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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査61巻11号

2017年11月発行

雑誌目次

今月の特集 母子感染の検査診断

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.1351 - P.1351

 周産期の感染症は,感染が母体のみならず,免疫機構が未成熟な胎児や出生後の新生児にも及ぶことから,感染防止対策の面においても,母子関係の形成に及ぼす影響の面においても,極めて重要な意味をもっています.また,検査診断や治療の面においても,常に胎盤を介した母体からの胎児への影響や,授乳を含む密接な母子間の接触の影響を考慮する必要があります.

 本特集では,母子感染とは何か,また,母子感染を考える際に重要となる新生児の免疫機構の特徴についての解説を加えていただいたうえで,実際に母子感染で問題となる感染症を取り上げ,それらの感染症の特徴と,周産期に検査を実施する際の注意点と検査値の評価,検査値に応じた対応法について,実際に感染症診療の現場で活躍されている専門家の先生方にまとめていただきました.

総論

母子感染とは?

著者: 福嶋祥代 ,   森岡一朗

ページ範囲:P.1352 - P.1357

Point

●母体に感染している微生物が妊娠・分娩・授乳を通して胎児・新生児に感染を起こすことを母子感染という.

●母子感染の種類は,古くからTORCH症候群として知られている.

●母子感染の多くは公費助成で妊婦スクリーニング検査が行われている.しかし,妊婦全員に対するトキソプラズマとサイトメガロウイルスのルーチンでのスクリーニング検査は行われていない.

新生児における免疫機構の成り立ち

著者: 谷内江昭宏

ページ範囲:P.1358 - P.1363

Point

●新生児期には免疫の記憶(獲得免疫)は十分に備わっていない.

●新生児期には自然免疫と受動免疫が大きな役割を果たす.

●新生児の免疫能は“可塑性”と“多様性”と表現される.

●生後,環境に応じた獲得免疫のレパートリーが形成される.

各論

—母子感染で問題となるウイルス感染症—風疹

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.1364 - P.1369

Point

●感染症法に基づき,風疹は2008年1月から,先天性風疹症候群(CRS)は1999年4月から,全ての医師に管轄の保健所への届け出が義務付けられている.

●妊娠20週ごろまでの妊婦が風疹ウイルスに感染すると,胎児にも感染して,児がCRSを発症する可能性がある.

●女性は妊娠前に,幼児期を含めて2回のワクチン接種が勧められる.

●早期にCRSの発生をなくし,2020年度までに風疹の排除を達成することが目標であるが,30〜50代に蓄積した男性の感受性者を減らす必要がある.

—母子感染で問題となるウイルス感染症—サイトメガロウイルス感染症

著者: 小形勉 ,   森内浩幸

ページ範囲:P.1370 - P.1374

Point

●先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染は,妊婦の抗CMV抗体保有率の低下に伴い,今後増加することが懸念される.

●症候性先天性CMV感染に対しては,生後30日以内の抗ウイルス療法開始による予後改善効果が示されており,早期診断が大切である.

●先天性CMV感染に対しては,妊娠中の初感染予防が重要であり,抗体陰性者に対する啓発が重要である.

●未熟性の強い児では後天性CMV感染が重症化することがあり,予防・治療ガイドラインの作成が必要である.

—母子感染で問題となるウイルス感染症—単純ヘルペスウイルス感染症・水痘

著者: 要藤裕孝

ページ範囲:P.1375 - P.1379

Point

●単純ヘルペスウイルス(HSV)および水痘ウイルスの母子感染の診断には血清学的検査は適さず,PCR法によるウイルスDNAの検出が最も有用である.

●HSV母子感染による中枢神経型および全身型新生児ヘルペスは死亡率が高く,早急な治療開始が必要である.

●水痘母子感染では,移行抗体の不十分な時期に出生した場合,新生児水痘が重症化することに注意が必要である.

—母子感染で問題となるウイルス感染症—ジカウイルス感染症

著者: 松井佑亮 ,   神谷元

ページ範囲:P.1380 - P.1384

Point

●ジカウイルス感染症の感染経路には,蚊による媒介経路のほか,母子感染(胎内感染),性行為,輸血による感染経路などがある.

●ジカウイルス母体感染の5〜15%で,新生児に何らかの症状が出現すると考えられている.

●先天性ジカウイルス感染症は,小頭症をはじめとする多彩な症状をもたらすことから,先天性ジカ症候群と呼ばれている.

—母子感染で問題となるウイルス感染症—レトロウイルス感染症

著者: 木内英

ページ範囲:P.1385 - P.1392

Point

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV),ヒトT細胞白血病ウイルスtype 1(HTLV-1)はともに母子感染を起こし,母子感染率はHIVが約30%,HTLV-1が約18%と推定されている.母子感染経路のうちHIVは産道感染が比較的多く,HTLV-1はほとんどが母乳感染と考えられている.

●妊婦におけるHIV,HTLV-1の検査は,いずれもスクリーニング検査をまず行い,陽性ならHIVはWB検査とPCR検査両方を,HTLV-1はWB検査を確認検査として行う.

●HIV母子感染予防の中心は妊婦への抗レトロウイルス薬(ARV)の投与である.近年のARTの進歩・普及とともに世界的に母子感染は減少し,予防方法も変化している.

●HTLV-1母子感染予防は完全母乳遮断が唯一の方法であるが,母乳以外の感染経路の可能性や母乳遮断の短所など,今後議論・検討すべき点が残されている.

—母子感染で問題となるウイルス感染症—肝炎ウイルス感染症

著者: 酒井愛子 ,   須磨崎亮

ページ範囲:P.1393 - P.1397

Point

●B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)は血液を介して感染し,母子感染のリスクとなる.

●妊娠初期にHBs抗原とHCV抗体のスクリーニング検査を行って,母子感染のリスクを評価する.

●HBs抗原陽性の妊婦から出生した児には,生後12時間以内に抗HBsヒト免疫グロブリンとB型肝炎ワクチンを使用し,生後1カ月と6カ月にもワクチン接種を行って,母子感染予防を行う.

●HBs抗原陽性またはHCV抗体陽性の母親から出生した児では,母子感染の有無を診断するために,特定の時期に血液検査を行う.

—母子感染で問題となる細菌感染症—B群溶血連鎖球菌感染症

著者: 城裕之

ページ範囲:P.1398 - P.1404

Point

●新生児敗血症・髄膜炎の主要な原因であるB群溶血連鎖球菌(GBS)感染症は,保菌妊婦のスクリーニングと抗菌薬予防投与(IAP)の導入によって,早発型GBS感染症は減少した.

●IAPの導入による母児感染対策だけでは,遅発型感染症の発症率は減少しないことが判明した.

●GBS感染症のさらなる治療成績向上のためには,GBSワクチンの早期導入が望まれる.

—母子感染で問題となる細菌感染症—リステリア菌感染症

著者: 古市宗弘

ページ範囲:P.1405 - P.1410

Point

●Listeria monocytogenesは通性嫌気性の運動性のあるグラム陽性短桿菌で,血液寒天培地で乳白色,円形,半透明のsmooth型の小さなコロニーを形成し,狭いβ溶血を認める.

●カタラーゼ陽性,VP反応陽性であり,CAMP試験ではStaphylococcus aureusと交差する領域で狭域の溶血帯が観察される.

●4℃でも発育可能で,冷蔵保存した食品でも増殖可能であり,感染源になりうる.

●セフェム系抗菌薬に自然耐性で,アンピシリンが第一選択薬となる.

—母子感染で問題となる細菌感染症—梅毒

著者: 山岸由佳 ,   三鴨廣繁

ページ範囲:P.1411 - P.1417

Point

●妊婦が梅毒に感染した場合は,妊娠のどの時期であっても胎児に経胎盤的に感染しうる.

●梅毒への感染が判明した場合には,妊娠週数にかかわらずペニシリン系薬を投与する.

●検査は非特異的トレポネーマ検査(RPR法)と,特異的トレポネーマ検査(TPHA法またはFTA-ABS法)を組み合わせて行う.

●先天梅毒が疑われる,または確定した児,および第Ⅰ,Ⅱ期梅毒症例のケア時は治療後24時間までは接触予防策が推奨される.

—母子感染で問題となる原虫感染症—トキソプラズマ症

著者: 中村(内山)ふくみ

ページ範囲:P.1418 - P.1421

Point

●妊婦のトキソプラズマ原虫初感染,すなわち児の先天性トキソプラズマ症ではなく,妊婦に治療を行うことで,児の発症率を低下させることができる.

●妊娠初期の感染症スクリーニング検査で抗トキソプラズマ抗体陰性であった妊婦に対して,リスク因子を回避するよう指導する.

●リスク因子は,生あるいは加熱調理不十分な肉の摂取,土いじり(ガーデニング,畑仕事),流行地への渡航である.

Salon deやなさん。・6

“希少価値”って何だ

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1350 - P.1350

 1日2本×1カ月.

 何の数かわかりますか? この数,実は四つ葉のクローバー.最近柳田は,なぜか四つ葉のクローバーに遭遇します.ある日ふと,クローバーの群生に目をやると……「アレ?」と,四つ葉のクローバー発見.あまりのうれしさにガッツポーズ! だって,四つ葉のクローバーが見つかる確率は1/10,000〜1/100,000だそうです.つまり0.01〜0.001%.この確率を考えると,発見者は間違いなく「勝ち組」だと思いませんか? うれしさのあまり,職場の同僚や友人たちに画像を送り,幸運のおすそ分けをしました.キメ台詞は「細胞検査士の能力をもってすれば,こんなもんよ♪」です.“正常細胞のなかから異常な形態の細胞を見つける”それが,細胞検査士がもつ能力!! 「意外と能力高いんだなぁ私♪」と喜んでいました.しかし……その日から,クローバーの群生をチラリと見ると,必ず見つかるのです! 四つ葉のクローバー! そして,場所は必ず北海道大学構内.最低でも1日2本は見つかります.

INFORMATION

千里ライフサイエンス国際シンポジウムL6

ページ範囲:P.1369 - P.1369

検査説明Q&A・31

結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別はどのようにしたらよいですか?

著者: 昆亜紀子 ,   上遠野保裕

ページ範囲:P.1422 - P.1425

■鑑別の意義

 結核菌の感染経路は空気感染(飛沫核感染)である.感染が成立する病原体の数は10個以下と感染力がとても強く,その病原性の高さなどから感染症法において二類感染症に分類されている.一方,非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)は病原性が低く,ヒト-ヒト感染はほとんどないとされているものの,近年その罹患率は結核に匹敵するほど増加しており問題となっている.

 以上のことから結核菌とNTMの鑑別は,院内感染対策などの感染制御の観点からみてとても重要であり,使用する抗菌薬が異なるため抗酸菌症の診断・治療をスムーズに行ううえでも必要である.

検査レポート作成指南・22

検体検査編「NSTレポート」

著者: 園田優衣 ,   大林光念

ページ範囲:P.1428 - P.1435

 栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)活動は,さまざまな診療科の医師,歯科医師,薬剤師,看護師,臨床検査技師,診療放射線技師,理学療法士,栄養士,介護福祉士,医療ソーシャルワーカー,そして,各種事務職員などが連携・協力し,一体となって行う院内横断的な医療提供体制の1つである.それぞれの職種がもつ専門的知識や技術を集約し,より効率的な栄養サポート体制を確立することによって,患者の早期退院,早期社会復帰への手助けをする本活動のなかで,臨床検査技師の果たすべき役割は主として以下のようなものである.

(1)栄養障害度の判定に必要な各種臨床検査データの提供.

(2)合併症の有無,重症度を評価するための各種臨床検査データの提供.

(3)治療効果を評価するための各種臨床検査データの提供.

(4)患者およびその家族へ,さらには他職種のNSTメンバーへの臨床検査データに関する適切な説明.

(5)各部門とのコミュニケーションを図り,各職種が臨床検査データに精通するための環境整備,および教育.

 特に,各施設が在院日数の短縮を迫られ,短期型のNSTが重視される昨今の医療事情を考えると,血液生化学的栄養指標のみならず,感染情報や各種生理学的指標をも提供しうる臨床検査室,臨床検査技師が今後NST活動の主体となることは,極めて自然で,かつ必要なことと言える1)

 本稿では,熊本大学医学部附属病院NSTが回診時に用いている実際のレポートを示し,当院の臨床検査技師がいかなる形で上記(1)〜(5)の役割を果たしているか解説していく.

寄生虫屋が語るよもやま話・21

血尿は成人の証—ビルハルツ住血吸虫症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.1436 - P.1437

 私事であるが,幼稚園の入園前に急性糸球体腎炎を患ったことがある.ある日,突然に濃厚な紅茶のような尿が出たので両親に伝えたら,医者であった父親が有無を言わさずに私を自転車の荷台に乗せて,すぐ近くの大学病院に飛び込んだことが記憶にある.数週間の入院期間中に“将来,僕は小児科医になるのだ”と周囲に語っていたようであるが,その誓いをすっかりほごにしてしまった.いわゆる肉眼的血尿を経験した人は日本では少数派であろう.ところが,アフリカでは少々事情が異なるという話である.

 住血吸虫は血管内寄生の吸虫で,熱帯寄生虫のなかでも病害性が大きいことで問題とされてきた.本連載でも何度か取り上げた.ヒトに病気を起こす住血吸虫には主に3種類あることを覚えるように学生には講義している.日本住血吸虫,マンソン住血吸虫,ビルハルツ住血吸虫である.今回の話題はビルハルツ住血吸虫である.ビルハルツ住血吸虫は他の住血吸虫と異なって成虫が骨盤内静脈に寄生し,膀胱壁に虫卵を産みつけて膀胱粘膜の炎症を引き起こす.尿路系住血吸虫症といわれるゆえんである.その結果,血尿がみられるほか,女性では生殖器の炎症にも波及して不妊などの影響も大きいことが最近わかってきた.さらに,慢性期には膀胱癌の発症因子となることも明らかにされており,放置できない問題である.

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「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1347 - P.1347

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1363 - P.1363

書評 乳がん超音波検診—精査の要・不要,コツを伝授します

著者: 白井秀明

ページ範囲:P.1426 - P.1426

日々悩んでいる検診の現場が切望していた本

 近年乳がん検診の必要性はメディアやピンクリボン運動などによって広く示され,その普及が進むにつれ,これまで行われてきたマンモグラフィのみでの検診に限界があることが指摘されており,超音波検査を併用した乳癌検診へ注目が集まっています.そのような中,実に良いタイミングで『乳がん超音波検診—精査の要・不要,コツを伝授します』が医学書院から出版されました.本書は,日々精密検査の可否に悩む検診の現場が切望していた本だといえるでしょう.

 まず乳がん検診によって起こり得る利益と不利益より,超音波検査が果たす役割を示すことから,超音波検査が問題とされている病変の拾い過ぎ,いわゆる過剰診断を減らすことを目的とした内容になっています.特に「Ⅰ.検診についての10の基本」の中で述べられている「検診は癌による死亡を回避する手法であることは確かですが,一方このような過剰診断という不利益もあるということを検診に携わる医療者は真摯に受けとめ,また受診者である一般女性にも知って頂く必要があるでしょう」(p.7)という一文は,今日の併用検診が抱えている問題を鋭くついており,“あれば何でも拾っておけ”“わからないからとりあえず精査にしよう”という気持ちでは検診に臨めないことをよく指摘しているものと思います.

次号予告

ページ範囲:P.1427 - P.1427

書評 がん診療レジデントマニュアル(第7版)

著者: 西田俊朗

ページ範囲:P.1438 - P.1438

良いチーム医療を行うために全医療職に推奨

 私が専門医をめざし臨床で修練をしていた時代,コンパクトにその領域の知識や情報をまとめてくれた本がどれだけ欲しかったことか.今でもそういう要望を持つ研修医やレジデントは多い.これまでその課題解決を目標に多くの本が出版されてきたが,満足するものがほとんどなかったのが現実である.

 『がん診療レジデントマニュアル』の初版は1997年にさかのぼり,以来20年,国立がん研究センターの若手医師・レジデントが,実際に自分たちにとって役に立つ,欲しい・知りたい情報を徹底的に書き込んで作ってきた.幸いこれまで非常に高い評価を得ている.がん診療に関わる情報はこの間,指数関数的に増え,膨大なものとなった.このたび出版された第7版は,そのような状況にありながら,がん診療の基本—インフォームドコンセントや臨床試験,がん薬物療法の考え方から,各がんの診療に必須の医学知識や情報,診断・治療法,薬剤情報を網羅し,しかもコンパクトである.確かにこれほどよくまとまった本はない.

書評 臨床検査技師のための 血算の診かた

著者: 徳竹孝好

ページ範囲:P.1439 - P.1439

初学者からベテラン技師まで血算を読むスキルが上がる一冊

 本書の特徴は,(1)豊富な症例の提示,(2)血算データのわかりやすい解説,(3)異常がみられた場合の検査技師の役割,(4)医師が異常を見逃す可能性があること,(5)医師も検査技師も異常を見逃してしまった場合,など,血算データをどう読むかで患者の診断と治療がいかに正しい方向に進められるかを解説している本である.各症例に医師と検査技師の見逃しやすさについて,それぞれ星マーク3つで示されている点も面白い.

 私が岡田先生に初めてお会いしたのは平成25年の冬である.面識もない私の手紙一つで,長野県技師会の「信州血液検査セミナー」の講師として,湯田中温泉まで駆けつけてくださったことに役員一同感激したことを思い出す.さらに,当時先生が出版された『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』1)の内容の一部を,症例を提示しながら熱心に講演いただいたことが昨日のことのように思い浮かぶ.またクームス試験(抗グロブリン試験)を考案したCoombs先生は「クームズ」と読むことを教えられ参加者は皆驚いた(本書にも「クームズ試験」と記載されている).

あとがき

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1442 - P.1442

 本号が書店に並ぶ頃には秋もかなり深まっていると思われますが,この“あとがき”は夏が終わり,秋に向かおうとする時期に書いています.今年の8月,東京地区は降雨のなかった日がわずか4日しかなかったそうです.今年の夏は,雨の非常に多い,冷夏の年として記憶に残りそうです.雨が多く,冷夏だった年というと,私の記憶のなかでは“梅雨明け宣言”が出なかった年が,強く印象に残っています.十数年前だったように思っていたのですが,調べてみると1993年であり,もう四半世紀近く前のことでした.非常に寒い夏で,国内の米は記録的な不作となり,タイ米などを緊急輸入した年です.この年の梅雨の降雨量は例年に比べて1.5倍ほど(147%)で,過去50年では最も多くなっています.これに匹敵するのは51年前の1966年の145%となっています.

 今年の場合,“梅雨明け宣言”は出ていますし,東京地区も一時的に暑い時期はありましたが,8月の降雨量は1993年にも負けていないように感じられます.東京地区は,8月の平均気温も1993年以来の低さではなかったかと思われますが,関東以外の地域はそうでもなかったようです.また,米の品種改良が進んだこともあり,現時点では,1993年のような米不作のニュースは聞こえてきません.今年の夏は米国や中国でも記録的な豪雨があり,大きな被害が出ました.“異常気象”という言葉は毎年のように使われており,だんだん“異常”が当たり前になってきているように感じられます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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