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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査57巻5号

2013年05月発行

雑誌目次

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす

著者: 山内一由

ページ範囲:P.473 - P.473

 “検査値を活かす”とは,検査値を単なる数字(あるいは画像)ではなく,情報の階層へ高めること,すなわち,診療に有用な知識に磨きあげることです.検査値を情報にし,さらに,さまざまな情報と組み合わせると,その価値は飛躍的に増します.検査値の活かし方次第では,まだ知り得ぬ画期的な診断作法の開発にもつながります.個々の検査値のもつ可能性はまさに無限と言えますが,どのように扱えば,情報としての価値を付与できるのかは難しいところです.

 一方,患者さんは,単に値が高いか低いかだけでなく,検査値を付加価値に富んだ情報へと高めてもらい,それに基づいて系統的な医療を受けたいと願っています.言葉やその意味を知らなくとも,EBMやEBLMを求めているのです.

EBLMの現状と検査部の役割

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.474 - P.478

■EBMは眼前の患者の問題解決にエビデンスを具体的に利用する行動指針である.

■EBMはPECOによる問題の定式化に始まる5つのステップである.

■EBLMでは検査の診断的有効性が評価指標の基本である.

■近年では検査実施による予後改善を指標とする臨床研究も行われている.

■EBLMは検査の適正利用の推進に有用である.

EBLMの実践に必要な統計

著者: 市原清志

ページ範囲:P.479 - P.494

■EBLMに必要なエビデンスは,主に検査の診断的評価や変動要因に関するものであり,観察研究(患者対象研究や実地調査)により導かれる.

■観察研究は,交絡現象や交互現象などのバイアスの影響を受けやすく,そこからエビデンスを得るには,多変量解析の利用が必須となる.

■検査の診断的エビデンスを得るには多重ロジスティック分析を,検査の変動要因に関するエビデンスを得るには重回帰分析や枝分かれ分散分析を用いる.本稿では,それらの理論を,モデルデータ(数値例)を交えて解説する.

検査情報の有効活用に必要なデータベースのあり方

著者: 真鍋史朗 ,   松村泰志

ページ範囲:P.496 - P.502

■臨床検査データを施設間で利用するにはコードの標準化が必要である.

■日本では臨床検査項目標準コードとしてJLAC10が使われている.

■長期保存するデータのコードは目的によって世代管理を行う.

検査情報からの新たなエビデンス創造―構造方程式モデリングの理論と実例

著者: 山西八郎

ページ範囲:P.503 - P.509

■構造方程式モデリング(SEM)は,重回帰分析,パス解析,および因子分析が融合した因果解析法である.

■SEMでは,能力,病態といった概念を,観測変数の組み合わせとして変数化することができる.

■因果モデルからは,経験的に既知である直接効果よりは,未知の間接効果を導きだすことに意味がある.

検査情報からの新たなエビデンス創造―大規模データへのIT技術の応用

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.510 - P.517

■データマイニングは大規模なデータから有用なパターンや規則を発見する研究で,解析,可視化,評価の検証サイクルを回すことから有用な知識を発見することを目的とする.対象領域(医学)と解析の特性を理解して実施すべき研究分野である.

■診療データベースから新たなエビデンスを創造するには,信頼できるデータで構成されたデータウエアハウスの構築が不可欠である.

■大規模データを取り扱う場合は,データベースのSQLなどを用いたデータベース問い合わせが自由にできる技術をもつことが必須である.

■大規模データの解析では,膨大な計算量が必要とされるため,効率的で単純なアルゴリズムの組み合わせの繰り返しや,次元削減や要約などの情報処理技術を利用する.

検査情報の効果的活用法の実際

著者: 稲田政則 ,   佐藤真由美 ,   米山彰子

ページ範囲:P.518 - P.524

■検査情報は医療資源の1つであり,適切にマネジメントされなければならない.

■情報のあふれる時代に,効果的に検査情報を取り扱うためには,知識管理システムを整備し,ナレッジマネジメントを実践していく必要がある.

■多様化する臨床医のニーズに応じて,検査に関するエビデンスを提供できるシステムの構築が求められる.

診断検査に関する診療ガイドラインの作成:GRADEシステムの活用

著者: 石田博

ページ範囲:P.525 - P.532

■GRADEシステムは,システマティックレビュー(SR)および診療ガイドライン(CPG)におけるエビデンスの質を評価し,CPGに示される推奨の強さをグレーディングするための透明性の高いアプローチである.

■SRにおける重要なアウトカムごとのエビデンスの質評価に加え,CPGにおいてはアウトカム全般にわたるエビデンスの質を評価し,さらに利益・不利益のバランス,患者の価値観,資源消費などを考慮し,推奨の方向性(する・しない)と推奨の強さを策定することがGRADEシステムの特徴である.

■診断検査のCPGでは,診断精度は死亡率などの患者にとって重要なアウトカムと直接的には結びつかないため,推奨策定には,それらの重要なアウトカムに与える検査精度(真陽性,真陰性,偽陽性,偽陰性)の影響を推論する必要がある.さらに,診断すべき疾患における検査閾値,治療閾値の推定は,疾患の有病率(検査前確率)ごとに診断検査の推奨を行う判断のうえで重要な基準となる.

今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.533 - P.533

 血液学,特に血栓止血学の近年の重要なトピックスとして,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type-1 motifs 13)の発見を挙げることができます.今回の特集では,このADAMTS13を取り上げました.ADAMTS13に関する基礎的事項から,疫学的事項,臨床検査分野におけるその利用まで,体系的に取り上げたつもりです.

 ADAMTS13は血清形成における役割,特に血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)との関連で注目されました.しかし,近年ではそれに止まらず,肝疾患に対する臨床検査としての利用も試みられています.本特集が,読者の皆さまのADAMTS13についての理解の深化と,臨床検査としての利用の普及に寄与することを願って止みません.

ADAM/ADAMTSファミリープロテアーゼの構造と機能

著者: 武田壮一

ページ範囲:P.534 - P.540

■ADAM/ADAMTSファミリーは特徴的なドメインがつながったモジュラー構造をもつプロテアーゼであり,触媒ドメインとともにエキソサイトドメインも,標的となる蛋白質分子の認識に重要な役割を担っている.

血栓形成におけるADAMTS13の役割

著者: 杉本充彦

ページ範囲:P.542 - P.548

■VWFは血管内のずり応力が高くなるほど血小板粘着・凝集活性が増強する.

■高ずり応力下でVWFマルチマーが引き伸ばされることで切断部位が露出し,ADAMTS13によって切断される.

■VWF-ADAMTS13軸を基盤とした微小動脈血栓症成立メカニズムが明らかとなった.

■脳梗塞,心筋梗塞などの典型的動脈血栓症にもVWF-ADAMTS13軸が関与している.

ADAMTS13の臨床検査

著者: 加藤誠司 ,   藤村吉博

ページ範囲:P.549 - P.555

■TTPを疑う際にはまずADAMTS13の測定を実施し,その診断に重要な検査はADAMTS13活性の測定とインヒビター力価の測定である.

■後天性のTTPと確定診断した後にもインヒビター力価の急上昇などがあるため,病体把握するためにADAMTS13の測定が必要である.

■ADAMTS13活性およびインヒビター測定には,クエン酸血漿を使用し,EDTA血漿は不可である.

先天性ADAMTS13欠損症

著者: 宮田敏行 ,   小亀浩市 ,   小久保喜弘

ページ範囲:P.556 - P.561

■血漿ADAMTS13活性は,40%程度という低値から240%程度という高値まで幅広く分布し,男性のADAMTS13活性は女性より低値を示した.また,男女共に血漿ADAMTS13活性は加齢により低下し,特に60歳以降に低下がみられた.

■日本人におけるADAMTS13欠損症ヘテロ接合体は約530人に1人と推定された.これから計算すると,TTPを発症する可能性をもつADAMTS13欠損症の複合ヘテロ接合体もしくはホモ接合体は,約110万人に1人と計算された.

■先天性TTP患者の遺伝子解析は2001年に初めて報告され,現在では100種以上の遺伝子変異が世界中から報告されている.1アミノ酸置換であるミスセンス変異が最も多いが(約60%),それ以外の非同義変異も多数同定されており,日本人研究者の貢献は極めて大きく,40種以上の変異を同定している.

ADAMTS13と肝細胞癌

著者: 池田均

ページ範囲:P.563 - P.566

■ADAMTS13は肝臓の星細胞により特異的に産生される.

■動物の肝障害モデルにおいて,血中ADAMTS13活性は星細胞による産生に強く規定される.

■ウイルス性慢性肝障害例で血中ADAMTS13活性が高い症例ほど,後の肝細胞癌発症頻度が高かった.

肝移植におけるADAMTS13活性測定―周術期におけるADAMTS13活性モニタリングの意義

著者: 田中宏和 ,   秦浩一郎 ,   上本伸二

ページ範囲:P.567 - P.574

■近年,肝移植後の致死的合併症の1つとして血栓性微小血管障害(TMA)が注目されている.

■UL-VWFMの特異的切断酵素であるADAMTS13は主に肝星細胞で産生されるため,肝移植後早期にはADAMTS13活性が著明に低下する.

■TMAの治療には早期診断が極めて重要であるが,周術期にADAMTS13活性をモニタリングすることにより,肝移植後のような凝固線溶能がダイナミックに変動する病態であってもその推移をリアルタイムに把握し,適切な治療を施行することが可能になるものと期待される.

表紙の裏話

卵を目指す精子

著者: 稲葉一男

ページ範囲:P.472 - P.472

 精子はDNAが固く織り込まれた頭(頭部),運動のためのエネルギーであるアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate;ATP)を生産するミトコンドリアが含まれる中片部,そして運動のための器官であるしっぽ(尾部,鞭毛)からなる遊離細胞である.ヒトの体の中では,体外で重要な使命を果たす唯一の細胞である.最近では,鞭毛の解糖系で生産されるATPが運動のエネルギーとして重要であることもわかっている.鞭毛ではATPを使って屈曲運動のための力が発生するが,この力の発生を担っているのが分子モーター“ダイニン”である.ダイニンは精子の運動のほか,気管支や卵管に生えている繊毛の運動も担っているため,遺伝的にダイニンに異常があると,男性不妊だけでなく,排卵異常や慢性の気管支炎を引き起こすことが知られている.これらは“繊毛病”とも呼ばれる.

 さて,精子が方向性もなくランダムに動いていては,効率よく卵に達することができない.ヒトを含め,多くの動物において,精子が卵に向かって運動する“走化性”という現象が知られている.卵あるいは雌性生殖器から,精子の運動性を変化させる物質(走化性物質)が放出され,その濃度勾配に反応して精子が卵に向かって運動する.言い換えれば,精子は卵にたどり着く長い道のりを,走化性物質の勾配に誘導されて進んでいくとも言える.

INFORMATION

第58回千里ライフサイエンス技術講習会―ウイルスベクターを用いた細胞への遺伝子導入―

ページ範囲:P.555 - P.555

日 時:2013年6月5日(水) 9:30~17:00

場 所:大阪大学大学院薬学研究科

コーディネーター:

 水口 裕之(大阪大学大学院薬学研究科/独立行政法人医薬基盤研究所)

千里ライフサイエンスセミナーE1―メタボローム研究の疾患への応用を目指して―

ページ範囲:P.574 - P.574

日 時:2013年5月27日(月) 10:00~17:00

場 所:大阪府・千里ライフサイエンスセンタービル

    5階ライフホール

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.576 - P.576

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・5

特発性血小板減少性紫斑病の患者血清中から検出されたまれなIgG3κ-CK-MM型マクロCK1の検索方法

著者: 金光房江

ページ範囲:P.577 - P.583

はじめに

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)-MBは心筋に特異的かつ高活性に存在するが,急性心筋梗塞初期でも血清CK-MB/CKはたかだか25%止まりのことが多い1).しかし,血中にCK-BBやミトコンドリアCK(Mi-CK),マクロCK1などが存在すると,免疫阻害法では25%以上になることがあり2),逆にCK-MB/CKに上昇がみられると,これらCKの存在が推測できる.しかし,今回取り上げる特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)の一例はCK-MB/CKが7%で,このデータのみではマクロCK1の存在は推測困難であった3).さらに,通常のマクロCK1は持続的で変化に乏しい例が多いが,このマクロCK1は短期間で血小板数とは逆方向に変化し,病態との関連が示唆された3)

 本稿では,このまれなマクロCK1について,構成する免疫グロブリンとアイソザイムの検索・同定方法を中心に解説する.

エラーに学ぶ医療安全・5

事故の構造に基づく分析:ImSAFER

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.584 - P.588

はじめに

 これまでヒューマンエラーとは何か,ヒューマンファクター工学の考え方,対策の立て方などについて解説してきた.第5回はそれらを応用した分析の手法について説明する.

学会へ行こう

第62回日本医学検査学会

著者: 唐木孝雄

ページ範囲:P.590 - P.591

見どころピックアップ

・学会記念学会長特別企画「検査診断への展望」その1

・学会長講演「街角ラボの展望」

・青井貴之教授(京都大学)の講演「iPS細胞研究による再生医療と臨床検査への期待」

研究

トロンビン・アンチトロンビン複合体,プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体測定値に対する検体採取,保存条件の影響

著者: 西山友貴

ページ範囲:P.592 - P.595

 トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT),プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)測定値に及ぼす検体採取,保存の影響を検討した.手術10症例から採血を①緩徐にまたは②急速に,採血管への注入を③緩徐にまたは④陰圧で行い,⑤直ちに,⑥氷冷保存1時間または⑦2時間後血漿を採取,TAT,PICを測定した.TAT,PICが高値を示す場合,急速採血や陰圧注入が有意に測定値を高く評価した.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.532 - P.532

「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.540 - P.540

書評 日本近現代医学人名事典【1868─2011】

著者: 猪飼周平

ページ範囲:P.575 - P.575

 本書は,呼吸器内科を専門とする医学者が14年にわたり,明治期以降日本の近代医学・医療の発展に貢献した3,762名(物故者)の履歴を調べあげた成果である.評者のように,明治期以降の医業関係誌を参照する機会の多い者にとっては,このように便利かつ確度の高いレファレンスが完成したことは,大変喜ばしいことであり,そのありがたみは今後随所で感じられることになるであろう.編者の長年のご苦労に感謝したい.

 とはいえ,本書を単に事典として理解するとすれば書評の対象とする必要はないかもしれない.そこで以下では,本書を約800ページの読物と解してその意義を考えてみたい.

投稿規定

ページ範囲:P.596 - P.596

次号予告

ページ範囲:P.597 - P.597

あとがき

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.598 - P.598

 2013年から編集委員として新たに参加させていただいております.どうぞよろしくお願いいたします.

 今回,はじめてあとがきを書かせていただくことになりました.今まで長期に渡り一人の読者として,主に自分の仕事に直結する部分のみを読んできました.今年から縁があり一転皆さまへ本誌を提供する立場となり,改めて全分野に範囲を広めて読み返してみたところ,自分の知識がいかに時代遅れかを痛感いたしました.それと同時に,学生時代に感じたような新しいことや臨床検査の今を知る喜びと,何故か言葉にし難い安心感も湧いてきました.他分野もこんなにわかり易く解説されていたのに,私は長年何てもったいないことをしていたのでしょう.おそらく,これこそが読者目線であると思い,今の気持ちを大切にしていきたいと思っています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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