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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査59巻12号

2015年11月発行

雑誌目次

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1357 - P.1357

 長い間,人類に災いをもたらしてきたウイルス感染による肝炎ですが,治療と予防の進歩によって,少なくとも先進国においては大幅に減少する方向に向かっています.本特集でも,特にC型肝炎におけるupdateな治療が詳細に解説されていますので,そのことを感じ取ってください.また,ウイルス再活性化など,今後,直面する問題も取り上げられています.臨床検査としては,感度・特異性の高いウイルス核酸検査,免疫グロブリンクラス別の抗体検査,肝硬変や肝癌への進展を監視する検査などが重要です.持続感染状態においてはALTなどの絶対値が評価されるため,日常検査の品質を維持することも欠かせません.

A型肝炎の現状

著者: 石井孝司

ページ範囲:P.1358 - P.1364

Point

●A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)の経口感染によって広がる.時に,汚染された食品や飲料水を介した集団発生がみられる.

●近年の交通事情の発達などによって,衛生環境が良好な地域においても,HAVが流入することで集団感染が発生する危険がある.

●わが国では感染機会の減少によって抗HAV抗体の保有率は激減した一方,現在では人口の大部分がHAVに対する感受性者であることから,HAVの流入によるA型肝炎流行の危険性は増大しつつある.

●実際に,2010年,2014年にはわが国でもA型肝炎の広域流行が発生している.

B型肝炎の現状

著者: 松居剛志 ,   田中靖人

ページ範囲:P.1366 - P.1371

Point

●B型慢性肝炎の初回治療にはペグインターフェロンと核酸アナログ(エンテカビル,テノホビル)が,B型肝硬変の治療には核酸アナログが推奨される.

●B型急性肝炎では慢性化率が高いgenotype Aが増加しており,また,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染との重複感染することが多いため,HIV検査が必須である.

●免疫抑制剤・化学療法中のB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化による肝炎を予防するため,ガイドラインに沿った検査・治療を行うことが望ましい.

C型肝炎の現状

著者: 鈴木文孝

ページ範囲:P.1372 - P.1378

Point

●C型肝炎の測定は,第Ⅲ世代のC型肝炎ウイルス(HCV)抗体測定とHCV RNA(TaqMan® PCR法,アキュジーン®m-HCV)で行われている.

●C型肝炎による治療の進歩によって,約90%の患者でウイルスの排除(SVR)を達成している.薬剤耐性ウイルスの存在の有無を調べることが重要である.

●DAAs製剤の進歩によって,短期間で効果の高い治療法が今後も登場する予定である.

E型肝炎の現状

著者: 長嶋茂雄 ,   岡本宏明

ページ範囲:P.1380 - P.1386

Point

●E型肝炎ウイルス(HEV)はブタやイノシシなどの動物にも感染する人獣共通感染症ウイルスである.家畜ブタや野生動物(イノシシ,シカ)の肉や内臓が食物媒介性E型肝炎の主な感染源となる.

●E型肝炎の診断には,酵素免疫測定法(ELISA)を用いたIgMクラスやIgAクラスのHEV抗体の検出とRT-PCR法によるHEV RNAの検出が有用である.2011年10月にIgAクラスHEV抗体検出キットが保険適用され,臨床現場での診断が可能になっている.

●E型肝炎はHEVによる急性肝炎であるが,臓器移植患者や免疫不全患者では慢性感染を引き起こすことがある.

肝障害をきたす肝炎ウイルス以外の感染症

著者: 田中篤

ページ範囲:P.1388 - P.1392

Point

●肝障害はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアルカリホスファターゼ(ALP)・γグルタミルトランスペプチダーゼ(γGTP)のいずれの異常が主体であるかによって,大きく肝実質障害と胆汁うっ滞に分けられる.

●AST・ALTの上昇を惹起する感染症はウイルス性肝炎が主であり,それ以外にはEBウイルス(EBV),サイトメガロウイルス(CMV)が多い.

●ALP・γGTP上昇をみた場合には感染症閉塞性黄疸に伴う急性胆管炎が多い.

今月の特集2 腹部超音波を極める

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.1393 - P.1393

 現在,超音波検査は臨床の場でなくてはならない必須の検査項目となっており,法的には医師,臨床検査技師,診療放射線技師,看護師が患者に対して施行することが許されています.本特集は「腹部超音波を極める」と題しました.これは,腹部超音波の検査技術を極めようと努力するという意味です.そのために,肝臓,胆道系,膵臓,腎臓・尿路系,小骨盤腔,消化管の超音波検査について,各分野のエキスパートにスキルアップの手ほどきをお願いしました.高名な物理学者のニールス・ボーアは「エキスパートとは,ごく限られた分野で,ありとあらゆる間違いを全て経験した人物である」という名言を残しました.執筆者の先生方がどれほどの間違いを経験されたかは別にして,経験豊かな先生方ならではの解説やアドバイスを満載した内容になっています.本特集は,入門後の検査技術のステップアップに大変役立つと思います.一読後に苦手領域を精読してみてはいかがでしょうか.

肝臓の超音波検査を極める

著者: 小山里香子 ,   田村哲男 ,   小泉優子 ,   今村綱男 ,   竹内和男

ページ範囲:P.1394 - P.1401

Point

●腹部超音波(US)検査での肝臓の死角を理解し,それに対する走査の工夫に習熟しておくことが重要である.

●肝細胞癌を見落とすことがないように,上手にスクリーニングできるテクニックを身に付ける.

●代表的肝疾患の臨床的事項を頭に入れ,的確にUS診断ができるようにする.

胆道系の超音波検査を極める

著者: 藤本武利

ページ範囲:P.1402 - P.1414

Point

●良好な画像を得るために,圧迫と体位変換のほか呼吸変動を駆使して消化管ガスを排除し,全体像の把握に努める.

●胆囊・胆管には粘膜筋板・粘膜下層がなく,それぞれの固有筋層・線維筋層が薄いということが壁層構造を理解するうえで重要である.

●壁層構造を理解すれば,体外超音波検査(US)で胆囊癌の深達度診断がかなりの程度で可能である.そのポイントは,“病巣深部低エコー”と“外側高エコー層の肥厚”である.

●体外USによる胆囊床の血管観察は不測の大量術中出血の予防に役立つので,腹腔鏡下胆囊摘出術を安全に行うために有用である.

膵臓の超音波検査を極める—膵超音波スクリーニング検査のポイントと描出のコツ─特に膵尾部の描出法

著者: 水口義昭 ,   水瀬学 ,   中村慶春 ,   内田英二

ページ範囲:P.1416 - P.1420

Point

●心窩部縦走査で周囲臓器との位置関係,特に肝臓と膵臓の間に胃があるかどうかを把握する.

●肥満者や腸管ガスの多い被検者では,プローブで消化管をうまく圧排して膵臓を描出させる.

●どうしても描出が不良な場合には,体位変換(坐位・側臥位)や飲水を試みる.

腎臓・尿路系の超音波検査を極める

著者: 皆川倫範 ,   石塚修

ページ範囲:P.1422 - P.1428

Point

●腎臓を描出するには解剖の理解が助けになる.

●水腎症は程度と原因の評価が重要である.

●残尿量は,排尿機能をみる客観的パラメーターである.

●3mm以下の腎結石,5mm以下の膀胱腫瘍を超音波検査で診断することは難しい.

●早期前立腺癌の評価を経腹超音波単独で行うことは不可能である.

小骨盤腔臓器の超音波検査を極める

著者: 鶴岡尚志

ページ範囲:P.1430 - P.1438

Point

●骨盤臓器は,健診のスクリーニング検査や,腹痛などの症状がある場合のルーチン検査で診る機会が多い.

●膀胱癌,前立腺癌,直腸癌など,スクリーニングで偶然発見される悪性腫瘍の所見の特徴を知っておくとよい.

●下腹痛をきたす代表的な疾患を知っておくとよい.特に女性の急性腹症の場合には,婦人科疾患を念頭に置いて検査する.

消化管の超音波検査を極める

著者: 畠二郎 ,   眞部紀明 ,   今村祐志

ページ範囲:P.1440 - P.1444

Point

●食道裂孔や上行結腸など,決まった点を同定するという系統的走査が重要である.

●高周波プローブを積極的に使用し,層構造の描出を意識して画像を記録する.

●部位や分布,層構造などのポイントを押さえた画像解析を行う.

●診断能力は走査技術と並行しない.医学的知識の蓄積が必須である.

今月の表紙

あっ!赤血球が網に引っ掛かっている(血栓)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.1356 - P.1356

 酸素を全身に送っている赤血球は,内腔が狭い毛細血管のなかを通るとき,小さく変形してくぐり抜けるために,脱核し,通常は円盤状をしている.この写真では赤く色付けされている.倍率が低いため,少し判別しにくいが,薄紫色の小体が血小板で,白色の密な網目の線維がフィブリンである.赤血球がフィブリンのネットに引っ掛かっており,これが血栓である.

 従来,血栓の構造は,分解能が低い光学顕微鏡下では不明確であり,透過電子顕微鏡観察でも二次元像のため,その構築は全くわからなかった.今回,血栓の観察に,高い分解能と三次元的情報を提供する走査電子顕微鏡を用いた.写真が示すように,血栓の詳細な構築が見事に示されている.さらに,色付けがされているために,血栓の構築がより鮮明である.

INFORMATION

Complex Cardiovascular Therapeutics(CCT)2015 Co-medical

ページ範囲:P.1386 - P.1386

元外科医のつぶやき・11

手術直前の心境

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 PSA検査で前立腺癌がみつかり,紹介先の大学病院で手術を受けることになった.しかし,手術予定者が多いため,手術は2カ月以上も先となった.病状の進展を危惧しながらも,通常の仕事をこなすことにした.

 手術の1カ月前に,心電図や肺機能を含む術前検査を行った.特に問題ある検査結果はないと考えていたが,検査の3日後に外来を受診してほしいという留守番電話があった.受診する理由が何であるのか大いなる不安を感じた.そもそも,3カ月前に施行したMRI検査では前立腺被膜を越えて進展しており,病期はT3aの高リスク群に該当した.したがって手術適応はなく,大学病院ではホルモン療法を6カ月間施行後に放射線療法を2カ月間行うのが一般的であると説明を受けた.しかし,手術を多数手掛ける教授の熟慮の末,手術に至った経緯がある.

検査レポート作成指南・3

Holter心電図検査編

著者: 山田辰一

ページ範囲:P.1446 - P.1453

 Holter心電図検査は,日常生活中の通常の24時間の心電図記録を行い,①自覚症状と心電図変化の評価,②不整脈の定性的・定量的評価,③心筋虚血の検出と重症度評価,④治療効果判定,⑤ペースメーカーの作動評価,⑥心臓自律神経活動度評価などをする(表1).

 検査レポートは,報告書,行動記録カード,解析資料(解析サマリー・トレンド・ヒストグラムおよび心電図)からなる.われわれ検査技師は,医師から見てわかりやすく正確な検査レポートを作成・報告することが重要である.

検査説明Q&A・11

—レセプトではじかれる検査項目の組み合わせや依頼回数を教えてください[1]—生化学検査編

著者: 堀田多恵子

ページ範囲:P.1454 - P.1455

■そもそも,レセプトとは?

 医療機関を受診すると医療費が発生する.保健診療では,その医療費の一部は患者が窓口で支払うが,残りの医療費は病院側が保険者へ請求しなければならない.その請求するための資料がレセプト(診療報酬明細書)である.検査の実施は,保健医療機関及び保健医療養担当規則の規定で,診療上の必要性を十分に考慮したうえで,段階を踏んで必要最小限に行わなければならないとされている.

遺伝医療ってなに?・11

生きる知恵としての「遺伝」

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.1456 - P.1457

遺伝子解析が簡便で安価になり,人々が簡単に遺伝情報にアクセスできる時代になったが,生涯変わらず,血縁者も共有し,将来の健康状態をある程度予測できる遺伝情報を適切に扱うためには,医療者か一般市民かを問わず,誰もが最低限の遺伝に関する正確な知識をもつ必要がある.特に,これからのゲノム社会を生きる若い世代では,遺伝の知識は生きる知恵として,自らを守る盾として必須のものである.では,それはどこで身に付けるべきものだろうか.その答えはもちろん,医療者に対しては大学の専門教育のなかであるように,一般市民に対しては,初等・中等教育のなかでなければならない.

 数年前に,一般市民や大学生を対象にして遺伝に関する意識や知識についてのアンケート調査を行ったことがあるが,例えば,“遺伝性疾患の治療には遺伝子治療が必要か?”という問い(もちろん答えはNoである)には,40%あまりがわからないと答えたが,同じく40%あまりの回答者はそう思う(どちらかといえばそう思う)と答えた.また,“遺伝性疾患の人に遺伝子治療を行えば,病気が子どもに伝わるのを防ぐことができるか?”という問いについても同様で,約半数がわからないと答えているなかで,30%強はそう思うと答えた.いずれも,回答をした人だけをみれば,正解者よりも誤答をしている人のほうが多かった.また,“遺伝子組み換え食品を食べることで人の遺伝子が変化する可能性があるか?”という問いでも,34%はそう思うと答えた.この問題は,別の調査で高校生に“DNAを食べたことがあるか?”と質問したところ,かなり多くの学生が“ない”と答えたという点に似ている.

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「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1364 - P.1364

書評 みるトレ 感染症

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.1438 - P.1438

名医に仕上げる特効薬

 誰もが診断に苦慮しているときに,「視診」だけから特徴的な所見を見抜き,鮮やかに一発診断する医師がいる.私はこんな“かっこいい”医師に憧れる.

 本書はそんな「視診」力を鍛える本であり,「名医に仕上げる特効薬」と呼ぶべき本である.『みるトレ』は毎月「総合診療(旧:JIM)」に連載されているシリーズなので,これを楽しみに購読を続けている読者もきっと多いだろう.症例はクイズ形式となっていて,提示された症状や身体所見,CT画像から「キーワード」を見抜き診断推論を展開しなければならない.キーワードを嗅ぎ分ける医師ということは,問題点を見抜く力を持っている医師ということでもある.解答を見て「そうか,そうだったのか」と納得する.

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1444 - P.1444

書評 帰してはいけない小児外来患者

著者: 前野哲博

ページ範囲:P.1458 - P.1458

経験豊富な小児科医の思考プロセスを追体験できる一冊

 小児診療について,全国全ての地域・時間帯を小児科医だけでカバーすることは不可能であり,実際には救急医や総合診療医などの「非小児科医」が小児診療に携わる機会は多い.特に総合診療医には「地域を診る医師」としてあらゆる年代層の診療をカバーすることが期待されており,実際,2017年度から新設される総合診療専門医の研修プログラムにおいても,小児科は内科,救急科とともに必修の研修科目として位置付けられている.

 このような小児診療に関わる非小児科医にとって,最低限果たさなければいけない役割は何だろうか? さまざまな意見があるかもしれないが,最終的には「帰してはいけない患者を帰さない」ことに尽きるのではないだろうか.たとえ自分ひとりで診断を確定したり,治療を完結したりできなくても,「何かおかしい」と認識できれば,すぐに小児科専門医に相談して適切な診療につなぐことができるからだ.

書評 糖尿病に強くなる!—療養指導のエキスパートを目指して

著者: 和田幹子

ページ範囲:P.1459 - P.1459

痒いところに手が届き,振り返りにも役立つ

 “療養指導のエキスパート”には,患者さんの心理状態を踏まえた個別指導ができ,糖尿病教室での集団指導の講義内容もわかりやすく,カンファレンスでも専門的知識に裏付けられた根拠をもって積極的に発言して糖尿病医療チームを牽引する……というイメージがあります.この本は,隅から隅まで読むことで,「熟練者」であり,「専門家」でもあるエキスパートになれる! と思わせる一冊です.

 私が糖尿病ケアの初心者だったら,第1章,第2章の基礎的な部分を,専門用語などが解説されている“NOTE”を使いながら,重要なところに付箋をたくさん貼って読み進めます.そして,患者さんへの個別指導の時はもちろんのこと,カンファレンスの時も,糖尿病教室の時も,すぐ開けるように近くに置きます.そして来たるべき療養指導士の認定に向けて,付録の自験例の記録を参考に,自分が指導した患者さんを思い出しながら事例をまとめます.

書評 今日から使える医療統計

著者: 香坂俊

ページ範囲:P.1460 - P.1460

第一線で活躍する統計家が,現実的な視点で,知りたかった問題に答えてくれる

 自分は最近,無謀にも臨床系の大学院を開設するなどして1),院生と循環器疾患の大規模レジストリからの分析を行ったりしている.そこでよく「統計難しいっすね」などという趣旨の発言を耳にしたりもするのだが,厳密にはそれは間違った認識であると思う.

 実は統計の理論そのものはそれほど難しいことではない.高校数学の新課程では「データ解析」が【数Ⅰ】に織り込まれ(2012年〜),高校生でもその基本的なコンセプトは習得可能,とされている.実際,進研ゼミのQ&Aなどをみても十代にして彼らの理解度は恐ろしく高い2)

次号予告

ページ範囲:P.1463 - P.1463

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1464 - P.1464

 季節性の移り変わりとは不思議なもので,当たり前のこととはいいながらも,暦とよく連動していることにいつも感心させられます.今年の夏,東京では猛暑日の連続がついに記録を更新し,まだまだ続くのかといささかウンザリしていたところへ,立秋を過ぎて,“暑中お見舞い”を“残暑お見舞い”と書かなければならなくなった週末を迎えた途端に,猛暑日が途切れたのです.まさに暦通りの変化に驚くとともに,暑さが多少なりとも和らいだことに少しホッとした気分になりました.

 朝の公園のせみ時雨にしても,アブラゼミとミンミンゼミの二重唱にツクツクボウシの声が混じるようになったのは,ちょうどそのころからだったと思います.セミといえば,関西ではおなじみのクマゼミの“シャーシャーシャー”という鳴き声が最近,東京でも聞かれるようになりました.これまでは,関東地方でも私の実家があった小田原辺りがクマゼミのすむ北限だったようですが,近年の気候温暖化に伴い,生息域が北上しているそうです.一方,私が子どものころは,セミ取りに行くと一番たくさん捕まえることのできた,あの小さな“チッチッチ”と鳴くニイニイゼミですが,最近,都市部ではほとんど見掛けることがなくなってしまいました.その理由はよくはわかっていないらしいですが,一説によると,“幼虫が水分をたくさん含んだ地中に生息するため,森林が伐採されたり,地面の舗装が進んだりして,地面の乾燥化が進んでいることが影響しているのではないか”とか,“小型で飛翔力がほかのセミよりも格段に弱いため,緑地が分断されて緑地と緑地の間の距離が離れている都市部では,その間を移動できず,分布を広げることが困難になってしまったのではないか”などと考えられているようです.実は先日,私が勤務している信濃町の病院の敷地内でヒグラシの声を聴きびっくりいたしましたが,都心でも自然が回復してきていることの1つの現れと考え,ニイニイゼミの復活にも期待したいと思っています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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