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雑誌目次

論文

臨床検査58巻8号

2014年08月発行

雑誌目次

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断

著者: 山内一由

ページ範囲:P.887 - P.887

 医療は,その有効性と安全性を十分に確認したうえで遂行しなければなりません.薬害問題が起きるたびに,この当たり前過ぎる鉄則の重みを痛感させられます.“クスリにはリスクが伴う”という考え方は,医療従事者にとっては常識であっても,医療を受ける側にとっては受け入れ難い非常識です.個別化医療は,有効性と安全性の双方を担保しうる理想的な医療といえます.近年のコンパニオン診断の進歩は,個別化医療の実践を可能にしました.新しい治療薬が真に“夢の新薬”と成りうるかは,個別化医療を支えるコンパニオン診断にかかっています.そして,臨床検査室には,コンパニオン診断を担いうる力量が求められてきています.本特集では,今後さらなる発展が期待される当該領域の知識について,初学者にもわかりやすく解説していただきました.ぜひともお役立てください.

コンパニオン診断の基礎知識―概念,関連するガイドライン,最近の情勢など

著者: 松下一之 ,   野村文夫

ページ範囲:P.889 - P.901

●「コンパニオン診断」の基礎知識─概念,関連するガイドライン,情勢など─について概説した.

●「コンパニオン診断」は患者,個人の層別化とそのための疾患との因果関係が科学的に証明されたバイオマーカー(生体物質)の同定が,薬剤の開発や使用に必須であるという考え方である.

●個人のゲノム,癌細胞の状態(さまざまな分子メカニズムの変化)を正確に測定する技術のみならず,生体試料の採取,保存方法,試薬類,検査法,検査機器などの標準化,精度管理も「コンパニオン診断」が普遍性を保つためには必要である.

固形腫瘍治療とコンパニオン診断

著者: 丸川活司 ,   畑中豊 ,   松野吉宏

ページ範囲:P.902 - P.907

●わが国では,医薬品開発戦略のあり方を見直す必要性から,“費用対効果評価”の検討が始まり,特定の医薬品の適用患者を適切に絞り込むツールとしての層別化バイオマーカーが注目されている.

●コンパニオン診断(CDx)薬には,薬事法によって規制される体外診断用医薬品(IVD)を用いた検査と,薬事未承認の研究用試薬などを用いて各施設が独自に開発し展開することができる自家製試薬(LDT)を用いた検査方法がある.

●癌領域におけるCDx時に使用する病理組織・細胞検体は,品質保持が大きな課題であり,測定標的分子である蛋白質や遺伝子をいかに安定した状態で保存するかが肝要である.そのためには,CDxを意識した材料採取と検体保存方法が必要となる.

造血器腫瘍治療とコンパニオン診断

著者: 松田和之

ページ範囲:P.908 - P.917

●造血器腫瘍において蛋白・遺伝子レベルでのさまざまなバイオマーカーがコンパニオン診断に用いられている.

●コンパニオン診断薬(検査)において,臨床検査技術が基幹となっている.

●造血器腫瘍におけるコンパニオン診断薬(検査)には,体外診断薬(IVD)と検査室独自のhome-brew法(LDT)がある.

●医薬品投与時は,バイオマーカーの評価に加え,医薬品の有効性に違いを生じるバイオマーカーに関連する遺伝子変異を検査する必要がある(例:bcr-abl融合遺伝子をバイオマーカーとする際のAblキナーゼドメインの遺伝子変異).

生活習慣病治療とコンパニオン診断

著者: 三木哲郎

ページ範囲:P.918 - P.924

●遺伝的な背景の強い疾患の遺伝子解析は,塩基配列を決定する機器の改良,サンプル数の巨大化,統計学的な解析方法の進歩などに伴って容易になってきた.

●わが国の遺伝子解析関連の事業として,経済産業省が「遺伝子検査ビジネスに関する調査」報告書を発行し,厚生労働省が薬品・医療機器等安全性情報で「ファーマコゲノミクスの展望」を発行し,個人遺伝情報取扱協議会が,企業側の自主基準を作成している.

コンパニオン診断に必要な検査技術―検体の品質管理

著者: 中條聖子

ページ範囲:P.925 - P.932

●遺伝子関連検査は,①病原体遺伝子検査(病原体核酸検査),②ヒト体細胞遺伝子検査,③ヒト遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)の3種類に分類定義されている.

●遺伝子関連検査は,血液や組織,その他の材料から,検査の目的に応じた抽出試薬を用いて,DNAあるいはRNAを抽出して検査を実施する.

●コンパニオン診断に用いられる遺伝子検査技術には,一般の遺伝子関連検査と同様に,測定の目的に応じて,指定された採取容器に採取し,保存温度,保存時間を遵守し,検体の品質管理を実施することが重要となる.

コンパニオン診断の実践に求められる検査体制

著者: 中谷中

ページ範囲:P.933 - P.937

●検査精度を向上させるには,まずプレアナリシスとしての検体管理の重要性に目を向ける必要がある.

●検査の質保証のために,ベストプラクティスに準拠して実施されることが望ましい.

●検査結果を正確に解釈し,ユーザーにわかりやすく伝え,臨床活用することが重要である.

今月の特集2 血栓症時代の検査

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.939 - P.939

 高齢化社会を迎えたわが国では,心筋梗塞,脳梗塞,肺血栓塞栓症,術後血栓症などの血栓性疾患が,医療における大きな課題となっている.メタボリック症候群による動脈硬化・血管病変の増加によって,わが国はまさに血栓症の時代を迎えているといえよう.

 今後は血栓性疾患に対する検査の重要性が増すと考えられることから,本特集を企画し,血栓性疾患の検査について,その現状をレビューしていただいた.止血・凝固検査は主として出血性疾患を対象に開発された経緯もあり,血栓症に関連した検査としてみると,まだまだ十分とはいえないのが現状である.一方で,検査において今後の発展が期待される分野でもあるともいえる.本特集が,その流れを促す一助となることがあれば,これに勝る喜びはない.

血栓症の分子病態と臨床検査

著者: 鈴木宏治

ページ範囲:P.940 - P.948

●血栓症は血管内での病的血栓の形成により起こり,その背景には先天性ならびに後天性血栓性素因がある.

●病的血栓形成の原因には,①血流の異常,②血管内皮の異常,③血液成分の異常が考えられている(Virchow’s triad).

血栓性素因の検査医学的アプローチ

著者: 阪田敏幸

ページ範囲:P.949 - P.954

●日本人における静脈血栓塞栓症(VTE)の主な血栓性素因は,アンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),およびプロテインS(PS)欠損症である.

●スクリーニングに用いる測定法はそれぞれの因子によって異なるため,対象ごとに適切な測定法を選択する必要がある.

●PCあるいはPS欠損症のスクリーニングには,PCの抗凝固活性とPS活性測定がそれぞれ重要である.

●フェノタイプおよびサブタイプの同定は,AT欠損症のようにフェノタイプおよびサブタイプ間でVTEリスクが異なる場合を除いて,あえて実施する必要はない.

フィブリン関連マーカーと血栓症の診断

著者: 和田英夫 ,   松本剛史 ,   山下芳樹

ページ範囲:P.955 - P.960

●フィブリン関連マーカーには,フィブリン分解産物(FDP),D-dimer,可溶性フィブリン(SF)などがある.

●D-dimerは二次線溶を,FDPは一次ならびに二次線溶を,SFは血栓傾向を反映する.

●D-dimerは肺塞栓症(PE)/深部静脈血栓症(DVT)の除外診断に有用であり,SFは過凝固状態(前血栓状態)の診断にも有用である.

●SFやD-dimerは標準化されていないため,キットごとに至適カットオフ値を決定することが重要である.

●SFやD-dimerは出血でも増加する.

血小板関連検査と血栓症

著者: 松野一彦

ページ範囲:P.961 - P.966

●血小板は止血のみならず血栓症,特に動脈系血栓症の発症にかかわっている.

●アスピリンなどの抗血小板薬は心筋梗塞や脳梗塞の予防,治療に用いられている.

●血小板凝集能検査は,わが国の保険医療では現在もスタンダードな検査である.

●今後の検査としては,フローサイトメトリー(FCM)を用いた活性化血小板の測定などが有望である.

抗リン脂質抗体と血栓形成

著者: 家子正裕

ページ範囲:P.967 - P.972

●抗リン脂質抗体症候群(APS)は,リン脂質とリン脂質結合蛋白質の複合体に対する自己抗体である抗リン脂質抗体(aPL)が血中に検出され,動静脈血栓症や妊娠合併症を主症状とする症候群である.

●APSの臨床症状は,深部静脈血栓症や虚血性脳卒中が多く,急性心筋梗塞は少ない.

●APS分類基準は確定診断に用いられるが,診断のための検査所見が12週間以上はなれて2回以上検出されることが条件であるため,治療開始基準には不適である.

●APSの血栓機序は,aPLによる凝固制御機構の阻害などによる易血栓性の環境形成に加えて,aPL結合により活性化された血管内皮細胞上に組織因子などの凝固促進物質の発現を促すことによると推定される.

血栓止血の負荷試験

著者: 伊藤隆史 ,   永里朋香 ,   尾田悠 ,   丸山征郎

ページ範囲:P.973 - P.977

●心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症は,数分間で急速に進行し,死に至ることもある重篤な疾患である.また,命をとりとめた場合にも,日常生活動作が低下し,寝たきりになってしまう症例が少なくない.

●血栓症を予知するための検査法を確立し,それを利用して血栓症を予防するための策を講ずることは,現代社会の急務である.

●近年開発された血流下血栓形成能解析システム(T-TAS®)は,血栓止血領域の負荷試験として応用できる可能性がある.

新しい経口抗凝固薬のモニタリング検査

著者: 森下英理子

ページ範囲:P.979 - P.986

●新規経口抗凝固薬(NOAC)は,定期的なモニタリングが不要といわれているが,実際には出血や塞栓症の発症時,緊急手術の際には抗凝固能を評価する検査が必要とされてきている.

●NOACの血中濃度は,標的とする活性型凝固因子活性値と最も良好な相関を示す.

●プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は汎用されている検査で,NOACの血中濃度依存性に延長するが感度が低い.

●PTおよびAPTT測定値は,試薬により薬剤感受性が異なり,個人差も大きく,服薬後の採血時間に影響される.

●現時点では,NOACの抗凝固効果を判定するマーカーはない.

今月の表紙

AMY amylase

ページ範囲:P.886 - P.886

 2014年表紙のテーマは“生命の森”.生命活動を支える重要な物質である蛋白質のうち,実際の臨床検査でも馴染みの深い12種類の蛋白質を厳選.その3D立体構造をProtein Data Bankのデータから再構築.大いなる生命のダイナミズムを感じさせるようにそれぞれの蛋白質を配置し,並べたときには蛋白質による“生命の森”を表現します.

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

ページ範囲:P.978 - P.978

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

樋野興夫の偉大なるお節介・8

「リーダーの模範」―『われOrigin of Fireたらん』

著者: 樋野興夫

ページ範囲:P.988 - P.989

 連休は,父の一周忌(2013年5月5日死去,享年92歳)で帰郷した.久しぶりに,母(91歳),姉,親族と大いに語らった.ちょうど,夏休みで帰国してきた息子とも久しぶりの再会の場となった.おい,めいは,息子に「魚釣りを教えてもらったり,散歩に連れて行ってもらい鬼ごっこをしたり」と,「目をキラキラさせて喜んでおりました」とのことである.おい,めいたちにとって,息子は,まさに「塾長」的存在であったようである.wifeの手作りのケーキも「頬の落ちるほどのおいしいケーキ」と大好評であった.義理の兄が,筆者の『がん哲学』(2004年)の出版を記念して植えた「しだれ桜」が,この10年で大いに成長していた.義理の兄には,「偉大なるお節介症候群認定証」を謹んで授与した.一方,小庭の石碑:特攻隊で若き命を散華した叔父の辞世「花は咲き,実を永劫に結ぶ那れ」(1944年2月20日)を見つめながら,あらためて人生のはかなさを静思した.


 筆者の故郷:鵜峠(うど)は,空き家率60%,全人口60人にも満たない.隣の鷺浦(人口180名? 空き家約60軒)には,空き家を利用して「アートギャラリー」,「カフェ」が開店されていた.かつて北前船の港として栄えた鷺浦港を地元の人の案内で,wifeと遊覧し,その後,「アートギャラリー」でぜんざいを食べ,「カフェ」(カフェの主人は,驚いたことに,イギリス人)で,昼食をした.今年は,イタリア人も移住されるとのことである.鵜鷺(鵜峠+鷺浦)(うさぎ)小学校は来年3月廃校(鵜鷺中学校は,すでに廃校)とのことである.来年3月には,廃校記念講演会も開催されることであろう.小学校の跡地を有効活用し,いよいよ,medical village(健康村)の具現化へと始動されることであろう.

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書評 Pocket Drugs 2014

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.888 - P.888

エビデンスサマリーと専門家のアドバイスが配合された医薬品集

 くすりの種類は年々膨大となっており,薬剤についての広範囲に及ぶ知識はもはや医師の記憶容量の限界を超えてしまっている.それでもポイント・オブ・ケアの臨床現場では,普段使い慣れていない薬剤についての情報が必要となる場面は多い.そんな時,臨床医はどのようなリソースを用いて薬剤情報を入手しているのだろうか.ネット上や電子カルテ内にあるdrug information(DI)や添付文書,製薬会社作成のパンフレット,あるいは薬剤出版物などを使用することもあるであろう.DIや添付文書は,網羅的記載ではあるが単調な内容で,重要ポイントがしばしば不明瞭である.また,薬剤パンフレットやチラシはどうしても製薬会社バイアスがあり,信頼性に乏しい点がある.このようなことから,ネットが普及してベッドサイドでモバイル端末が導入され,検索スピードはアップしたものの,こと薬剤情報についてはほしい情報を得るには意外と苦労する.

「検査と技術」8月号のお知らせ

ページ範囲:P.901 - P.901

書評 ―見逃してはならない血液疾患―病理からみた44症例

著者: 吉野正

ページ範囲:P.938 - P.938

重要・高頻度の疾患を中心に診断過程を疑似体験できる書

 血液疾患は種々の病態が鑑別にあがり,また分子病理学的にも多様で,全体像を深く知ることは容易ではない.WHO分類も版が増すほどに疾患概念が増加し,専門家といえども全ての領域を通暁することは困難なほどである.しかし,疾患病理発生上の分子基盤における知見は非常な勢いで増加し,その成果ともいうべき分子標的薬の開発は目覚ましい勢いで進んでいる.そのような現況により,血液疾患はかなりの深度で疾患概念を整理することが求められている.このたび上梓された『見逃してはならない血液疾患 病理からみた44症例』はわが国の骨髄病理をリードしている編集者の下で企画された,画期的な著書である.

 具体的な疾患について,その病歴,検査データ,形態像から診断に至る過程を懇切丁寧に示している.同様の観点と意図により編纂された病理関係の著書は皆無ではないが,焦点を血液疾患に絞り,治療と予後,また,鑑別診断と類縁疾患について詳述したものは,評者の知る限りほかにはない.ある疾患については病態生理や染色体あるいは責任遺伝子異常,また分子標的薬についての作用機序などバラエティーに富んだ記述と豊富な図表が駆使されていて,ざっと眺めているだけでも得るところがあるほどである.教科書を編纂するときある種のルールを設けることにより整然とした書物となるが,本書はそれをあまり強制していない.血液疾患の多様性を思うとき,それは仕方のないことでもあり,そのようにしなかった編集者の思いが伝わってくるようである.

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.966 - P.966

投稿規定

ページ範囲:P.990 - P.990

次号予告

ページ範囲:P.991 - P.991

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.992 - P.992

 梅雨や初夏を告げるミニイベント,といえば私にとってはビアガーデンです.毎年この時期に,仲のよい3家族が街に唯一軒のビアガーデンに集い,にぎやかにやるのがここ何年かの恒例になっています.天気が急変して何度かびしょぬれになったこともありますが,そのスリル感も併せて楽しんでいます.屋外で飲むビール,それはおいしいものです.ビールに限らず屋外での飲食は,プラスアルファがあるのでしょうか,だいたいは楽しめます.

 さて,つまみの定番は枝豆とソーセージです.枝豆は大豆を若いうちに収穫してゆでたものですが,商品としての呼び名が地方によっていろいろあります.先の仲良し3家族は「黒豆」畑のオーナー制度に応募しており(育ててもらい自身で収穫する),秋に枝豆として,冬に黒豆としておいしくいただいています.しかし,自慢するようですが新潟市郊外の私の生家の近隣は,有数の「茶豆(茶色く見える大豆)」の産地で,味は一番と自負しています.親戚や知り合いから,売り物にならない(見てくれが悪いが味は問題ない)豆をもらってよく食べたものです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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