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雑誌目次

論文

臨床検査63巻10号

2019年10月発行

雑誌目次

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

序文

著者: 平石直己

ページ範囲:P.1079 - P.1079

継続的な改善ができる組織づくりのために

 近年,ISO15189認定取得施設が増えています.さかのぼると,2016年度の診療報酬改定における「国際標準検査管理加算」の新設がきっかけとなり,院内での臨床検査室の信頼向上や経営的メリットにつながることを期待して,認定取得を目指す施設が増えたように思います.ISO15189が浸透し,その概念が理解されていく中で,臨床検査室の質の向上・品質管理の面からも必要性を感じ,認定取得に向けて準備を始めた施設もあるのではないでしょうか.

 ISO15189は臨床検査に従事する者,取引業者,又臨床検査室を取り巻く人々のためにある国際規格です.臨床検査室の質の向上はもとより,業務改善の継続的な実施,働く人々の教育・育成,安全性などについても明確に求められているため,維持継続していく中で,組織としての成長が期待できます.その一方で,認定取得を目指したいものの,“ISO規格要求事項の内容が理解しにくい”といった声も聞かれます.

Part.1 総論

ISO15189の概要

著者: 下田勝二

ページ範囲:P.1084 - P.1088

 社会経済全般としては,国際化や標準化の潮流に乗り遅れると大きく国益を損なう現状にある.そのような中で,われわれが担っている臨床検査においても,その質に関して諸外国と同等の水準や国際的な第三者による技術的な評価・認定が求められることが近年多くなってきている.ISO15189はまさに臨床検査室の質の保証(品質保証)を国際的な水準で行う際の1つの物差しであり,ツールでもある.海外ではその要求事項は当然のものとして受入れられている.国内外における現状に鑑み,本稿では総論としてその必要性や立ち位置,認定施設の推移を含めた動向にも触れながらISO15189を概説する.

ISO15189認定取得の意義

著者: 中島哲

ページ範囲:P.1089 - P.1091

 ISO15189は,それぞれの病院が自施設に合った臨床検査室のルールを明確に文書化し,適切に実施しているのかをISO審査機関〔日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board:JAB)〕に証明してもらう第三者認証制度になる.その中で,臨床検査室の方向性を担っている臨床検査部長並びに臨床検査技師長は検査室管理主体と呼ばれ,責務が明記されている.本稿では,検査室管理主体としてISO15189にかかわってきた経験をもとに,検査室管理主体の役割,心構え,組織力を発揮するための方策を示す.又,ISO15189 QMS(quality management system)導入の意義,ISO15189取得のメリット・デメリット並びに指摘をどのように捉え,そこからどのように展開すれば臨床検査室の組織力アップにつながるのかを述べる.

Part.2 4章 管理上の要求事項

「管理上の要求事項」の概要

著者: 小野佳一 ,   佐藤智明 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.1094 - P.1103

 臨床検査を取り巻く環境が目まぐるしく変化している中,臨床検査室は自らの組織を強化し,変化に柔軟に対応しながら病院内で必要とされる存在にならなければならない.認定検査室ではISO15189のマネジメントシステムであるPDCA(Plan,Do,Check,Action)サイクル(図1)を用いて継続的な改善を行う.

 まず,品質マネジメントシステムの構築として,検査室管理主体の責務の明確化,品質方針・品質目標の設定及び品質計画の策定,品質マニュアルの作成を行う.次に品質マニュアルの手順に沿って業務を行いながら,委託先検査室や供給品業者の管理・評価,不適合事例や苦情への対応,利用者のニーズの把握とそれに合致したサービスの提供を行っていく.さらに,ISO15189の要求事項に照らして妥当かどうかを内部監査でチェックする.これら一連の流れをマネジメントレビューとして検証し,問題点を改善しながら次の目標へつなげていく.精確な検査結果の提供だけでなく,ISO15189のマネジメントシステムを活用して,自施設の検査室を活気のある魅力的な検査室になるように心掛けることが重要である.

Part.3 5章 技術的要求事項 5.1 要員

検体検査からみた「5.1 要員」

著者: 永井正樹

ページ範囲:P.1106 - P.1110

 近年,検体検査業務の大部分が機械化及びシステム化されているが,それを適正に管理するのはあくまでも“人”である.したがって,品質の高いデータを提供するには,“人”を適切に確保し,確保した要員を一人前に成長させ,それを維持管理する仕組みが不可欠である.

 本稿では,その“人”である要員に関する要求事項について解説する.要員が一人前になるためには,採用時などのオリエンテーションをはじめ,徹底した教育・訓練が不可欠である.又,教育・訓練も実施して終わりではなく,適正に力量を評価し,備わった力量に見合った責務を与えるべきである.そして,各要員に関するさまざまな記録を適正に維持管理することが重要となる.

微生物検査からみた「5.1 要員」

著者: 大濱侑季

ページ範囲:P.1111 - P.1116

 微生物検査は,個人の知識,技術及び経験が検査結果に影響を及ぼすことが懸念される検査である.そのため,常に同じ手順で検査を遂行し誰が検査しても同じ結果報告ができなければ,ISO15189の要求事項を満たす検査室とはいえない.よって,要員の教育・検査手順の文書化は,検査手順の標準化に重要であり,要員の教育及び力量評価を継続的に行うプログラムを設ける必要がある.

 本稿では,ISO15189取得にあたり必要と思われる「5章 技術的要求事項」のうち,「5.1 要員」の要求事項を東京大学医学部附属病院微生物検査室(以下,当検査室)の経験に基づき解説する.

生理検査からみた「5.1 要員」

著者: 筑地日出文 ,   藤井寛之 ,   中川尚久

ページ範囲:P.1117 - P.1122

 生理検査においては,まずISO(国際標準化機構) 15189国際規格1)における“患者サンプル(試料)”という表現及び内容を“患者(測定部位)”を対象とした考え方に切り替えて対応することが重要である.又,要求事項遵守のためには臨床検査技術部の強い組織作りが求められることから,要員に対する教育が必要であり,共通の目標に向かって,各要員の考え方が同一になることが大事である.それを導くのが品質マネジメントシステム(quality management system:QMS)であり,品質マニュアルと教育研修・力量評価手順書は特に大きなウエイトを占める.又,生理検査では特に急変時対応,転倒転落対応などのシミュレーションを含む訓練は要員の教育に欠かせないツールである.

病理検査からみた「5.1 要員」

著者: 阿部仁

ページ範囲:P.1123 - P.1125

 病理検査室は他の検査室と異なり,医師と臨床検査技師が協力しながら病理標本を作製し,病理医によって病理診断結果が顧客(患者と臨床医)に提供される.ISO15189ではすべての要員に対しての記録を維持管理することが要求されていることから,臨床検査技師とともに病理医もISO15189の規約に含まれることになる.要員の資格は“職務規定”などに文書化され,それに従い新規採用及び要員に対してトレーニング(教育・訓練)が提供され,その記録が残されていなければならない.

 病理標本作製の各工程,細胞診標本の作製工程,細胞検査士有資格者では細胞判定能力,迅速診断標本作製では未固定検体取扱いからけがや感染など不測の事態への緊急対応能力の有無について,自施設で確立された評価基準項目に従って各要員のスキルマップを作成して力量の評価が行われる.これらの教育や力量評価などの記録が文書として残され維持管理されていることが重要である.

5.2 施設及び環境条件

検体検査からみた「5.2 施設及び環境条件」

著者: 糸島浩一

ページ範囲:P.1126 - P.1130

 岡山大学病院では,2007年にISO15189初回認定を取得後,現在(第3回認定更新)に至るまで計10回の日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board:JAB)による外部審査を受審した.その中で「5.2 施設及び環境条件」に関する指摘は全体の12.8%であり高率であった.今回,これらの指摘事項を一部紹介し各項を解説する.認定取得を目指す多くの施設は,現状の「施設及び環境条件」について,この規格に適合するよう改善していく必要があるが,限られた資源をいかに工夫し有効利用していくかがポイントとなる.その中で検査の品質に悪影響を及ぼす要因を認識し,何のために行うのかを理解した上で取組んでいくことが,認定取得のみでなく,その後の維持継続に有効となり得る.本稿では,医療関係者,患者,及び外部からの来訪者に対する感染症などのリスク回避や検査の品質に悪影響を及ぼす環境の管理に関する内容を中心に記述する.

微生物検査からみた「5.2 施設及び環境条件」

著者: 長南正佳

ページ範囲:P.1131 - P.1133

 微生物検査室は病原体の不明な検体を取扱うため,十分なセキュリティーと安全確保が必要である.検査室の施設や環境はそれに見合っているのか,さらに改善できる点がないかを考え,より安全で働きやすい環境を作らなければならない.

 エアロゾルや目に見えない病原体から自らを守り,感染を広げないためにはどのように業務を行い,何を遵守するかを明文化することが,ISO15189が求める品質マネジメントと考えられる.検査室のコミュニケーションとして,順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下,当院)では隔週で行っている“業務ミーティング”で各スタッフからの意見を取入れ,検査の質と精度を保ちながら業務の改善と見直しを行っている.

生理検査からみた「5.2 施設及び環境条件」

著者: 中谷穏

ページ範囲:P.1134 - P.1138

 検査室は,すべての要員と患者,訪問者の安全性と患者診療サービスを犠牲にすることなく業務が遂行できるように,検査室の十分なスペース及び十分な機材の配置を維持管理することが必要である.スペースが狭い場合は,安全性と患者診療サービスを維持していくために,どのように配置すればよいかを考えなければならない.又,常設の検査施設以外(採血室)で一次サンプルの採取を行う場合,その検査場所についても同様のスペースを確保することが必要である.本稿では,国立がん研究センター(以下,当院)での取り組みを中心に解説する.

病理検査からみた「5.2 施設及び環境条件」

著者: 青木裕志

ページ範囲:P.1139 - P.1143

 「5.2 施設及び環境条件」では,検査室及び資材の保管場所などの環境条件が対象となる.検査室は「臨床検査技師等に関する法律施行規則」に沿った十分な広さが必要である.病理検査では感染性検体が取扱われるため,感染区域と非感染区域を明確にし,防護具の設置など,要員の安全に配慮した設計とする.特に,感染リスクの高い術中迅速診断や細胞診検体処理の作業場所は遮蔽されていることが望まれる.試薬や消耗品の保管場所は整理整頓し,保管庫は転倒防止策を講じる.保冷庫や冷凍庫は,保管された資材の性状が安定する温度管理を行う.毒物及び劇物,有機溶剤などの試薬類,感染性廃棄物は,おのおのの関連法規にのっとった取扱い,保管,廃棄が必要である.

5.3.1 機材

検体検査からみた「5.3.1 機材」

著者: 藤澤真一

ページ範囲:P.1144 - P.1147

 「5.3.1 機材」でいう“機材”とは,機器(分析装置,周辺装置など)と器具(温度計,マイクロピペットなど)の双方を指す.本項では,必要機材の保有と要時交換(5.3.1.1),使用に先立つ性能検証(5.3.1.2),製造業者の指示に基づく使用(5.3.1.3),上位標準へのトレーサビリティを担保した校正手順の保有(5.3.1.4),製造業者の指示に基づく予防保守プログラムの保有(5.3.1.5),有害インシデント発生時の調査と報告(5.3.1.6),記録の維持(5.3.1.7)が要求されている.

微生物検査からみた「5.3.1 機材」

著者: 厚川喜子 ,   石垣しのぶ ,   小松和典 ,   古川泰司

ページ範囲:P.1148 - P.1151

 微生物検査で使用されている機材には,顕微鏡,冷蔵庫,冷凍庫,孵卵器,オートクレーブ,安全キャビネット,分析装置及び装置のハードウエア・ソフトウエア,検査室情報システムなどが含まれ,新規に導入する際には必要な性能を満たしていることを自施設で検証しなければならない.さらに,固有のラベルで識別し,一覧や機器配置図を作成して維持し,機材を操作する要員は力量評価をされた上で使用権限を付与されていなければならない.冷蔵庫,孵卵器などは標準温度計によって校正された温度計を用いて,始業及び終業時に温度を確認する.日常点検のほかに製造業者による点検や修理記録も保管する必要がある.

生理検査からみた「5.3.1 機材」

著者: 有馬ひとみ ,   金井洋之 ,   久保田淳子 ,   黒沢幸嗣

ページ範囲:P.1152 - P.1157

 技術的要求事項の項番「5.3 検査室の機材,試薬,及び消耗品」で規定されている要求事項のうち「5.3.1 機材」では,検査を実施するために必要となるすべての機材の選定,購買,管理までの手順が定められている.機材の受入時の検証から始まり,適正な保守管理を行うことで機材が継続して使用可能な状態であることを示す必要がある.重要なのは日常の保守とそれに関する記録の維持管理である.毎日定期的に行う点検などは手順が明確にされており,実施が容易でないと続けることが困難となってしまう.ISO15189の取得後は,いかに維持していくかが課題となるので,最終的には各要求事項の項番のつながりを理解していくことが質の向上につながる.

病理検査からみた「5.3.1 機材」

著者: 柿島裕樹

ページ範囲:P.1158 - P.1163

 病理検査室では,摘出臓器や生検に対するホルマリン固定パラフィン包埋による病理組織診断,婦人科や呼吸器などの細胞診を中心に検査が行われている.病理検査は,多くの工程と機材を使用して標本作製が行われるのが特徴である.ここでは,病理検査におけるISO15189の「5.3.1 機材」について解説する.

5.3.2 試薬及び消耗品

検体検査からみた「5.3.2 試薬及び消耗品」

著者: 竹村浩之 ,   大澤和彦

ページ範囲:P.1165 - P.1170

 ISO15189では,管理上の要求事項及び技術的要求事項が多岐にわたり存在する.本稿の「5.3.2 試薬及び消耗品」は技術的要求事項の1つであり,さらに細分化された要求事項がある.試薬及び消耗品の受取とその保管,検査前の性能検証,在庫管理,使用に関する指示,有害インシデントの報告,記録などである.検査室は診療支援部門として効果的な臨床検査サービスを行わなければならない.検査で使用する試薬や消耗品のトレーサビリティが担保されてなければならないことは言うまでもない.ここでは,これらの要求事項について順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下,当院)検査室の運用を解説する.

微生物検査からみた「5.3.2 試薬及び消耗品」

著者: 新井恵理子 ,   堀内一樹 ,   菅野光俊

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 ISO15189規格の2012年度版への移行に伴い,ISO15189の要求基準が“精度管理から精度保証”へ切り上がり,“良質な臨床検査データの提供”が要求されている.「5.3.2 試薬及び消耗品」の管理は,良質な臨床検査データの提供においてその精度を保証する上では重要な項目と考えられる.又,これらの要求事項を満たし,PDCA(plan,do,check,action)サイクルが円滑に回っていることを証明するのが記録類になる.要求事項に合致させるために細かな記録類を作成すると継続が難しくなるため,継続運用を踏まえた記録類を作成することをお勧めしたい.本項では,2018年3月にISO15189の認定を取得した信州大学医学部附属病院(以下,当院)臨床検査部細菌検査室における取組みとともに解説する.

生理検査からみた「5.3.2 試薬及び消耗品」

著者: 寺本弘二

ページ範囲:P.1176 - P.1179

 生理検査における「5.3.2 試薬及び消耗品」は,検体検査とは異なり消耗品の数は少ない.しかし,記録紙,電極,リード線,マウスピース,気管内チューブなどの救命用消耗品,救急カート用薬剤など,日用品に近い物から,欠品・期限切れにより救命に支障が出る消耗品,薬剤まで生理検査室では幅広く使用される.よって安全,確実な供給と保管,管理と使用ができるシステムの構築が必要となる.

 本稿では,生理検査室におけるISO15189の要求事項に基づいた試薬・消耗品管理方法の1例を述べる.

病理検査からみた「5.3.2 試薬及び消耗品」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1180 - P.1184

 病理検査は,多種多様な色素や試薬を取扱い,保管しなくてはならない.試薬や消耗品を適切に管理し,品質を維持することは,検査の品質を維持することにつながり,試薬や消耗品の受取・保管・受入検査・在庫管理の手順について文書化し,正しく保管する必要がある.また,毒劇物や危険物なども多く,使用量や在庫を確実に記録管理しなければならない.試薬や消耗品の保管,使用状況,さらに性能の確認を実施したことも記録に残す必要がある.

5.4 検査前プロセス

検体検査からみた「5.4 検査前プロセス」

著者: 前澤直樹

ページ範囲:P.1186 - P.1188

 精確な検査結果を提供するためには,検査前の各プロセスが重要な要因となる.検査の依頼から測定までの手順を文書化し,検査に関するさまざまな情報(検査項目,依頼方法,採取容器,採取方法,搬送方法,受取方法)をどのように,患者及び検査室サービスの利用者に提供するのかが重要となる.さらに,これらの情報は臨床検査室以外の場所で採取されるサンプルにも適用されるため,最新版の手順書がすべての場所で常に使用される環境が必要である.

微生物検査からみた「5.4 検査前プロセス」

著者: 中島淳

ページ範囲:P.1189 - P.1193

 検査前プロセスとは,検体が検査に供される以前の“検体の採取・輸送”などの過程のことである.微生物検査ではこれらの過程で不適切な処理がなされると,病原体の検出が不可能となり,誤った検査結果の解釈につながる.信頼できる検査結果を得るために,検査室は,検査前プロセスに関する適切な手順を決めて,文書化する必要がある.しかし,単に,手順を文書化するだけでは不十分であり,その手順が検査室サービス利用者にとって参照しやすい環境でなければならない.又,微生物検査の検体は伝染性の病原体を含んでいる可能性があるため,検体を扱うときには,病原体が拡散しないための対策を講じるなど,感染対策への取組みも必要である.

生理検査からみた「5.4 検査前プロセス」

著者: 情野千文 ,   三木未佳

ページ範囲:P.1194 - P.1198

 「5.4 検査前プロセス」として,生理検査では“患者が検査前の注意事項を守った状態で検査に臨む”ことが検査結果の妥当性を確実にするための“検査前活動”の主体であり,文書化された手順とその情報を有していることが要求されている.しかし,実際に患者に検査前の注意事項や検査の説明をすることが多いのは,医師・看護師である.検査に必要な情報は検査室から発信される.情報や指示は受取り手(患者及び利用者)にとって理解しやすく入手しやすいこと,つまり相手が“利用できること”が重要である.発信するだけではなく,利用できる状況であるかどうかという目線でシステムを構築する(表1).又,生理検査においてはこの項の“サンプル(試料)”を“患者”と読み替えて考えていくと理解しやすい.

病理検査からみた「5.4 検査前プロセス」

著者: 柳井広之

ページ範囲:P.1199 - P.1201

 病理検査ではほとんどの場合検体の採取が検査室外のスタッフにより行われ,検体の種類や形状が多岐にわたるため,検体のトレーサビリティを担保できるように検査依頼,搬送,受付の方法を定めなければならない.又,良好な標本作製だけでなく,遺伝子検査など他の検査への利用も意識して検体の取扱いや保管の方法を定める必要がある.本稿では,ISO15189で要求されている「5.4 検査前プロセス」のうち,病理検査に特有なことを中心に,岡山大学病院(以下,当院)の取組みをまじえて解説する.

5.5 検査プロセス

検体検査からみた「5.5 検査プロセス」

著者: 堀内裕次

ページ範囲:P.1202 - P.1207

 検査室で実施する臨床検査には,依頼者(医師など)の要望と根拠のある標準的医療水準に適合した検査方法を取り入れることが重要である.ここでは,検査手順の妥当性を確認して作成した自施設の標準作業手順書(standard operating procedure:SOP)に含まれる測定不確かさについて,検体検査の各部門における対応内容を述べる.又,各検査の生物学的基準範囲や臨床判断値に関して,要求事項に合わせて改善した内容を説明する.最後に,獨協医科大学病院臨床検査センター(以下,当臨床検査センター)で作成したSOPについて,各検査手順に記述する内容を報告する.

微生物検査からみた「5.5 検査プロセス」

著者: 藤川康則

ページ範囲:P.1208 - P.1211

 使用する検査手順は,妥当性が確認されているものを導入時に検証し採用する.インハウス法や標準的でない方法を採用する際には,妥当性確認を実施し臨床検査サービス利用者の合意を受け採用する.検証,妥当性確認を行った結果・レビューの結果は記録として残す.検査手順を文章化し,検査室のスタッフが理解できる言語で手順書を見やすく作成し,すぐに利用できるようにしておく.最初から完全な手順書はできないため作成して終わりではなく,年1回は手順書を見直し,ルーティンと手順書の齟齬や採用している方法に変更がないかなどを確認し,修正を重ねていくことが重要である.

生理検査からみた「5.5 検査プロセス」

著者: 沖都麦 ,   福岡恵子 ,   今西孝充

ページ範囲:P.1212 - P.1217

 「5.5 検査プロセス」では検査手順の決定,得られたデータに対する判断基準,検査手順の文書化について規定されている.“検査手順の決定→文書化→実施→レビュー(振り返り)→改善”という一連のサイクルを繰り返し,品質や安定性を高める.要員の力量や検査条件などによって検査データが影響を受けやすい生理検査においては,この作業が特に重要である.

 検査手順の決定に際しては,まず方法を選択し,その妥当性を確認したのち,選択した方法が問題なく使用可能で性能仕様要求を満たしているかの検証作業を行い記録する.さらに,得られたデータに付随する“測定不確かさ”やデータを判断するための値について検討し,これら一連の手順を文書化する必要がある.

病理検査からみた「5.5 検査プロセス」

著者: 桜井孝規

ページ範囲:P.1218 - P.1221

 「5.5 検査プロセス」の眼目は病理検査室で行っている種々の検査手順について,選択した手順の妥当性検証と確認を行うことである.その目的達成のために,検査手順の文書化も求められている.病理学的検査の認定範囲のうち,本稿では病理組織標本作製,免疫染色(免疫抗体法)病理組織標本作製,術中迅速病理組織標本作製,細胞診を対象として述べる.

5.6 検査結果の品質の確保

検体検査からみた「5.6 検査結果の品質の確保」

著者: 岡田健

ページ範囲:P.1222 - P.1226

 「5.6 検査結果の品質の確保」は,内部精度管理と検査室間比較プログラムに対する要求事項である.内部精度管理については適切な管理限界の設定,シフトやトレンドに対する対応手順の文書化と記録が必要である.検査室間比較プログラムについては日本医師会臨床検査精度管理調査,日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査,都道府県技師会や医師会などが実施している臨床検査精度管理調査に参加しなければならない.これら外部精度管理調査にない項目は代替えのアプローチが必要で,認定を受ける全項目が対象である.

微生物検査からみた「5.6 検査結果の品質の確保」

著者: 谷道由美子

ページ範囲:P.1227 - P.1232

 検査室は常に正しい検査結果を提供する義務がある.そのために精度管理を行うことが重要であるが,微生物検査の精度管理方法は確立されていない部分も多く,施設規模の違いによる施設間差も大きい.ここでは,日本大学医学部附属板橋病院(以下,当院)での微生物検査の精度管理方法を一施設の例として紹介する.各施設での精度管理方法を見いだす参考にしていただきたい.

生理検査からみた「5.6 検査結果の品質の確保」

著者: 大村直子 ,   小松和典 ,   古川泰司

ページ範囲:P.1233 - P.1237

 「5.6検査結果の品質の確保」では,内部精度管理と外部精度管理が求められている.

 生理検査の精度管理としては,外部精度評価目的に行われるフォトサーベイが一般的であり,機器精度管理に関してはベンダー(製造販売業者)に一任されることがほとんどである.「ISO15189:2012」1)で生理検査が認定項目となったことで,精度管理業務が必要であるという認識が徐々に広まり,機器の内部精度管理や技師の手技に関する精度管理も各施設で取組まれるようになってきた.呼吸機能検査については,日本呼吸器学会の「呼吸機能検査ガイドライン」2)で機器の精度管理についての記載が認められるが,その他の検査の精度管理手順は確立されていないのが現状である.模擬波形発生装置やファントムを使用した機器精度管理,被験者による手技精度管理を行い,記録を残す.又,検査室間比較プログラムに参加し,その結果に対して関連要員でレビューを行い,必要な場合は是正処置を行う.生理検査においてもこれらの取組みを要求事項に従い行う必要がある.

病理検査からみた「5.6 検査結果の品質の確保」

著者: 上田善彦 ,   古谷津純一

ページ範囲:P.1238 - P.1241

 病理(組織診,細胞診)検査で最も重要な品質は,診断結果であることは言うまでもない.診断精度を向上させるためには,何が必要であるかを十分考えるべきである.病理診断にかかわる医師や細胞診スクリーニングを実施する細胞検査士の力量は重要な要素であるが,標本の品質を向上させることも診断精度の向上に大いに関係する.そのためには,検体の採取方法や固定などの初期段階からの連続した工程の精査が重要である.

5.7 検査後プロセス

検体検査からみた「5.7 検査後プロセス」

著者: 吉村稔

ページ範囲:P.1242 - P.1245

 検体検査の工程には,検査の依頼,検体の採取,検体受領・搬送,検体受付などの検査前プロセスと,検体の前処理,検査,結果の妥当性の確認や結果の解釈などの検査プロセス,結果の報告や検体の保管・管理,データ・情報管理などの検査後プロセスの3つに分けられる.検査結果の報告には検査の精度を保つだけではなく,検体を採取するところから結果の報告までの作業の標準化と検体の一貫した管理が求められる.本稿では,当臨床検査部での試みについて提示する.

微生物検査からみた「5.7 検査後プロセス」

著者: 赤松紀彦 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.1246 - P.1247

 微生物検査は分析機器の普及に伴い,自動化が進んできた.しかし,結果は検査実施者の知識や経験に基づいて解釈されることも多い.結果報告で重要なことは,検査実施者の力量を評価し(表1),報告権限を明確化することである.

生理検査からみた「5.7 検査後プロセス」

著者: 丸田千春

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 ISO15189での生理検査への要求は,先行して認定が行われていた検体検査の要求事項が用いられているため,その解釈にはひと工夫が必要な場合がある.

 「5.7 検査後プロセス」では,検査結果を報告するまでの手順や検査結果レビュー者の報告可否判断の基準確立,緊急時の報告ルートなどを文書化する必要がある.又,検査後の検査室環境,医療廃棄物の処理手順,次検査に対する準備までを考慮する必要がある.

病理検査からみた「5.7 検査後プロセス」

著者: 廣井禎之

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 「5.7 検査後プロセス」には,結果のレビューと臨床サンプル(試料)の保存,保持及び廃棄に関する内容が要求事項として挙げられている.結果のレビューは結果の報告前に検査結果をレビューし,正確性,精密性の確認を行うことが大切である.病理検査における臨床サンプル(試料)は生検や手術例の切除組織及び細胞診検体である.これらは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)1)において,感染性廃棄物に分類されており,法的に取扱いが決められている.又,病理・細胞診標本は,診療に関する諸記録とみなすべきであり,一定期間,病院ないし施設で保管の義務を有する.

5.8&5.9 結果の報告

検体検査からみた「5.8&5.9 結果の報告」

著者: 前田育宏

ページ範囲:P.1252 - P.1253

 本項では,検査結果を報告する前に取り決めておかなければいけないことと,実際に検査結果を報告,すなわち利用者へ公開する際におけるISO15189が要求する事項の解釈及び注意すべき点について解説する.なお,個々の具体的なISO15189の要求事項は,「臨床検査室—品質と能力に関する要求事項」1)を参照されたい.

微生物検査からみた「5.8&5.9 結果の報告」

著者: 山田幸司 ,   小森敏明

ページ範囲:P.1254 - P.1257

 微生物検査の結果報告では,考慮しなければならない注意点がある.まず,採取された検体の質が検査結果に与える影響が大きい.次に,塗抹検査や同定検査,薬剤感受性検査などの工程ごとに報告が発生する.さらに,検査したすべてを報告するのではなく,疾患,感染部位,使用抗菌薬を考慮し,選択的な報告が必要となる.これらの注意点を踏まえて,微生物検査結果報告システムを構築するためには検査結果の利用者,すなわち依頼医,感染症科医師,感染対策部,薬剤部などの関連部門との連携や協議が必要不可欠である.又,結果報告システム構築後も,検査結果が診断や治療に正しく利用されているかの継続的な検証と報告システムの改善が欠かせない.

生理検査からみた「5.8&5.9 結果の報告」

著者: 宇治橋善勝 ,   内田一弘 ,   棟方伸一

ページ範囲:P.1258 - P.1262

 生理検査の結果を正確に医師へ報告するためには,検査報告様式(検査項目名,検査室名,検査日,報告日,検査所見,検査者,確認者,責任者など),報告方法,検査結果の変更時の手順などを明確にし,文書化する必要がある.又,患者の受入可否基準や検査準備事項など,検査を行う上で必要な事項や緊急異常値,検査所要時間などを診療側との合意を得た上で取り決めておく必要がある.

 緊急異常値は速やかに臨床医に報告しなければならないが,誰が報告し,誰が受領するのか,決められた受取人だけに届いていることを確実にする手順を決め,口頭で報告した結果は報告書の送付とともに記録を残すことが肝要である.

 報告書の改訂(検査結果の訂正)に関する手順を決め文書化し,その内容を検査結果変更記録として記録し維持管理する.さらにインシデント報告を行うことで,報告書作成時のヒューマンエラーへの改善活動につなげることが重要である.

病理検査からみた「5.8&5.9 結果の報告」

著者: 小松京子

ページ範囲:P.1264 - P.1269

 「5.8」と「5.9」は,結果の報告に関する事項である.手順は明確になっていなければならず,基本的なリスク管理,すなわち患者の取り違え防止は,報告時だけではない.すべての行程管理が正確になされていることが基本である.受付時の検体の状態の報告・結果報告時間(turn around time:TAT)の管理は,検体受取から報告書作成時までだけでなく,各プロセスに必要となる.さらには追加報告や訂正診断,緊急性のある報告などにおいても確実な手順を有し,臨床医への伝達が確実に行われていることを管理するシステムも必要である.

5.10 検査室情報マネジメント

検体検査からみた「5.10 検査室情報マネジメント」

著者: 大西重樹 ,   三浦典子 ,   宮本藍 ,   鬮橋進吾

ページ範囲:P.1270 - P.1272

 「5.10 検査室情報マネジメント」では,個人情報が適切に保護されることが求められている.京都第一赤十字病院(以下,当院)では,検査室が使用する臨床検査情報システム(laboratory information system:LIS)の管理手順や“LIS・個人情報管理手順書”を作成し,LISの操作権限,LISを新規導入する際の検証・妥当性確認の方法,そして個人情報の保護についての取組みを行っている.

微生物検査からみた「5.10 検査室情報マネジメント」

著者: 木村圭吾

ページ範囲:P.1273 - P.1276

 「5.10 検査室情報マネジメント」の各要求事項に対して,要員は特定業務者リストにある“微生物検査システムの操作”の項目に追加されることでその権限が付与される.又,システムには操作以外に“管理”の項目もあり,要員を限定してその権限と責務を定義している.情報システムの変更に関してはルーチンとしての開始前の検証が非常に重要であり,報告し得るすべてのパターンについて正確に報告されることを確認すべきと考える.ログインIDとパスワード管理も重要であり,定期的にパスワード変更することで,無許可アクセスの防止を図る.何らかの理由でシステムが故障した場合は,早急な復旧と可能な限り迅速にルーチン検査を再開できるような手順が必要となる.

生理検査からみた「5.10 検査室情報マネジメント」

著者: 三木未佳 ,   情野千文

ページ範囲:P.1277 - P.1281

 「5.10 検査室情報マネジメント」は,データ保護と情報セキュリティーに関する項であり,検査のプロセスとはやや異質なため,具体的にどうするのがよいか判断に苦慮するところである.この項は大きく3つに分かれており,患者情報の機密保持のための文書化した手順があること,情報システムの維持管理に関する責任と権限を明確にすること,情報システムのマネジメントが行われていることが要求されている.情報システムのマネジメントでは,通常運用できなくなった場合の“危機管理計画”を立てることが重要である.又,院内で管理されているサーバー室の状態を監視することも情報システムマネジメントの1つと考える.

病理検査からみた「5.10 検査室情報マネジメント」

著者: 古谷津純一

ページ範囲:P.1282 - P.1283

 「5.10 検査室情報マネジメント」では,検査結果を導くにあたり,必要な患者データや情報にアクセスできることが求められている.これらには患者の機密情報も含まれているため,これらを維持管理するための文書化された手順が必要である.特に病理検査室では,病理診断という患者の最終診断を取扱うため,その管理にはよりいっそうの留意が必要である.このため,患者データや情報へのアクセス,検査結果の入力,検査結果の変更,検査結果報告をする権限と責務について,すべての要員について定義して管理することが求められる.さらにシステムダウン時の対応方法につき,文書化された手順を有していなければならない.

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目次

ページ範囲:P.1080 - P.1081

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.1284 - P.1284

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臨床検査

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電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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