4.検査(検体処理,標本作製:病理検査)に関する用語
著者:
井上博文
ページ範囲:P.1123 - P.1132
DNA断片化
がんゲノム遺伝子パネル検査とは,がん細胞暴走の原因となる遺伝子領域(エクソン)を解析(シーケンス)することで原因となる遺伝子(ドライバー遺伝子)を見つけ出す検査である.解析する核酸(DNA)は次世代シーケンサーによって施行されるが,その方法は抽出された核酸(DNA)を一定塩基数(150〜300bp)の長さに調整(ライブラリー作製)後にターゲットを限定し,シーケンスする.ライブラリーを作製するためには元のDNA塩基数が一定程度の長さが必要である.短すぎるとシーケンスに必要なライブラリー濃度を得ることができず,シーケンスを開始することができない.DNA断片化は恒常的に発生しているが,検体採取後の操作や保管,取り扱いによって断片化が亢進する.使用する検体によって取り扱う者の配慮が必要となる.外的断片化の要因となるものに熱,紫外線,酵素,化学物質(ホルマリン,キシレンなど),時間などがある(図1).
がんゲノム遺伝子パネル検査では主に,病理検査で過去に使用したホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded:FFPE)ブロックを用いる.FFPEブロックは組織形態保存性において優れた試料であるが,作製工程において先に記したDNA断片化の因子を全て含む試料でもある.切離後の固定までの冷虚血時間(切除から固定開始までの時間)や,FFPEブロック作製後の保管期間などの時間的要因,保管中・搬送時に曝される可能性のある紫外線などの光の要因である.特に化学物質による影響は大きく,固定工程で使用するホルムアルデヒドは核酸と蛋白質のアミノ基間でmethylene架橋形成する.この架橋構造は固定時間が長くなればその密度が増加する.架橋構造が形成されるだけでDNA断片化の発生はなく,核酸抽出工程やライブラリー作製工程における加熱処理によって架橋構造付近で核酸が離断される.