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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査62巻10号

2018年10月発行

雑誌目次

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

国際ガイドラインの上手な活用に向けて

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 感染症関連ガイドラインが対象とする領域は,臨床感染症,臨床微生物,感染予防・制御と非常に幅が広い.国内で発表されたガイドラインも数多く存在するが,国外のガイドラインとは内容が異なっていたり,国外で該当する領域のガイドラインが国内には存在しなかったりと,その相異点は国際的なガイドラインを俯瞰しておくことは臨床現場で有用な情報となりうる.一方で,英語での記載に加え分量も多く,短時間で内容の評価と解釈がしにくいという点から,網羅的なキャッチアップは骨が折れる作業となっている.また,過去に質の高い類書が上梓されているものの,数多くのガイドラインが継続的に発表・アップデートされており,フォローアップの必要がある.

 このような背景から,本書は2010年以降に米国・欧州で発表された主なガイドラインのまとめとその活用法を共有し,読者個人および各施設における質改善の取り組みに寄与することを目的として作成した.

1章 ガイドラインの基礎知識

診療ガイドラインの作成方法と質評価

著者: 南郷栄秀

ページ範囲:P.1112 - P.1118

 国内では,雨後の筍のごとく診療ガイドラインが量産されている.本稿では,診療ガイドラインの基礎知識として,その作成方法と質評価について,全般的に解説する.

ガイドラインの使い方と注意点

著者: 寺田教彦 ,   渡邉菜穂美 ,   志水太郎

ページ範囲:P.1120 - P.1125

ガイドラインの活用場面

 この章では,総合診療科の医師である筆者が,感染症診療におけるガイドラインの活用方法について紹介する.

 ガイドラインは,最新の臨床研究に基づいた質の高い診療の普及のため,また医療者の経験にかかわらず標準的な治療を行うために作成されている.一方使用する側の視点としては,①自身で用いる場合,②他科・多職種との協同やコンサルテーションを受ける場合,③教育の場で用いる場合,などが考えられる.本稿では,それぞれのケースごとにどのようにガイドラインを活用することができるかについて述べ,また,日本と欧米のガイドラインの違いについても可能な範囲で差異を示す.

2章 臨床感染症に関するガイドライン 中枢神経系感染症

髄膜炎(2016年,ESCMID)

著者: 羽田野義郎

ページ範囲:P.1127 - P.1134

POINT

●近年の細菌性髄膜炎のガイドラインとして,最も有用なガイドラインである.

●疫学は欧州と日本で異なる(特に髄膜炎菌の割合)が,治療内容に大幅な変更はない.

●わが国のガイドラインと比較して,補助療法やフォローアップについての記載が詳しい.

医療関連中枢神経系感染症(2017年,IDSA)

著者: 鈴木純

ページ範囲:P.1135 - P.1140

POINT

●市中を含まず医療関連に絞ることで,診断・治療・予防にわたり幅広く記載されている.

●症状・徴候や髄液所見は基礎疾患や医療行為の影響を受けるため,診断が難しいことがわかる.

●抗菌薬だけでなく,カテーテルの抜去・再留置,脳室内抗菌薬投与,治療期間などの詳細なマネジメントがわかる.

心血管系感染症

感染性心内膜炎(2015年,ESC/EACTS/EANM)

著者: 織田錬太郎

ページ範囲:P.1141 - P.1149

POINT

●感染性心内膜炎(IE)の診断では,心臓超音波検査は重要な役割を果たしており,IEを疑った場合には必ず施行を検討する必要がある.

●IEの治療は長期間にわたるため,原因微生物の同定は非常に重要である.原因微生物の同定のためには,血液培養の採取が重要である.

●抗菌薬治療は原因微生物ごとに,長期間,経静脈的に,殺菌性の抗菌薬を用いるのが原則である.

●外科的手術の主な適応は,心不全,制御不能な感染,塞栓予防の3つである.

●IEは治療後のフォローも重要であり,再発の早期発見・予防のために患者教育を行うことも重要である.

植込み型デバイス感染症(2010年,AHA)

著者: 田子さやか ,   相野田祐介

ページ範囲:P.1150 - P.1157

POINT

●心血管体内植込み型電子機器(CIED)植え込みは,合併症の多い高齢者においても増加し,CIED感染率は上昇している.

●CIED感染が疑われる全ての患者は,抗菌薬投与前に最低2セットの血液培養を採取する.

●経食道心エコーは,成人におけるCIED関連心内膜炎の診断に有用である.

●CIED感染の治療の原則は,デバイス抜去と抗菌薬治療である.

●米国のガイドラインであり,わが国の医療体制,施設のローカルファクターなどを考慮して使用する.

気道感染症

鼻炎・副鼻腔炎(2012年,IDSA)

著者: 篠原浩

ページ範囲:P.1158 - P.1165

POINT

●急性細菌性鼻副鼻腔炎(ABRS)の初期診断には,画像評価は有効性が低く,臨床症状・徴候による診断クライテリアを用いる.

●小児・成人のABRSの初期治療には,アモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)が推奨されている.

●ABRSの症例で初期治療を開始し3〜5日間改善がない場合には,抗菌薬の変更,培養検査や画像検査を含めた再評価などの治療方針の変更を考慮する.

下気道感染症(2012年,ERS/ESCMID)

著者: 太田雅之

ページ範囲:P.1166 - P.1171

POINT

●合併症のない咽頭炎は多くの場合ウイルス性である.

●細菌性咽頭炎の主な起因菌はA群溶連菌であり,centor score,迅速診断キット(RAT)を有効利用すべきである.

●咽頭培養は迅速検査の結果によらず,推奨されない.

●細菌性咽頭炎の可能性が高い場合はペニシリンV 10日間での治療が検討されるが,副作用や抗菌薬使用による耐性誘導などに注意が必要である.

急性下気道感染症(2011年,ERS/ESCMID)

著者: 彦根麻由

ページ範囲:P.1172 - P.1177

POINT

●プライマリ・ケアでは,他の呼吸器症状をきたす疾患との鑑別診断を進めるとともに,重症度評価を行い,外来治療または病院への紹介を検討する.

●入院診療では予後予測に基づいた重症度評価を行い,一般病棟,集中治療室での治療を検討する.

●患者背景や併存疾患,地域のアンチバイオグラムなどに基づいて初期治療薬を選択し,原因微生物が判明した際にはde-escalationを行う.

●治療効果判定は,体温,呼吸状態,循環動態などの臨床症状に基づいて判断する.

院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎(2016年,IDSA/ATS)

著者: 森岡悠

ページ範囲:P.1178 - P.1183

POINT

●ガイドラインのアップデートによって医療ケア関連肺炎の概念がなくなった.

●院内・集中治療室(ICU)でのアンチバイオグラムが,エンピリック治療において重視されている.

●人工呼吸器関連肺炎,院内肺炎とも治療期間は7日間を推奨している.

結核(2016年,IDSA/ATS/CDC)

著者: 草場勇作 ,   森野英里子

ページ範囲:P.1184 - P.1189

POINT

●米国感染症学会(IDSA)/米国胸部疾患学会(ATS)/米国疾病管理予防センター(CDC)が共同で作成した,薬剤感受性結核の治療ガイドラインである.結核診断に要する各種検査が日常的に可能な,低まん延国を対象としている.

●患者背景や臨床的状況を考慮し,確定診断を待たずに速やかにエンピリックな多剤併用療法を開始すべき場合がある.

●直接服薬確認法(directly observed therapy),小児および成人の薬剤投与量,抗結核薬の副作用とその対処法,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症合併時の治療,肺外結核の治療,抗結核薬の薬剤相互作用など,治療に必要な情報が詳細に記載されている.

●日本と米国では結核の疫学的頻度(日本の結核罹患率は米国の5倍ほど高い),使用できる抗結核薬の種類などに多少の違いがあるが,結核診断の検査水準は同等であり,本ガイドラインは参考になる.

消化器感染症

B型肝炎(2017年,EASL)

著者: 山本修平 ,   伊東直哉

ページ範囲:P.1190 - P.1195

POINT

●慢性肝炎や肝硬変をきたしている場合は積極的に治療を行い,非代償性肝硬変への進展,肝細胞癌の発症を抑制する.

●治療は核酸アナログ製剤(NA)が中心となり,耐性の生じにくいエンテカビル(ETV),テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF),テノホビル アラフェナミド(TAF)のいずれかを用いる.

●治療有効例でも肝細胞癌の定期フォロー継続を要する場合が多い.

C型肝炎(2018年,EASL)

著者: 松尾裕央

ページ範囲:P.1196 - P.1203

POINT

●C型肝炎・肝硬変の治療は近年頻回にupdateされている.

●C型肝炎・肝硬変はともに直接作用型抗ウイルス薬(DAA)導入を検討する.

●DAA使用時は薬物相互作用に注意する.

●わが国での治療においては,日本肝臓学会のガイドラインも参考にする.

感染性下痢症(2017年,IDSA)

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.1204 - P.1208

POINT

●曝露歴を聴取し,原因菌の推定と検査の必要性を検討する.

●脱水の評価と補正が重要である.

●ルーティンに抗菌薬を用いるべきではなく,推定微生物と患者リスクに応じ選択する.

●二次感染を防ぐため,手指衛生指導と周囲のリスクに応じた指導を行う.

クロストリジウム・ディフィシル(2017年,IDSA/SHEA)

著者: 小林謙一郎

ページ範囲:P.1210 - P.1215

POINT

●2017年,Clostridium difficile感染症(CDI)ガイドライン2010(IDSA/SHEA)が更新され,成人と小児のCDIについて,疫学,診断,治療,感染・環境管理の推奨がまとめられた.

●重症度分類の表記が非重症,重症,劇症となった.

●治療では,バンコマイシンとフィダキソマイシンが第一選択となった.

尿路感染症

急性非複雑性尿路感染症(2010年,IDSA)

著者: 森岡慎一郎

ページ範囲:P.1216 - P.1220

POINT

●単純性膀胱炎や腎盂腎炎の原因微生物の多くは大腸菌であり,経験的抗菌薬治療を考えるにあたり,地域ごとの大腸菌の感受性パターンを考慮することが大切である.

●近年,腸内細菌群の抗菌薬耐性傾向が進んでおり,このような抗菌薬耐性に関する継続的なモニタリングが重要である.

●国内外で承認されている抗菌薬の種類,成分量,塩の種類に差異がみられることがあり,注意を要する.

皮膚軟部組織・骨感染症

皮膚軟部組織感染症(2014年,IDSA)

著者: 小坂篤志 ,   阪本直也

ページ範囲:P.1221 - P.1227

POINT

●壊死性軟部組織感染症が疑われる場合には試験切開を行う.

●免疫不全患者の皮膚軟部組織感染症(SSTI)では,早期に皮膚病変の生検を行い,起因微生物の同定に努めることが重要である.

●人獣共通感染症や免疫不全者の皮膚病変では検査室と臨床情報を共有する.

糖尿病足病変感染症(2012年,IDSA)

著者: 太田啓介 ,   渋江寧

ページ範囲:P.1228 - P.1234

POINT

●糖尿病足病変感染症(DFI)は2つ以上の炎症徴候(発赤,熱感,腫脹,圧痛・自発痛,硬化),または膿を認めた場合に診断し,その範囲や深さ,全身状態などから重症度を判定する.

●画像検査はMRIが優れており,骨髄炎の評価にも有用である.

●感染の多くはブドウ球菌に代表されるグラム陽性球菌を主とした複数菌による感染であるが,慢性経過や抗菌薬の先行投与,虚血などがある場合に,特にグラム陰性菌や嫌気性菌が問題となってくる.

●培養検査は,表層のスワブ検体ではなく深部からの検体を提出し,グラム陽性球菌をターゲットとした治療を開始するが,耐性菌のリスクや重症度を考慮し,必要であれば広域抗菌薬の使用を検討する.

●多くの症例で外科的デブリードメントが必要となり,適切なドレッシング剤の使用と除圧が重要となる.複数の専門科や多職種による介入・フォローが予後改善に不可欠である.

椎体炎(2015年,IDSA)

著者: 藤田崇宏

ページ範囲:P.1236 - P.1242

POINT

●発熱と腰痛を訴える患者では,椎体炎(NVO)の存在を疑う.また,特にStaphylococcus aureus菌血症の既往が1年以内にある患者が腰痛を訴えた場合は,NVOの存在を疑う.

●NVOを疑ったときは脊椎をMRIで評価する.

●NVOの治療には微生物学的診断が不可欠であり,微生物学的診断がつくまでは経験的な抗菌薬の投与は控えるべきである.

●微生物学的な診断のためには血液培養2セットと,可能であればイメージガイド下の穿刺で生検を行う.

●NVOに対する抗菌薬の投与期間は6週間が標準となりつつあるが,重症例についてはより長期投与を推奨する意見もある.

人工関節感染症(2013年,IDSA)

著者: 久保健児

ページ範囲:P.1243 - P.1247

POINT

●人工関節感染症(PJI)は,通常,経験的治療の適応ではなく,原因菌同定が重要である.

●人工関節を温存するかどうかで,抗菌化学療法レジメンが変わる.

●リファンピシン(RFP)は単剤で使用すると耐性化する.

免疫不全者

好中球減少時の発熱(2011年,ECIL-4)

著者: 松尾貴公

ページ範囲:P.1248 - P.1254

POINT

●発熱性好中球減少症(FN)患者の耐性菌獲得のリスクと臨床状況を把握する.

●escalationアプローチとde-escalationアプローチの両方を知る.

●広域抗菌薬のde-escalationのタイミングを逃さない.

白血病・骨髄移植患者の多剤耐性菌感染症(2011年,ECIL-4)

著者: 木村宗芳

ページ範囲:P.1255 - P.1260

POINT

●本ガイドラインは,白血病患者と造血幹細胞移植患者における多剤耐性菌感染症を対象とした先駆的なガイドラインである.

●先駆的なガイドラインであるため,根拠となるエビデンスがまだ不十分である.

●多剤耐性菌の治療薬が原因微生物ごとにまとめられており,治療薬を選択する際に有用な情報が多く含まれている.

●多剤耐性グラム陰性桿菌への抗菌薬併用療法の有用性について明記されているが,用法・用量を含む具体的な推奨レジメンは記載されていない.

外来悪性腫瘍患者の発熱と好中球減少(2018年,ASCO/IDSA)

著者: 馬渡桃子

ページ範囲:P.1261 - P.1267

POINT

●悪性腫瘍患者が好中球減少時に発熱を呈して来院した場合は,1時間以内に静注製剤による初回抗菌薬投与を開始する.

●発熱性好中球減少症(FN)を外来管理できる患者の選別ツールとしてMASCCインデックスやTalcottルール,CISNEを利用する.

●外来管理できるFNでは,経口抗菌薬としてフルオロキノロンとアモキシシリンクラブラン酸の併用で治療を開始する.

●耐性菌リスクの高い状況,肺炎やカテーテル関連血流感染が疑われる状況では外来管理は推奨しない.

プライマリ・ケアにおけるHIV感染症(2013年,IDSA)

著者: 菊地正

ページ範囲:P.1268 - P.1273

POINT

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は抗HIV療法により予後が改善し,代謝性合併症や悪性腫瘍などの長期的合併症の管理の重要性が増している.

●HIV感染症の初期評価として,HIV感染症自体の検査のほかに,日和見感染症,性感染症,長期的合併症などの評価およびそれらの予防を行う.

●B型肝炎などの性感染症や日和見感染症を疑う患者では,積極的にHIVスクリーニング検査を行う(筆者補足).

真菌症

カンジダ症(2016年,IDSA)

著者: 羽山ブライアン

ページ範囲:P.1274 - P.1281

POINT

●侵襲性カンジダ症の診断のゴールドスタンダードは血液培養などの無菌検体からの培養検出である.

●重要な検体から検出されたカンジダには適切な基準に従った感受性検査が必要である.

●カンジダ血症の際には血液培養を繰り返し,陰性化が確認されてから14日間治療する.

●CVカテーテルが挿入されている患者では,原則としてCVカテーテルを抜去する.

●カンジダ血症には眼内炎を高率に合併するので,眼科診察の依頼が必須である.

アスペルギルス症(2016年,IDSA)

著者: 阿部雅広

ページ範囲:P.1282 - P.1287

POINT

●侵襲性アスペルギルス症(IA)の診断は,適切な検体の培養検査・細胞診に加え,血清・気管支肺胞洗浄液(BAL)のガラクトマンナン(GM)抗原,血清β-D-グルカン(BDG)などの診断マーカーおよびCT検査などの画像検査から総合的に判断する.

●IA症治療の第一選択薬はボリコナゾール(VRC)である.

●重症IAでは抗真菌薬併用療法を考慮することが推奨されているが,前向き試験の報告は現時点では限定的である.

●長期間の好中球減少など,IAの高リスク群での予防ではポサコナゾール(POS),VRC,ミカファンギン(MFG)が推奨される.

●肺外アスペルギルス症の治療では,抗真菌薬投与に加え,局所療法や手術など,部位に応じた対応が必要となる.

コクシジオイデス症(2016年,IDSA)

著者: 菅野芳明 ,   岡本耕

ページ範囲:P.1288 - P.1293

POINT

●コクシジオイデス症の早期診断には,米国西南部や中南米のコクシジオイデス流行地域への渡航歴の聴取が重要である.

●免疫正常のコクシジオイデス症患者の抗真菌薬第一選択は経口アゾールである.

●妊娠第一期で抗真菌薬を要する場合や,移植レシピエントの重症コクシジオイデス症の症状安定化までの期間は,アムホテリシンB(AmB)が推奨される.

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者のコクシジオイデス症は全例治療対象であり,CD4陽性Tリンパ球数が250個/μL未満の間は抗真菌薬治療を継続すべきである.

●コクシジオイデスは感染力の高い真菌であり,疑い例を含めた検体の取り扱いおよび曝露予防に特に注意を要する.

クリプトコッカス症(2010年,IDSA)

著者: 伴浩和

ページ範囲:P.1294 - P.1300

POINT

●クリプトコッカス髄膜脳炎のリスクとなるグループを①ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者,②臓器移植患者,③その他に分けて考える.

●ガイドラインの基本原則は,①導入療法→地固め療法(除去)→維持治療(抑制),②頭蓋内圧亢進症と免疫再構築症候群(IRIS)の早期認知と治療,③腎障害の患者ではアムホテリシンBリポソーム製剤を用いる,である.

●治療成功のポイントは,①早期診断,②ガイドラインの基本原則に従う,③基礎疾患のコントロール,である.

●合併症に対するマネジメントが大切である(特に,頭蓋内圧亢進症,IRIS).

希少・新興真菌症(2013年,ESCMID/ECMM)

著者: 福島一彰

ページ範囲:P.1301 - P.1312

POINT

●希少・新興真菌症における標準的な治療は確立されておらず,少ないエビデンスから最良の治療法を個別に判断する必要がある.

●ムーコル症は血液悪性腫瘍患者において予後不良な疾患であり,治療は外科的デブリードマンと抗真菌薬を併用する.

●フサリウム症やスケドスポリウム症は,特に遷延する好中球減少患者で予後不良である.

●黒色菌糸症では,臨床所見ごとに治療のアプローチが異なる.

●新興真菌症は,血液悪性腫瘍を背景に中心静脈カテーテルなどの異物が挿入されている患者で問題になることが多い.

その他

MRSA感染症(2011年,IDSA)

著者: 上田晃弘

ページ範囲:P.1313 - P.1318

POINT

●米国感染症学会の専門委員会により文献レビューが行われ,エビデンスに基づき,作成されている.各推奨にはエビデンスレベルと推奨度が示されており,記載内容の信頼性は高い.

●メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療に関するガイドラインであり,診断や感染対策は扱っていない.重要なMRSA感染症がカバーされ,MRSA感染症の治療で問題となるバンコマイシン(VCM)の投与方法などについても触れられている.

●わが国でも十分に参考になる内容であるが,米国で問題となっている市中獲得型MRSA(CA-MRSA)は現時点ではわが国での頻度が高くないこと,telavancinなど米国で使用可能な薬剤の一部はわが国で使用できないことには注意する必要がある.

バイオフィルム感染症(2014年,ESCMID)

著者: 鷲野巧弥

ページ範囲:P.1319 - P.1324

POINT

●バイオフィルム感染症の診断と治療に関する新しいガイドラインである.

●培養検査や抗菌薬治療だけでなく,幅広い診断方法や治療・予防方法の推奨がまとめられている.

●エビデンスが不足している部分も多く,今後のさらなる研究が望まれる.

性感染症(2015年,CDC)

著者: 谷崎隆太郎

ページ範囲:P.1325 - P.1329

POINT

●神経梅毒を伴わない梅毒の標準治療は,海外ではbenzathine penicillin G筋注であるが,わが国では主にアモキシシリン内服で治療している.

●尿道炎の治療では淋菌とクラミジアを主なターゲットとして,セフトリアキソン(CTRX)とアジスロマイシン(AZM)を併用投与する.

●全ての性感染症患者において,パートナーの検査・治療も必ず行う.

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の曝露前予防として抗HIV薬を性交渉の前に内服する方法がある.

3章 臨床微生物に関するガイドライン

微生物検査(2013年,IDSA/ASM)

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.1330 - P.1343

POINT

●適切な感染症の診断のために,医師と微生物検査室の双方が理解しておくべき検体管理を最重要事項とした検査前プロセスがまとめられている.

●医師は,本ガイドから感染症別の起炎微生物,オーダーすべき検査診断法,検査に適する検体の種類,採取方法,および取り扱い上の注意事項を知ることができる.

●微生物検査室は,品質が確保された検体が正確な検査結果の提供に必須であることを方針とし,医師や看護師と良好なコミュニケーションをとる手段として本ガイドを利用することができる.

結核の診断(2016年,IDSA/CDC/ATS)

著者: 森島雅世 ,   根井貴仁

ページ範囲:P.1344 - P.1349

POINT

●今回の本ガイドラインで,インターフェロンγ遊離試験(IGRA)や分子生物学的手法を用いた診断に関して初めて述べられた.

●潜在性結核(LTBI),肺結核/肺外結核の診断に関して初めてGRADEシステムによって23の推奨項目が挙げられた.

●これらの推奨事項は明確に強く(strong)推奨するもの(6項目)と条件付き(conditional)で推奨するもの(17項目)を分けており,推奨項目の重要性がよりわかりやすい形となっている.

●本ガイドラインは,診断の基準の位置付けを提供するものではなく,患者個々の情報から結核の診断に至るまで,理論に基づいた決定プロセスを提供するだけのもの,つまり絶対的に従うガイドラインではないという立場を明確に示している.

クロストリジウム・ディフィシルの診断(2016年,ESCMID)

著者: 鈴木智一 ,   関谷紀貴

ページ範囲:P.1350 - P.1356

POINT

●臨床的にClostridium difficile感染症(CDI)を疑った患者に対しては検査を実施する.

●検査室では,検体の評価を行い,検査に適した検体を用いて検査を実施する.

バイオセーフティー(2012年,ASM)

著者: 佐藤智明

ページ範囲:P.1357 - P.1362

POINT

●実習に使用する微生物のリスクをしっかり把握する.

●自施設のバイオセーフティーレベル(BSL)で取り扱い可能な微生物を把握する.

●バイオセーフティーガイドラインは,自施設に適したものを作成する.

●指導者,学生がともにガイドラインの内容について理解する.

4章 感染予防・制御に関するガイドライン

接触予防策(2018年,SHEA)

著者: 田頭保彰

ページ範囲:P.1364 - P.1369

POINT

●急性期病院における接触予防策の期間に関する初めてのガイダンスである.

●ガイダンスは,各病院の現況に応じて適応すべきである.

●多剤耐性腸内細菌科細菌(MDR-E)については,接触予防策解除は慎重であるべきである.

アウトブレイク対応とインシデントマネジメント(2017年,SHEA/CDC)

著者: 藤谷好弘

ページ範囲:P.1370 - P.1376

POINT

●感染症アウトブレイク発生時の組織としてのマネジメントに関するエキスパートガイダンスである.

●急性期病院の病院疫学者,施設責任者,感染管理担当者を対象としている.

●施設の特性や規模に応じ,感染症を含む全ハザードのインシデントマネジメントに関する施設独自のガイダンスの作成が望ましい.

抗菌薬適正使用(2016年,IDSA/SHEA)

著者: 片浪雄一

ページ範囲:P.1377 - P.1381

POINT

●医師,とりわけ感染症の専門家や薬剤師のリーダーシップが重要である.

●抗菌薬を選択する際には患者背景やアンチバイオグラムを考慮する.

●介入を行う際には主診療科との連携が重要である.

多剤耐性菌(2014年,ESCMID)

著者: 佐々木秀悟

ページ範囲:P.1382 - P.1388

POINT

●入院中の成人患者における,多剤耐性グラム陰性桿菌に対する感染予防策に関するガイドラインである.直接患者と接する医療従事者のほかに,医療施設の管理者や公衆衛生分野に携わる専門家なども対象としている.

●感染予防策の具体的な手法として,手指衛生,接触感染対策,積極的監視培養,環境清掃,抗菌薬適正使用,除菌および消毒薬による洗浄,社会インフラおよび教育を取り上げており,それぞれにおいてエビデンスの評価および推奨を行っている.

●エビデンスレベルや推奨度は菌の種類,耐性機序,多剤耐性グラム陰性桿菌の検出状況(エピデミックおよびエンデミック)により項目を分けて記載している.

●エビデンスレベルと推奨度が必ずしも一致していないが,その理由として,ランダム化比較試験などの一般的にエビデンスレベルが高いとされる研究を行うことが困難な分野であること,これまでに多剤耐性グラム陰性桿菌に着目した感染予防策に関する研究があまり行われてこなかったことなどを考慮すべきである.

免疫不全者のワクチン(2013年,IDSA)

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.1389 - P.1396

POINT

●不活化ワクチンは安全に接種できるが,その効果は健常者と比較して劣る可能性がある(高度の免疫不全者には生ワクチンの接種は避ける必要があるが,不活化ワクチンは原則接種可能).

●免疫不全者と接する医療従事者や家族もワクチン接種が推奨される(ワクチンには免疫不全者へは接種できないものや,接種可能でも十分な効果を期待できないものがある.間接的に免疫不全患者を守るために接種が推奨される).

●今後推奨が変更される可能性があるワクチンもあるため,最新の情報にも留意する.

 -米国では65歳以上への肺炎球菌ワクチンの推奨が2018年に見直される予定である.

 -2018年に新たな帯状疱疹サブユニットワクチンが認可された.米国では2017年に認可後,2018年に50歳以上へのワクチンとして推奨されている.

手術部位感染の予防(2017年,CDC)

著者: 丹羽一貴

ページ範囲:P.1397 - P.1402

POINT

●1999年のCDC「Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection」の改訂版であり,18年ぶりの改訂である.

●手術部位感染(SSI)予防全般におけるコアセクション6項目と,人工関節置換術に関するセクション7項目より構成されている.

●具体的な術後感染予防抗菌薬の使用法については,日本化学療法学会/日本外科感染症学会の「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」などを参照したい.

手術部位感染の予防抗菌薬(2013年,SHEA/IDSA/ASHP/SIS)

著者: 加藤英明

ページ範囲:P.1403 - P.1408

POINT

●周術期抗菌薬は術後の感染症の高リスクとなる症例に投与する.

●セファゾリン,アンピシリン・スルバクタムなどβラクタム系抗菌薬が第一選択となる.

●βラクタム系アレルギーの場合にはバンコマイシン,クリンダマイシン,消化管・胸腔手術ではキノロン系が使用される.

●周術期抗菌薬は皮膚切開の60分以内に1回のみ投与する.

●術中の追加投与,肥満による増量は検討してもよい.閉創後は24時間以内に投与終了する.

カテーテル関連血流感染症(2011年,CDC)

著者: 佐藤高央 ,   佐藤昭裕

ページ範囲:P.1409 - P.1413

POINT

●手指消毒を含めた標準予防策の徹底が重要である.

●中心静脈カテーテル(CVC)を挿入する際には,マキシマル・バリアプリコーションを行う.

●皮膚消毒はクロルヘキシジンアルコールを使用する.

●感染予防目的にカテーテルの定期的な交換は原則行わない.

●カテーテル関連血流感染(CRBSI)症は適切な対策を講じれば,ほぼ完全に感染予防をすることができる.

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目次

ページ範囲:P.1106 - P.1111

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臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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