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雑誌目次

論文

臨床検査57巻10号

2013年10月発行

雑誌目次

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 今回は「神経領域の生理機能検査」について特集を組んでみました.門外漢として誤解を恐れずに印象を述べさせていただくと,神経領域の検査は,生理機能検査にあっても地味な検査です.検査室を運営する立場でみても,循環器系や超音波検査に比べると検査件数が少なく,主要な検査とは言いにくいのが現状です.しかし今回の特集をご一読いただければ,この認識が古いものであることがおわかりになるでしょう.

 「神経領域の生理機能検査」は着実に進歩しており,深淵にして謎に満ちた脳や神経系の機能に迫ってきています.高齢化社会を迎え,認知症をはじめとする脳神経系の疾患に注目が集まっています.これに伴って,「神経領域の生理機能検査」が重要性を増していることを,本特集を通じてご理解いただければ幸いです.

脳波の現状と今後の発展

著者: 古賀良彦

ページ範囲:P.1070 - P.1076

■脳波は,非襲侵性に加えて,測定機器が安価かつ操作も比較的容易であることから,多くの研究ならびに臨床で用いられてきた.最近の多チャンネル化をはじめとする機器の開発や解析法の発展により,他の脳機能画像に対する不利な点が克服され,再び幅広い応用が進められている.

■脳波はデジタル化し画像処理(マッピング)を行うことにより,さらに利便性が高くなった.

■LORETAは最も優れた脳波解析法のひとつである.本法はあらかじめ意図的に双極子数や位置の初期値の設定をする必要がない.操作は比較的容易であり,現在では低解像度ではなく精細な画像を得ることが可能である.

■高解像度脳波(high resolution EEG)は,脳の機能の局在と各部位の関連,そして障害の様態を明瞭に表す方法として,今後の応用が期待されている.

事象関連脳電位

著者: 矢部博興

ページ範囲:P.1077 - P.1084

■内因性ERPには,随伴陰性変動(CNV),P300,ミスマッチ陰性電位(MMN)などが知られている.

■事象関連電位(ERP)は,認知情報処理に対して1ミリ秒以下の単位の時間解像度を有する唯一の指標である.

■MMNは,自動性,比較的明らかな発生メカニズムや発生源同定などの点で臨床応用が期待されているERPである.

磁気刺激検査・脳磁図の現状と新たな展開

著者: 依藤史郎 ,   荒木俊彦 ,   平田雅之

ページ範囲:P.1085 - P.1089

■磁気刺激は刺激部位を工夫することにより,従来の電気刺激では不可能だった神経機能検査が可能である.

■低頻度に加え高頻度の磁気刺激が可能となり,臨床検査だけでなく治療にも応用が可能となってきた.

■脳磁図は外科治療を行うてんかん以外に保険診療の対象範囲は若干広がっている.

■脳磁図は極めて巨大なデータで,解析ソフトを駆使すれば未知の脳機能が解析できると期待される.

睡眠時の神経生理検査

著者: 足立浩祥 ,   野々上茂

ページ範囲:P.1091 - P.1096

■睡眠に関連する病態は多様であり,またいくつかの病態が重複することも少なくないので,臨床現場では,どの検査をどのように行うのが最も適当であるか,適切な判断が求められる.

■終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)は,睡眠検査におけるゴールドスタンダードであるが,より簡略化した検査装置が開発されて,成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の評価を目的とした携帯型モニター装置として利用されている.しかし,PSGの実施においては,その適応と機器の特性の正しい理解が欠かせない.

■周期性四肢運動異常症(PLMD)は疾患名であり,睡眠時周期性四肢運動(PLMS)はPSGから得られるあくまでも検査所見の一つである.PSG所見において,PLMSの出現が多く認められたからといって,必ずしもPLMDと診断することはできない.

神経伝導検査

著者: 児玉三彦 ,   正門由久

ページ範囲:P.1097 - P.1104

■神経伝導検査(NCS)による末梢神経障害の診断精度向上を目指し,多くの検査法が開発されている.

■手根管症候群(CTS)の診断には有用な比較検査が多く開発され一般的となっている.

■肘部尺骨神経障害(UNE),腓骨神経麻痺(PNP),大腿神経麻痺(FMN)では,障害部位の特定にいくつかの有用な検査法がある.

自律神経機能検査

著者: 山元敏正

ページ範囲:P.1105 - P.1112

■起立試験は血圧を調節する圧受容器反射機能をみる検査で,起立性低血圧の診断に重要である.

■心拍変動のスペクトル解析による低周波(LF)成分は圧受容器反射機能,高周波(HF)成分は心臓副交感神経機能,LF/HFは交感神経の指標とされる.

■交感神経皮膚反応は精神性発汗をみる検査であるが,大脳辺縁系を中心とする認知機能の評価にも有用である.

■定量的軸索反射性発汗試験は皮膚の発汗神経の機能を評価できる検査である.

■MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経機能を評価できる画像検査である.

今月の特集2 Clostridium difficile感染症

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1113 - P.1113

 Clostridium difficileは,抗菌薬関連性腸炎や偽膜性腸炎の原因菌として知られています.また,近年は医療関連施設感染の原因菌としても注目されており,病院や高齢者施設などにおける感染防止対策が重要視されています.

 本菌の産生する毒素として,従来A毒素(toxin A)とB毒素(toxin B)が知られていましたが,近年,第三の毒素として,C. difficile二元毒素(C. difficile binary toxin)が見つかり,新たな病原因子として注目されています.この二元毒素を産生するともに,高いA毒素,B毒素産生能を有する,027型(PCR ribotype 027)という毒性の強い株の検出が,米国・カナダ・欧州(英国など)・オーストラリアで増えており,集団発生の原因ともなっています.

Clostridium difficile

著者: 田中香お里

ページ範囲:P.1114 - P.1118

■Clostridium difficileは,ヒトや動物では腸管内を棲息場所にする細菌である.

■C. difficileは偏性嫌気性菌であるが,芽胞を形成するため大気環境下でも休眠状態で生き残り,再びヒトなどの腸管に入ると発芽し毒素産生株は毒素を産生する.

■C. difficile感染症を起こす株は,トキシンA,トキシンBの両方を産生する株とトキシンAは産生せずトキシンBのみを産生している株があるが,どちらも院内感染菌として重要である.

■北米・欧州の主要な流行株(PCRリボタイプ027型,078型)は強毒株でトキシンA,Bの産生が亢進し,腸管粘膜への付着性も強いことが示唆されている.

■現時点ではわが国で強毒株の流行はみられないが,今後も注意が必要である.

Clostridium difficile感染症の臨床検査

著者: 金山明子 ,   小林寅歹

ページ範囲:P.1119 - P.1124

■Clostridium difficileを目的とした培養検査では選択培地を用いる.C. difficileコロニーに対しトキシンA,Bの検出を行う.

■下痢便からEIA法によるグルタミン酸脱水素酵素(GDH)検出を行い,陰性であればC. difficile感染症(CDI)を否定する.

■GDHが陽性であればトキシンA,Bの検出を行い,陽性であればCDIを強く疑う.トキシン陰性の場合は培養法の結果や臨床症状を考慮し判断する.

■十分な検体量を採取し,診断検査に用いる.検体量の不足は偽陰性につながる.

Clostridium difficile感染症の治療と予防

著者: 平井潤 ,   浜田幸宏 ,   山岸由佳 ,   三鴨廣繁

ページ範囲:P.1125 - P.1132

■Clostridium difficile感染症(CDI)の治療抗菌薬として,軽症例や初回の再発例ではメトロニダゾール(MNZ),重症例や再発を繰り返す例ではバンコマイシン(VCM)が推奨される.

■プロバイオティクスによるCDIの予防は確立しているとは言い難いが,有用性が報告されているため併用を考慮する.また,プレバイオティクスとの併用も検討する.

■フィダキソマイシン(FDX)はC. difficileのRNA polymeraseを阻害することにより殺菌的に作用する薬剤で,正常な腸内細菌叢を破壊しにくく,C. difficileの芽胞形成抑制作用や毒素産生抑制作用も認められる.VCMと比較してCDIの再発率が低く,VREなどの耐性菌出現のリスクも低いことから,新たな治療選択肢として注目される.

Clostridium difficile感染症の病院感染対策

著者: 大毛宏喜 ,   原稔典 ,   近藤美穂 ,   末田泰二郎

ページ範囲:P.1133 - P.1137

■便培養検査はClostridium difficile toxin検査と同時に提出するのが望ましい.

■院内伝播を防止するためにガウンや手袋を着用する.

■手指衛生は流水と石鹸による物理的な洗浄が一般的に推奨される.

高齢者におけるClostridium difficile腸炎―高齢者剖検例の検討から

著者: 稲松孝思 ,   板倉朋泰 ,   千村百合 ,   増田義重

ページ範囲:P.1138 - P.1142

■偽膜性大腸炎は,抗菌薬投与に伴うClostridium difficile腸炎の重症型である.

■高齢者剖検例にみられる偽膜性大腸炎の変遷を,剖検例から検討したが,診断・治療法の進歩で,多くは治療が可能になっている.

■しかし今日においても,難治性感染症を抱える高齢者において,再発・再燃を繰り返し,治療困難となり,直接死因となる事例がある.

■治癒の見込めない末期感染症に,漫然と抗菌薬投与を続けることが,Clostridium difficile腸炎の再発・再燃・難治化の要因の1つであろう.

新生児・小児とClostridium difficile感染症

著者: 城裕之

ページ範囲:P.1143 - P.1150

■小児科領域において,Clostridium difficile感染症(CDI)を経験することは少ない.その理由としては,確定診断に内視鏡検査が必要なこと,乳幼児には無症候性の保菌児が多く,C. difficile検査の解釈が難しいことが考えられる.

■北米では小児入院患者におけるCDIが増加しており,米国小児科学会(AAP)は,2013年,policy statementを発表した.わが国においても,今後,小児のCDIが増加することが予想されることから,このstatementは参考となるであろう.

■CDIの診断はまず感染を疑うことであるが,特に年齢を考慮してC. difficile検査を行い,その結果を判断することが重要である.また,CDIの発症リスク因子として,基礎疾患(腸管疾患,免疫異常など)と抗菌薬の使用を確認することも参考となる.

表紙の裏話

“がん”の形態学を分子の言葉で説明する

著者: 里見介史 ,   野口雅之

ページ範囲:P.1068 - P.1068

 “がん”はなぜ治らないのだろうか? わが国では年間30万人以上,男性の4人に1人,女性の6人に1人はがんで亡くなる現状に,“がん”という言葉のもつ重みは誰もが知るところである.ただし,がんは臓器ごと,種類ごとに大きく特徴が異なり,これら多種多様ながんの最終診断は,現代でも光学顕微鏡を用いた病理医と臨床検査技師の“眼”による診断である.当研究室では,形態学こそががんの定義と捉え,現代までに蓄積された形態学的知見と分子生物学的基盤の融合を目指している.

 さて,教科書的にがん細胞とは,遺伝子に傷がつくことで,自律的な無制限増殖能を獲得した細胞と説明されているが,がん細胞の立場からは自らの生存と増殖に都合のよいように遺伝子を“改変”し,さらにはがん微小環境と呼ばれる特殊な宿主環境の構築や宿主応答の変化も巻き込むものと考えられる.

INFORMATION

Complex Cardiovascular Therapeutics(CCT)2013 Co-medical

ページ範囲:P.1096 - P.1096

 2013年のCCTコメディカルは“基礎の再確認と新しい技術の啓蒙”と題して“温故知新”を皆さまに体験していただきたいと考えます.

 やはり基礎学問は全てにおいてとても大切な分野で欠かすことはできません.基礎学問をベースとして世の中がどのように変わってきたか,歴史的背景を含め30年強の時間軸を体験できるようなセッションを行いたいと考えます.全ての流れのなかで理由を把握し話していただき,皆さまの疑問が少しでも払拭されるような会にしたいと考えます.また新しい技術も開発されてきており,その内容についてのセッションも考えております.

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.1151 - P.1151

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・10

酸性条件下で不溶化するIgG4-λ型M蛋白が引き起こした検査値への影響

著者: 青木義政

ページ範囲:P.1153 - P.1158

はじめに

 生化学的検査とりわけ比色分析では,マイナス値を呈したり,関連項目間での乖離や逆転を認めたりするなど,しばしば患者の病態を反映しない矛盾する測定値に遭遇することがある.特に血中にM蛋白が存在すると,その引き金に成りうることが知られており,M蛋白が測定試薬成分と反応し,不溶性の凝集,沈澱物を形成することで反応系に影響を与え,異常値の原因となる.

 本稿では,M蛋白が酸性条件下で不溶化し,各種検査項目に影響を及ぼした症例1~3)の解析事例を紹介する.

エラーに学ぶ医療安全・10

背後要因関連図の作成―血液検体の取り違いにより再検査となった事例

著者: 河野龍太郎 ,   筑後史子 ,   田村光子

ページ範囲:P.1159 - P.1168

はじめに

 第9回に引き続き,血液検体の取り違いにより再検査となった事例について分析していこう.提示した時系列事象関連図をもとに自分なりの背後要因関連図を作成することを課題としたが,取り組んでもらえただろうか.

 なお,事象の詳細については前号を参照いただくとともに,本事例が架空の事例であることをあらためてお断りしておく.

次代に残したい用手法検査・4

凝固線溶検査

著者: 安達眞二

ページ範囲:P.1169 - P.1174

はじめに

 出血性素因のスクリーニングは,まずプロトロンビン時間(prothrombin time;PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time;APTT)により,外因系,内因系の異常を推定する.その後,凝固因子欠乏血漿で目的とする異常因子が同定される.結果は全自動分析機でフィブリン形成を肉眼的に観察されることなく,オンラインで報告されている.教科書や解説書に記載されなくなった全血凝固時間,プロトロンビン消費試験は理論的に優れており,凝固機序を理解するうえで有用な検査である.

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「検査と技術」10月号のお知らせ

ページ範囲:P.1104 - P.1104

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1112 - P.1112

投稿規定

ページ範囲:P.1178 - P.1178

次号予告

ページ範囲:P.1179 - P.1179

あとがき

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.1180 - P.1180

 本号を最終ページまでお読みいただきありがとうございます.寝苦しかった猛暑が過ぎ,夏バテの時期も終わり家庭では冷房も暖房も必要のない季節になりました.私が居住するのは東京ですが,毎年10月は外気温が下がるため家庭用消費電力が急激に低下し,地球にも我が家の家計簿にもやさしい1カ月となります.そのためか毎年,少々夜更かしをしてもいいかな,専門誌はもちろん一般誌や小説の類いまで読みふけってみようかなと思います.折しも,10月27日から11月9日までは読書週間です.読者の皆さまにも大いに読書することをお勧めします.本誌読者の皆さまに「そででは,もう1冊何か読みましょう」とか「本誌のうち1テーマしか読破してないので残りを読みましょう」などと思っていただければ幸いです.

 さて,今月号のテーマは①神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開,②Clostridium difficile感染症の2つです.①は生理機能のなかの神経機能領域について取り上げています.その1つ,磁気刺激は低頻度刺激による検査の他,これまで検査の領域では禁忌とされている高頻度刺激を用いた治療分野への応用が着々と進んでいることが述べられていて磁気刺激の進歩が感じられます.また,脳磁図装置は特殊設備が必要なため,てんかん治療に特化した限られた施設にしかなく,実際に検査に携わっている人は至極少数です.私の勤務する病院にも脳磁図検査設備はありませんが,だからこそ知りたい気持ち満々の分野であり興味深く拝読しました.脳磁図以外は小規模な装備で検査可能なため読者諸氏も,現在検査を担当していたり過去に検査経験があったり,また経験はなくとも検査風景を身近に感じながらお読みいただけた方が多かったのではないでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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