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雑誌目次

論文

臨床検査56巻5号

2012年05月発行

雑誌目次

今月の主題 成長と臨床検査値 巻頭言

子どもの成長・発達と子ども学

著者: 小林登

ページ範囲:P.459 - P.460

 「成長と臨床検査値」の特集号の巻頭言として,“小児”すなわち“子ども”の本質である育つ姿に焦点を当てて筆者の考えを述べてみたい.なお,子どもの問題は,小児科学やそれに関連する臨床検査も含めた諸科学ばかりでなく,病気に関係ない諸科学も連合して取り組むべきと考える筆者の立場から,本稿では“子ども学”と題して広く論じたい.

 子どもは“生物学的存在”として生まれ,“社会学的存在”として育つ.また,“育つ存在”として生まれ,“育てられる存在”として育つとも言える.“生物学的存在”や“育つ存在”は,子どもは進化の歴史の中で獲得した遺伝子情報による心と体の基本的なプログラムをもって生まれることである.また,“社会学的存在”や“育てられる存在”は,親やまわりの大人たちから,食事によって栄養が与えられ体を成長させるとともに,育児・保育・教育によって情報も与えられて心や体の機能も発達させると解釈できる.

総論

子どもの加齢変化と臨床検査値

著者: 戸谷誠之 ,   西田敏信

ページ範囲:P.461 - P.465

成長期にある子どもの加齢変化には目覚ましいものがある.その加齢変化パターンには性差や発育環境の差異のほかに,各生体成分固有の変化もみられる.成長(加齢変化)に伴い臨床検査にも変化動態が出現する.本稿では検体検査,特に臨床化学検査に焦点を絞りその状況について概説した.その状況には複数の変化パターンがみられる.子どもの検査値を解釈するうえでは,これらのパターンを理解したうえで判読することが望ましいことについて述べた.

小児生活習慣病の診断基準の年齢推移と変化―高血圧を中心に

著者: 内山聖

ページ範囲:P.466 - P.470

本態性高血圧は児童生徒の1%前後に存在する.程度は軽いが,成人の本態性高血圧に高率に進展するほか,臓器障害を起こす可能性も高い.血圧は高校生くらいまで年齢とともに上昇するので,高血圧基準値も年齢により異なる.従来,わが国の高血圧基準値は米国よりかなり高かったが,最近のデータの蓄積により,米国に類似した基準値が提唱されている.高血圧以外の小児生活習慣病診断基準に関しては,肥満やメタボリックシンドロームで,年齢によりごく一部が異なるだけであり,脂質異常症や糖尿病に関しては年齢による診断基準の差はない.

各論

小児期のIGF-Ⅰや性腺ホルモンの加齢変化

著者: 磯島豪 ,   横谷進

ページ範囲:P.471 - P.475

インスリン様成長因子(IGF)は,かつてソマトメジンとも呼ばれていたが,IGF-Ⅰ(ソマトメジンC)とIGF-Ⅱの2種類存在する.IGF-Ⅰは,乳児期から年齢とともに上昇し,思春期を迎え成長率が最も高い時期にピークをとった後に低下していく.IGF-Ⅱは1歳以降の濃度はほぼ一定である.性腺ホルモンでは,テストステロン,エストラジオールともに新生児期に高い時期があった後は,男女ともに思春期発来までは測定感度以下である.思春期の発来とともに,上昇して成人の値に達する.女性では,性周期が完成すると卵胞初期と排卵期をそれぞれ最低値と最高値とする月内変動がみられるようになる.

クレアチニンとシスタチンCによる小児の年齢と腎機能評価

著者: 上村治

ページ範囲:P.476 - P.482

血清クレアチニン(s-Cr)の基準値は,2008~2009年に日本小児腎臓病学会の小児慢性腎臓病(CKD)対策委員会で検討された.s-Crと身長との間の相関は,2~11歳の小児で検討し,回帰式は,“推算されるs-Crの基準値=身長(m)×0.30”となった.筆者らは,さらに全年齢において身長とs-Crの関係を示す多項回帰式を男児と女児に分けて作成した.血清シスタチンC(CysC)の基準値については,生後1歳までに段階的に低下し,その後ほぼ一定になった.しかし,1歳児と2歳児でもわずかに異なった.s-CrやCysCの基準値を利用して,小児CKD患者のステージ分類を診断する方法について提案した.

小児期の炎症性疾患の病態変化と検査値とのかかわり

著者: 横田俊平

ページ範囲:P.483 - P.489

小児期の疾患の多くに炎症がかかわっており,炎症の直接の誘因は炎症性サイトカインである.炎症性サイトカインは発熱,食思不振,傾眠傾向などの臨床症状とともにCRP,アミロイドAなどを誘導する.過剰な炎症性サイトカインは血管内皮細胞を活性化し,さらに進展すると内皮細胞の破綻を契機として凝固線溶系が活性化される.炎症が持続すると播種性血管内凝固症候群から多臓器不全という炎症の最終段階に至り,その結果,炎症死となる.個々の段階に応じて血液検査上に時々刻々変化が生じるので,ベッドサイドでは,この変化を逃さずとらえ治療介入を行うことで,病態の進行を止めることができる.

臨床検査値からみた加齢に伴う血液の変遷

著者: 白幡聡

ページ範囲:P.491 - P.496

多くの臨床検査値の中で血液検査値は新生児期から思春期にかけて加齢による変動が大きいものの一つである.特に新生児期は,母親の体の中ですべての栄養や酸素が与えられている寄生体の生活から一挙に母体外の自立生活に転換するため,短期間で大きな変化が起こる.例えば,赤血球系では出生後の急激な酸素分圧の上昇により赤血球造血因子であるエリスロポエチンの分泌がストップして諸因子が急速に減少していく.白血球は出生時のストレスによる末梢血への動員などで出生時に好中球が著増するが,1週間後には1/3に減少する.本稿では新生児期を中心に小児期の血液検査値の変遷とその臨床的意義を概説した.

黄疸とビリルビン異常の検査

著者: 伊藤進 ,   國方淳

ページ範囲:P.497 - P.502

ビリルビンの化学構造は,非対称性のtetrapyrroleで,C-8とC-18に2つcarboxyethyl基をもつ2つのdipyrroleからなり,Δ4とΔ15でZ配座をとり,2つのdipyrroleは,中心部で97°で本を開いた立体構造である.ビリルビンは,疎水性のためヒト血清アルブミンと可逆的に結合して,種々の組織の生体膜に分布している.ビリルビン代謝は,生成,分布,肝での取り込み,抱合,排泄,腸肝循環,光異性化および酸化からなる.現在,高速液体クロマトグラフィ法による血清ビリルビン分析がゴールドスタンダードである.

小児神経・筋疾患の臨床と検査

著者: 泉達郎

ページ範囲:P.504 - P.513

神経・筋疾患の臨床検査法の進歩は目覚ましく,各種疾患の責任遺伝子,染色体,代謝性疾患における分析化学,神経画像,神経生理学的検査など,広く普及しつつあり,日常診察で利用されることが少なくなく,過剰な検査が先行されることのないように注意が必要である.臨床においては,常に適切な臨床所見の把握と,それに対応した鑑別診断と検査所見の確認が基本である.小児神経・筋疾患では発達障害に関連する主訴より,全身所見,神経学的所見を基に,それに対応した適切な臨床検査を実施し,正確な診断と治療に努めている.

話題

遺伝子診断の進歩―成果と今後の課題

著者: 登勉

ページ範囲:P.515 - P.520

1.はじめに

 遺伝子診断は,疾患に特異的な遺伝子やゲノムの変化を検出し,疾患を診断することである.国際ヒトゲノム計画の完了によってもたらされた臨床的に有用な発見のうち,単一遺伝子異常に関する知識は,単一遺伝子疾患の診断と治療を改善し,いわゆるgenetic medicineという分野を発展させてきた.その後の生命科学の進歩は,健康や病気に関連する全ゲノムと環境因子などの相互反応を解明しつつあり,多因子疾患である生活習慣病の新しい診断・治療の方法を実践するgenomic medicineの時代の到来が予想される.また,病原体の核酸検査による感染症の遺伝子診断は日常診療で実施されている.遺伝子診断では,遺伝子やゲノムに関する情報を得るための検査法や技術が必須であり,遺伝子診断の進歩は,新規の解析技術や検査キットの開発と臨床応用なしには実現不可能である.

 遺伝性疾患の場合,発症に関連する遺伝子変異の種類に合った適切な解析技術を使用することが正確な診断のために重要である.発症機序の解明が進んでいる単一遺伝子疾患では,遺伝子検査が利用可能な疾患の数は年々増加し,Gene Tests databaseでは2011年に2,500疾患を超えている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/GeneTests/static/whatsnew/labdirgrowth.shtml).一方,これらの遺伝子検査サービスを提供している検査室の数は2005年以降600で一定している.社団法人日本衛生検査所協会が実施したアンケート調査によれば,受託した遺伝子検査のうち,“単一遺伝子疾患の診断に関する遺伝子検査”は,4,082件(2001年)をピークに,2010年の調査では2,645件であった(表1).

 単一遺伝子疾患であっても,表現型と遺伝型の相関はかならずしも1対1ではない.すなわち,同じ診断名(表現型)であっても遺伝子変異は同じでなく,人種や家系によって,原因遺伝子の遺伝子変異に違いがみられる場合もある.さらに,多因子疾患である癌や生活習慣病では,それぞれの遺伝子多型の寄与度に差があるため,検査対象の遺伝子多型の種類が異なることによって疾患リスクの診断予測が一致しない場合も報告されている1)

 本稿では,遺伝子診断の進歩を解析技術の進歩から解説し,単一遺伝子疾患の診断のみならず多因子疾患のリスク診断など,個別化医療を目指した日常診療で遺伝子検査を活用する場合の課題について述べる.

近赤外線分光法(NIRS)を用いた脳機能の診断

著者: 辻井岳雄 ,   酒谷薫

ページ範囲:P.521 - P.523

1.はじめに

 最近の脳画像研究では,近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy;NIRS)の原理を用いて脳の血液量変化を推定する手法が盛んに用いられるようになってきた.本稿の目的は,NIRSの原理について簡単に解説し,脳機能の診断にNIRSがどのように使われているのかについて概観することである.一般に,脳機能は,記憶,思考,意思決定など認知機能にかかわる神経活動と,気分や感情の障害にかかわる神経活動に分けることができる.

 本稿では,最初にNIRSを用いた認知機能の診断法を紹介し,次に気分障害など精神疾患の診断にNIRSがどのように使われているのかについて概観する.

鼎談

成長期医療の変遷と臨床検査の対応

著者: 戸谷誠之 ,   白幡聡 ,   内山聖

ページ範囲:P.525 - P.533

患者自身からの正確な情報が欠如する成長期医療においては,臨床検査の果たす意義は極めて大きいものです.旧来,小児検査は微量で手間がかかるとされてきましたが,検査技術の高感度化が進み,通常の検査と変わりがなくなりつつあります.一方で,遺伝子検査などの新たな技術の開発・普及により成長期医療における検査診断は大きく変化しています.本鼎談では,小児医療を中心に活躍されている3名の先生方にお集まりいただき,成長期医療の変遷と,それに伴い臨床検査はどうあるべきかをお話いただきます.

あいまにカプチーノ

顕微鏡と望遠鏡

著者: 通山薫

ページ範囲:P.490 - P.490

 顕微鏡のことを英語でmicroscopeというのは皆さんご存じですね.それでは望遠鏡は英語で何というでしょうか? telescopeです.顕微鏡がミクロの世界を観るのに対して,望遠鏡はtele(遠く)の世界を観る道具であるわけです.観る目標は違っても,ある意味似たような道具ですし,どちらも好きという私のような人間は,要するに“覗き趣味”ということでしょうか.

 今回は望遠鏡のお話です.私と望遠鏡との付き合いはかれこれ40年前,1971年の夏,火星大接近の年からです.当時中学生の私は,京都大学・天文学教授であった宮本正太郎先生が青少年向けに講演された火星大接近の魅力的なお話に引き込まれ,その日の夕方父親に望遠鏡をねだったものです.百貨店(懐かしい響きですね)へ行き,初心者向けの反射望遠鏡を買ってもらいました.値段は1万数千円! 当時の私にとってはいかにも高価でしたが,倹約家の父がよくぞ買ってくれたものだと今でも感謝です.

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・1【新連載】

成人肺炎

著者: 森永芳智 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.534 - P.542

はじめに

 これまでの肺炎診療は,病院の外で発症した市中肺炎(community-acquired pneumonia;CAP)と病院の中で発症した院内肺炎(hospital-acquired pneumonia;HAP)の2つに大きく区別していた.背景や治療方針などが大きく異なる2つの肺炎群それぞれに診療ガイドライン1,2)が作成され,診療の質の向上に貢献するとともに,学術的な基盤としても一定の効果をあげてきた.一方で,これらにうまく分類できない肺炎群があることも問題点として指摘されていた.つまり,基礎疾患をもつ患者や入退院を繰り返す高齢者,介護施設入所者などに起こる肺炎が新たな概念として医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-

associated pneumonia;NHCAP)と定義づけされ,2011年8月に診療ガイドライン3)が公表された.わが国の医療状況に照らし合わせてみると,それぞれの肺炎は,主に図1に示すような領域の患者を対象としている.患者状態や耐性菌の関与の側面からも,NHCAPはCAPとHAPの中間的な位置づけであるが,明確に分類できないこともある(図2).

 本稿では,各診療ガイドラインの患者背景,診断・治療の考え方などを中心に解説する.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・5

AACCの動向

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.543 - P.546

1.はじめに

 国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine;IFCC)など国際的な組織に引き続き,今回は,米国臨床化学会(American Association for Clinical Chemistry;AACC)を紹介する.AACCは1948年,IFCCの4年前に米国の国内学会として設立されている.世界の臨床検査領域に大きな影響を与えているこれらの2つの組織は,ほぼ同じ時期に設立されていることになる.1952年に設立されたIFCC創設にはフランス,オランダ,スカンジナビア,米国が関与したといわれているので1),AACCがIFCC設立に組織としてかかわっていた可能性がある.以来,今日までに,臨床検査医学領域ではもちろんのこと,医学・医療の領域での両組織の貢献は非常に大きいものがある.

 IFCCは参加各国の学会から構成される組織,“International Federation”であり,各国から1学会だけがメンバーとして参加でき,個人はメンバーにはなれない.一方,AACCは通常の学会であり,個人会員から構成されている.

 “American”Association for Clinical Chemistryの本部は首都ワシントンにあり米国の臨床検査医学に関する学会組織であるが,“国際学会”としている点がいかにも米国的である.AACCの個人会員には国籍を問わず世界中の誰でもなることができ,現在では110か国以上から約9,000人の人々が会員になっている.AACCが“国際学会”と謳っているゆえんでもある.

シリーズ-検査値異常と薬剤・25

―投与薬剤の臨床検査値への影響―悪性腫瘍治療薬

著者: 片山善章 ,   澁谷雪子 ,   米田孝司

ページ範囲:P.547 - P.557

はじめに

 悪性腫瘍治療薬は,作用機序などから①アルキル化剤②代謝拮抗剤③植物アルカロイド④抗菌薬⑤白金錯体⑥ホルモン類⑦その他,に分類される.

検査の花道・5

技師として母として奮闘中

著者: 山中明美

ページ範囲:P.558 - P.559

はじめに

 臨床検査技師として綜合病院社会保険徳山中央病院検査部に入職して13年.気がつけば中堅と呼ばれる位置にきてしまいました.

 そもそも,私が臨床検査技師という職業を選んだ理由は不純なものでした.将来を見据え大学進学に向けて掲げた絶対条件は,手に職をつけられること! 推薦で受けられること! という2点.その条件を満たすべく私の大学探しはスタートしたのですから.いくつか取り寄せたパンフレットの中から,白衣を着て試験管を手にする姿を見て直感的に“これだ!”と思い,このとき初めて臨床検査技師という名を知ったにもかかわらず進学先を即決.同時に,私の臨床検査技師への第一歩が踏み出されたのでした.

編集者への手紙

血清アミノトランスフェラーゼ(AST,ALT)と中性脂肪水解酵素との関連性について

著者: 小林正嗣

ページ範囲:P.560 - P.563

1.はじめに

 既述1,2)のように,血清アミノトランスフェラーゼ〔アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase;AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase;ALT)〕の増加は,通常,主にヒトの生存に必須の中性脂肪水解酵素〔肝性トリグリセリドリパーゼ(hepatic triglyceride lipase;HTGL),リポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase;LPL),アディポーズトリグリセリドリパーゼ(adipose triglyceride lipase;ATGL),およびホルモン感受性リパーゼ(hormone-sensitive lipase;HSL),表1〕などの酵素蛋白の産生に伴うものであることが考えられる.

 本稿では,このことを改めて一仮説として提唱する.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.456 - P.456

欧文目次

ページ範囲:P.457 - P.457

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.458 - P.458

「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.496 - P.496

書評 ティアニー先生のベスト・パール

著者: 松村真司

ページ範囲:P.524 - P.524

 指導医が学生・研修医のプレゼンテーションを聞きつつ,ホワイトボードに鑑別診断を記入していく.現在,わが国の外来カンファレンスではおなじみの光景であるが,そのルーツはティアニーかもしれない.

 筆者が研修を行った病院にティアニーが臨時講師として滞在したときのカンファレンスで,ホワイトボードいっぱいに病歴や身体所見のキーワードをマーカーで書きとどめつつ,思考回路をひもとくその姿を初めて見たときの衝撃は忘れられない.病歴や身体所見の情報をプレゼンターとの絶妙のやりとりで次々と引き出していく.プレゼンターから出てこない鑑別診断を加えながら,情報のピースを組み合わせ,症例をひもといていくプロセスはエキサイティングですらあった.

次号予告

ページ範囲:P.557 - P.557

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.563 - P.563

投稿規定

ページ範囲:P.565 - P.565

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.566 - P.566

 今年は春一番が吹かぬまま春分の日を迎えることになりましたが,そうは言っても,これからは昼間のほうが夜よりも長くなり,空の青さも何となくぼんやりとした春色に変わっていきそうな気配です.この季節,日本のあちこちで卒園式,卒業式が行われ,続いて入園式,入学式,入社式が待っています.年度の変わり目は沢山の別れと出会いがありますが,視点を変えれば,私たちにとって新しい希望と発展の季節でもあります.読者の皆さまもまた,職場を変わられる方,役職の変わられる方,あるいは退職される方など,様々なお立場で年度の変わり目を迎えていらっしゃることと存じます.雑誌「臨床検査」におきましても,本号から新しい連載企画が始まるなど,少しずつではありますが,成長を続けており,私ども編集委員一同も,また新たな希望と期待を胸に,年度の変わり目を迎えているところであります.

 本号の主題には「成長と臨床検査値」(企画:戸谷誠之先生)を取り上げました.成長・発達の過程にある小児においては,月齢・年齢によって様々な臨床検査の正常値が変化することは,読者の皆さまであればよくご存知のことだと思います.そのため,多くのご施設では,臨床検査の報告に成人の正常値に関する記載は添えられていても,小児の正常値に関する記載はない場合がほとんどだと思います.臨床検査値のみならず,心拍数,呼吸数,血圧といった各種計測値についても月齢・年齢によって正常範囲は異なっておりますし,それ以外にも運動機能,言語機能など,小児の診療においては,成長・発達に関する要素を常に考慮しながら対応することが必要となります.本号では,臨床検査値の中でも,月齢・年齢による変化が特に大きいと考えられる,血圧,内分泌検査,末梢血検査,ビリルビン値やクレアチニン値などの生化学検査を取り上げ,成長の要素を考慮した臨床検査値の評価について,それぞれ専門家の先生方に解説していただきました.また本号をご企画いただいた戸谷先生のご司会のもと,北九州八幡東病院の白幡聡先生と新潟大学医歯学総合病院の内山聖先生にご登場願い,「成長期医療の変遷と臨床検査の対応」というテーマで,成長期にある小児医療の変遷とそれに対する臨床検査はどうあるべきか,臨床検査の果たす役割と意義は何か,という点について鼎談していただき,ご意見を伺いました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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