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雑誌目次

論文

臨床検査58巻13号

2014年12月発行

雑誌目次

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1559 - P.1559

 M蛋白血症は,基本的に臨床検査によって診断される病態である.多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症は,M蛋白血症を呈する悪性腫瘍性疾患であるが,多彩な検査異常を呈し,臨床検査は診断上重要な位置を占める.しかしこれらは造血器腫瘍のなかでも難治性の疾患であり,臨床検査は診断には貢献できても,治療まで見据えると,その貢献は十分とはいえなかった.

 近年,多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症の病態解明が進み,治療戦略にも進歩がみられ,上記した状況に変化が生じている.これに伴って臨床検査の価値にもさらなる可能性が生じると予想される.その道のりは,まだまだゴールへ向かう途上ではあるが,その現状を知っていただくため本特集を企画した.この特集を通じて,この分野における臨床検査の未来の可能性に対し,手応えを感じていただくことができれば幸いである.

MGUSと多発性骨髄腫の分子細胞学的発症機序

著者: 古川雄祐 ,   菊池次郎

ページ範囲:P.1560 - P.1568

●non-IgM MGUSの発症にはcyclin Dの強発現が関与している.

●non-IgM MGUSから多発性骨髄腫への進展には,Rasの突然変異・c-Mycの強発現・ゲノムの低メチル化が重要である.

●次世代シークエンシングによって多発性骨髄腫の進展にかかわる突然変異の出現機構が明らかにされつつある.

●IgM MGUSからマクログロブリン血症への進展にはMYD88の変異によるNF-κBの恒常的活性化が関与している.

臨床検査によるM蛋白血症の診断と評価

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1569 - P.1578

●M蛋白の検出は多発性骨髄腫(MM)と原発性マクログロブリン血症(PM)の診断に必要であり,ALアミロイドーシスの診断に有用である.

●その検出は免疫固定法(IFE)を中心に行い,必要に応じ遊離軽鎖定量法(FLC)を併用すべきである.

●M蛋白が陽性で上記疾患が否定されるMGUSについて,検査部門はその意味を理解し,説明しなければならない.

多発性骨髄腫の形態診断

著者: 大畑雅彦

ページ範囲:P.1579 - P.1589

●塗抹標本作製とその観察部位の選択が正しい評価の要点となる.

●多発性骨髄腫細胞の多様性〔Greipp分類とplasmablastic multiple myeloma(MM)細胞の臨床的重要性〕を熟知し,形態学的分類と病型診断を行う.

●再発/再燃時のMM細胞の特徴と種々の検査所見の推移から病態把握ができる.

●日常臨床の現場で認知しておくべきまれなMMの病型の特徴を理解する.

多発性骨髄腫のimmunophenotyping

著者: 一井倫子 ,   織谷健司 ,   金倉譲

ページ範囲:P.1592 - P.1597

●フローサイトメトリー検査により,従来の形態学的検査では困難であった正常/腫瘍性形質細胞の鑑別が可能である.

●骨髄腫細胞は,CD138 CD38Hi CD19 CD27 CD45−/Lowであり,CD56,CD20,CD28,CD117,CD13,CD33の異常発現を認めることがある.

●原発性マクログロブリン血症(WM)の腫瘍細胞の表面形質は,CD19+/Low CD22+/Low CD38 CD23 CD20 CD27 sIgMである.

●腫瘍細胞の表面抗原発現パターンを解析することで,病期と予後不良症例が検出できる.

多発性骨髄腫の遺伝子検査

著者: 五十嵐哲祥 ,   石田禎夫

ページ範囲:P.1599 - P.1605

●染色体異数性は染色体数によって,高二倍体(hyperdiploid)と非高二倍体(non-hyperdiploid)に分類される.

●IgH領域での転座の報告では,t(11;14),t(4;14),t(14;16),t(14;20),t(8;14),t(6;14),t(12;14)などが挙げられる.

●t(4;14),17p欠失,1p欠失,1q増幅は予後不良因子と報告されている.

多発性骨髄腫における癌幹細胞の同定

著者: 保仙直毅

ページ範囲:P.1606 - P.1612

●骨髄腫患者においてはクローナルな増殖を示すB細胞が検出されるが,多くの場合,それらは“骨髄腫幹細胞”ではなく,その前段階の細胞と考えられる.

●一方,多くの場合骨髄腫クローンの増殖の源となっている“骨髄腫幹細胞”は骨髄腫形質細胞由来と考えられる.

●骨髄腫形質細胞の不均一性をフローサイトメトリーによって検出し,それらのなかから骨髄腫幹細胞を濃縮する分画を同定することが今後重要である.

今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.1613 - P.1613

 急性冠症候群(ACS)を正しく把握していますか.不安定狭心症を正しく理解していますか.ACSの心電図変化とはどのような変化でしょうか.例えば,急性心筋梗塞症例のなかで心電図ST上昇を示す例は半分の50%程度にすぎませんが,では残りはどのような心電図なのでしょうか.また,ACS疑いで心エコー図検査を実施する場合,壁運動異常はもちろんですが,ACSに類似する症状や所見を念頭に置いて検査していますか.心室内血栓のほか,チェックすべき合併症項目を全て把握して検査していますか.現在,心電図,心臓超音波や核医学に求められる役割,冠動脈CT・心臓MRIはどこまで進歩しているのでしょうか.さらには生化学検査,特に高感度トロポニン測定やH-FABP測定を正しく活用していますか.本特集は,それらの解説に加え,ACSの各種治療法と若干の課題や展望をちりばめ,わかりやすくまとめることができました.

急性冠症候群の病態と治療

著者: 石綿清雄

ページ範囲:P.1614 - P.1619

●急性冠症候群(ACS)は不安定狭心症から急性心筋梗塞,さらには心臓突然死をひとまとめにする病態であり,不安定粥種の破綻と血栓形成を共通の基盤として発症する.

●すでに確立された診断と治療があり,迅速かつ最適な対応が必要となる病態である.

●治療指針のガイドラインの正確な解釈が大切である.

急性冠症候群における心電図評価

著者: 古川泰司

ページ範囲:P.1621 - P.1626

●急性冠症候群(ACS)のうち,ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)における心電図評価は従来の心電図評価と変わるものではなく,迅速・確実な診断が可能という点で重要度は増している.

●ACSを見落とさず,かつ迅速に評価するために,右側胸部誘導,背側部誘導が有用なことがある.

●不安定狭心症(uAP),非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)における心電図評価の意義は限定的といわざるを得ず,保険診療上も心筋マーカーや総合的リスク評価の重要性が増している.

—画像検査①—心エコー図・核医学検査

著者: 川合宏哉

ページ範囲:P.1627 - P.1636

●心エコー図検査による急性冠症候群(ACS)の診断において最も重要な所見は局所壁運動異常である.

●急性心筋梗塞の合併症には血行動態に大きな変化をもたらす病態が多く含まれ,鑑別と治療方針の決定に心エコー図検査は重要な役割を果たしている.

●心臓核医学検査は再灌流療法の効果判定,予後評価に極めて有用である.

●心エコー図・心臓核医学などの非侵襲的検査法の長所・短所を知り,検査法を使い分けていくことが重要である.

—画像検査②—ACS診断における冠動脈CT・心臓MRIの役割

著者: 寺島正浩

ページ範囲:P.1638 - P.1645

●冠動脈CTによる急性冠症候群(ACS)迅速診断の有用性が確立されつつある.

●心臓MRIによりACS患者の心筋虚血を正確に診断することが可能である.

●心臓MRIは心筋生存性評価,心筋梗塞サイズ,リスク領域の判定が可能である.

●冠動脈CT,心臓MRIは,虚血性心疾患の診断に今後もさらに重要な役割を果たすことが期待される.

生化学検査

著者: 石井潤一

ページ範囲:P.1646 - P.1652

●緊急検査は採血後1時間以内に結果を報告する必要がある.

●従来トロポニン値の心筋梗塞発症早期における診断感度と陰性予測値(NPV)は低い.そのため,胸痛発症後早期に来院した症例で急性心筋梗塞を除外するには,来院時に上昇していなくても6〜9時間後に再測定し,上昇していないことを確認する必要がある.

●高感度測定は心筋梗塞発症早期の診断感度とNPVを改善したが,心筋梗塞以外の心筋傷害を鋭敏に検出するため,診断特異度と陽性予測値(PPV)は低下した.鑑別診断には,値の変化(Δ)から心筋傷害か急性心筋傷害か否かを判定することが推奨されている.

●CK-MB活性,総CK活性,AST活性とLD(LDH)活性の急性心筋梗塞診断における有用性は低い.

各種治療の適応とポイント—カテーテル治療・冠動脈バイパス術・薬物治療

著者: 今村浩

ページ範囲:P.1654 - P.1661

●治療の目標は早期に冠動脈血流を確保することである.

●基本となる薬物治療に加えて,冠血流確保の手段として経皮的冠動脈インターベンション(PCI),冠動脈バイパス術(CABG),時に血栓溶解療法が行われる.

●ST上昇型急性心筋梗塞では一刻も早い冠再灌流が必要であり,通常はPCIが行われる.

●非ST上昇型急性冠症候群(不安定狭心症と非ST上昇型急性心筋梗塞)では冠動脈病変や患者の全身状態によりPCI,CABG,内科治療のどれかを選択する.

今月の表紙

PSA prostate specific antigen

ページ範囲:P.1558 - P.1558

 2014年表紙のテーマは“生命の森”.生命活動を支える重要な物質である蛋白質のうち,実際の臨床検査でも馴染みの深い12種類の蛋白質を厳選.その3D立体構造をProtein Data Bankのデータから再構築.大いなる生命のダイナミズムを感じさせるようにそれぞれの蛋白質を配置し,並べたときには蛋白質による“生命の森”を表現します.

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.1620 - P.1620

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・21

高アミラーゼ血症を伴う多発性骨髄腫

著者: 古城剛 ,   田淵智久 ,   松下昌風 ,   橋口照人

ページ範囲:P.1663 - P.1668

はじめに

 多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,M(monoclonal)蛋白の存在と骨病変や腎障害などの臨床症状を特徴とする形質細胞の腫瘍性疾患である.

 M蛋白の種類によって,IgG型,IgA型,IgM型,IgD型,IgE型,BJP(Bence Jones protein)型に分類され,さらにL鎖の種類によりκ型,λ型に分類される.IgG型が最も多く60%で,次にIgA型が20%,BJP型が15〜20%となり,IgM型,IgD型,IgE型はまれである1).多発性骨髄腫患者の60〜70%が,経過中に骨の破壊や形質細胞腫による神経組織の圧迫などにより疼痛を訴える1).骨破壊とともに腫瘍細胞が産生する副甲状腺ホルモン関連蛋白(parathyroid hormone-related protein:PTHrP)の作用が加わって,高カルシウム血症を呈する1).多発性骨髄腫に高アミラーゼ(amylase:AMY)血症を伴う症例において,骨髄生検の免疫染色によりAMY産生骨髄腫細胞と断定できた症例を提示する.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーF5〈アカデミア創薬の進展〉

ページ範囲:P.1668 - P.1668

日 時:

 2015年2月13日(金) 10:00〜16:50

場 所:

千里ライフサイエンスセンタービル 5階 

山村雄一記念ライフホール

(大阪府豊中市新千里東町1-4-2,地下鉄御堂筋線/北大阪急行千里中央下車)

樋野興夫の偉大なるお節介・12

『いい覚悟で生きる』—時代を動かすリーダーの胆力

著者: 樋野興夫

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 秋分の日(9月23日)「新渡戸・南原賞委員会主催シンポジウム:新渡戸・南原と現代の教養」(学士会館に於いて)が開催された.筆者は,「南原繁のリーダーシップに学ぶ〜時代を動かすリーダーの胆力〜」を講演する機会が与えられた.真の「胆力」の具体性について述べた.大いなる学びのときが与えられた.


 翌日,「新渡戸基金維持会定例委員会」(国際文化会館に於いて)に出席した.

 「新渡戸稲造の精神の継承」は,「現代の国際性・教養・教育」においても,大いに示唆に富むモデル事業であることを痛感した.まさに「せねばならぬ勤めならば,気軽く潔くすべし.何事も心地良く手をくだせば,よくはかどりてかつ身の疲労少なし」(『人生雑感』新渡戸稲造 著)の再確認のときでもあった.

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書評 —エコーでコラボ—主治医と検査者の相互理解を深める心エコー奥義

著者: 戸出浩之

ページ範囲:P.1590 - P.1590

心エコーを臨床で最大限に活かす

 循環器疾患の診断と病態把握における心エコー検査の重要性は広く認識され,各施設での心エコー実施数は飛躍的に増加してきている.心エコー検査は,ベッドサイドにおいて主治医自身が聴診器代りに探触子を持ち,必要最小限の情報だけを得るという一つの側面がある.一方,超音波装置の高性能化と検査技術の進歩と相まって,より詳細で高精度な情報まで得られるようになり,多くの施設の大多数の検査がエコー室においてエコー専門医や技師の手により実施されるようになってきている.そのような状況では,心エコーを依頼する主治医と,それを受けて検査を実施する検査者の間で十分な意思疎通が必要で,それがなければ患者にとって万全な心エコー検査が実施できない可能性もある.そして,昨今の電子カルテ化やオーダリングの普及は,主治医の顔が見えない検査依頼と,検査者の声が聞こえない検査レポートという弊害を生んでいる背景がある.

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1597 - P.1597

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1652 - P.1652

投稿規定

ページ範囲:P.1672 - P.1672

次号予告

ページ範囲:P.1673 - P.1673

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1674 - P.1674

 初秋の頃,信州大学の臨床検査部同門会主催による“信大セミナー”にお招きいただきました.21回を数える伝統あるセミナーで,近隣の関係者の方々(会自体は全国規模)に臨床検査の最新かつ高レベルなエッセンスを提供している勉強会です.信州大学グループは理想的な形で臨床検査学を実践しておられて,例えば,病理部門が教員を含めて検査部と一体となっていることから,病理の視点が研究や症例検討に生かされています.本来あるべき姿ですが,組織機構上の問題から難しい施設が多いのではないでしょうか.また,保健学部の先生方に検査部出身の方が多く,研究室と検査部の互いを補完し合う研究体制が確立されています.

「臨床検査」 第58巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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