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雑誌目次

論文

臨床検査58巻11号

2014年10月発行

雑誌目次

増刊号 微生物検査 イエローページ

巻頭言—適切な微生物検査のために

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1199 - P.1199

 微生物検査は適切な感染症診療を行うためになくてはならない検査であり,微生物検査のデータなしには,日常診療を進めていくことはできない.実際に臨床の現場では,感染症を疑って治療する場合,まずは血液培養をはじめとする必要な培養検体を採取してから,抗微生物薬の投与を開始するようにしているし,そのように研修医や学生に対しても指導している.また微生物検査の結果が判明した後は,そのデータを基に,より適切な治療法を選択していくことになる.施設内感染防止対策をはじめとする感染制御の面でも,耐性菌サーベイランスやアウトブレイクがあった場合の疫学調査など,微生物検査なしに対策を進めていくことはできない.

Ⅰ章 感染症診断

医師による臨床診断

著者: 青木洋介

ページ範囲:P.1200 - P.1205

●丁寧な問診および身体診察が,適正な臨床診断に不可欠である.

●臨床病態を広い鑑別視点で捉えながらも,可能性あるいは頻度の高い疾患を想定することが,検査結果の正しい解釈のために必要である.

●患者病態を集約するプロブレムリストが同じでも,性と年齢により診療アプローチは時に全く異なる.

●固有感染臓器の同定に至っても,全身的感染症である場合があるため,系統的診察および一次検査結果(末梢血,血液生化学)を軽視してはならない.

●免疫抑制患者の診療においては,感染防御能の3つの亜型(好中球,細胞性面積,液性免疫)を知っておくことが原因菌診断も役立つ.

●高齢者の診療では健常成人と異なり,感染臓器特異的な症状の訴えが乏しいため,疾患頻度を重視した診断アプローチが必要となる.

微生物検査の依頼と検査結果の読み方

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.1206 - P.1212

●微生物検査を依頼する場合は,検査依頼・目的を明確にし,検体の採取・保存・輸送にも注意する.

●自施設における微生物検査の検査内容および方法を臨床と協議し,お互いに十分理解しておく.

●検出菌や薬剤感受性結果は,感染症診断・治療の一助であり患者の臨床所見や感染症マーカーなどの他の検査結果も踏まえて総合的に判断する.

●院内感染対策にも大きく貢献することができる.

Ⅱ章 検査の基本手技・進め方

検体採取・取り扱い

著者: 川上小夜子

ページ範囲:P.1213 - P.1225

●微生物検査用検体は,抗菌薬投与前に採取する.

●検体採取時には,常在菌や消毒薬の混入を避け,適切な容器に採取する.

●採取後速やかに検査を開始できない場合には,検体を適切な条件で保存する.

●検体採取時,輸送時,検査時にはバイオハザード対策を講ずる.

塗抹染色検査

著者: 西山宏幸

ページ範囲:P.1227 - P.1234

●塗抹染色検査は感染症患者の初期治療に役立つ基本的な検査である.

●簡易で迅速性に優れる検査であるが,信頼性の高い情報を得るためには,染色技術に習熟し,観察された現象を解析できるだけの感染症の知識を備えている必要がある.

●臨床と連携して感染症治療に当たることを念頭に置いて検査を遂行し,迅速かつ正確な結果報告に心掛ける.

培養・同定検査

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.1235 - P.1241

●培養および同定検査は,感染症の起炎菌を検出し,病原体診断のための情報を提供することが目的である.

●培養・同定検査は微生物検査の根幹をなし,核酸増幅法による遺伝子検査より感度が高い.しかし,検査に日数を要し,かつ一般の検査室における日常検査では全ての微生物を培養,同定できないという問題点がある.

●培養および同定検査の特徴と限界を整理し,検査を適確に進めるために知っておかなければならない疫学,考え方および原則を解説した.これらは,検査室側と診療側の両者が共有していなければならない.

●同定検査では,同定のレベルに関する考え方と原則,および結果報告について解説した.パニック値に相当する菌種や報告ルートは,医療安全上必須でありルールとして定めておかなければならない.

薬剤感受性検査

著者: 大塚喜人

ページ範囲:P.1242 - P.1246

●薬剤感受性検査結果は,過去に蓄積したデータも含めて薬剤選択の際に指標となる.

●ブレイクポイントは,S,I,Rに変換するために基準となる薬剤濃度値である.

●毎年改定されるブレイクポイントに対応するためには,最小発育阻止濃度(MIC)測定が必要である.

●MIC値が最も低いからといってその薬剤を選択するのは適正な薬剤選択とはいえない.

Ⅲ章 菌種別の培養・同定方法 グラム陽性球菌

A群溶連菌

著者: 輪島丈明

ページ範囲:P.1247 - P.1249

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性球菌である.

・5〜10%濃度のCO2存在下で培養すると発育が促進される.

・0.6〜1.0μmの球形をしており,連鎖している.

・細胞壁成分であるC多糖体を抗原とするLancefieldの分類では,A群に属する.

・血液寒天培地上で直径1mm程度のやや白色の盛り上がったコロニーを形成し,β溶血性を呈する.

B群溶血性レンサ球菌

著者: 長野則之 ,   長野由紀子

ページ範囲:P.1250 - P.1253

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性球菌,連鎖状の配列を形成.

・鞭毛を有さず,芽胞を形成しない.

・β溶血性,時に非溶血性.

・Lancefieldによる細胞壁群特異的多糖体(C多糖体,C-polysaccharide)の抗原性に基づく分類でB群に分類される.さらに莢膜多糖体の抗原性によりⅠa,Ⅰb,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸの10の血清型に型別される.

・健常人では無症候性に腸管,腟,膀胱,咽頭に保菌.特に妊婦の10〜35%が腟,直腸に保菌.

C,G群溶血性レンサ球菌

著者: 砂押克彦

ページ範囲:P.1254 - P.1256

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性球菌である.

・5〜10%(濃度の)CO2培養下で発育が促進される.

・1.5×2.0μmのレンサ状球菌である.

・菌体表層のM蛋白は病原性と関連している.この蛋白遺伝子解析(emm型別)は疫学調査に応用される1)

・血液寒天培地上にβ溶血性の半透明で光沢のあるコロニーを形成する.A群溶血性レンサ球菌(group A streptococci:GAS)よりもコロニーが大きく,溶血性も非常に強い.

・1996年,Vandammeら2)により提唱された新たな菌種である.

肺炎球菌

著者: 千葉菜穂子

ページ範囲:P.1257 - P.1259

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性球菌である.

・5〜10%(濃度の)CO2培養下で発育が促進される.

・0.5〜1μm×1〜1.5μmの卵円形をした双球菌である.

・菌体の最外層に厚い莢膜(現在94種類)を保持している.

・血液寒天培地上にα溶血性の中央部が陥没した0.5〜1mmのコロニーを形成する.

・ヒトでは上気道に常在菌として保菌する場合がある.

緑色レンサ球菌群

著者: 荘司路

ページ範囲:P.1260 - P.1263

菌の基本情報

1.性状と特徴

・緑色レンサ球菌は,口腔内レンサ球菌(oral streptococci)とも呼ばれ,口腔内常在のカタラーゼ陰性・通性嫌気性グラム陽性レンサ球菌群を指す.

・それらはさらに,anginosus group,mitis group,mutans group,salivarius group,bovis groupなどに分類される(表1).

・ランスフィールドの群抗原による型別では,A,C,G,F,H群などに凝集するが,抗原を保持せず凝集しないことも多い1)

・一般的に,オプトヒンとバシトラシンには耐性である.

・血液寒天培地上でα溶血性を示す菌種が多いが,弱いβ溶血から溶血を示さない菌株まで多岐にわたる.

・anginosus groupは歯肉縁に近いプラーク,mitis groupは歯の硬組織表面のプラークから分離される.mutans groupは齲蝕の発生と強く関連する.salivarius groupは舌表面や唾液中より高頻度に分離される.

黄色ブドウ球菌

著者: 桑原隆一 ,   菅井基行

ページ範囲:P.1264 - P.1268

菌の基本情報

1.性状と特徴1)

・通性嫌気性グラム陽性球菌.

・直径0.5〜1.5μm前後の球菌で鞭毛や芽胞はない.

・至適温度35〜37℃.

・血液寒天培地上でβ溶血を示し,コロニーは1.0〜2.0mmで淡黄色〜黄色を示す.

・鼻腔,鼻前庭,口腔,皮膚,腸管に常在菌として保菌している.

表皮ブドウ球菌

著者: 桑原隆一 ,   菅井基行

ページ範囲:P.1269 - P.1271

菌の基本情報

1.性状と特徴1)

・通性嫌気性グラム陽性球菌.

・直径0.5〜1.5μm前後の球菌で鞭毛や莢膜,芽胞はない.

・至適温度35〜37℃.

・血液寒天培地上で1.0mm前後の白色のコロニーを形成する.

腸球菌

著者: 二本柳伸 ,   花木秀明

ページ範囲:P.1272 - P.1275

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性球菌,無芽胞,莢膜なし,D群レンサ球菌から独立属となった.

・0.5〜1.0μm前後の大きさでほとんどが対形成,時に短い連鎖形成(図1).

・本菌属はEnterococcus faecalis,E. faecium,E. avium,E. gallinarum,E. casseliflavusなど49種(2014年2月現在)が存在する腸管常在菌である.

グラム陰性球菌

淋菌

著者: 村谷哲郎

ページ範囲:P.1276 - P.1279

菌の基本情報

1.性状と特徴

・好気性グラム陰性双球菌.

・至適温度35〜37℃で,発育には二酸化炭素濃度3〜10%が必要.

・2μm以下の腎臓様双球菌.

・宿主はヒトのみであり,性行為など体液と粘膜の濃厚接触により感染する.

・チョコレート寒天培地に発育し,臨床材料からの分離には選択剤含有Thayer-Martin寒天培地などが有用.

髄膜炎菌

著者: 黒木真理子

ページ範囲:P.1280 - P.1283

菌の基本情報

1.性状と特徴

・微好気性グラム陰性球菌で,非運動性である.

・培養には5%程度のCO2と70〜80%程度の湿度を要求する.

・直径0.6〜0.8μmのそら豆状の球菌が相対する双球菌である.

・菌体の最外層は多糖類からなるシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)夾膜で,少なくとも13種類の血清群に分類される.

・血液寒天培地,チョコレート寒天培地,変法Thayer-Martin寒天培地(modified Thayer-Martin agar:MTM培地)に1〜2mmほどの,正円,灰白色,半透明で,光沢のあるコロニーを形成する.髄膜炎菌は血清群により集落の状態が異なり,A群およびC群の集落はムコイド状になる.

・宿主は人のみで,患者または保菌者の上気道(鼻咽頭)に定着する.

グラム陽性桿菌

炭疽菌

著者: 奥谷晶子

ページ範囲:P.1284 - P.1286

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陽性有芽胞大型桿菌.

・栄養型:長さ3〜5μm,幅1〜1.2μm.芽胞:長さ約2μm,幅0.5μm.

・血液中では菌体の最外層に莢膜を発現する.

・血液寒天培地上に非溶血性,灰色で周縁不整,縮毛状の大型集落を形成する.

・実体顕微鏡下では,コロニー周辺部が縮毛状(medusa head)であることが観察できる.

セレウス菌

著者: 吉田弘之

ページ範囲:P.1287 - P.1289

菌の基本情報

1.性状と特徴1,2)

・通性嫌気性グラム陽性有芽胞桿菌である.

・大きさは0.3〜2.2μm×1.2〜7.0μm程度で,鞭毛を有し運動性がある.

・100℃30分の加熱にも耐える芽胞の形で,土壌などを中心に自然環境に広く分布し,野菜や穀物などの農産物を汚染している.

・一般に非病原性であるが食中毒(毒素型)の起炎菌となる.また外傷後の眼内炎患者から高率に検出され,易感染患者の血流感染の起炎菌として問題になることがある.

・血液寒天培地上ではβ溶血を示す.

ジフテリア菌

著者: 吉田弘之

ページ範囲:P.1290 - P.1293

菌の基本情報

1.性状と特徴1,2)

・好気性グラム陽性桿菌である.

・大きさは1.0〜8.0×0.3〜0.8μm形状はやや多形性であり,棍棒状や亜鈴状,まっすぐなものや彎曲しているものなどが混在する(図1).

・異染小体染色により菌体の末端に異染小体染が観察される(図2).

・血液寒天培地でも発育するが,分離培養や純培養用の培地としてはLofflerの凝固血清培地が汎用されている.選択分離培地は,亜テルル酸塩を含む荒川変法培地などが用いられる.

・Corynebacterium diphtheriaeはgravis型,mitis型,intermedius型のバイオタイプに分類されているが,病原性との関連性はないといわれている3)

グラム陰性桿菌

腸内細菌科グラム陰性桿菌—大腸菌(Escherichia coli),クレブシエラ(Klebsiella属菌)

著者: 川村久美子 ,   荒川宜親

ページ範囲:P.1294 - P.1300

Escherichia coli

菌の基本情報

1.性状と特徴

・大きさ0.4〜0.7×1〜3.0μmの通性嫌気性グラム陰性桿菌である.

・人や動物の腸管に常在していて,他の通性嫌気性菌や嫌気性菌とともに腸内正常細菌叢を形成している.

・本来,土壌や水の常在菌ではないが,人や動物の糞便,生活廃水などにより汚染された河川水や海水などからも分離される.そこで,本菌は環境材料や食品などの汚染の指標菌として利用されている.

腸管出血性大腸菌

著者: 大西真

ページ範囲:P.1301 - P.1304

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性,無芽胞,グラム陰性桿菌である.

・生化学的性状は他の大腸菌と同様.腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)の多くは乳糖分解性で,リジン脱炭酸酵素陽性,運動性陽性,インドール陽性を示す.

・多様なO血清型を示すが,O157,O26,O111,O103,O121,O145,O165を示すEHECが国内で注意すべき血清群である.

・EHEC O157,O26,O111は一般的には,それぞれソルビトール,ラムノース,ソルボース非発酵(または遅発酵).

・EHEC O157は一般にβ-グルクロニダーゼ陰性.

・志賀毒素〔Vero毒素(Vero toxin:VT)とも呼ばれる〕産生.以下,本稿では志賀毒素(Shigatoxin:Stx)と呼ぶ.

赤痢菌

著者: 大西真

ページ範囲:P.1305 - P.1308

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性,無芽胞,グラム陰性桿菌である.

・Shigella属にはS. dysenteriae,S. flexneri,S. boydii,S. sonneiの4種が存在する.

・Shigella属4種は,大腸菌と遺伝学的には同種である.

・その特異的な病原性から大腸菌とは異なる属,種として扱われてきた.

・生化学的性状として赤痢菌は乳糖非分解性で,リジン脱炭酸酵素陰性,運動性陰性.

・細胞侵入性を示す.

チフス菌

著者: 井村留美子 ,   大楠清文 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.1309 - P.1310

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性無芽胞グラム陰性桿菌(図1a).

・0.7〜1.5×2.0〜5.0μm.

・人のみに感染.

パラチフス菌

著者: 渡邊由紀 ,   大楠清文 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.1311 - P.1312

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陰性桿菌(図1a).

・0.7〜1.5×2.0〜5.0μm.

・人のみに感染.

・S. enterica var. ParatyphiにはA,B,Cがある.

サルモネラ菌

著者: 梅田綾香 ,   大森菜実 ,   大楠清文 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.1313 - P.1314

菌の基本情報

1.食中毒の原因となるサルモネラ

・Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis.

・Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium.

コレラ菌

著者: 加藤維斗 ,   佐藤智明

ページ範囲:P.1315 - P.1318

菌の基本情報

1.性状と特徴

・グラム陰性好気性菌である.

・0.3〜0.5×1〜5μm.らせん状に1周程度彎曲しているために,Gram染色上はコンマ状の形態を示す.

・極単毛で活発な運動性を有し,直線的に運動する.

・好塩性でありNaCl加ペプトン水では0〜3%まで発育を示す.

・発育可能pHはpH 6.0〜10.0,至適pHは7.6〜8.4.

・カタラーゼ(+),オキシダーゼ(+).

・自然界ではプランクトンや水性植物を宿主とし,VNC(viable but nonculturable:培養できないが生きている状態)で存在している.

腸炎ビブリオ

著者: 溝口美祐紀 ,   佐藤智明

ページ範囲:P.1319 - P.1322

菌の基本情報1〜3)

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陰性桿菌である.

・1.4〜2.0×0.5〜0.8μmの桿菌で,鞭毛は液体培地に培養すると一端一毛(極単毛)の形で観察されるが,固形培地に培養すると周毛性の鞭毛を形成する.

・好塩性で,Vibrio choleraeと異なりNaCl(1〜8%)がないと増殖できない.

・感染型食中毒の重要な原因菌である.

ビブリオ・バルニフィカス

著者: 児矢野早穂 ,   佐藤智明

ページ範囲:P.1323 - P.1325

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陰性桿菌である.

・極単毛で活発な運動性を有する.

・菌体はVibrio属に特有な軽度彎曲した短いバナナ状あるいはコンマ状である.

・3%塩化ナトリウム加培地では極めてよく発育するが,8%の濃度では発育抑制される.

・海水や海泥海産性の魚介類に広く分布しており,水温が20℃以上になると活発に増殖する.

・vulnusはラテン語で“傷”を意味する1)

エルシニア

著者: 佐藤智明

ページ範囲:P.1326 - P.1329

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陰性桿菌で腸内細菌科に属する.

・大きさは0.5〜0.8μm×1.0〜3.0μm,桿状または卵円形.

・他の腸内細菌科の菌と比較し発育が遅い.

・Yersinia属は現在11菌種に分類されているが,ヒトに下痢などの食中毒様症状の病原性を示すのはYersinia enterocoliticaおよびYersinia pseudotuberculosisである.

・0〜45℃で発育可能(冷蔵庫内でも発育)であり,至適発育温度は25〜28℃である.

・37℃で培養すると鞭毛が形成されないが,25℃で培養すると鞭毛が形成されて運動性が出てくるなど,増殖する温度により性状が大きく変化する.

・野ネズミなどの野生動物やウシ,ブタなどの家畜,イヌ,ネコなどのペットに存在し,ヒトへは食物汚染や保菌動物との接触により感染する人畜共通感染症である.

セラチア・マルセッセンス

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.1330 - P.1332

菌の基本情報

1.性状と特徴

・自然界に広く存在する腸内細菌科の偏性嫌気性グラム陰性桿菌である.

・セラチア属のなかではSerratia marcescensが最も重要であり,時にS. liquefaciensが問題となることがある.

緑膿菌

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.1333 - P.1336

菌の基本情報

1.性状と特徴

・自然界の水系に広く存在するブドウ糖非発酵の好気性グラム陰性桿菌である.

・シュードモナス(Pseudomonas)属としては10菌種が知られているが,なかでも緑膿菌P. aeruginosaが最も重要である.

・他のシュードモナス属細菌としてはP. fluorescens,P. putidaなどが臨床検体から分離される頻度が高い.

・バークホルデリア(Burkholderia)属,ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)属,コマモナス(Comamonas)属,シュワネラ(Shewanella)属はシュードモナス属の近縁細菌として重要である.

アシネトバクター属菌

著者: 石井良和

ページ範囲:P.1337 - P.1341

菌の基本情報

1.性状と特徴

 アシネトバクター属菌の名前は,ギリシャ語で動くことができない桿菌という意味に由来する.1954年,それまでのMoraxella lwoffiiがAcinetobacter lwoffiiと改名された際にアシネトバクター属が設けられた.アシネトバクター属菌は,生化学的性質を基に分類された菌種名とともに,遺伝子配列を基にする分類のGenospeciesも使われている1,2).アシネトバクター属菌は現在,Proteobacteria(門),Gammaproteobacteria(綱),Pseudomonadales(目),Moraxellaceae(科)に属する.現在,A. baumannii,A. beijerinckii,A. bereziniae,A. boissieri,A. bouvetii,A. brisouii,A. calcoaceticus,A. gerneri,A. guillouiae,A. gyllenbergii,A. haemolyticus,A. indicus,A. junii,A. lwoffii,A. nectaris,A. nosocomialis,A. parvus,A. pittii,A. radioresistens,A. rudis,A. schindleri,A.soli,A. tandoii,A. tjernbergiae,A. towneri,A. ursingii,A. venetianusの27菌種に分類されている.

ステノトロフォモナス・マルトフィリア

著者: 石井良和

ページ範囲:P.1342 - P.1344

菌の基本情報

1.性状と特徴

 Stenotrophomonasという名前は,ギリシャ語を起源とするstenos(狭い)とtrophos(飼料の1つ),monas(単位)に由来する.maltophiliaは同じくギリシャ語のmaltum(モルト)とphilia(親和性)に由来し,麦芽に対する親和性を意味している.

 Stenotrophomonas maltophiliaは,1943年にBacterium bookeriと命名された好気性のブドウ糖発酵グラム陰性桿菌である.その後,Pseudomonas属あるいはXanthomonas属に分類されていたが,1993年にStenotrophomonas属に分類された.Stenotrophomonas属菌は植物病原体として知られ,土壌,水,動物,植物などから分離される.S. maltophiliaは,他のStenotrophomonas属菌と同様に湿潤環境に広く生息するが,唯一,人に感染する菌種である1).S. maltophiliaは,易感染宿主における日和見感染原因菌として知られており,上気道,創部,血液,尿などの臨床検体から分離される.病院環境では,水道水,人工呼吸器,透析装置,医療デバイス,精製水,消毒薬,浴槽などに生息している2)

カンピロバクター・ジェジュニ

著者: 岡崎充宏

ページ範囲:P.1345 - P.1348

菌の基本情報

1.性状と特徴1〜3)

・グラム陰性微好気性らせん桿菌である.

・一般的には酸素が3〜15%の微好気的条件下で発育し,好気的条件下では発育しない.

・菌体は,幅0.2〜0.9μm,長さ0.5〜5μmの細長くS状に彎曲し,一般に制止期では長く,対数増殖期では短い.古い培養ではらせん状から球状になるものがある.芽胞は形成しない.

・菌体の端に単極あるいは両極にそれぞれ1本の鞭毛をもち,活発に旋回運動(コルクスクリュー様運動)を示す.

・発育温度は31〜46℃で,25℃では発育できない.

・家禽(特にニワトリ),ヒツジおよびウシの消化管に常在する(Campylobacter coliはブタでの保有率が高い).

・人獣共通感染症の原因菌であり,ヒツジの流産やウシの腸炎の原因菌の1つである.

カンピロバクター・フィタス

著者: 岡崎充宏

ページ範囲:P.1349 - P.1352

菌の基本情報

1.性状と特徴1〜3)

・グラム陰性微好気性らせん桿菌である.

・一般的には酸素が3〜15%の微好気的条件下で発育し,好気的および嫌気的条件下では発育しない.

・菌体は,幅0.2〜0.9μm,長さ0.5〜5μmであり,細長くS状に彎曲している.芽胞は形成しない.

・菌体の端に単極あるいは両極にそれぞれ1本の鞭毛をもち,活発な旋回運動(コルクスクリュー様運動)を示す.

・発育温度は20〜40℃で発育できる.多くの菌株は42℃では発育できないが,一部の菌株は発育できる(Campylobacter jejuniおよびC. coliとの鑑別に重要).

・ヒツジおよびウシの消化管に常在する.

・人獣共通感染症,家畜の伝染性流産および不妊の原因菌である.

ヘリコバクター・ピロリ

著者: 松井英則

ページ範囲:P.1353 - P.1356

菌の基本情報

1.性状と特徴

・グラム陰性の螺旋菌で運動性がある.

・37℃,5〜6%O2,10%CO2,100%湿度の微好気条件下で3〜5日培養すると1〜2mmの正円形のコロニーを生じる.臨床検体からの分離には,厳密な培養条件を必要とする.

・幅0.4〜1.0μm,長さ2.5〜5μmで2〜3回ねじれてS字状を呈し,4〜8本の単毛性の極鞭毛をもつ.

・オキシダーゼ陽性,カタラーゼ陽性,硝酸塩を還元しない.

・インドール非産生,馬尿酸分解陰性,ウレアーゼ陽性(尿素を分解).

・人の胃粘膜表層に持続感染する.ピロリ(pylori)の名前の由来は,感染部位である胃の「幽門」を意味するラテン語のpylōrusに由来する.英語で発音する場合は「ピロリ」ではなく,「パイロリ」あるいは「パイローライ」となる.

ヘリコバクター・シネディ

著者: 高橋俊司 ,   林原絵美子

ページ範囲:P.1357 - P.1361

菌の基本情報

1.性状と特徴

・微好気性グラム陰性らせん状桿菌である.

・両極に鞭毛をもつ,0.3〜0.5μm×1.5〜5μmのらせん状桿菌である.Campylobacter属菌に比べ菌体が長い(図1).

・微好気環境(酸素5%,炭酸ガス10〜15%,残り窒素)に水素5〜10%を添加することで増殖が促進される1)

・遊走性があり,血液寒天培地上に光沢のあるフィルム状コロニーを形成する.

・人や動物(サル,ハムスター,ラット,イヌ,ネコ,キツネなど)の腸管に棲息する.

インフルエンザ菌

著者: 長南正佳 ,   中村文子

ページ範囲:P.1362 - P.1365

菌の基本情報

1.性状と特徴

・通性嫌気性グラム陰性短桿菌である.

・0.3〜0.5μm×0.5〜1μmで時に多形性を示す.

・鞭毛をもたず,芽胞は形成しない.有莢膜株が存在する.

・5〜10%炭酸ガス培養で発育が促進される.

・発育に十分量のⅩ因子(ヘミン)とⅤ因子(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)を必要とする.

モラクセラ・カタラーリス

著者: 長南正佳 ,   中村文子

ページ範囲:P.1366 - P.1368

菌の基本情報

1.性状と特徴

・偏性好気性グラム陰性球菌である.

・直径1.0μm前後で腎臓形の双球菌である.

・鞭毛をもたず,芽胞,莢膜を形成しない.

・オキシダーゼ試験陽性,カタラーゼ試験陽性である.

・ヒトの上気道,特に小児の後鼻腔に常在する.

百日咳菌

著者: 村田美香 ,   小佐井康介 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.1369 - P.1371

菌の基本情報

1.性状と特徴

・好気性グラム陰性球桿菌.

・大きさは0.5〜1.0×0.2〜0.5μm.

・急性の呼吸器感染症である百日咳の原因菌で“pertussis”は“強い咳”を意味している.

・飛沫感染.

・潜伏期は通常7〜10日.

レジオネラ

著者: 西村典孝 ,   森永芳智 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.1372 - P.1375

菌の基本情報

1.性状と特徴

・好気性グラム陰性桿菌.

・2〜20×0.3〜0.9μm.

・莢膜・芽胞はない.

・細胞内寄生性.

・自然環境中の水や空調の冷却水,土壌,温泉などに棲息.

・70℃以上の高温では1分程度で死滅する.

・発育にL-システインを必要とし,36℃,pH6.9を至適発育条件とする.

・レジオネラ属は50菌種以上存在しているが,人へ病原性を示すのは,Legionella pneumophila(以下,L. p),L. bozemanii,L. micdadei,L. longbeachaeなどの一部の菌種1,2)

・人から人への感染はないとされる.

・レジオネラ肺炎ではL. pの頻度が最も高く,全体の3/4程度1)

・数十種類の血清型が知られており,分離される頻度が高いのはL. pの血清型1が多い2,3)

肺炎マイコプラズマ

著者: 諸角美由紀

ページ範囲:P.1377 - P.1379

菌の基本情報

1.性状と特徴

・グラム陰性の自己増殖可能な最小微生物である.

・ゲノムサイズが小さく,そのGC含量も40%と少ないことが特徴である.

・125nmから数μmの多形性である.

・細胞壁を欠き,脂質に富む3層からなる限界膜をもっている.

・発育にコレステロールや血清蛋白を必要とする.

クラミジア/クラミドフィラ

著者: 坂内久一

ページ範囲:P.1380 - P.1383

菌の基本情報1,2)

1.性状と特徴

・偏性細胞内寄生微生物である.

・グラム陰性の球状粒子である.

・感染型,増殖型,両者の中間型がある.

・大きさは感染型200〜300nm,増殖型500〜800nm程度である.

・宿主細胞質内に封入体を形成し,そのなかで二分裂により増殖する.

・抗生物質感受性である.

・DNA,RNAを保有する.

嫌気性菌

ディフィシル菌

著者: 山本剛

ページ範囲:P.1384 - P.1389

菌の基本情報

1.性状と特徴1〜3)

・偏性嫌気性グラム陽性桿菌である.

・0.5×6〜8μmの周毛性鞭毛を有する.

・芽胞を形成し,莢膜をもたない.芽胞は亜端在性で楕円形(図1).

・糞便は一度アルコールで1時間処理してから培養に用いる.

・培地はCCFA(cycloserine cefoxitin fructose agar)寒天培地やCCMA(cycloserine cefoxitin mannitol ager)寒天培地といった選択培地を使い,嫌気条件下で培養をする.

・培養開始後24時間で微少コロニーを形成し,48時間で3〜5mmの黄色のラフ型集落を形成する(図2).

・集落に紫外線(ultraviolet ray:UV)を照射すると黄色〜黄緑色の蛍光を発する(図3).

・トキシンを産生し偽膜性腸炎を起こす.

・接触感染により院内感染を起こす.

・環境中に長期間(芽胞形成菌は5カ月)4)生存する.

・アルコール消毒は無効である.

ウェルシュ菌

著者: 山本剛

ページ範囲:P.1390 - P.1393

菌の基本情報

1.性状と特徴1,2)

・偏性嫌気性グラム陽性桿菌である.

・0.9〜1.3×3〜9μmで運動性をもたない.

・芽胞を形成し,莢膜を形成する.芽胞は亜端在性で楕円形であるが芽胞形成は他のClostridiumに比べて弱く確認がしにくい(図1).

・培養は通常のヒツジ血液加ブルセラ寒天培地に発育し,嫌気条件下で培養をする.

・カナマイシン添加卵黄CW寒天培地上では乳白色の隆起したコロニーを形成し卵黄反応を呈する.

・24時間後でコロニーを形成し,円形で隆起した灰白色のコロニーを形成する(図2).

・二重溶血環(完全溶血環と不透明溶血環)を形成する.

・集落に紫外線(ultraviolet ray:UV)を照射すると,黄色〜黄緑色の蛍光を発する.

・発育至適温度は37〜45℃.6℃でも増殖可能である.

・酸素に極めて感受性が高い.

・A,B,C,DおよびEの5つの外毒素を産生する.食中毒のほとんどがA型に属する.

・主な病原因子はエンテロトキシン(C. perfringens enterotoxin:CPE)である.CPEは易熱性の蛋白質で熱や酸により容易に分解される.

・腸管と結合組織・筋肉組織の2つの標的部位がある.

破傷風菌

著者: 神谷茂

ページ範囲:P.1394 - P.1396

菌の基本情報

1.性状と特徴

・菌の大きさは0.3〜0.6×3〜6μmで,グラム陽性を示す桿菌である.周毛性鞭毛をもち運動性を有する.

・アミノ酸をエネルギー源,炭素源としてエネルギーを産生する.糖の発酵能はほとんどない.

・芽胞は端在性に形成され,その形態は“太鼓のバチ状(drumstick form)”や“手鏡状”,“テニスラケット状”に似る(図1).

・土壌中より検出される.その他,ヒトやウマなどの動物腸管内に存在する.

バクテロイデス

著者: 神谷茂

ページ範囲:P.1397 - P.1400

菌の基本情報

1.分類

・バクテロイデス属細菌はグラム陰性偏性嫌気性桿菌であり,嫌気性菌感染症の主たる原因菌となり,医学的に重要である.

・重要なバクテロイデス属菌種はBacteroides fragilisであり,5種のsubspecies(fragilis,

distasonis,ovatus,thetaiotaomicron,vulgatus)をもち,これらはB. fragilisグループと呼ばれていたが,DNAホモロジー解析の結果,現在ではそれぞれの菌種に分けられている(従来のB. distasonisは分子遺伝学的に異なるパラバクテロイデス属に分類されることとなった).

・B. fragilisは偏性嫌気性細菌に分類されているが,近年,ナノモルレベルの酸素環境下では,酸素を利用してエネルギーを獲得する能力をもつことが報告されている.バクテロイデス属細菌のうち,B. splanchnicusのみが酪酸を発酵できる.

・分子遺伝学的にバクテロイデス属と異なるクラスターを形成する従来のバクテロイデス属細菌は,新たにパラバクテロイデス属Genus Parabacteroidesに分類された.Parabacteroides属に分類される主たる菌種を表1に示す.

・P. distasonisは腸内フローラ構成菌であるとともに,嫌気性感染症の原因菌となる.検査,治療についてはバクテロイデス属に準じる.

抗酸菌

結核菌

著者: 御手洗聡 ,   高木明子

ページ範囲:P.1401 - P.1404

菌の基本情報

1.性状と特徴

・定型的抗酸性.

・グラム陽性桿菌(Gram染色では染色されにくいため,“抜け”て見えることがある).

・サイズは0.3〜0.6μm×1.0〜4.0μm(テキストによっては〜10μm,多形性のため球菌様に見えることもある).

・好気性または微好気性.

・非運動性.

・無芽胞形成性.

・遺伝子中のグアニンとシトシンの含有量が61〜71%と他の細菌よりも多い.

非結核性抗酸菌

著者: 御手洗聡 ,   高木明子

ページ範囲:P.1405 - P.1408

菌の基本情報

1.性状と特徴

・非結核性抗酸菌は結核菌群とらい菌を除く抗酸菌の総称である.

・環境中に存在.

・抗酸性.

・グラム陽性桿菌.

・サイズは0.2〜0.7μm×1.0〜10μm.

・発育速度や発色性によりRunyon Ⅰ〜Ⅳの4群に大別される.

Runyon Ⅰ:コロニーは暗所では灰白色ないしクリーム色であるが,増殖期の菌に光をあてて再び暗所に戻して培養すると,24時間以内にレモン黄色に発色する(光発色性).

Runyon Ⅱ:暗所培養でもコロニーが黄色〜オレンジ色に着色(暗発色性).

Runyon Ⅲ:コロニーは灰白色〜クリーム色で,光発色性を示さない.

Runyon Ⅳ:培養1週間以内(初回分離培養では発育に1週間以上かかることがある)にコロニーを認める(迅速発育).

・160種以上の非結核性抗酸菌が分類されている(2013年12月現在)1)

真菌

カンジダ属

著者: 村山琮明

ページ範囲:P.1409 - P.1412

菌の基本情報

1.性状と特徴

・カンジダ症の主な起因菌種は,Candida albicansが最多起因菌種であるが,その他C. glabrata,C. tropicalis,C. parapsilosis,C. krusei,C. lusitaniae,C. kefyr,C. guilliermondii,C. rugosa,C. dubliniensisなどがある.

・二形性真菌.

・3〜6μmの円形あるいは卵形の出芽型酵母形を示す.組織内ではC. glabrata以外は仮性菌糸を形成する.他のCandida属は2倍体といわれている.

・C. glabrataは一倍体であり,他のCandida属菌種に比べて小さく,組織内でも酵母形のみしか示さない.

・C. albicans,C. tropicalisなどでは真性菌糸も認められる.

・人では腸管内,口腔粘膜,皮膚,腟に常在する.

アスペルギルス属

著者: 村山琮明

ページ範囲:P.1413 - P.1416

菌の基本情報

1.性状と特徴

・アスペルギルス症の主な起因菌種は,Aspergillus fumigatusが最多起因菌種であるが,そのほかA. flavus,A. niger,A. terreusなどがある.

・糸状菌(真菌).

・幅3〜6μmの有隔菌糸を形成し,又状分岐を示す.空気に触れる組織部位では,分生子頭を形成することがある.

・Aspergillus属菌は自然界に広く存在する.

クリプトコックス

著者: 大楠美佐子 ,   亀井克彦

ページ範囲:P.1417 - P.1419

菌の基本情報

1.性状と特徴

・莢膜をもつ担子菌系酵母.莢膜にはglucuronoxylomannanが含まれており,これが抗原診断に用いられている.

・直径5〜7μmでほぼ球形.

・クリプトコックス症の原因菌.

・以前はCryptococcus neoformans var. neoformans,C. neoformans var. gattiiと2つの変種とされていたが,現在はC. neoformansとC. gattiiの2種に分けられた.

・C. neoformansはA,D,(AD),C. gattiiにはB,Cの血清型がある.

・患者分離株はわが国では主に血清型AのC. neoformansである.

・クリプトコックス症ではβ-D-グルカン値は概して低く出ることが多く,有用ではない.

接合菌—Rhizopus oryzae,Absidia corymbiferaなど

著者: 矢口貴志 ,   亀井克彦

ページ範囲:P.1420 - P.1422

菌の基本情報

1.性状と特徴1)

・ムコール亜門に属する真菌.

・主な菌種:Rhizopus oryzae,Absidia(Lichtheimia)corymbifera,Cunninghamella bertholletiae.

・生育よく,綿毛状,寒天培地上でシャーレの蓋に達する毛足の長い綿毛状のコロニーを形成.

・菌糸は幅広く隔壁はない.

・血管侵襲性が強く,血栓や梗塞を形成する.

・汚染菌としても検出.

ニューモシスチス・イロベチイ

著者: 槇村浩一

ページ範囲:P.1423 - P.1426

菌の基本情報

1.性状と特徴

・子囊菌門,タフリナ亜門に属する真菌であり,近縁種は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)である.

・かつて本菌名であったPneumocystis cariniiは,現在ラットを宿主とする菌種名であり,ヒト病原菌であるP. jiroveciiとは別種である.本属菌種としては,少なくとも数種が知られているが,おのおの特定の宿主にしか感染しない(宿主種のバリア).したがって,ヒトにおけるP. carinii肺炎はあり得ない.

・検査室において実施できる本菌の培養法は確立されていない.また,ヒトに対する絶対寄生菌(常在菌)であり,環境中における発育は不能と考えられている.

・検鏡上,小型(1〜3μm)の栄養体(9割以上を占める)と,厚い細胞壁を有するやや大型(5〜8μm)のシストを認める(図1,2).

・シストには8個の胞子が含まれており,これが発芽して栄養体となる.また,栄養体は2分裂によっても増殖する.

・シスト細胞壁は(1→3)-β-D-グルカン〔(1→3)-β-D-glucan:BD〕を含有する.

原虫

赤痢アメーバ

著者: 小林正規

ページ範囲:P.1427 - P.1429

菌の基本情報

1.性状と特徴

・嫌気性の原生動物(アメーバ目):明確なミトコンドリアはみられない.

・囊子(cyst):球形(まれに長球形)径12〜15μm.

 キチン質の囊子壁に覆われる.囊子内栄養型は成熟すると4核(感染型)となる〔核の中心に小さな球形のカリオソーム(クロマチン核小体)と核膜下に密に並ぶクロマチン粒を有すエントアメーバ(Entamoeba)タイプの核と,核分裂期の細胞質内には棍棒状の類染色質体(リボソームの結晶)やヨード・ヨードカリで濃染するグリコーゲン胞(辺縁部が不明瞭)がみられる〕.

 栄養型(trophozoite):エントアメーバタイプの核を有し,大きく葉状偽足を突出させることでアメーバ運動と貪食を行う(20〜50μm).

・栄養型は大腸粘膜に接着,侵入して増殖し,腸粘膜のびらんや潰瘍を引き起こす.赤血球を貪食する栄養型がしばしばみられる.

・病変が顕在化することで発症〔腸アメーバ症(大腸病変をみるもの)と腸管外アメーバ症(血行性あるいは癒着した組織を介し直接進展することで大腸以外の臓器に転移し病変形成するもの)とに大別される〕.

マラリア

著者: 春木宏介

ページ範囲:P.1430 - P.1434

菌の基本情報

1.性状と特徴

・住血胞子虫類に属する.

・ハマダラカ(Anopheles spp.)によって媒介される.

・主として4種(熱帯熱マラリア:Plasmodium falciparum,三日熱マラリア:P. vivax,四日熱マラリア:P. malariae,卵形マラリア:P. ovale)が,また,人に感染するサルマラリア(P. knowlesi)を入れた場合には5種が知られている.

・ヒトでは赤血球内に寄生.感染初期に肝細胞内において増殖する場合と休眠期に入る場合がある.

・末梢血における形態としては栄養体,分裂体,生殖母体が知られている.

・流行地では無症状で原虫血症をきたしている例もみられる.

・終宿主はAnopheles spp.の蚊である.

・流行地は主として熱帯,亜熱帯であるが三日熱マラリアは温帯にもみられる.

Ⅳ章 微生物検査室との連携

感染症診療を進めて行くうえで微生物検査室との連携が役立った症例

著者: 村中清春 ,   細川直登

ページ範囲:P.1435 - P.1441

●結核はまず疑うことから(微生物検査室から結核を疑う).

●結核菌はGram染色で抜けて“見える”.

●耐性グラム陰性菌はまず疑うことから.

●検査結果と臨床経過に不一致があれば,自動検査機器の“嘘”を見抜く.

●検査の“S(感受性)”は必ずしも臨床の“S”ではない.

小児病院における細菌検査室と感染症科の連携

著者: 手塚宜行 ,   宮入烈

ページ範囲:P.1442 - P.1448

●小児においても耐性菌による感染症が問題となってきている.薬剤感受性結果の理解は細菌検査室との情報共有で,より洗練されたものになり,また耐性菌検出情報をいち早く共有することで,より適切な治療や感染管理が可能となる.

●血流感染症などの重症感染症のマネジメントにおいて,可能な限り早く起炎菌を想定するためには,細菌検査室との連携が大切である.Gram染色から得られる詳細な情報や,培養結果の途中経過も含め情報を共有することで,より迅速に適切な治療へ変更することが可能となる.

●感染症診療において,細菌検査室との連携は欠かせない.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1450 - P.1450

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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