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雑誌目次

論文

臨床検査57巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて

著者: 山内一由

ページ範囲:P.703 - P.703

 遺伝子関連検査は,病原体遺伝子検査,造血器腫瘍や固形腫瘍を対象とした体細胞遺伝子検査,さらには,生殖細胞を対象とした遺伝学的検査も保険収載され,目を見張る勢いで,基礎研究から日常検査への実用化がなされてきています.検査技術の進歩と着実な標準化活動の賜物です.一方,急速過ぎる技術革新に対して当該領域の標準化が十分に追随できているとは言えません.誰もが遺伝子関連検査の有用性を理解していながらも,いずこの検査室でも誰でも実施できる検査にはなっていないことがその事実を示しています.

 検査結果の信頼性を高めるためだけではなく,遺伝子関連検査が“特殊な検査”の域を脱し,身近な“一般的な検査”としてさらに普及していくためには,標準化活動のさらなる進展が望まれます.本特集では,遺伝子関連検査にかかわる標準化の現況と今後の課題について,標準化が最も進んだ臨床化学検査にならい,分析前,分析,分析後,それぞれのプロセスに焦点を当てて解説をしていただきました.

遺伝子関連検査の実践に必要な基礎知識

著者: 宮地勇人

ページ範囲:P.704 - P.711

■遺伝子関連検査は,病原体遺伝子検査(病原体核酸検査),体細胞遺伝子検査,生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝学的検査)の3つに分類される.その測定精度は,検体採取から試料の前処理までの測定前プロセスにおける作業要因に最も大きく影響される.

■「遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン」では,検査の精度保証のベストプラクティスとして,一般原則に加えて,①質保証システム,②施設技能試験,③検査結果の報告の質,④検査施設要員の教育・訓練の基準の4つを具体的な柱としている.

■個人の遺伝学的情報は,一般医療情報と区別した保管,あるいは他の検査機関に委託する際の試料の匿名化について選択的に行う.その取り扱いの判断は,単一遺伝子疾患では発症者の診断か否か,ファーマコゲノミクス検査では単一遺伝子疾患の情報となりうるかを指標とする.

造血器腫瘍関連検査

著者: 糸賀栄 ,   野村文夫

ページ範囲:P.712 - P.719

■日本で保険収載されているBCR-ABL1定量検査のAmp-CMLは,IS(international scale)に対応しないため,海外で得られたエビデンスをそのまま診療に用いることができないという欠点がある.しかしながら,ヨーロッパ標準法などのRQ-PCR法との相関は良好で微小残存病変(MRD)の評価に有用である.

■BCR-ABL1定量検査の国際標準化は,CF(conversion factor)によるharmonizationから標準物質によるstandardizationへ移行している.

■BCR-ABL1遺伝子変異はBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の選択において不可欠な検査となっている.

固形腫瘍関連検査

著者: 前川真人

ページ範囲:P.720 - P.725

■悪性腫瘍遺伝子検査などの名目で保険収載され,上限が2,000点となっていたが,2012年度には2,000点の壁は突破した.

■分子標的薬の開発とともに,その薬剤の有効性を予測するためにコンパニオン診断が多く行われるようになってきた.

■代表的なコンパニオン診断としての上皮成長因子受容体(EGFR)とK-rasについても多くの検査法があり,キット化された試薬も開発されてきた.しかしながら,それぞれ感度や特性が異なるため,それらを理解したうえで使用するべきである.

■試料の採取から核酸抽出など分析前因子の重要性も忘れてはならず,日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の他,SPIDIAなど海外の情報も参考にして,分析前,分析,分析後の工程をそれぞれ標準化していくことが望まれる.

ウイルス感染症関連検査

著者: 中谷中

ページ範囲:P.726 - P.730

■C型肝炎の遺伝子検査は保険適用となっており,ウイルス量,ウイルスジェノタイプより治療方針が至適化されている.

■遺伝子関連検査の精度管理をするために,まず検体管理が重要である.その後の作業工程の標準化に心がけるべきである.

■C型肝炎ウイルス(HCV)の定量検査は非常に高感度であるために,コンタミネーションによる偽陽性を予防することが重要である.

細菌感染症関連検査

著者: 増川敦子 ,   宮地勇人

ページ範囲:P.731 - P.737

■細菌感染症の核酸検査では検体採取,保存および前処理の測定前プロセスが結果を左右する.

■検体保存は検出対象の病原体,検体種や検査項目別に適切に行う.

■細菌感染症の核酸検査において,多様な検体性状に起因する増幅阻害物質に注意する必要がある.

生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝学的検査)

著者: 大林光念 ,   安東由喜雄

ページ範囲:P.738 - P.743

■生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝学的検査)とは,一生変化しないヒトの遺伝子変異,あるいは多型に関する検査を指す.

■本検査では,“次世代に伝わる個人の遺伝情報”を扱うことから,その適用には特別な配慮をもち,より厳重な遺伝情報の保護と管理が必要である.また,“検出感度より特異性,正確さ”に重きが置かれる検査であることもその特徴の1つである.

■“次世代に伝わる個人の遺伝情報”を扱うという本質に加え,稀少疾患が多く,その“ニーズに多様性がある”こと,あるいは“コントロール物質の調達が難しい”ことを考えると,遺伝学的検査の標準化に向けた課題は多い.しかし,検体の採取をはじめ,DNAの抽出法やPCR法,あるいはシークエンス技術など,比較的汎用されている技術を基盤にして,遺伝学的検査の標準化を続けていく必要がある.

今月の特集2 感染症と発癌

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.745 - P.745

 感染症と悪性腫瘍の存在は,遠く古代の記録のなかにもみつけることができるが,感染症と発癌の関連性についてさまざまな事実が明らかになってきたのは,比較的最近のことである.感染症と発癌の関係については,近年多くの発見があり,具体的な関係が明らかにされることで,感染症治療やワクチン接種をはじめとして,発癌予防に対する新たな取り組みが行われるようになってきている.今回の企画では,現在話題になっている発癌の誘引となる感染症として,肝炎ウイルス,EBウイルス,Helicobacter pylori,HTLV-1,ヒトヘルペスウイルス6,8(HHV-6,8),ヒトパピローマウイルスによる感染症を取り上げ,国内外の疫学,発癌の機序,抗微生物薬やワクチン接種などによる発癌の予防対策に焦点を当てて,専門家の先生方に解説していただく.

 感染症と発癌に関する最新の情報について,読者の皆様と共有したいと考えている.

肝炎ウイルスと肝癌

著者: 小池和彦

ページ範囲:P.746 - P.753

■C型慢性肝炎やB型慢性肝炎においては,高頻度かつ多中心性の肝癌が発生する.

■ウイルス肝炎における肝発癌にかかわる因子として,免疫を介した炎症とウイルス自体などがある.

■B型肝炎における肝発癌においては,ウイルス量に代表されるウイルス因子が重要である.

■B型肝炎ウイルスのHBx蛋白やC型肝炎ウイルスのコア蛋白は,発癌への関与が実験的に示されてきている.

EBウイルスと胃癌

著者: 船田さやか ,   金田篤志 ,   深山正久

ページ範囲:P.754 - P.759

■EBウイルス関連胃癌は,胃癌症例のうちで,約7~15%を占める.

■EBウイルス関連胃癌では癌細胞全てにEBウイルスが潜伏感染している.

■EBウイルス小分子RNA(EBER)を標的としたRNA-ISHで胃癌細胞の核内に陽性シグナルを確認することで,確定診断される.

Helicobacter pyloriと胃癌

著者: 山岡吉生

ページ範囲:P.760 - P.766

■Helicobacter pyloriが胃粘膜炎症を引き起こし,消化性潰瘍の発症に深く関与すること,さらに胃癌の大部分がH. pylori感染を基盤に発生することが明らかとなっている.

■しかし感染者のほとんどが胃癌にならずに一生を終え,また胃癌の発症率にかなりの地域差があるのも事実であり,その原因としてH. pyloriの病原因子,特にCagA,VacA,OipA,DupAが関与している.

■H. pyloriの病原因子CagAには,繰り返し配列がみられ,その配列の構造および繰り返し数が直接および間接的に胃癌の発症に関与している可能性がある.

HTLV-1と成人T細胞白血病

著者: 田邉順子 ,   松岡雅雄

ページ範囲:P.768 - P.775

■ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染には生きた感染細胞が必須であるため,生体内で感染細胞の増殖を促進する.

■成人T細胞白血病(ATL)の確定診断にはHTLV-1のモノクローナルな組み込みを証明することが必要である.

リンパ腫関連ウイルスとリンパ腫

著者: 村上雅尚 ,   大畑雅典

ページ範囲:P.776 - P.782

■悪性リンパ腫の発症に密接に関与する腫瘍ウイルスには,Epstein-Barrウイルス(EBV),ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8)および成人T細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-Ⅰ)がある.

■腫瘍ウイルスの範疇には入らないが,悪性リンパ腫でゲノムが検出される,あるいは病態を修飾している可能性があるウイルスにはヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)がある.

■EBVが関連する悪性リンパ腫には,B細胞,T細胞,およびナチュラルキラー(NK)細胞由来のさまざまなタイプのリンパ腫が知られている.

■ウイルス関連リンパ腫の診断には,さまざまな検査方法を組み合わせて総合的に判断することが重要である.

ヒトパピローマウイルスと子宮頸癌

著者: 今野良

ページ範囲:P.783 - P.789

■子宮頸癌におけるHPV(human papillomavirus)の発癌メカニズムの役割は,ほぼ解明された.

■子宮頸癌においては,検診におけるHPV検査やHPVワクチンの導入が進みつつあり,予防できる癌として臨床像が大きく変貌している.

■外陰,腟,陰茎,肛門などのいわゆる性器肛門癌においても,HPVの関連性は明らかになった.

■最近,HPV関連頭頸部癌の増加が報告され,特に,中咽頭癌におけるHPVの関与の根拠が次第に大きくなってきている.

■HPV関連中咽頭癌では,非HPV関連中咽頭癌に比して,予後が良い.

表紙の裏話

植物細胞から医用画像解析まで

著者: 朽名夏麿 ,   桧垣匠 ,   馳澤盛一郎

ページ範囲:P.702 - P.702

 今月号の表紙は植物の細胞であり,その名をタバコ懸濁培養細胞BY-2という.なぜ植物が「臨床検査」誌にと思われるかもしれない.植物は太陽から降り注ぐ光のエネルギーを化学エネルギーに変換し蓄える(光合成独立栄養).一方,人をはじめ動物はその化学エネルギーを直接的・間接的に消費することで生存している(従属栄養).それゆえ人類が抱える食糧問題やエネルギー問題への足がかりとして,植物科学は医学とならび重要な使命を帯びる.また培養細胞であるBY-2については医療用の“蛋白質生産工場”としても着目されている.

 筆者らの研究グループは高い増殖率など優れた特色をもつBY-2細胞を研究材料として世界に広めつつ,植物細胞の増殖や生長のメカニズムを明らかにすべく緑色蛍光蛋白質などによる細胞骨格やオルガネラの可視化を行い,その構造や動態の評価に取り組んでいる.こうした研究では多くの画像を客観的に速やかに評価するため,画像解析が有用である.しかしバイオメディカル分野で用いられる撮像法や可視化対象は多様であり,撮像条件の設定次第で画像の様相は大きく変動する.そのためおのおのの生物・医用画像に特化した解析ソフトウエアを逐一開発することは容易でなく,目視や手作業に頼らざるを得ない状況である.

INFORMATION

第5回ISMSJ学術集会

ページ範囲:P.730 - P.730

日 時:2013年8月2日(金)~8月4日(日)

会 場:神戸ファッションマート(神戸市 六甲アイランド)

第35回第2種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.753 - P.753

受験資格:受験資格は問いません.

試験日時:2013年9月8日(日) 9:50~16:30

第20回日本遺伝子診療学会大会のご案内

ページ範囲:P.767 - P.767

テーマ:個別化医療の世紀を開く─技術革新による遺伝子診療の進歩

会 期:2013年7月18日(木)~20日(土)

第35回ME技術講習会のお知らせ

ページ範囲:P.767 - P.767

開催日程・会場・定員・申込締め切り日:

開講9:30 終了予定16:10(全会場共通)

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.790 - P.790

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・7

劇症型Wilson病に認められた低ALP血症

著者: 星野忠

ページ範囲:P.791 - P.797

はじめに

 臨床検査データを日々チェックしていく中で,時として極端な異常値を示すデータに遭遇することがある.このとき,臨床検査の担当者として何を考え,その後どのようなアクションを起こすかで,この異常値の運命は決まってくる.①日常検査に忙殺されてそのまま放置されるもの,②解析を試みたがその原因は不明のままのもの,③首尾よく原因が解明されたもの.この中で,①,②に相当するものは全体の95%以上あると推測される.

 今回提示する症例は,12歳,男性でアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase;ALP)活性が9U/Lと高度に低値を示した例である.なお,筆者は約1年前に本症例と全く同じALP活性が高度に低値であった症例(14歳,女性でALP活性が10U/L,臨床診断名は劇症型Wilson病で,入院後約4カ月で死亡)を経験しているが,このときはALP活性低値の原因を解明することができなかった.1年以内に再び同様の症例に遭遇する機会はめったになく,何か運命的なものを感じ,今度こそはという思いをもってALP活性低値の原因究明に取り組んだプロセスを紹介する.

エラーに学ぶ医療安全・7

背後要因関連図の作成─尿検体の取り違い事例

著者: 河野龍太郎 ,   筑後史子 ,   田村光子

ページ範囲:P.798 - P.804

はじめに

 前回,事例分析の鍵となる時系列事象関連図作成の手順を示した.今月は完成した時系列事象関連図をもとに背後要因関連図を作成する.

 事象の詳細については前号を参照いただくとともに,本事例が架空の事例であることをあらめてお断りしておく.

次代に残したい用手法検査・1【新連載】

電解質炎光光度法

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.805 - P.810

はじめに

 血清電解質の代表的な元素はナトリウム(Na),カリウム(K),クロール(Cl)である.これらの元素は生体中ではイオンとして存在する.生体内では浸透圧,酸-塩基平衡の維持,神経・筋肉の興奮,伝達などに重要な働きをしている.

 炎光光度法(flame photometry/flame atomic emission spectroscopy)で測定可能な元素は比較的励起エネルギーの低いアルカリ金属〔リチウム(Li),Na,K,セシウム(Cs)〕とアルカリ土類金属〔カルシウム(Ca)〕の一部である.血清中では主にNa,Kが対象となる.Liの血清中濃度は5~6μmol/L程度とされており,その生理的あるいは病態的意義を調べるために測定されることはない.しかし,Li製剤投与時の薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)として血清中Liが測定されることがある.その治療域濃度は0.6~1.2mmol/Lとされており,その濃度が2mmol/L以上になると中毒が出現するといわれている1)

 本稿では主に血清Na,Kの測定を中心に炎光光度法について記述する.

研究

試験紙法によるpH測定におけるアルブミンの影響

著者: 小林臣 ,   鈴木優治

ページ範囲:P.813 - P.817

 市販のpH試験紙8種類を用いて血清アルブミンにより生じる測定誤差について検討した.アルブミンにより生じる測定誤差には方向性が認められ,TB,BPB,BCG,MR,CR,AZY,ALBは正誤差を,BTBは負誤差を示すことが分かった.測定誤差の大きさはアルブミン濃度に比例し,測定pHおよびpH指示薬の種類により異なる.測定誤差の大きさとpH指示薬の分子構造に特別な関係は見いだせなかった.

私のくふう

実験動物解析装置の設計と試作─高架式十字迷路

著者: 北池秀次

ページ範囲:P.819 - P.820

1.はじめに

 高架式十字迷路試験法は,人が不安と感じる環境を,動物行動学的に類似環境で設定し,探索行動を観察する方法であり,薬理学分野での抗不安薬の評価をはじめ,脳科学分野では脳内の情報伝達に重要な役割を果たすセロトニン〔5-HT(5-hydroxytryptamine)〕が関与する不安行動の評価など,受動機能評価として広い分野で用いられている.

 今回,研究内容によってカスタマイズの必要性に対応させるべく,画像の入力から結果の出力まで研究者の負担が軽減されるよう測定の自動化を行い,操作性の向上を図ることを目的に実験迷路および解析システムを身近な材料で試作したので報告する.

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「検査と技術」7月号のお知らせ

ページ範囲:P.782 - P.782

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.797 - P.797

書評 医療者のための結核の知識 第4版

著者: 桑野和善

ページ範囲:P.812 - P.812

 1882年にコッホが結核菌を発見し,1944年にワクスマンらがストレプトマイシンを抽出,その後次々と有効な薬物が登場し,結核による死亡者は20世紀後半には激減した.それでも潜在性結核感染者は世界人口の3分の1,わが国でも70歳以上の高齢者では半数を超える.毎年世界で約880万人が結核に罹患し,約140万人が死亡する,マラリアと並ぶ世界最大の感染症である.その9割を超えるアフリカ,アジアの高まん延地域の罹患率は,10万人当たり100人以上である.先進国における大都市では,人口の集中,貧困,過労などのリスクにより罹患率は高い.ではわが国はどうなのか.第二次世界大戦後はそれまで200人を超えていた罹患率が急激に低下したが,それでも欧米には及ばず10万人当たり18と中まん延地域である.高齢化,HIV感染者の増加,外国人の増加などが結核の罹患率低下の障害となっている.したがって,誰でもどこでも遭遇するチャンスがある.しかも最近は多剤耐性菌という厄介な問題がある.

 本書は,最近の結核医療のめまぐるしい変遷に対応すべく改訂された第4版である.疫学および細菌学的に敵(結核菌)の策略を知ることができる.そして,patients’ delayとdoctors’ delayを防ぐコツや新規診断技術の解説によって早期診断の目を養える.また治療に至ってはその基本および新規薬剤の解説と,耐性菌に対する治療や院内感染対策に至るまで,微に入り細に入り目の前で教えてもらっているかのようである.各項目には最初にtake home messageとしてのポイントと,最後に将来への展望が語られている.巻末の症例提示を見ると,結核菌がいかに身を隠すことに秀でた細菌であるか実感させられる.

投稿規定

ページ範囲:P.822 - P.822

次号予告

ページ範囲:P.823 - P.823

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.824 - P.824

 20数年前のことですが,PCRを初めて自分でやってみました.臨床検査ではなく,遺伝子組換え蛋白を得るという研究目的でした.その蛋白を血清から精製するのは大変な労苦だったので素晴らしい方法と感動したものでした.その後このPCRが臨床検査に使われていくのをみていくわけですが,便利だけど大丈夫なのかな,と少し心配でした.それは,検査の結果が,核酸が増幅されたか否かのall or noneであるからです.研究室では,PCRの計画を立てるとまずプライマーをオーダーし,増幅されるべきサンプルについて一般的な条件でPCRをやってみます.だいたいは問題なく増幅されますが,失敗することがまれにあり,プライマーを含めた試薬の内容・組成,サンプルの環境,などさまざまな因子に影響されることが経験されます.また,増幅された産物はこの世にありえないものを大量に作るわけですから,これがコンタミネーションの原因となることもあります.さすがに検査試薬として市販されるようなものは,高い品質でそのあたりをクリアしているものですが,in houseの系では,陽性・陰性をそのまま信じていいのか,ということになります.今回の一つ目の特集の筆頭論文ではこの難しい遺伝子検査の標準化への取り組みが丁寧に解説されています.

 2つめの特集は発癌にかかわる病原体の話題です.悪性腫瘍の2~3割は感染症を背景に発症するとされています.特に,患者の多い胃癌と子宮頸癌において病原体のかかわりが明らかになったことはインパクトが大で,原因微生物の除去もしくは予防が今後の患者数を大幅に減らすことが予想されます.臨床検査もそれら病原体の存在診断に一定の役割を果たしています.これからは,EBVのように発癌性のある病原体でかつわれわれの多くが潜在感染として体内に有しているものにつき,それが再活性化しないような方策が問題になると予想されます.例えばリウマチ性疾患では強力な抗炎症療法が効果をおさめていますが,一方でHBVの再活性化が報告されています.再活性化を把握できるようなマーカーが今後必要とされるかもしれません.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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