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雑誌目次

論文

臨床検査59巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

今月の特集1 動脈硬化症の最先端

著者: 山内一由

ページ範囲:P.103 - P.103

 静かに,しかし確実に進行し,心筋梗塞をはじめとする重篤な疾病を引き起こす.動脈硬化症がサイレントキラー(静かなる殺人者)と呼ばれる所以です.実に日本人の約4人に1人が動脈硬化性疾患で命を落とすといわれています.動脈硬化症は飽食の現代に典型的な病態と周知されていますが,実は現代よりもはるかに粗食な3,500年前の古代人にも存在していたことが考古学博物館に収蔵されたミイラへのCT検査によって明らかにされています.そのことからも,動脈硬化症がいかに複雑な病態概念であるかがうかがい知れます.

動脈硬化症の病態メカニズム

著者: 菅野洋子 ,   島野仁

ページ範囲:P.104 - P.109

●動脈硬化症は,脂肪線条の進展によって小児期より始まり,年齢ごとに進行したアテローム性病変の頻度が増えてくる.

●酸化されたリポ蛋白の産生が,アテロームの形成において重要な病因となる.

●単球の内皮への接着,内膜への遊走,脂質を貪食し泡沫化したマクロファージへの成熟が,アテローム性プラークが形成される前段階である.

●アテローム性プラークの進展は,リポ蛋白や白血球の出入り,細胞増殖と細胞死,細胞外マトリックスの産生とリモデリング,石灰化と血管新生などの間の複雑な均衡関係が病変形成に関与する.

ゲノム・エピゲノムからみた動脈硬化症

著者: 稲垣毅 ,   谷村恭子 ,   酒井寿郎

ページ範囲:P.110 - P.118

●動脈硬化症の発症にはゲノム異常やエピゲノム制御機構が関与する.

●家族性高コレステロール血症(FH)をはじめとする遺伝子異常のほかに,DNAメチル化やヒストン修飾調節,microRNA(miRNA)を介した動脈硬化症の発症機構が明らかになってきた.

●ゲノムシークエンサーの進化やビックデータ解析速度の上昇などから,ゲノム・エピゲノム検査がより広く行われることが予想される.

動脈硬化に関与する腸内常在菌

著者: 辨野義己

ページ範囲:P.119 - P.125

●21世紀,培養・単離を介さない手法によるヒト腸内常在菌の構成と年齢,性別,体重,食生活,運動・飲酒・喫煙や心理的・精神的状態との関連性が明らかになった.

●肥満,高血圧,動脈硬化,ストレスなどの発症の引き金として腸内常在菌が重視され,宿主における肥満,高血圧,喫煙などが導き出す危険因子とされる動脈硬化に関与する腸内常在菌について述べた.

動脈硬化の診断マーカー

著者: 平山哲

ページ範囲:P.126 - P.131

●脂質の量的および質的な異常は,動脈硬化を促進する.よって,脂質関連検査は,動脈硬化性疾患のスクリーニングや病態評価に有用である.

●炎症マーカーは,特に心血管疾患の予知因子として有用である.

●microRNAは,動脈硬化や各種の癌など,種々の疾患の診断および治療への応用が期待される.

動脈硬化症の治療標的─脂質代謝を中心に

著者: 小倉正恒 ,   斯波真理子

ページ範囲:P.133 - P.141

●創薬ターゲットとなる分子の発見は,単一遺伝子疾患患者の病態がヒントとなることが多い.

●ミクロソーム中性脂肪転送蛋白質(MTP),アポリポ蛋白B,PCSK9,コレステロールエステル転送蛋白質(CETP)に対する新しい阻害薬が第3相試験レベルまで開発が進んでいる.

●動脈硬化症の治療や予防の予測に役立つと期待される新しい検査法として患者高比重リポ蛋白質(HDL)のコレステロール引き抜き能の測定が挙げられる.

動脈硬化症のリスク管理と指導

著者: 金子正儀 ,   羽入修 ,   曽根博仁

ページ範囲:P.143 - P.149

●脂質異常症・高血圧症・糖尿病・喫煙は動脈硬化に起因する心・血管イベントを引き起こす.

●各症例ごとにリスク因子を評価し,個々の目標値を設定する.

●生活習慣の改善を基本として,目標に満たない場合に薬物療法を開始する.

●患者に治療の必要性を説明,理解してもらうことが治療継続には重要である.

今月の特集2 血算値判読の極意

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.151 - P.151

 血球数算定(血算)は,最も頻繁に行われる検査の1つです.したがって,医師や看護師,あるいは臨床検査技師にとって,血算値の判読は必要不可欠な基本的作業であり,誰でもある程度の血算値の判読はできるでしょう.

血球計数(血算)─概論

著者: 岡田定

ページ範囲:P.152 - P.158

●血算値には全身の情報を反映した豊富な情報がある.

●血算値を評価するポイントは,①ヘモグロビン(Hb),白血球数(WBC),血小板数(PLT)のどれが異常かを確認する,②貧血なら平均赤血球容積(MCV)と網赤血球(RET)に注目する,③白血球増加(減少)なら白血球分画に注目する,④血小板減少なら骨髄産生低下,破壊・消費の亢進,脾臓での貯蔵の3つの機序から考える,⑤以前の血算値との経時的変化に注目することである.

●血算値を有効活用するコツは,①血算値の異常パターンから想起すべき代表的な病態・疾患を記憶する,②血算値を評価するための“セット項目”を利用する,③血算値を病歴,身体所見,他の検査所見と総合して評価することである.

赤血球系血算値

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.159 - P.165

●赤血球系血算値で重要なのはヘモグロビン濃度(Hb)と平均赤血球容積(MCV)であり,次いで重要なのは平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC),網赤血球数(Ret),赤血球粒度分布幅(RDW)である.

●貧血,赤血球増加症の判断は原則としてHbで行う.

●貧血の分類はMCVとMCHCで行う.

●RetやRDWは貧血の原因推定に有用な情報を提供する.

白血球数と白血球分画

著者: 須永眞司

ページ範囲:P.166 - P.172

●白血球数が増減していたら次に白血球分画をみて,どの分画が増減しているのかを見極める.

●白血球分画の増減は比率ではなく,絶対数(白血球数×分画比率)で評価する必要がある.

●白血球数の変化を起こす疾患・病態は非常に多岐にわたる.その鑑別には,血球の形態やヘモグロビン値の増減の有無,血小板数の増減の有無が参考になる場合がある.

血小板数と血小板形態

著者: 谷田部陽子 ,   村田満

ページ範囲:P.173 - P.179

●自動血球分析装置の血小板数測定にはさまざまな原理が用いられており,自施設で使用している機器の特徴を把握したうえで評価することが必要である.

●血小板数測定にはピットフォールが存在し,電気抵抗法で表されるヒストグラムや塗抹標本上の血小板形態の観察は重要である.

●血小板関連のパラメータには血小板数以外にも平均血小板容積(MPV),血小板容積分布幅(PDW)などがあり,血小板に関する情報を得ることができる.

●血小板減少症,増加症には多くの疾患があるが,MPVに表される血小板サイズにも特徴的な疾患が存在する.

自動血球計数装置のスキャッタグラムを用いた新たな診断的意義の確立

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.181 - P.187

●全血球計算(CBC)スキャッタグラムは,細胞などの粒子を流体中に流し,個々の粒子を光学的に分析する方法を用いる.レーザーを照射し,前方および側方散乱光や側方蛍光を計測し,それぞれの計測データをプロットした図をスキャッタグラムと呼ぶ.CBCの計測器の種類によって測定原理が異なり,それぞれの機種ごとにパターンが異なる.

●FCSとはflow cytometry data file standardの略で,フローサイト法から得られる計測生データの標準フォーマットで,1984年に作成されて以来,バージョンアップを重ね,現在,FCS 3.1が最新バージョンとして利用されている.計測された個々の細胞に対する計測データを入手することができ,細かい解析を行うことができる.

●ROC分析とはreceiver operating characteristicの略で,受信者操作特性と呼ばれ,潜水艦のソナーの特性を評価する目的で開発された技術である.臨床検査分野では,検査値と病名との関係を評価する検査診断特性として,最も基本的な分析方法である.連続値のカットオフ値を可変させ,各値の感度と特異度を計算することで求めることができる.

今月の表紙

痛みの王様(結石)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.102 - P.102

 緑色の玉には,清楚でも華やかな美しさがある.それは,大人の輝き,至福を感じる.王様や裕福な人の体内に天然の宝石(結石)が造られている.結石は,シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムからなり,腎杯や腎盂で造られ,尿管,膀胱,尿道を通って,自然排出される.結石は,カルシウム不足,肉類,過度の飲酒などが引き金となる.

INFORMATION

近畿心血管治療ジョイントライブ(KCJL)2015 Co-medical

ページ範囲:P.118 - P.118

 カテーテル室においてコメディカルの役割は多岐にわたります.Co-medical Theaterでは各職種の専門性を踏まえて趣向を凝らせた内容でお送りします.看護セッションでは,“患者さんの立場にたったカテ看護”について,カテ看護から病棟看護を企画しています.虚血セッションでは,基礎から合併症まで幅広いレクチャーを予定しています.不整脈セッションでは,アブレーションと心臓植え込み型デバイス関連の内容で,コメディカルが行う知識継承・情報伝達・患者教育にスポットを当て,治療環境の向上を目的とした情報共有の場を設ける予定にしています.基本から応用まで皆さまに満足いただけるプログラムとなっています.ぜひ皆さまのご参加をお待ちしています.

開催日:2015年4月17日(金)〜4月18日(土)

会 場:メルパルク京都

第15回自動呼吸機能検査研究会関東部会お知らせ

ページ範囲:P.187 - P.187

日 時:2015年3月1日(日)10:00〜16:30

会 場:フクダ電子株式会社会議室(東京・本郷)

検査説明Q&A・2

肝細胞癌においてAFP値とPIVKA-II値が同じ動きをしません.データの解釈を教えてください

著者: 日高裕介

ページ範囲:P.188 - P.190

■肝細胞癌と腫瘍マーカー

 肝細胞癌における肝腫瘍マーカーはAFP(α-fetoprotein),PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ),AFPレクチン分画(lens culinaris agglutinin-reactive fraction of AFP:AFP-L3 fraction)の3項目が日常診療でよく測定されている.肝細胞癌の診断,治療効果判定,再発の診断補助および悪性度評価にはそれぞれのマーカーの感度と特異性が大きな問題となる.各マーカーの特性を理解することが重要である.

遺伝医療ってなに?・2

遺伝医療と倫理ジレンマ

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.192 - P.193

いきなりフリージャーナリストのような書き出しで恐縮だが,筆者はこの原稿を浜松市で開催中の日本生命倫理学会年次大会の会場で書いている.初めて参加した学会で,もとより会員でもないのだが,“生命倫理の専門分化と全体像”という公募シンポジウムのシンポジストとして,遺伝医療現場における倫理ジレンマの現状を紹介した.何か具体的に抱くべき理念を示せたわけでもないし,可能な解決策を提示できたわけでもない.ただ現状を紹介しただけである.しかしながら発表後の総合討論ではいくつかの貴重な質問をいただき,問題提起にはなったのかと少し安心した次第である.この学術集会では生殖医療や再生医療における生命倫理問題のほか,研究者倫理(最近は残念なことに“不正”という言葉とセットで語られることが多い)や終末期・介護における倫理問題,倫理審査委員会のあり方,さらにはロボットとの共生にかかわる倫理的問題など,多彩なテーマで発表と討論が行われていた.普段出席する学会はそのほとんどが医療関係者という同じアタマ(思考回路)をもつ者の集まりだが,こうした医療,法学,社会学などさまざまな学際領域の人たちが集まる集会は大変勉強になったし,たこつぼ型のコミュニケーションワールドにとどまっている自分を反省もした.

元外科医のつぶやき・2

輸血と感染

著者: 中川国利

ページ範囲:P.194 - P.194

 輸血による副作用にはさまざまあるが,重篤な副作用として感染が挙げられる.輸血による感染を防止するため,日本赤十字社がいかに取り組んできたかを紹介する.

 わが国における輸血の歴史をひもとくと,1930年,ピストルで狙撃された浜口首相が供血者から採取した血液を直ちに輸血したことを契機に,以後輸血が普及した.そして1948年,東大病院での輸血による梅毒感染が大きな社会問題となり,1952年,日本赤十字社による血液事業が開始された.しかし,売血による商業血液銀行も認可され,献血制度は低迷を極めた.1964年,ライシャワー駐日米国大使が輸血で肝炎を発症したことを契機に,献血が強力に推進された.なお当時は輸血患者の半数が肝炎を発症し,素手で手術を行う外科医は肝炎を発症して初めて一人前とさえいわれた.そこで1972年,HBs(hepatitis B surface)抗原検査が,そして1989年,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)抗体検査が導入され,肝炎発症者は激減した.なお1974年,輸血用血液は全て献血で供給されるようになったが,その後も製薬会社による血漿分画製剤用血漿の有償採血が行われた.しかし,輸入血液製剤によるエイズウイルス〔ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)〕感染が問題となり,1990年,売血制度は完全に廃止された.なお現在でもいまだアルブミン製剤の4割強は,海外の売血制度で集められた血液で製造されている.

資料

動物看護学科における臨床検査学教育

著者: 宮井紗弥香 ,   山川伊津子 ,   岡﨑登志夫 ,   若尾義人

ページ範囲:P.195 - P.201

 動物看護師が臨床現場で担当する業務において,臨床検査の比重が高まっている.本稿では,現場の実情,動物臨床検査の現況および教育施設(本学)における動物臨床検査学講義と実習の取り組みについて紹介し,教育の重要性を論じた.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.109 - P.109

書評 解剖と正常像がわかる! エコーの撮り方 完全マスター

著者: 遠田栄一

ページ範囲:P.150 - P.150

技術習得に必要な知識を網羅

超音波検査ビジュアル入門書

 超音波検査の第一人者である種村正先生の熱き思いが伝わる教科書が誕生しました.読み進めていくうちに,いやはや驚きました.初学者の入門書の かくあるべき姿がここにあったからです.

「検査と技術」2月号のお知らせ

ページ範囲:P.179 - P.179

投稿規定

ページ範囲:P.202 - P.202

次号予告

ページ範囲:P.203 - P.203

あとがき

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.204 - P.204

 未年を迎えた2015年2月号のあとがきを担当させていただくことになりました.未は私の干支であり2月は誕生月でもあります.本号のあとがきが編集委員としての私の最後の仕事となります.縁あって本誌の編集委員を2年間させていただけたことに大変感謝しています.編集に協力していただいた多くの仕事関係者の皆さまや本誌編集部および他の編集委員の皆さまの助けを得て,これまで編集委員を続けられたことを幸せに思います.この誌面をお借りして心よりお礼申し上げます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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