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雑誌目次

論文

臨床検査64巻8号

2020年08月発行

雑誌目次

今月の特集1 AI医療の現状と課題

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.837 - P.837

 AI(artificial intelligence,人工知能)は社会の中にかなり浸透してきており,音声認識や障害物を避ける自動運転,インターネットの画像検索,産業分野のロボット制御や画像処理など,さまざまなプラットフォームに活用されるようになっています.しかし,臨床検査業界では他分野と比べて浸透の度合いが高いとは言い難いのが現状です.一方で,医療分野においては各分野で研究・開発が盛んに行われています.具体例として,生理検査をメインとした心電図,超音波,内視鏡検査のAIを活用した研究などが挙げられます.

 本特集では,医療業界におけるAIの研究報告や,それらを取り巻く諸問題についてわかりやすく解説します.臨床検査分野でのAIの研究や普及状況,その課題についても執筆いただきました.

 臨床検査技師として避けては通れないこの問題について,ぜひ目を背けることなくご一読ください.皆さんの知識の糧となれば幸いです.

AI医療の現状と課題

著者: 陣崎雅弘 ,   橋本正弘 ,   上蓑義典 ,   洪繁 ,   北川雄光

ページ範囲:P.838 - P.843

Point

●ディープラーニングは特徴量を入力せずに分類を行うことができる方法であるが,データの量と質に依存する,判断がブラックボックスである,過学習があるなどの課題がある.

●医療用人工知能(AI)の開発には良質なデータが大量に必要であるが,医療情報が要配慮個人情報となり,規制が厳しくなっている.認可にかかわる法律に医薬品医療機器等法があるが,再学習をすると再認可が必要となるなど課題がある.

●医療用AIを実装するに当たっては,高度な作業ばかりではなく単純作業への活用や,AIソフトを現場のワークフローへいかにうまく組み込むかについて考えていく必要がある.

心電図から冠動脈血行再建術の要否を判断するAIの開発

著者: 佐野元昭 ,   後藤信一

ページ範囲:P.844 - P.849

Point

●胸部不快感を訴える患者が救急外来を受診した際に,急性冠症候群(ACS)の病態であるかどうかを識別することは重要である.

●真に冠動脈造影検査が必要な患者を選別するプロセスに非常に時間がかかることが,治療の開始を遅らせる一因となっている.

●われわれは,このプロセスを簡略化して,救急外来受診時に心電図から冠動脈血行再建術の要否を判断する人工知能(AI)を開発した.

超音波デジタル画像とAI診断

著者: 西田直生志 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.850 - P.857

Point

●超音波静止画・動画と付帯情報のデータベース化が進み,超音波人工知能(AI)の開発が行われている.

●超音波AIの実用化により,初学者による検査や非専門領域の検査でも十分な精度が期待できる.

●超音波検査は対象臓器や検査条件が多様である.実用的なAIビルトイン機器の開発には多量の画像学習が必要である.

●学習データを更新した際の診断精度の維持が課題である.

AIで大腸癌死亡率の低下を目指す

著者: 炭山和毅

ページ範囲:P.858 - P.863

Point

●全大腸内視鏡検査(TCS)と,その所見に基づく腫瘍性病変の内視鏡的切除は,大腸癌の発生率・死亡率ともに減少させる.

●腫瘍性病変の発見や病理診断の予測精度は内視鏡医の技能によりばらつきがある.特に腫瘍性病変の発見率の低下は被検者の大腸癌死亡率を上昇させる.

●deep learning技術を基盤とする,リアルタイム性の高い大腸内視鏡診断支援システムが構築されている.早期の臨床研究の多くは,病変の発見・診断精度の底上げを期待させる結果であった.

AIで30分後の低血糖を予測する

著者: 新津葵一

ページ範囲:P.864 - P.869

Point

●糖尿病の予防ならびに治療においては血糖値推移の把握が重要である.

●現在,血糖値の測定で一般に使用されているのは自己血糖測定装置(SMBG)と持続血糖モニタリング装置(CGMS)であるが,微小針の穿刺が必要であり,浸潤性が課題である.

●われわれは非侵襲かつ高時間分解能な持続血糖モニタリングの実現に向けて,グルコース発電素子と融合した単独自立動作可能な持続血糖モニタリング機能付きスマートコンタクトレンズの研究・開発を行った.

AI時代の幕開けと近未来の臨床検査技師像

著者: 丸田秀夫

ページ範囲:P.870 - P.874

Point

●人工知能(AI)の進展によって,成長する産業/衰退する産業,増える仕事/減る仕事などが議論されているが,AIの普及は当然の流れであり,長きにわたる臨床検査の歩みのなかの一転換期にすぎない.

●AIを有効に機能させるためには,ベースとなるさまざまな医療情報の精度・品質の確保も重要である.AIへインプットする臨床検査情報の品質確保は臨床検査技師が担う重要な業務の1つである.

●AI時代を生き残るためには,AIを活用できる人材を育成するとともに,患者に近い場所で業務を実践し,患者や他医療職種からの信頼を高めることが必要である.

今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.875 - P.875

 IgG4関連疾患については,信州大学病院の検査部職員が特徴的な蛋白分画パターンに興味を抱いたことが端緒となり,疾患概念の理解・確立につながりました.本特集ではもちろん蛋白分画の活用(松村充子先生,他)やIgG4定量検査の現状(菅野光俊先生,他)など,臨床検査学的な話題を取り上げています.

 ともすると,上記のような項目だけに興味が行きがちですが,第一人者の川茂幸先生の解説にあるように,この病態は複数の病型を含有し,多種多様な病変を伴う複雑な疾患群であることへの理解が重要です.川先生の総説に続いて,症例を多数経験されている佐伯敬子先生に臨床像を解説いただきました.また,鯉渕晴美先生に超音波画像を,病理の第一人者である上原剛先生に病理像をまとめていただきました.

 本特集は今,最もアップデートなIgG4関連疾患のバイブルといってもよいでしょう.

IgG4関連疾患とは

著者: 川茂幸

ページ範囲:P.876 - P.883

Point

●IgG4関連疾患は,免疫グロブリン(Ig)G4が関連する全身性疾患であり,わが国から発信された新しい疾患概念である.

●IgG4関連疾患は腫大,結節,壁肥厚病変として認められ,ステロイドに良好に反応する.病変スペクトラムは涙腺・唾液腺炎,呼吸器病変,自己免疫性膵炎(AIP),硬化性胆管炎,後腹膜線維症,腎病変から全身諸臓器に拡大している.

●IgG4関連疾患の疾患概念の確立の背景には,AIPで血中IgG4高値,病変組織にIgG4陽性形質細胞浸潤を認める,多彩な膵外病変が合併している,などの一連の臨床的事実が明らかになったことが存在する.

●IgG4は他のIgGサブクラスとは異なる性質を有するが,これらの性質により,IgG4関連疾患の病因・病態に対して病的意義を有するのか,防御的意義を有するのかは明らかではない.

IgG4関連疾患の診断と治療

著者: 佐伯敬子

ページ範囲:P.884 - P.888

Point

●対称性涙腺・唾液腺炎,自己免疫性膵炎,後腹膜線維症,間質性腎炎がIgG4関連疾患(IgG4-RD)の代表的病変である.

●血清免疫グロブリン(Ig)G4高値とIgG4陽性形質細胞浸潤はIgG4-RD以外でも認められるため,臨床,画像,組織所見を総合して診断する.

●中等量ステロイドが著効するが,減量・中止で再燃しやすい.

IgG4関連疾患の超音波検査診断

著者: 鯉渕晴美

ページ範囲:P.890 - P.892

Point

●自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎は,経腹壁超音波検査のみで診断することは難しい.

●一方,唾液腺病変は,超音波検査による診断がある程度は可能である.

●IgG4関連疾患をもとに発生した悪性リンパ腫の報告もあるため,唾液腺病変を診断する際には悪性疾患の合併を念頭に置いておく必要がある.

IgG4関連疾患の病理診断

著者: 上原剛

ページ範囲:P.894 - P.899

Point

●IgG4関連疾患の特徴的組織像は線維化とリンパ球,形質細胞浸潤である.線維化は時に“花筵状線維化”と称される特徴的な組織所見を呈する.

●IgG4関連疾患の診断で組織中の免疫グロブリン(Ig)G4陽性形質細胞数は重要ではあるが,臓器や採取方法にも左右されるので,陽性細胞数にこだわりすぎない.

●小さな生検材料では悪性腫瘍を見落とさない.特に膵臓では超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)による微小検体が多いため注意が必要である.

IgG4定量試薬

著者: 菅野光俊 ,   上原剛

ページ範囲:P.900 - P.906

Point

●免疫グロブリン(Ig)G4定量試薬は,世界的には免疫比ろう法(NIA法)を測定原理とするThe Binding Site社の“BS-NIA IgG4”と,シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社の“N-ラテックス IgG4”の2試薬が使用されている.

●2016年にThe Binding Site社から免疫比濁法(TIA法)を測定原理とする“BS-TIA3 IgG4”が発売され,国内の多くの衛生検査所で導入された.

●国内では2018年にニットーボーメディカル社から専用分析装置を必要とせず,汎用自動分析装置で測定できる,リバースラテックス免疫比濁法を測定原理とする“N-アッセイ LA IgG4 ニットーボー”が発売された.

●IgG4には標準品がなく,3社の測定値が異なることが知られている.今後,IgG4をはじめとするIgGサブクラスの世界的な標準化を行う必要があると考える.

蛋白分画検査からIgG4関連疾患を疑う—臨床検査部が主導してのIgG4高値の検出

著者: 松村充子 ,   松尾収二

ページ範囲:P.907 - P.913

Point

 天理よろづ相談所病院では,①臨床検査部の判断で蛋白分画を実施し,②蛋白分画検査から免疫グロブリン(Ig)G4高値を読み取り,③この結果をもとに主治医に報告している.
①もともと,M蛋白の存在を主治医に知らせるために,血清グロブリン値が4g/dL以上の場合は,検査室の判断で蛋白電気泳動を行っていたので,その流れをそのまま活用した.
②IgG4は等電点が低く陽極側に易動するため,その易動度はfast-γ位となる.fast-γ位にバンドはあるが,これが不明瞭な場合は,5倍希釈と原倍のIgGを測定し,その差がおよそ200mg/dL以上の場合はIgG4高値と判断する.これはIgG4高値の場合,IgGがポストゾーンのために偽低値になることを活用したものである.
③IgG4濃度がおおむね450mg/dL以上であれば蛋白分画検査で検出できる.過去約2年の間に12例の報告を行った結果,主治医はほぼ全例,報告に従って診療を行っていた.

認定・資格取得でスキルを磨こう・2

認定病理検査技師

著者: 国仲伸男

ページ範囲:P.914 - P.918

認定病理検査技師とは

1.認定病理検査技師制度

 認定病理検査技師(以下,認定技師)制度とは,日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)と日本病理学会が協働して創設された認定制度であり,日臨技認定センターで運営されています.その創設目的は,“標準化された病理組織標本作製技術・専門的知識,病理解剖介助業務および病理部門のマネージメント能力等を総合的に評価し認定するものであり,病理部門に勤務する臨床検査技師と病理医が,互いの立場と職務を尊重しあい,国民の医療に貢献するための協力関係を築きあげていくための制度である”とされています1).すなわち,本認定制度は,単なる病理のスキル向上のみならず病理医との信頼関係を強固にして病理業務の責務を果たすものであり,以下に示すような業務が想定されています.

研究

高血圧患者における動脈スティフネス指標(CAVI)と心機能および心形態との関連性

著者: 田端強志 ,   清水一寛 ,   守永幸大 ,   杉山恵 ,   髙田伸夫

ページ範囲:P.920 - P.927

Summary

 高血圧患者は左室肥大を生じることで左室拡張機能障害などの心機能障害をきたし,一方で動脈スティフネスの増加は左室後負荷の増大を招くことから,大動脈と左室の関連性を検討することは重要である.今回,高血圧患者における動脈スティフネス指標である心臓足首血管指数(CAVI)と心エコー図検査から求めた心機能および心形態との関連性について検討した.左室駆出率(EF)が保たれた高血圧患者においてCAVIの上昇と左室心機能や心形態との関連性が示され,CAVIは心室動脈連関を評価するうえで有用なパラメーターになる可能性が示された.

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目次

ページ範囲:P.834 - P.835

書評

著者: 織田克利

ページ範囲:P.863 - P.863

書評

著者: 中山祐次郎

ページ範囲:P.893 - P.893

書評

著者: 濱岸利夫

ページ範囲:P.919 - P.919

書評

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.928 - P.928

「検査と技術」8月号のお知らせ

ページ範囲:P.836 - P.836

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.849 - P.849

次号予告

ページ範囲:P.929 - P.929

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.932 - P.932

 新型コロナウイルス対策で人との接触の自粛が推奨されるなか,いろいろな局面で自分の行動について悩むことが多くなりました.身近な例では,家族や知人と会うこと,ちょっとしたイベントに参加することですが,特に,病気の家族がいたり,冠婚葬祭だったりすると本当に悩ましいことでしょう.

 私は11月に小規模な学術集会の担当となる予定でしたが,早々と来年への延期を提案し,認めていただきました.延期を要望した理由は,来年,状況が改善しているかどうか不明なものの,ある程度は環境がベターになっていることが予想されること,リアルでもオンラインでも集会の実施についての工夫が進んでいるであろうこと,もう1つは,開催する会の性格が“どうしても……”という強い必要性がないと感じたからです.しかし,この最後の理由は好ましくないことに気づかされました.学会幹部のある先生の“この学会が存在する意味は,今回の感染症とは直接は関係ないものの難病克服に向けた活動であり,学術集会をやらないのであれば他の活動で補塡すべきでは”という意見があったからです.最も,かつ大変重要な視点です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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