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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査57巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

今月の特集1 分子病理診断の進歩

著者: 山内一由

ページ範囲:P.235 - P.235

 最善・最良の治療は,精確な検査診断がなされてはじめて可能になりますが,分子病理診断の進歩は,この治療と検査診断との不可分性をより一層強固にしたと言えるでしょう.分子病理診断は,病理検査の精確度や迅速性の向上に寄与するとともに,分子標的治療の個別化を実践していくうえで,欠かすことのできない重要な役割を担っているからです.

 個別化医療(テーラーメード医療)抜きには,“これからの医療”を語ることはできません.そして,“これからの医療”の一翼を担う臨床検査として,今後ますます分子病理診断の重要性と需要が高まることは,想像に難くありません.

分子病理診断の現状と未来

著者: 増本純也 ,   末廣聡美

ページ範囲:P.236 - P.239

■分子病理診断は,従来の形態学的な病理診断を補う正確な診断に必須となっている.

■分子病理診断は,進歩している分子標的治療のための根拠となる.

■将来の個別化医療(テイラーメイド医療)の発展のために,分子病理診断の重要性がますます高まっている.

HER2

著者: 伊藤絢子 ,   前島亜希子 ,   津田均

ページ範囲:P.240 - P.246

■乳癌や胃癌などでHER2遺伝子の増幅やHER2過剰発現が認められる.

■HER2検査にはIHC法とISH法がある.

■HER2陽性の乳癌,胃癌では分子標的薬トラスツズマブの適応が承認されている.

EGFR

著者: 柴田典子 ,   谷田部恭

ページ範囲:P.248 - P.255

■EGFRは膜貫通型受容体であり,リガンドが結合することで活性が高まり,細胞の分化増殖,アポトーシスの抑制が起こる.

■肺癌特異的な変異が知られており,変異のある症例ではEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の奏功率が高い.ただし,変異によっては不応性のものもある.

■検査に使用可能な検体が限られるため,検体の質,検査方法の特徴を考慮したうえでの結果解釈が重要.

K-ras

著者: 佐々木素子 ,   中沼安二

ページ範囲:P.256 - P.261

■K-rasは代表的な癌遺伝子で,遺伝子変異による恒常的なK-ras蛋白活性化は,細胞増殖を亢進させる.

■膵癌のK-ras検査は補助診断項目として現在,保険適用になっている.

■大腸癌や肺癌では,上皮成長因子受容体(EGFR)抗体製剤の適応決定におけるEGFR発現とK-ras遺伝子変異解析が保健適用になっている.

■K-ras変異があると,EGFR抗体製剤が効かない.

KIT

著者: 廣田誠一

ページ範囲:P.262 - P.269

■c-kit遺伝子産物であるKITはGISTの95%以上に発現しており,その発現を免疫染色でチェックすることはGISTの診断に極めて重要である.

■c-kit遺伝子の機能獲得性突然変異はGISTの約85%に認められ,その検索はGISTの確定診断および治療方針決定に重要な役割を果たす.

■KITの発現はマスト細胞性腫瘍・精上皮腫・悪性黒色腫・嫌色素性腎細胞癌・唾液腺の腺様囊胞癌などでみられるが,診断的価値は必ずしも高くない.

■c-kit遺伝子変異はマスト細胞性腫瘍・精上皮腫・悪性黒色腫などでも認められるが,現状では診断・治療に対する意義は低い.

ALK

著者: 竹内賢吾

ページ範囲:P.271 - P.276

■肺癌におけるALK融合の同定には,RT-PCR,FISH,および免疫染色などの方法が挙げられるが,そのそれぞれに長所,短所がみられる.

■FISH法と抗ALK iAEP免疫染色法の一致率は99.5%で,FISH法をゴールドスタンダードとした場合の抗ALK iAEP免疫染色の感度は95.2%であった.

CD20

著者: 冨田章裕

ページ範囲:P.278 - P.286

■CD20はB細胞表面に特異的に発現する表面抗原で,造血幹細胞や形質細胞には発現しない.

■リツキシマブは第1世代の抗CD20モノクローナル抗体治療薬で,現在B細胞性リンパ腫に対する標準的な治療薬とされている.治療効果を高めた第2,3世代の治療薬も開発されている.

■CD20発現低下によるリツキシマブ耐性が実臨床で経験されている.

今月の特集2 血管炎症候群

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.289 - P.289

 “血管炎”にはさまざまな疾患があり,本特集では1994年のChapel Hill会議での提唱に準じて,大中小という血管のサイズで分類しましたが,2011年の同会議ではさらに詳細に分類・命名されています.2013年1月15日には,EGPAの正式日本語病名が通達されましたが,疾患名はこの先しばらく新旧,または本邦独特のものが入り乱れて使われると予想されますので,○○血管炎という診断名のついた患者に遭遇したら,ぜひ本特集にあたってください.本特集では,それぞれの疾患の解説の中で関連する臨床検査についても言及いただきました.各疾患を特徴づけるものはそう多くはありませんが,最も重要と思われるANCAの検査については別途わかりやすく解説いただきました.導入を検討されている施設は参考いただけたら幸いです.

血管炎症候群─最新の名称と定義

著者: 尾崎承一

ページ範囲:P.291 - P.297

■CHCC(Chapel Hill Consensus Conference)1994では,10疾患の原発性血管炎が罹患血管サイズに基づいて3つのカテゴリー(大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎)に分類されていた.

■新たに発表されたCHCC2012では,26疾患を超える原発性および続発性血管炎が,7つのカテゴリー(大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎,Variable vessel vasculitis,Single organ vasculitis,Vasculitis associated with systemic disease,Vasculitis associated with probable etiology)に分類されている.

■CHCC2012は分類基準や診断基準ではなく,血管炎の名称と定義を記載したものである.

■CHCC2012の特徴の1つは,続発性血管炎を含めてより多くの血管炎を内包できる余地をもたせた点であり,今後の臨床面での評価が期待される.

大型血管炎─高安病を中心に

著者: 中岡良和

ページ範囲:P.298 - P.305

■大型血管炎は大動脈および四肢・頭頸部に向かう最大級の分枝の血管炎であり,高安病と巨細胞性動脈炎(GCA)が含まれる.

■高安病は国際的には高安動脈炎(Takayasu's arteritis)と呼称される原因不明の慢性肉芽種性大血管炎で,本邦では患者の大半が若年女性である.大動脈とその第1分枝に狭窄や閉塞が生じて臨床症状を呈する大型血管炎で,脳虚血発作や大動脈弁閉鎖不全,大動脈瘤,心不全,失明,腎不全など重篤な合併症が知られる.

■高安動脈炎とGCAに疾患特異的なバイオマーカーはいまだ見出されていない.

■大血管炎の治療では高安動脈炎とGCAの両者で副腎皮質ステロイドが第1選択で使用され,多くの症例でいったん寛解に至るがしばしば再燃する.再燃の際には,ステロイドに加えて様々な免疫抑制療法を併用する必要がある.

中型血管炎─川崎病を中心に

著者: 赤城邦彦

ページ範囲:P.306 - P.312

■川崎病は急性熱性の全身性血管炎で,中型血管である冠動脈炎から冠動脈瘤への合併がある.

■診断は「診断の手引き」によるが,診断基準の6項目中4項目は微小血管炎の存在を示していると考えられる.診断定型例でない不全型でも冠動脈病変の合併がある.

■検査所見では,自己抗体はなく,非特異的な炎症所見の高値と炎症性サイトカインの上昇が目立ち,2週目以降の回復期に血小板増多をみる.心エコー図による経過観察が重要である.

■病理所見では,栄養血管支配領域である冠動脈外側部と内膜の炎症から始まり中膜の炎症に至るが,初期の好中球浸潤から単球・マクロファージの増殖性病変となる.結節性多発動脈炎と異なりフィブリノイド壊死は認めず,新旧病相の混在はない.

■治療は免疫グロブリン大量療法が有効であるが,反応不良例にはTNF-α阻害薬も試みられている.

小型血管炎

著者: 伊藤聡

ページ範囲:P.313 - P.320

■小型血管炎はANCAの関与が多い.

■ANCA関連血管炎には,顕微鏡的多発血管炎(MPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA,Wegener肉芽腫症),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症〔EGPA,Churg-Strauss症候群(CSS),アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)〕などがある.

■わが国では,欧米に比べ,高齢者で,MPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎(MPA)の比率が高く,強力な免疫抑制療法を行うと感染症などの合併症をきたすおそれがあり,わが国独自の治療法を確立するため研究が行われている.

■個人の業績に基づいた疾患名(eponym)を廃止しようという運動を受け,疾患名の変更が行われているが,まだ混沌としているのが現状である.

血管炎のマーカー

著者: 猪原登志子

ページ範囲:P.321 - P.326

■抗好中球細胞質抗体(ANCA)の測定は原発性血管炎の診断に有用である.

■ANCAの同定方法には間接蛍光抗体法(IIF)と酵素免疫測定法(EIA)がある.

■ANCAの定量的測定のための酵素免疫測定法(EIA)にはELISA,蛍光酵素免疫測定法(FEIA),化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)などがある.

■ANCA測定方法の変更があった場合や他の施設での測定結果との比較においては,異なるANCA測定方法における絶対値の比較ができないことに留意し,臨床経過を注意深く観察し測定結果を慎重に判断する必要がある.

ANCAの検査法と問題点

著者: 中石浩己 ,   洲崎賢太郎 ,   土橋浩章

ページ範囲:P.328 - P.334

■ANCA測定はAAVの診断には欠かすことのできない臨床検査である.

■ELISA法陰性のAAVが存在し,IIF法が必要である.

■ANCA測定法の多様化に伴い標準化が必要である.

表紙の裏話

幹細胞を用いたステロイドホルモン産生細胞作製と再生医療への可能性

著者: 矢澤隆志 ,   宮本薫

ページ範囲:P.234 - P.234

 ヒトを含めた哺乳類の主要なステロイドホルモン産生器官は,副腎と生殖腺である.生殖腺のステロイドホルモンは卵・精子の形成や二次性徴の発達に寄与し,副腎皮質ステロイドホルモンは糖代謝や電解質保持といった生体の恒常性維持に働く.そのため,生殖腺や副腎の機能不全によるステロイドホルモンの産生異常症は,場合によっては死に至るような重篤な障害をきたすことになる.従来は,これらの疾患に対してホルモン補充療法が実施されてきた.しかし,頻回な投与が必要であることや副作用の問題があり,これに代わる治療法の開発が望まれている.そこで当研究室では,幹細胞からステロイドホルモン産生細胞を作製する試みを行っている.

 まず幹細胞は,どんな細胞にも分化する全能性を有する胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)と,組織から採取できるが,分化能が限定的である成体幹細胞に大きく分けられる.ES細胞からステロイドホルモン産生細胞を誘導する実験は先行報告があったのだが,自律的なホルモン産生ができない不完全な状態であるうえ,再現性も悪いという結果であった.そこで当研究室は,ステロイドホルモン産生細胞と同様に中胚葉由来と考えられる骨髄由来の間葉系幹細胞に目をつけた.この細胞は成人から穿刺によって採取することができるだけでなく,胎盤や臍帯血などにも含まれる.

INFORMATION

第19回第1種ME技術実力検定試験および講習会のお知らせ

ページ範囲:P.288 - P.288

 第1種ME技術実力検定試験はME機器・システムおよび関連機器の保守・安全管理を中心に総合的に管理する専門知識・技術を有し,かつ他の医療従事者に対し,ME機器・システムおよび関連機器に関する教育・指導ができる資質を検定することを趣旨とし,第2種ME技術実力検定試験合格者および臨床工学技士免許所有者を受験対象者としております.

 講習会では,受験制度の説明および関係する医療機器,介護・福祉機器およびそれらのシステムの知識,技術についての解説を行います.

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.336 - P.336

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・3

免疫電気泳動でspurを形成し,M蛋白量と免疫グロブリン濃度が乖離するIgA2型多発性骨髄腫

著者: 藤田清貴 ,   石垣宏尚 ,   佐藤裕久 ,   亀子文子

ページ範囲:P.337 - P.344

はじめに

 日常検査では,量的あるいは質的異常を示す様々な検体に遭遇する.特に,病態とかけ離れた異常な数値,あるいは奇妙な電気泳動パターンがみられた場合,どのような原因で起こったのか,それをどのように処理し解析したらよいのか判断に迷うことが多い.

 例えば,総蛋白濃度とアルブミン値との差から求められるグロブリン量と免疫グロブリン定量値が乖離する例や,血清蛋白分画値から算出されたM蛋白量と免疫グロブリン定量値に乖離がみられる例などでは,抗原過剰によるプロゾーン現象や,濃度分布の少ないIgG,IgAサブクラスの増加による原因が最も考えられる1~3).

エラーに学ぶ医療安全・3

安全なシステム構築の考え方

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.345 - P.349

はじめに

 人間の生まれながらの特性は,教育や訓練で変えることは非常に難しいと,前回学んだ.安全なシステムを構築するにはこれらの特性を考慮し,発想を変える必要がある.

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書評 誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 重篤な疾患を見極める!

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.247 - P.247

 風邪の診断をするときによく思い出すのは,田坂佳千先生の「かぜ症候群における医師の存在意義は,他疾患の鑑別・除外である」という教えである.ありふれた疾患の水面下には,目では見えない大きく深い世界が隠れている.内科全般にわたる広範な医学知識と適切な問診や身体所見から目に見えない部分を感じとることが必要だ.風邪のふりをした,とんでもない重症疾患があるのだ.

 風邪には咳,咽頭痛,鼻汁の3つの症状がある.この中の一つの症状しかなければ風邪の診断は怪しい.咳+発熱だけなら肺炎,咽頭痛+発熱だけなら急性喉頭蓋炎,鼻汁+発熱だけなら副鼻腔炎かもしれない.本書では典型的な風邪の症状について,いくつかの症状パターンに分けてわかりやすく解説されている.漢方処方が不得意な私にとっては,咳には「麦門冬湯」,鼻水には「小青竜湯」,咽頭痛には「桔梗湯」との提案はありがたい(p11).診療の幅が広がりそうだ.漢方はことさら強い主張はないのに,中国3000年の歴史から凛としてロマンチックな雰囲気を醸し出してくれる.

「検査と技術」3月号のお知らせ

ページ範囲:P.255 - P.255

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.277 - P.277

投稿規定

ページ範囲:P.352 - P.352

次号予告

ページ範囲:P.353 - P.353

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.354 - P.354

 年度末の3月,会計の締め切り,各種契約の更新,人事異動と,読者の皆さまにおかれましては,年末とはまた異なる忙しさの中にいらっしゃることと推察しております.師走の総選挙により国内の政局は大きく動き,2012年から2013年への変化は,医学界にとっても追い風になるのかどうか,とても気になるところです.デフレ脱却のために日銀が動いて公的資金が投入されることが吉と出るか凶と出るかはわかりませんが,いまは日本が元気を取り戻すか,このまま債務超過国として落ちていくのかの瀬戸際ですので,いったん経済政策の舵を切ったら失敗は許されないということだと認識しております.技術立国日本を継承していくために,今後復活し増額されることが期待される先端科学研究への国の補助を,私たち医学界としてもぜひ有効に活用していきたいものです.

 2013年1月号から誌面をリニューアルし,毎号2つのテーマについて話題を提供することになった本誌ですが,3月号では,病理診断の領域から「分子病理診断の進歩」を,自己免疫疾患の領域から「血管炎症侯群」を取り上げました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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