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雑誌目次

論文

臨床検査59巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

今月の特集1 日常検査としての心エコー

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.495 - P.495

 心エコー検査は医師から技師へバトンタッチされつつあります.すでに多くの施設では,心エコーコメントや所見部分は技師が記載しています.もちろん,心エコー精査に関しては,専門医が直接検査を行ったり,技師と医師が同席協力し相談しながら検査を進めたりすることは,心エコーの進歩のため,これからも必要なことはいうに及びません.本特集では,私自身が長年心エコー検査を担当していた経験を基に,全国の心エコー担当技師が知りたいだろう,また知っていてほしい5項目を取り上げました.①“スクリーニング検査”の正しい検査法,②“非心臓手術の術前心エコー検査”は麻酔科が求める術前検査結果,③“感染性心内膜炎の診断”は初回検査と2度目以降の検査で視点をどう変えるべきか,④“右心機能評価”はどの程度取り入れるべきか,これに,⑤“弁疾患の診断と重症度”を加えて,すぐに役立つものばかりです.検査室の規模にかかわらずスキルアップに役立つこと請け合いです.

心エコースクリーニング検査

著者: 戸出浩之

ページ範囲:P.496 - P.504

Point

●心エコーのスクリーニング検査において,効率よく看過ない検査を実施するためには,一定の手順に沿った走査を行うことが重要である.

●心エコーのスクリーニング検査のために,1つの異常所見から想定される疾患の引き出しを数多くもち,各疾患の特徴的所見を把握しておく必要がある.

●心エコーのスクリーニング検査は,症状や他検査の異常から想定される疾患や病態を考え,検査に臨むことが重要である.

非心臓手術の術前心エコー検査

著者: 山田達也

ページ範囲:P.506 - P.512

Point

●非心臓手術を受ける患者が重度心疾患を有する場合,予定手術を延期して心疾患の治療を優先させることがあり,術前心エコー所見はその判断に用いられる.

●術前心エコーによる心疾患の重症度や病態の評価は,非心臓手術を受ける患者の麻酔法や循環作動薬の選択,さらに循環補助や特別なモニタリングの必要性を判断するのに有用である.

感染性心内膜炎の診断

著者: 鳥居裕太 ,   山田博胤

ページ範囲:P.514 - P.523

Point

●初回検査で検出できなくても,感染性心内膜炎(IE)の疑いが続く場合は,繰り返し検査を実施することが重要である.

●経胸壁心エコー検査によるIEの検出感度は,経食道心エコー検査に比べて低い.経胸壁心エコー検査で陰性であっても,IEが臨床的に疑われる場合には積極的に経食道心エコー検査を施行する.

●人工弁,特に機械弁では,心エコー検査によるIEの検出感度が低い.

右心機能評価

著者: 田中秀和

ページ範囲:P.524 - P.531

Point

●右心機能を正確に評価するためには,右心系に焦点をあてたviewである“RV-focused apical 4-chamber view”を描出することが重要である.

●右室収縮能評価は右心機能評価のなかで最も重要であり,三尖弁輪部収縮期移動距離(TAPSE),右室弁輪部の長軸方向移動速度(S′),右室面積変化率(RVFAC),RIMP(RV index of myocardial performance)の計測が推奨されている.

●TAPSEは,米国心エコー図学会(ASE)のガイドラインでは右室機能の指標としてルーチンでの測定を推奨しており,16mm未満であれば右室収縮能低下と判断できる.

●スペックルトラッキング法ならびに3次元心エコー図法は現在,ルーチンで使用される右心機能評価法ではないが,今後の臨床応用が大いに期待されている.

弁疾患の診断と重症度

著者: 岩永史郎

ページ範囲:P.532 - P.538

Point

●大動脈弁狭窄症(AS)は弁開口制限と弁直上のモザイク血流から疑い,最大流速,平均圧較差,弁口面積で重症度を評価する.

●大動脈弁閉鎖不全症(AR)は大動脈弁から左室に向かう異常血流で診断し,逆流モザイクの大きさと左室径,大動脈内拡張期逆流で重症度を評価する.

●僧帽弁逸脱による閉鎖不全症は,吸い込み血流の位置と逆流モザイクの方向によって逸脱部位を診断する.

今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.539 - P.539

 健康診断(健診)や人間ドックは,通常の医療に次いで大きな臨床検査の利用分野(ユーザー)です.また,現在の健診や人間ドックにおいて,臨床検査は重要な役割を果たしており,欠くことのできないものとなっています.しかし,医療においては疾病を有する患者を対象とするのに対し,健診や人間ドックの対象は原則として健康人です.したがって,臨床検査の利用目的も,健診・人間ドックと医療ではやや異なっています.

 本特集では,各項目で,健診・人間ドック分野における臨床検査の利用について,現状と今後の展望や課題をreviewしていただきました.臨床検査の従事者にとっても,興味をもって読んでいただけるテーマではないかと考えた次第です.この分野において,臨床検査がより有効に利用されることに,本特集が資することがあれば望外の幸せです.

健診の目的と検査項目

著者: 田内一民

ページ範囲:P.540 - P.546

Point

●健診受診の目的は疾病の早期発見だけでなく個々の疾患リスクを知り,生活習慣改善など予防の動機付け機会とすることである.

●健診は大きく対策型検診,任意型検診に分類され,検査項目は健診の種類によってそれぞれ異なる.

●基準検査項目は,時代の要求とともに変遷している.

●受診者個人にとってリスクの高い疾患に対しては,オプション検査を付け加える.

臨床検査の基準範囲—正しい理解の必要性について

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.548 - P.554

Point

●2014年4月に,日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が,ドック健診受診者をベースにした健診基本項目の基準範囲の中間報告をプレスリリースしたが,かつてない程の全国的な反響を呼んだ.

●以上の主な原因は“基準範囲の意味の誤解”から始まっており,臨床検査の基準範囲の正確な意味を医療従事者や国民に正確に周知する必要がある.

●特に,基準範囲と臨床判断値との区別が予想以上に理解されていないので,この点の理解度を上げるための対応が望まれる.

●ただし,今回の基準範囲は男女別,年齢別に設定され,ドック健診などの基準範囲としては,より妥当なものが策定されている.

健診事業における臨床検査の精度管理

著者: 鈴木隆史

ページ範囲:P.556 - P.563

Point

●外部精度管理は施設水準を示す指標として重要である.

●臨床検査技術の水準において,合理的な許容範囲内にあれば精度管理状態は良好と考える.

●偏差度あるいは標準偏差指数(SDI)の評価では判定が厳しくなるほどにデータは集束してきている.

●総合健診の標準化の基礎となることをゴールとする.

特定保健指導が臨床検査値に与える影響

著者: 今渡龍一郎 ,   岩崎美代 ,   津崎香理 ,   中山由紀子 ,   藤本裕司

ページ範囲:P.564 - P.570

Point

●特定保健指導の実施により,6カ月後体重・腹囲は積極的支援で2.0kg・2.0cm,動機付け支援で1.3kg・1.3cm減少した.

●体重・腹囲の減少率に比例して,血圧高値・脂質異常症・高血糖や肝機能異常を表す臨床検査値の改善幅が大きくなる.特定保健指導による当面の目標減量率を3〜5%にすることが望ましい.

●健診受診者が血糖高値を有する場合は,推算糸球体濾過量(eGFR)のみでの慢性腎臓病(CKD)の診断に注意を要する.

健診・人間ドックの臨床検査における個人の基準範囲とその有用性

著者: 今枝さふみ ,   林務

ページ範囲:P.572 - P.578

Point

●標準的な健診・保健指導プログラムでは,臨床検査において,共通の健診判定値の設定と測定値の標準化が必要とされている.

●健診において,臨床検査は十分な精度管理を行い,検査値の質を担保することが要求されている.

●臨床検査値に影響を及ぼす変動要因は多数あり,基準範囲には個体内変動と個体間変動,技術的変動が含まれている.

●臨床検査値の個体内変動を捉えることは,疾病の早期発見のため重要である.

今月の表紙

腹水に生息するマリモ(癌細胞)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.494 - P.494

 北海道の阿寒湖に生息するマリモは,国の特別天然記念物に指定されている.藻の一種であるマリモは,比較的寒い地方の湖沼に沈む緑色の神秘な球体で,大きさ約30cm.じっと見ていると,心が和らぎ,癒やされるという.

 しかし,写真の細胞を見ても,心が癒やされることはなく,むしろ怒りを感じる.これは,腹水中の大腸癌細胞である.細胞表面から短い微絨毛が派生し,極めて活動的であることを示唆している.胃や大腸の癌細胞が漿膜を破り,腹膜腔に溺れ落ち,腹膜に付着し,細胞分裂を繰り返し,癌細胞塊を造る.このような状態が種をまいたように見えるので,腹膜播種といわれる.腹水を遠心分離すると,たくさんの癌細胞が存在することがある.これが癌性腹水.

INFORMATION

UBOM(簡易客観的精神指標検査)技術講習会・2015

ページ範囲:P.512 - P.512

第26回日本末梢神経学会学術集会

ページ範囲:P.589 - P.589

研究

姫路医療センター独自の「臨床検査技師採血技術認定制度」の導入とその成果

著者: 嶋崎明美 ,   高田耕自 ,   笹倫郎 ,   三村拓郎 ,   山崎麻澄 ,   堤早紀 ,   山北幹子 ,   西川裕太郎 ,   大蔵真希 ,   岩谷泰之 ,   吉村泰治 ,   佐野隆宏

ページ範囲:P.580 - P.585

 患者の求める“上手な採血”の実現のために,数値化した基準を用いた姫路医療センター独自の「臨床検査技師採血技術認定制度」を施行した.認定制度の導入後,検査技師の採血業務へのモチベーションが高まり,採血技術・接遇レベルが向上した.また,採血待ち時間・採血時間・報告時間(TAT)が短縮し,顧客満足向上につなげることができた.認定制度の基準に技術だけでなく接遇評価・採血知識習得も加え,教育をシステム化したことが有効であったと考える.

検査説明Q&A・6

心電図で補正QT(QTc)値延長は比較的頻繁に目にします.QT延長の機序を教えてください.また,どんな場合に他の検査データを至急,確認すべきですか?

著者: 富田康弘

ページ範囲:P.587 - P.589

■補正QT間隔(QTc)

 QT延長は心室の再分極過程の延長を意味するが,RR間隔に比例して延長するため,補正式がある.補正QT間隔(QTc)と呼ばれ,QT時間を先行するRR間隔の2乗根で割ったもの(Bazettの補正)が一般的である.RR間隔の3乗根で割ったもの(Fridericiaの補正)は心拍数の速い小児に用いられることがある.

遺伝医療ってなに?・6

遺伝相談と遺伝カウンセリング

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.590 - P.591

これまでのこのコラムでは主に遺伝情報と社会との関係についての話題を取り上げてきたが,今回は,遺伝医療の現場の実際を紹介しようと思う.遺伝外来とか遺伝子診療部という言葉はだいぶ受け入れられるようになってきてはいるが,その内容についてはまだ十分に認知されてはいないようである.筆者の周囲の医療関係者でも,依頼すると遺伝子検査をしてくれるところ,遺伝子解析研究の説明と承諾を被験者からもらってくれるとところ,といった,こちらが困惑してしまうような認識がまだまだ残っている.これは悩ましい.

 現在では大学病院を中心に多くの基幹病院に遺伝に関する専門外来が開設されている.その診療形式や診療内容はさまざまだが,遺伝外来は基本的にはどこも予約診療である.こちらの準備がいるので予約でないと対応できないのである.予約は担当医からの紹介のこともあれば,クライエント(必ずしも病気をもっているわけではないので患者とはいわない)から直接予約が入ることもある.

元外科医のつぶやき・6

血液の適正使用

著者: 中川国利

ページ範囲:P.593 - P.593

 血液は人体の一部であり,輸血に用いる血液は献血に由来する.したがって,貴重な血液を有効利用する必要があるが,38年間に及ぶ外科医時代,血液を常に適正に使用してきたか,大いなる疑問を感じている.

 私が母校で研修していた昭和50年代後半,肝切除時には新鮮凍結血漿を輸血することが推奨され,大量の新鮮凍結血漿を使用したものである.また,感染例ではグロブリン製剤が安易に使用され,さらに,アルブミン製剤は低蛋白血症の特効薬として推奨された.使用する血液を国内で集められないため,世界中から血液製剤を買い求め,アルブミンに至っては全世界の1/3をわが国で消費した.そして,金満国日本が人体の一部である血液を買いあさっていると,国際的に大いに批判された.当時,わが国は好況な経済の下,医療費は原則無料で,患者も医療側も医療費にはあまり関心をもたなかった.しかし,日本経済に陰りが生じ,また医療費増大に伴い世界に冠たる医療制度の維持が困難となった.そこで,医療費抑制が行われるようになった.

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「検査と技術」6月号のお知らせ

ページ範囲:P.504 - P.504

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.531 - P.531

次号予告

ページ範囲:P.595 - P.595

あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.596 - P.596

 本号は「日常検査としての心エコー」と「健診・人間ドックと臨床検査」の2本を特集しました.今回も大変読み応えのある充実した内容になっています.新年度の慌ただしさが一段落したところで,ぜひじっくりと読んでいただきたいと思います.

 さて,健診といえば,ちょうどこの時期に,職員健診を行う施設が多いのではないでしょうか.私事ですが,若い頃は,職員健診は楽しみの1つでした.今月はどれだけ節制できただろうか? 通信簿を開くときのようなドキドキ感を感じながらデータをみたものでした.検査値が良好であれば達成感と満足感に浸り,芳しくなければ,健常値だった仲間を横目にひとしきり敗北感に打ちひしがれた後,次回の健診までのさらなる節制を誓ったものでした.時には,「バラついているんじゃないの?」などと,自分の検査室にあらぬ言い掛かりをつけたりして.実に不謹慎ですが,賑やかしく健診を受けてきました.しかし,厄年の頃からでしょうか,いよいよ病が自分にとっても切実な問題と思えるようになり,しかも,どんなに節制しても頑として基準範囲に収まらない検査値を突き付けられるようになってくると,楽しみだった健診が一転,試練に変わってきました.私に限ったことではないと思います.しかし,そうやって少しずつ健診を敬遠するようになることが,社会問題となっている国民医療費の高騰のきっかけのように思えます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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