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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査62巻2号

2018年02月発行

雑誌目次

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.113 - P.113

 脳卒中による死亡は減少しているとはいえ,その後の寝たきりや麻痺などの後遺症が患者のADLを低下させる大きな原因となっています.脳卒中のガイドラインも2015年の改訂によってさまざまな新しい知見が追加され,時間の重要性が再確認されました.“Time loss is Brain loss.”と言われるほど,時間がとても重要な疾患です.

 今月号では,臨床検査技師が知っておきたい,脳卒中診療に必要なスキルをアップデートしていただける特集を目指して,脳卒中の分類と疫学,各種モダリティーによる診断方法や治療法など,第一線で活躍している先生方に執筆をお願いしました.また,実際の急性期管理におけるSCU(stroke care unit)の役割や今後の課題などについてもわかりやすく解説をお願いしました.

 担当業務の方はもちろん,他のモダリティーなどの担当業務でない方も興味深くご覧いただける内容となっています.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

脳卒中の疫学とその分類

著者: 松尾龍 ,   鴨打正浩

ページ範囲:P.114 - P.120

Point

●脳卒中は,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血の3大病型に分類され,このうち脳梗塞はさらに,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞に分類される.

●各臨床病型は発症機序や病態が異なっており,治療法も異なるため,画像や臨床検査によって迅速かつ適切に診断を行うことが重要である.

●脳卒中の死亡率には減少傾向がみられるが,脳卒中は介護の最も大きな原因であり,生活の質(QOL)の低下につながるため,予防と後遺症の改善が今後の課題である.

TIAと脳梗塞の診断に必要な検査と治療

著者: 立石洋平

ページ範囲:P.122 - P.128

Point

●脳梗塞における急性期再開通療法は,組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)静注療法と脳血管内治療である.

●脳梗塞における急性期再開通療法の適応を考慮するため,さらには治療効果を予測するために,頭部CT+CT angiographyまたはMRIが必要不可欠である.

●一過性脳虚血発作(TIA)は軽症ではない.症状再発リスクを適切に予測し,治療介入することが必要である.

脳出血の診断に必要な検査と治療

著者: 深谷春介 ,   河本俊介

ページ範囲:P.130 - P.137

Point

●脳出血の有無の診断にはCT検査が有用である.

●出血源となる病変の検索にはCT血管造影(CTA),MRI,頭部血管撮影を用いる.

●脳出血は救急疾患であり,患者の状況によって検査,治療など優先順位を決める.

くも膜下出血の診断に必要な検査と治療

著者: 細田弘吉

ページ範囲:P.138 - P.143

Point

●くも膜下出血の診断で最も有用かつ重要な検査はCTである.脳動脈瘤の部位決定や手術計画の検討には,CT angiographyが極めて有用である.

●CTで診断がつかないときは,MRIや腰椎穿刺が有用なこともある.

●脳動脈瘤の部位診断や手術計画の検討には,侵襲的ではあるが,経動脈カテーテル法による脳血管撮影が最も有用である.

●治療法には,開頭によるクリッピング術と血管内治療であるコイル塞栓術がある.それぞれの長所・短所を考慮して個々の患者に最適の治療法を選択する.

頸動脈超音波検査の最新技術と今後の課題

著者: 大浦一雅 ,   大庭英樹 ,   寺山靖夫

ページ範囲:P.144 - P.149

Point

●3D超音波検査によって頸動脈プラークの体積を測定することが可能である.プラーク体積は内中膜複合体厚(IMT)やプラーク面積よりも鋭敏に治療効果の判定が可能である.

●超音波造影剤を用いた造影頸動脈超音波検査によって,プラーク内新生血管を観察することが可能である.頸動脈内膜剝離術の術前に造影頸動脈超音波検査を施行することで,術中の微小塞栓信号(MES)を予測することができる.

●SMIによって,造影剤を使用せずに頸動脈プラーク内の新生血管を観察できる可能性がある.

●FusionによってMRI・CTと同一の部位をリアルタイムに観察することが可能となり,経時的および検査者間での再現性の改善が期待される.

急性期管理におけるSCUの役割

著者: 藤田恭平 ,   豊田一則

ページ範囲:P.150 - P.154

Point

●脳卒中急性期には,stroke care unitで全身管理をすることが脳卒中治療ガイドラインで勧められている.

●脳卒中急性期治療では,rt-PA静注療法や血管内治療の適応を速やかに決定し,治療開始までの時間をできるだけ短縮しなければならない.

●脳卒中には全身合併症が多い.

●脳卒中および全身合併症の管理には,多職種によるチーム医療の質を高めることが重要である.

院内発症脳卒中に対する病院の対応—東京慈恵会医科大学附属病院における緊急時対応

著者: 河合昭人 ,   北條文美

ページ範囲:P.155 - P.160

Point

●院内発症脳卒中は迅速な対応で予後の改善が期待できる.

●スタットコールは,緊急蘇生処置の必要な患者が発生し,他の医療スタッフなどの応援を必要とする場合に,緊急招集の呼び出しコールとして運用している.

●院内迅速対応システム(RRS)対応は,患者の状態が不安定になり迅速な対応が必要と判断された場合に,第三者の意見を仰ぐために誰でも発令することができるシステムである.

●院内発症脳卒中対応とは,院内で脳卒中を疑うような所見を認めた場合,少しでも早く治療が開始できるよう発令するシステムである.

今月の特集2 実は増えている“梅毒”

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.161 - P.161

 梅毒の検査は感染症スクリーニングとしてかなり一般的に行われてきた検査です.疾患としての梅毒は,しばらくは患者数は少ない状態が続き,症例を経験する医師が限定されていると聞きます.検査する側も,検査の重要性にいくばくかの疑問をもちながらも,決め事だからと漫然と向かいあってきた印象があります.しかし最近,患者数は増加傾向にあります.2017年の感染者は5,000人を超え,これは44年ぶりとのことです.

 本特集では,まず梅毒の歴史から学び直し,現在の臨床像,検査の現状と精度管理,検査が陽性となる病態,スクリーニング結果への対応など,知識をリフレッシュすることを意図して企画しました.この疾患を正しく理解して,梅毒検査の意義を再認識していただけたら幸いです.

梅毒の疫学—歴史と現在の遺伝子解析から

著者: 早川直 ,   早川智

ページ範囲:P.162 - P.167

Point

●梅毒の原因となるTreponema pallidumは,15世紀末に新大陸からヨーロッパにもたらされ,20年の間に東アジアまでパンデミックとなった.

●梅毒はペニシリンの発見後,減少していたが,過去10年の間に世界的に再流行している.わが国でも過去5年間,毎年倍増しており,年間届け出患者数は5,000人近くに達する.

●最近の患者数の増加は,若年女性の異性間性交渉によるものが多く母子感染の直接的な要因となる.

●最近の流行株は古典的なNichols株からマクロライド耐性を有するSS14株に置き換わっており,ペニシリンアレルギー患者(特に妊婦)の治療には再考を要する.

梅毒の臨床像,診断と治療

著者: 大里和久

ページ範囲:P.168 - P.175

Point

●梅毒の再流行は梅毒の側に問題があるのではなく,ヒトの側に問題がある.

●梅毒検査の自動化に伴う検査数値の解釈には慎重でなければならない.

●潜伏梅毒の病期診断は感染力の有無,治療の要否などの判断に重要である.

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染発見の指標疾患として梅毒の役割は大きく,男性では特に重要である.

梅毒検査法の現状

著者: 行正信康 ,   十良澤勝雄 ,   福地邦彦

ページ範囲:P.176 - P.182

Point

●梅毒の診断は,病原体T.p.(Treponema pallidum subsp. pallidum)に感染することで産生される抗体を検出する,梅毒血清反応が用いられる.

●梅毒血清反応は,脂質であるカルジオリピンを抗原とする非特異的な検査法と,T.p.を抗原とする特異的な方法を組み合わせて実施する.

●感染症関連の抗体検出検査であるため,ウインドウピリオド,偽陽性・偽陰性の発生など,各種検査法の特性を理解して判断する必要がある.

●梅毒血清反応は,用手法から自動化法への移行が急速に進み,多数の診断薬が認可されている.しかし,標準化の点において種々の問題点が解決されているとはいえない.

梅毒検査の精度管理

著者: 池田眞由美 ,   堀内裕次 ,   及川信次 ,   福島篤仁 ,   菱沼昭

ページ範囲:P.183 - P.189

Point

●臨床検査の有用性は,品質の保証できる検査結果を継続的に臨床の場へ提供することにある.

●梅毒検査は,基準測定法や標準物質が確立されておらず,施設間差も大きい.

●梅毒検査の技術管理を構築し,内部・外部精度管理による是正・改善を進めて検査の信頼性を保つことが必要である.

生物学的偽陽性と抗リン脂質抗体

著者: 狩野皓平 ,   奥健志

ページ範囲:P.190 - P.196

Point

●梅毒検査では,梅毒に感染していないにもかかわらず血清反応が陽性となる,生物学的偽陽性(BFP)をしばしば認める.

●BFPは自己免疫疾患などで認められるが,特に抗リン脂質抗体症候群(APS)との関連が深い.

●APSとは病原性自己抗体である抗リン脂質抗体(aPL)が産生され,動脈血栓症,静脈血栓症,習慣性流産などを引き起こす自己免疫疾患である.

●BFPをみた際はAPSの可能性を念頭に置くべきである.

無症候者における梅毒スクリーニング検査の重要性

著者: 笹原鉄平

ページ範囲:P.197 - P.200

Point

●梅毒スクリーニング検査には非トレポネーマ試験のRPR試験を選択する.

●妊婦健診では必ず梅毒スクリーニング検査を実施する.

●性感染症患者では,必ず梅毒検査を含めた性感染症スクリーニング検査を実施する.

●梅毒スクリーニング検査陽性者に対する感染対策は,標準予防策で十分である.

●針刺し切創における梅毒トレポネーマの感染対策や曝露後予防については確立されたものがない.

検査レポート作成指南・23【最終回】

血管超音波検査編

著者: 佐藤洋

ページ範囲:P.201 - P.213

■序言

 血管超音波検査は,血管領域の検査にもかかわらず,美しい診断価値の高い画像を記録したとしても,報告書が適切に書かれていなければ,十分な検査を行ったとはいえない.


■検査報告書を書く前に

 わかりやすい報告書を書く前に,まず正しい検査が実施できているということが重要である.

 ①検査部位の解剖が理解できている,②主治医からの依頼内容が理解できている,③検査結果が自分のなかで十分に理解できている,④診断が正しい,⑤治療法が理解できている,⑥他の画像診断や検査データを検査者自身が読める,⑦正しく装置を扱える,⑧鑑別診断が必要となる疾患を知っている,などの項目をクリアしたうえで,検査や報告書作成に臨んでいただきたい.

研究

病理組織標本における波長依存性退色

著者: 富安聡 ,   三宅康之 ,   高木翔士 ,   大田喜孝 ,   佐藤信也

ページ範囲:P.214 - P.219

Summary

 病理診断では,HE染色とともに多くの特殊染色が行われている.染色標本は,保存状態によって退色してしまうことがあり,その原因の1つとして光による影響がよく知られている.そこで,筆者らはHE染色および結合組織染色標本を用いて,さまざまな光負荷条件で退色の原因となる波長を検討した.その結果,全染色標本ともに紫外線B波(UVB,波長302nm付近)による顕著な退色が認められ,退色の主な原因が明らかとなった.

Salon deやなさん。・9

サクラサイタが青春は来ず

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.220 - P.220

 「……」.カシャ…….携帯電話のカメラのシャッター音が淋しく響く.

 私は1人,某大学医学部修士課程社会人入試の合格者番号が書かれた紙を前に静かに立ち尽くしていた.こういうシステムだったのね…….一度やってみたかった.掲示板の前で「よっしゃ〜!」とか「え……うそだ……」とか.高校入試の合格発表では15歳の“恥じらい”が邪魔をしてそうはさせなかった.だから,ドラマやニュースで見るような,掲示板の前で叫んだり,膝から崩れ落ちる【青春】を味わいたかった.そのために,わざわざ北海道から大都市Tokyoまで合格発表を見に来たのだ! インターネットでの発表もあるが,【青春】をやるために!

Crosstalk 地域医療×臨床検査・3

「見る」ことで得られる根拠

著者: 寺裏寛之

ページ範囲:P.221 - P.221

 自治医科大学は地域医療に従事する総合医を養成している.学生教育では,臨床実習(bed side learning:BSL)が4年生から始まり,約2年間にわたるカリキュラムで,期間が長い.卒業後に地域医療の第一線で活動する準備段階として,臨床実習を重視しているのである.臨床実習で指導を受けるのは,問診,身体所見,全体を“見る”ことの大切さである.全体を“見る”とは,患者や地域をみることはもちろんだが,診断に根拠をもつために患者の検体を目視することも含まれる.例えば,伝染性単核球症の血液像における異型リンパ球や,皮膚の鱗屑からKOH法による白癬菌を見る方法を実践する.地域医療の現場においても学生時代の教えが役立っている.

 岩手県立千厩病院(以下,当院)の肺炎に罹患した80歳代後半の女性患者の話である.患者は,抗菌薬投与で元気になり,経口摂取量も安定した.来院時の胸部X線写真検査では,片側性の胸水を認めた.胸水ドレナージを行ったところ,ドレナージした胸水は滲出性胸水,培養結果は陰性,悪性細胞の検出もなく,炎症性胸水であったと考え,尿検査結果も考慮したうえで,今回の病態は肺炎の診断で適当であったと考えられた.今後は施設入所の日を待ちながら当院で過ごしていただく方針となった.患者には肺炎が治癒したので,治療が終了したことを告げた.ある日,回診前にこの患者の温度版を確認すると,それまで安定してしいたはずの体温が37℃台となっていた.退院や今後の方針が決定すると,それまで安定していた患者が発熱する場面に遭遇するのは私だけではないはずだ.この患者は高齢であり誤嚥のリスクもあることから,肺炎を再発していないか心配だ.これまでの経過が順調であったので,医学的根拠のない妄想をして発熱からの現実逃避をする.当院を離れたくないのか,それとも退院する日がうれしいために興奮して発熱したのだろうか.そもそも,37℃台の体温は発熱というのだろうか.しかし,上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)の著書によると,高齢者の腋窩温は36.2(35.7〜36.6)℃で若年成人よりも0.3℃低く,日内変動は0.4℃,成人の日内変動は1.0℃であることから,高齢者は1.0℃以上体温が高いと,発熱と判断したほうがよいということである1).わかっているのだが,やはり発熱している現実を直視し,患者のベッドサイドに足を運ぶ.

寄生虫屋が語るよもやま話・24【最終回】

忘れ得ぬ人たち—最終回に際して—日本住血吸虫症

著者: 太田伸生

ページ範囲:P.222 - P.224

 2年余りにわたって本誌に連載をもたせていただいた.当初は1年間だけということで思い付くことを書き並べてみたのであるが,2年間余りということになると,著述業の人間でもない限りそうそう話題が続くものでもなく,読者の皆さまには筆者の息切れが伝わったことかと思う.今回で一応打ち止めとさせていただくべく,わが身の来し方を振り返りながら筆を執らせていただく.

 私は大学院で日本住血吸虫症の研究を行って学位を得た.研究室は免疫学がテーマであったので,住血吸虫感染者の免疫応答の多様性に関する制御機構を解析するというのが研究課題であった.そのために,山梨県の日本住血吸虫症流行地の住民の皆さまに採血をお願いして,リンパ球の免疫応答を解析した.大学院在学中から流行地をレンタカーで回って住民のご自宅を訪問して採血に協力いただいていた。大学院の修了後に2年半の米国留学によるブランクを挟み,帰国後は国立予防衛生研究所(現在の国立感染症研究所)に異動したものの,同様のアプローチから研究を進めることができた.もちろん,若造の私を上司が温かく指導してくださったことに加えて,山梨県内の流行対策に直接あたっておられた山梨県衛生公害研究所の担当者の方々が親身になって協力をしてくださったからこそ実施できた研究であった.山梨で採血した後に東京・御茶ノ水の大学に戻り,直ちに実験に取りかかっても徹夜作業になり,始発電車で帰宅して仮眠した後に登校し,同じ日の終電で帰宅したことも今では若き日の思い出になっている.そんな状況を支えていただいた皆さまに謝意を述べても尽きることがないのだが,私にとって“忘れ得ぬ人たち”とは,若造研究者に貴重な血液を提供してくださった流行地住民の方々である.

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「検査と技術」2月号のお知らせ

ページ範囲:P.109 - P.109

次号予告

ページ範囲:P.129 - P.129

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.167 - P.167

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.228 - P.228

 今月号の特集は「脳卒中」と「梅毒」です.語感からは古めかしい印象をもたれるかもしれませんが,内容はもちろんアップデートなことが満載ですので,堪能していただけたらと思います.

 ところで,医学用語の表記はなかなか奥が深く,難しいものです.例えば,「パニック値」という用語は,海外の文献に由来する表現で,国家試験のガイドラインにもあるくらいの市民権を得たものですが,実際に臨床の場で医師に報告する際に使用すると,“なんだそれは?”と違和感をもって聞き返されることがあるそうです.そのため,“緊急報告することになっている結果なので……”などと説明することが多いようです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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