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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査57巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

今月の主題1 臨床検査の展望

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.5 - P.5

 「臨床検査」誌のリニューアルを飾る企画として,各領域のエキスパートに臨床検査の近未来を展望していただきました.

 昨年暮れからのiPS細胞をめぐる話題でも明らかなように,医学研究の進歩は実地医療に直結します.特に最近は治療の進歩がめざましく,それに牽引されるように診断の充実が求められる傾向にあります.臨床検査においても,今後は耳慣れない,または基礎的背景の理解が難しいものが登場してくることでしょう.項目の充実はもちろんのこと,既存の検査でもそれを進歩する診療に有効に活用させるというサービス面の充実も要求されていくでしょう.

血液検査

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.6 - P.11

■血液検査の展望は,特殊性を問われる血液検査において,世界的標準化基準と照らし合わせながら,日本の標準化を進めることと思われる.そのためには,日本検査血液学会の担う役割は大きく,認定血液検査技師制度や骨髄検査技師の普及が望まれる.

■世界の血液検査の標準化活動は,欧州発祥の国際血液学標準化協議会(ICSH)と米国発祥の臨床・検査標準協会(CLSI)の協力で推進されつつある.

■血液検査の用語や単位や基準値の設定は,世界規模で統一されるべきであり,異型リンパ球がなくなり反応性リンパ球と統一される日も近いかもしれない.

生化学・免疫検査

著者: 前川真人

ページ範囲:P.12 - P.16

■治療に直結する臨床検査,未病での医療・予防医学に対応できる臨床検査の実現を目指す.

■新規バイオマーカーの探索と,その適正な臨床活用,画期的な測定法や機器の開発,低侵襲の検体を用いた検査と低侵襲の検体採取法の開発が必要である.

■いつでも,どこでも測定結果が同じで,評価が同じ,すなわち測定の標準化・ハーモナイゼーションは重要な課題である.明日の臨床検査を産み出すシステムの構築と実践を検討していくべきである.

微生物検査

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.17 - P.24

■従来の検査を整理し,新しい検査との融合を図ることが必要である.

■新しい検査として,全自動遺伝子検査装置と質量分析計による検査の有用性を紹介する.

■感染制御のための検査とデータの提供が,今後は増加する.

■微生物検査のトレーニングには,教育プログラムの活用が有用である.

病理検査

著者: 土屋眞一 ,   松原美幸 ,   大橋隆治

ページ範囲:P.26 - P.33

■病理検査には組織・細胞診標本作製にかかわる“病理学的検査”と,これらの標本を顕微鏡を用いて診断する“病理診断”の2つがある.

■2008年の厚生労働省令により,病理検査は「第3部 検体検査」から「第13部 病理検査」として独立した.さらに標榜診療科として“病理診断科”が新しく認定され,診療報酬も標本作製料と病理診断料の2つに分けての算定が可能となってきた.

■現在,病理診断そのものも免疫組織・細胞化学的および分子病理学的手法が欠かせないものとなってきており,加えて液状化検体細胞診や遠隔診断の導入,自動化,病理検査にかかわる資格認定の必要性が叫ばれてきている.

輸血検査

著者: 三島由祐子 ,   大河内直子 ,   松橋美佳 ,   名倉豊 ,   曽根伸治 ,   津野寛和 ,   高橋孝喜

ページ範囲:P.34 - P.40

■輸血療法は,根治療法ではなく補充療法であるが,感染症の伝搬および免疫学的副作用のリスクを伴う.特に,輸血過誤などの不適合輸血を防止することが肝要であり,そのための輸血管理・輸血検査を確実に実施することが強く求められている.

■血液型検査においては,血清学的検査との併用によってより客観的な結果が得られる遺伝子検査が,輸血製剤供給においては,検体の有効利用,経費削減が可能なT&Sが,今後重要になってくると考えられる.また輸血後副作用については日本赤十字社とも連携し,徹底した報告・原因究明体制を作る必要がある.

■2012年4月の診療報酬改訂により,輸血管理施設基準を満たしていれば,輸血管理料Ⅰ(220点/患者/月)またはⅡ(110点/患者/月)が請求でき,それに加え,適正使用基準を達成すれば,輸血適正使用加算Ⅰ(120点/患者/月)またはⅡ(60点/患者/月)が追加加算される.

遺伝子関連検査

著者: 登勉

ページ範囲:P.41 - P.50

■遺伝子検査の定義や分類は確定していないが,本邦では,病原体遺伝子検査,ヒト体細胞遺伝子検査,ヒト遺伝学的検査の3つに分類し,遺伝子関連検査と総称している.

■日本衛生検査所協会のアンケート調査報告では,保険収載された項目の受託件数が非常に増加しており,特に,悪性腫瘍遺伝子検査やPGx検査の伸びが顕著である.この傾向は,個別化医療が日常診療の場で実践されつつあることを示唆している.

■医療目的以外にも,遺伝子検査が消費者向け遺伝子検査サービスとしてインターネットを介して提供されている.個人ゲノムの解読が安価に提供されるようになれば,これらの情報を“個人に合った有効で安全な医療を提供する”という本来の目的に活用するための方策が重要になる.

生理機能検査

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.51 - P.56

■検査機器が進歩してデータ管理は省力化できるようになったが,患者説明など省力化が困難な部分も残されている.

■今後も検査範囲の拡大と項目の増加は続くと思われ,新しい知識の学習と新人への教育に努力が必要である.

■男性技師の業務制限や出産・育児による同僚技師の業務負担増をどう乗り越えるかが課題である.

■報告書の多い生理検査にとって電子カルテは有用だが,高い経費を考慮する必要がある.

今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.57 - P.57

 わが国においては,秋から春にかけて,毎年ノロウイルスやロタウイルスによるウイルス性胃腸炎の流行が認められます.ノロウイルスは食中毒の原因としてもよく知られていますが,医療関連施設などにおけるヒト-ヒト感染による施設内流行が問題となる場合が多く,施設内感染防止対策の重点項目となっています.ロタウイルスは小児の胃腸炎の主要な原因であり,毎年多くの乳幼児が入院治療を受けていますが,臨床的には重症の脱水や脳炎・脳症の合併が問題となっています.どちらのウイルスも,吐物や糞便がヒト-ヒト感染の感染源となる点,迅速診断法により診断可能である点が共通していますが,ロタウイルスについては最近ワクチンが導入され,その効果が期待されています.

 本号では,ウイルス性胃腸炎の流行期を迎え,その診断と対策を見直すための最新の情報を提供します.

ウイルス性胃腸炎の疫学

著者: 中込治 ,   佐々木絵理子 ,   中込とよ子

ページ範囲:P.58 - P.64

■胃腸炎ウイルスは,先進国と発展途上国とを問わず,急性胃腸炎の主要な原因病原体であり,5歳未満児の下痢症死や下痢症入院の大半の原因になっている.

■ヒトに急性胃腸炎を起こすことが確立しているウイルスには,ロタウイルス,ノロウイルス,ヒトアデノウイルスF,ヒトアストロウイルス,サポウイルスの5種類が知られており,このほか,アイチウイルスが胃腸炎の原因ウイルスとして有力視されている.

■ウイルス性胃腸炎は,原因ウイルスにかかわらず,よく似た臨床症状をあらわす.

■最も重要なウイルス性下痢症の原因であるロタウイルスの予防には,経口弱毒生ワクチンが有効であり,わが国でも接種が開始されている.

ウイルス性胃腸炎の検査・診断

著者: 沖津祥子 ,   牛島廣治

ページ範囲:P.65 - P.72

■ウイルス性胃腸炎の主たる起因ウイルスとして,ロタウイルス,ノロウイルス,ヒトアデノウイルスがあるが,その他にも多数のウイルスが検出されている.

■ロタウイルス,アデノウイルス検出には免疫イムノクロマト(IC)法のキットが市販されており,感度,特異性も高い.

■ノロウイルスのICキットも開発が進んできたが,ウイルスの変異や流行株の変遷に対応するために常に検証し,さらに今後も感度上昇や非特異反応除去などが必要である.ノロウイルスでは遺伝子検出キットも市販されている.

■遺伝子型の検索や近年検出された新たなウイルスを調べるためにはRT-PCR法や配列解析が必要である.

ウイルス性胃腸炎の施設内感染防止対策

著者: 新庄正宜

ページ範囲:P.73 - P.76

■感染対策上重要なウイルス性胃腸炎は,ノロウイルスとロタウイルスによるものである.

■これらのウイルスの施設内感染防止には,感染対策の基本である標準予防策および接触予防策が不可欠であるが,現実的にはそれだけで施設内感染を防ぎきることはできない.

■ノロウイルスにおいては,排泄物からウイルスが飛散しそれを吸入することによっても感染することを念頭に置いた対策が,ロタウイルスにおいては,ワクチンを普及させて発症数そのものを減らす対策が重要である.

ウイルス性胃腸炎のワクチンによる予防

著者: 津川毅 ,   堤裕幸

ページ範囲:P.77 - P.84

■現在ウイルス性胃腸炎のワクチン予防として,ロタウイルスワクチンのみが利用可能である.現行のロタウイルスワクチン(ロタリックスⓇ,ロタテックⓇ)の有効性と安全性は,大規模臨床試験で確認された.

■2009年には世界保健機関(WHO)がロタウイルスワクチン定期接種を勧奨し,世界120か国以上で認可され,約30か国で定期予防接種に組み込まれている.日本においても2011年にロタリックスⓇが,2012年にはロタテックⓇも認可されたが,接種回数の違い(2回と3回),腸重積症の副反応などの課題がある.

■今後はロタウイルスワクチン接種方法の明確化,ワクチン導入による疫学的変化をモニタリングすることが必要である.

表紙の裏話

脳の発生メカニズムの解明を目指して

著者: 廣田ゆき ,   仲嶋一範

ページ範囲:P.4 - P.4

 多細胞システムである脳は,構成要素の細胞がただ集まっているだけでは正常に機能せず,それらが正しく相互の関係(神経回路網)を構築してはじめて,本来の機能を発揮することができる.当研究室では,脳がその複雑な機能を営むための基盤となる機構を明らかにすべく,神経細胞の“移動”に着目して研究を行っている.

 ヒトの脳の中で,感情・記憶・学習などの高次機能を司る最も重要な部分が大脳皮質である.大脳皮質を構成する神経細胞は脳の表面に薄く広がり,6層からなる構造を形成している.各層には,それぞれ形態などに共通の特徴をもった神経細胞群が集まるが,この層構造の形成過程で神経細胞の“移動”がみられる.

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.85 - P.85

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・1【新連載】

支持体により電気泳動移動度が異なり,免疫グロブリン定量値にも乖離を認めた多発性骨髄腫

著者: 藤田清貴 ,   小林香保里 ,   亀子文子

ページ範囲:P.86 - P.92

はじめに

 臨床検査で見いだされる異常蛋白質の代表的なものはmonoclonal蛋白(M蛋白)であり,そのクラスは血中濃度に比例しIgG型,IgA型,IgM型の順に多く,M蛋白の約85%は3つのいずれかのクラスに属する.それ以外では,Bence Jones蛋白(Bence Jones protein;BJP)型が約12%,IgD型が約3%,IgE型が0.1%以下の頻度と報告されている.特に,IgD型,IgE型M蛋白は見逃されやすい異常蛋白質であり注意が必要である.

 また,日常検査では異常蛋白質と体液性成分との結合や相互作用,あるいは測定試薬(物質)との反応によって病態を反映しない異常値や,奇妙な電気泳動パターンに遭遇し判断に迷うことが少なくない.これらの現象は,一般に異常反応1),あるいはピットフォール(pitfall)と呼ばれているが,日頃の精度管理だけで発見できるものではなく,異常データを見いだし,的確に対処できなければ誤診につながる可能性が高い.

エラーに学ぶ医療安全・1【新連載】

ヒューマンエラー発生の仕組みと医療システムの問題点

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.93 - P.97

はじめに

 私はもともと航空管制官で,業務中に航空機の誘導を誤り,危うく衝突させるところだったという苦い経験をした.そこからヒューマンエラーに目覚め,心理学などを専攻したのち転職,原子力発電プラント運転員のエラーの研究を経て,現在は医療安全を専門としている.

 生理機能検査での患者取り違えや検体ラベルの貼り間違えなど,検査室で起こりうるエラーはたくさんある.また,臨床検査の結果は,診断や治療の方針を左右する重要な役割を担う.後ほど説明するが,医師は検査結果を元に患者の病態をマッピングするのであり,この検査値のミスは重大な医療事故を引き起こす可能性すらある.日本の医療事故は,正確な統計ではないものの年間23,000件と推定されている.どの程度の規模かというと,飛行機事故で例えるなら何と85%の旅客が乗ったジャンボ機が毎週国内で墜落しているほどの発生件数である!検査技師としての自分の身を守るためにも,安全を守る取り組みは重要である.

 この連載では,安全管理への“考え方”をお伝えする.皆さん自身の力で,それぞれの問題に対処できるようになることを期待している.

研究

免疫固定法システムHydrasys®による非濃縮尿におけるBence Jones蛋白の検出

著者: 老沼弘俊 ,   簗瀬直穂美 ,   佐藤理一郎 ,   小谷和彦 ,   山田俊幸

ページ範囲:P.99 - P.103

 本邦では,尿中Bence Jones蛋白(BJP)は主に免疫電気泳動法(IEP)で検出・同定されており,尿を濃縮するため時間を要していた.本研究では,判定能の優れた免疫固定法(IFE)を用い,非濃縮尿での検出の可能性を検討した.BJP検出を目的に,日常法である濃縮尿を用いたIEPを依頼された試料の中から,IEPの結果により抽出した227検体につき,非濃縮尿を用いた本免疫固定法を行い,成績を評価した.その結果,IEP陽性34検体はすべて本IFE法で正しく検出・同定された.IEP陰性163検体のうち5検体,IEP判定保留30検体のうち19検体で,本IFE法により陽性が確認された.本IFE法は非濃縮尿において効率よく尿BJPを検出・同定可能である.

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「検査と技術」1月号のお知らせ

ページ範囲:P.33 - P.33

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.72 - P.72

投稿規定

ページ範囲:P.104 - P.104

次号予告

ページ範囲:P.105 - P.105

あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.106 - P.106

 ノーベル賞受賞,文化勲章受章おめでとうございます.山中伸弥教授の医学の歴史を変える快挙に,そして人類の幸福を求め真理を追究してやまない先生の真摯な姿勢に,日本全体が勇気と力を与えられ,明るい光で包まれています.“ヒトはヒト自身を試験管内で決して創れない”,このように誰もが無限の彼方の世界と認識していたかもしれません.iPS細胞の作製成功により,この考えが覆されようとしています.

 われわれが抱く夢は初期化された自らの細胞により,自らの治癒,回復が目指される,最も自然なテイラーメイド医療の実現です.どうも臨床応用が予想を超えた速さで実現しそうな勢いです.しかし,自己の細胞の移植によっても,予期せぬ副作用が生じるかもしれません.幾重にも生命の安全の保障が求められます.技術的に簡単に作製できるものとされていますが,万が一にも新たな種を生み取り返しのつかない事態に陥らないよう,科学の進歩に呼応し,監視と規制も含め対応に取り組んでいかなければなりません.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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