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雑誌目次

論文

臨床検査61巻8号

2017年08月発行

雑誌目次

今月の特集1 病態から学ぶ生化学

著者: 山内一由

ページ範囲:P.893 - P.893

 検査結果の解釈を深めることは,検査結果を臨床の場で有効活用していくうえで重要です.さらに検査結果を提供する側にとっては,自らが出した結果について,説明責任を果たすという意味においても欠かせません.まずは検査技術的な観点から,そして病態検査学的な観点から,周到に行わなければなりません.

 言うまでもなく臨床医学は基礎医学に立脚しています.病態検査学的な眼力を涵養するには,その基盤となる知識の習得が不可欠です.臨床化学検査なら生化学です.基礎医学に精通すれば,検査値の変動が示唆する病態とそのメカニズムがより鮮明にみえてくるようになるはずです.加えて,検査技術的な洞察力を高めるうえでも役立ちます.検査法の原理には私たちのからだの中で起きている生命現象を応用したものも少なくないからです.普段さまざまな患者のデータを目の当たりにしている私たちにとっては,目前にある患者の病態は基礎医学のよい教科書でもあるのです.

 本特集をきっかけに生命現象を再学習し,検査後過程の肝ともいえる検査結果の解釈をよりいっそう深めていただければと思います.

病態から学ぶ蛋白代謝・動態

著者: 井谷功典 ,   東口髙志 ,   二村昭彦 ,   伊藤彰博

ページ範囲:P.894 - P.901

Point

●非必須アミノ酸とは,体内で合成可能なアミノ酸を指し,解糖系,TCA回路の中間代謝産物から合成される.また,糖源性アミノ酸は糖新生によってグルコースとなる.糖代謝とアミノ酸代謝は,密接な関係があることを理解する必要がある.

●上腕測定は体組成分析の間接的評価法である.上腕筋面積(AMA)が筋肉量,上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)が体脂肪の指標として医療現場で利用されている.栄養療法時には蛋白代謝動態を把握する一助となる.

病態から学ぶ水・電解質代謝・動態

著者: 森建文

ページ範囲:P.902 - P.909

Point

●心不全ではしばしば腎うっ血を呈し,ナトリウム(Na)利尿障害によって体液貯留を呈するとともに,腎機能障害が進行する.

●また,腎不全では,体液貯留があるにもかかわらず,バソプレシンの分泌により集合管にあるV2受容体を刺激し,水の再吸収が亢進する結果,時に低Na血症がみられる.

●バソプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタンが使用されるようになり,今までと異なる体液調節が可能となった.自由水を排泄することから,低Na血症が是正されるとともに,腎機能を保持しながら体液調節が可能になった.

病態から学ぶ糖代謝・動態

著者: 五十嵐雅彦

ページ範囲:P.910 - P.918

Point

●血糖は,健常人では食前と食後を含めほぼ70〜160mg/dLという狭い範囲で維持されており,この調節が破綻した場合には高血糖や低血糖などの病態をきたす.

●血糖コントールの指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)とグリコアルブミン(GA)に関して,病態によって正しく評価できない場合がある.

●高齢者の低血糖では,脳卒中様の症状を呈する場合がある.

脂質代謝・動態から考える脂質異常症の病態と治療

著者: 平石千佳 ,   吉田博

ページ範囲:P.920 - P.927

Point

●脂質異常症の診断は,一般的に空腹時採血のサンプルを用いた高比重コレステロール(HDL-C),低比重コレステロール(LDL-C),トリグリセライド(TG)の値の測定によって診断されるが,より詳細な病型を診断するためにはリポ蛋白分画の評価やアポ蛋白の測定が必要である.

●原発性高脂血症のうち,家族性高コレステロール血症(FH)は高頻度で若年性冠動脈疾患が発症する重要な病型であり,脂質異常症を診断した場合,FHを鑑別することが重要である.

●それぞれの病型に適した治療を行うために,脂質異常症の病態を理解し,治療のターゲットとなる因子を知ることが重要である.

病態から学ぶ核酸代謝・動態

著者: 寺井千尋

ページ範囲:P.928 - P.936

Point

●核酸代謝はプリン代謝とピリミジン代謝経路からなり,プリン代謝の最終代謝産物が尿酸である.

●プリン代謝経路には先天性代謝異常症があり,さまざまな症状を呈する.

●尿酸は肝臓でキサンチンオキシダーゼ(XO)によって産生され,腎臓と腸管からの排泄にはトランスポーターが関与する.

●高尿酸血症・痛風は頻度の高い一般的な病態であり,その成因には食事・肥満などの環境要因とトランスポーター遺伝子の異常からなる遺伝的要因が関与する.

病態から学ぶポルフィリン・ビリルビン代謝とその動態

著者: 上硲俊法

ページ範囲:P.937 - P.944

Point

●ポルフィリンはヘムの生合成過程の中間代謝産物である.ポルフィリン代謝によって合成されたヘムはヘモグロビンなどのヘム蛋白に利用される.

●ポルフィリン代謝異常には先天異常(ポルフィリン症)と後天的障害(鉛中毒など)がある.これらの疾患ではポルフィリン代謝の中間代謝産物であるδアミノレブリン酸(δALA),ポルホビリノーゲン(PBG),各種ポルフィリン体が尿,血液,胆汁,糞便で増加する.

●ヘムを原材料として産生されたビリルビンの多くは,血中アルブミンなどに結合して存在し,類洞側肝細胞膜の輸送蛋白(OATP1B1/OATP1B3)によって取り込まれる.肝細胞でUGT1A1によって抱合反応を受ける.抱合ビリルビンは毛細胆管側肝細胞膜のトランスポーターであるMRP2によって胆管内腔へ排泄される.

●体質性黄疸には,高非抱合ビリルビン血症を起こすCrigler-Najjar症候群Ⅰ型・Ⅱ型,Gilbert症候群(これらはUGT1A1の異常が原因),抱合ビリルビンが増加するDubin-Johnson症候群(MRP2欠損が原因),Rotor症候群(OATP1B1とOATP1B3の同時欠損が原因)がある.

今月の特集2 リンパ球の増減を正しく評価するために

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.945 - P.945

 リンパ球の増加や減少は,日常検査での遭遇頻度が高い血液学検査異常の1つです.リンパ球数の異常(増減)をきたす疾患はさまざまですが,なかには臨床症状の乏しいものもあります.そのため健康診断や臨床検査の現場で初めて認識されることもまれではありません.

 一方,リンパ球の増減は,形態学的検査や血球抗原検査などの検査情報と組み合わせることによって,疾患・病態診断の重要な糸口となることがあります.検査担当者が,リンパ球数が増減する疾患についての理解を深め,関連する知識を得ることは,付加価値情報の提供を可能にします.これによって検査担当者は,疾患や病態の診断に寄与する可能性が広がります.

 本特集には,リンパ球の増減に関連した有用な情報がちりばめられています.本特集を通じて,これらの情報を身に付けていただき,リンパ球の増減をきたす疾患の診断に際して,臨床検査の貢献度を上げていただきたいと願うものです.

リンパ球数の増減をきたす疾患・病態

著者: 樋口敬和 ,   岡田定

ページ範囲:P.946 - P.950

Point

●成人では,リンパ球絶対数>4,000/μLをリンパ球増多,<1,000/μLをリンパ球減少とする.

●リンパ球増多症は一次性(クローン性)と二次性(反応性)に分類されるが,その鑑別は極めて重要である.細胞形態の観察が重要であるが,他の所見も含めて総合的に診断する.

●二次性リンパ球増多症が圧倒的に多く,そのなかでもウイルス感染症によるものが多い.

●リンパ球減少は比較的多くみられる検査異常であり,その原因となる疾患・病態は多い.しかし,日常臨床においては,軽度のリンパ球減少は特に精査されないことも多い.

反応性リンパ球増加症—鑑別と注意点

著者: 大倉貢 ,   小林美紀 ,   安福明子

ページ範囲:P.952 - P.962

Point

●反応性リンパ球(異型リンパ球)は,非腫瘍性の細胞である.

●鑑別には適切に作製,染色された標本を用い,適切な部位で観察することが重要である.

●標本観察時には年齢,血算値や臨床情報に加えて,確認すべき検査項目がある.AST,ALT,LD,フェリチンなどの検査値は,症例(自験例)の半数以上で基準値から外れており,注目に値する.

●細胞崩壊像が多数みられた場合は,アルブミンを全血に10%の比率で添加して,塗抹標本を作製する.

●判定基準法の認知度が低く,普及率を上げる活動を行う必要がある.

慢性リンパ性白血病(CLL)

著者: 青木定夫

ページ範囲:P.964 - P.968

Point

●慢性リンパ性白血病(CLL)はCD5,CD23陽性の成熟B細胞腫瘍である.

●CLLの形態学的診断は,欧米で一般的に行われている自然乾燥標本での観察が必須である.

●CLLの細胞遺伝学的特徴には多様性があり,染色体異常や遺伝子異常によって,臨床像が大きく異なることに注意を要する.

成人T細胞白血病(ATL)

著者: 鶴田一人 ,   長谷川寛雄 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.970 - P.975

Point

●成人T細胞白血病(ATL)細胞は,血球計数装置では認識できないことが多い.

●個々のヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)感染細胞とATL細胞を区別することは難しい.

●ATL細胞を顕微鏡下で精度高く計数するためには,核クロマチン濃度の増量を捉えることが重要である.

●ATL細胞数の評価は,表面マーカー検査とHTLV-1プロウイルス量を同時に解析することによって精度が高まる.

大顆粒リンパ球増多症

著者: 石田文宏

ページ範囲:P.976 - P.982

Point

●大顆粒リンパ球(LGL)増多という病態があることを意識する.

●LGL増多には反応性の場合と“LGL白血病”があり,細胞形態のみでは両者の判別は困難なことが多い.

●LGL増多では白血球数の増加がないことも多い.

●LGL増多の鑑別には細胞形態に加え,免疫形質および遺伝子検査の情報を要する.

●LGL増多をきたす疾患には極めて予後不良な白血病も含まれるが,やはり細胞形態のみでは判別困難で,臨床サイドの情報や他の検査所見と併せて総合的に可能性を想起する必要がある場合もある.

悪性リンパ腫(CLL,ATL,GLPD/LGLを除く)

著者: 松下弘道

ページ範囲:P.984 - P.991

Point

●悪性リンパ腫は病型ごとに生物学的特性が異なり,それに伴って末梢血や骨髄への浸潤の頻度も異なる.

●腫瘍細胞の形態が正常リンパ球に近い病型の場合,自動血球計数器で末梢血浸潤を検出できないことがある.

●悪性リンパ腫の末梢血浸潤を適切に評価するためには,各病型に関する疫学や細胞の形態学的特徴を把握したうえで末梢血塗抹標本を観察する必要がある.

Salon deやなさん。・4

毎日が非日常!?

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.993 - P.993

 「こ,こ,こ……」.空から硬い音がするなと見上げると,白樺の木に1羽のキツツキ.すごい速さで木を掘削しているではありませんか! 「本当に頭が赤色だ!」 初めて見たキツツキに興奮しているのは私だけ……だって,学校の構内でキツツキが見られるなんて,普通じゃないですよね!?

 日本一,広い敷地をもつ北海道大学.その面積は,なんと!約6億6,000万m2だそうです.大学のホームページによれば,「日本の国土の約570分の1」の面積が北海道大学とのこと……どれだけ広いんだよ!と,突っ込みたくなります.私が働いている北海道大学病院がある札幌キャンパスだけでも,東京ドーム38個分相当の178万m2という広さがあります.確かに,歩けど歩けど大学構内.北海道大学出身の医師曰く,毎冬,構内で学生が遭難するとか,しないとか…….真実味がありすぎて怖い.

寄生虫屋が語るよもやま話・19

火炎放射器で攻撃せよ!—ミヤイリガイの対策

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.994 - P.995

 私の専門が住血吸虫症の研究であるため,話題がそちらに傾くことはご容赦いただきたい.ミヤイリガイは日本住血吸虫の中間宿主で,宮入慶之助先生が1913年に発見してその名前が付いた.ただ,新発見には常に人間臭いドラマがある.マラリア原虫の伝播経路を発見したのが英国人のRossなのか,イタリア人のGrassiなのか,互いの愛国心を燃やしての論争となったが,ノーベル賞はRossだけが受賞している.ミヤイリガイも宮入先生が九州帝国大学教授時代に,当時助手だった鈴木稔先生と一緒に発見したものであるが,鈴木先生は“ミヤイリガイ”という名前がお気に召さなかったようで,感情的にしこりが残ったとされる.その後,鈴木先生は岡山医科大学教授に転出され,学生講義でも決して“ミヤイリガイ”と呼ばれず,“カタヤマガイ”という名称にこだわられたそうである.ちなみにカタヤマとは,備後地方の地名(片山)であり,日本住血吸虫症の流行地であった.私たちの研究室で開催した2013年の日本寄生虫学会大会では中間宿主貝発見100周年を記念してシンポジウムや市民フォーラムなども開催したが,鈴木先生の血縁の方とは連絡が取れず,“ミヤイリガイ発見100周年”とさせていただいた経緯がある.

 その中間宿主貝のなかで幼虫が発育して,水中に泳ぎだしてヒトに経皮感染するのが日本住血吸虫である.したがって,病気の流行を制圧するためには,中間宿主貝を撲滅させることが戦略の1つとなる.そのためにわれわれの先輩はいろんな策を巡らしてきた.ミヤイリガイは完全な水棲貝ではなく,湿り気のある草むらにゴロゴロところがっている.そのような貝のすみかをなくすことや,貝を殺す薬を散布することは誰もが思い付くことである.貝を殺す薬を散布することは確かに効果が高い.しかし,その戦略の最大のネックは環境汚染であった.貝を殺すと同時に,多くの場合は魚も殺すのである.かつて,千葉県木更津市にも小規模ながらミヤイリガイの生息フォーカスが存在した.小規模だから殺貝剤を散布すれば簡単になくせると考えたのであるが,その方法は取ることができなかった.貝の生息地からほど近くに潮干狩りが盛んな場所があったからである.ミヤイリガイを殺す薬をまくと,アサリやハマグリも殺すかもしれないということで,市の当局からNoといわれた.

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「検査と技術」8月号のお知らせ

ページ範囲:P.889 - P.889

次号予告

ページ範囲:P.963 - P.963

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.982 - P.982

あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.998 - P.998

 つくば市内にある私が単身生活を送る宿舎の植え込みには,さまざまな植物が生育しています.手入れが行き届いていないので整然とした美しさには欠けますが,季節ごとに目を楽しませてくれます.ついこの前までは,サツキやツツジが咲いていました.最近ではアジサイが,少しずつ水色に近い淡い青色の花を開きつつあります.もう40年以上も昔になりますが,幼少期を過ごした吉祥寺の旧国鉄官舎の玄関先にも大きなアジサイがありました.薄暗く湿った梅雨の時期には普段にも増してよりいっそうおんぼろが際立つ木造の二軒長屋でしたが,アジサイのどちらかというと藍色に近い青紫色が,わずかな彩りと居心地のよさを与えてくれていました.どちらのアジサイも青を基調としていますが,幼少期に見たアジサイの色のほうが鮮やかで断然美しく,今でもその色を鮮明に記憶しています.過去を懐かしむセンチメンタルな気持ちが,多少バイアスをかけているのかもしれませんが.

 ご存じの方も多いと思いますが,アジサイの色は花に含まれるアントシアニジンの一種デルフィニジンと,それと反応するアルミニウムによって決まります.反応するアルミニウムが少なければ,赤色が強くなり,多くなればなるほど青味が増します.土壌中のアルミニウムはリン酸塩などの形で存在しており,そのままの状態では植物中にほとんど吸収されません.しかし,土壌のpHが酸性に傾くと,アルミニウムがイオン化するため,吸収されやすくなります.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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