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雑誌目次

論文

臨床検査59巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.601 - P.601

 臨床検査医学は総合科学であり,ある検査項目に焦点をあてるなら,その被測定物資の基礎医学的側面,検査技術論,制度管理状況といった“検査学”と,臨床的意義についての“臨床応用学”を網羅するものです.市販されている検査ガイドブック的なものは,このコンセプトで編集されており,実際,重宝されていますが,この2つの側面をそれぞれのプロフェッショナルに執筆いただいたら,さぞ深みのあるものになるに違いないと思い立ち,“腫瘍マーカー”で実現してもらいました.実際に話し合ってコラボしていただいたわけではありませんが,あたかも協議されたように,それぞれの立場で見事にまとまっています.AFP・PIVKAⅡ,CEA,CA19-9,PSAについては,どの解説書よりも立派なものになったと自負しております.ぜひ,日々の業務にお役立てください.

AFP,PIVKA-Ⅱ—検査編

著者: 及川信次 ,   堀内裕次 ,   池田眞由美 ,   菱沼昭

ページ範囲:P.602 - P.609

Point

●肝細胞癌における代表的である腫瘍マーカーα-フェトプロテイン(AFP)の測定法には,酵素免疫測定法(EIA法),化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法),化学発光免疫測定法(CLIA法),ラテックス免疫測定法(LIA法),電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)および液相濃縮免疫反応電気泳動法(LBA-EATA法)がある.同じくPIVKA-Ⅱには,EIA法,CLEIA法,ECLIA法およびLBA-EATA法がある.

●イムノアッセイ法は,マウスモノクローナル抗体,ウサギポリクローナル抗体およびヒツジポリクローナル抗体を使用するため,検体中にヒト抗マウス抗体(HAMA)などの異好抗体や自己抗体が存在すると,試薬の抗体と反応して正しい測定結果が得られないことがある.

●AFPは,認証標準物質(CRM)による測定値のトレーサビリティの確保がなされている項目であり,国際標準化,検査値の統一化において施設間差の是正・解消が進んでいる.PIVKA-Ⅱは,国際的標準物質がないため,今後,検査の標準化が課題である.

●LBA-EATA法は,マイクロチップを用いたLBA法とEATA法を組み合わせてイムノアッセイを全自動で行う測定法であり,試薬と検体の微量化,免疫反応の迅速化,高感度化を図った方法である.

●ビタミンK欠乏時に産生されるPIVKA-Ⅱと反応性の高いモノクローナル抗体が最近開発されているので,特異性の向上に期待したい.

AFP,PIVKA-Ⅱ—臨床編

著者: 青柳豊 ,   上村顕也 ,   田村康 ,   五十嵐正人 ,   川合弘一 ,   須田剛士

ページ範囲:P.610 - P.616

Point

●肝細胞癌(HCC)の腫瘍マーカーとしてα-フェトプロテイン(AFP)とPIVKA-Ⅱがあり,それぞれの陽性率は約60%であるが,互いに相補的関係にあり,同時測定で診断能を改善できる.

●AFPにはそのフコシル化糖鎖変異を評価するL3分画があり,AFP低値においてもHCC特異性の改善や生物学的悪性度の指標として用いられる.

●C型慢性肝炎の経過観察中,特にインターフェロン(IFN)治療中においては10ng/mL以下の軽微な変動にも臨床的意義があり,肝発癌のリスク評価因子として用いることができる.

CEA—検査編

著者: 二宮忠司

ページ範囲:P.618 - P.624

Point

●CEAの分子学的性状や生理的変動等について紹介する.

●CEA測定試薬における課題として,同一キット内の精度は良好であるものの,キット間差が存在することが挙げられる.

●各メーカーの努力によってCEA測定試薬の精度は向上しているものの,WHO準拠がまだ一部のキットにとどまっているといった課題はまだ解消されていない.

CEA—臨床編

著者: 横溝肇 ,   加藤博之 ,   成高義彦

ページ範囲:P.626 - P.631

Point

●癌胎児性抗原(CEA)は,消化器癌の早期発見のためのスクリーニングには適していない.

●大腸癌手術前のCEA陽性率は,病期が進んだものほど高い.

●治療前にCEA陽性であった場合は,予後の判定や,消化器癌の手術や化学療法の治療効果判定に用いられる.

●治療後の再発時には,画像診断での発見より早くCEAが上昇することがあり,根治手術後の経過観察に有用である.

CA19-9—検査編

著者: 石黒厚至

ページ範囲:P.632 - P.637

Point

●CA19-9は,モノクローナル抗体作製技術によって初めて開発された糖鎖抗原腫瘍マーカーである.

●CA19-9測定値には著しい試薬間差が認められ,データ互換性に乏しい.

●CA19-9には認証された標準物質がなく,検査の標準化は困難と考えられている.

●CA19-9の血中基礎値はLewis血液型糖鎖合成酵素の影響を受けるため,生得的に個体差がある.

CA19-9—臨床編

著者: 濱田晋 ,   正宗淳 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.638 - P.643

Point

●CA19-9は広く使用されている腫瘍マーカーである.

●CA19-9は化学療法の効果判定や術後フォローに有用である.

●Lewis陰性者ではCA19-9が高値とならないため,代替マーカーを測定する.

PSA—検査編

著者: 石橋みどり

ページ範囲:P.644 - P.654

Point

●前立腺特異抗原(PSA)の分子多様性が前立腺癌マーカーとしての特異性を示す.

●測定試薬はfree PSAとPSA-ACTに対してequimolar assayであることが必須である.

●キットキャリブレータの値付けは,WHO 1st International Standard(96/670)またはfree 100% Standard(96/668)が望ましい.

●測定値の変動要因を把握する.

PSA—臨床編

著者: 宮久保真意 ,   伊藤一人

ページ範囲:P.656 - P.662

Point

●前立腺特異抗原(PSA)は感度の高い腫瘍マーカーであり,前立腺癌の早期発見に有用である.

●PSAの基準値は0〜4ng/mL,あるいは年齢階層別基準値が用いられている.

●前立腺癌の治療効果判定と再発モニタリングにおいて,PSAは重要な役割を担っている.

●無症状者に対するPSA検診は癌死亡率の低下効果が証明されている.

今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.663 - P.663

 私がこの世界に足を踏み入れた当時,検査技師が個々の技量を発揮する場面はまだまだ数多くありました.技師間の技量差は明確に存在し,誰が出したデータかによって結果の信頼性は異なっていました.

 その後,臨床検査は機械化や試薬のキット化が進み,検査技師が個々の技量を発揮できる場面は徐々に減少しました.現在では,そのような場面はほとんどなくなってきていますが,血液細胞形態検査は,いまだに個人の技術や能力に依存する部分が大きい検査分野といえるでしょう.

末梢血液像の観察ポイント

著者: 阿南建一

ページ範囲:P.664 - P.671

Point

●末梢血液像の観察のポイントは,造血三血球の正常分化・成熟過程を習得したうえで,末梢血の正常構築を担う細胞を認識することから始まる.血液標本の作製には人為的手法と機械法があり,双方ともに薄層塗抹法(ウェッジ法またはそれに準ずるもの)で作製され,細胞の判読および同定には“きれいな塗抹と華麗な染色”が求められる.実際の光学顕微鏡観察では低倍率,中倍率,高倍率を巧みに操り,正常細胞はもとより異常細胞を見逃さないようにする.

●形態異常とは,血球の分化・成熟障害や諸因子による局所の正常構築の破綻に伴って出現する異常細胞のことであり,そこには異形成(dysplasia)と異型性(atypia)所見を呈する細胞の出現が予測される.異常細胞とは,見逃してはならない細胞,すなわちパニック細胞であり,その緊急度は高い.それらについては,形態異常に加えて機能異常も模索しながら,関連する血液疾患を考慮して臨床へ報告すべきである.

●アーティファクト(人工産物)は,血球計測値や細胞同定に影響を与えることから,その原因を認識したうえで回避法に努めることが重要である.多くは採血行為や抗凝固剤によるものであるが,患者自体に問題がある場合もあり,形態診断においてはピットフォール(落とし穴)にもなりうるので,十分に注意する.

赤血球形態異常の捉え方

著者: 土屋逹行

ページ範囲:P.672 - P.679

Point

●赤血球形態の観察では,標本の適切な観察位置を選択する.

●観察は系統的に行い,見逃しを防ぐことが必要である.

●判定基準と形態表現には日本検査血液学会の標準化案を用いる.

末梢血白血球形態の異常とその評価

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.680 - P.687

Point

●血液細胞の鏡検において,異常細胞出現のシグナルを捉えることは非常に重要である.

●反応性リンパ球増加時は,さまざまな大きさのリンパ球がみられる.

●腫瘍性リンパ球の特徴は,単調で同一形態をとることが多いことである.

●慢性骨髄性白血病(CML)の特徴には,左方移動を伴った白血球数増加,好塩基球数増加,さらに血小板数増加が挙げられる.

血小板形態観察のポイント

著者: 風間文智 ,   雨宮憲彦 ,   佐藤金夫

ページ範囲:P.688 - P.696

Point

●塗沫標本鏡検時は,血小板形態にも注目する.

●血小板形態異常と,出現する病態を理解しておくことが重要である.

●エチレンジアミン四酢酸(EDTA)による凝集(EDTA依存性偽性血小板減少症)が疑われる場合は,フィブリンの有無,偽足の有無,凝集塊の標本における分布状況などに注目する.

急性白血病を正しく診断するためのポイント

著者: 宮地勇人

ページ範囲:P.697 - P.704

Point

●急性白血病は,世界保健機関(WHO)分類において,正確な形態診断が最終的な病型診断に大きく影響する.

●急性白血病の正確な形態診断には,標準化された細胞判定と,精度管理された細胞分類が重要である.

●急性骨髄性白血病(AML)の形態に基づく診断において,異常幼若細胞(芽球,前骨髄球,異常前単球)の判定と細胞異形成の定量的評価を正確に行う.

●染色体・遺伝子異常に基づく病型に結び付く特徴的な細胞所見に着目する.

●病型の確定は,形態診断とともに,治療経過,基礎疾患など背景を踏まえて,細胞表面マーカー検査,染色体・遺伝子検査の所見を総合し,診断アルゴリズムに従って行う.

骨髄異形成所見を正しく判定するためのポイント

著者: 辻岡貴之 ,   通山薫

ページ範囲:P.705 - P.708

Point

●骨髄異形成症候群(MDS)の診断には,正確な血球異形成判定が不可欠である.

●診断的価値が高いのは,偽Pelger核好中球,脱顆粒好中球,環状鉄芽球,微小巨核球である.

●形態異常が軽微な症例では統一的な異形成判定が困難である.

●5つの予後カテゴリーは生存期間と急性白血病移行までの期間に相関する.

今月の表紙

黄金の珊瑚礁(小腸絨毛)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.600 - P.600

 沖縄や石垣島のきれいな海には,珊瑚という生物が群体をなし,有孔虫など石灰質を分泌する生物たちと一体となった珊瑚礁がある.地中海や日本近海では赤色珊瑚が多く,その色は肉体的な愛を示し,宝石は,ローマ時代から女性の護符や妊婦の厄よけとして愛用されていた.また,淡いピンクは,天使の肌と呼ばれている.ちなみに珊瑚は3月の誕生石で,結婚35周年を珊瑚婚式ともいう.

第37回第2種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.679 - P.679

元外科医のつぶやき・7

職場における寝食

著者: 中川国利

ページ範囲:P.709 - P.709

 病院には当直として泊まることもあるが,ほかの理由で宿泊することもある.病院勤務時代の自主的病院宿泊を紹介する.

 私の研修医時代は現在のような研修医制度がなく,給金はすずめの涙で,アパートを借りるお金もなかった.そこで研修医はアパートを3人で借りたり,病院の屋上に通じる踊り場をベニヤ板で囲って住んだりしていた.私は外科医局に簡易ベッドをもち込み,スイートスペースとした.プライバシーは全くなかったが,唯一の利点として,医局のドアの開閉によって臨時手術に必ずあり付くことができた.食事は,研修医仲間とたまに外食することもあったが,普段は職員食堂で深夜に1人で冷えた御飯を食べたものである.現在では電子レンジで容易に温めることができ,隔世の感がする.しかし,当時は若いこともあり,苦にはならなかった.逆に現在では,若い時代に逆境を経験する大切さを感じている.大学に勤務していたころは,重症患者を抱えると,家にも帰らずに医局のソファで仮眠を取り,外来の診察台で夜を過ごしたこともある.それでも若いため,特に眠れずに疲労困憊した覚えはない.

検査説明Q&A・7

18誘導心電図があると聞きました.どのような誘導でしょうか?また,どのように臨床に応用されているのでしょうか?

著者: 尾形申弐

ページ範囲:P.710 - P.713

■心電図のデジタル化

 1903(明治36)年にオランダのEinthovenが弦線電流計を用いて,心電曲線を写真記録した.この絃線電流計は272kgの重さがあり,5人がかりで操作する程の大型装置で,食塩水で満たした水槽を電極とし,四肢を浸して心電曲線を導出した.

 Einthovenは心電曲線の各波にPQRSTと命名し,1924年に“心電図法の発明”でノーベル賞生理学・医学賞を受賞し,今日の心電図の基礎を築いた.“心電図の父”といわれるゆえんである.1911(明治44)年にわが国に弦線電流計が輸入され,国内での心電図の記録が始まった.

遺伝医療ってなに?・7

遺伝カウンセラーというプロフェッショナル

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.714 - P.715

前回は,遺伝カウンセリングという医療について紹介した.今回は,その遺伝カウンセリングを担うべき人材,遺伝カウンセラーについて紹介したい.

 遺伝カウンセリングという医療が,単なる遺伝や病気についての詳しく丁寧な説明ではなく,逆に遺伝性疾患の当事者に対する“心理”カウンセリングだけでもないことは前回書いたので,ここで繰り返すことは避けるが,遺伝カウンセリング担当者には,①メンデル遺伝学,細胞遺伝学などの正確な知識,②心理社会的支援を行うために知識とカウンセリング技術,③日々進歩する遺伝医学の最新の遺伝情報にアクセスしそれを活用する能力,④遺伝カウンセリングに関係した倫理的・法的・社会的問題を理解し,それに対処できる能力,⑤関連する他の多くの診療部門との調整を行うマネジメント能力,など,多彩で深い能力が要求される.このように高い要求がなされる医療を,医師が通常の診療の合間に行うのは,時間的にも技術的にも極めて困難である(行えていると思っている医師は多い.残念ながら,こうした医療の重要性に気付いていない医師はもっと多い).遺伝に関する非医師の専門家が必要なゆえんであり,それを担うことを期待されるのが遺伝カウンセラー(genetic counserlor)である.

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「検査と技術」7月号のお知らせ

ページ範囲:P.631 - P.631

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.654 - P.654

次号予告

ページ範囲:P.717 - P.717

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.718 - P.718

 2013年から誌面をリニューアルし,毎号2つのテーマについて話題を提供してきた本誌ですが,本号では,第1特集として「検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー」,第2特集として「血液細胞形態判読の極意」を取り上げました.第1特集では,さまざまな腫瘍マーカーを取り上げ,それぞれ検査から臨床,臨床から検査へ伝えたいメッセージについて述べていただきました.第2特集では,ルーチン検査として広く行われている血液細胞形態検査(血液像)について,病的状態を見逃さず的確に診断するためのポイントを解説していただきました.いずれも基本的な内容ですが,明日からの臨床検査にすぐに役立つ情報ですので,ぜひ,ご活用いただきたいと存じます.

 さて,私が専門としている感染症の領域では,この数カ月で読者の皆さまにお伝えしたいニュースが2つございました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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