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雑誌目次

論文

臨床検査57巻4号

2013年04月発行

雑誌目次

今月の特集1 次世代の微生物検査

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.359 - P.359

 微生物検査では,従来,塗抹・鏡検・培養・薬剤感受性試験による検査法が,臨床現場におけるルーチンの検査法として行われています.こうした形態学的手法・生化学的手法を用いた検査法は微生物検査の基本ですが,最終同定に至るまでに日単位の時間を必要とし,迅速性という点では問題があります.また,通常の培養法では検出しにくい微生物の確定診断に使用することもできません.近年こうした培養法とは別の,遺伝子学的手法や質量分析法を応用した検査法が注目されています.また一方では,従来からの培養検査においても,検査機器の自動化が進められています.

 そこで今回の特集では,迅速かつ正確に微生物を同定することを目標に開発された,次世代の微生物検査に焦点を当て,その特徴と問題点,臨床応用の実際について,最新の情報を提供します.

自動細菌検査装置の現状と将来性

著者: 川上小夜子

ページ範囲:P.360 - P.370

■自動細菌検査装置は,現在,最も汎用されている細菌検査法である.

■自動細菌検査装置は検査の省力化,検査時間の短縮化,標準化,精度管理,データ解析,データ通信に優れ,細菌検査レベルの向上をもたらした.

■MALDI-TOF MSの導入を契機とした微生物検査ワークフローの再編や,全自動微生物検査搬送システムの導入は,次世代の微生物検査システムとして,感染症治療と感染制御へのさらなる貢献が期待される.

LAMP法を用いた微生物検査の臨床応用

著者: 百田隆祥

ページ範囲:P.371 - P.378

■結核菌検査,マイコプラズマおよびレジオネラ肺炎検査においては,迅速でありかつ正確な検査法が求められている.

■LAMP法は迅速,簡易,正確な遺伝子増幅法であり,そのLAMP法を応用した結核菌群,マイコプラズマおよびレジオネラ検出試薬キットが体外診断薬の製造販売承認を取得,2011年10月に保険収載された.

■百日咳菌検出試薬も研究用試薬として2011年3月に発売され,衛生研究所を中心に疫学調査に用いられている.

リアルタイムPCR法を用いた網羅的迅速検索法

著者: 諸角美由紀

ページ範囲:P.380 - P.386

■急性呼吸器系感染症では原発感染としてウイルス関与の割合が高く,細菌は続発感染の原因となる場合が多い.

■臨床での診断を目的としたリアルタイムPCR法が開発され,世界的にも注目されているが,臨床検査材料から主要な原因微生物を迅速に検索することが可能である.

■急速に進行する細菌の耐性化を防ぐには,原因微生物を迅速に推定し,そのエビデンスに基づいた抗菌薬の適正使用が求められている.リアルタイムPCR法による検索結果を,症例の胸部X線写真所見,臨床症状,臨床検査値と併せて応用することが期待される.

MALDI-TOF MSを利用した菌種同定法

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.388 - P.396

■質量分析は,①試料をイオン化する,②イオンを分離する(重さで分ける),③そのイオンを検出する,の3つのステップからなる.

■MALDI-TOF MSを用いた菌種の同定は,データベースに登録されている菌種とのマススペクトルのパターンマッチングである.

■MALDI-TOF MSは一般細菌だけでなく,嫌気性菌,抗酸菌,酵母様真菌,糸状菌の同定も可能である.さらに,血液培養陽性時の培養液から直接の菌種同定にも活用できる.

16S rRNAを指標とした微生物の検出

著者: 草場耕二

ページ範囲:P.398 - P.405

■本検出法は,培養されたコロニーだけでなく,菌種が単独の感染症であれば検体からでも幅広く菌種名を同定することが可能である.

■検査の経済面,簡便性および迅速性においては,高価,煩雑で時間を要するため,ルーチンでの同定検査として導入することは困難であるが,まれに遭遇する同定困難あるいは検出困難な場合の検査法として効果を示す.

■本検出法は,多くの菌種を同定する検査法として優れているが,一部菌種については菌種名まで同定できない場合があり,このような問題点を把握することも重要である.

次世代シークエンサーを用いたヒト常在菌叢の大量16S解析

著者: 服部正平 ,   金相完 ,   須田亙

ページ範囲:P.406 - P.414

■次世代シークエンサーの登場は,大量データをベースにした複雑な細菌叢の菌種や遺伝子の,培養に依存しない網羅的解析を可能にした.

■従来よりも高い定量性を付与した網羅的16SリボソームRNA遺伝子シークエンシングによるヒト腸内(常在)細菌叢の解析法を開発した.

■大量の16SデータのOTUとUniFrac distance解析を用いて細菌叢間の相違や細菌叢に特徴的な菌種をピンポイントで同定する方法を開発した.

■培養した細菌種の個別ゲノム解析は,16Sおよびメタゲノムデータの有効活用に必要である.

今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

ページ範囲:P.415 - P.415

 非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)は糖尿病,肥満,高血圧,高脂血症などと共通の病態を基盤とし,近年病態形成の機序が明らかにされてきています.肝臓の中性脂肪沈着を特徴とし過剰栄養によりもたらされる,いわばヒトの肝臓のフォアグラ化です.日常検査における肝機能異常の約30%を占め,一部は肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH),肝硬変症,肝癌へと進展することから,早期発見,治療,予防にむけて臨床検査が果たす役割がさらに期待されます.

 本特集ではまず臨床像から診療の全体像を,さらにgolden standardである病理診断検査,最近の病態生理の研究成果を踏まえ,さまざまな角度からNAFLDに関する新しい検査アプローチをご解説いただくことにしました.

非アルコール性脂肪性肝疾患の診断,経過観察,治療

著者: 乾あやの ,   角田知之 ,   川本愛里

ページ範囲:P.416 - P.420

■非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)にはインスリン抵抗性が深く関与している.

■NAFLDの治療の基本は運動と食事である.

■NAFLDの社会的予後は悪い.

■NAFLDは社会全体で取り組むべき課題である.

非アルコール性脂肪性肝疾患の病理診断

著者: 橋本悦子

ページ範囲:P.421 - P.426

■脂肪肝は,大きくアルコール性と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に分類され,NAFLDは単純脂肪肝と,適切な治療介入がなければ肝硬変や肝細胞癌に進行する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)からなる.

■NAFLDの診断基準は,①非飲酒者(少量飲酒者は含まれる),②肝組織あるいは画像診断での脂肪肝の診断,③他の原因による肝疾患の除外である.

■単純脂肪肝は大脂肪滴を中心とする脂肪沈着を示し,NASHの病理診断基準は,①大滴性脂肪沈着,②炎症性細胞浸潤,③肝細胞の風船様変性である.

■NAFLDの病理診断分類は,線維化(Staging)と活動性(Grading:脂肪沈着,肝細胞の風船様変性,炎症性細胞浸潤)からなる.

メタボリック症候群と非アルコール性脂肪性肝疾患

著者: 内山明 ,   今一義 ,   渡辺純夫

ページ範囲:P.427 - P.431

■近年,メタボリック症候群の肝病変の一つとして非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に注目が集まっている.その一部の症例は炎症,線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であり,肝硬変から肝不全や肝癌まで進展する.

■NAFLDの病態形成の背景には肝臓,脂肪組織,筋組織を循環する脂質の供給・代謝のバランスの破綻があり,肝細胞内脂質沈着のメカニズムはインスリン抵抗性の誘導にも深く関与している.

■NASHの発症においては,肝臓内のイベントのみならずアディポサイトカイン(脂肪組織由来のサイトカイン)の発現変化が寄与していると考えられている.

鉄代謝からみた病態のメカニズム

著者: 宮西浩嗣 ,   加藤淳二

ページ範囲:P.432 - P.437

■H2O2とFe2+の作用でOH+・OH+Fe3+が生成されるFenton反応では,最も毒性の強い活性酸素種(ROS)であるhydroxyl radical(・OH)が多量に生じる.

■過剰鉄は酸化ストレスを誘引するsecond hit因子の1つであることが想定されている.

■血清フェリチンが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の組織学的重症度・線維化の予測因子となる可能性が大規模臨床研究により示されている.

肝癌発症に至る長期フォロー

著者: 川村祐介 ,   熊田博光

ページ範囲:P.438 - P.442

■腹部超音波検査にて脂肪肝を指摘された症例全体では肝発癌率は年率0.043%であるが,線維化進行が疑われるような症例においては,発癌率は年率0.34%まで上昇する.

■NAFLD/NASH症例をフォローするうえで,体重減少を伴わず,画像検査上脂肪肝が減弱もしくは消失し,トランスアミナーゼが低下,かつ血小板数が減少するような症例においては,病態が進行し,線維化が進展している症例が存在するため注意を要する.

膵頭十二指腸切除術後の非アルコール性脂肪性肝疾患

著者: 小松通治 ,   田中直樹 ,   田中榮司

ページ範囲:P.443 - P.450

■膵頭十二指腸切除術(PD)後に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を発症することはよく知られているが,その発症機構は不明である.

■本検討では,PD後のNAFLD発症には膵外分泌機能低下が関係していると考えられた.

■膵酵素補充療法がNAFLDや肝機能異常の改善に有効である可能性が示唆された.

表紙の裏話

生命の左右の謎を追い求めて

著者: 阿部真典 ,   黒田玲子

ページ範囲:P.358 - P.358

 動物にとって左右とは何だろう.私たちは,見かけは左右対称だが,中身をみると心臓は左にあり消化管のねじれる向きも決まっている.昔から研究者たちはこの形態の左右決定メカニズムに強い興味を抱いてきた.近年では,無脊椎動物から脊椎動物まで左右軸の形成過程で同じような遺伝子が働くことが明らかになり,共通のメカニズムの解明が期待されている.

 筆者らが研究材料としているLymnaea stagnalis(ヨーロッパモノアラガイ)は淡水産巻き貝であり,まさに殻が螺旋状に巻いている.大部分は右巻きなのだが,まれに天然の左巻き個体が存在する.しかも左右の個体は殻だけでなく内臓の位置・向きに至るまで全てが鏡像対称であり,このような全内臓逆位の正常体が天然に存在する点は,他の生物にない非常にユニークな特徴である.古典的な交配実験から,左右の巻型はたった1つの遺伝子で決まることが証明されており,筆者らはこの左右決定遺伝子を同定しようとしている.

INFORMATION

―千里ライフサイエンス技術講習会―生体2光子励起イメージング

ページ範囲:P.386 - P.386

■日時 2013年8月1日(木) 10:00~17:00 および

8月2日(金)  9:00~12:30

■場所 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(セミナー室および研究室)

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.452 - P.452

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・4

低コリンエステラーゼ血症

著者: 前川真人

ページ範囲:P.453 - P.458

はじめに

 血清酵素の異常データは,多くは主治医が予測する病態によって生じるものであるが,時々予想外のデータがみられる.本例はそのような一例である.患者側の要因による場合,先天性,後天性(獲得性)の2つに大別して考え,先天性の場合,家系検索も必要となることもある.本例は,知識によって解決できるものであるため,各検査対象のもつ意味を整理して覚えておきたい.

エラーに学ぶ医療安全・4

エラー対策の発想手順

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.459 - P.464

はじめに

 前回は,安全なシステムを構築するための考え方について学んだ.第4回では,具体的なエラー対策について考えたい.これまでのヒューマンエラー対策は経験に基づく思いつきが多かったが,可能な限り抜けのない対策を立てるために,理論に基づいたエラー対策の発想手順を紹介する.

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「検査と技術」4月号のお知らせ

ページ範囲:P.426 - P.426

書評 新臨床栄養学 第2版

著者: 小越章平

ページ範囲:P.451 - P.451

 このたび医学書院より,『新臨床栄養学』が6年ぶりに改訂になり刊行された.本書は馬場忠雄先生ならびに山城雄一郎先生が中心となり,それに若手というより現在,旬のベテラン4人が編集協力者として加わって全面改訂が行われ,第2版として刊行に至ったことに,まずはご同慶の至りと心よりお祝い申し上げる.

 初版は紹介するまでもなく,故岡田正先生の孤軍奮闘の力作であり,当時は少なかった医家向けのスタンダードを目指したテキストで,かなり画期的と言えるものであった.栄養学にとってのこの30年は,高カロリー輸液,そして経腸栄養は成分栄養法を中心として方法論はもとより,その臨床効果は「抗生物質に並ぶ20世紀最高の治療手段」といわれ,重症患者の管理には不可欠のものとなった時代である.今から振り返って,当初臨床栄養学の全般を網羅するこのような教科書を完成させたのは,全く岡田先生の情熱のほかの何ものでもないと感心させられる.

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.458 - P.458

投稿規定

ページ範囲:P.466 - P.466

次号予告

ページ範囲:P.467 - P.467

あとがき

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.468 - P.468

 今年は,3年ぶりに自民党政権下で新年を迎えることになりました.期待の大きかった民主党政権でしたが,迷走を重ね,結局は国民に将来に対する不安を与えて終わってしまいました.将来に対する展望を国民に供することが,政治の重要な役割であることを痛感させられた3年間でした.安倍新政権は,そのスタートに際しては民主党の失敗をよく学んでいるように思えます.積極財政により経済成長を促すという明確な目標を設定することにより,国民に対して多少なりとも明るい展望を提供できているように感じられます.まずは再登板した自民党政権に期待したいところです.

 さて,本誌も今年になって誌面が一新されました.表紙の体裁や誌面の構成も変わりましたが,特集を二つ取り上げることになったのが最大の変更点でしょう.個人的には随分魅力的な雑誌になったのではと思っておりますが,読者のみなさんの感想はいかがでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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