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雑誌目次

論文

臨床検査60巻13号

2016年12月発行

雑誌目次

今月の特集1 認知症待ったなし!

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1507 - P.1507

 厚生労働省は,2025年には全国で認知症を患う人の数が700万人を超えるという推計値を発表しています.また,臨床検査技師のかかわりとして,2014年秋に認定認知症領域検査技師制度を開始しました.しかしながら,まだ,全国的に普及していないのが実情です.新たな分野への進出は時間と労力がかかります.臨床検査技師の役割がまだ発展途上にあるこの領域を,少しでも読者の皆さまに知っていただきたく本特集を企画しました.

 認知症の基本的な概念,画像検査やバイオマーカーの話題に加え,あまりなじみの少ない神経心理学的検査についても症例を交えながら解説をいただいています.また,日本臨床検査技師会の立場から認定認知症領域検査技師制度の現状と課題について論じていただきました.

 担当業務の方はもちろん,他のモダリティーなどの担当業務でない方にも興味深くご覧いただける内容となっています.皆さまのスキルアップの一助となれば幸いです.

認知症の概念と現状

著者: 浦上克哉

ページ範囲:P.1508 - P.1512

Point

●認知症は,一度発達した認知機能が後天的な障害によって持続的に低下し,日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいう.

●認知症をきたす疾患は多くあるが,Alz-heimer型認知症が約7割を占める.

●認知症の診断には臨床検査が必要であり,認定認知症領域検査技師の活躍が期待される.

もの忘れ外来における神経心理学的検査

著者: 沼田悠梨子

ページ範囲:P.1514 - P.1521

Point

●認知症の検査場面において神経心理学的検査の果たす役割は,認知症のスクリーニング検査,疾患鑑別の補助検査,重症度の判定と幅広い.

●神経心理学的検査とは,“記憶”や“言語”,“視空間認知”といった脳の各領域の機能を評価する検査である.

●神経心理学的検査は,侵襲性が低く簡便に行えるものから,特殊な検査道具やトレーニングなどを必要とするものがある.

●検査実施においては,依頼者が何を目的として検査を依頼したかを確認し,依頼者と患者本人により有益な結果をもたらすような検査の選定と報告書の作成が求められる.

認知症の画像検査

著者: 松田博史

ページ範囲:P.1522 - P.1528

Point

●認知症の診療における補助診断法として,画像診断は早期診断や鑑別診断に有用である.

●MRIと脳血流単光子放出コンピュータ断層撮像法(SPECT)が主に用いられている.

●統計学的な画像解析手法が普及している.

●光トポグラフィー(NIRS)は,認知症との鑑別が重要なうつ病の補助診断法として用いられている.

認知症の早期発見・介入のためのMCIおよびプレクリニカルADの血液バイオマーカーへの期待

著者: 内田和彦 ,   鈴木秀昭

ページ範囲:P.1530 - P.1536

Point

●2015年の世界の認知症の患者数は約4,680万人である.このまま何もしなければ世界の高齢化社会の進行とともにその数は20年ごとに倍になり,2050年には1億3,150万人になる.

●認知症の60〜80%を占めるAlz-heimer型認知症(AD)は連続性(continuum)のある疾患である.前駆段階の軽度認知障害(MCI due to AD),さらに臨床症状のないプレクリニカル期(プレクリニカルAD)での介入がその発症予防に重要である.

●プレクリニカルADからMCI,ADへの病態進行を反映する血液バイオマーカーはADの予防を実現できる極めて有効な手段である.

●バイオマーカーとしては,アミロイドβ蛋白質(Aβ)やタウ蛋白質(tau)よりも,シナプス障害とその誘因のひとつである補体系などを介した炎症が注目されている.

臨床検査技師のかかわり—認定認知症領域検査技師の現状と課題

著者: 深澤恵治

ページ範囲:P.1538 - P.1544

Point

●認知症は疾患の1つであり,当然のことながら早期発見・早期治療が必要である.早期発見のためには,認知症に関する臨床検査が重要である.

●認知症対策に日本臨床衛生検査技師会も積極的に関与するため,認定認知症領域検査技師制度を立ち上げた.

●本稿では,認知症医療に関して臨床検査技師の必要性を論じる.

今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

著者: 横田浩充

ページ範囲:P.1545 - P.1545

 トラスツズマブ,イマチニブ,ゲフィチニブなどの分子標的薬の登場によって,がんの個別化医療が現実のものとなっています.分子標的薬はがん細胞の増殖に強く働いている分子シグナルを標的とした抗がん剤で,耐性化という問題はあるものの,副作用が少なく,がん細胞に特異的であることから,今後の進展が期待されています.分子標的治療には標的遺伝子の異常の有無を検査することが必須であり,あらかじめ,がん組織や白血病細胞に対して分子レベルの検査を行い,適用可能な症例を選別します.検査を行い,治療薬を決定する診療の流れからは臨床検査の価値が高まったといえます.

 本特集は「がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査」と題して,①肺癌におけるALK融合遺伝子の発見,②創薬・診断,③胃癌・大腸癌・造血器腫瘍に対する分子標的薬と臨床検査・遺伝子検査とのかかわり,④血流中の循環腫瘍細胞(CTC)検出の有用性と可能性,⑤検査技術について工夫・考慮すべき点,について概説していただきました.

がんゲノム変異の発見から創薬・診断へ—肺がんにおけるEML4-ALKを中心に

著者: 間野博行

ページ範囲:P.1546 - P.1550

Point

●がんのゲノム解析によって,発がんの原因となるドライバー遺伝子が明らかにされてきた.

●各がんにおける本質的な原因遺伝子の解明は,その機能を抑える分子標的療法と,同時にその遺伝子陽性腫瘍を診断するためのコンパニオン診断薬をもたらした.

●複数の遺伝子変異を同時に解析するクリニカルシーケンスを医療の場で行うことが現実のものとなりつつある.

胃がん・GISTに対する分子標的薬と分子病理検査(IHC法を含む)の役割

著者: 池田聡

ページ範囲:P.1552 - P.1563

Point

●胃にできる代表的な腫瘍である胃がんと消化管間質腫瘍(GIST)に対して,現在行われている分子標的治療と,それに必要な分子病理検査について述べる.

●これらの検査では免疫染色,遺伝子検査が適切な方法で行われる必要がある.

●今後,遺伝子の状態や蛋白の発現状態と形態学的所見とが融合した分子病理学的検索の必要性がますます高まることが予想される.

大腸がんの分子標的薬と分子病理検査の役割

著者: 郡司昌治

ページ範囲:P.1564 - P.1570

Point

●長時間のホルマリン固定ではDNAの断片化が進む.中性緩衝液ホルマリンを用いると,核酸の品質を損なうと考えられているホルマリン分解産物の産生が抑えられる.

●DNA抽出は酵素処理で組織を完全に溶解する.酵素処理はホルマリンクロスリンクされた核酸-蛋白質から蛋白質の分解を行い,核酸の可溶化に作用する.熱処理にはメチレン架橋の解離の作用がある.

●組織切片は,連続切片を作製することによって腫瘍分布や腫瘍細胞比率が把握できる.しかし,細胞診スメアは染色して腫瘍細胞の有無や腫瘍細胞比率を確認したうえでDNAを抽出する必要がある.

●染色標本の遺伝子解析は可能であり,腫瘍分布や腫瘍細胞比率が把握できるため,非常に有用な手法である.

造血器腫瘍の分子標的薬と染色体検査・遺伝子検査の役割

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.1572 - P.1578

Point

●造血器腫瘍の分野では,融合遺伝子をターゲットとした分子標的薬が画期的な成果を挙げている.

●慢性骨髄性白血病(CML)に対しては,チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の投与が標準治療である.治療効果判定では,染色体検査および国際指標(IS)に基づいたBCR-ABL1融合遺伝子の定量PCR検査が重要である.

●急性前骨髄球性白血病(APL)に対しては,全トランスレチノイン酸(ATRA)併用化学療法が標準治療である.診断およびモニタリングにおいて,PML-RARA融合遺伝子のPCR検査が重要である.

分子標的薬の治療効果判定におけるCTC検査の可能性

著者: 林浩志 ,   三輪由加里 ,   近藤侑鈴 ,   川上和之 ,   林和彦

ページ範囲:P.1580 - P.1585

Point

●循環腫瘍細胞(CTC)は血液中を循環している腫瘍細胞であり,がんの転移に寄与していると考えられている.

●末梢血中のCTCは,がんの再発,転移などの予後を予測する因子であり,低侵襲な検査材料として期待されている.

●CTC数の計測だけでなく,CTCの表面マーカーや遺伝子異常を解析することによって,分子標的薬の耐性化など,がんの性質変化のモニタリングが可能である.

がん分子標的治療における遺伝子検査の将来展望

著者: 宮地勇人

ページ範囲:P.1586 - P.1593

Point

●がん診療が次々とパラダイムシフトするなか,分子標的治療と遺伝子検査は個別化医療においてその役割が増大している.

●がん分子標的治療における遺伝子検査は多項目同時解析,さらに次世代シークエンサーなど,ゲノム規模解析による次世代解析システムへと展開している.

●がん分子標的治療が行われている医療機関の検査室には,適正な情報管理や検体管理など遺伝子検査の測定前プロセスにおける大きな役割がある.

●がん分子標的治療は,一般診療に加え,創薬や新規レジメンに基づく臨床試験,適応外使用などの利用拡大において,臨床検査の一定の精度保証のもと適切な実施と利用が必要で,検査室の第三者施設認定など検査の精度保証や標準化の取り組みが進められている.

心臓物語・9

心筋架橋って何?—心筋梗塞

著者: 島田達生

ページ範囲:P.1506 - P.1506

 ヒトは長時間走ることができる.マラソンは42.195kmで,100kmマラソンもある.しかし,動物は長く走れない.なぜか? 心臓の位置(方向)が違うからである.動脈血は心臓の収縮によって全身に運ばれるが,心臓だけが弛緩時に大動脈から冠状動脈に逆行性に流れる.心臓への血液循環は,立っているとき上(心底)から下(心尖)へ重力によって効果的に流れる.しかし,動物は四足であるため前から後ろに非効率的に流れる.したがって,ヒトでは寝ているとき,動物と同じ流れになり,危険が伴うことがある.ヒトの左冠状動脈は,左心室と右心室の境界を下行する前室間枝(前下行枝)と左房室間溝を走る回旋枝に分かれ,いずれも心外膜下を走行している.しかし,齧歯類,イヌ,サルの前下行枝は心筋層内を走っている.

 医学部での人体解剖実習のとき,一部の学生たちは冠状動脈の前室間枝(前下行枝)の異変に気付く.心外膜下を走っていた前下行枝が突然心筋層内に潜って再び心外膜下に出現することに遭遇するのである.まさに心筋が冠状動脈の上に橋を架けているように見える.これが心筋架橋(myocardial bridge:MB)である([1]).心筋架橋の出現頻度を調べた.100検体中,約50%近くにMBがみられ,長さは2〜50mmだった.かなり高い頻度である.

検査レポート作成指南・16

輸血検査編

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.1594 - P.1599

 輸血検査にはABOおよびRhD血液型検査,不規則抗体検査および交差適合試験がある1).日常,輸血検査を実施している臨床検査技師には当たり前の亜型や不規則抗体も,そうではない医師や看護師には理解できないことが多い.また,夜勤やローテーションで時々しか輸血検査に携わらない技師では,亜型や不規則抗体陽性症例への適切な血液製剤の選択ができないことがある.

 そこで,①A,B抗原量が少なくABOオモテ検査が陰性を示す,オモテ・ウラ検査不一致の亜型,②RhD抗原量が少なくweak DやDel,または抗原の一部が欠損しているpartial D症例,③不規則抗体検査が陽性症例,④交差適合試験が陽性で適合血の選択が困難な症例などでは,以下のポイントについて,医師や看護師あるいは輸血検査に不慣れな検査技師にも理解できる十分な説明と,詳細な報告書の作成が必要となる.

検査説明Q&A・23

高HDL-C血症は,どのように考えればよいでしょうか?

著者: 平山安希子 ,   三井田孝

ページ範囲:P.1600 - P.1604

■はじめに

 高比重リポ蛋白(high-density lipoprotein:HDL)は,超遠心法で分離される比重が1.063〜1.250のリポ蛋白である.HDLはリポ蛋白中で比重が最も重く,粒子径が最も小さい.重量の約50%は蛋白質であり,脂質組成や蛋白組成に多様性がある.臨床検査では,HDL分画のコレステロール濃度〔HDLコレステロール(high-density lipoprotein cholesterol:HDL-C)〕をHDLの量として報告している.

元外科医のつぶやき・24

献血者の熱き想い

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1605 - P.1605

 血液センターの主な業務は採血と供給である.私はセンター長として現場を把握するため,しばしば献血ルームや献血バスの検診医を務めている.そして,検診を介しながら,献血者との会話を楽しんでいる.

 休日の午後に,男子高校生が父親と献血バスに現れた.初めて献血する理由を尋ねると,“父が頻繁に献血しているので,以前から興味がありました”と答え,さらに“頼もしいおやじです”と付け加えた.引き続き現れた父親に息子との会話を伝えると,“そうですか.家ではそんな話は聞いたこともありません”とつぶやいた.緊張する息子を気遣いながら,狭いバスのなかでともに献血した.献血を済ませた親子は“またきます”と約束し,連れ立って街頭に消えた.

寄生虫屋が語るよもやま話・12

バケツの中で住血吸虫が泳いでいます!—寄生虫恐怖症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.1606 - P.1607

 虫に関する妄想や異常感覚は精神疾患としばしば関係する.“虫が足もとを這い回る”というのはアルコール中毒に特徴的な愁訴であるが,“自分は寄生虫に感染している”という異常感覚も神経質な人にまれに現れるようである.私は精神科を専門としないが,職業柄,寄生虫に関する異常感覚の訴えの相談窓口となることはある.精神科領域では“寄生虫恐怖症(parasite phobia)”という疾患概念があることも勉強して知った.

 相談は1本の電話で始まる.相談者はこれまでの私の経験では全員中年女性であった.ほぼ全員既婚者である.低く落ち沈んだ声で“寄生虫がいるのですがどうしたらよいでしょうか?”と相談が始まる.“どうしました?”と問うと,“雑巾掛けをしていると,バケツの水に住血吸虫がいて,それが爪の中にビビビと入ってきたんです”と,かなり具体的である.たいがいは寄生虫の種類も特定してくる.私たち寄生虫屋にとっては突拍子もない話であるし,初学者が対応した場合は吹き出しかねないストーリーなのであるが,電話の主は真剣であることはすぐにわかる.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1521 - P.1521

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1529 - P.1529

次号予告

ページ範囲:P.1609 - P.1609

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1610 - P.1610

 毎年,年末になると,その年に流行した言葉の話題になる.今年,流行した言葉を考えてみるとあまりよい言葉は浮かばない.世界同時株安,ゼロ金利,不倫問題など…….楽しい流行で考えると,ポケモンGOやリオオリンピックであろう.ポケモンGOに至っては,筆者も子どもに言われるがままダウンロードした.聞くところによると,このおかげで,“家族の会話が増えた”や,“旅行に出掛けるきっかけができた”など,家族の絆を深めるツールの1つになり,ただのゲームでは済まない状況になっている.リオオリンピックでは,泣き虫愛ちゃんの感動の涙や吉田沙保里の悔し涙など,さまざまな人間模様を垣間見ることができた.スポーツ選手は結果を求められるが,それは臨床検査技師も同じであろう.コスト削減や医療収入のアップなど,目標達成が課せられている.しかし,私はそのプロセスを大事にしたい.仮に達成できなくてもどのような計画で実施したかを評価したい.甘い人間かもしれないが.書き忘れたが,私は,“歩きスマホ”が今年の一番の流行語だろうと予想しているが,いかに.

 本号の第1特集は「認知症待ったなし!」とし,認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えるともいわれている認知症について企画しました.臨床検査技師のかかわりとして,2014年秋に認定認知症領域検査技師制度を開始しました.しかしながら,まだ,全国的に普及していないのが実情です.そこで,本特集では,認知症の基本的な知識から,なじみの薄い神経心理学的検査,治療に至るまで幅広く執筆をお願いしました.今後の臨床検査技師のあり方として,認定認知症領域検査技師制度が広まることを切に願っています.

「臨床検査」 第60巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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