icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査60巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.245 - P.245

 心電図検査は,正しく記録できることは当たり前ですが,担当者がその場で判読し,緊急度の有無を判断することが求められる検査です.心電図異常が発する患者病態のサインを見逃さないために,“心電図波形のどこに注目すべきか”,“どのような病態なのか”などを検査担当者として知っておく必要があります.

 本特集では,病態からのアプローチではなく,波形からのアプローチとしてP波・QRS波・ST-Tと頻脈・徐脈に大きく分けました.基礎的な内容から始めて,その病態についても解説をいただきます.検査技師にとって判読の難しい心電図については,項目ごとに図などを用いて詳細に解説されています.

 担当業務の方はもちろん,他のモダリティーなどの担当業務ではない方にも興味深くご覧いただける内容となっております.みなさんのスキルアップの一助となれば幸いです.

P波異常

著者: 澤野充明 ,   香坂俊

ページ範囲:P.246 - P.251

Point

●正常なP波とは,Ⅰ,Ⅱ誘導で陽性かつ幅120msec未満のなだらかな“ヤマ”である.

●通常は一相性であるが,V1誘導では二相性でも正常である.

●そのV1誘導のP wave terminal forceは左房拡大(LAE)の定量化にしばしば用いられ,脳梗塞などさまざまな心血管リスクとも相関する.

QRS波(群)の異常

著者: 福永俊二 ,   池田隆徳

ページ範囲:P.252 - P.260

Point

●QRS波の評価のポイントは幅と高さである.

●QRS幅は広い(wide)か狭い(narrow)か?

●QRS振幅は高いか低いか?

●QRS波が変化する理論を理解すれば,評価が容易になる.

見逃してはならないST-T変化

著者: 横山直之

ページ範囲:P.262 - P.269

Point

●解剖学的に隣接する2つ以上の誘導で0.1mV以上のST上昇をきたした場合に,ST上昇型心筋梗塞と診断する.

●下壁梗塞ではV3RとV4R誘導を,純後壁梗塞が疑われる場合は背側部誘導(V7-9誘導)を追加記録する.

●たこつぼ型心筋症は,心電図診断だけでは急性心筋梗塞との鑑別は困難である.

●Brugada症候群では,ST上昇の形態の日差・日内変化を認めることがあるため,繰り返し記録し,胸部誘導での高位肋間記録を行う.

頻脈性不整脈

著者: 庭野慎一

ページ範囲:P.270 - P.276

Point

●頻拍は心電図のQRS波形の幅と規則正しさによって鑑別できる.

●発作性上室頻拍(PSVT,QRS幅正常RR間隔整の頻拍)では複数の機序を鑑別する必要がある.

●WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群では,心房細動(Afib)時に心室頻拍のような異常な波形の頻拍を呈する.

●WPW症候群はPSVTのほか,偽性心室頻拍など多彩な頻拍を呈する.

徐脈性不整脈

著者: 杉本健一

ページ範囲:P.278 - P.286

Point

●規則的な徐脈の原因は,洞機能不全症候群(SSS)の洞性徐脈,生理的洞性徐脈,非伝導性心房期外収縮の2段脈,洞房ブロック,房室ブロックの5つのメカニズムだけである.常にこの5つの病態を鑑別しなければならない.

●Wenckebach型房室ブロックとMobitzⅡ型房室ブロックの鑑別は,非伝導性P波の前後のPQ間隔を比較して診断する.

●3度房室ブロックは,RR間隔が一定であることが特徴であり,RR間隔に変動があれば2度房室ブロックの可能性が高い.

●徐脈性不整脈に対するペースメーカ植え込みの適応は,徐脈による症状の有無がポイントになる.

今月の特集2 smartに実践する検体採取

著者: 山内一由

ページ範囲:P.287 - P.287

 少子高齢化が加速度的に進行する状況下で,医療従事者には医療情勢の変化に柔軟に対応しつつ,専門技術と知識の向上に努めていくことが強く求められています.地域医療における医療の総合的確保を目的として臨床検査技師の業務に新たな検体採取が追加されたことは,今後の医療情勢を見据えた機知に富んだ柔軟な対応といえます.また,活躍できるフィールドが広がったことによって,臨床検査技師という職種の存在価値を示す絶好のチャンスを得ることができました.しかしながら,新たな業務がチーム医療の1つとして真に機能し,業務を担う側がその存在価値を真に発揮していくには,専門職の最も基本的な姿勢,すなわち専門技術と知識の向上に努めていく不断の努力がまず大切です.本特集のタイトルにある“smart”が意味するように,洗練された技術で賢く業務を遂行する必要があります.医療従事者の最も重要な責務は“根拠に基づく医療”を提供することであり,それは医療情勢がどんなに変化しても変わることがない,決して変わってはならない普遍的な使命だからです.

臨床検査技師法とその責任範囲,倫理

著者: 下田勝二

ページ範囲:P.288 - P.292

Point

●地域における医療の総合的な確保を推進するために,臨床検査技師に検体採取が認められた.

●医療関連職種の法律には名称独占や業務独占などが規定されており,相互に関連している.

●医療人として倫理を再認識し,チーム医療に取り組むことが肝要である.

検体採取に必要な医学的知識と検査説明力

著者: 北村聖

ページ範囲:P.294 - P.299

Point

●検体検査は検体採取から始まる.

●患者の安全,安心のために検査説明力は最も重要である.

●検査技師の業務拡大はチーム医療に貢献する.

●新しい手技は講習会で確実に学習する.

検体採取と医療安全管理学

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.300 - P.305

Point

●適切な検体採取は臨床検査の第一歩である.

●患者確認は患者取り違え防止の基本である.

●検体採取には,検査内容の説明,接遇・コミュニケーションなどのスキルが必要になる.

●検体を採取する患者の基礎疾患の病態を十分に理解する.

—採取条件が検査結果に及ぼす影響①—糞便検査における検体採取

著者: 松田圭二 ,   岡本耕一 ,   土屋剛史 ,   藤井正一 ,   野澤慶次郎 ,   橋口陽二郎

ページ範囲:P.306 - P.314

Point

●スワブを用いて直接患者から糞便を採取する際は,直腸肛門部の解剖を理解しておく必要がある.

●気を付けるべき点は,直腸穿孔と腟への誤挿入である.臀部をよく開いて肛門を直接観察しながらスワブを挿入することが大切である.

●抗菌薬投与前に検査を行うのが原則である.

●糞便を採取したら,可及的速やかに検査室へ提出する.

—採取条件が検査結果に及ぼす影響②—鼻腔・鼻咽腔拭い液などの採取/採取条件が検査結果に及ぼす影響

著者: 久保木章仁

ページ範囲:P.316 - P.323

Point

●鼻腔解剖は個人差が大きい.無理な検体採取によって思わぬ合併症をもたらすことがある.

●検査実施に迷う場合は,必ず事前に専門医の判断を仰ぐ.

●検体採取の禁忌例を理解しておく.

●検体採取は,適切な時期に適切な部位から正しい手技で採取しないと正確な結果を得られない.

INFORMATION

第22回第1種ME技術実力検定試験および講習会

ページ範囲:P.269 - P.269

検査レポート作成指南・7

消化器エコー検査編

著者: 八鍬恒芳

ページ範囲:P.326 - P.336

 肝,胆,膵,脾の超音波検査,いわゆる消化器領域のエコーは検査目的が多岐にわたる.報告書の作成においては,目的に明確に答えるような所見記載が重要である.また,目的以外に重要な所見がみつかる場合もあるので,依頼医師が目的以外の病態に注目するように,わかりやすく注目度が高い所見記載の工夫も必要である.医師は超音波画像に精通しているとは限らず,画像の見方や場合によっては,シェーマなどを添えて“なぜそのような所見掲載に至ったか”を明確に示す必要がある.この場合,シェーマだけでなく,画像とシェーマをセットで確認してもらい,超音波像への理解を深めてもらう努力も必要である.形式的な表での所見記載は,どんな場合であっても確実に全体を観察している証明として重要であり,これによって冷静なデータの見方が可能となる.すなわち,①目的にフォーカスを絞った明確な所見と,②冷静な全体像把握の所見,この2つの記載を兼ね備えたものがレベルの高い報告書といえる.

 緊急時の対応も重要である.いかに早急なポイントを押さえた所見掲載と正確な所見伝達を行うかが,患者対応としても重要である.

元外科医のつぶやき・15

手術後の経過

著者: 中川国利

ページ範囲:P.337 - P.337

 種々のモニターやドレーンなどを体中に付けられ,小人の国のガリバーの気分で手術翌日を迎えた.疼痛は体動時や咳嗽時のみであり,特に耐え難い痛みではないため,鎮痛剤は使用しなかった.看護師さんから“痛み止めをしますか”としばしば問われたが,“痛いのは生きている証拠ですから”とかわした.外科医時代に,“普段の心掛けがよいと,痛みも小さいですよ”と患者さんを励ましていただけに,私の心掛けがよいのが証明されたと一人ほくそ笑んだ.

 しかしながら,喉の渇きと,留置されたフォーレには違和感を覚えた.午前8時の回診後に酸素カニューレが外され,飲水が許可された.そこで一気にお茶を500mL飲み干し,点滴途中の補液を中止してもらった.10時には看護師さんの監視下に病棟を1周し,以後は自立歩行が許可された.普段は大量に飲水すると頻回に尿意を催すものだが,持続導尿しているためトイレに行くことがなく,楽であった.

寄生虫屋が語るよもやま話・3

“婦唱夫随”もまたよし—肺吸虫症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.338 - P.339

 “戦後強くなったのは女性と靴下”などといわれたものであるが,天照大神をはじめとして,わが国には古来女性が強い文化があったと思う.私の母方の祖母は筑豊の出で,ヤクザにもひるまないところがあったし,ほかにも“日向カボチャ”や“土佐のハチキン”など,強い大和撫子の例を引くのには困らない.

 さて,今回は肺吸虫症の話である.かつて食料事情が悪かった頃,農山村ではモクズガニは貴重な蛋白源であった.サワガニやモクズガニはウエステルマン肺吸虫の中間宿主で,ヒトはえらに寄生するメタセルカリアを経口摂取して感染する.モクズガニは生で食するのには適さず,カニ汁などに調理するが,その際にまな板や包丁がメタセルカリアで汚染され,同じ道具を使う漬物なども汚染されるというのが感染経路であった.胸水貯留,胸痛,鉄錆色の喀痰など,臨床症状としては比較的激しい病気である.

--------------------

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.260 - P.260

「検査と技術」3月号のお知らせ

ページ範囲:P.324 - P.324

書評 医療レジリエンス—医学アカデミアの社会的責任

著者: 黒川清

ページ範囲:P.342 - P.343

医療にかかわる人の考えが変わる貴重な1冊

 本書は,2015年4月に開催された「世界医学サミット京都会合2015」の概要,および,世界のトップリーダーに,会長である福原俊一氏が取材,インタビューした内容,さらに会議のトピックスをまとめた1冊である.しかし,これは単なる「学会の報告書」ではない.背景に流れるのは,福原俊一氏の理念,コア・バリュー,彼の実践から生まれた「思い」,そして日本の医療関係者へ伝えたいメッセージである.

 この10〜20年で,医療を取り巻く世界の状況は激変し,本書では,その背景と課題がはっきりと示され,そこから「激変する世界,変われない日本」の医療の中心的課題が見えてくる.その意味で,本書は広く医療にかかわる人々にとって,簡潔,明快,視野の広がる,考えが変わる(私は,これを期待しているのだが…)貴重な1冊である.福原氏がたどってきたキャリアは,日本の医学界,アカデミアでは「代表的なキャリア」ではなかった.それが彼の視点の根底にあるのではないか.だからこそ多くの人たちに見えないものが,見えているのかもしれない.福原氏が東京大学,京都大学で中心的課題としてかかわってきた,臨床研究を担う人材育成もここにあったのだろう.

書評 —解剖と正常像がわかる!—エコーの撮り方 完全マスター/—疾患と異常像がわかる!—エコーの撮り方 完全マスター

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.344 - P.344

この2冊を熟読して超音波が似合うかっこいい医者になろう

 救急室での診療がかっこいい医者とそうでない医者がいる.その境目は何なのか? 彼らはおしなべてエコーを有効に使っていることに気が付いた.プローブを握る姿がかっこいいのではない.エコーを使いこなし適切に診断する,そのスピード感に痺れるのである.

 スマートフォンの小型化と機能の向上を考えると,聴診器と同じように携帯型エコーを誰もが持ち歩く時代が来るのかもしれない.先進国の中でも日本はCT撮影が多く,癌患者の100人に3人は医療被曝が原因との推計もある(Gonzalez AB, et al. Risk of cancer from diagnostic X-rays : estimates for the UK and 14 other countries. Lancet2004 ; 363 : 345-51).ちなみに他の先進国では100人に1人である.医療被曝を減らすためにも,ベッドサイドで行う安全なエコー検査はもっと普及するべきだろう.

書評 医療政策集中講義—医療を動かす戦略と実践

著者: 高山義浩

ページ範囲:P.345 - P.345

2025年を見据えた先駆的かつ実践的な医療改革のテキスト

 2014年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保法)」が成立し,より効率的で質の高い医療提供体制を目指した地域医療を再構築し,地域包括ケアシステムとの連携を深めるための方針が定められた.

 改革が急がれる背景には,日本が縮減社会に入ってきていることがある.これから毎年,日本から小さな県一個分の人口が消滅していく.その一方で,高齢化率は30%を超えようとしており,団塊の世代が75歳以上となる2025年には,国民の3人に1人が65歳以上,5人に1人が75歳以上となる.疾患を有する高齢者が増加することになり,医療と介護の需要が急速に増大する見通しとなっている.

次号予告

ページ範囲:P.347 - P.347

あとがき

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.348 - P.348

 年度末の3月,会計の締め切り,各種契約の更新,人事異動と,読者の皆さまにおかれましては,年末とはまた異なる忙しさのなかにいらっしゃることと推察しています.と書き始めましたが,実は,このあとがきを書かせていただいているのは,2015年の師走も押し迫った,何かと気忙しい時期なのです.毎朝の散歩で立ち寄る東京赤坂は氷川町の神社に門松が飾られ,残る年内の行事は大みそかの年越しの大祓式と除夜祭を残すのみとなっていて,お正月の伝統行事に向けて,着々と準備が進められています.前述の神社の本殿の入り口に飾られる松飾りですが,よくみられる,竹と松としめ縄で形よく作られたオーソドックスなものではなく,直径が10cm以上,高さ5mはあろうかという,大きな松の枝木なのです.これを左右に1本ずつ,植木屋さんが地面に直接穴を掘って立ち上げ,しめ縄で飾り付けます.何ともシンプルかつダイナミックな門松なのです.

 最近は一般の家で門松を飾ることは少なくなってはきましたが,そもそも門松は,新年の神様である“歳神様”を迎えるための目印(降臨の場所)です.古くから木のこずえに神様が宿るという風に考えられていましたが,神様が宿ると思われてきた常盤木のなかも,松は“祀る”につながる樹木であることや,古来の中国でも生命力,不老長寿,繁栄の象徴とされてきたことなどもあって,わが国でも松をおめでたい樹として,正月の門松に飾る習慣となって根付いていったといわれています.28日までに飾るか,30日がよいとされているので(29日は“二重苦”,31日は“一日飾り”といわれ,縁起が悪いと考えられています),わが家でもそろそろ松飾りの準備をしなければと,少々焦っているところです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?