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雑誌目次

論文

臨床検査61巻2号

2017年02月発行

雑誌目次

今月の特集1 血小板の異常を正しく診断するために

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.109 - P.109

 血小板は止血機構において重要な役割を果たす血液細胞(血球)です.その異常は出血性疾患だけでなく,血栓性疾患の原因にもなります.昔,血球数算定がマニュアル法で行われていた時代には,非常に小さい血球である血小板数の算定は熟練を要する技術でした.それもあって,ラフな検査ではあっても簡単に行える“出血時間”が開発された経緯があります.

 その後の自動血球計数機の進歩もあり,現在では血小板数も迅速,かつ,かなり正確に測れるようになっています.さまざまな血小板機能検査も開発されています.

 しかし,血小板異常症の診断には,いまだに種々の課題が残されています.代表的な血小板異常症である特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が,主として除外診断によって診断されていることが端的な例です.本特集が検査従事者の血小板異常症に関する理解を底上げし,血小板異常症の正しい診断に少しでも貢献できることを願ってやみません.

血小板計測のポイントと血小板異常症の診断ワークフロー

著者: 近藤弘 ,   竹田知広 ,   永井豊 ,   川合陽子

ページ範囲:P.110 - P.115

Point

●血小板減少を認めたときは,検体の凝固・血小板凝集の有無,前回値,分析装置からの各種情報を確認するとともに,塗抹標本を観察することが極めて重要である.

●血小板減少症の診断時には,血小板数・サイズ,血小板以外の血球異常の有無などに留意して疾患を鑑別し,確定診断に必要な追加検査を実施する.

●先天性血小板減少症には多くの疾患が含まれるため,その診断は容易ではないが,血小板サイズとそれらの出現率の解析結果がその診断の一助となる.

血小板機能検査

著者: 金子誠

ページ範囲:P.116 - P.123

Point

●血小板機能検査は,血小板の血栓止血機能のほんの1部を取り出して観察している.このため,血小板機能のどの部分を測定したいのか,どこに異常があるかを推定して,適切な検査を選ばなくては診断できない.

●血小板機能検査法のゴールドスタンダードは,透過光法(LTA)を用いた血小板凝集能検査である.血小板機能低下症をスクリーニングして診断するための臨床検査であり,現状では血栓症診断や抗血小板薬効果判定には推奨されていない.

●今後の血小板機能検査法の課題は,①簡単かつ迅速にできるようになること,②標準化すること,③有用性があり,保険診療で実施可能な臨床検査を増やすこと,などである.

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

著者: 冨山佳昭

ページ範囲:P.124 - P.130

Point

●血小板減少症の病態は大きく,①血小板の産生低下,②血小板破壊亢進,③血小板分布異常,④その他(偽性)に分類される.

●特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,血小板破壊亢進に起因する血小板減少症の代表的な疾患である.

●ITPの診断は除外診断が主体であるが,骨髄検査を行ってもITPと再生不良性貧血(AA)との鑑別が困難な場合がある.

●網状血小板比率(%)と血漿トロンボポエチン濃度測定は,ITPとAAなどの血小板産生低下に起因する血小板減少の鑑別に有用である(保険未収載).

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

著者: 酒井和哉 ,   松本雅則

ページ範囲:P.132 - P.138

Point

●血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,von Willebrand因子(VWF)切断酵素であるvon Willebrand因子分解酵素(ADAMTS13)の活性低下に起因する致死的血栓症である.

●溶血性貧血と血小板減少を認める患者ではTTPを疑うことが重要である.同様の病態を呈する鑑別疾患を除外し,臨床的にTTPを疑えば,速やかに血漿交換を行う.

●TTPの確定診断はADAMTS13の活性10%未満によって行われる.

●後天性TTPでは自己抗体(ADAMTS13インヒビター)によってADAMTS13活性が著減する.新鮮凍結血漿(FFP)を置換液とする血漿交換療法およびステロイド投与が標準治療である.

●臨床の現場ではいまだreal timeでのADAMTS13活性測定ができないため,臨床所見に基づいて治療を開始する.

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の最新の診断・検査

著者: 安本篤史 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.140 - P.145

Point

●ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の最新の診断と検査について概説する.

●HITの病態,抗体検査について正しく理解するために,HIT抗体の免疫学的特性について理解することが重要である.

●HIT抗体の免疫学的測定法の結果だけでは過剰診断をしてしまう可能性がある.

●HIT抗体の機能的測定法が可能な施設は限定されるが,臨床診断と免疫学的測定法から判断して,必要があれば検査を依頼する.

血小板機能異常症

著者: 齊藤洋 ,   大森司

ページ範囲:P.146 - P.150

Point

●スクリーニング検査であるプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),血小板数に異常を認めない出血傾向に遭遇した際は血小板機能異常症を疑う.

●血小板機能異常症の診断には,透過度法を用いた血小板凝集能検査を行う.

●出血時間の測定の適応と,その解釈には注意が必要である.

●先天性血小板機能異常症ではBernard-Soulier症候群と血小板無力症が重要である.

MYH9異常症と,その他の先天性血小板減少症

著者: 國島伸治

ページ範囲:P.152 - P.156

Point

●May-Hegglin異常に代表されるMYH9異常症は,血小板減少症,巨大血小板,白血球封入体を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.検査診断のポイントは特徴的な顆粒球細胞質内封入体であるが,不明瞭であったり,認識困難であったりすることがある.

●灰色血小板症候群は,storage-pool病と呼ばれる先天性血小板顆粒異常症の一病型である.α顆粒欠如によってMay-Grünwald-Giemsa染色などによる血液塗抹標本上で染色性の低下した灰色の大型血小板を呈する.

今月の特集2 微量金属元素と生体機能—メタロミクス研究から臨床検査へ

著者: 山内一由

ページ範囲:P.157 - P.157

 現在,地球上で確認されている元素は,日本で発見された原子番号113番のニホニウム(Nh)をはじめ,最近命名されたばかりの4元素を含めた118種類にのぼります.このうち,35種類を原材料として私たちヒトの体は成り立っています.

 生体内の元素はその存在量によって6種類の多量元素,5種類の少量元素,および24種類の微量元素に大別され,さらに微量元素のうちppbオーダーしか存在しない14種類は超微量元素に分類されます.また,多量元素と少量元素を合わせて常量元素と呼びます.生体の99%以上は常量元素が占めていますが,常量元素だけではヒトは生きてはいけません.総量1%未満ながらも種類は常量元素の倍以上ある微量元素が個々に極めて厳密にコントロールされていなければ,健康を保つことはおろか生命さえも維持されません.微量元素は“生命のスパイス”と呼んでも過言ではないくらい重要な生体成分なのです.

 本特集が,微量元素のもつ多彩かつ巧妙な生体機能について理解を深める機会になれば幸いです.

微量元素(Fe,Zn,Cu,Mn)の体内動態と平衡維持摂取量

著者: 西牟田守

ページ範囲:P.158 - P.163

Point

●鉄(Fe)は尿や汗からはではなく,月経や出血で失われる.

●亜鉛(Zn)は尿や汗から失われ,血清レベルは一定である.

●銅(Cu)は尿や汗から失われず,代謝上,不明な点が多い.

●マンガン(Mn)は大循環へは移行しにくく,血清レベルは低い.

生活習慣病と微量金属元素

著者: 柳澤裕之 ,   榮兼作 ,   木戸尊將 ,   吉岡亘 ,   与五沢真吾 ,   須賀万智

ページ範囲:P.164 - P.167

Point

●微量金属元素は酵素や生理活性物質の活性中心として働く.

●亜鉛欠乏症は知られざる国民病である.

●適正量を逸脱した亜鉛摂取は血圧や腎機能に影響を及ぼす.

●血清亜鉛値は目安値である.

がんと微量金属元素

著者: 伊藤文哉 ,   豊國伸哉

ページ範囲:P.168 - P.173

Point

●微量金属元素のなかでも,鉄は発がんとの関連性が強い.

●がんのなかで,特に悪性中皮腫,慢性ウイルス性肝炎,ヘモクロマトーシスによる肝がん,卵巣がん,骨髄異形成症候群(MDS)が鉄過剰との関わりが強い.

●ヘプシジンと非トランスフェリン結合鉄(NTBI)が検査データとして新規に有用視されている.

神経疾患と微量元素

著者: 田中健一郎 ,   川原正博

ページ範囲:P.174 - P.178

Point

●必須微量金属のホメオスタシス異常(欠乏および過剰)は神経障害を引き起こす.

●Alzheimer病(AD),プリオン病,Lewy小体病,脳血管性認知症(VD)などの神経疾患の発症には微量金属元素が関与している.

●神経疾患関連蛋白質はシナプス部位に局在し,微量金属元素のホメオスタシス維持に働いている.

栄養と微量金属元素

著者: 児玉浩子 ,   稲毛康司 ,   増本幸二

ページ範囲:P.180 - P.187

Point

●必須微量ミネラルの摂取量は微量であるが,摂取不足で欠乏症を,摂取過剰で過剰症を発症する.

●鉄,亜鉛,セレン,ヨウ素の欠乏症は,しばしばみられる.

●欠乏症の主な症状は,鉄欠乏は貧血,亜鉛欠乏は皮膚炎・味覚異常,セレン欠乏は心筋症・筋肉痛・爪白色化,ヨウ素欠乏は甲状腺腫・甲状腺機能低下症である.

金属トランスポーター研究の最前線

著者: 福中彩子 ,   藤谷与士夫

ページ範囲:P.188 - P.192

Point

●金属トランスポーターの破綻はさまざまな疾患につながる.

●金属補充やキレート剤の投与は金属トランスポーター破綻に対する治療の1つとして有効である.

心臓物語・11

神経原説と筋原説

著者: 島田達生

ページ範囲:P.108 - P.108

 1628年にウイリアム・ハーヴェイ(イギリス)が唱えた血液循環説は,ヒトを含む種々の動物実験で実証された.その結果,全身の血液を迎える心房の存在が明らかになり,哺乳動物の心臓は二心房二心室からなることが判明した.心房と心室にはそれぞれ収縮・弛緩機能をもつ心房筋と心室筋がある.両者を結ぶ筋束はなく,切り離すことができる.心房筋と心室筋は組織学的に骨格筋と類似する筋原線維を有する横紋筋に属し,不随意筋である.

 静脈洞,心房,心室が順序よく,かつ規則正しく拍動するのは,心臓内の神経細胞が原動力となるのだと考え,神経原説が生まれた.1893年にヒスはカエルの心臓において,心房と心室を連結する筋束を見いだした([1]).筆者もこの事実を確かめた.カエルの心臓は二心房一心室で,心房と心室の境界に輪状筋があり,どこを切断しても房室連結筋束が存在した.また,1900年前後,一部の生理学者は心臓内の神経細胞や神経線維を取り除いても心臓は拍動を続けていたことから,拍動は心臓内の筋自身によるという“筋原説”を考えた.しかし,実験動物が両生類であったことと,哺乳動物の心臓では房室連結筋束は存在しなかったことから筋原説は消え,1906年まで神経原説が定説として約280年間続いた.

元外科医のつぶやき・26

血液センター職員のつぶやき

著者: 中川国利

ページ範囲:P.193 - P.193

 この欄は「元外科医のつぶやき」であるが,血液事業に携わる職員としてもつぶやきたいことが多々ある.

 少子高齢社会の進展に伴い,全国の献血者は30年前の年間870万人から488万人まで減少した.特に若年献血者の減少が著明で,今や献血者の半数以上が40歳以上である.また,血液事業は血液販売による収益によって成り立っているが,過去10年間にわたって販売価格の見直しは行われていない.一方で,安全な血液の安定供給のために職員の増員や検査精度の向上などに努めており,近年,血液事業は著明な赤字経営である.企業努力だけでは限界があり,現在の献血制度を堅持するための方策を個人的に妄想した.

検査レポート作成指南・18

遺伝子・染色体検査編

著者: 松田和之

ページ範囲:P.194 - P.205

 遺伝子・染色体検査は,疾患の診断,予後予測,治療効果の判断,再発評価など,あらゆる面で臨床に重要な情報を提供する検査である.遺伝子検査・染色体検査はどちらもお互いに補完しながら行うべきであり,適切な時期に適切な検査を実施することが必要である.一方,遺伝子・染色体検査は,実は,PCR法を基本とする遺伝子検査と細胞培養を基本とする染色体検査という,お互いに検査・報告までの時間軸が全く異なる検査である.迅速・高感度な検査とは遺伝子検査であるが,臨床医は全ての検査が迅速に返されるものと勘違いすることもある.また,依頼内容が遺伝子レベルでの検査なのか,染色体レベルでの検査なのか理解していないこともある.

 つまり,遺伝子・染色体検査については,単に“検査結果”欄に陽性・陰性を記載するものではなく,用いている検査法の特徴や限界を踏まえて,検査結果のほかに付加的説明・情報を“測定者コメント”として記載することが大切である.臨床医へのきめ細かい報告書の作成こそが検査報告書を通した臨床医とのコミュニケーションになる.それが,検査結果のよりよい理解,そして適切な診断,治療につながると考えられる.

 本稿では,自施設での実施項目をもとにして,検査レポートの作成において注意している点や必要と考える点について解説する.

検査説明Q&A・25

M蛋白血症の患者で,M蛋白以外の軽鎖(L鎖)の沈降線に歪みが認められました.どのようなことが考えられますか?

著者: 藤田清貴

ページ範囲:P.206 - P.210

■M蛋白

 免疫グロブリンは,生体内における体液性免疫機構を担当する蛋白でIgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5つのクラスが知られている.それぞれのH鎖をγ,α,μ,δ,εと称し,軽鎖(light chain:L鎖)はκ鎖,λ鎖の2つのタイプに分類されている.M蛋白とは単クローン性(monoclonal)に増殖した免疫グロブリンのことをいう.多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,H鎖病,単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)などにみられ,その検出は診断的価値が高い1)

寄生虫屋が語るよもやま話・14

発酵はおいしい!—タイ肝吸虫症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.212 - P.213

 日本を含む東アジアは高温多湿なため,いわゆる発酵文化圏といわれる.日々,さまざまな発酵食品を堪能できることは個人的には大きな喜びである.読者諸姉兄にとってしょうゆ,漬物,みそなどは日々の食卓に欠かせないであろう.ショッツルなどの魚醬は少しハードルが高くなるが,秋田の郷土料理として地域を越えて一般に浸透している.クサヤのレベルになると拒否する方も多くなるかもしれない.しかし,そこに漂う排泄物臭とそれを超越する“うま味”こそが発酵食品の醍醐味ともいうべきものであり,奇妙な陶酔感を味わうことができる.バンコクを訪問した折には,名前は失念したが,クサヤを凌ぐ大物の干物が現地にあり,クサヤを懐かしむ在留邦人に人気が高いと聞いた.有名なドリアンの比ではなかった.そんなタイで,一部地域で人口に膾炙する某発酵食品が寄生虫症の流行と深く関係しているというのが今回の話題である.

 タイの東北地方は“イサーン”と呼ばれる.タイ国内では開発がやや遅れた地区で,文化的にも首都・バンコクと異なり,タイの人にとって貧しい地方という印象があると聞く.食文化も異なり,むしろメコン川を挟んだ対岸のラオスと似ている.イサーンはタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)感染症の大流行地であり,村を調査すると住民の70%以上が感染者という地区も決して珍しくない.

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「検査と技術」2月号のお知らせ

ページ範囲:P.131 - P.131

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.187 - P.187

次号予告

ページ範囲:P.215 - P.215

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.216 - P.216

 昨年,スウェーデンで会があり,首都ストックホルムに立ち寄りました.“下見に行ったの?”と秀逸なジョークをいただきましたが,いうまでもなくこの街はノーベル賞のセレモニーで有名な所です.私も観光客として,ゆかりの建物や記念館などを訪れ,雰囲気を味わってきました.若い頃,実験ざんまいの生活をしていた時期があり,ある先輩に“どんな分野であっても研究するからにはノーベル賞を目指せ”と熱く語られたものでした.もちろん,そこまでは夢見ませんでしたが,研究に熱中した思い出は確かにあります.常に思うのです,例えば検査試薬の条件検討でも,それが検査の改良につながり,医療に寄与するのであれば意義あることであると.世の中のために役立つことをしたいと志し,その結果が大きな賞であるとすれば,ノーベル賞は全ての研究の延長にあり,だからこそ,いつの時代も普遍的なステータスなのだと思います.

 ノーベル賞といえば,2016年の文学賞は話題になりました.私は,ビートルズにせよ,ボブ・ディランにせよ,全盛期にリアルタイムで楽しんだ世代ではなく,後になってから名声を聞きつけファンになったクチです.ボブ・ディランの歌の歌詞は当初はよくわからなかったのですが,そのメロディーや字余りでぶっきらぼうな歌唱スタイルが,人気フォーク歌手Yによく似ていて逆向きに好きになったのかもしれません.評論家のような物言いで恐縮ですが,わが国のポップスはビートルズとディランを下敷きにしているようなものが多く,彼らは時代を超えたステータスなのでしょう.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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