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雑誌目次

論文

臨床検査64巻9号

2020年09月発行

雑誌目次

今月の特集1 やっぱり大事なCRP

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.937 - P.937

 タイトルの「やっぱり大事な」には,ちょっと奇異な印象を受けられるかもしれません.CRPは,特にわが国においてはかなり頻繁に検査されている炎症マーカーであり,その地位は十分に確立されています.しかし,患者をよく診ずにCRPを過信することをいさめるためでしょうか,感染症の専門家から“CRP不要論”が提唱されたことがありました.もちろん,臨床検査はすべからく意義があって世に出てきたもので,要はその長所短所をよく理解して使用すればよいことは論をまちません.大まかには,炎症に特異性が高く,重症度をよく表現することが長所で,病態をやや遅れて反映することが短所です.そのあたりは項目1「CRPなどの急性期蛋白の産生機序」を読むとよく理解できます.

 本特集では,その他にも,感染症,膠原病,生活習慣病におけるCRPの使い方,POCTとしての汎用性,標準化と基準範囲といった話題が網羅されています.この大事な検査に対する知識をリフレッシュしていただければ幸いです.

CRPなどの急性期蛋白の産生機序

著者: 萩原圭祐

ページ範囲:P.938 - P.945

Point

●急性期蛋白の発現には,インターロイキン(IL)-6,IL-1,腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの炎症性サイトカインが重要である.その際,IL-6は組み合わせ刺激の中心的な役割を果たす.

●IL-6とIL-1によるC反応性蛋白質(CRP)の転写発現は,刺激早期では阻害的に働き,刺激後期では相乗的に働く.

●IL-6とIL-1による刺激後期のCRPの相乗発現は,IL-6刺激の下流の転写因子であるシグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)とIL-1下流の転写因子であるc-fosの転写複合体形成が必要である.

●CRPは,免疫系の細胞,サイトカイン,転写因子が総動員され誘導される.検査値をみながら病態を理解し,その原因を深く考察することが,よりよい治療につながる.

感染症におけるCRP

著者: 茂呂寛

ページ範囲:P.946 - P.951

Point

●C反応性蛋白(CRP)は急性期蛋白の1つとして,感染症に対する自然免疫応答の過程でインターロイキン(IL)-6刺激によって肝臓で産生される.貪食作用や補体活性化を補助し,生体を感染症から保護する方向に作用する.

●CRPの血中濃度は産生刺激から48時間でピークに達し,半減期は19時間である.CRP増加の原因は感染症に限定されず,測定結果はさまざまな要因による修飾を受ける.

●血中濃度の経時的な推移は,宿主側の免疫応答を反映し,間接的に原因である感染症の病勢を示す.CRP単独で判断可能な場面は限られ,他の情報を組み合わせて用いることが望ましい.

膠原病におけるCRP

著者: 金子祐子

ページ範囲:P.952 - P.957

Point

●C反応性蛋白質(CRP)は,自己免疫・炎症性疾患であるリウマチ・膠原病の診断・治療に有用な炎症マーカーである.

●リウマチ・膠原病のなかでも,疾患によってCRP上昇程度はさまざまである.

●CRP高値の際には,他の疾患バイオマーカーや身体所見を組み合わせて,疾患活動性か感染症かなどの総合的判断を行う.

●インターロイキン(IL)-6阻害薬使用時には,状態にかかわらずCRPはほぼゼロとなるため,留意が必要である.

生活習慣病におけるCRP

著者: 鈴木聡

ページ範囲:P.958 - P.964

Point

●メタボリックシンドロームの診断基準である4項目は全て,炎症反応の活性化の指標であるC反応性蛋白質(CRP)と密接に関与する.

●高血圧や糖尿病,脂質異常症のほかにも,生活習慣に関連する喫煙や睡眠時無呼吸症候群なども炎症反応を活性化させてCRPを上昇させる.

●動脈壁におけるプラークの形成においては初期段階から炎症反応が関与し,成長や破綻,血栓形成を促して心血管疾患の発症を増加させる.

●健康な状態における高感度CRPの高値は将来的な糖尿病や心血管疾患発症を予測できる.疾患発症後のCRP値は長期的な予後と関連する.

CRPと関連検査のPOCT

著者: 〆谷直人

ページ範囲:P.966 - P.971

Point

●診療所や在宅医療では,リアルタイムに検査結果を得られるPOCTによるC反応性蛋白(CRP)の測定が実施されている.

●診療現場ではCRPの単独測定だけでなく,白血球数(WBC)とCRPを同時測定できるPOCT対応機器も利用されている.

●POCT対応機器・試薬による炎症・感染症関連検査項目〔WBC,CRP,プロカルシトニン(PCT)〕の測定は全血検体で実施できる.

●POCTによる炎症・感染症関連検査は,在宅医療において抗菌薬の処方や病院への搬送の指標として役立つ.

CRPの測定標準化とその基準範囲の設定

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.972 - P.979

Point

●C反応性蛋白(CRP)の測定は免疫学的定量法による.その測定標準化は世界保健機関(WHO),日本国内標準物質を経て,血清蛋白標準物質“CRM470”によってほぼ実現し現在に至る.

●新国際標準物質“ERM®-DA474/IFCC”の免疫学的反応性には注意を払う必要がある.新たに登場した一次標準物質“NMIJCRM 6201-b”による標準化の再構築も視野に入れたい.

●基準範囲は主に生体内の異常の有無を知るための大まかな判断基準である.下限値に近ければ個体の健常状態を反映する.上昇すると病的状態と連続して重なり合う.

●日本人の基準範囲は0.00〜0.14mg/dLで,性差,年齢差,日本国内での地域差を認めない.これに比べて発展途上地域では高値となる.いずれの地域でもBMI(体容積指数)に依存性変化する.この基盤変化のうえに地域特性を反映した炎症刺激が加わり地域間に差異が生じる.

今月の特集2 どうする?精度管理

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.981 - P.981

 医療法が改正され,臨床検査の精度管理が適正に実施されることが求められています.臨床検査の精度管理システムは,これまで生化学検査領域を中心に構築されてきました.その結果,生化学検査では高レベル精度管理が可能になり,標準化の推進もあいまって,検査値が収束化してきています.

 一方,他の検査領域に目を転じると,精度管理の手法が確立していない点が多く見受けられ,課題が山積しています.そこで,これらの検査領域に焦点を当て,精度管理の現状と課題を明らかにし,今後の方向性を探るべく本特集を企画しました.多くの難題に対して,いくつかの意欲的・先進的な取り組みが紹介されています.一方で,いまだ試行錯誤的な側面があり,道半ばの感が強いことは事実です.しかし,このような取り組みこそが,将来のより適正な精度管理システムの確立につながる一里塚になると期待しています.

遺伝子関連検査の品質・精度確保

著者: 横田浩充 ,   小野佳一

ページ範囲:P.982 - P.987

Point

●病原体核酸検査(対象:ウイルス,細菌など),体細胞遺伝子検査(対象:白血病や固形腫瘍など),遺伝学的検査(対象:単一遺伝子病,個人識別など)の精度管理には課題と限界がある.

●遺伝子関連検査の実施体制の整備(精度確保に必要な基準の確保)が必要である.

●適切な検体採取と前処理,測定における全工程の精度管理が重要である.

●病原体核酸検査やヒト体細胞遺伝子検査の一部については体外診断用医薬品(IVD)があり,精度管理が容易であるが,遺伝学的検査では困難な状況にある.

血液細胞形態検査の精度管理

著者: 市村直也

ページ範囲:P.988 - P.994

Point

●末梢血液像の目視法には,変動要因の管理に基づく精度保証体制の確立が求められている.

●検査者の正確度管理は全ての細胞種で必要である.一方で,精密度管理の必要性は細胞形態の差異と日常検査の出現頻度によって細胞間で差がある.

●幼若細胞系列の分類は検査者の主観に対する頑健性が弱く,検査者の正確度管理に加えて精密度管理が特に必要である.

●標準画像ライブラリの活用は正確度と精密度の管理に役立つ.

微生物検査の精度管理

著者: 濱本隆明

ページ範囲:P.995 - P.1001

Point

●微生物検査の精度管理の対象には自動分析装置だけでなく,検体の品質管理と検査担当スタッフの技能評価も含まれる.

●微生物検査の内部精度管理手法の標準化は進んでおらず,各施設独自の実施方法や実施頻度にまかされているのが現状である.

生理機能検査の精度管理—心電図検査の精度管理

著者: 鳴海純

ページ範囲:P.1002 - P.1007

Point

●心電図検査を含む生理検査の精度管理は近年に至るまでほとんど議論されてこなかったが,ISO 15189の認定範囲に生理学的検査が含まれたことによって急速に関心が高まっている.

●心電図検査の精度管理は“心電計の精度管理”だけでなく“技師の精度管理”も必要である.“技師の精度管理”は知識と技量の面からアプローチする必要がある.

●現状は,施設ごとその施設の状況に合わせた精度管理体制を構築している段階である.今後,多くの施設からの運用報告を多面的に検証し,“心電図検査の精度管理の標準化”に向けた議論を加速していくことが望まれる.

生理機能検査の精度管理—呼吸機能の精度管理

著者: 田邊晃子

ページ範囲:P.1008 - P.1013

Point

●呼吸機能検査機器の精度管理には較正用シリンジを使用する.

●「呼吸機能検査ガイドライン」に沿って機器の精度管理を実施する.

●技師の力量を確認し,技師間差を確認することが,検査者による検査結果の差をなくす.

生理機能検査の精度管理—心臓超音波検査の精度管理

著者: 竹内正明

ページ範囲:P.1014 - P.1021

Point

●心臓超音波検査の精度管理においては,基準値となるデータがないことが最大の問題である.

●内部精度管理は施設内のバイアスを減らすことはできるが,施設間のバイアスを減らすことはできない.

●測定の全自動化は測定値のばらつきをなくす有用な方法の1つである.

●心臓MRIの値を基準値とした左室容量,駆出率の精度管理は有用な方法である.

緊急企画「コロナ時代の臨床検査」

新型コロナウイルス感染症検査と臨床検査技師

著者: 宮島喜文

ページ範囲:P.1022 - P.1025

1.新型コロナウイルス感染症に関する動向

 中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に瞬く間に広がり,パンデミック(世界的流行)の様相となり,多くの人命を奪うとともに,社会・経済活動へ甚大な損害を与えている.人類の歴史は感染症との戦いであったといわれるほど長い歴史があり,治療薬やワクチンの接種,環境衛生の改善により制圧できたものもある.一方,動物などからの由来による未知の病原体に侵される新型感染症が数年ごとに発生しているのも事実であり,2002年の重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)や2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的流行も記憶に新しい.

 さて,わが国では,2020年1月15日に国内における新型コロナウイルス感染者患者の1例目が確認され,政府も対策に乗り出した.2月3日に横浜港に寄港したクルーズ船の検疫から多くの感染者が発見され,政府ではこの感染症に関する専門家会議を設けるとともに,2月25日に新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を決定した.3月に入って感染者が全国に広がり,感染者を受け入れる医療機関が逼迫したことから,4月7日に国は東京都など7都府県を対象に緊急事態宣言を発出し,また,4月16日には47都道府県に拡大し,国民に不要不急の外出自粛や休業を呼び掛けるなど感染拡大防止に努めた.感染者は次第に減少し,感染爆発に至らずに5月25日に緊急事態宣言を全面解除し,感染拡大防止対策を進めるとともに,段階的に社会・経済活動を再開した.この時点では,わが国の感染者数や死亡者数は欧米に比べ極めて低く,第1波を乗り切ったと判断した.しかし,緊急事態宣言の全面解除後6月に入り,感染者は増加しはじめ,8月には東京都で400人を超える感染者が報告されており,予断を許さない状況にある.

—鼎談—新型コロナウイルス感染症診療を支える臨床検査の動向

著者: 村上正巳 ,   横地常広 ,   山田俊幸

ページ範囲:P.1026 - P.1033

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という突然の新規感染症に見舞われ,2020年2月から医療界は大きな困難に直面しました.同時に,COVID-19診療においては臨床検査が社会的にも注目を浴び,臨床検査従事者の貢献が評価される一方,PCR検査数の少なさへの批判などもありました.本誌では,「新型コロナウイルス感染症診療を支える臨床検査の動向」と銘打って,臨床検査の視点からこれまでの対応を振り返りたいと思います.今後この感染症とどのように付き合い,対応していくか.未来へ向けたメッセージをお届けいたします.

認定・資格取得でスキルを磨こう・3

認定認知症領域検査技師

著者: 長野由香

ページ範囲:P.1034 - P.1037

資格の概要

 認知症とは,“一度発達した認知機能が後天的な障害によって持続的に低下し,日常生活に支障をきたすようになった状態”をいいます.厚生労働省は2019年に公表した「認知症施策推進大網」1)において,認知症の発症を遅らせる“予防”と,認知症になっても希望をもって暮らせる社会を目指す“共生”を基本とする考えを示しました.

 認定認知症領域検査技師の制度は2014年度に創設されました.臨床検査技師として専門的な知識を生かし,早期発見や診断のための検査はもちろん,治療の場面でも他の職種と協力しながら活躍することが期待されています.表12)に資格の概要をまとめました.

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目次

ページ範囲:P.934 - P.935

書評

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.980 - P.980

書評

著者: 清澤宝

ページ範囲:P.1013 - P.1013

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.971 - P.971

次号予告

ページ範囲:P.1039 - P.1039

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 新型コロナウイルス感染症の出現によって景色が一変した2020年も,残すところ4カ月弱となりました.本来であれば,56年ぶりに開催予定であったオリンピック・パラリンピックの余韻に浸っている時期ですが,今後の見通しも不透明な状況が続いています.

 2019年は,台風を含む豪雨などの自然災害が数多く発生したことが印象的でした.異常気象という観点では,世界中から極端な熱波・寒波などさまざまな報告がありました.2020年に入って変わらず自然災害が続く一方,新たに新型コロナウイルス感染症という難題が生じています.大きな視点で捉え直してみると,地球規模で環境と生物による厄災が起こっている状況ともいえます.人間の側からみると大変“不都合”な出来事が続いていますが,地球の側からみると,大きな流れのごく一部をみているだけなのかもしれません.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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