったり,水中では鮎が泳いでいるのを見つけられたりして,子どもの頃に帰ったようだった.バイクは熊が出るような山道と崖のような道? とダートコースがほとんどで,タイヤがパンクしてしまう人も数人いた.ずっとバイクに乗り続けられる人は滅多におらず,当然私も崖はバイクを担いで登ったし,坂道は押して歩くことがたびたびあった.ランはのどかな田園地帯を駆けめぐり,日本一広い北欧の杜公園を走り,最後は急な上り坂がずっと続く.やっとゴールの鷹巣駅に近づくと自分が書いた自己紹介が商店街にアナウンスされ,ゴールでは日本一の大太鼓が迎えてくれた.ちなみにこの日は35℃にもなる猛暑日で,体中の血液量の3倍ほどの水分を採ったと思うが,エイドステーションでスイカやおにぎりや梅干しを沢山食べたのでレース後の体重は変わっていなかった.この大会はコースが面白かっただけでなく,町を挙げての歓迎ぶりや参加者の一体感がずば抜けていた.そして,精一杯身体を動かすという動物がもっている本能を感じることができ,過酷だったけれども本当に楽しい大会であった.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・3

WHOの動向

著者: 小島和暢

ページ範囲:P.315 - P.317

1.はじめに

 世界保健機関(World Health Organization;WHO)は健康に関する国連の専門機関であり,現在日本を含む194の加盟国をもち,ジュネーブの本部,6つの地域事務局,147か所の国別事務所に約8,500人の職員が勤務している.

 臨床検査の文脈において,“標準化”には両義性があるように思われる.一つは検査法,測定法,試薬あるいは標準物質の“標準化”,ひいては狭義の技術的な勧告法による統一化であり,二つ目は規範文書としての“標準”あるいは“規格”,ことマネジメントシステムに対する適合性である.前者に関して,日本では過去三十年にわたる努力の結果,例えば肝機能血清酵素検査において施設間変動係数の著しい改善をみた.WHOでは2つのクラスターにまたがる広範なRegulatory Standards for Vaccines and Biologicals計画を通じ,周知の通りワクチン,抗菌薬,抗原,血清など広範な標準物質を各国のリファレンスラボラトリーなどに供給し,WHOガイドラインと勧告を,加盟各国が生物製剤および臨床検査の品質と安全性向上に資するために出版している.しかしながら,本稿では紙幅の関係上その全容について詳細に触れることは困難であり,筆者が直接かかわっている活動,視点を中心に紹介させていただくことをお許し願いたい.

検査の花道・3

私って検査技師?

著者: 池本俊子

ページ範囲:P.318 - P.319

はじめに

 検査技師が働く姿,働く環境ってどんなものをイメージしているでしょうか.検査機器に囲まれ,検査室独特のにおいと音の中で,白衣を身につけ黙々と働く.豊富な知識と経験のもと,迅速に正確にデータを提供…この仕事に就いてよかったと思う瞬間.そんな方が多いでしょうね.しかし,私はそんな姿とは程遠く,このシリーズに登場して本当によかったのか疑問に思ってしまいます.

 私は医学部付属検査技師学校を卒業後,私立大学付属病院に勤務の後,寿退社をしました.別の仕事で充実していましたが,やはり技師として再就職したいと思うようになりました.短いキャリアとアルバイト経験くらいしかない私に再就職の道は険しかったのですが,タイミングの神様が現在の検査科に招待してくださいました.そこは休眠に等しい検査科の,技師一人だけの職場でした.

シリーズ-検査値異常と薬剤・23

―投与薬剤の臨床検査値への影響―感染症治療作用薬Ⅰ

著者: 米田孝司 ,   片山善章 ,   澁谷雪子

ページ範囲:P.320 - P.329

はじめに

 抗菌薬は病原体に対して殺菌的または静菌的作用をもつ薬剤であり,構造や系統によって分類され,それぞれ代謝や適応菌種に特徴がある.表1に抗菌薬と適応菌種を記載する.

 古くから,直接的な薬物干渉としてセフェム系抗菌薬は還元反応を利用した尿糖測定やJaffe反応陽性物質を有する成分が含まれるとクレアチニン測定に偽陽性を示し,間接的な薬物干渉としてアミノグルコシド系およびセフェム系抗菌薬やバンコマイシンなどにより腎障害を認めるので注意が必要である1).したがって,症例によっては検査技師が医師や薬剤師と相談し,使用薬剤を変更することも多い.

研究

DPIにより誘導されるヒト培養HepG2細胞死のDNA構造の解明

著者: 庄野正行 ,   北村光夫 ,   小中健 ,   川添和義 ,   水口和生

ページ範囲:P.331 - P.334

 アポトーシスによる細胞死は,DNAが損傷を受けて自ら死ぬことを言う.DPIは,NADPHオキシダーゼを含むフラビン酵素の阻害剤として知られており,また,ミトコンドリア呼吸鎖の複合体Ⅰを阻害することも知られている.しかし,DPIにより誘導されるアポトーシス型細胞死において,どのようなDNA構造で壊れているかは知られていない.

 そこで今回,培養ヒト肝臓癌細胞HepG2を用いて,DNA染色,DAPIとPIの二重蛍光染色法を用いてDNA構造を解明したので報告する.

編集者への手紙

二つの仮説―血漿アミノ酸は主にアポ蛋白Eに由来する―アミノ酸の主な輸送担体はアポ蛋白Bである

著者: 小林正嗣

ページ範囲:P.335 - P.338

1.はじめに

 本稿では,先の「血漿アミノ酸のアポ蛋白E由来の可能性」1)に再度言及するとともに,アポ蛋白B-100の各アミノ酸残基の存在比率と母乳の各総アミノ酸組成の比率との間に類似性が認められることから,アポ蛋白Bが体内アミノ酸の主な輸送担体である可能性が考えられることを述べる.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.232 - P.232

欧文目次

ページ範囲:P.233 - P.233

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.234 - P.234

「検査と技術」3月号のお知らせ

ページ範囲:P.242 - P.242

次号予告

ページ範囲:P.249 - P.249

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.268 - P.268

投稿規定

ページ範囲:P.339 - P.339

あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.340 - P.340

 尿路結石は今や生活習慣病に位置づけられ,発症頻度も高く再発しやすく予防治療が難しいなど多くの課題を抱えていています.尿検査では重要な位置を占めるにもかかわらず,ともすると取り組みがいまだ十分なされていない領域の一つであり,新しい視点からさらなる検査研究,サービスの充実を求めて,今月の主題として初めて取り上げました.尿路結石の新しい研究,診療,検査の進歩について具体的に大変わかりやすくご執筆いただいた諸先生に,心から御礼申し上げます.また企画にあたり,貴重なご助言をいただきました山口 総先生(富良野協会病院尿路結石治療センター長)に深謝いたします.

 結石の形成にかかわると思われる事象に日常よく遭遇します.尿を冷蔵庫に入れると,ものの数分で濁り沈殿物が出現してきます.これを遠心分離して上清を採って再度冷蔵するとまた濁り,これが幾度も繰り返えされます.沈殿物を取って顕鏡すると,結石成分のコアとなる結晶が観察されます.EDTAなどのキレート剤を加えると沈殿量は減少することから,少なからずCaが主成分であることが推測されます.われわれの尿はある意味でCaを初めとする塩類が過飽和の状態にあると言えそうです.今度は尿を-20℃に凍結してみます.融解後もやはり濁り沈殿物がみられ,遠心して上清のアルブミンを測ってみますと,凍結前よりも20%濃度が低下しています.ところがVortex mixerで撹拌して沈殿物を混和した後に測定しなおすと凍結前と変わりがない.つまり,アルブミンは沈殿物に巻き込まれていることになります.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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