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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査63巻1号

2019年01月発行

雑誌目次

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!

著者: 山内一由

ページ範囲:P.5 - P.5

 50兆円に及ぶ医療・介護費の抑制は,重大かつ喫緊の課題です.放置すれば,国民皆保険制度や年金制度の維持はままならなくなります.どうしたらよいか? その答えは明白です.平均寿命を限りなく健康寿命に近づければよいのです.しかし,言うは易し行うは難しです.医療人の力だけで実現できる,たやすい目標ではありません.しかし,initiativeを取らなければならないのは,私たち医療人です.

 健康長寿の実現には,疾病の発症を的確に予測し発症前に治療介入していくこと,すなわち先制医療の実践が不可欠です.“先んずれば病を制す”です.

 本特集では,医療計画において重要課題となっている5疾病(癌,心疾患,脳卒中,糖尿病,精神疾患)を対象とした先制医療と,その一翼を担う臨床検査を取り上げました.

 オバマ元米大統領が,年頭教書においてprecision medicine initiativeを提唱してから4年.2019年年頭にあたり,遅ればせながら本誌でも,先制医療にフォーカスを当ててみました.preemptive medicine initiative!

先制医療—先制医療を実現するために望まれる診断システム

著者: 齋藤邦明

ページ範囲:P.6 - P.11

Point

●先制医療とは,バイオマーカーを用いることで,高い精度で発症予測・診断を行い,発症前の適切な時期に治療的介入して発症を予防,あるいは遅らせる新しい医療のパラダイムシフトである.

●先制医療の実現には,生体の異常を健常と疾患の二元的な病態概念から切り離し,全身の健康状態の推移を健常,不健康(疾患予備群),軽症,重症のように連続的な病態として捉える必要がある.

●先制医療には,不健康状態を客観的に判断し新しく発症前診断(先制診断)できるシステムの開発が必須であり,品質保証されたバイオリソースの系統保存と個々人の正確な個人健康・医療情報を含んだビックデータの活用が重要である.

癌の先制医療

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.12 - P.17

Point

●癌組織に生じている遺伝子変異を網羅的に解析し,診療に活用するがんゲノム医療が,研究段階から医療実装の段階に入った.

●わが国でも厚生労働省を中心に,がんゲノム医療の推進と国内での標準化を図るための取り組みがなされている.

●がん遺伝子パネルの他,コンパニオン診断も導入された.これらの検査では,二次的に遺伝性腫瘍の存在が明らかになる場合がある.

●血液中の浮遊DNAを用いて癌の超早期診断や経過観察,薬剤耐性獲得のモニタリング,予後予測などを行うリキッドバイオプシーの研究が,実用化に向けて進められている.

●がんゲノム医療の推進には解決すべき課題も多いが,新たな水準の癌診療を実現するために,国家レベルでの取り組みが必要である.

心疾患の先制医療

著者: 大塚文之 ,   安田聡

ページ範囲:P.18 - P.24

Point

●虚血性心疾患の多くは冠動脈硬化に起因し,動脈硬化性プラークの破綻によって血栓が形成され,急性冠症候群の発症に至る.

●急性冠症候群発症のハイリスク症例を同定するために,さまざまなバイオマーカーや画像診断技術が活用され,発症前の治療介入が試みられている.

●治療介入のなかでは,脂質低下薬として知られるスタチンによる心血管イベント抑制効果に関するエビデンスが豊富であり,ゲノム情報に基づくリスク層別化が治療の恩恵を受けやすい症例の抽出に役立つ可能性も示されている.

●個々のレベルでより正確にイベント発症リスクを予測し,適切なタイミングで効果的な治療介入を行うためには,さらなる研究成果の集積が必要である.

脳血管障害における先制医療

著者: 植木香奈 ,   吾郷哲朗 ,   北園孝成

ページ範囲:P.26 - P.31

Point

●脳ドックの普及などにより,無症候性脳血管障害の発見が増えている.無症候性病変を症候化させないための先制医療が必要である.

●脳血管障害のなかで,最も重症度が高く寝たきりや介護の原因となる心原性脳塞栓症に対しては,特に積極的な先制医療を施す必要がある.

●脳血管障害ハイリスク患者では,発症後の転帰まで考慮に入れた先制医療を施すことも必要かもしれない.

糖尿病の先制医療

著者: 鈴木和代 ,   福島光夫 ,   稲垣暢也

ページ範囲:P.32 - P.36

Point

●先制医療は糖尿病ハイリスク群を科学的根拠に基づいて絞り込むことで,個人に応じたテーラーメイドな発症予防戦略を提供できる.

●2型糖尿病に対する先制医療を実施するために,個人の網羅的な遺伝素因の解析,胎生期から成人後の環境による個体への影響の評価,バイオマーカーの開発などが有用と考える.

●臨床検査は,糖尿病診断検査から糖尿病リスク抽出検査へとその範囲が広がると想定されるため,臨床検査技師の果たす役割は今後ますます重要となる.

精神疾患の先制医療

著者: 宮田聖子 ,   尾崎紀夫

ページ範囲:P.37 - P.41

Point

●精神障害の診断は精神症状に基づいてなされ,患者の訴えが不十分な場合や精神症状が共通する疾患の場合などでは,診断や治療開始の遅延,不適切な治療選択につながりうる.

●睡眠や眼球運動といった症状を客観的に評価することにより,疾患群と健常者との判別が可能となりつつある.

●ゲノム解析技術を含むオミックス解析によるバイオマーカー同定がなされれば,精神障害の診断法開発や,分子病態同定から治療法・予防法の開発につながりうる.

●精神症状による診断法に臨床検査を加えることで,患者が受ける医療の質の向上や患者のQOL向上につながることが期待されている.

今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.43 - P.43

 検査部門では,患者がどのような治療を受けているか,カルテや依頼書に記載されている治療薬はどのようなものなのかにつき,業務のなかで把握することはなかなか難しいものです.ご存じのように,薬は,その効果または副作用として検査値に少なからず影響することから,その使用目的や作用について,ある程度の知識をもつことが望まれます.また,新薬登場のペースは検査試薬より速く,知識の入れ替えが頻繁に必要となります.

 本特集では,脂質異常症,糖尿病,血栓症(予防),炎症など頻度が高い病態を取り上げ,使われる治療薬をまずは知ってもらい,そのうえで検査値への影響を理解してもらうことを目的としました.悪性腫瘍については,化学療法前の検査という視点で取り上げました.検査値からみた治療効果と副作用の線引きは難しいところがありますが,専門の執筆者の方々にはうまくまとめていただきました.

脂質異常改善薬

著者: 岡村英利奈 ,   塚本和久

ページ範囲:P.44 - P.51

Point

●脂質異常症の治療の基本は食事療法・運動療法であるが,改善が不十分な場合には内服加療を開始する.

●脂質異常症は世界保健機関(WHO)分類により大別され,それぞれに適した薬を選択する.

●内服薬には副作用があり,特に横紋筋融解症には注意が必要である.

糖尿病治療薬(血糖降下薬)の効果・副作用と検査値

著者: 高門美沙季 ,   大澤春彦

ページ範囲:P.52 - P.59

Point

●インスリン抵抗性改善系薬には,ビグアナイド(BG)薬とチアゾリジン(TZD)薬がある.インスリン分泌促進系薬には,スルホニル尿素(SU)薬,速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬),ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬がある.

●糖吸収・排泄調整系薬には,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI),ナトリウム依存性グルコース輸送体2(SGLT2)阻害薬がある.

●注射薬には,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬とインスリンがある.

●低血糖リスクの高い薬剤は,SU薬,グリニド薬,インスリンである.単独では低血糖リスクの少ない薬剤も,これらとの併用時には低血糖に十分注意する.

抗血栓薬

著者: 森田隆雄 ,   矢坂正弘

ページ範囲:P.60 - P.67

Point

●ワルファリンの指標にはプロトロンビン時間-国際標準化比(PT-INR)を用いる.非弁膜症性心房細動の場合,治療域は,70歳以上では1.6〜2.6,70歳未満では2.0〜3.0である.他の多くの血栓塞栓症の予防では,2.0〜3.0の治療域が用いられる.

●ヘパリンの指標には活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が用いられる.前値と比較して,1.5〜2.5倍(もしくは2.0倍)を目標にする.

●ダビガトランに対しては,APTTと希釈トロンビン時間が有用である.APTTはトラフでもピークでも60秒ないしは70秒を超えないことを目安とする.

●Ⅹa阻害薬療法中にPT-INRが変動しうるが,その意味づけは明らかではない.抗Ⅹa活性が各Ⅹa阻害薬の血中濃度と高い相関を示すことから,抗Ⅹa活性測定の意義に関する今後の研究が期待される.

抗炎症薬の薬理作用と検査値への影響

著者: 岡田直人 ,   石澤啓介

ページ範囲:P.68 - P.74

Point

●ステロイドは細胞質内に存在するグルココルチコイド受容体(GR)と結合し,ゲノム的・非ゲノム的作用により,炎症性サイトカインなどの遺伝子発現を調節する.

●ステロイド-GR複合体はさまざまな遺伝子発現を調節するため,生体内では多彩な薬理作用を示す一方で,種々の検査値へも影響を与える.

●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,シクロオキシゲナーゼ(COX)の非選択的阻害によりプロスタグランジン類の合成を阻害することで抗炎症作用を示すが,胃粘膜障害や急性腎障害などの副作用を生じる.

抗リウマチ薬

著者: 亀田秀人

ページ範囲:P.76 - P.81

Point

●関節リウマチ(RA)の治療効果の判定には赤血球沈降速度(ESR),C反応性蛋白(CRP),マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)が参考になり,リウマトイド因子(RF)や抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体の力価は治療効果の判定に用いない.

●合成抗リウマチ薬(DMARDs)の副作用としては,皮疹と肝障害が比較的共通してみられ,複数の薬剤を同時に開始すると原因薬剤の判断が困難になるため,同時併用ではなく開始時期をずらした追加併用が一般的である.

●生物学的製剤の有害事象は感染症と過敏反応に大別され,感染症のリスク要因は高齢,既存の肺合併症,副腎皮質ステロイド併用が共通している.

●インターロイキン6(IL-6)阻害製剤による白血球(好中球)減少の多くは白血球の局在変化に伴うものであり,感染症リスクと関連しない.ただし,IL-6阻害製剤投与中には,感染症に罹患してもしばしばCRPが正常範囲内であることに留意する.

抗悪性腫瘍薬と化学療法前検査

著者: 川井英嗣 ,   松下弘道

ページ範囲:P.83 - P.91

Point

●殺細胞性抗腫瘍薬は各種疾患に対する多剤併用化学療法のなかに組み込まれており,特徴的な副作用を有する.

●分子標的薬は大きく,低分子化合物によるキナーゼ阻害薬と抗体薬の2つがあり,それぞれに特徴的な副作用を有する.

●各薬剤の特徴的な副作用を整理し,化学療法開始前および開始後の適切な時期に必要な検査を施行する必要がある.

Salon deやなさん。・18

「南国,鹿児島! 人も気温も熱かった!」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.75 - P.75

 「お客さん,関西の人?」

 鹿児島大学へ向かうタクシーに乗車するなり投げかけられる質問.「あっ,はい.兵庫県出身です」.どこに行っても必ずといっていいほど聞かれるこの質問には,もう慣れたもの.「やっぱり! 私も,30年ほど前に大阪に住んでいましてね」.タクシーの運転手さんのテンションと声のトーンがいきなり跳ね上がる.運転手さんの熱き大阪時代の昔話を聞くこと30分間,目的地に到着.「熱いな,運転手さんの大阪愛……私は兵庫県民だったんだけども……」と思いつつも,運転手さんがうれしそうだったので,まぁ,いいか.

Essential RCPC・7

健診で貧血と肝機能異常を指摘された69歳,男性

著者: 田部陽子

ページ範囲:P.92 - P.96

症例

69歳,男性.

生理検査道場・8

呼吸機能検査②(VC,FVC) 判読の極意

著者: 大久保輝男

ページ範囲:P.97 - P.103

はじめに

 前回は,呼吸機能検査の判読に際しての基礎的な事項について解説した.今回は,実際の症例を提示しながら,判読のポイントについて述べる.

検査説明Q&A・40

CREとCPEの違いは何ですか?

著者: 鈴木智一

ページ範囲:P.104 - P.108

■はじめに

 近年,薬剤耐性菌に関して話題となる場面が多い.抗菌薬適正使用や院内感染対策などの場では基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamases:ESBLs)産生腸内細菌が問題となり,これに続くように,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)が問題となっている.CREは,2014年9月から感染症法5類に指定され,届け出の対象となっている.

 CREが検出されたとき,微生物検査室が存在する施設であれば,微生物検査担当の臨床検査技師から各診療科医師や看護師などへ正確な情報の提供や説明が可能であると思われる.一方,微生物検査を外注している施設では,CREに関する説明に戸惑うことが多くなるのではないかと推測される.

 本稿では,CREとカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae:CPE)の違いについて,臨床検査技師が他の医療従事者へ説明する際の参考となるようにまとめる.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

書評 病歴と診察で診断する感染症—System1とSystem2

著者: 青木眞

ページ範囲:P.109 - P.109

愚直なSystem2的診断がSystem1をも養う

 診断プロセスの中で,System1は直感的思考,System2は分析的思考を指すが,感染症は短時間で病像が完結するものが多くSystem1を応用できる症例が少なくない.本書は志水太郎,忽那賢志両先生による感染症診断プロセスのわかりやすい説明に続き,System1,すなわち直感によるSnap Diagnosisが可能であった症例群と,System2すなわち分析思考によって初めて診断可能となった症例群に大別して編集してある.ベテラン・カリスマ医師らによる著作であることも手伝い,大変刺激的・教育的でかつ読みやすいものとなっている.

「検査と技術」1月号のお知らせ

ページ範囲:P.42 - P.42

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.81 - P.81

次号予告

ページ範囲:P.82 - P.82

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.112 - P.112

 新年,明けましておめでとうございます.年末年始はゆっくりお休みになれましたでしょうか.今年は30年間続いた平成が終わり,5月1日から新元号がスタートする節目の年となります.改元前後は大型連休になるため,今から予定を立てている方もいらっしゃるかと思います.

 1989年1月7日,当時の小渕恵三官房長官が行った発表会見は今でも鮮明に覚えていますが,“平成”という元号には“国の内外にも天地にも平和が達成される”という意味が込められていたそうです.明治・大正・昭和という3つの時代において歴史的な戦争を経験してきたなかで,平成の30年間は元号に込められた思い通り,初めて戦争のない世の中になりました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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