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雑誌目次

論文

臨床検査56巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

今月の主題 間質性肺炎と臨床検査 巻頭言

間質性肺炎という疾患群とその診断

著者: 徳田均

ページ範囲:P.935 - P.936

 間質性肺炎とは,肺の間質(主に肺胞隔壁)に病変の主座をおく炎症性疾患の総称である.細菌,ウイルスなどの微生物により惹起され,肺胞腔(肺の実質)をその主座とする通常の肺炎に対置される概念である.多くは内因性,もしくは外来性因子に対する宿主の異常な免疫反応によって生じると考えられているが,その原因,病態などは未解明の部分が多い.

 間質性肺炎は,原因を特定し得ない特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia;IIPs)と呼ばれる一群の疾患と,膠原病性,薬剤性,過敏性など原因を措定しうる二次性間質性肺炎とに大別される.しかし両者の区別はそれほど確定したものではなく,特発性と思われていた例が後に膠原病を発症し,二次性と判明することは以前からよく知られていたし,また特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)とされてきた中に慢性過敏性肺炎が含まれていることがわかり,分離されるようになったことも最近の進歩である.したがって,IIPsと診断される疾患の範囲は,今後検査技術のさらなる進歩により,次第に狭まってくることも予想される.

総論

特発性間質性肺炎と膠原病性間質性肺炎―その類似性と相違点

著者: 近藤康博

ページ範囲:P.937 - P.944

特発性間質性肺炎(IIPs)とは,原因を特定しえない間質性肺炎の総称であり組織分類を主体に7つの疾患に分類されている.IIPsの中で,特発性肺線維症は最も多く,症状出現から中間生存期間が3~4年と予後不良で,他疾患との鑑別が重要である.膠原病に伴う間質性肺炎における組織分類については,IIPsでの分類に準じて行われているのが現状である.組織型ではNSIP patternが最も多く,IIPsと比較して多彩な組織所見を呈する場合があり,IIPsと異なり組織分類の予後推定における有用性は明らかではない.また,膠原病の疾患ごとでの間質性肺炎の特徴も報告されている.予後不良の病態を含む特発性,膠原病性の間質性肺炎に対する,治療戦略のさらなる検討が必要である.

薬剤性肺炎と過敏性肺炎

著者: 土肥眞

ページ範囲:P.945 - P.951

薬剤性肺炎と過敏性肺炎は,いずれも外来性の物質を抗原と認識した個体により引き起こされ,その病態にはアレルギー・免疫学的機序が深く関与している.前者ではさらに,肺胞上皮細胞・血管内皮細胞に対する障害が加わる場合がある.検査所見では非特異的な炎症マーカーの上昇を示すことが多い.リンパ球刺激試験の有用性については,現在でも検討が進められている.過敏性肺炎では,血清の特異抗体価が診断上有用である場合があり,今後の発展が期待される.近年,前者では抗癌剤や抗リウマチ薬による急性肺障害が,後者では不顕性の鳥関連過敏性肺炎が,臨床的に問題となっている.治療上重要なことは,これらの疾患の可能性を疑い,被疑薬を中止することや抗原から隔離することである.

間質性肺炎の画像診断―IIP(IPF,NSIP,COP)を中心に

著者: 髙橋雅士 ,   村田喜代史

ページ範囲:P.953 - P.961

比較的遭遇する頻度の高いIIP(IPF,NSIP,COP)の画像所見をレビューし,また,間質性肺疾患の画像診断の今後の課題についても触れた.multidisciplinary approachの中で,HRCTは重要な診断的手法であり,その典型像を背景の病理学的所見とともに理解しておくことが重要である.

各論

気管支肺胞洗浄

著者: 田坂定智

ページ範囲:P.962 - P.967

気管支肺胞洗浄(BAL)は気管支鏡を用いて気道内に生理食塩水を注入・回収することにより,肺胞領域や末梢気道に存在する炎症細胞や液性因子についての評価を行う検査法である.間質性肺炎では炎症細胞の増多がみられるほか,病型によってリンパ球や好中球などの比率の増加が認められる.また液性因子として炎症性サイトカインやケモカイン,増殖因子の増加がみられ,病態との関連が考えられるが,臨床応用はなされていない.画像診断の進歩により今日BALは診断補助的な位置づけになっているが,マイクロアレイによる遺伝子解析やプロテオーム解析といった技術の革新により,診断や病態評価において再び重要な役割を担うことが期待される.

外科的肺生検

著者: 友安浩 ,   山中澄隆

ページ範囲:P.968 - P.971

外科的肺生検には開胸術によるものとビデオ補助下胸腔鏡によるものと2つの方法がある.現在では後者による方法が多く,強固な癒着のある症例で稀に前者が行われる.生検前にHRCTにて生検部位を決定し,病変の明らかな部位とまだ病変のはっきりしない部位の少なくとも2か所を部分切除する.検体を処理する際にはステイプルを切り取りホルマリンを注入し,1日固定したのちパラフィン切片とする.この後,HE染色などを行い鏡検し,各種の間質性肺炎と診断する.気管支鏡下肺生検に比べて病理組織診断に必要な検体がこの方法で得られる.

血清マーカー

著者: 新井徹 ,   井上義一

ページ範囲:P.972 - P.978

KL (Krebs von den Lungen)-6,SP (surfactant protein)-D,SP-Aは間質性肺炎の血清マーカーとして知られ,特発性間質性肺炎を中心にその有用性が検討されてきた.これらの血清マーカーは特発性間質性肺炎の診断,予後や治療反応性の推定に有用である.各血清マーカーの変動には乖離を認める場合があり,今後,検討を要すると考えられる.

間質性肺炎の呼吸機能検査

著者: 巽浩一郎

ページ範囲:P.979 - P.983

間質性肺炎の呼吸機能的特徴というと,拘束性換気障害(肺活量の低下),動脈血酸素分圧の低下,肺拡散能の低下になる.呼吸機能検査所見のみから,間質性肺炎の病態評価はできない.間質性肺炎の診断は画像所見,病理所見で下される.しかし画像・病理所見のみでは,患者の臨床症状(労作時呼吸困難など)を含めた肺全体の機能の把握はできない.間質性肺炎患者のQOLおよび予後には,呼吸機能が大きく関与している.①%FVC,%DLcoの低値,②%FVC,%DLco,AaDO2の経時的変化,③6分間歩行距離,労作時SpO2低下の程度,④肺高血圧症の存在,⑤労作時呼吸困難の程度,など呼吸機能指標を,画像・病理所見とともに把握する必要がある.

薬剤性肺障害の診断におけるDLST

著者: 安井正英

ページ範囲:P.984 - P.989

薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は,わが国では広く薬剤性肺障害(DILD)の診断に用いられてきた.しかし,薬剤とDILDの関連性を評価するためには,薬剤負荷試験(DCT)が最も信頼できる方法である.筆者らは,DLSTとDCTの関連性を検討したが,DLSTの結果とDCTの結果には関連性がなかった.さらに,DLSTの偽陽性あるいは偽陰性のために真実が見逃される可能性があり,DILDにおけるDLSTの解釈には注意が必要である.

過敏性肺炎の免疫学的検査

著者: 宮崎泰成 ,   須原宏造 ,   稲瀬直彦

ページ範囲:P.990 - P.996

過敏性肺炎は環境中の抗原〔動物由来の蛋白(鳥排泄物など),真菌/細菌,あるいは無機物(イソシアネートなど)〕が原因のアレルギー性間質性肺炎である.したがって,その診断には免疫学的検査が必要である.病歴,身体所見および画像所見から本症の可能性がある場合には,特異抗体,リンパ球刺激試験,吸入誘発試験を行う.特異抗体検査は簡便な検査で,急性症例では感度特異度も十分で診断に有用である.しかし,慢性症例では感度は不十分でリンパ球刺激試験や吸入誘発試験の結果を合わせて診断する必要がある.

話題

抗癌剤による間質性肺炎

著者: 齋藤好信 ,   弦間昭彦

ページ範囲:P.997 - P.1000

1.はじめに

 薬剤性間質性肺炎の原因薬剤として,抗癌剤は主要な薬剤である.致死的な間質性肺炎を起こすこともあるため,薬剤性間質性肺炎については常に念頭に置いておく必要がある.

生物学的製剤による間質性肺炎

著者: 桑名正隆

ページ範囲:P.1001 - P.1006

1.はじめに

 近年,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の診療体系は大きく変貌を遂げた.関節破壊とそれによる身体機能障害防止を目標に,できるだけ早期から薬物療法を開始し,疾患活動性を厳格にコントロールする治療理念が普及している.このような積極的治療の原動力は,アンカードラッグとしてのメトトレキサート(methotrexate;MTX)の定着とTNF(tumor necrosis factor)など病態にかかわる分子標的に対する生物学的製剤(note参照)の導入である.生物学的製剤は多くの例で炎症を沈静化し,関節破壊を防止することで生活の質を保つことが可能である.ただし,特定のサイトカインや免疫担当細胞を抑制することで免疫応答を修飾し,それに伴う副作用を誘発する可能性がある.特に呼吸器は主要な標的臓器となり,生物学的製剤投与下で時に重篤な事象が発生する.

 本稿では,生物学的製剤投与下で発症した間質性肺炎(interstitial pneumonia;IP)に注目し,その病態と対処法について解説する.

シクロスポリンの間質性肺炎治療への応用―その血中濃度測定の意義

著者: 田口善夫

ページ範囲:P.1007 - P.1010

1.はじめに

 Tolypocladium inflatum培養上清から抽出されたシクロスポリン(cyclosporin A;CsA)の免疫抑制作用はTリンパ球のIL(interleukin)-2産生抑制によるものとされていたが,最近ではアポトーシス関連作用をはじめ薬物排泄機能阻害,白血球遊走機能抑制など,多方面からの作用機序が報告されている.現在保険収載されている疾患は移植拒絶反応抑制,骨髄移植時の拒絶反応および移植片対宿主病の抑制からBehçet病,乾癬,再生不良性貧血,ネフローゼ症候群,などに適応が広がり,最近では特発性間質性肺炎1)をはじめとする種々の間質性肺炎に対する免疫抑制薬のひとつの選択肢として,使用されている.

あいまにカプチーノ

アルバムの整理

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.952 - P.952

 私は多くの方々と同様,特に海外旅行の場合にはカメラを持参しスナップ写真を撮っている.素人写真だがプリントすると愛着がわいてくるので捨てられず,すべてとっておくので後の整理が頭の痛いところである.プリントした写真やフィルムのネガの保管にはよい方法がなかなか見つからない.下手をするとたちまちにして,ただ置いてあるだけという事態におちいる.

 私は大学の卒業にあわせ,一気に写真を片づけた経験がある.それまではほとんどが国内で撮った写真であったが,すべてアルバムに納めていた.その中から厳選したものだけで新たなアルバムを作った.残りの写真とネガはすべて庭で焼却した.卒業の時期が結婚と重なったが,このことがインセンティブになった可能性はある.いずれにしても身辺はすっきりし,やればできると思ったものだ.

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・5

C型肝炎

著者: 荒瀬康司 ,   熊田博光

ページ範囲:P.1011 - P.1017

はじめに

 C型慢性肝炎・肝硬変では抗ウイルス療法により肝炎ウイルスが排除された際には肝炎は鎮静化し,非代償性肝硬変への移行,さらには肝癌発症が激減する1).ウイルスが排除された場合にはこのような肝病変の改善に加え,肝外病変としてC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)に関連した悪性リンパ腫の発生,糖尿病発症なども抑制される2,3).さらには栄養状態の改善などより骨折などの発症抑制がみられる4).このようにHCVが排除された際には,肝病変および肝外病変の改善により生命的予後も延長する.したがって現在のC型慢性肝疾患の診療に際しては,ウイルスを排除しうるか否かがまず第1に重要となる.したがってC型慢性肝疾患の治療ガイドラインとしてはウイルス排除を念頭に置いて記載されている.

 本稿では,2012年度のC型慢性肝炎・肝硬変のガイドラインにつき記載していく.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・9

日本医師会の動向

著者: 高木康

ページ範囲:P.1018 - P.1019

1.はじめに

 臨床検査における精度管理には,内部精度管理(internal quality control;IQC)と外部精度管理(external quality control;EQC)がある.内部精度管理は,精緻な検査データ,時系列での互換性を保証するために行われるが,時に系統的誤差の把握ができずに“真値”からのずれを見逃す可能性がある.また,“真値”が実証できない場合に,他施設とのデータの互換性,全国レベルでのデータの一致性を確保するために,精度管理調査〔いわゆる“サーベイ”,external quality survey;EQS,主として欧州では外部精度管理評価(external quality assessment;EQA)〕による外部精度管理が行われる.これには数施設で行う最も単純・簡易なクロス・チェックから,参加施設数が3,000を超える大規模調査まで様々である.

 本稿では,わが国最大級の大規模調査である日本医師会臨床検査精度管理調査(以下,日本医師会精度管理調査)について解説する.

検査の花道・9

海外派遣における臨床検査技師

著者: 堀野秀樹

ページ範囲:P.1020 - P.1021

はじめに

 臨床検査技師として活躍できる場は多岐に渡りますが,国際貢献として活躍できる機会はなかなか少ないのではないでしょうか.

 私は陸上自衛隊衛生学校,臨床検査技師養成所を卒業しました.卒業後は,臨床検査技師の資格を保有しつつ,陸上自衛官として勤務しています.その中でも2004年11月~2005年2月の間,イラク人道復興支援に参加できたことは大きな経験でした.

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「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.932 - P.932

欧文目次

ページ範囲:P.933 - P.933

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.934 - P.934

「検査と技術」9月号のお知らせ

ページ範囲:P.961 - P.961

次号予告

ページ範囲:P.967 - P.967

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1006 - P.1006

書評 生理検査学・画像検査学

著者: 齋藤憲

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 本書は臨床検査技師を目指す学生向けに書かれた教科書「標準臨床検査学シリーズ」の改訂第1弾であり,『生理検査学・画像検査学』で学習する広範な生理系検査学領域の内容が「臨床検査技師国家試験出題基準(平成23度版)」に基づき,系統的に要領よくまとめられている.

 今回の改訂では,各章の始めに「学習のポイント」,各項の始めに「本項を理解するためのキーワード」が箇条書きにされており,「サイドメモ」も利用して本文中の専門用語の平易な解説を行うなど,多岐に渡る『生理検査学・画像検査学』の検査内容が無理なく学習できるような工夫が随所にみられている.また,より鮮明となった多色刷り印刷(2色刷り,一部カラー印刷)の効果も加わり,前版に比べて非常に読みやすくなったというのが本書を一読したときの第一印象である.

投稿規定

ページ範囲:P.1023 - P.1023

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 本特集の中で,急性の夏型過敏性肺炎の発症は7,8月がピークとの記載があります.この夏,このような病気が流行らなかったことを祈ります.個人的には私も毎年,梅雨から夏にかけて,あちらこちらが痒くなる皮膚疾患?(ちゃんと診断されていない)があり,苦手な季節です.

 さて,検体検査が専門の私にとって,当初,肺疾患においては検体検査の出番は少ないというイメージでした.最初に強い印象を持ったのはKL-6でしょうか.その後,サーファクタント関連蛋白,肺胞洗浄液の解析など,続々と魅力あるテーマが登場してきたことを思い出します.しかし,これは私が浅学だったかもしれませんが,本特集にみられるような過敏性肺炎の対応抗原に対する抗体検査がある程度ラインナップされていることは知らずにきました.これらは実際,検査の教科書でみかけることが少ないものです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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