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雑誌目次

論文

臨床検査59巻10号

2015年10月発行

雑誌目次

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.943 - P.943

 グローバル化時代,グルメ化時代の今日において注意しなくてはならない感染症の1つに,寄生虫疾患があります.衛生環境の整備されたわが国では,実際に臨床の場で寄生虫疾患を診る機会は極めて少なくなりました.しかし,交通機関が発達し,発展途上国も含めて人の行き来が多くなったこと,食生活が多様化し様々な食材が使用されるようになったことなどに伴い,日ごろ実臨床の場で感染症の診断を進めていくうえで,寄生虫疾患を含む医動物関連感染症は忘れてはならない存在になってきています.そこで,本特集では,わが国においても注意しなくてはならない医動物関連感染症を取り上げました.特に見逃してはならない寄生虫疾患を中心に,その特徴と検査・診断について,わかりやすく解説していただきます.日常の臨床検査の場で役立てていただければ幸いです.

医動物関連感染症とは—その位置付けと問題点

著者: 赤尾信明

ページ範囲:P.944 - P.947

Point

●4類感染症の多くが医動物関連感染症である.

●ライフスタイルの変化に伴って,医動物関連感染症も多様化してきている.

●医動物関連感染症には国内未発生や稀少感染症も多いため,診断・検査体制の維持拡充が課題である.

原虫による感染症の検査・診断—マラリア,アメリカトリパノソーマ症,赤痢アメーバ症,トキソプラズマ症

著者: 今井一男 ,   前田卓哉

ページ範囲:P.948 - P.954

Point

●グローバル化に伴って,国内でも寄生虫疾患を診断する機会が増加している.

●簡便かつ短時間で検査可能な診断キットが普及しており,その有用性は高いが,多くは保険未承認である.

●各原虫および病態によって有用な検査法が異なるため,診断には適切な検査法を選択する必要がある.

蠕虫による感染症(幼虫移行症を含む)の検査・診断

著者: 中村(内山)ふくみ

ページ範囲:P.956 - P.962

Point

●蠕虫症には,国内外で感染するリスクがある.

●好酸球増多は蠕虫症を疑う手掛かりである.

●感染臓器から鑑別すべき蠕虫症を絞り込み,適切な検査法を選択する.

衛生動物による感染症の検査・診断

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.964 - P.969

Point

●疥癬では,感染後2カ月ほどたたないと虫体や虫卵の発見が困難である.

●ツツガムシ病や日本紅斑熱では,痂疲を伴う虫の刺し口(焼痂)がみられる.

●シラミ症では,毛に虫卵が固着している.

●ダニ刺症では,わが国ではツツガムシ病,日本紅斑熱,ライム病が発症することがある.

今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.971 - P.971

 骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)はかなりまれな疾患で,また,比較的新しくできた疾患概念でもあります.そのため,血液疾患を診療している医療施設で検査業務に従事している検査技師にとっても,あまりなじみのない疾患ではないかと思われます.

 このMDS/MPNについて理解を深めてもらうため,今回の特集を企画しました.MDS/MPNにはまだ不明な点も多く,今後,さらに知見を積み重ねていく必要があります.そのためには正しい診断が必要であり,その際,臨床検査が果たす役割は小さくないと考えられます.特に血液学検査に従事する方々には,MDS/MPNに関する知識と理解を深め,その診断や治療に貢献していただきたいと願う次第です.本特集がその一助になることがあれば,企画者としてこれに勝る喜びはありません.

骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)とは?

著者: 中島潤 ,   宮﨑泰司

ページ範囲:P.972 - P.976

Point

●骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)は骨髄異形成症候群(MDS)と骨髄増殖性腫瘍(MPN)の境界領域の疾患であり,鑑別すべき疾患も多いため,診断に迷う例も少なくない.

●問診と身体診察から始まり,血液・骨髄検査,染色体・遺伝子検査など総合的な診断が求められる.

●遺伝子異常について知見が集積されており,今後,病型などの判別に重要な情報となることが期待されている.

慢性骨髄単球性白血病(CMML)

著者: 南谷泰仁

ページ範囲:P.978 - P.983

Point

●慢性骨髄単球性白血病(CMML)に対しては,診断基準の注意点を理解したうえで,鑑別のために必要な検査を行い,正確な診断を下すことが必要である.

●CMMLにみられる表面マーカー,化学染色,免疫染色,遺伝子変異の特徴を理解することが重要である.

●CMMLがさらに分類される理由と,臨床的意義を理解しておかなくてはならない.

非定型慢性骨髄性白血病,BCR-ABL1陰性(aCML)

著者: 栗山一孝

ページ範囲:P.984 - P.988

Point

●非定型慢性骨髄性白血病,BCR-ABL1陰性(aCML)は形態学的異形成の強い顆粒球増加を呈し,フィラデルフィア(Ph)染色体およびBCR-ABL1が陰性である,予後不良な独立疾患である.

●形態学的異形成は赤芽球系や巨核球系細胞にも認められることが多い.

●多彩な遺伝子異常を有しているので,今後,様々な診断・治療に応用されることが期待されている.

若年性骨髄単球性白血病(JMML)

著者: 宮内潤

ページ範囲:P.990 - P.997

Point

●若年性骨髄単球性白血病(JMML)は,Rasを介するシグナル伝達経路上の遺伝子変異によってRas経路が恒常的に活性化することで発生する.

●JMML前駆細胞は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する過敏性増殖を示す.

●Ras経路関連遺伝子の胚細胞変異は,白血病とともに先天奇形にも関与する.

●RAS遺伝子の変異はJMMLと自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)の共通の発症基盤にもなりうる.

著明な血小板増加と環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS-T)

著者: 下田晴子 ,   久冨木庸子

ページ範囲:P.998 - P.1002

Point

●著明な血小板増加と環状鉄芽球(RS)を伴う不応性貧血(RARS-T)の臨床像は,骨髄異形成症候群(MDS)であるRSを伴う不応性貧血(RARS)と,骨髄増殖性腫瘍(MPN)である本態性血小板血症(ET)の中間を呈する.

●RARS-Tでは,MDSにみられるRNAスプライシングに関与する分子(SF3B1など)の変異と,MPNにみられるサイトカインシグナル伝達機構の構成分子(JAK2など)の変異がみられる.

●SF3B1変異は,RARS-TのみならずRARSにも高頻度にみられ,RSを特徴付ける変異である.

今月の表紙

Malpighi小体(血管鋳型,糸球体)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.942 - P.942

 腎臓の断面をのぞくと,皮質に赤い斑点が見える.これが腎小体で,Malpighi小体ともいわれ,0.2mm,肉眼で見えるぎりぎりの大きさ.なぜ腎小体をMalpighi小体というのであろうか? 歴史をひも解いてみよう.1628年,ウイリアム・ハーヴェー(William Harvey)が,血液循環説を唱えたことによって,人体の仕組みの解明が急速に進んだ.しかし,血液が動脈から静脈に流れていく経路は全く謎であった.1661年,イタリアのマルチェロ・マルピギー(Marcello Malpighi)は,虫眼鏡を改良した顕微鏡で肺を観察し,動脈が毛細血管を介して静脈に注ぎ込むことを発見した.さらに,1666年,腎動脈から黒い液体を注入する実験から,腎小体は毛細血管の糸玉からなることを発見した.現在,パラフィン切片の光学顕微鏡観察において,糸球体が毛細血管の糸玉からなることは実証できない.

検査レポート作成指南・2

呼吸機能検査編

著者: 鈴木範孝

ページ範囲:P.1004 - P.1016

 呼吸機能検査はかつて,データ解析に精通し,習熟した医師自らが患者の呼吸状態の把握のために実施し,報告書も作成していた時代があった.しかし,現在においては,ほとんどの施設で呼吸機能検査に習熟した臨床検査技師が実施している.

 呼吸機能検査は,始業点検と各種センサーの精度管理,患者情報の収集と依頼情報の把握が最初のステップとなる.そして,適切な患者1人1人に合わせた誘導技術によって描出される波形情報とアーチファクトの検出など,さまざまな過程によって構成される.その最終的な行程が報告書の作成となる.本来,呼吸機能検査の判読に関しては,依頼した医師が記録された波形情報や数値情報をしっかり吟味した後,総合的な判断を下すべきである.しかし,現在では全ての医師が呼吸機能に精通しているわけでもなく,画像所見の読み方や自動呼吸機能検査装置から算出される多変量のデータについて十分に理解しているとは限らない.また,呼吸機能や画像判読に詳しい専門医であっても,日々の業務に追われて,呼吸機能検査の詳しい解析に時間を作るのが難しい現状がある.そこで,それらを補うのが,呼吸機能検査を熟知し実際に検査を担当した技師が作成する報告書である.

検査説明Q&A・10

大動脈狭窄症の重症度を心エコー図検査で評価したいと思います.各報告値が乖離していた場合,どのような評価法を考慮すべきでしょうか?

著者: 徳田華子 ,   村田光繁

ページ範囲:P.1020 - P.1023

■大動脈弁狭窄症の重症度評価

 心エコー図では,大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)の重症度を連続波ドプラ法による最高血流速度,簡易ベルヌーイ式による平均圧較差,弁口面積などによって評価する.わが国の「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」1)では欧米に倣って,最高血流速度4.0m/s以上,

平均圧較差40mmHg以上,弁口面積1.0cm2以下を重症ASとしている.ただし,測定した弁口面積が1.0cm2を超えている場合でも,体表面積で補正した弁口面積係数が0.6cm2/m2以下である場合は重症とする1)

 最近では,左室流出路と大動脈弁部の時間速度積分値(velocity time integral:VTI)の比(VTI ratio=左室流出路のVTI/大動脈弁のVTI)が0.25以下も重症ASの指標とされている.

短報

肥満時代におけるクレアチニンクリアランス(CG式)の使用は不適切

著者: 林孝和 ,   林寿美 ,   林友鴻

ページ範囲:P.1025 - P.1027

 新規経口抗凝固薬の登場に際して,日本循環器学会が腎機能指標として発表した1976年来のCG (Cockcroft-Gault)式によるクレアチニンクリアランス(Ccr)は,太るほど腎機能を過大評価するため,肥満時代の今日では推算糸球体濾過量(eGFR)を大きく凌駕する危険な指標となる .現時点では,血清クレアチニン・年齢・性別の3項目によってeGFRを簡易計算し,さらに身長・体重の2項目からDuBois式によって体格補正することが,より正確なGFR推算に必要である.

遺伝医療ってなに?・10

答えのない質問

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.1028 - P.1029

今回のタイトルはCharles Ivesの名曲の話ではない.もっとお金のからんだ,現実的な話題である.

 遺伝性腫瘍や致死性不整脈など,一定の年齢以降に発症する単一遺伝子疾患では,家系内の誰かの診断が確定すると,血縁者が同じ遺伝子変異を有しているかどうかを確認する“発症前遺伝学的検査(発症前診断)”が可能になる.言うまでもなく,こうした検査の目的は,将来起こりうる健康上の問題を早期に予測し,現時点で最良の医療を適切なタイミングで提供することによって,将来の健康障害を最小にすることにある.ただし,こうした検査は被検者自身,家族にさまざまな心理的・社会的影響を及ぼす可能性があるため,安易に行うべきものではなく,日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」でも,検査前の適切な遺伝カウンセリングの実施を求めている.

元外科医のつぶやき・10

癌患者としての心の推移

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1031 - P.1031

 前立腺癌と診断され,先月号では,悩んだ末に選択した治療法を紹介した.今回は,その後に紹介された専門病院での経過および私の心情の推移である.

 紹介状を持ち,指定された期日に専門病院を受診した.泌尿器科医は持参したMRI画像を再検討し,被膜への浸潤を鋭く指摘した.そして,“当院の放射線科医や病理医と再検討し,最終的な治療法を決めましょう”と語った.

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「検査と技術」10月号のお知らせ

ページ範囲:P.962 - P.962

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.969 - P.969

書評 外科医のためのエビデンス

著者: 北川雄光

ページ範囲:P.1018 - P.1019

素朴な疑問を解きほぐすドクターAの温かな眼差し

 本書は,医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に連載された「ドクターAのミニレクチャー」を書籍化したものである.私は,ドクターA,すなわち経験豊富な外科医であり情熱的な教育者でもある安達洋祐氏本人,およびその著作の大ファンであり,この連載も必ず書籍化されるものと待ちわびていた.

 彼の著書は,いつも現場から生まれてくる基本的な課題に,肩に力を入れず淡々とアプローチするところから始まる.その視線は常に若手医師,レジデントの視線であり,スタートラインは常に「素朴な疑問」である.本書は,誰でも抱いたことがあり,そして明確に答えることができない「疑問」に関して,エビデンスに基づいてひもといていく形式が採られている.

書評 —今日から使える—医療統計

著者: 佐々木宏治

ページ範囲:P.1032 - P.1032

点と点を結び付け,医療統計が生きた知識に変わる

 臨床研究をするに当たりどの統計手法を使うべきなのだろうか? 論文を読むたびに目にする統計手法は正しい手法なのだろうか? それぞれの統計解析の意味はいったい何なのだろう?─論文を読む際,また自分自身が臨床研究をするに当たって,このような疑問を感じたことはありませんか.私がそのような疑問を抱えた時に巡り合ったのが,2011年に新谷歩先生が週刊医学界新聞に寄稿された「今日から使える医療統計学講座」シリーズでした.

 統計学の教科書をひもとくと,一つ一つの統計解析に関して解説が詳細に述べられていますが,臨床研究をするに当たりどのように統計テストを選択していくかを解説しているものは非常に少ないと感じます.

書評 実践! 皮膚病理道場—バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍[Web付録付]

著者: 田中勝

ページ範囲:P.1033 - P.1033

今までになかった画期的な皮膚病理入門書!

 日本皮膚科学会の編集による,まったく新しいタイプの皮膚病理入門のための貴重な1冊がついに出た!

 各章の執筆者が,現在,皮膚病理診断の中心で活躍している経験豊富な6名,最も頼れる皮膚病理指導医たちである.したがって,全ての章が必要最小限の簡潔で明快な記述で構成されており,病理診断のポイントがとてもわかりやすい.なんと贅沢な本であろうか.

次号予告

ページ範囲:P.1035 - P.1035

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 今年も,多くの台風がやってきた.台風の勢力を表すのに用いられている中心気圧はヘクトパスカルという単位である.しかし,昔はミリバールという名で知られていた.私と同年代の方々には懐かしい響きであろう.1991年にミリバールからヘクトパスカルに変更されたが,これは国際単位に統一するための措置であった.臨床検査業界も基準値の統一やパニック値の統一など,“統一風”が吹いている.しかし,圧力の単位で申し上げれば,血圧の単位はパスカルにはなっていない.血圧の単位を統一するには大きな壁がある.台風の場合は,単位を変更しても,数字は変わらなかった.例えば,955ミリバールは955ヘクトパスカルである.しかし,血圧の単位を変更する場合は数字が大きく変わってしまう.一般国民の多くが血圧をmmHgで把握していることは国際単位の統一化に大きく影響する.所管する経済産業省は2013年に生体内圧力に関しては恒久的に現状通りmmHgを法定計量単位とすることと改正した.このことから,現在も血圧の単位は変わっていない.

 今月号の特集では,寄生虫疾患を取り上げた.人は寄生虫に感染する機会が増えている.これは国内外を問わない.蚊やダニの媒介によるものや,肉の生食によるものであり,容易に自己防衛できるものから感染防御をしていても感染してしまうものまでさまざまである.肉の生食といえば,2012年7月に牛の生レバーの販売・提供禁止と,今年6月の豚の生レバーの販売・提供禁止があった.牛がだめなら,豚をという状況でE型肝炎による感染者が増加したためのものであった.私はレバ刺が苦手なので問題ないが,愛好者にとっては残念な措置であろう.日本文化として,生食文化がある.刺身をはじめとして,卵,牛乳などである.これはわが国の衛生環境や食品管理体制が諸外国と比べ良好な状態であるためといえよう.しかし,それをもってしても防げない感染症があるのも事実である.このように厚生労働省は規制をし,監視体制を強化している.一方で,このほど文部科学省は,小学生に実施していた蟯虫検査を本年度で廃止するとした.これは感染率が低下しており,健診の役目を終えたためのものと考えている.このように感染症は注目されれば規制を強め,低下すれば管理体制を弱める.これらは医療経済学と大きく関係しているのであろう.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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