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雑誌目次

論文

臨床検査58巻12号

2014年11月発行

雑誌目次

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1455 - P.1455

 内分泌の病気としては最も頻度の高い甲状腺疾患をとり挙げました.甲状腺関連の検査(ホルモン,自己抗体)は,特殊検査のイメージが強かったのですが,近年自動化が進み身近なものになりました.また,代謝病ということもあり,酵素や脂質などの日常的検査から疑うことが可能であり,疑う必要がある疾患です.遺伝性の病態においては分子生物学的にアプローチされています.悪性疾患では穿刺細胞診が威力を発揮し,分子生物学的な手法も有用です.まず以上の手法につき,最新の知識を確認ください.次に,甲状腺緊急症と呼ばれる病態を認識いただき,緊急対応にお役立てください.最後に,進行形の話題であります放射線の影響を解説いただきました.

甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体検査の最近の動向

著者: 村上正巳

ページ範囲:P.1456 - P.1462

●甲状腺機能を評価する遊離トリヨードサイロニン(FT3),遊離サイロキシン(FT4),甲状腺刺激ホルモン(TSH)は外来迅速検体検査加算の対象である.

●第2世代と第3世代のTRAbは未治療Basedow病のほとんどの例で陽性となる.

●第3世代のTRAbと抗サイログロブリン抗体(TgAb),抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)は,全自動測定による診察前検査が可能となった.

甲状腺疾患を疑う血液生化学検査異常

著者: 鈴木悟

ページ範囲:P.1463 - P.1467

●甲状腺ホルモンが血液生化学検査に変化をもたらす機序を調節経路別にまとめた.

●実際に甲状腺ホルモンにより変化する生化学検査を列挙した.

●血液生化学検査値の甲状腺ホルモンによる変化を,実際の症例により提示した.

甲状腺疾患への分子生物学的アプローチ

著者: 高野徹

ページ範囲:P.1468 - P.1473

●甲状腺ホルモン不応症(RTH)の確定診断にTRβ遺伝子の解析が重要である.

●髄様癌の患者は遺伝性であるかどうかを判定するためにRET遺伝子の解析が必要である.

●濾胞癌の術前診断法として,TFF3の発現を指標とした穿刺吸引核酸診断法(ABND)が開発途上である.

甲状腺穿刺吸引細胞診の最近の動向

著者: 星川里美 ,   佐野孝昭 ,   栗原康哲 ,   吉田朋美 ,   福田利夫 ,   小山徹也

ページ範囲:P.1474 - P.1479

●甲状腺疾患の質的診断として超音波ガイド下穿刺吸引細胞診が多く用いられている.

●一般的に乳頭癌の正診率は高いが,濾胞性腫瘍は判定が困難な場合がある.

●数種類の報告様式が提唱されており,特に鑑別困難例と濾胞性腫瘍の取り扱いに関して,それぞれに特徴がある.

甲状腺緊急症への対応

著者: 赤水尚史

ページ範囲:P.1480 - P.1483

●甲状腺中毒性クリーゼと粘液水腫性昏睡が甲状腺緊急症の代表例である.

●甲状腺中毒性クリーゼと粘液水腫性昏睡の診断基準が日本甲状腺学会において作成されている.

●多臓器不全が特徴的である.

●しばしば救急外来を受診し,非専門医が初期対応する場合が少なからずある.

●致死的疾患であるので,早期の診断と治療開始が重要である.

放射線の甲状腺への影響とその実際

著者: 志村浩己

ページ範囲:P.1484 - P.1489

●0.1〜0.2Gy以上の放射線外部被曝あるいは内部被曝により,線量依存性の甲状腺癌発症リスクの上昇が証明されている.

●放射線による甲状腺癌発症リスクは年齢と性別に依存し,より低年齢の小児において,また男性と比較して女性においてリスクが高い.

●福島県における放射線被曝は,過去の事例において甲状腺癌の発症リスクが証明されている線量より低レベルであることから,甲状腺癌発症のリスクは非常に低いと考えられている.

今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

著者: 山内一由

ページ範囲:P.1491 - P.1491

 自動化した分析機器,キット化した試薬,あるいは備え付けのソフトウエアをただマニュアル通りに漫然と使っているだけでは,日常検査のなかで遭遇するトラブルに十分対応し,改善につなげることができません.また,こうした状況では検査の現場がイニシアチブをとって検査を絶えずアップグレードしていくこと,あるいは千載一遇ともいえるまれな症例をみつけ出し,科学的な説明を加えていくことなど不可能です.臨床化学検査は最も自動化と標準化が進んだ領域ですが,検査に携わる者が受け身になり,“使いこなそう”という意識が希薄になると,たちまちブラックボックス化が進んでしまう危うい領域でもあります.本特集では,臨床化学検査を事例として,いかにブラックボックス化に立ち向かい,脱却していくかについて手ほどきをしていただきました.臨床化学のみならず他の検査領域でも,お役立ていただけるものと確信しています.

サンプリングの盲点

著者: 清宮正徳 ,   澤部祐司 ,   野村文夫

ページ範囲:P.1492 - P.1496

●正確な検査結果の報告には,検体の適切な取り扱いが不可欠である.

●検体のサンプリングから分析・報告に至る共通手順を作成し,スタッフ全員で順守する.

●異常事例発生の際には,なぜそのような事例が生じたか,どうすれば今後予防可能かをできる限り解析する.

●希少な症例や事例に遭遇した際は,多くの人々と情報を共有できるよう,可能な限り学会や論文で報告する.

標準物質,管理試料を使いこなそう

著者: 松本祐之 ,   松山浩之

ページ範囲:P.1497 - P.1504

●標準物質は定量学的トレーサビリティ連鎖において,それぞれ使用目的にあったものを使用し,常にトレーサビリティ連鎖が確保されていることを確認する必要がある.

●管理物質は保存温度,溶解方法,溶解後の取り扱いなどにより検査結果に誤差を生じるため,製品に添付された取扱説明書の注意事項を遵守しなければならない.

●測定法導入時には試薬・機器の特性を検証し,最良の分析条件を設定すべきである.

●キャリブレーション実施時には自動分析装置に備わっているキャリブレーショントレースやキャリブレーションカーブなどを確認する.

試薬の選定,導入における検討時の注意点

著者: 大川龍之介 ,   大久保滋夫 ,   戸塚実 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.1505 - P.1510

●試薬の選定・導入前には確認すべきことがたくさんある.

●試薬添付文書をうのみにしてはならない.

●妥当性確認試験は装置の異常の発見にもつながる.

反応曲線を読みこなす

著者: 山本慶和

ページ範囲:P.1511 - P.1520

●日常検査では異常値が生じたときに反応曲線を確認している.さまざまな異常値症例の報告で,異常値の要因分けに反応曲線は利用されている.これは,反応曲線は個々の検体の測定過程そのものの状況を反映することがあるという考え方をベースとしている.

●ほとんどの検体は問題なく測定されており,その反応曲線は検査項目固有のパターンを示す.そのパターンから乖離すれば何らかの問題が生じたことを疑う.

●反応曲線をより理解するには,総論的な反応原理を理解することではなく,各試薬ボトルの成分にはそれぞれ役割があり,各反応ステップによってその役割の反応が進行していることを理解する必要がある.

異常を見逃さないための内部精度管理

著者: 松原朱實

ページ範囲:P.1523 - P.1528

●狭義の内部精度管理(IQC)には管理試料と患者試料を用いる方法がある.

●個別データ管理は検査過誤など検査前後段階の精度管理(QC)も可能である.

●分析前後過程では日内変動,個体内・個体間変動などの生理的変動も考慮する必要がある.

●広義のIQCは新規項目導入から検査結果の解釈までの体系化された総合的な精度保証(QA)である.

患者情報(カルテ)を活用しよう

著者: 川崎健治

ページ範囲:P.1530 - P.1535

●ブラックボックスからの脱却には,患者情報を常に参照していくことが必要である.

●検体検査を担当している臨床検査技師は,患者情報から臨床を学び,患者の病態や診療と臨床検査値の関係を整理する必要がある.

●自分たちで検討して自施設のデータをもつことによってさまざまなアドバイスや解釈を提示することができる.

●容器単位ではなく,患者単位で検体検査を行うことができる業務の整備が必要である.

データを磨くメンテナンス

著者: 金原清子

ページ範囲:P.1538 - P.1546

●自動分析装置の安定稼働には,日常の点検作業,定期的なメンテナンス,および作業記録が重要である.

●日常検査に潜む問題点をいち早く発見して,原因を特定し,日常の現場からその原因を取り除くことが,検査に携わる者にとって,重要な業務である.

●トラブル事例,異常データの原因,対処方法などの記録のデータ化は,次に同じような異常データが出現したとき,迅速な対応をするのに役立つ.

今月の表紙

NSE neuron specific enolase

ページ範囲:P.1454 - P.1454

 2014年表紙のテーマは“生命の森”.生命活動を支える重要な物質である蛋白質のうち,実際の臨床検査でも馴染みの深い12種類の蛋白質を厳選.その3D立体構造をProtein Data Bankのデータから再構築.大いなる生命のダイナミズムを感じさせるようにそれぞれの蛋白質を配置し,並べたときには蛋白質による“生命の森”を表現します.

INFORMATION

第25回フォーラム・イン・ドージン 温故知新のミトコンドリア学—Revisiting Mitochondriology

ページ範囲:P.1473 - P.1473

日 時:

 2014年11月14日(金) 10:00開会(9:30開場)

場 所:

 熊本ホテルキャッスル(熊本市中央区城東町4-2)

平成26年度在宅人工呼吸器に関する講習会

ページ範囲:P.1510 - P.1510

 受講希望者が多いため,本年度は東京で2回開催いたします.


日 程:

 (A)2014年11月11日(火)

申込締め切り日 2014年10月24日(金)

 (B)2015年3月20日(金)

申込締め切り日 2015年3月6日(金)

※先着順に受付をし,定員に達した場合は,締め切り日以前でも申し込み受付を終了します.

会 場:東京 大田区産業プラザPiO

    東京都大田区南蒲田1-20-20

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.1522 - P.1522

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

短報

消化器用薬服用により簡易尿中覚せい剤分析キットで偽陽性を起こした症例と検証実験

著者: 寺本量子 ,   今村ちさ ,   牧野由紀子 ,   平井愼二

ページ範囲:P.1547 - P.1549

 救急医療の現場では,意識障害や幻覚妄想,精神運動興奮,急性中毒や離脱症状が疑われるような患者を中心に,診断や治療方針決定のために,尿中薬物分析キットを用いてスクリーニング検査が実施されている.

 今回消化器用薬を服用している患者で尿中薬物分析キット〔Fastect®-Ⅱ メタンフェタミン(MET)検出用カセット(VERITAS社)〕が偽陽性を示す症例を経験した.

 臨床現場にて尿中薬物分析キットの結果を判断する際は,併用薬に対する注意が必要と思われる.

樋野興夫の偉大なるお節介・11

純度の高い専門性と,温かい心をもつ医療者

著者: 樋野興夫

ページ範囲:P.1550 - P.1551

 「近くで探すがん治療病院」(週刊朝日臨時増刊)の案内をいただいた(2014年8月8日発売).「がんで困ったときの相談先」として「日本対がん協会の電話・面接相談」,「がん診療連携拠点病院の相談支援センター」と並んで『「がん哲学外来」とは?』も紹介されていた(198〜199頁).驚きであるとともに,さりげなく「現代の医療の隙間」における「がん哲学外来」の存在性を感じた.


 「〈がん哲学外来〉お茶の水メディカル・カフェ in OCC」が開催された.台風の接近にもかかわらず,「ほっと憩える交わり求めて」,会場は,満席のカフェ参加者と個人面談6組があった.順天堂大学,東京医科歯科大学の大学院生,看護師の参加もあり,「お茶の水メディカルタウン」の中心に存在する共同体的なオアシス的雰囲気を痛感した.早速,『本日は豊かな学びのひとときをありがとうございました.いつもOCCでは新たな発見や気付きをいただき,自分が病気であることを忘れてしまいます.本当に「良き師,良き友,良き読書」との出会いに感謝です』と,「涙なくして語れない」温かいコメントが寄せられた.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1467 - P.1467

「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1479 - P.1479

投稿規定

ページ範囲:P.1552 - P.1552

次号予告

ページ範囲:P.1553 - P.1553

あとがき

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1554 - P.1554

 ここ数年は,9月に入っても暑さが続き,夏休みの期間が終了しても夏が継続して,短い秋を経由し急速に冬に至るという気候でした.しかし今年は8月末から気温が下がり,9月に入ると秋らしい気候となっています.私が前回担当した編集後記で,「今年は寒さの続いた春として記憶に残りそうな印象を受けます」と記しましたが,夏の暑さが長引くことはなかったようです.

 今月号は第1特集として「甲状腺疾患診断NOW」を取り上げました.甲状腺疾患は,内分泌疾患としては主要な疾患ですが,それでも多くの読者にとって,なじみの疾患とはいえないのではないでしょうか.少なくとも私自身はそのように感じております.しかし本特集によれば,「甲状腺疾患は,軽度の異常は自覚されないことが多く,また,診察上も明らかな所見を呈することは少ない.しかしながら,一般診療において,甲状腺疾患は決して珍しいものではなく,見落とさない努力が必要である」とのことです.甲状腺ホルモンは数多くの検査に影響を与えるので,見落とさないためには,甲状腺疾患における検査値の変動を理解しておく必要があります.そう考えると,臨床検査に携わる人間は,甲状腺疾患についてもっと知る必要があると感じられます.さらに臨床検査において,甲状腺疾患の検査は,近年確実な進歩が認められる分野の1つであり,知識をupdateしておくことも大切です.ホルモン関連の検査というと,私などはやや特殊な検査というイメージがありますが,現在では外来対応が可能な迅速検査の1つになっているとのことで,認識を新たに致しました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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