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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査65巻12号

2021年12月発行

雑誌目次

今月の特集 移植医療と臨床検査

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.1239 - P.1239

 最も古典的な臓器移植である輸血を除けば,ドナーと患者で成立する移植医療には約60年の歴史があります.免疫抑制剤の普及,組織適合性に関する理解,外科的手技と術後管理の進歩がその歴史をけん引してきました.いまだ現役として活躍し続ける還暦世代と同様に,移植医療は多くの可能性と課題を携えながら,今も進化を続けています.新たな臓器移植の登場に加えて,再生医療との融合的な展開も期待されており,まだまだ目が離せません.多岐にわたる知見技術によって成立するためチーム医療としての側面が大きく,もちろん臨床検査も欠かせない存在です.

 本特集では,移植医療で利用される臨床検査の総論的概要,および移植の種類ごとの各論的概要について,第一線のエキスパートとして活躍する方々に解説していただきました.移植医療を支える検査の意義・役割をあらためて見直し,種々の臓器移植の現状と課題に立脚した知識の整理とスキルアップにつなげる一助となると幸いです.

移植医療における組織適合性と適合性検査

著者: 田中秀則

ページ範囲:P.1240 - P.1247

Point

●ヒト白血球抗原(HLA)分子はヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の高度な多型性遺伝子によってコードされ,T細胞によるペプチド抗原認識に重要な役割を果たしている.

●移植によるT細胞のアロ反応性は,HLAクラスⅠ分子とペプチド複合体(pHLA)を直接認識して活性化されることに起因する.

●HLAタイピングにはさまざまな解像度の手法がある.移植における免疫学的な弊害を避けるためには,移植の種類によってその解像度を選ぶことが必要である.

●抗HLA抗体については移植医療における移植片拒絶との相関が明らかであり,HLAミスマッチ移植を行う場合には必須の検査である.

移植後の感染

著者: 飯沼由嗣

ページ範囲:P.1248 - P.1254

Point

●移植に関連して発生する感染症は予後にもかかわるため,迅速かつ適切な診断と治療が求められる.

●移植関連感染症にはさまざまな病原体が関与するが,発症リスクの高い感染症予防のために,適切な時期に予防的抗微生物薬投与を行う.

●ヘルペスウイルス目ウイルスは,再活性化による感染症を発症するため,抗原検査や核酸検査による定量的検査が必要である.

●深在性真菌症の診断は困難なことも多く,画像や抗原検査など多面的な診断と治療が必要である.

腎移植と臨床検査

著者: 森田伸也

ページ範囲:P.1256 - P.1260

Point

●腎移植は腎代替療法の1つの選択肢である.透析療法(血液透析・腹膜透析)と比較してのメリット・デメリットを把握しておく.

●ドナーに関しては,生体腎移植ではドナーガイドライン,献腎移植では臓器提供者適応基準がある.それらにのっとって検査をしていく必要がある.

●移植後は免疫抑制療法の継続が必要となり,注意するポイントは他の臓器移植と同じである.サイトメガロウイルス感染症と内科的合併症についてはガイドラインがある.

●今後,増えていくと考えられる既存抗体陽性例の腎移植や,いまだ克服できてない抗体関連型拒絶反応においては,組織適合検査での評価が重要となる.

肝移植と臨床検査—生体肝移植の周術期に施行される臨床検査と,われわれの生体肝移植で過去に問題になった臨床検査値

著者: 河地茂行 ,   千葉斉一 ,   富田晃一 ,   佐野達

ページ範囲:P.1262 - P.1268

Point

●わが国の肝移植は数のうえでは生体肝移植が主流であるが,脳死肝移植も確実に増加しており,成績は同等である.

●抗体関連拒絶反応の予防・克服は肝移植医療の重要な課題である.近年,抗ドナー抗体(DSA)を検出するさまざまな検査が肝移植医療に導入されている.

●ドナーの移植前検査は検査値が正常であることを確認する過程である.検査値の異常をきっかけに,臨床検査の精度に不備が発見された症例を経験した.

●レシピエントのβ-D-グルカン(BDG)値の異常のため生体肝移植を延期せざるを得なかった症例を経験した.検査値における偽陽性の判断の難しさを痛感した.

●肝移植後の臨床検査は合併症を早期発見・治療するために施行されている.それぞれの検査の意義をきちんと理解する必要がある.

心臓移植と臨床検査

著者: 福嶌教偉

ページ範囲:P.1270 - P.1274

Point

●心臓移植後には,カルシニュリン阻害剤(CNI),ミコフェノール酸モフェチル(MMF),エベロリムス(EVL)などの免疫抑制薬が用いられる.これらの血中濃度のモニタリングが重要である.

●現在でも拒絶反応の確定診断は,心内膜心筋生検で得た心筋組織の病理組織学的診断で行っている.

●移植心冠動脈硬化症(TCAV)は全周性,びまん性であり,冠動脈血管内超音波検査が有用である.

●免疫抑制薬を中止できない心臓移植患者では移植後リンパ球増殖症(PTLD)の頻度が多く,そのモニタリングが重要である.

肺移植と臨床検査

著者: 此枝千尋 ,   中島淳

ページ範囲:P.1276 - P.1281

Point

●肺移植患者においては,移植適応検討から周術期管理,術後長期に及ぶ管理の全てにおいて血液・生化学検査,微生物検査,生理検査など,さまざまな臨床検査が必要である.

●肺移植後の長期予後は感染,拒絶,悪性腫瘍などによって決して良好ではない.感染や拒絶の早期発見・治療介入には呼吸機能検査,血液・生化学検査などが重要である.

●移植後患者は免疫抑制状態にある.日和見感染症発症の可能性を常に念頭に置いて,喀痰培養検査やβ-D-グルカン,サイトメガロウイルス(CMV)アンチゲネミア測定などを定期的に行う.

小腸移植と臨床検査

著者: 工藤博典 ,   和田基

ページ範囲:P.1282 - P.1286

Point

●腸管不全(IF)の病態,合併症,治療について学習する.

●小腸移植の適応,実施状況,治療成績について学習する.

●IF,小腸移植に関連した臨床検査について学習する.

膵臓移植と臨床検査

著者: 剣持敬

ページ範囲:P.1288 - P.1293

Point

●脳死膵臓移植の適応は内因性インスリンの枯渇した1型糖尿病である.膵臓移植の80%以上は脳死膵腎同時移植である.世界でもわが国でも患者生存率,膵グラフト生着率ともに良好である.

●膵臓移植登録,待機中の検査,管理として,糖尿病合併症としての動脈硬化性病変,すなわち心臓カテーテルによる冠動脈病変の評価,治療,腹部大動脈,腸骨動脈の動脈硬化の程度の評価が重要である.

●移植後の合併症として膵グラフト静脈血栓症が大きな課題である.造影CT,MRI,ドプラ超音波検査が有効である.当院では造影超音波(CEUS)を行い,膵グラフトの血流評価,血栓の早期同定を行っている.

●膵臓移植後の拒絶反応もいまだ大きな課題である.拒絶反応の早期診断マーカーはないため,今後,有効なマーカーが見いだされることが期待される.

膵島移植と臨床検査

著者: 三田篤義

ページ範囲:P.1294 - P.1300

Point

●膵島移植は,インスリン依存性糖尿病に対する組織移植である.手術を必要としないため重篤な合併症が少ない.

●ドナーから提供を受けた膵臓から膵島分離を行ってグラフトを得,肝臓門脈に注入することによって移植される.

●膵島移植により血糖の安定性が得られ,糖尿病合併症を予防することが期待される.

子宮移植の現状と課題

著者: 木須伊織 ,   阪埜浩司

ページ範囲:P.1302 - P.1309

Point

●近年,子宮性不妊女性の挙児のために“子宮移植”という新たな生殖補助医療技術が1つの選択肢として考えられている.

●海外ではすでに臨床研究が開始されており,これまでに85例の子宮移植が実施され,40名の児が誕生している.

●子宮移植には他の生殖補助医療技術と同様に多くの医学的,倫理的,社会的課題が内包されている.臨床応用にはこれらの課題を十分に鑑みたうえで,慎重に検討される必要がある.

●子宮移植はこれまで挙児が不可能とされていた子宮性不妊女性に福音をもたらすことが大いに期待される.

造血幹細胞移植と臨床検査

著者: 安本篤史 ,   加畑馨 ,   豊嶋崇徳

ページ範囲:P.1310 - P.1316

Point

●ヒト白血球型抗原(HLA)タイピングはドナーとレシピエントの組織適合性を判断するうえで最も重要な検査である.次世代シーケンシングによる超高解像度HLA遺伝子検査が可能となった.

●HLA不適合移植では抗HLA抗体の検出が重要である.ルミネックス(Luminex®)法による抗HLA抗体の検出だけでなく,免疫複合体キャプチャー(ICFA)法によるHLA交差適合検査も併せて評価する.

●CD34陽性細胞測定法はシングルプラットフォーム法が標準である.

●サイトメガロウイルス(CMV)感染症の診断は国際的に定量PCR法が標準である.わが国でもようやく認可された.

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目次

ページ範囲:P.1236 - P.1237

書評

著者: 村嶋幸代

ページ範囲:P.1317 - P.1317

書評

著者: 原澤茂

ページ範囲:P.1318 - P.1319

書評

著者: 小林欣夫

ページ範囲:P.1320 - P.1320

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1238 - P.1238

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.1316 - P.1316

次号予告

ページ範囲:P.1321 - P.1321

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1324 - P.1324

 2021年も残りわずかとなりましたが,いかがお過ごしでしょうか.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が大きな影響を与えた一方,オリンピックが開催され,社会活動のあり方に関する議論がされるなど,激動の1年でもありました.公私問わずオンライン化が進み,遠くにいる方とのコミュニケーションは容易になりましたが,直接会いに行く機会が減っていることは寂しくも感じます.

 オンラインコミュニケーションを主軸とする流れが加速することで,ポジティブな変化が期待される見通しも出されています.三菱総合研究所は自社コラムのなかで,医療・教育・観光の領域において,五感へのフィードバックやAIサポートによるオンライン技術の進化がさまざまな側面で業務革新をもたらすであろうと述べています(https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/202010.html).例えば,手術支援ロボットのda Vinciは新時代を開く技術として登場しましたが,触力覚をデジタル情報として再現するハプティクス技術をオンライン活用することで,熟練の術者が遠隔手術を行うことが現実のものとなりつつあります.また,身近なところでは行政を含むさまざまな登録・申請のデジタル化推進の波もCOVID-19流行による恩恵といえるかもしれません.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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