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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査60巻4号

2016年04月発行

雑誌目次

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.353 - P.353

 血漿蛋白とは,広義には血漿中に存在する全ての蛋白質をいいますが,本特集では,従来からの慣用的な定義である,汎用機で測定できる濃度で存在するものについて,いくつかの視点で解説をいただきました.まず,基礎的なこととして,血漿蛋白がどのように産生され代謝されるか,コンパクトな解説をお読みください.血漿蛋白の血中濃度を評価するうえで大変重要な背景です.測定については,免疫学定量の最近の話題,普及しつつあるキャピラリー電気泳動を取り上げました.疾患マーカーとしては,腎機能評価のシスタチンCと栄養評価のトランスサイレチンを取り上げました.最後は,血漿蛋白が病因物質となる全身性アミロイドーシスのあらましです.血漿蛋白をめぐる臨床検査の知識をupdateいただければ幸いです.

血漿蛋白の代謝のあらまし,特に肝臓における産生調節

著者: 米田孝司

ページ範囲:P.354 - P.360

Point

●アミノ酸および蛋白質の消化・吸収・代謝.

●血漿蛋白の合成機序.

●血漿蛋白の種類と存在様式.

●サイトカインによる誘導と抑制作用.

キャピラリー電気泳動による蛋白分画の実際

著者: 東真理子

ページ範囲:P.362 - P.368

Point

●キャピラリー電気泳動(CE)法ではβ位が二峰性になる.

●CE法では造影剤がピークとして検出されるので,単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)と間違わないように注意が必要である.

●CE法ではイムノタイピングによってM蛋白の鑑別が可能である.

血漿蛋白の定量法とその問題点

著者: 笹川吉清

ページ範囲:P.370 - P.376

Point

●臨床検査に用いられる蛋白定量法について概説する.

●特異抗体を用いることで,特定の蛋白質を選択的に定量することが可能である.

●測定原理,検体に由来する非特異反応が測定値に影響する場合がある.

シスタチンCの最近の話題

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.378 - P.384

Point

●血清シスタチンC(cysC)は,糸球体濾過量(GFR)を評価する臨床的有用性の高い内因性マーカーである.

●cysC,クレアチニン推算式の算術平均はGFRと近似しており正確度が高い.しかし,日常検査では現行はeGFRCrを用いる.

●eGFRcysCは,一般住民,慢性腎臓病(CKD)の末期腎不全移行,心血管障害の発症,生命予後の予測に優れる.

●推算糸球体濾過量(eGFR)の設定を機に登場した新しい病態概念であるShrunken pore症候群に注目したい.

栄養サポートに役立つ血漿蛋白

著者: 大林光念 ,   柳澤由佳子 ,   伊崎彩音 ,   田崎雅義

ページ範囲:P.386 - P.392

Point

●栄養アセスメント蛋白には,血中半減期が比較的長く,静的栄養状態を示すアルブミン(ALB)に加え,動的栄養状態を示すトランスサイレチン(TTR)やトランスフェリン(Tf),レチノール結合蛋白質(RBP)などの短半減期蛋白質(RTP)が用いられている.

●RTPは,いずれも血中で反急性期反応蛋白質として機能し,妊娠や腫瘍の存在,ストレス,肝傷害,炎症や種々の感染症の存在によって血中レベルが著明に低下することから,栄養状態を把握する際にはC反応性蛋白質(CRP)や血清アミロイドA蛋白(SAA),α1-酸性糖蛋白質(α1-AG)などの炎症マーカーを同時に測定する必要がある.

●ステロイド剤や免疫抑制剤で治療中の患者,ウイルス感染症患者,および自己免疫疾患患者の栄養評価にはKumamoto Index,維持透析を受けている末期腎不全患者の栄養評価にはMIS(malnutrition inflammation score)の使用がそれぞれ有効である.

●近年,血漿アミノ酸濃度パターン(アミノグラム)の変化から個人の健康状態・栄養状態を判断し,予防や治療,栄養管理に役立てようとする動きも活発化している.

血漿蛋白沈着病としての全身性アミロイドーシス

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.394 - P.398

Point

●全身性アミロイドーシスとは,血漿蛋白がその量的・質的異常によりアミロイド線維化して全身組織に沈着する病態である.

●量的異常には,モノクローナルに増加した免疫グロブリンL鎖によるAL型,血清アミロイドAによるAA型,β2-ミクログロブリン(β2m)によるAβ2m型がある.

●質的異常には,変異トランスサイレチンによるもの,まれではあるが他の血漿蛋白の遺伝子異常に起因するものがある.

●アミロイドーシスの診断は病理組織学的に行われる.診断困難例については,切片から質量分析によってアミロイド構成蛋白の同定が行われている.

●補助診断として,Bence Jones蛋白(BJP)の検出,血清アミロイドA1の遺伝子解析,トランスサイレチンの変異解析(遺伝子解析だけでなく,質量分析による蛋白解析も)など,前駆物質である血漿蛋白へのアプローチがある.

今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.399 - P.399

 感染症診断のゴールドスタンダードは,感染病巣からの病原微生物の検出ですが,実際の臨床現場では,微生物学的検査以外にもさまざまな指標を使って感染症についての評価が行われています.バイオマーカー(生物学的指標)は“生体内の生物学的変化を定量的に把握するため,生体情報を数値化・定量化した指標”と定義され,臨床的には“正常なプロセスや病的プロセス,あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的に測定・評価される項目”であると位置付けられています.感染症診療においても,感染症の状態や変化,治癒の程度を評価する指標としていくつかのバイオマーカーが用いられています.

 本特集では,最近注目されている項目を中心に,感染症診断に使われるバイオマーカーを取り上げ,その臨床的意義について解説していただきます.微生物由来の成分で厳密にはバイオマーカーとは言えない項目につきましても,臨床上重要な感染症診断の指標ということで一部取り上げておりますので,併せて参照してください.

プロカルシトニン

著者: 佐々木淳一

ページ範囲:P.400 - P.406

Point

●プロカルシトニン(PCT)はC反応性蛋白(CRP)と比較して,感染ストレス後の血中レベル上昇までの反応時間,ピークに達するまでの時間がともに短い.

●敗血症の可能性ありと判断する基準は,PCTの値で0.5ng/mL以上とされている.

●PCT偽陽性の病態として,侵襲の大きな手術,外傷後,熱傷後,熱中症などの細菌感染を伴わない病態が挙げられる.

●PCTは,敗血症の診断マーカーとして測定値の絶対値として捉えるのではなく,その経時的推移を追うことが重要である.

プレセプシン

著者: 遠藤重厚 ,   高橋学 ,   鈴木泰

ページ範囲:P.408 - P.413

Point

●プレセプシン(PSEP)は感染症診断バイオマーカーとして有用である.

●PSEPは敗血症の重症度をよく反映する.

●PSEPは感染を伴わない外傷,熱傷,手術侵襲などでは上昇しない.

炎症増強因子sTREM-1の感染症診断用バイオマーカーとしての有用性と展望

著者: 祖母井庸之 ,   斧康雄

ページ範囲:P.414 - P.420

Point

●TREM-1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属している受容体の1つである.主に食細胞(好中球や単球/マクロファージ,樹状細胞)の膜上に発現し,Toll様受容体(TLR)を介した炎症反応を相乗的に増強している.

●膜貫通型のmTREM-1が切断を受けて生じる可溶型sTREM-1は,細菌や真菌に感染したとき,それが引き金となって血中に遊離してくる.

●近年,感染症の病態把握や予後判定のバイオマーカーとして,さらには感染症治療のターゲットとしての臨床応用も期待されている.

プロアドレノメデュリン(proADM)

著者: 青木信将 ,   菊地利明

ページ範囲:P.422 - P.427

Point

●プロアドレノメデュリン(proADM)は心血管系マーカーであるが,さまざまな特性を有しており,感染症マーカーとしても期待されている.

●感染症診断や原因微生物診断には適さない.

●肺炎などで優れた予後予測能を示す.

好中球CD64

著者: 加藤成隆

ページ範囲:P.428 - P.434

Point

●好中球CD64は血算用検体で測定できるので,簡便に,経時的に測定できる.

●好中球CD64は,C反応性蛋白(CRP)高値・低値となる他の疾患があっても,感染を反映する.

●好中球CD64では病原体の種類は判別できない.

エンドトキシン

著者: 金坂伊須萌 ,   小林寅喆

ページ範囲:P.435 - P.439

Point

●血中にエンドトキシンが存在した場合,敗血症性ショックや多臓器不全などの重篤な症状を引き起こす原因となる.

●エンドトキシン検査の目的を明確にし,それに応じた測定方法を選択する必要がある.

●臨床においては,検査法の意義と特性を理解したうえで感染症診断に用いなければならない.

(1→3)-β-D-グルカン

著者: 吉田耕一郎

ページ範囲:P.440 - P.446

Point

●国内に2種,海外に1種のβ-D-グルカン測定キットがある.

●測定キットはおのおのに基準値が異なり,感度,特異度などの臨床性能にも差がある.

●偽陽性も少なからず認められるので,得られた数値の評価は慎重に行うべきである.

●β-D-グルカン以外の臨床所見も併せて総合的に判断することが重要である.

心臓物語・1【新連載】

心臓はハート形である

著者: 島田達生

ページ範囲:P.352 - P.352

 心臓ってなんだろう? その名前の起源は謎であるが,からだの中心のある臓器であることは間違いない.ローマ帝国時代,ガレノス(ギリシャ,129〜200年)は,人体は3つの極めて重要な臓器をもっており,脳が動物生気を,肝臓が栄養を,そして心臓が生命生気(血液)を全身に送っていると説いた.一方,中国では,心臓は“神”(しん)であると信じられていた.1628年にウイリアム・ハーヴェイ(イギリス)が血液循環説を唱えるまで,心臓は左右の心室からなり,心房は含まれていなかった.レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖図を見ると,確かに動脈系と静脈系が別々に描かれ,心臓は二心室のみである.

 心臓は発生学的に中胚葉性の心筒に由来する.ヒトの原始心臓は受精3週末に形成され,魚類の心臓と同様に一心房一心室である.続いて,心房中隔と心室中隔の形成が始まり,最終的に2心房2心室ができあがる.

INFORMATION

第22回第1種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.420 - P.420

元外科医のつぶやき・16

手術後初めての外来受診

著者: 中川国利

ページ範囲:P.447 - P.447

 腹腔鏡下前立腺切除術後41日目の8月12日,退院後,初めて外来を受診した.当然,病理結果ができていると思っていたが,未報告であった.教授は“早期胃癌と同じように連続切片を作製して詳細に検討するので,病理結果が遅れているのでしょう”と,さも当然のように語った.私が現役外科医時代には病理検査室に頻繁に顔を出し,遅くても10日以内には病理結果を得て,断端陽性の場合には追加切除や癌化学療法などを開始していたものである.

 そもそも私の場合,前立腺生検では病理学的に12検体のうち11検体で癌が検出され,MRI検査では被膜への浸潤を認める高リスク群cT3aであった.したがって,術中所見で取りきれたといっても,病理所見では切除断端陽性の可能性がある.断端陽性の場合は,「前立腺癌診療ガイドライン」では,数少ない推奨グレードBの“期待余命15年以上のpT3N0M0例に対しては,術後アジュバント放射線療法が推奨される”に合致する.また,“リンパ節転移陽性例(特に切除断端陽性例や精囊浸潤陽性例)に対しては,アンドロゲン遮断療法が推奨される”も,推奨グレードBである.したがって,病理結果を一日千秋の思いで待ち焦がれていた.私の心情を察した教授は,“たとえ病理学的に切除断端陽性でも,すぐには術後アジュバント療法は行いません.術後のPSA値の動きで再発を疑う場合に行います”と,焦る様子は全くなかった.さらに,“10月は海外出張もあるので,次回の外来は11月4日にしましょう”と,いたってのんびりした対応である.

検査レポート作成指南・8

平衡機能検査編

著者: 橘内健一

ページ範囲:P.448 - P.456

 平衡機能検査は,重心動揺や電気眼振図(ENG)や前庭誘発筋電位(VEMP)など,検査の種類が多いことが特徴の1つである.本稿では,眼振や異常眼球運動,視刺激装置などによる誘発眼球運動を電気的に記録して眼球運動を評価するENG検査について説明する.

 ENG検査は検査項目の選択・進め方が施設によって異なるが,耳鼻咽喉科麻生病院(以下,当院)では,①注視,②暗所開眼,③閉眼,④視標追跡(ETT),⑤視運動性眼振(OKN),⑥温度刺激(caloric test)を選択して,この順序で検査を進めている.

検査説明Q&A・15

—レセプトではじかれる検査項目の組み合わせや依頼回数を教えてください[3]—病理検査編

著者: 池田聡

ページ範囲:P.457 - P.459

■はじめに

 病理検査において保険検査項目はそれほど多いわけではない.他の検査と比べて,診療報酬点数表の点数計算の解釈に複雑な縛りがないのかもしれない.しかし,1つの検体に対して検査が追加されたり,精密検査に移行したりすることは多く,病理検査の点数解釈については,臨床家よりも医事課や事務方から質問を受けることが多い.

 本稿では,いくつか実際に質問を受けた内容について紹介する.

寄生虫屋が語るよもやま話・4

お隣さん,お裾分けをどうぞ—日本海裂頭条虫症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.460 - P.461

 昔の長屋文化で“煮物を作りすぎちゃったから”と隣近所にお裾分けをして,一方で,その返礼があったことは時代劇でよく見る光景である.貧しいけれどお互いに助け合って幸せに暮らしていたのが古きよきわが国の文化であったが,残念ながら現代ではアパートの隣室で起こった幼児虐待や殺人でさえ気付かないことも珍しくなくなった.“東京砂漠”という歌謡曲の歌詞があったことを思い出す.

 さて,日本海裂頭条虫,すなわちサナダムシが今回の話題である.サナダムシは東京の目黒寄生虫館のエースといってもよく,展示コーナーの前で若いカップルが立ち止まると無言のうちに握り合った互いの手にさらに力が入るのが定番で,愛のキューピッドであるらしい.われわれ同業者にも人気の寄生虫で,西日本の某大学の研究室では全長12mのものが駆虫できたと,ギネス記録にも似た興奮をもって学会報告をしている.サナダムシの語源については,形状が真田(さなだ)ひもに似ているからとよくいわれるが,私の大学のお恩師にいわせると,ひもの編み方で“狭之織(サノハタ)”というのがあって,その形状に似ているから,“本来はサノハタムシである”と講義で聴いたのは40年以上前である.最近物覚えが悪くなったが,若い頃のことは妙に忘れないものである.

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バックナンバー一覧

ページ範囲:P.360 - P.360

「検査と技術」4月号のお知らせ

ページ範囲:P.361 - P.361

次号予告

ページ範囲:P.463 - P.463

あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.464 - P.464

 “雪月花”という言葉があるように,冬には冬のよさがあります.今年は暖冬のまま過ぎるのかと思いきや,小寒を過ぎたあたりから本格的な寒さがやってきました.冬の寒さが厳しければ厳しいほど春を迎える喜びは格別です.春の到来をしっかりイメージできなければ,この時期(1月)に4月号のあとがきを書くのも困難です.寒いのは決して好きではありませんが,メリハリがないのはもっと好きではありません.桜の開花にも影響します.“寒い,寒い”とぼやきながらも,暖冬のまま終わらなくてよかったとしみじみ思います.

 四季に恵まれていることは他国に誇るべき日本の素晴らしさです.日本の文化も日本人の穏やかで実直な気質も風情あふれる日本の四季によってつくりあげられてきたといえます.また,日本の政治や経済も明確な四季の存在を前提にその基盤を形成しているといって過言ではないように思います.スキー場の経営は雪が降らなければ立ち行かなくなりますし,冷夏だとビールの売り上げは低迷します.景気が底冷えすれば政治も不安定になります.日本に限ったことではありません.異常気象は社会情勢だけでなく,本号の特集で取り上げた感染症にも影響し,その様相を変貌させます.近年みられる新興・再興感染症の発生がその最たる例です.感染症は社会情勢を不安定にする大きな要因でもあります.まさに悪循環です.暖かい冬や冷たい夏が常態化すると日本人,はたまた日本は一体どうなってしまうのかと不安にかられてしまいます.新安保法制施行を目前に控え,その不安はよりいっそう強くなります.春は待ち遠しいのに.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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