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雑誌目次

論文

臨床検査62巻11号

2018年11月発行

雑誌目次

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1419 - P.1419

 血行性転移を起こす癌では,血管内を循環している癌細胞が存在するはずであり,これを循環癌細胞(circulating tumor cell:CTC)と呼びます.CTCを検査することができれば,癌の診断や治療,予後予測等に有用な情報が得られると予想されます.このCTCを補足して検査する代表的な手法がリキッドバイオプシーです.

 特定の抗腫瘍剤に感受性が高い腫瘍を検出し,有効性の高い治療を行うのがプレシジョンメディシンです.リキッドバイオプシーによるCTCの検査は,このプレシジョンメディシンを推進するうえで有用な技法として期待されています.リキッドバイオプシーによるCTCの検査は,読者にとってあまりなじみがないかもしれません.しかし近い将来,臨床検査の1つとして実施されることが予想される検査でもあります.本特集を通じて,この近未来の検査に対する理解を深めていただきたいと願うものです.

Circulating tumor cell(CTC)の検査

著者: 洪泰浩

ページ範囲:P.1420 - P.1426

Point

●癌医療においてプレシジョンメディシンの推進が求められており,繰り返しでの診断を可能とする非侵襲的診断に対するニーズが高まっている.

●循環腫瘍細胞(CTC)は複数の固形癌において予後予測因子であることが報告されており,臨床的意義を有することがこれまでの研究において確認されている.

●CTCの検出方法についてはさまざまな方法がこれまでに開発されているが,上皮マーカーなどを標的として濃縮するものと,それ以外のものに分別され,それぞれがメリットとデメリットを有する.

●CTCの臨床応用についても乳癌などでは早くから取り組まれてきているが,有効性が確立されたものはない.さらに,質的評価を加えることの取り組みが行われている.

●CTCを用いての二次的解析についてはこれまでに多くの取り組みがなされており,生細胞である特徴を有効に利用することで,血漿DNAなどとは異なる利用ができる可能性がある.

細胞外小胞・エクソソームによるリキッドバイオプシー

著者: 門田宰 ,   吉岡祐亮 ,   落谷孝広

ページ範囲:P.1427 - P.1432

Point

●エクソソームは脂質二重膜で囲まれた100nm前後の膜小胞であり,マイクロRNA(miRNA)やメッセンジャーRNA(mRNA)といった核酸,蛋白質,脂質などを内包する.

●エクソソームは全ての体液に安定的に存在し,内包する分子は分泌する細胞やその環境,疾患に応じて変化することが知られている.そのため疾患特異性があると考えられている.

●エクソソームの解析方法としては,主に超遠心法や抗体を用いてエクソソームを回収してから解析する方法と,体液から直接解析する方法がある.

●血液中エクソソームを利用した癌の診断,予後予測,治療効果予測が国内外から報告されている.いまだ問題は多いものの,今後の臨床応用が期待されている.

リキッドバイオプシーによる癌遺伝子変異検出

著者: 加藤菊也

ページ範囲:P.1434 - P.1441

Point

●リキッドバイオプシーは,血液中に滲出した腫瘍由来DNAの検出による新しい癌診断のアプローチである.

●次世代シークエンサーなどの新しい技術により,2010年代になってから急速に発展した.

●上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)のコンパニオン診断のように実用化された例もあるが,臨床有用性の検証例はあまりない.

●正常細胞の変異の混入など難しい問題を抱えており,さらなる研究開発が必要である.

泌尿器科領域におけるリキッドバイオプシーの現状と展望

著者: 桶川隆嗣

ページ範囲:P.1442 - P.1450

Point

●リキッドバイオプシーはコンパニオン診断として組織生検検査より低侵襲であり,経時的な検体回収が可能である.

●泌尿器科領域では,去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)患者における末梢循環癌細胞(CTC)でのアンドロゲン受容体スプライスバリアント(AR-V)7の検出が,治療選択の一助になることが明らかになった.

●現在,AR-V7の検出を臨床の場で応用するには課題も多い.今後はさらに血液中の癌分子・遺伝子診断を行い,適切な治療を選択していく一助になることが望まれる.

●2〜50個ほどのCTC集合体であるCTCクラスターはCTC全体の2〜5%を占め,CTC単独よりもはるかに癌転移を引き起こしやすいことが,各種癌で報告されている.

固形癌を対象としたリキッドバイオプシーの臨床応用

著者: 西尾和人 ,   坂井和子

ページ範囲:P.1451 - P.1458

Point

●循環腫瘍DNA(ctDNA)は,デジタルPCRや次世代シークェンサー(NGS)を用いて分子プロファイリングが可能である.

●リキッドバイオプシー(LB)は,治療効果予測,治療経過中のモニタリングツールとして,その臨床的有用性が示されている.

●肺癌EGFR遺伝子変異検査の血漿検査が承認され,用いられている.

上皮マーカー陰性CTCの捕捉

著者: 横堀武彦 ,   塚越真梨子 ,   調憲

ページ範囲:P.1460 - P.1467

Point

●現行の循環癌細胞(CTC)捕捉は上皮マーカーが頻用されているが,CTCの生物学的・物理的特徴を利用することでCTCを濃縮する手法が新たに開発されてきており,商業ベースで容易に入手可能なものもすでに存在する.

●上皮間葉転換(EMT)は,癌の転移浸潤だけでなく癌幹細胞性とも強く関連しており,治療抵抗性,再発を引き起こすと考えられている.

●上皮マーカー陰性CTCを,EMTマーカーであるPLS3で検出できた.さらにPLS3により上皮マーカー陰性CTCを検出することで,既存の臨床病理学的因子では予後予測が難しい大腸癌患者でも予後予測が可能であった.

今月の特集2 ACSを見逃さない!

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1469 - P.1469

 急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は,心電図検査を業務としている臨床検査技師にとってはよく耳にする疾患であり,ST低下や上昇を直ちに判断しなければいけません.ACSに代表される胸部症状は多くの疾患でみられますが,他の疾患と鑑別する必要があります.しかしながら,心電図だけで鑑別するには限界があります.

 本特集では,ACSの疫学や概念からあらためて知識を深堀りし,鑑別に必要な検査として,冠動脈CTなどにもスポットをあて執筆をお願いしました.また,鑑別しなければならない疾患については,疾患ごとに項目分けを行いました.治療としては心臓カテーテルを行いますが,検査技師にもわかりやすく記述してあります.

 心電図検査に従事している方はもちろんですが,そうでない方にも知識のアップデートとしてご一読いただければと思います.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

ACSの分類と疫学

著者: 中山崇 ,   小林欣夫

ページ範囲:P.1470 - P.1475

Point

●急性冠症候群(ACS)は,冠動脈のプラーク破綻と血栓形成により急性の心筋虚血を引き起こす疾患群である.

●急性心筋梗塞〔ST上昇型心筋梗塞(STEMI),非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)〕と不安定狭心症が含まれる.

●国内ではSTEMIの割合が高いとされる.

●急変,病状悪化の危険性が高く,緊急での入院や治療も含めた迅速な対応が求められる.

ACSの診断

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.1476 - P.1482

Point

●急性冠症候群(ACS)に特徴的な胸部症状を鑑別することにより,疾患の検査前確率を推定する.

●既往歴・家族歴を含む臨床情報から,疾患の検査前確率を絞り込む.

●基本となる検査は,心電図,心筋逸脱酵素を含む血液生化学検査,心エコー,胸部X線であり,迅速に並行して行う.

●低〜中等度リスクの患者には,冠動脈CTが有効な診断法として選択できる場合がある.CTのほかに核医学検査,心臓MRIもACSの病態評価に使用できる.

ACSとの鑑別—急性大動脈解離

著者: 吉野秀朗

ページ範囲:P.1484 - P.1491

Point

●急性大動脈解離(AAD)は,院内死亡率が急性心筋梗塞の約3倍という重篤な疾患である.

●AADの確定診断には,胸腹部単純および造影CTが必須である.

●AADでは,激しい胸背部痛が典型的症状であるが,腹痛,意識障害を主訴として来院することがある.

●心筋梗塞,脳梗塞など重篤な臓器虚血を引き起こすAADはまれではない.心電図,D-dimerをチェックする.

●AAD診療には,病院間地域ネットワークシステム構築が重要である.

ACSとの鑑別—急性肺塞栓症

著者: 石田敬一

ページ範囲:P.1492 - P.1499

Point

●急性肺塞栓症は致死的疾患であり,早急な診断が救命のために必要である.

●症状,胸部X線写真,心電図所見は非特異的である.

●急性肺塞栓症を疑うことが,確実な診断プロセスの第一歩である.

●造影CT検査が確定診断に重要な役割を果たす.

ACSとの鑑別—たこつぼ型心筋症

著者: 赤坂和美

ページ範囲:P.1500 - P.1505

Point

●たこつぼ型心筋症は,精神的・身体的ストレスを誘因として発症することが多く,急性冠症候群(ACS)と類似する胸痛や心電図におけるST-T変化を伴う.

●たこつぼ型心筋症では,発症3日目と,2〜3週後に再度出現し変動する巨大陰性T波を高率に認め,QT時間の延長を伴う場合には本症が疑われる.

●たこつぼ型心筋症における壁運動異常パターンは,左室心尖部の無収縮以外に,心室中部の無収縮などがあり,MRIでは34%に右室壁運動異常を合併する.

ACSの治療

著者: 今仲崇裕 ,   石原正治

ページ範囲:P.1506 - P.1513

Point

●急性冠症候群(ACS)は,ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)に分類される.NSTE-ACSは,従来の非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)と不安定狭心症(UAP)を包括した概念である.

●STEMIでは,発症から12時間以内かつ最初に医療従事者が接触してから90分以内のprimary 経皮的冠状動脈インターベンション(PCI)は有用であり,早期の血行再建を目標として病歴聴取,身体所見の確認,12誘導心電図といった初期対応を的確に迅速に行うことが重要である.

●NSTE-ACSでは,高感度心筋トロポニンを利用して,NSTE-ACSを見落とさないように診断する.症例のリスク層別化を行い,そのリスクに応じた治療を選択する.

●最近は,primary PCIでは橈骨動脈穿刺が推奨されており,薬剤溶出性ステントの使用が,従来型の金属ステントの使用と比較して長期成績が優れている.

Salon deやなさん。・16

「汗と涙の集大成!(涙)」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1433 - P.1433

 「“モテる”ってフレーズ入れませんか? “マスターすれば,必ずモテる!”みたいな」

 増刊号のタイトルを決めるときでも,私は至って真面目に提案した.だって,ちまたで“モテ本”って,売れてますし……ねぇ?「……そうですね.“モテる”はちょっと……」編集担当の方に優しく却下された.そんなやり取りを何度か繰り返し,やっと決まりました.「現場で“パッ”と使える 免疫染色クイックガイド」.真面目か!

Crosstalk 地域医療×臨床検査・10

臨床検査とともに支える地域医療

著者: 寺裏寛之

ページ範囲:P.1459 - P.1459

 地域医療の現場は,医療者が多くないこともあり,顔の見える関係が構築しやすい.私が勤めていた地域病院(以下,当院)では,病院職員のみならず,近隣の介護施設職員とも顔なじみであった.顔の見える関係は多職種の連携がしやすい.多職種連携は,チーム医療を発展させた概念であり1),専門性の発揮と速やかな情報共有という点から医療の質や効率性の向上につながる2).多職種連携を取るに当たり,院内のチーム医療の確立が重要である.当院では,看護師,薬剤師,理学療法士,社会福祉士,医師による多職種回診を行い,患者の方針を共有した.診断の際,特に連携が必要となるのは,臨床検査室である.臨床検査技師は,検査結果から病態を把握し,医師とともに患者を見守る.例えば,パニック値の報告はマニュアル化されている医療機関がほとんどであろう.

Essential RCPC・6

急性腎障害と慢性腎臓病を検査データから鑑別できるか

著者: 岩津好隆

ページ範囲:P.1514 - P.1521

症例

症例1:51歳,男性.全身倦怠感.

症例2:68歳,女性.全身倦怠感.

生理検査道場・6

聴力検査② 判読の極意

著者: 杉尾雄一郎

ページ範囲:P.1522 - P.1528

はじめに

 前回は,聴力検査の判読の際に必要となる基礎的な事項について解説した.今回は,実際の症例を提示し,判読に迷った場合の手順について述べる.

研究

骨粗鬆症と亜鉛の関連性

著者: 赤塚貴紀 ,   小谷野直人 ,   平井明生 ,   小杉雅英 ,   佐々木伸

ページ範囲:P.1529 - P.1534

Summary

 高齢化社会において,骨粗鬆症患者はさらに増加すると考えられる.亜鉛欠乏は味覚障害や皮膚炎の原因となるが,最近の研究ではAlzheimer病やうつ病などの発症との関連性が指摘されている.亜鉛はいまだ研究途上であるため,われわれは骨粗鬆症と亜鉛をテーマとした.総合病院厚生中央病院(以下,当院)整形外科患者を対象とし,正常群,骨粗鬆症群で比較した結果,骨粗鬆症群のほうが亜鉛の値が有意差に低値であった.本研究では,亜鉛とアルブミン,骨型ALPなど他の項目との相関性も検証した.骨型ALPは骨粗鬆症の重要なマーカーであるが,男性の骨粗鬆症例での検討が先行研究にはほとんどなく,本研究では男女別の検討も行った.

短報

在宅臨床検査と深部静脈血栓症

著者: 山中崇 ,   小谷和彦

ページ範囲:P.1535 - P.1539

Summary

 日本人において深部静脈血栓症の発症は決してまれではない.わが国において在宅医療は重要視されているが,在宅医療の対象者には高齢で脳血管疾患,心不全,呼吸不全,悪性腫瘍を保有する患者が多く,これは深部静脈血栓症を有する高危険群とみなされる.ポータブル超音波検査と血中D-ダイマーの測定を合わせた臨床検査技師を含むチームによる在宅臨床検査の普及により,深部静脈血栓症への対応の進歩が期待される.

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目次

ページ範囲:P.1416 - P.1417

「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1468 - P.1468

次号予告

ページ範囲:P.1483 - P.1483

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1499 - P.1499

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1542 - P.1542

 今月号の特集は,「リキッドバイオプシー」と「ACS」です.

 もう20年くらい前でしょうか,PSAの勉強のため前立腺癌の文献を調べていたら,血液中の細胞成分(本特集でのCTCが含まれることを想定)からRNAを抽出し,RT-PCRでPSAの発現を確認することで,PSA産生細胞すなわち前立腺癌細胞の存在を推測する,というものがあり,強く印象に残ったことを覚えています.現在のリキッドバイオプシーの流れの“はしり”のようなことだったのでしょうか.技術の進歩で一般化に向かって進んできたものと理解しています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

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