icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査57巻6号

2013年06月発行

雑誌目次

今月の特集1 尿バイオマーカー

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.603 - P.603

 尿のバイオマーカーは腎前性,腎由来に大別されます.前者は血清由来の低分子蛋白群であり,後者は糸球体,尿細管,集合管から局在分布し,生理,病態変化に伴い分泌,放出される成分から構成されます.近年,プロテオミクス解析をはじめとする方法論の進展に伴い,腎の病態生理異常において出現する新たな成分の同定が詳細に進められて,尿中測定の臨床的意義が拡大してきています.複数のマーカーを組み合わせた新しい研究成果にもとづく病態解析プロフィルも視野に入ってきました.

 そこで,総論として尿バイオマーカー探索の最近の研究動向を,各論として今後臨床検査への利用が期待される新しいマーカー5成分を取り上げ,いかにして早期の段階から特異的に異常を捉え責任部位を定めて,補助診断,治療,予防に資するか,病態機序も踏まえて検査上の意義について解説いただくことにしました.

ヒト腎臓・尿プロテオームプロジェクトによるバイオマーカー探索の戦略

著者: 山本格

ページ範囲:P.604 - P.609

■プロテオミクスで腎臓の蛋白質を網羅的に解析することで腎臓の生理機能や腎臓病の理解が深まる.

■尿の蛋白質を網羅的に解析し,その蛋白質の由来や尿中排泄機序を理解することで,腎臓病の新しいバイオマーカーが開発されると期待される.

尿中ポドカリキシンによる病態解析

著者: 原正則

ページ範囲:P.610 - P.616

■急性腎障害(AKI),慢性腎臓病(CKD)対策上,治療指標となるような有用な尿バイオマーカーの開発が望まれている.

■たこ足細胞(Podo)は特異な形態をとり,高度に機能が分化しており,非常に増殖しにくいなどの生物学的な特性を有している.

■Podo障害が糸球体硬化に深く関与している.

■尿中Podo検査,尿中ポドカリキシン(PCX)定量検査はPodo障害を評価する有用な検査法である.

Neutrophil gelatinase-associated lipocalinによる病態解析

著者: 森潔 ,   桒原孝成 ,   横井秀基 ,   笠原正登 ,   向山政志 ,   中尾一和

ページ範囲:P.617 - P.622

■尿中Ngalは重症の急性腎障害を超早期に診断することを可能とするバイオマーカーである.

■尿中Ngalは糸球体・近位尿細管・遠位ネフロンのいずれの障害・機能不全でも上昇する.

■尿中Ngalは慢性腎臓病の病勢,予後,治療薬の効果を判定するのに有用である.

尿中L-fatty acid binding proteinによる病態解析

著者: 池森敦子 ,   菅谷健 ,   松井勝臣 ,   市川大介 ,   木村健二郎

ページ範囲:P.623 - P.629

■2011年8月に保険収載された尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)は,尿細管機能障害マーカーである.

■新尿(随時尿)で測定でき,尿クレアチニン補正をした正常上限値は,8.4μg/g.creatinineである.

■糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患(CKD)や急性腎不全〔急性腎障害(AKI)〕の早期診断や疾患進行予後予測に優れたモニタリングマーカーである.

肥満・メタボリック症候群におけるシスタチンC測定の意義

著者: 浅原哲子

ページ範囲:P.630 - P.636

■わが国でも急増する肥満を基盤とした生活習慣病やメタボリック症候群(MetS)は,心血管病(CVD)および慢性腎臓病(CKD)の高リスク群である.

■CKDもCVD発症リスクを上昇させ,肥満・MetSにおいてはこの“心腎連関”の病態解明と至適診断・治療法の確立が重要である.

■血清シスタチンCは腎糸球体基底膜を自由に通過し,99%以上が近位尿細管から再吸収されるため,鋭敏な糸球体障害の指標として注目されている.

■尿中シスタチンC/クレアチニン比はβ2-microglobulinなど他の指標成分と同様またはそれ以上に,尿細管障害が早期段階から検知できる指標である.

■肥満において,血清シスタチンCや尿中シスタチンCは推算糸球体濾過量(eGFR)のみならず,動脈硬化指標や減量治療効果とも関連が認められており,CVDやCKDリスク指標として有用である可能性がある.

尿中アクアポリン2の病態検査上の意義

著者: 佐々木成

ページ範囲:P.637 - P.641

■アクアポリン2(AQP2)はバソプレシン反応性の水チャネルで,腎臓集合管に存在し尿濃縮に必須の役割を果たしている.

■尿中にエクソソームとして排泄され,免疫ブロット法,RIA法,ELISA法で測定が可能であり,バソプレシン作用の指標になると考えられている.

■臨床症例での測定において,尿中AQP2排泄量は尿濃縮力の低下する疾患(中枢性ならびに腎性尿崩症)で減少し,一方尿濃縮力が亢進し尿希釈不全となる疾患(心不全,肝硬変,SIADH)で増加することが示されている.

今月の特集2 連続モニタリング検査

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.643 - P.643

 臨床検査で得られるデータのほとんどは,病院で採血したり,器具をつけたりしたときのたまたまの状態を反映しているに過ぎません.言わずもがなのことですが,生体データの多くは,日内リズム,食事,運動,メンタルストレスなど,さまざまな因子に影響されて変動します.長時間にわたって連続的に,あるいは可能な限り頻回にデータを採取することの重要性は,すでにホルター心電図で証明されて,以降主に生理検査領域で応用されてきました.近年は,本特集でとりあげたように検体検査領域にも進歩の波が及んできて,今後は,応用される項目の拡大,より非侵襲化されたデバイスの導入などが現実的になるでしょう.ダイナミックなデータを評価するため,私たちはヒトの生理というものを再度学習する必要がありそうです.

24時間自由行動下血圧モニタリング

著者: 新保昌久

ページ範囲:P.644 - P.649

■24時間自由行動下血圧モニタリング(ABPM)は,日常生活に近い血圧測定をすることが可能で,それぞれの患者の特徴と病態を把握することができる.

■ABPMは,白衣高血圧や仮面高血圧の診断に有用であり,臓器障害や心血管イベントリスクの評価とそれに基づく治療を行うために活用できる.

■血圧日内変動の異常(non-dipper/riser,extreme-dipper)は,平均血圧が正常範囲でも臓器障害や心血管イベントのリスクになる.

■血圧の変動が大きい患者や治療抵抗性高血圧などのハイリスクな患者には,日常診療において積極的にABPMを活用することが大切である.

睡眠時呼吸モニタリング

著者: 信岡祐彦 ,   長田尚彦

ページ範囲:P.650 - P.655

■睡眠時無呼吸症候群(SAS)の問題は,過度の眠気による社会生活,特に安全管理上の問題と,心循環系に多彩な影響を及ぼすことの2点である.

■SASの診断には,監視下における標準睡眠ポリグラフ検査(PSG)が不可欠である.

■閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の主な治療法には,持続的陽圧呼吸(CPAP)療法,口腔内装置(OA),生活習慣の改善がある.

■SASの治療の意義は,①日中の眠気の改善による労働と生活の質の改善と,②心血管系合併症の治療および心血管イベントの防止にある.

食道内pHモニタリング

著者: 大島忠之 ,   山崎尊久 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.656 - P.661

■pHモニタリングは,食道あるいは胃内のpHを24時間継続して測定し,胃食道酸逆流の有無と症状との関連を評価する検査である.

■最近,インピーダンスとpHを同時に継続して測定することが可能となり,液体あるいは気体,酸あるいは非酸逆流を評価することが可能となった.

■酸分泌抑制薬に対して治療抵抗性の胃食道逆流症(GERD)はインピーダンス・pHモニタリング検査のよい適応である.

持続血糖モニタリング

著者: 芝真希 ,   近藤しおり ,   大澤春彦

ページ範囲:P.662 - P.667

■持続血糖モニタリング(CGM)は,皮下にセンサーを留置し小型のレコーダーに接続・携帯することで,皮下組織間質液のブドウ糖濃度を連続的に3日間程度測定するシステムである.

■血糖自己測定(SMBG)では“点”でしか確認できなかった血糖値が,CGMでは連続した“線”として認識することが可能となる.確認に限界のあった夜間就寝中の血糖変動も確認できる.

■間質液のブドウ糖濃度は,血漿のブドウ糖濃度の変化に遅れて変化するため,急峻な血糖変動では,追随性が遅れる欠点がある.

■将来的に,CGMと持続皮下インスリン注入療法(CSII)が連動した機器が日本でも使えるようになれば,より厳格な血糖管理が実現する可能性がある.

血液ガスモニタリング

著者: 福永壽晴

ページ範囲:P.668 - P.670

■血液ガスの連続モニタリングはパルスオキシメータで行われるのが一般的である.

■パルスオキシメータは動脈血が拍動することを利用して動脈血を認識し,赤色光(660nm)と赤外光(940nm)の波長を用いて測定する.

■パルスオキシメータで測定された酸素飽和度はSpO2と表記する.

バイオセンサーを用いた医療用連続モニタリングシステム開発の現状と展望

著者: 軽部征夫 ,   三上あかね

ページ範囲:P.671 - P.676

■持続型グルコースモニタリングシステム(CGMS)は,目的分子の特異的な検出や小型化を可能とするバイオセンサー技術に基づく医療用連続モニタリングシステムである.

■汎用CGMSは,皮下に挿入し細胞間質液(ISF)のグルコース濃度から血糖値を換算する侵襲型バイオセンサーである.現在,1週間程度の持続使用が可能となっているが,感染症や炎症,また,1日数回の血糖測定による補正を必要とする,などの問題点がある.

■バイオセンサーに基づくCGMS技術は,人工膵臓の開発や,ほかの疾病バイオマーカーなどの連続モニタリングシステム開発への応用が期待される.

表紙の裏話

微細形態からわかる神経細胞の機能

著者: 守屋敬子

ページ範囲:P.602 - P.602

 ニューロンは,それぞれが属している脳の部位が機能するのに適した形をしている.今月の表紙にデザインされたニューロンは,嗅球にある顆粒細胞と呼ばれる抑制性の介在ニューロンである(“嗅球”と言っても,正確には匂い情報を処理する主嗅球ではなく,フェロモン情報を処理する副嗅球のニューロンである.どちらの嗅球にも同じような顆粒細胞が存在するため,ここでは“嗅球の顆粒細胞”と表現する).

 提供した画像は,生後すぐのラット嗅球を材料とした,初代分散培養のニューロンである.分散培養を行うと脳の層構造がもつ機能は失われるが,一度分化の方向性が定まったニューロンの基本的な性質は変わらない.そのため,ニューロン自体の性質を解析する目的で使われる.この培養シャーレ中には,ニューロンのほかグリアなど複数種の細胞がひしめき合って存在するが,単一細胞のみに蛍光蛋白質を発現させると,その形態の細部まで確認することができ,単一細胞の経時的イメージングが可能となる.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーE2―エピジェネティクス制御からの生命活動の理解とその展望―

ページ範囲:P.609 - P.609

日 時:2013年7月4日(木) 10:00~17:00

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル 

    5Fライフホール

第40回臨床検査技師研修会

ページ範囲:P.636 - P.636

日 時:2013年6月20日(木)8:30~6月21日(金)17:05

開催場所:

自治医科大学地域医療情報研修センター

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.678 - P.678

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・6

急性リンパ性白血病治療薬L-asparaginaseにより誘発される一過性の高トリグリセライド血症

著者: 戸塚実

ページ範囲:P.679 - P.683

はじめに

 L-asparaginaseは血中のアスパラギンに作用し,アスパラギン酸を産生する酵素で,小児の急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia;ALL)や悪性リンパ腫(malignant lymphoma;ML)の治療薬として広く用いられている1).アスパラギンは必須アミノ酸ではないので,L-asparaginaseの作用で血中の濃度が低下しても,正常細胞は蛋白合成や機能発現に必要なアスパラギンを,代償的にアスパラギン酸あるいはグルタミンからアスパラギン合成酵素の触媒によりある程度産生できる.これに対して,悪性リンパ系細胞はアスパラギン合成酵素の活性が著しく低く,代償的なアスパラギンの産生能が低下しているため,細胞の維持に必要なアスパラギンを血中プールに頼らざるを得ない.これが,L-asparaginaseがALLやMLの治療薬として作用するメカニズムである.

 L-asparaginaseの副作用として注意が必要なものとして,肝を中心とした蛋白合成の低下およびアスパラギンの脱アミノに由来する血中アンモニアの上昇がある2).L-asparaginase治療においてはこれらをモニターし,治療効果と副作用のバランスに最善の注意を払う必要がある.これに加えて,もう1つ問題になるのが副作用として誘発されることがあるType IV型あるいはType V型の高リポ蛋白血症である3).これらの高リポ蛋白血症は急性膵炎を引き起こし,患者が重篤な状態に陥る危険性があるため,血清脂質〔主にトリグリセライド(triglyceride;TG)〕をモニターし,早期に適切な対処をすることが望まれる.L-asparaginaseが高TG血症を誘発するメカニズムの詳細は必ずしも明確でないが,一般的にL-asparaginaseと併用されるvincristine,methotrexate,prednisoloneなどの薬剤によって高度な高TG血症が誘発されることはなく,L-asparaginaseの関与が大きいと考えられている.

エラーに学ぶ医療安全・6

時系列事象関連図の作成―尿検体の取り違い事例

著者: 河野龍太郎 ,   筑後史子 ,   田村光子

ページ範囲:P.684 - P.689

はじめに

 前回,医療事故の分析にはImSAFERという手法が適していることを説明した.今回から検査室で起こりうるエラーを対象に,ImSAFERによる事例分析を行う.

 なお,本連載で扱う事例は過去の報告などを元に創作したものであり,患者氏名,病院名など実在の事例ではない.

研究

トリクロロ酢酸沈殿法によるヒトアルブミンの沈殿生成に及ぼすpHの影響

著者: 重盛朋美 ,   鈴木優治

ページ範囲:P.691 - P.695

 トリクロロ酢酸(TCA)は強酸性下で溶液中の蛋白質を沈殿させる.この反応はTCA陰イオンと正荷電蛋白質が結合して起こるとされている.両物質のイオン化はpHに依存するため,沈殿生成が反応溶液pHとどのような関係にあるかについて検討した.TCAによる血清アルブミンの沈殿生成はpH依存性を示し,反応溶液pHがおおむね1.5~3.5の範囲にあるときにだけ起こった.

--------------------

「検査と技術」6月号のお知らせ

ページ範囲:P.667 - P.667

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.676 - P.676

書評 異常値の出るメカニズム 第6版

著者: 本田孝行

ページ範囲:P.677 - P.677

 “検査値を読んでみたい”という衝動に駆られたことはないだろうか.その知的好奇心を十二分に満たしてくれるのが,河合忠先生,他編集の『異常値の出るメカニズム 第6版』である.1985年に第1版が発売され第6版を迎えるので,超ロングセラーに間違いなく,医療従事者にとって検査値を読むためのバイブルといっても過言ではない.第5版から5年目の早い改訂であり,河合先生の意欲が感じられる.

 ルーチン検査(基本的検査)は血算,生化学,凝固線溶および尿検査などを含んでおり,世界中で最も頻繁に行われている.臨床検査部では正確な検査結果を返そうと努力しているが,患者の診断,治療に必ずしも十分に活用されているとはいえない.最大の理由として,ルーチン検査を読む教育が十分でないことが挙げられる.AST,ALTが上昇すれば肝機能が悪い,UN,クレアチニンが上昇すれば腎機能が悪いなど,ごく表面的な浅い解釈にとどまっており,患者の病態を深く追求できていない.結果として十分に活用されない検査が大量に行われており,医療費の無駄遣いともいえる.

投稿規定

ページ範囲:P.696 - P.696

次号予告

ページ範囲:P.697 - P.697

あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.698 - P.698

 新年度の準備におわれながら,このあとがきを記しています.いつになく,新年度への移り変わりが早く感じられましたが,それ以上に春の到来は瞬くまでした.例年より2週間も早かった今年の桜の開花には,虚を突かれた感があります.この6月号が読者の皆さまのお手元に届く頃の陽気をとても想像することができません.

 以前から桜の開花に冬の寒さが関係していることは何となく知ってはいましたが,先日たまたま見ていたテレビ番組で,桜の開花を早めた“休眠打破”のメカニズムについて学びました.桜は,花が散って間もなく翌年の開花に向けて花芽の生長が始まります.気温の低下によりいったん花芽は休眠状態になりますが,不思議なことに,さらなる気温の低下が休眠を打破し,その後,今年のように一気に暖かくなると開花が促されます.厳しい寒さがないとかえって目覚めが悪く,開花が遅れます.いまさらですが,桜の花のように繊細でとても巧妙なこの“休眠打破”のメカニズムに感心させられるとともに,「成長には,時として真冬のような厳しさも必要なのだ」と諭してくれるかのように咲く桜に対し,今まで以上に思い入れが強くなりました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?