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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査56巻7号

2012年07月発行

雑誌目次

今月の主題 周産期の臨床検査 巻頭言

周産期の臨床検査

著者: 名取道也

ページ範囲:P.701 - P.702

 医療に携わる人は,どのような職種であれ,健康に関する相談をもちかけられることが少なくないと思われる.自分の受けた健康診断の結果について,罹患した病気についてなど,むしろ専門外の質問に回答しなければならないようなことも少なくないであろう.とりわけ妊娠は多くの人にとり身近に存在する現象である.妊婦やその周囲の人たちから漠然とした不安や検査の結果についての相談を受けることもある.その時にいかに正しい情報を伝えるかは重要な問題である.世の中にはいまだに間違っているばかりか有害な話がまことしやかに流れ,信じられている.“妊婦はあまり水を飲んではいけない”などはその良い例であろう.私たちは自分の専門とする分野については常にアップデートされた知識をもっている必要があるのは当然のことである.

 周産期に行われる臨床検査の対象は,妊娠中は母体と胎児であり,分娩後は母体と新生児となる.また母体も胎児/新生児も,多くの場合は健康診断のように,正常であることの確認や健康な状態から病的な状態へ変化する場合の早期発見を目的としている.しかし,いったん病的な状態に変化した場合には,急速に致命的な状況に達する場合もあり,通常の疾患とは異なる臨床像であることの理解が重要である.

総論

妊娠に伴う検査値の変化

著者: 石本人士

ページ範囲:P.703 - P.710

妊産婦から得られた臨床検査データを正しく理解するためには,妊娠による生理的変化の理解が不可欠である.循環血液量の増加,水血症,インスリン抵抗性増加,血液凝固亢進,内分泌系の変化などに特徴づけられる妊産婦に特有な様々な変化が,臨床検査データに反映される.これらの生理的変化は,①胎児を育てるために有利な環境整備,②分娩時の出血に対する備え,③妊娠維持あるいは分娩発来への準備などを目的としたものと考えられ,複雑で巧緻なメカニズムに支えられている.

新生児診療における血液検査データの解釈

著者: 長和俊

ページ範囲:P.711 - P.716

新生児の血液検査データに対しては,新生児に特異的な病態生理の理解に基づいた解釈が必要である.ヘモグロビンの大部分がHbFであり,酸素解離曲線が左方移動している.赤血球が大きく,白血球数の正常値は日齢により異なる.早産児では末梢血中に未熟な白血球と有核赤血球が観察される.蛋白合成能を反映するアルブミン濃度は低く,解毒能を反映するビリルビン濃度は高い.生理的な状態では血中のHp,IgM,IgA,アミラーゼは極端な低値である.血液型の判定は表試験のみから行う.交差試験では,経胎盤的に母体から移行した同種抗体の影響を想定する.

妊産褥婦における血液凝固線溶系の変化

著者: 杉村基

ページ範囲:P.717 - P.722

妊娠,分娩,産褥期は産科DICや深部静脈血栓肺塞栓症といった産科救急が発生しやすい.日常臨床において凝固線溶系臨床検査は,その病態把握のために重要な役割を演じている.しかしながら,妊娠,分娩,産褥期は凝固線溶能が非妊時と比較して変化しており,各凝固線溶マーカーでは大きく変動しているものもある.そのため,こうした変動を理解したうえで臨床検査結果を解釈する必要がある.

周産期感染症の診断法―トキソプラズマを中心として

著者: 小島俊行 ,   鈴木研資 ,   杉浦由紀子 ,   小西久也 ,   森田一輝 ,   武家尾舞子 ,   板橋香奈 ,   中林稔 ,   髙田恭臣 ,   中山裕敏 ,   柿木成子 ,   中田真木

ページ範囲:P.723 - P.729

母子感染は,妊娠中の初感染時に胎児に重篤な障害を生じることが多い.トキソプラズマの母子感染については,産科特有の初感染時期の診断が非常に困難であったが,最近トキソプラズマIgG抗体のアビディティを測定することで,ある程度初感染時期が推定できるようになった.本稿では,トキソプラズマ諸抗体とアビディティの特性・意義につき概説する.

各論

胎児超音波スクリーニングのポイント

著者: 谷垣伸治 ,   松島実穂 ,   片山素子 ,   宮崎典子 ,   橋本玲子 ,   岩下光利

ページ範囲:P.731 - P.740

胎児超音波検査は,発育の確認,形態異常の診断,well-beingの評価を目的とし,スクリーニング検査は,精査例を抽出する検査である.検査は,妊娠20週および30週前後の2回施行し,形態異常抽出の感度は,胎児計測に11項目を加えた観察項目で87.4%であった.その項目は,胎児発育遅延,頭部(頭蓋骨が丸くない,midline echo,10mmルール),胸部(心臓以外の低エコー領域),心臓(内臓錯位,心四腔断面像,3 vessel view),腹部(胃と膀胱以外の囊胞像,腹部周回長<-2SD),大腿骨長<-2SD,脊椎の凹凸,羊水量,単一臍帯動脈である.スクリーニング検査を行うには,精査の容易な受診とカウンセリング可能なシステムの構築,精査施設とスクリーニング施設間の密な情報交換が必須である.

胎児の心臓超音波検査―超音波技師によるスクリーニング普及をめざして

著者: 川滝元良

ページ範囲:P.741 - P.748

胎児心スクリーニングの普及により4CVで左右のアンバランスの明らかな重症心疾患は数多く胎児診断されるようになっている.しかし,完全大血管転移,大動脈縮窄・離断,総肺静脈還流異常の胎児診断率は低く,今後に残された課題である.これらの疾患の胎児診断率向上のためには3VV,3VTVのスクリーニングをすすめること,超音波技師による胎児スクリーニングをすすめることが大切と考える.

新・妊娠糖尿病診断基準と今後の展開

著者: 宮越敬 ,   松本直 ,   峰岸一宏 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.749 - P.754

2010年,IADPSGより「妊娠時の糖代謝異常に関する新基準」が提唱された.このなかでは,“妊娠糖尿病”と“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”は,定義および診断の点で区別された.わが国はいち早くIADPSG新基準を採用したが,経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)における基準改定に伴い臨床の場では妊娠糖尿病と診断される妊婦が急激に増加している.妊娠糖尿病例,特にOGTT1点異常例の費用対効果に基づく適切な管理法の検討が必要である.

早産に関連した臨床検査

著者: 金山尚裕

ページ範囲:P.755 - P.760

早産関連の体液を用いた生化学的マーカーには,腟内や頸管の浸出液を用いて行う前期破水の診断マーカーと非破水例に用いる早産マーカーがある.前者はαフェトプロテイン,IGFBP1が代表的マーカーであり,後者には頸管内顆粒球エラスターゼと癌胎児性フィブロネクチンがある.頸管内顆粒球エラスターゼは絨毛膜羊膜炎の前段階の頸管炎の診断に有用であり,癌胎児性フィブロネクチンは絨毛膜に存在することから絨毛膜の炎症や伸展刺激で検出される.進行した絨毛膜羊膜炎では母体血清中のCRPも特異性は低いが有用である.絨毛膜羊膜炎の進行度の判定に使用できるマーカーは,保険適用されていないが,羊水中の顆粒球エラスターゼ,MMP-8などがある.

妊娠高血圧症候群の発症予知マーカー

著者: 竹中慎 ,   関沢明彦 ,   小出馨子 ,   岡井崇

ページ範囲:P.761 - P.769

妊娠高血圧症候群(PIH)の発症の主な原因は,妊娠初期における胎盤形成不全による絨毛細胞傷害,そして絨毛細胞および各種生成物質の母体血中への流入,それらの物質による母体血管内皮細胞障害であると推測されている.母体へ流入する物質は,絨毛細胞由来cell-free DNA,血管新生関連因子,それをコードするcell-free RNA,絨毛細胞と絨毛細胞内のcellular RNAなど様々である.臨床症状が出現するかなり前からPIHの病態は完成されているため,これらの物質は妊娠初期から母体血中に流入している.早期からのこれらの物質の濃度などの変化を検出することでPIHの発症予知が可能である.

話題

新しい新生児マススクリーニング:タンデムマス法について

著者: 山口清次

ページ範囲:P.770 - P.776

1.はじめに

 新生児マススクリーニングとは,知らずに放置するとやがて重大な健康被害の起こるような代謝疾患を,発症前に発見して障害を予防する事業である.わが国では1977年から全国的に開始され,これまでに約4,300万人の新生児が検査を受け,1万人以上の小児が障害から免れたと考えられている1,2)

 新しいスクリーニング検査技術として,最近“タンデムマス法”が開発され普及しつつある3,4).タンデムマス法では,1回の検査で多数の疾患をスクリーニングできるため,小児の障害予防事業を拡大できる技術として普及しつつあるので,現状を紹介したい.

胎児心電図の新展開

著者: 佐藤尚明 ,   木村芳孝 ,   八重樫伸生

ページ範囲:P.777 - P.783

1.はじめに

 胎児心電図(fetal electrocardiogram;fECG)とは何か.周産期の臨床検査として今まで聞いたことがないという読者がほとんどと思われる.fECGは新しい胎児心拍数モニタリング検査法(note参照)として,いかにして胎児の元気さ(well-being)の正確な診断を行うかという産科医にとっての重要課題に対する,新しい診断ツールとなりうる可能性を秘めた検査法である.

 本稿ではまず胎児心拍数モニタリングの歴史と,新しいfECG装置開発の経緯について説明する.そのうえでfECG検査法の実際と得られたデータについて紹介し,これからの胎児管理への新展開についても言及したい.

尿ステロイドプロファイルによる新生児副腎皮質機能評価

著者: 三輪雅之

ページ範囲:P.784 - P.787

1.はじめに

 新生児の副腎皮質機能を正確に評価することは非常に困難である.これは新生児の副腎皮質の構造そのものが成人と大きく異なっていること,現在,多用されている検査法では測定の信頼性が低いことに起因する.近年の検査法の発展により質量分析法を用いた解析が可能となり,新生児でも信頼性の高い検査が可能となった.

 本稿では新生児の副腎の特徴および質量分析計を用いた尿ステロイドプロファイルについて解説する.

あいまにカプチーノ

授業風景―今と昔

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.730 - P.730

 もう30年も前のことになる.小学生の長女の授業参観でのことである.このとき見聞きした中で今でも忘れられないことがある.ひとつは,教室に教壇がなかったこと.もうひとつは,担任の先生の口のきき方である.生徒に対して友達口調で話していた.自分の小学生だった頃の体験とは大きなギャップであった.昔は良かった……と言うつもりもないが,この違和感は私の中ではいまだに釈然としないかたちで残っている.

 ところで,私は大学時代を学園闘争期におくった.病理医・病理学研究者としてのキャリアの前半は民間の財団の研究所に籍をおいていたため,教育現場とは無縁であった.しかし40代前半のあるとき,国立大学に招聘され,以後は教育を主務とする立場にたった.その頃はどこのキャンパスでも学園闘争の痕跡はすべて風化しており,大学受験最難関のこの学部であっても,社会に対する意識はこの程度かと思われるような学生を相手にすることになった.

INFORMATION

UBOM(簡易客観的精神指標検査)技術講習会・2012

ページ範囲:P.788 - P.788

 臺 弘先生の提唱による簡易客観的精神指標検査(Utena's Brief Objective Measures;UBOM)は,精神活動を情報受容・意思・行動・観念表象という機能の視点から,簡易かつ客観的に評価するための精神生理学的検査バッテリーです.この検査結果を患者さんと共有することにより治療を組みたてる共通の土台とすることができます.UBOM検査は精神科医療にかかわる各職種のスタッフが実施することができます.

日 時:2012年7月28日(土)13:00~17:00

    (終了後懇親会を予定)

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・3

急性中耳炎

著者: 工藤典代

ページ範囲:P.789 - P.795

はじめに

 急性中耳炎は小児,特に乳幼児が罹患しやすい上気道炎の1つである.夜間に耳痛を訴え子どもが突然泣きだした後,朝になって耳漏が出ていたのに気がついたということを,子どもをもつ親ではよく耳にし,経験することもある.欧米の報告によると急性中耳炎は生後1歳までに62%,生後3歳までに83%が少なくとも一回は罹患するとされているありふれた中耳の感染性疾患である.

 治療は,数年前までは各診療医それぞれの判断に任されていた.すなわち,抗菌薬の選択や鼓膜切開などの判断は各診療医にゆだねられていた.

 しかし,第3世代セフェム薬が広汎に使用されるようになった1990年代から,急性中耳炎の起炎菌である肺炎球菌とインフルエンザ菌において,抗菌薬に対する耐性菌が急激に増加し,急性中耳炎にも治りにくい症例や入院治療を要する症例の報告が相次ぐようになった1,2).そのような背景から,本邦で初めて「小児急性中耳炎診療ガイドライン」3)が作成され,公表されたのは2006年3月であった.その後,2009年に改訂4)され現在に至っている.

 本稿では,ガイドラインからみた急性中耳炎の診療について述べる.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・7

JSLMの動向―標準化委員会の活動を通して

著者: 石橋みどり ,   小宮山靖 ,   古田耕

ページ範囲:P.796 - P.799

1.はじめに

 本稿の役割は,日本臨床検査医学会(Japanese Society of Laboratory Medicine;JSLM)およびその周辺領域での標準化にかかわる動向を読者に簡潔に提供することにある.具体的には,学会内の一組織としての標準化委員会の活動の紹介を通して上記の情報を提供することになる.最近の標準化委員会の活動は,学生用基準範囲の設定と治験領域における臨床検査の標準化である.活動の成果は,すでに文書1)として報告されており,詳しくはそちらを参照されたい.

検査の花道・7

働く人への臨床検査

著者: 澤律子

ページ範囲:P.800 - P.801

はじめに

 医学書院の雑誌「臨床検査」を,毎月読むことが楽しみだった.およそ30年も前,学生のころのことである.病院での臨床検査業務をへて現在は財団法人日本予防医学協会で人事・人材育成・品質管理の仕事をしているが,いま現在も私自身が臨床検査技師である自負と仕事の乖離はなく,人生とは不思議なものだと感じている.

研究

新規開発培養チャンバーを用いた物理的圧迫によるHUVEC細胞骨格への影響

著者: 庄野正行 ,   北村光夫 ,   小中健 ,   川添和義 ,   水口和生

ページ範囲:P.803 - P.805

 内皮細胞は機械的な圧迫刺激にさらされている.しかし,曝露が内皮細胞機能にどのような影響をもたらすか十分理解されていない.そこで,筆者らは正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を3日間培養し,機械的な圧迫状態にできる還流培養チャンバーを開発し,顕微鏡下で37℃,150mmHgの機械的圧迫状態を観察しながら,30分間培養した.その後,4%PFAで固定し,ファロイジンでアクチン染色を行い,その形態変化を蛍光顕微鏡で撮影後検討した.その結果,機械的圧迫状態で30分間処理したHUVEC細胞内アクチンは,対照に比べて太さと数が増加していることを示唆した.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.698 - P.698

欧文目次

ページ範囲:P.699 - P.699

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.700 - P.700

「検査と技術」7月号のお知らせ

ページ範囲:P.716 - P.716

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.788 - P.788

次号予告

ページ範囲:P.802 - P.802

投稿規定

ページ範囲:P.807 - P.807

あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.808 - P.808

 ゴールデンウィークの最終日を襲った竜巻は,私の勤め先があるつくば市に甚大な被害をもたらしました.昨年の震災に続き,自然の猛威を思い知らされると同時に,平穏であれば失われることのない命が予期せず奪われていくことに,やるせない哀しみを感じました.本号が読者のみなさまのお手元に届くのは,豪雨に伴う自然災害が発生しやすい梅雨から夏へむかう時期かと思います.今年の夏も節電に悩まされなければなりませんので,せめて平穏無事に新しい季節を迎えられるようにと願っています.

 さて,本号では周産期をテーマとして取り上げました.本来,妊娠,出産は大変めでたいことです.誰もが新たな命が誕生することを嬉しく思い,心待ちにします.自然の摂理だとしても,失われることなど予期しません.それゆえ,誕生するべき命が失われるようなことになると,はかり知れないほどの深い哀しみと怒りが生じます.自然災害の場合と同じです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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