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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査61巻5号

2017年05月発行

雑誌目次

今月の特集 ISO 15189取得簡易マニュアル

著者: 山内一由

ページ範囲:P.579 - P.579

 臨床検査室の使命は診療に役立つデータを迅速に提供することにあります.臨床検査に携わる者であれば誰もが心得ている基本中の基本ですが,この使命を全うしていくのはたやすいことではありません.決して華やかとはいえない努力の積み重ねと,それを促す十分かつ具体的な動機付けが必要です.加えて,某自治体の長であった人が連呼していた“第三者の厳しい目”も欠かせません.

 そう考えると,ISO 15189の意義は極めて明確です.にもかかわらず,これまで取得施設数が思った以上に増えなかったのは,地道な努力に対するインセンティブが与えられてこなかったからです.使命感と緊張感だけでは努力の継続は困難ですし,ましてや発展につなげることなどはとても期待できません.

 2016年度の診療報酬改定における“国際標準検査管理加算”の新設は画期的であったといえます.それは,取得施設のモチベーション維持と経営的メリットという単純な理由だけではありません.わが国における臨床検査の全体的な底上げを通じて国際的にも十分に通用する臨床検査室を構築しようという,ISO 15189本来の目的を達成しうる環境がようやく整ったからです.

ISO 15189取得の意義

著者: 小野佳一 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.580 - P.585

Point

●ISO 15189を導入することによって業務が標準化される.また,検査結果の信頼性の向上やリスクの最小化,コスト削減などの効果がある.

●病院内の存在意義を高めるとともに,検査室の体質改善や技師の能力向上,意識改革にもつながる.

●ISO 15189のPDCAサイクルを用いることによって,検査室をよりよくするための継続的改善活動を行うことができる.

ISO 15189の目的と規格の要求

著者: 柴田綾子

ページ範囲:P.586 - P.591

Point

●ISO 15189は臨床検査室が“精確な結果”を提供する能力があることを認定する国際規格である.

●“品質マネジメントシステムの要求事項”と“臨床検査室が請け負う臨床検査の種類に応じた技術能力に関する要求事項”の2つの要求事項で構成されている.

●2つの要求事項を維持・管理することで,利用者に質の高い,かつ,信頼できる検査結果を提供する.

●責任と権限の明確化,力量の維持,手順書の順守,継続的改善を行うことで品質マネジメントシステムを構築する.

ISO 15189取得に必要な手続き

著者: 糸賀栄 ,   澤部祐司

ページ範囲:P.592 - P.596

Point

●認定取得に向けた準備開始から認定申請可能となるまでの期間は一般的に1年〜1年半である.申請から認定取得までの標準的な期間は6カ月である.

●現在,認定の対象となる検査は保険収載項目であり,基幹項目,非基幹項目,特定プログラムⅠ,病理学的検査,生理学的検査に分類されている.

●認定取得にあたっては,日本適合性認定協会(JAB)事務局や審査チーム(チームリーダー)との電子メールでの密なやり取りが重要となる.

品質マネジメントシステムの構築

著者: 岡田健

ページ範囲:P.598 - P.603

Point

●品質マネジメントシステム(QMS)を確立し,文書化し,実行し,維持する.

●品質マニュアルは検査室の最高位の文書である.

●検査室管理主体のリーダーシップおよび検査室の要員の全員参加が重要である.

●業務改善を意識した定期的な内部監査を実行する.

●PDCAサイクルを回し,継続的な改善を図る.

ISO 15189取得のための品質文書・記録の完備

著者: 萩原三千男

ページ範囲:P.604 - P.608

Point

●文書とは,“検査室が,どのような事項をいかにして実施するかを記述し管理対象とするもの”あるいは“行動を規定する情報”,“繰り返し使用する,または長期的視点で必要な情報”です.

●記録は“達成された結果を明示する,または実施された活動の証拠を提供する文書”であり,エビデンスやログとも称されることがあります.記録は,検査の品質に影響する各活動の遂行と同時に作成される必要があります.

●文書管理支援ツールは,多大な時間と労力を要する文書管理を,効率的かつ確実に遂行するためには有用なシステムと考えられます.

内部監査とマネジメントレビュー

著者: 中村清忠

ページ範囲:P.610 - P.615

Point

●ISO 15189の要求事項では,品質マネジメントシステム(QMS)の見直しの機会として,内部監査とマネジメントレビューの2通りを要求している.

●内部監査とは,ISO 15189への適合性と検査室が定めた要求事項の順守状況を自施設で確認し,改善を提案する機会である.

●マネジメントレビューは,検査室管理主体自身でQMSが確実に展開され実現されたかを検証し,必要な措置を決定する機会である.

技術的要求事項と検査室の整備:検体検査部門—当院におけるISO 15189取得への取り組み

著者: 大西重樹 ,   西村藍

ページ範囲:P.616 - P.622

Point

●要求事項の実践方法はそれぞれの施設で異なるが,要求されている意図は正確に反映されなければならない.

●手順書(実施ルール)の策定と,それに伴う記録の管理が極めて重要である.策定した以上は,それに準拠して実践されなければならない.

●取得に向けて,多くの職員がそれぞれのテーマについてかかわるので,職員間のコミュニケーションが極めて重要である.

技術的要求事項と検査室の整備:微生物検査部門—微生物検査部門が準備すべきこと

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.623 - P.633

Point

●微生物検査部門がISO 15189の技術的要求事項を満たすには,要員の教育・管理,および検査手順の文書化が最も重要である.

●要員の教育には,トレーニング内容と到達度を示すカリキュラムと,トレーニングスケジュールからなるプログラムを提供し,トレーニング後に習熟度を評価する.

●検査手順の文書化は検査内容の統一化につながり,技師間で差のない一定水準の検査結果を提供することができる.

技術的要求事項と検査室の整備:生理機能検査部門—技術的要求事項と生理機能検査室の整備

著者: 中山祐子

ページ範囲:P.634 - P.640

Point

●国際的な臨床試験が増加しており,心電図,超音波,呼吸機能,神経生理などの項目が含まれる内容も多数みられるようになった.そのため,生理学的検査においても国際的標準化とデータの信頼性を保証されることが重要となっている.

●臨床検査室の認定であるISO 15189の規格内容は検体検査が中心である.ISOの要求事項と,直接,患者にかかわる生理学的検査との整合性を確認していくことが必要である.

●生理学的検査において,正しい検査結果を臨床側に報告するためには患者の協力が不可欠である.安全で質の高い医療を支えるための一連のプロセスには患者との信頼関係を築くことと,診療科および他職種との連携が大切である.

技術的要求事項と検査室の整備:輸血部門—安全な輸血療法を行うための外部評価

著者: 道野淳子

ページ範囲:P.642 - P.647

Point

●輸血部門における外部評価は,安全な輸血療法を行うことを目的とする.

●輸血部門の業務は,「輸血療法の実施に関する指針」および「血液製剤の使用指針」に準じて行われている.

●輸血療法に関連した外部評価として,日本輸血・細胞治療学会が認定する輸血機能評価認定制度(I&A制度)が知られている.

●輸血部門におけるISO 15189は,検査の標準化を行うことで,安全な輸血療法につながる検査の効率化を目的とする.

技術的要求事項と検査室の整備:病理検査部門—病理部門におけるISO 15189要求事項への対策

著者: 小松京子

ページ範囲:P.648 - P.653

Point

●ISO 15189の要求事項は企画書で明確にされているが,具体的な運用は施設の状況に応じて考える必要がある.

●検体受付から結果報告,報告書管理に至るまで,医療安全への配慮と品質保証が要求される.

●環境と文書を整備しても,スタッフ全員が意義を理解していなければ有用とならない.

●法令の順守がISO 15189の要求事項とともに必須である.

技術的要求事項と検査室の整備:採液部門—検体採取に関するISO 15189の要求事項を満たすために

著者: 嶋崎明美

ページ範囲:P.654 - P.663

Point

●最新の参考資料を確認して一次サンプル採取マニュアルを作成し,診療側に内容を周知することが必要である.

●実際の業務手順を反映した外来採血室マニュアル(標準作業手順書)を作成して,教育にも活用する.

●力量評価に用いるスキルマップは,業務内容の理解や目標の明確化にも役立つ.

●自施設に合った,現実的で実行可能なシステム作りが何よりも重要である.

サーベイヤーの目

著者: 奥田勲

ページ範囲:P.664 - P.669

Point

●ISO 15189の予備訪問の見直し(実質審査化)によって,受審側に求められる事前準備などが大幅に変更となった.

●規格の2012年度版移行後の要求事項を十分に理解したうえで準備を進め,受審することが大切である.

●認定取得をゴールに定めるのではなく,認定は,たゆまない顧客満足度向上のための重要なツールと認識すべきである.

Salon deやなさん。・1【新連載】

はじめまして!

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.578 - P.578

 はじめまして.北海道大学病院がん遺伝子診断部の臨床検査技師,柳田絵美衣と申します.昨年まで神戸大学病院病理部におりましたが,縁あって今春,北の大地へ参りました.本誌の姉妹誌である「検査と技術」で2年間,エッセイ「やなさん。」の連載をさせていただいておりました.神戸から北海道への引っ越しと,エッセイ連載の引っ越しが偶然にも重なり,私の新天地での新たなスタートとともに,「Salon de やなさん。」の幕開けとなりました! 神戸→北海道の環境変化に,驚きの連続です…….

 きっと神戸ではもう桜が咲いている頃.北の春は……のんびり訪れるのですね.私は数ある花のなかで,最も桜を好みます.あんなに人の心を動かす花は,桜だけではないでしょうか.冬の寒さの合間に,おだやかな風が吹き込む頃に“いつ咲くのだろう”と,芽吹く前から待ち焦がれ,咲けば皆が“咲いた”と祝いの宴会.散り始めると“美しい”と見とれ,散ってしまうと“また来年”と,来年の約束を交わす.桜のように,人の心を動かす人間になりたいと,憧れさえ抱きます.

INFORMATION

第23回第1種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.596 - P.596

心臓物語・13

心臓内送電—房室連結筋束

著者: 島田達生

ページ範囲:P.670 - P.670

 心臓がポンプとして働くためには,心筋に多くの酸素と栄養が必要である.よって,心臓は密な血管系で張り巡らされている.心拍動の担い手である心筋線維は骨格筋線維と同様に神経によって支配されているのであろうか? 否である.左右心室の心筋線維は神経ではなく,電気信号で動きが開始する.洞房結節で発生した電気信号は,房室結節→房室束を経て,どのような経路を伝わって,右心室と左心室の心筋線維に送られるのか?

 1845年にチェコのプルキンエ(J. E. Purkinje)はヒツジ心臓の心室心内膜下に灰色で網状の構造物を見いだし([1]),顕微鏡観察で筋線維であるとした.その後の形態研究は,このPurkinje線維が心室筋線維よりも大型で,筋原線維が少なく,グリコーゲンが豊富であることを示した.このような様相から,Purkinje線維は心室筋線維の幼弱型,変性型あるいは心内膜の動きに関与していると推察した.さらに,1893年にHisが心室中隔の直上の膜性中隔に筋束(His束)を見いだした.しかし,その機能について言及していない.Purkinje線維とHis束の機能は長年全く謎であった.

検査説明Q&A・27

健康診断でリウマトイド因子が陽性となりましたが,症状はないということです.どのように考え,どんなことに注意すればよいですか?

著者: 小柴賢洋

ページ範囲:P.672 - P.675

■リウマトイド因子(RF)とは

 リウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)は,変性した自己免疫グロブリンG(immunoglobulin G:IgG)のFc部分を抗原とする自己抗体である.関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者から発見されたため“リウマトイド因子”と名付けられ,この名称が広く使われている.抗自己IgG抗体としては全ての免疫グロブリンのクラスが存在するが,RF定量では凝集力の強い免疫グロブリンM(immunoglobulin M:IgM)クラスの抗体を主に検出する.そのため,IgM-RFと記載される場合もある.

寄生虫屋が語るよもやま話・16

亭主元気で留守がいい—マンソン住血吸虫

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.676 - P.677

 テレビコマーシャル(CM)は世相を反映する鏡として,私は個人的には大変興味をもっている.世論の批判にさらされるものもあれば,ウイットに富んだものとして人々の心を和ませるものもある.某通信会社のCMでは犬を一家のお父さんに仕立てて哀れと笑いを誘う受け狙いであったのだろうが,私は1人のお父さんとして,個人的には不快である.一方で,某通販会社のライオンのかぶり物をした犬が出てくるCMはわが家の死んだ犬の面影がよぎって,みるたびに心が揺さぶられた.受け取り方はまさに人それぞれなのである.

 そんな話題性に富んだCMのひとつに殺虫剤のメーカーによる“亭主元気で留守がいい”というものがあった.当時の生活スタイルはモーレツ会社員と専業主婦の構図で,女房連にとって亭主は働いて給料を稼ぐ一方で,家にいられるとうっとうしい.だからなるべく外にいてくれると気楽だという意図である.“留守がいい”というのは彼女たちの本音であるかもしれないが,亭主は元気でなくては困るというのも切実な本音であろう.専業主婦にとって亭主は金づるであるし,女性の自立がそれほど簡単ではなかった時代である.まあ,“風呂,めし,寝る”のワンフレーズ亭主が家庭でクダをまいていると邪魔だろうということは自分を振り返って想像に難くないので反省する気持ちがないわけではない.

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「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.597 - P.597

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.603 - P.603

次号予告

ページ範囲:P.641 - P.641

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.680 - P.680

 私は今,とある学会に向かうため新幹線に乗っています.遠方への移動は飛行機よりも新幹線を利用することが多いのですが,快適で過ごしやすい車内は読書やたまった仕事を片付けるにはもってこいです.高速鉄道として,世界に先駆けて50年以上前の1964年に開業した新幹線は,その技術力もさることながら,定刻運行や安全管理といった面でも高く評価されています.また,乗車前にいつも感じることですが,非常に礼儀正しい清掃員の方々によって,短時間で流れるように行われる車内清掃には感嘆するばかりです.

 1年半から2年ほど前でしょうか,この驚異的な車内清掃が“7分間の奇跡”として国内外のメディアで紹介されたことがありました.従業員の定着率が低く,事故やクレームも多かった新幹線の清掃会社立て直しを任された矢部輝夫氏は,就任直後から徹底的に現場を見て回り,従業員の働き方や抱えている問題を確認したそうです.“自ら現場に溶け込む”ことで得られた問題点は,現場で働く従業員とともに解決策を考え,オペレーションの改善につながっていきました.また,現場から提案された解決策が採用されることで,従業員の仕事に対するやりがいや主体性が生まれ,職場環境は大きく変わっていったようです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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