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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査62巻12号

2018年12月発行

雑誌目次

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1547 - P.1547

 わが国からの海外旅行者(アウトバウンド)や海外からの国内旅行者(インバウンド),外国人労働者の増加などに伴い,一般医療機関においても,海外渡航歴がある患者に対して基本的な診療が求められる時代となっています.しかし,実臨床で遭遇する頻度が高い疾患は比較的限られており,一般診療で対応可能な疾患と専門的対応を要する疾患を平時から整理することで,落ち着いた診療・検査ができる体制を整えておくことは重要です.

 今回の特集では,主な旅行者感染症の特徴,鑑別,必要な検査を確認し,臨床評価から検査提出までの流れを理解していただくことを目的にしています.

 発熱,下痢,呼吸器症状を呈する疾患に焦点を当てていますが,特に,①緊急性が高い病態(熱帯熱マラリア,重症デング熱など)の特徴と検査,②疑い疾患に必要な診断検査の詳細(保険適用 vs. 外部依頼),③鑑別が必要な周辺の類似疾患,の3点にご注目ください.海外渡航歴がある患者の検査実施に際し,診療医との効果的なコミュニケーションを行う一助となれば幸いです.

デングウイルス感染症

著者: 水野真介

ページ範囲:P.1548 - P.1554

Point

●東南アジアなどの流行地から帰国した発熱患者では,デングウイルス感染症を鑑別に入れる.

●一部の患者でデング出血熱やデングショック症候群を呈する.

●デング出血熱は,血管壁の障害を伴わない血漿の血管外漏出と血小板減少を起こす.

●発症からの時期に応じて診断検査を選択する.

●警告徴候やその他の検査結果から経過を予測する.

マラリア

著者: 福島一彰

ページ範囲:P.1555 - P.1561

Point

●マラリアは,熱帯・亜熱帯地域から帰国した発熱を伴う渡航者で,見逃してはいけない疾患の1つである.

●マラリアに特異的な症状はないため,渡航地域と曝露歴から,マラリアのリスクを踏まえて検査の必要性を判断する.

●原虫寄生率が低い場合に顕微鏡検査が陰性になることがあるため,臨床所見からマラリアが疑わしいときには,初回検査が陰性の場合でも時間をあけて顕微鏡検査を再検する.

腸チフス・パラチフス

著者: 的野多加志

ページ範囲:P.1562 - P.1568

Point

●腸チフス・パラチフスは,チフス菌・パラチフスA菌によって引き起こされる全身性の発熱性疾患である.

●わが国では年間約20〜50例が発症し,その約80%が海外(特に南アジア)で感染した輸入事例である.

●近年,南アジア(流行地)を中心にフルオロキノロン系抗菌薬低感受性菌がまん延している.

●2012年にフルオロキノロン系抗菌薬のブレイクポイントが改定されており,各施設で使用している最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)判定基準に注意する.

●アジスロマイシンのブレイクポイントはチフス菌には設定されているが,パラチフスA菌に対する判定基準はない.

レプトスピラ症

著者: 八板謙一郎

ページ範囲:P.1570 - P.1575

Point

●本症を疑うために最も大事な病歴は淡水曝露(河川や滝)である.

●潜伏期間は平均7〜12日間である.ただし最短3日,最長1カ月程度と幅広い.

●症状や身体所見で特異的なものがなく,無症候性から重症まで存在する.

●一般血液検査から疑うのも難しく,確定診断には専門施設での抗体検査やPCRなどが必要となる.

旅行者下痢症

著者: 山本修平 ,   倉井華子

ページ範囲:P.1576 - P.1581

Point

●旅行者下痢症は,短期間で自然軽快する症例から慢性化・重症化する症例までさまざまである.

●下痢は消化管以外の疾患や非感染症が原因となることもあるため,丁寧な病歴聴取に基づいて鑑別していく.特にマラリアや敗血症の症状の1つとして下痢を認めることもあり,注意が必要である.

●旅行者下痢症では,国内発症の下痢症よりも細菌が原因となることが多い.症状が強い場合は抗菌薬が適応となるが,近年耐性菌が増加しており,治療戦略が難しくなっている.

●軽症例では検査を必要としない場合も多いが,慢性例や重症例では,便の細菌や寄生虫,マラリア,デング熱,腸チフス,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの検査も検討する.

呼吸器感染症

著者: 山元佳

ページ範囲:P.1582 - P.1589

Point

●渡航後の感染症として呼吸器感染症は多いが,大部分の病原体は国内と大きな差異はない.

●海外渡航後の呼吸器感染症を鑑別する場合には,渡航地と渡航様式についての問診が必須である.

●海外渡航後の呼吸器感染症において,検査室曝露が問題になりうる病原体が検出されることがある.

今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1591 - P.1591

 近年,輸血関連の検査は,臨床検査全体のなかで,専門的で特殊な分野と位置付けられる傾向にあります.そこで本特集は,輸血検査から離れている方を想定し,ここ数年の進歩,考え方を学んでいただくことを目的としました.

 まず,副作用を克服するために,例えば感染症のスクリーニングが強化されてきていること,副作用発生時の対処につき特に院内での体制整備が重要であること,などを解説いただきました.また,最近の在宅医療の普及に伴い輸血療法がどうなっているのか,興味ある切り口で取り上げました.輸血製剤供給機関である日本赤十字社の最近の取り組みも,知っておきたいところです.さらに,細胞移植療法というくくりでのトピックスを解説いただきました.最後に,輸血関連の各認定資格,それらを取得する実際を紹介していただきましたので,資格を目指している方は参考にしていただけたらと思います.

輸血関連感染症の克服に向けて

著者: 松林圭二

ページ範囲:P.1592 - P.1598

Point

●全ての献血血液に対して,B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),ヒト免疫不全ウイルス(HIV),ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1),ヒトパルボウイルスB19(PVB19),梅毒トレポネーマ(TP)について高感度スクリーニング検査が実施されている.

●検査精度の向上,問診強化や初流血除去,保存前白血球除去の導入,遡及調査の実施などによって,輸血用血液の安全性は極めて高くなったが,依然として輸血感染事例は起きている.

●世界的な交通・流通網が発達した現代においては,温暖化や森林破壊などの影響により,世界各地で発生した新興再興感染症が一気に流行する可能性があり,注視していく必要がある.

輸血副作用とその対処

著者: 藤井康彦

ページ範囲:P.1600 - P.1606

Point

●血液製剤の適正使用,早期に鉄欠乏性貧血などの治療可能な貧血の改善を行うなど,輸血回避の総合的な取り組みを行う.

●ABO不適合輸血防止のために,患者血液型検査には2回別々の機会に採血した検体を用いる.また,患者と血液製剤の電子認証の推進などの院内体制の整備を行う.

●標準的な輸血実施時の患者観察,輸血副作用発生時の対応方法を院内に周知する.

在宅輸血療法

著者: 北澤淳一

ページ範囲:P.1608 - P.1612

Point

●2025年問題への対応として,医療は病院から在宅へ移行しており,輸血療法もその例外ではない.

●“設備が整った施設で実施する”と「輸血療法の実施に関する指針」で規定されている輸血療法が,在宅においても実施せざるを得ない状況がある.

●指針で規定されている条件と,在宅医療で実施可能な輸血医療のための検査,実施方法,有害事象への対応方法を熟知する必要がある.

最近の血液センターの取り組み

著者: 紀野修一

ページ範囲:P.1613 - P.1619

Point

●日本赤十字社では安全な血液製剤を安定的に供給するために,2012年より広域事業運営体制に移行した.

●輸血用血液製剤の安全性向上のための最近の取り組みとして,非溶血性輸血副作用に対する検査システムの変更,洗浄血小板の製造・供給などが挙げられる.

●血液製剤の有効利用を図るための最近の取り組みとして,抗原陰性血検索システムの導入,新鮮凍結血漿(FFP)の融解後使用期限の延長などが挙げられる.

細胞治療の最近のトピックス

著者: 髙橋敦子 ,   長村登紀子

ページ範囲:P.1621 - P.1627

Point

●細胞治療,遺伝子細胞治療がさまざまな開発スキームのもと,院内に導入されている.

●血液製剤には「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」,(非血縁者間)造血幹細胞移植は「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」,再生医療等の細胞治療に関しては「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」の順守が必要である.

●細胞治療担当者の資格制度として,細胞治療認定管理師制度と日本再生医療学会臨床培養士制度がある.

●院内の細胞治療用細胞の管理体制を整える必要がある.

輸血関連の認定資格

著者: 大谷慎一

ページ範囲:P.1628 - P.1631

Point

●輸血関連の認定資格は,日本輸血・細胞治療学会認定医,認定輸血検査技師,学会認定・自己血輸血看護師,自己血輸血責任医師,学会認定・臨床輸血看護師,学会認定・アフェレーシスナース,細胞治療認定管理師,輸血機能評価認定制度(I&A制度)の8つがある.

●認定資格を取得することで輸血関連の仲間が増え,スキルアップにもつながる.

輸血関連の認定資格取得の意義

著者: 坂本大

ページ範囲:P.1632 - P.1634

Point

●認定輸血検査技師資格試験の範囲は,「認定輸血検査技師カリキュラム」(改訂第2版)に示されている.

●認定輸血検査技師資格試験には,基本をしっかり修得し土台を堅固にしたうえで臨む必要がある.

●多職種のなかで認定輸血検査技師は,安心・安全な輸血療法を行ううえで重要な役割を担っており,説明能力などは資格取得の過程で修得できうるものと考える.

Salon deやなさん。・17

「再会と感謝の2日間」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 「お久しぶりです.論文を見ました.いい論文だと感服しました」

 突然の1通のメール.それは,私がこの8年間,忘れることのなかった病理医からのものでした.

Crosstalk 地域医療×臨床検査・11【最終回】

地域医療と臨床検査の交点—その展開

著者: 小谷和彦

ページ範囲:P.1599 - P.1599

 “Crosstalk 地域医療×臨床検査”を監修させていただいた.臨床検査が,地域医療で活躍している様子について,ほんの一端ではあるが紹介した.連載を終えるにあたり,解説を少しだけ加えたい.

 (狭義の)地域医療の実践は,“総合医”の診療にしばしば準えられる.特に地域の最前線での総合診療を特徴づけるエッセンスは,連載のなかに随所に表現されていた.複数の疾患をもつ高齢者に対する診断の話(第3,5,7話)にみる“幅広く,包括的”な診療や,検査結果に患者さんの人生を投影した話(第9話)にみる“患者中心で全人的”な診療は特徴的である.一見単調にみえる慢性疾患の管理のなかで,微かな病状の変化を解き明かした検査の話(第6話)にあるような“継続的”な診療もその特徴である.これとは逆に,疾患の超急性期の段階で複数の検査を駆使して診断した話(第4話)にあるような“ファーストタッチ(近い関係にある)”の診療も,特徴の1つである.検査の特性をよく理解して,短期に繰り返して経時変化を追うのは,プライマリ・ケアならではである.使える環境にあるなら臨床検査を迷わず行い,その値をもって判断するのは是なのである.

短報

在宅医療における心電図検査:普及に向けての課題と提案

著者: 山崎家春 ,   小谷和彦

ページ範囲:P.1635 - P.1637

Summary

 在宅医療において,心電図検査は基本的項目として普及してきている.在宅医療現場の環境は医療機関のそれとは同じではなく,在宅心電図検査の実施に際して,いくつかの考慮点があると思われる.本稿では,このなかでも特に感染やノイズ障害について取り上げる.また,近年話題となっているPOCT対応心電計についても取り上げ,在宅医療での活用を推進したい.

検査説明Q&A・39

血中β-D-グルカンが陽性ですが発熱もなく,侵襲性真菌症が考えにくい場合としてどんなものがありますか?

著者: 大林民典

ページ範囲:P.1638 - P.1640

■検体側の要因

 偽陽性を呈する場合にはさまざまな要因(表1)が考えられるが,第一に考えなければならないのは検体汚染の問題である.(1→3)-β-D-グルカン(以下,β-グルカン)は環境中にあまねく存在するため,検体採取から容器に移すまでの汚染,容器自体の汚染,検体処理中の汚染の可能性は常にある.検体を採り直して陰性であれば,汚染とみなすことができる.また,現在は前処理法が改良され問題がなくなったが,かつて検体の溶血や高濃度のγグロブリンが偽陽性の原因になっていたこともあり,一応確認しておく.血清分離の段階でフィブリン析出などによりすでに濁りがあれば偽陽性の原因となりうるので,遠心操作を十分行う必要がある.前処理により蛋白を可溶化できていないと思われるときは,過塩素酸などによる除蛋白を考慮する1)

生理検査道場・7

呼吸機能検査①(VC,FVC) 判読手順と異常値メカニズム

著者: 大久保輝男

ページ範囲:P.1641 - P.1647

スパイロメトリーの有用性

 呼気量や吸気量を時間記録することにより,肺活量(vital capacity:VC),努力性肺活量(forced vital capacity:FVC),1秒量(forced expiratory volume in 1 second:FEV1)などを測定する検査をスパイロメトリーといい,肺の換気機能力の評価を行う.スパイロメロリーの有用性には以下の事項が挙げられる.

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目次

ページ範囲:P.1544 - P.1545

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1590 - P.1590

書評 異常値の出るメカニズム 第7版

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1607 - P.1607

新たな魅力が加わり一層利用しやすくなった改訂版

 『異常値の出るメカニズム 第7版』が刊行された.本書は1985年に初版が出版されて以来,30年以上にわたって版を重ねている臨床検査医学領域の名著である.一度は目にしたことのある医療関係者も多いのではないだろうか.

 私は初版以来全ての版に目を通しているが,今回はこれまでで最も大きな変更があった.まず,初版からの編著者であった河合忠先生(自治医大名誉教授)が監修に回り,山田俊幸先生(自治医大教授)と本田孝行先生(信州大教授)による編集になった点である.また,本書の英文名がLaboratory MedicineからKawai's Laboratory Medicineに変更された.本田先生は今回から編者に加わっているが,実は第6版の書評を書いておられ,私はそれを読んだ覚えがある.そこには,信州大でReversed Clinicopathological Conference(RCPC)を実施するにあたり,『異常値の出るメカニズム』を10回以上精読したと書かれていた.本田先生自身が本書の愛読者だったわけである.

次号予告

ページ範囲:P.1620 - P.1620

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1627 - P.1627

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1650 - P.1650

 今年も残すところわずかとなりましたが,読者の皆さんにおかれましては,今年はどんな1年だったでしょうか? 今年は何と言っても,平昌オリンピックで大活躍されたカーリング娘たちのことが思い出されます.スポーツでありながら,戦術面での打ち合わせや休憩時に糖分補給のためのスイーツを食べる姿などが映像に映し出され,カーリングのいろいろな魅力を再発見することとなりました.また,出場チームが北海道の北見市に本拠地を置くLS北見であったことから,シリアスな場面展開でも方言で会話されており,聞いていて気持ちがほっこりとなりました.こうした影響から,職場や家でお昼休憩をとるときは,「“もぐもぐタイム”に行ってきます」や,何を言われても「そだねー」と返していたことが思い出されます.この場で,彼女たちに“感動をありがとう”と感謝の気持ちを伝えたいです.

 スポーツの話題でもう1つ.2018 FIFAワールドカップ ロシア(サッカーワールドカップ)も大いに盛り上がりました.下馬評は今一つでしたが,西野ジャパンがコロンビア戦に劇的な勝利を収めたことから,一気に盛り上がることとなりました.大迫選手らの活躍により,10年前に大迫選手のライバルであった高校生の言葉が注目されました.「半端ないって」.実は私も,若かりし頃は使っていました.最近はもう使うことはほとんどなくなりましたが,そのイントネーションなのか語呂のせいなのか,小気味よく聞こえます.

「臨床検査」 第62巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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