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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査57巻12号

2013年11月発行

雑誌目次

今月の特集1 前立腺癌マーカー

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.1437 - P.1437

 前立腺癌は欧米においては男性悪性腫瘍の死亡率の1位を占め,わが国でも急速増加の一途をたどっています.過去50年,より良いマーカーの研究開発と淘汰選択の歴史のなかから久留米大学の原 三郎教授により発見されたγ-Sm(γ-seminoprotein)/PSA(prostate specific antigen)が臨床利用の底流をなしてきました.いかにして特異度と感度を高めgolden standardである病理診断に迫れるか,進行性で予後不良のケースがどこまで予知可能か,早期発見,予防,治療に向けての挑戦が続けられています.

 近年PSAのプレ蛋白の研究が進められ,超高感度の核酸検査PCA3(prostate cancer gene 3)検査の登場,既存のマーカーの測定意義の見直しが行われるなど前立腺癌の検査を取り巻く環境が大きく変わってきました.この機会を捉え,最近の前立腺癌の診療,検査の進歩をレビューしていただき未来への流れを読み解くことにしました.

前立腺癌の診断,治療,フォロー 

著者: 小坂威雄 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.1438 - P.1447

■前立腺癌は,今後,男性癌の癌罹患率第1位となることが推定されている.

■直腸診や,血液検査による前立腺特異抗原(PSA)測定にて前立腺針生検の適応が考慮され,病理組織診断にて確定診断される.

■PSA,Gleason score(GS),画像診断による病期診断の3つを組み合わせたリスク分類に基づき,治療方針の適応が検討される.

■手術療法・放射線療法・ホルモン療法,それぞれの長所と短所,ならびに患者の価値観を考慮したうえで治療方針が決定される.

proPSA測定とその意義

著者: 伊藤一人

ページ範囲:P.1448 - P.1456

■前立腺癌組織ではhuman kallikrein 2濃度の低下によりproPSAから活性型PSAへ変換が阻害されることでproPSAが線腔内に蓄積し,微小血管浸潤によりproPSAの血中逸脱が増加する可能性が示唆されている.

■[-2]proPSAのモノクローナル抗体を用いた免疫組織染色で,前立腺癌組織では良性腺管と比べ強く腺組織が染色され,[-2]proPSAはより癌特異的なマーカーとして期待が持てる.

■[-2]proPSA関連インデックスは既存の腫瘍マーカーと比べ優れた癌診断精度を示し,さらに癌の組織学的悪性度や腫瘍体積と有意な相関性が認められた.

尿中前立腺癌遺伝子3(PCA3)

著者: 三木恒治 ,   落合厚 ,   鴨井和実 ,   沖原宏治

ページ範囲:P.1457 - P.1463

■前立腺癌遺伝子3(PCA3)アッセイでは尿中のPCA3mRNAが測定される.

■PCA3スコアは癌に対する特異度が高く,血清前立腺特異抗原(PSA)や前立腺容積(PV)とは相関しない.

■既存の検討因子にPCA3スコアを追加することで,より正確に癌存在の有無を予測することができる.

■PCA3スコアを用いることでinsignificant cancerを予測することが可能となり,PSA監視療法の対象患者の選択に有用である.

CRPによるフォロー,予後の推定

著者: 齋藤一隆 ,   木原和徳

ページ範囲:P.1464 - P.1468

■宿主炎症反応が顕在化している癌患者の予後は不良である.

■前立腺癌において,血清C反応性蛋白(CRP)値の上昇で表されるように,炎症反応が顕在化している患者の予後は不良であり,去勢抵抗性前立腺癌など,特に進行癌において,CRPは予後因子となる.

■CRPは,去勢抵抗性前立腺癌において,病勢の評価や,治療効果判定にも有用であり,前立腺特異抗原(PSA)と同様に一部の前立腺癌状態において,バイオマーカー(腫瘍マーカー)としての役割を有する.

PSAによる前立腺がん検診は有効か?

著者: 深貝隆志

ページ範囲:P.1469 - P.1474

■前立腺癌のPSA検診により進行癌,転移癌の比率が低下することは証明されている.さらに近年,死亡率に関してもヨーロッパにおいてPSA検診の有効性を検討した大規模RCTが行われ,前立腺癌の死亡率の低下したことが証明された.

■前立腺癌のPSA検診を受けることによる危険性として,生検に伴う合併症,過剰診断,過剰治療,治療に伴うQOL低下などが挙げられるが,PSA監視療法(無治療で経過を観察)や手術技術の進歩,低侵襲治療(小線源治療など)の出現により,PSA検診を受けることによる不利益は減少しつつある.

■日本では米国に比べ,PSA検診の普及が大きく遅れている.今後日本では公的な住民検診,人間ドック検診,かかりつけ医による前立腺がん検診をさらに普及させるとともに,医師と民間による新たな検診の体制の普及が期待される.

今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

著者: 山内一由

ページ範囲:P.1475 - P.1475

 単独の生化学検査結果が病理検査や遺伝子検査のように疾患と1対1の関係を示すことはほとんどありません.しかし,臨床検査に携わる者が,異常値の出るメカニズムをしっかりと把握し,深くデータを読み込む術と目を兼ね備えていれば,たとえ単一の生化学成分であったとしても,確定診断に用いられる検査にも匹敵,時にはそれを凌ぐ威力を発揮するようになります.その最たる生化学成分が血清酵素といえましょう.全ての血清酵素が臓器,組織に由来し,その変動は由来臓器の損傷をダイレクトに反映するからです.アイソザイムを意識し,質的変動にも目を向ければ,血清酵素学的検査の臨床的意義はさらに深みを増します.本特集では,血清酵素の変動を判読するポイントを詳細かつわかりやすく解説していただきました.前号ともどもお役立ていただければ幸いです.

LDの異常と病態

著者: 米川修 ,   有田卓人

ページ範囲:P.1476 - P.1483

■LD活性高値,低値にかかわらず,LD単独で評価することはほとんどない.必ずほかの可溶性分画の酵素と同時に評価し,特にLD/AST比を踏まえてのアプローチは必須である.

■LD高値症例の場合は,LD/AST比から基礎疾患を勘案し,関連する項目である肝機能,溶血関連項目,膠原病などの筋疾患(甲状腺を含む)関連項目,悪性腫瘍関連項目に注意を払う.

■LD活性高値,低値にかかわらず,データが病態で説明可能かを絶えず意識し,矛盾があれば,アイソザイムなどを利用し,免疫グロブリンとの結合,インヒビターの存在,もしくは,欠損症の可能性を考慮する意識・姿勢をもつ.

AST・ALTの異常と病態

著者: 嶋田昌司 ,   松尾収二

ページ範囲:P.1485 - P.1490

■AST・ALT検査は機能検査ではなく細胞障害の程度を示す.

■AST,ALTの生体内分布は臓器により違いがあり,データ評価に重要である.

■AST,ALTの半減期の違いは病態の時期や経過観察に重要である.

■日常的に遭遇するAST,ALTが異常値を示す病態には,ショック肝や医原的要因が多い.

CKの異常と病態

著者: 高木康

ページ範囲:P.1491 - P.1494

■クレアチンキナーゼ(CK)は筋肉のエネルギー供給上重要な役割を果たしているため,種々の筋肉中に多量に存在している.

■CKにはCK-MM,CK-MB,CK-BBのアイソザイムが存在しており,心筋傷害ではCK-MB,骨格筋疾患ではCK-MM高値の臨床的意義が高い.

■CK/ASTは心筋傷害では低値であるが,骨格筋疾患では高値であり,鑑別の指標として有効であるが,ASTが高値となる肝疾患を除外する必要がある.

血清コリンエステラーゼ(ChE)の異常と病態

著者: 矢内充

ページ範囲:P.1495 - P.1499

■血清コリンエステラーゼ(ChE)の測定に関してはJSCC標準化対応法で測定される施設が大半を占めるようになってきた.

■血清ChEは肝機能,特に肝予備能の評価に用いられ,血清アルブミン(Alb)とよく相関する.

■血清ChEは,低値を示した場合に臨床的意義が高く,多くはびまん性の肝細胞障害の程度を鋭敏に反映する.

■遺伝性ChE欠損症では,全身麻酔などでのサクシニルコリン投与時に遷延性の無呼吸をきたすため,注意が必要である.

ビリルビン代謝と高ビリルビン血症の鑑別

著者: 野村文夫

ページ範囲:P.1500 - P.1505

■血清ビリルビンがあるレベル(2.5~3.0mg/dL)を超えると肉眼的に黄疸として認められるようになる.

■高ビリルビン血症をみた場合には抱合型優位か非抱合型優位かにまず注目し,その後の鑑別を進める.

■一部の検査試薬では直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)値にデルタビリルビンが測り込まれてしまうので,結果の解釈に注意を要する.

コレステロールの異常と病態生理

著者: 三井田孝 ,   平山哲

ページ範囲:P.1506 - P.1511

■LDL-CやHDL-C直接法の値が信頼できない疾患がある.

■脂質値の異常から原疾患の診断に至る場合がある.

■必要な場合はアポ蛋白や電気泳動の結果を活用する.

表紙の裏話

ペットの角膜損傷を再生医療で救う

著者: 藤田直己

ページ範囲:P.1436 - P.1436

 診察台の上で暴れる患者をなだめ,時には蹴られたり引っかかれたりしながらも丁寧に診察する.手術となれば術中はもちろん,術前の麻酔にも気をつかい,術後は言うことを聞かない患者にやきもきしながら管理に頭を悩ませる.臨床に携わる者なら誰もが経験する病院での1コマである.しかし,診察対象はヒトではない.われわれは,獣医外科学研究室で日々多くの動物の診察を担当し,年間800件の手術をこなしながら研究に従事している.そのため,臨床に密接に関連した研究テーマを扱っているところが大きな特徴である.特に,現在筆者が関心をもっているのは再生医療分野である.

 当院にはさまざまな疾患を抱えた動物が来院するが,重度の角膜疾患で受診する犬も多い.角膜とは,眼瞼,結膜とともに外眼部を構成する組織で,透明な膜である.角膜は直接外界に接することから,感染,アレルギー,外傷など多様な疾患に罹患する可能性があり,重症例も後を絶たない.犬の重症角膜疾患の場合は,結膜の一部を角膜に移植する手術なども行われるが,炎症や色素沈着,瘢痕形成など合併症が多いことが問題となっている.一方,角膜移植はドナーの確保も難しく,ほとんど実施されていないのが現状である.そのため,犬においても角膜再生治療が求められるケースが少なくない.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーE4 がんシリーズ第4回「がんゲノミクス研究と臨床応用」

ページ範囲:P.1456 - P.1456

日 時:2013年11月8日(金)10:00~17:00

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル5F 

    ライフホール(大阪,豊中市)

第50回日本臨床神経生理学会技術講習会

ページ範囲:P.1512 - P.1512

開催期間:2013年11月8日(金)午後・9日(土)午前

第43回日本臨床神経生理学会学術大会の会期中に開催いたします.

会 場:高知県立県民文化ホール

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.1513 - P.1513

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・11

異常ヘモグロビン―血糖管理マーカー値乖離の原因としての可能性

著者: 中西豊文

ページ範囲:P.1515 - P.1521

はじめに

 1949年Paulingらにより“蛋白質の構造異常→機能異常→病気の発症”の分子病概念が提唱され,鎌形赤血球症の発見を契機に異常ヘモグロビン(hemoglobin;Hb)研究は分子病理学の発展に多大な貢献をした.これまでに発見された異常Hb症は,明らかな臨床所見(チアノーゼ,多血症,溶血性貧血,メトHbなど)を呈するタイプと臨床的に無症状で,HPLC(high-performance liquid chromatography)法による糖化Hb(HbA1c)溶出パターン異常により発見されるタイプに分けられ,後者のタイプが近年増加している1~8)

 最近のグローバル化は“人の流れ”を活発化させる.その結果,わが国の医療現場においても疾病の多様化など,これまで日本社会では経験のないまれな疾病/症例に遭遇する機会が増えるものと考えられる.

 本稿の異常Hbに関しても,国際化を反映して日本人には非常にまれなone-point変異も報告されており,日頃から異常/乖離データを見いだし,的確に対処できなければ,誤診や疾病の見落としにつながる.今回,HbA1c溶出パターン異常から見いだされた異常Hb症の詳細解析例を提示/解説し,読者の方々の参考としていただきたい6,9)

エラーに学ぶ医療安全・11

改善策の立案―血液検体の取り違いにより再検査となった事例

著者: 河野龍太郎 ,   筑後史子 ,   田村光子

ページ範囲:P.1522 - P.1528

はじめに

 第10回では,「血液検体の取り違いにより再検査となった事例」の問題点のなかから主要な5点について,分析レベル1「ワンポイントなぜなぜ」を利用し,背後要因の探索を行った.作成した背後要因関連図をもとに,自分なりの改善策案を考えることを課題としたが,よい案が浮かんだだろうか.

 なお本稿では,分析の最終目標はエラーの低減はもちろん,業務の効率化やコストの低減も含むため“改善”という用語を使用している.ただし,エラーやリスクに対しては直感的にわかりやすい“対策”という用語を使用する.また,事例の詳細は第9,10回を参照いただくとともに,本事例が架空のものであることをあらためてお断りしておく.

次代に残したい用手法検査・5

単純免疫拡散法

著者: 亀子光明

ページ範囲:P.1530 - P.1533

はじめに

 免疫グロブリンに代表される血漿蛋白は,現在では,免疫比濁法(turbidimetric immunoassay;TIA)を用いた汎用生化学自動分析装置により,短時間で測定することが可能である.1970年代では,用手法の単純免疫拡散(single radial immunodiffusion;SRID)法が主流であったが,結果報告までに1~2日を要した.1980年代に入り,レーザー光線を光源として,抗原抗体複合体の光散乱強度を利用したレーザーネフェロメトリー(laser nephelometry;LN)法が開発されたことにより,血漿蛋白の測定は自動化された.自動化法の導入によりSRID法による測定は,年々減少し,「平成12年度日臨技臨床検査精度管理調査報告書」によると,実施施設はわずか3件で,翌年度にはなくなり,以後,製品販売が中止された.現状では,一般的にTIAとLN法に代わり光源に発光ダイオードを用いる免疫比朧法(nephelometric immunoassay;NIA)が利用されている.

学会へ行こう

一致団結! 第60回日本臨床検査医学会学術集会

著者: 横田浩充

ページ範囲:P.1536 - P.1537

見どころピックアップ

・特別講演1「永井良三 自治医科大学学長による講演」

・特別講演2「Nader Rifaiハーバード大学教授による講演」

・各学会との共催シンポジウム

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「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1468 - P.1468

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1490 - P.1490

「臨床検査」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.1514 - P.1514

「検査と技術」増刊号のお知らせ

ページ範囲:P.1534 - P.1534

書評 目でみるトレーニング 第2集 内科系専門医受験のための臨床実地問題

著者: 奈良信雄

ページ範囲:P.1538 - P.1538

知識を整理するのに最適の問題集

 「試験が学習をプロモートする」のは,古今東西問わず,真実である.

 もちろん試験には,合否を問う総括的評価としての性質が大きい.が,学習によって獲得した知識を整理し,足りないところを補う形成的評価としての意義もある.医師国家試験,専門医試験はいずれも合否を決定する試験ではある.しかし,それらをめざして学習することは,決して受験生に無益なものではなく,ステップアップに有用な手段にもなりうる.

投稿規定

ページ範囲:P.1540 - P.1540

次号予告

ページ範囲:P.1541 - P.1541

あとがき

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1542 - P.1542

 今年の夏も非常に暑く,それに加えて大雨や竜巻などの災害に見舞われたところも多かったようです.この「あとがき」の原稿は,暑さも峠を越え,秋の気配が漂う時期に書いていますが,本号が発行される頃には穏やかな過ごしやすい気候になっているでしょうか.

 さて,今月号は「前立腺癌マーカー」と「日常検査から見える病態─生化学検査②」を特集テーマとして取り上げました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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