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雑誌目次

論文

臨床検査64巻12号

2020年12月発行

雑誌目次

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.1365 - P.1365

 基礎と臨床の進歩は,画期的な診断へのアプローチや治療戦略を生み出します.それまでの病態概念・疾患単位と治療適応を大きく変えることさえあります.このような医学・医療の裾野の広がりと多様化による恩恵を最大限に患者さんにもたらすために,検査に求められるものは? それは,原点に立ち返った俯瞰をもってさらに進化を遂げ続けることなのではと思われます.血栓症や止血異常といった凝固障害もその例外ではありません.本特集では,がん関連血栓症,敗血症関連凝固異常,ループスアンチコアグラント関連凝固異常,血友病の抗体医療,抗凝固薬が凝固関連検査に与える影響,凝固波形解析という6つの話題を網羅しました.“一筋縄には行かない検体検査”のイメージのためか,しばしば敬遠されがちな血栓止血検査について,原点と進化に思いを巡らせるきっかけとなれば幸いです.

がん関連血栓症

著者: 窓岩清治

ページ範囲:P.1366 - P.1371

Point

●がん自体による血小板-血液凝固系の活性化や炎症反応に伴う線溶系の抑制は,がん関連血栓症(CAT)の一因となる.

●がんが診断された時点で血栓症の発症リスクを評価することは,予防策を講じるうえで重要である.

●静脈血栓塞栓症(VTE)の診断には,“検査前臨床的確率”やD-ダイマー値,造影CTなどの画像検査を組み合わせたアルゴリズムが用いられる.

●抗凝固薬の基本は,患者に生じた凝固亢進の病態を是正し,血栓の進展を防ぐことである.

敗血症関連凝固異常

著者: 射場敏明

ページ範囲:P.1372 - P.1379

Point

●従来,感染による合併症,すなわち播種性血管内凝固(DIC)として捉えられてきた敗血症性凝固異常(SIC)は,近年になって感染に対する宿主の防衛反応として炎症とセットで語られるようになった.

●海外では非代償性消費性凝固異常を規定するovert DIC診断基準とともに,DICが本来意味する“全身性の凝固活性化状態”,すなわち“coagulopathy”を規定しようとする動きがみられる.

●国際血栓止血学会(ISTH)はSICをSOFA score,血小板数,プロトロンビン時間(PT)の3項目で規定している.

●DICについては,わが国では「急性期DIC診断基準」を用いた診断が一般的であるが,海外ではより厳密に凝固異常を規定する「overt DIC診断基準」が用いられることが多い.ほかにも複数の診断基準が存在するが,SICは統一的なルールで評価することが望ましい.

ループスアンチコアグラント関連凝固異常症—LAHPSとその類縁病態

著者: 家子正裕 ,   鈴木知子 ,   佐々木久臣 ,   石川学

ページ範囲:P.1380 - P.1386

Point

●ループスアンチコアグラント(LA)は血栓リスクであるが,プロトロンビン活性が低下し,時に出血症状を認めるLA症例をLAHPS(LA-hypoprothrombinemia syndrome)という.

●LAHPSでは抗プロトロンビン抗体(anti-FⅡ Ab)が検出されることが多く,クリアランス抗体として出血機序に関与する.

●プロトロンビン活性が正常でも,さまざまな凝固因子活性の低下を認め,時に出血症状をきたすLA症例(LLS)もある.

●出血症状を有するLAHPSでは第Ⅷ因子活性低下や第Ⅷ因子インヒビター活性を認めるため,後天性血友病A(AHA)との鑑別が難しい.

血友病の抗体医薬療法とそのモニタリング

著者: 野上恵嗣

ページ範囲:P.1387 - P.1393

Point

●エミシズマブ(ヘムライブラ®.以下,本剤)は一方の抗原結合部位に活性型第Ⅸ因子,もう一方に第Ⅹ因子を認識するヒト型bispecific抗体であり,活性型第Ⅷ因子機能を代替する製剤である.

●本剤を定期的に皮下投与することによって,インヒビターの有無に関係なく血友病A患者において著明な出血予防効果を示す.

●本剤は通常の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)では正確に止血能を評価することはできない.

●本剤の止血モニタリングには種々の包括的凝固機能検査が臨床応用されてきている.

直接経口抗凝固薬(DOAC)と凝固関連検査—薬剤の検査への影響およびモニタリングへの応用

著者: 森下英理子

ページ範囲:P.1394 - P.1401

Point

●直接経口抗凝固薬(DOAC)は定期的なモニタリングが不要といわれているが,実際には,出血や塞栓症の発症時,また,緊急手術の際には抗凝固能を評価する検査が必要とされてきている.

●DOAC内服検体の採血は,緊急時以外は薬剤のトラフ期で行う.

●プロトロンビン時間(PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が薬効評価のスクリーニングテストとして汎用されている.APTTはダビガトランを,PTはⅩa阻害薬の抗凝固作用を定性的に評価することが可能である.

●DOACは凝固因子活性,凝固阻止因子活性,ループスアンチコアグラント(LA)検査などに影響を及ぼし,検査結果が偽高値あるいは偽低値となる場合がある.

●最近は,DOACを血漿から吸着して取り除く試薬が市販されている.

凝固波形解析の概要とその応用

著者: 松本智子

ページ範囲:P.1402 - P.1408

Point

●凝固波形解析(CWA)では,フィブリン析出までの時間のみならず,それぞれの微分波形を用いて,最大凝固速度や最大凝固加速度など,多様な情報を得ることができる.

●自動凝固分析装置を用いたCWAは検査室で行うことができる.先天性血友病Aをはじめ,後天性血友病A(AHA)や抗リン脂質抗体症候群(APS)など,凝固異常症の鑑別に有用である.

●凝固線溶波形解析(CFWA)はCWAを応用した方法である.フィブリン形成から溶解までの一連の反応を観察でき,凝固・線溶異常症の早期診断に貢献できる.

今月の特集2 臨床検査とIoT

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.1409 - P.1409

 グローバル化とデジタル化の波をもたらしている技術基盤であり,シンボルでもあるのがAI(artificial intelligence)とIoT(internet of things)です.AIは訳語である“人工知能”とともに,昔から比較的認識されている言葉です.一方,IoTは少し“くせもの”かもしれません.Wikipediaでは『様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく,モノがインターネットのように繋がる),情報交換することにより相互に制御する仕組みである』と定義されています.しかし,言葉による定義だけではIoTの概念は体得できない難しさがあります.それでも,スマートフォンに代表されるように,IoTは着実に生活に根を張りつつあります.本特集では,医学・医療の現場へのIoTの導入をトピックとして取り上げました.臨床検査とIoTのかかわり方について考える一助になれば幸いです.

IoT時代の医療現場の戦略

著者: 中島直樹

ページ範囲:P.1410 - P.1417

Point

●スマートフォンの普及に伴って,PHRアプリが医療情報と日常の身体・行動情報(IoT情報)を融合する窓口となるであろう.

●PHRは,出生から死亡に至る生涯の健康医療情報の集約統合を目指している.そのためにはデータの相互運用性が重要であり,これによってPHR事業者に依存しないデータの継続性が担保される.

●PHRは,電子カルテ(EMR)や健診データからユースケースごとに定義されたデータ項目を効率良く収集し,利用者にわかりやすく表示せねばならない.各臨床分野でのユースケースの策定が急務である.

●臨床検査部門は,PHRなどで質の高い検査データ同士では統合管理できるようにし,一方で,質の低いデータとは区別できるように,HL7®や臨床検査項目分類コード第10版(JLAC10)など標準規格にも準拠した属性情報の入力,保存,送信を心掛けるべきである.

IoT時代のこれからの検査室

著者: 峠一平

ページ範囲:P.1419 - P.1425

Point

●IoTを活用することで“モノ”がインターネットにつながり,離れた場所から情報の取得や更新が可能になる.昨今では自動車や農業分野など,幅広い分野でIoTが活用されている.

●医療分野においてもIoTの活用が始まっている.検査室においては分析装置を“モノ”として捉え,オンラインQC(外部精度管理)やオンラインサポートなどを実現している.

●検査室でのIoTの活用が進むことで,品質管理や機器の保守メンテナンス,試薬・消耗品管理など,検査室業務の効率化やコスト削減に貢献することが期待される.

●医療・ヘルスケア分野におけるIoTのさらなる活用によって,患者を中心とした医療情報のつながりや,AIなどを活用した疾病発症予測などへの応用が期待される.

患者と医師をつなぐIoT—高血圧オンライン診療の実証研究

著者: 岸拓弥

ページ範囲:P.1426 - P.1429

Point

●これからのSociety5.0時代では既存の医療体制が大きく変革することが余儀なくされ,患者中心の医療となる.

●今後,高血圧症に対してもオンライン診療が重要となってくる.

●with COVID-19時代には高血圧オンライン診療を活用することが求められる.

米国の医療におけるIoTの現状と課題

著者: 笹原英司

ページ範囲:P.1430 - P.1437

Point

●臨床検査部門は制御技術(OT)と情報技術(IT)の接点である.医療IoTの導入とともに,臨床検査技師の役割は変化している.

●米国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の克服に向けて,臨床専門家が主導して,IoTを中核とする遠隔医療導入推進策が展開されている.

●米国の重要インフラを構成する医療IoTでは,サイバーセキュリティーおよび個人情報保護双方の統括的なリスク管理が要求されている.経営トップを巻き込んだ組織的活動が求められている.

認定・資格取得でスキルを磨こう・5

認定臨床微生物検査技師と感染制御認定臨床微生物検査技師

著者: 荻原真二

ページ範囲:P.1438 - P.1441

はじめに

 本連載企画の執筆依頼をいただいたことは,認定資格が臨床検査技師人生において必要であるかについて深く考えるきっかけとなった.結論から述べると,やはり“必要”であった.一方で,臨床検査技師免許自体が国家資格のため,この資格で病院,検査センター,企業などに勤めることができ,認定資格があろうとなかろうとほとんどの業務は行うことができてしまう.

 筆者は2017年度に認定臨床微生物検査技師(certified medical technologist in clinical microbiology:CMTCM)と感染制御認定臨床微生物検査技師(infection control microbiological technologist:ICMT)を同時取得した.両資格を取得したところで特別できる業務はなく,資格手当も付かない(多くの施設でもそうではないだろうか).むしろ,受験費用や学会参加などで出ていく経費ばかりである.本稿では,認定資格が必要であるという答えに至った考えを交えながら,これから受験を控える皆さまにCMTCMとICMT資格についてお伝えする.

研究

冠動脈疾患と血清亜鉛

著者: 赤塚貴紀 ,   平井明生 ,   竹下享典

ページ範囲:P.1442 - P.1447

Summary

●亜鉛は味覚異常や皮膚疾患との関連が指摘されているが,循環器領域における研究は少ない.

●総合病院厚生中央病院の受診患者のうち脂質に異常のみられない患者と,冠動脈疾患患者を比較した結果,病変数と血清亜鉛値に関連性が認められた.また,亜鉛はアルブミン(Alb)と相関した.冠動脈疾患の病態把握における亜鉛値評価の可能性が示された.

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目次

ページ範囲:P.1362 - P.1363

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1364 - P.1364

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.1379 - P.1379

次号予告

ページ範囲:P.1449 - P.1449

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1452 - P.1452

 9月に総理大臣が交代し,内閣が一新されました.政治素人の意見で恐縮ですが,わが国では大臣が比較的短期間で交代する印象があります.国外的には,外務大臣や防衛大臣が頻繁に代わって他国との関係の継続性は大丈夫なのか,国内的には例えば,現在のような状況で厚生労働大臣が代わって手続き上の雑務に時間を取られないか,など余計な心配をしてしまいます.ただ,考えてみれば,役所もトップのほうになるほどめまぐるしく人事が動きます.私の職場の事務職員でも学部教育を担当した方が,急に病院事務にまわったりします.これは,私が長い間同じような環境に身を置いているため感じるのかもしれません.

 臨床検査技師の皆さんもローテーションで複数の部門を経験します.細菌の名前に悪戦苦闘してやっと慣れたころに,今度は超音波検査で一から解剖を勉強し直すなど,その大変さには畏敬の念を覚えます.また,自分のやりたいこと,深めたいことをいったん脇に置くのは正直忸怩たる思いもあるでしょう.臨床検査専門医でも多くの検査分野をこなす尊敬すべき方はいますが,どちらかというと少数派です.私はというと,検体検査はなんとかカバーしていますが,生理機能検査は苦手で,もう少し幅を広げるべきであったと反省しています.定年までにはなんとかしたいと思う気持ちはありますが.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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