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雑誌目次

論文

臨床検査65巻5号

2021年05月発行

雑誌目次

今月の特集 薬剤耐性(AMR)対策の現状と今後

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.499 - P.499

 わが国における対策の方向性を示した2016年の「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」の策定から5年が経過し,薬剤耐性菌に対するさまざまな取り組みによって一定の変化と改善が得られています.その一方で,目標達成に継続した努力が必要な項目,安定した抗菌薬の供給体制,サーベイランスデータの有効な現場活用,検出がまれであった薬剤耐性菌の増加,実効性のある地域単位での取り組みなど,引き続き取り組むべき課題が残されています.

 本特集は,これまでの薬剤耐性対策によって実現した内容と今後に向けた課題の共有を目的として企画しました.冒頭では,薬剤耐性対策の現状と展望の全体像のポイントについて,わかりやすく整理されています.続く各論では,問題となっている薬剤耐性微生物と検査法,普及・啓発活動の実際,サーベイランス,感染対策,抗菌薬の使用・開発に関して,対策の前線に立つ先生方から解説いただきました.小児における現状と対策,地域における活動の進め方,動物・環境由来の薬剤耐性対策は注目すべき内容です.

 本特集が,薬剤耐性対策の現状と今後に向けた論点と課題を整理していただき,微生物検査室が貢献できる取り組みについて見直す機会となるよう願っています.

薬剤耐性対策の現状と展望

著者: 具芳明

ページ範囲:P.500 - P.505

Point

●抗菌薬に対する薬剤耐性(AMR)の問題は現代の医療全体に影響しうるものであり,世界的な公衆衛生上の脅威として取り組みが進められている.

●わが国では2016年に発表された薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づいてさまざまな対策が行われている.

●アクションプランの各分野で一定の成果がみられているものの,設定された数値目標には届かない可能性が高く,今後,取り組むべき新たな課題もある.

問題となっている薬剤耐性微生物

著者: 菅井基行

ページ範囲:P.506 - P.514

Point

●わが国では医療施設での第三世代セファロスポリン耐性Escherichia coli,第三世代セファロスポリン耐性Klebsiella pneumoniae,フルオロキノロン耐性E. coliの分離率が増加傾向にある.

●わが国のカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症の約18%がカルバペネマーゼ遺伝子保有腸内細菌目細菌による.そのうちの約1割が海外型NDM遺伝子を保有していた.近年,NDM-5保有株による感染症が増加傾向にある.

●わが国では,海外に比べると頻度は依然として低いが,バンコマイシン耐性腸球菌感染症事例が急増している.海外と同様に,広域なアウトブレイク事例が出始めている.

薬剤耐性の普及・啓発活動

著者: 日馬由貴

ページ範囲:P.516 - P.521

Point

●医療従事者への啓発と市民への啓発は,薬剤耐性(AMR)の啓発における車の両輪である.

●感冒に抗菌薬を処方する医師は全体の一部である.医療従事者への啓発においては,情報の届きにくい層に対していかに情報を届けるかが課題である.

●わが国の抗菌薬に対する市民の意識は欧州と比較して低いため,改善のためには持続的な啓発活動が必要である.

薬剤耐性サーベイランス

著者: 松永展明

ページ範囲:P.522 - P.528

Point

●薬剤耐性菌対策には,正確な疾病負荷を把握するためのサーベイランスが必須である.

●「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」の実装後,薬剤耐性菌情報の可視化が進んでいる.

●AMR対策には,ヒトだけではなく,ワンヘルスの観点からのアプローチが必要である.

●わが国に合ったサーベイランス方法の確立と継続が望まれる.

医療機関における薬剤耐性微生物の感染対策

著者: 坂本史衣

ページ範囲:P.530 - P.535

Point

●薬剤耐性微生物(MDRO)は,汚染された手指,器具,環境表面との直接および間接接触によって伝播する.

●全ての患者についてMDROの有無を把握することは不可能であるので,手指衛生をはじめとする標準予防策の実施率を日頃から高く維持することがMDROの伝播を防ぐうえで重要である.

●MDROを保菌していることが判明している患者には,標準予防策に加えて接触予防策を追加することが推奨されている.また,感染リスクとなり得る環境への対策も重要である.

●新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,MDROの出現や伝播のリスクが高まっているという指摘がある.MDROは,あらゆる医療機関に常に存在するリスクとして対応する必要がある.

ヒトにおける抗微生物薬の使用

著者: 村木優一

ページ範囲:P.536 - P.540

Point

●“抗微生物薬の使用”(AMU)は,使用された“量”や“日数”を特定期間・範囲にいた人数で補正し,どの程度の選択圧がかかっているのかを示している.

●ヒトにおけるAMUの約90%は内服薬であり,2013年から「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」で目標に掲げられた抗菌薬を中心として減少している.

●AMRにおけるサーベイランスの結果は,単に数値の大小だけに着目するのではなく,影響を及ぼす背景も十分に考慮することが重要である.

●サーベイランスを継続するには簡便に収集できるツールや仕組みの構築が必要であり,正しく利用できる専門家の育成も必要である.

薬剤耐性菌感染症に対する治療薬の開発の動向

著者: 石井良和

ページ範囲:P.541 - P.547

Point

●治療薬の開発は薬剤耐性グラム陰性菌を中心に進められている.

●既存の抗菌薬の改良やドラッグリポジショニング,新規標的の抗菌薬,バクテリオファージ,病原性改善薬,抗体,抗体やキャリア物質と抗菌性物質コンジュゲートなどの開発が試みられている.

●既存の抗菌薬の改良によるいくつかの感染症治療薬は,すでに欧米で実用化されている.

●それ以外の感染症治療薬は,現在知られている抗菌薬耐性機序によって耐性が獲得されにくいものが多く,今後の展開に興味がもたれている.

薬剤耐性微生物に対する検査法

著者: 宇野俊介

ページ範囲:P.548 - P.556

Point

●薬剤耐性微生物検査には近年さまざまな進歩がある.検査を実施する場合は目的や,耐性菌検出後のフローをあらかじめ明確にしておくことが重要である.

●多項目遺伝子検査などで検体から迅速に遺伝子を検出できるようになってきているが,遺伝子検査は検索したものしか検出されないため,最終的には表現型でも耐性菌の検出を確認する必要がある.

●海外から多剤耐性結核をもち込ませないことは重要な課題である.リファンピシン耐性遺伝子も含めた核酸増幅検査が有用である.

●多剤耐性のCandida aurisは真菌の新興感染症として注目されており,現時点での同定には質量分析による検査が有用である.

小児領域における薬剤耐性対策

著者: 笠井正志

ページ範囲:P.557 - P.563

Point

●小児抗菌薬適正使用のターゲットは広域経口抗菌薬,低年齢層,急性気道感染症である.

●2017年に急性気道感染症および急性下痢症に対する抗微生物薬使用のガイドラインである「抗微生物薬適正使用の手引き」が出版された.2019年に乳幼児を対象に含めた第二版が上梓された.

●2018年に「小児抗菌薬適正使用支援加算」が算定され,急性上気道炎に対する抗菌薬処方減少が期待されている.

●休日夜間急病センターは小児の受診が多いため,地域薬剤耐性(AMR)対策を推進する“場”として機能する可能性がある.

●抗微生物薬適正使用は小児をみる医療者のアドボカシー活動である.今後はさまざまなレベルでの市民教育が重要になってくる.

地域における薬剤耐性対策

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.564 - P.569

Point

●地域で薬剤耐性(AMR)対策を行うためには行政,医師会,医療機関,高齢者施設,薬剤師会など,さまざまな機関を巻き込む必要がある.

●耐性菌や抗菌薬適正使用だけではなく,新型コロナウイルス感染症などさまざまな感染症への応用が求められている.

●地域ネットワークについては,歴史的経緯,組織の力量,地域の状況などが多様であり,一律に決めることは難しいが,今後,さまざまなモデルを基にした,地域に合ったネットワーク形成が求められる.

動物および環境由来の薬剤耐性菌対策

著者: 田村豊

ページ範囲:P.570 - P.575

Point

●わが国では,「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づいて,世界に先駆けてペットを対象とした薬剤耐性モニタリング体制が確立した.

●硫酸コリスチンなどのヒトの健康に対する影響があるとリスク評価された抗菌性飼料添加物の指定が取り消され,使用が禁止された.

●調査対象や指標細菌が明らかでなく,“One Health”の一角である,国が主導する環境における薬剤耐性調査は全く実施されていない.

●医療,獣医療,環境におけるAMR対策の連携強化が今後の課題である.

認定・資格取得でスキルを磨こう・9

認定骨髄検査技師

著者: 吉田美雪

ページ範囲:P.576 - P.579

資格の概要

 骨髄検査は造血機能の評価や,血液悪性疾患の診断・治療・経過の評価に必須の検査です.認定骨髄検査技師制度は骨髄検査の血液形態検査における専門知識および高度な判定能力を有する技術者を育成することを図り,これによって血液形態学の向上とその標準化を普及させ,全国の血液診療の質向上に寄与することを目的に2013年に創設されました.

 資格の概要は表1に示します.認定骨髄検査技師の試験は,認定血液検査技師の資格を取得して一度更新していないと受験できません.認定血液検査技師取得の詳細については日本検査血液学会ホームページ1)の「認定血液検査技師」の項を参照してください.

研究

卒前教育における抗核抗体陽性像分類への酵素抗体法を用いた教育効果

著者: 伊藤さやか ,   小野川傑

ページ範囲:P.580 - P.587

Summary

 間接蛍光抗体(IF)法による抗核抗体(ANA)検査の学内実習は卒前教育の観点から実施することが望ましい.しかしながら,学生数に対して蛍光顕微鏡が圧倒的に少ないことなどの課題も多い.酵素抗体法をANA検査実習に導入し,併用の教育効果を分析したところ,IF法の陽性像型別分類の理解度が上昇した.酵素抗体法の併用は,IF法での誤った判読を修正できる可能性があり,教育現場においてANA検査の理解を深めることが示唆された.

INFORMATION

第46回日本医用マススペクトル学会年会

ページ範囲:P.547 - P.547

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目次

ページ範囲:P.496 - P.497

書評

著者: 益崎裕章

ページ範囲:P.556 - P.556

書評

著者: 和足孝之

ページ範囲:P.587 - P.587

書評

著者: 稲田健一

ページ範囲:P.588 - P.588

「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.498 - P.498

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.540 - P.540

次号予告

ページ範囲:P.589 - P.589

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.592 - P.592

 2月12日の朝に車のエンジンをかけると,カーナビから「今日はペニシリンの日」と流れてきました.職場に着いて調べてみると,ちょうど80年前のこの日,フレミング博士がペニシリンの臨床実験に成功したということです.本号の特集のゲラを一部いただき,パラパラと読み始めたところでしたので関連に少し驚いた次第です.

 特集はAMRに関する事柄を余すことなく取り上げており,大変,読み応えがあります.いつもは「大変ためになるので勉強しましょう」と書かせていただくところですが,「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」の第1項目は“普及・啓発・教育”です.私たち医療側には一般の方に理解していただく努力が求められています.その観点でも読み進めていただけたらと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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