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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査66巻10号

2022年10月発行

雑誌目次

増大号 検査血液学レッスン 検査結果の乖離をどう判断するか

はじめに

著者: 涌井昌俊 ,   田部陽子

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 血液学領域の検査結果は診断の確定や治療の選択,効果評価にしばしば直結する.そのため,検査の乖離の判断と解決は検査実地のみならず臨床実地にとって極めて重要である.しかし,血球形態検査のように単純な定量値として扱えないものや,フローサイトメトリー検査や凝固関連検査のように標準化・精度管理が難しいものが含まれるため,化学・免疫検査と比べると系統的に乖離を取りまとめて論じるのは容易ではない.

 そこで,個々の検査の特性を理解し,なぜ,どのようなメカニズムで乖離が生じるのかを知ることが重要となる,血液検査は採血前からすでに始まっている.最初の一歩は,検査前プロセスが検査値に与える影響を理解することである.自動化が進んだ血算値の結果の乖離については,その原因とメカニズムを理論的に知っておくことが重要である.血球を直接観察する血球形態検査は血液検査の醍醐味であるが,標本の作製方法や細胞識別の標準化が困難という特性からさまざまな乖離が生じる.フローサイトメトリー検査は血液疾患や免疫疾患の診断のほか,移植治療でも必須の検査となっているが,検査そのものの仕組みと特性を知ることによって,検査値の乖離に遭遇した際に適切に判断し,対応することが可能になる.

1章 血算

検査前プロセスの影響

著者: 出居真由美

ページ範囲:P.1094 - P.1097

検査のプロセス1,2)

 検体検査の流れは,検査前プロセス,検査プロセス,検査後プロセスに分けられる(図1).検査の依頼から検体を採取し,検査室へ搬送され,検体検査を実施する前までの工程が検査前プロセスである.測定機器の性能がどんなに向上しても,検査前プロセスを適切に行わないと,正しい検査結果を得ることはできない.

 検査を実施するうえで,検査依頼を明確に行うことが重要である.検査を依頼する医師は,検査の必要性をよく考えたうえで検査項目を選択し,検体の採取条件を確認し,患者への説明と検査者への指示を的確に行う必要がある.

有核赤血球出現時の血算の取り扱い

著者: 池田千秋

ページ範囲:P.1098 - P.1099

有核赤血球の出現

 通常は,健常人では末梢血に赤芽球が出現することはないが,何かしらの異常に伴い末梢血に赤芽球が出現し,これを有核赤血球と呼ぶ(図1)1).末梢血に有核赤血球が出現する病態には,高度な溶血性貧血や大量出血,急性白血病や骨髄異形成症候群,骨髄線維症や慢性骨髄性白血病などの骨髄増殖性疾患,骨髄癌腫症などがある.

MCV,MCH,MCHCに影響する因子と貧血分類における留意点

著者: 槇亮介

ページ範囲:P.1100 - P.1103

はじめに

 自動血球計数装置による全血球計算(以下,血算)は日常診療において広く用いられる.そのなかでも平均赤血球容積(MCV),平均赤血球ヘモグロビン量(MCH),平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)の赤血球恒数は貧血を分類するに当たって必要不可欠である.しかし,これら赤血球恒数は,さまざまな要因により正確な検査結果が得られない場合がある.

 本稿では,赤血球恒数に影響を与える因子および,留意すべき点について解説する.

白血球著増時の自動血球計数の問題点

著者: 伊藤ゆづる ,   後藤文彦

ページ範囲:P.1104 - P.1107

はじめに

 自動血球計数装置は多くの検体を迅速かつ再現性よく測定でき,さらに経済性の観点からも日常業務で欠かすことのできない検査装置である.装置による各血球の測定原理には電気抵抗的方法とフローサイトメトリー法などの光学的方法があり,通常の検体測定では前者が主流である.

 本稿では,NTT東日本関東病院で使用している多項目自動血球分析装置XN-9100(シスメックス社)を中心に,白血球著増時に生じる血球計数(血球数算定:以下,血算)値への影響について解説する.

破砕赤血球の定義と評価

著者: 菅原新吾

ページ範囲:P.1108 - P.1111

破砕赤血球とは

 破砕赤血球は,循環血中で外因的損傷によって生成された奇形赤血球であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)/溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)の総称とされる血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)の診断において重要な赤血球形態である.破砕赤血球の形状についてDacieらは,正常赤血球より小型で,鋭角や鋭い棘または突起をもち,時に輪郭が丸く,通常は濃染するがヘモグロビンの損失で時に薄くなると述べている.国際血液学標準化協議会(International Council for Standardization in Haematology:ICSH)の提言では損傷のない赤血球よりも小さく,ほとんどの場合で色調は均一,鋭角と直線をもつ断片の形,小さな三日月形,ヘルメット細胞,ケラトサイト,または微小球状赤血球(前述の形状が存在する場合のみ)とされている.日本検査血液学会(Japan Society of Laboratory Hematology:JSLH)の形態標準化案1)で提示されている画像では,形状はDacieらやICSHと同様であるが,特徴について言語表現はされていない.旧厚生省試案では濃染を前提としており,有棘赤血球やウニ状赤血球と輪郭が類似する不規則変形型といがぐり型が含まれる.

 破砕赤血球の評価は,血液塗抹標本で少なくとも1,000個の赤血球をカウントし,破砕赤血球の数を比率で表す.ICSHとJSLHでは出現率1%以上を(+)の報告値としている.

網血小板数の測定と評価の注意点

著者: 金子誠

ページ範囲:P.1112 - P.1115

はじめに

 網血小板(reticulated platelets:RP)1〜3)は,骨髄から末梢循環に新たに放出されたばかりの血小板分画であり,血小板造血を反映している.これらの若い未熟な血小板は,成熟した血小板に比べて細胞容積が大きく,RNA量や血小板内顆粒を多く含んでいる.RPのRNAは,巨核球RNAの名残とも考えられていたが,血小板内でもこのRNAにより蛋白合成されていることが示されており,成熟した血小板と比較して反応性が高い血小板である.

 RPは定常状態で全血小板数の約5%で,24〜36時間程度でRNA分解が進行し,体積が減少するとされる.骨髄中ではRP数は末梢血の平均2〜3倍で,巨核球の数と相関しており,巨核球増殖のリアルタイムマーカーでもある.このように骨髄における血小板造血を反映していることが,赤血球造血を反映する網状赤血球(reticulocytes)の境遇に類似していることから,網(状)血小板(RP)と呼ばれているが,この同等の意義のある未熟・幼若な血小板分画が自動血液分析装置によって測定できるようになっている1,3).測定機器によってその原理は異なり,そのRPに相当する血小板分画の名称も異なるが,シスメックス社の自動血液分析装置を用いて測定されたものは幼若血小板比率(immature platelet fraction:IPF)と表記される1,3,4)

偽性血小板減少症の鑑別—ITPと診断する前に除外すべき疾患

著者: 高野勝弘

ページ範囲:P.1116 - P.1119

血小板減少症の病態

 血小板は骨髄の巨核球によって産生される.巨核球は多倍体を有する巨細胞であり,巨核球系細胞の分化,成熟は肝臓および骨髄のstromal cellにより産生されるトロンボポエチンという増殖因子によって制御されている.巨核球の成熟時間は約5日と推定されており,末梢血に放出されてからの血小板寿命は約7〜10日,正常な末梢血血小板数は約15〜35×104/μLである.

 血小板減少は多様な疾患において認められ,その原因は①血小板破壊亢進や消費,②血小板の産生低下,③先天性血小板減少症,④血小板の分布異常,⑤血小板の喪失または希釈に分類できる.

外部精度管理調査の落とし穴

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1120 - P.1123

はじめに

 外部精度管理の成績は臨床検査部門の評価に利用されることがあるため,できるだけよい成績を得たいという意識が働くことが多い.その結果,日常検査の精度管理レベルと外部精度管理調査の成績に乖離を生じる場合があり,注意が必要である.

 本稿では,その実例として東京都衛生検査所精度管理調査で認められた2種類の調査における成績の乖離を紹介する.

2章 血球形態

自動血球分析装置による白血球分画と目視分画値の乖離

著者: 小笠原洋治

ページ範囲:P.1124 - P.1127

はじめに

 自動血球分析装置での白血球分類機能は,界面活性剤による各種白血球の体積変化の違いから3種類(顆粒球・単球・リンパ球)に分類するものから始まり,その後,フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)法を組み合わせることで5種類の白血球(好中球・好酸球・好塩基球・単球・リンパ球)に分類することができるようになった1).自動血球分析装置での白血球分画値は,その分析の迅速性から診療に不可欠な情報となっているが,5種類の正常白血球以外の異常細胞が出現している場合には,目視法との結果の乖離を認めることがあり,自動血球分析装置での結果が不正確になる状況について理解しておく必要がある.

 本稿では自動血球分析装置での白血球分画測定原理と,目視法の結果との乖離要因について事例を通じて解説する.

強制乾燥と自然乾燥が形態に及ぼす影響

著者: 朝比奈彩 ,   大畑雅彦

ページ範囲:P.1128 - P.1131

はじめに

 湿度の高いわが国では,骨髄塗抹標本は一般的に冷風で強制乾燥される.一方,海外では,自然乾燥が一般的である.国内でも一部は湿度が低く,強制乾燥が不要な地域もあり,標本作製の手技は血液検査室の環境に左右されている.形態観察における検査前プロセスとして,標本乾燥の条件が血球形態に影響を及ぼすため,正しい形態判断には,目的に応じた適切な標本作製手順と,適切な標本部位で観察をすることが肝要である.

反応性の異型リンパ球と腫瘍性の異常リンパ球

著者: 土屋逹行

ページ範囲:P.1132 - P.1135

異型リンパ球とは

 血液細胞の分化・成熟の過程において顆粒球などの細胞は,成熟すると機能を果たした後,分裂・増殖することなく消滅してしまう.しかし,リンパ球に関しては,成熟した後に取得した感染症病原体の抗原情報などを生体内に残すことが感染防御のために必要なので,リンパ球の一部は分裂・増殖してそのリンパ球が取得した情報を継代する.特にウイルス感染症などで出現する異型リンパ球(atypical lymphocyte)はウイルスにより刺激を受けて感染源の情報を継代するために幼若化した細胞と考えられている.したがって,古くから異型リンパ球が多数認められていることはウイルス感染症であることの推定・診断に有用であることから末梢血中の異型リンパ球比率が求められてきた.しかし,多様な変化をきたすので異型リンパ球と判断する形態的な基準が必要であり,Downey分類をはじめとするいくつかの分類基準がある.しかし,実際は鑑別に苦慮する細胞があり,日常診療で観察者間による結果の乖離がある.

 日本検査血液学会では2001年より種々の血液検査に関する標準化を目指す作業が行われており,血球形態標準化小委員会ではリンパ球,異型リンパ球の判断基準の標準化作業が行われ,判断基準の標準化案が発表された1)

抗凝固剤(EDTA)による骨髄標本の形態変化

著者: 大畑雅彦 ,   高崎将一 ,   朝比奈彩

ページ範囲:P.1136 - P.1139

はじめに

 骨髄穿刺塗抹標本は生標本が望ましいが,検査室の対応,特に人的環境などの要因からエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)加骨髄液を用いる施設もある.最近,関連学会から一般的な造血細胞の標準化が報告され,形態学的特徴の整理がされている1).しかし,その標準化には標本作製の条件が一致していること,さらに背景として抗凝固剤入り骨髄液の影響について十分に把握していることも重要である.

 筆者は以前からEDTA加骨髄塗抹標本における細胞形態への影響2,3)を検討し,論じてきた4).本稿では,これらの知見を紹介し“EDTA加骨髄液の功と罪”を整理したい.

骨髄塗抹像とLLA測定値のずれ

著者: 稲葉亨

ページ範囲:P.1140 - P.1143

はじめに

 骨髄塗抹像は造血器腫瘍の診断に不可欠の形態学的検査であるが,フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)での表現型解析(leukemia-lymphoma analysis:LLA)と結果が乖離する場合がある.本稿では,日常診療で遭遇しうるこれらの乖離の要因について概説する.

系統由来や病型分類の判断に迷う腫瘍細胞

著者: 荒木美香 ,   荒井智子 ,   松下弘道

ページ範囲:P.1144 - P.1147

はじめに

 骨髄塗抹標本の観察による形態学的検査は病型分類の第一歩である.一部の症例では,特徴的な形態所見から病型およびそれに伴う染色体異常をある程度,推測することができる.一方で,異常細胞が認められてもその形態学的特徴からは細胞系統の判断が付かず,その後の効率的な追加検査に迷う場合がある.

 本稿では,上記のような系統由来や病型分類の判断に迷う異常細胞について,筆者らの経験した実症例を含めて紹介する.

抗がん剤による細胞形態変化

著者: 日下拓 ,   田中由美子

ページ範囲:P.1148 - P.1151

はじめに

 近年,造血器腫瘍や種々の固形がんに対する多くの抗悪性腫瘍治療薬が開発されている.特に,腫瘍細胞にかかわる特定の分子だけに作用し,腫瘍細胞を破壊あるいは阻害する分子標的治療薬が臨床使用され治療効果が改善している.

 一部の治療薬の使用による種々の細胞形態変化に関する報告があるが,本稿では血液検査に従事する検査技師が多く経験する可能性のある抗がん剤による細胞形態変化について解説する.

骨髄検査でのhematogonesの検出

著者: 山﨑悦子

ページ範囲:P.1152 - P.1155

hematogonesの形態的特徴

 hematogones(HGs)は正常Bリンパ球前駆細胞である.HGsが多数みられる骨髄生検像ではクラスター形成のないびまん性増加を示す.骨髄スメアでは多くのHGsは10〜20μmで,細胞質はほとんど認められず,核細胞質(nucleocytoplasmic:N/C)比は極めて大であり,核は円形〜類円形で,クロマチンは均一かつ緻密で濃縮した細胞としてみられる1,2).正常Bリンパ球前駆細胞であるため,その成熟段階に応じて形態も変化がみられる.最も幼若なHGsでは,円形核でN/C比が高く,時には顕著な核小体を伴う均質な核クロマチンをもつ.細胞質は好塩基性を示し,封入体,顆粒,液胞などを有することはない.これらはリンパ芽球と酷似しており,特にB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B lymphoblastic leukemia/lymphoblastic lymphoma:B-ALL)に対する化学療法後骨髄回復期に,腫瘍性Bリンパ芽球との判別をつけるのは難しい.最も成熟したHGsは濃縮し均一なクロマチンをもち,核小体を認めることはほぼない.成熟Bリンパ球にかなり近い形態となっている.

 一般的に,新生児や臍帯血以外に末梢血でHGsをみることはないものの,MCF(multicolor flow cytometry)では多くの小児,成人で少ないながらもHGsを同定することができるとされている.リンパ節においては,TdT(terminal deoxynucleotidyl transferase)を表出する幼若HGsが胎児リンパ節や小児の反応性リンパ節炎などでみられることがあるが,これらの細胞は5個以上のクラスターを呈することはない.

胸腹水の細胞形態のバリエーション

著者: 内田一豊

ページ範囲:P.1156 - P.1159

はじめに

 体腔液検査は,体腔液内に貯留してきた要因を明らかにするため,算定や細胞分類を行うことで適切な診断や治療に導いている.細胞分類については,日本臨床衛生検査技師会穿刺液検査標準化ワーキンググループ1)から穿刺液の検査法が提案され,細胞のカウントは計算盤などで行う方法が説明されている.また,自動血球分析装置を用いて体腔液などを測定できることも可能となった報告もある2)

 体腔液に出現する細胞は,何らかの反応性により組織球や中皮細胞が出現し,時には悪性細胞の浸潤も観察される.その細胞形態は判断が困難なことに遭遇することもある.

 本稿では,胸腹水の細胞形態のバリエーションとして良悪性の細胞所見について述べる.

3章 フローサイトメトリー

検体保存方法によるMPOおよびリンパ球サブセット検査に対する影響

著者: 池亀彰茂

ページ範囲:P.1160 - P.1163

はじめに

 近年,医療技術の進歩によって血液検査分野でも検査項目が増えたため,臨床現場からは信頼性の高い検査結果が望まれている.フローサイトメトリー機器を用いたリンパ球サブセットや造血器腫瘍解析は,顕微鏡下による細胞形態像と併せて評価することで,より臨床に貢献することができる検査である.ただし,フローサイトメトリー検査における検体保存,設定および解析方法を正しく実施していることが条件となる.

 本稿では,フローサイトメトリー検査による結果値を正しく報告することを目的にして,検体保存,標識蛍光色素選択,コンペンセーションから腫瘍細胞のゲーティング方法について詳しく解説する.

 フローサイトメトリー標準化のため米国臨床検査標準化協議会(National Committee for Clinical Laboratory Standards:NCCLS)はapproved guidelineを発行している1,2).わが国においても日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards:JCCLS)から末梢血リンパ球表面抗原検査に関するガイドラインが発表された3).このガイドラインでは,血液検体からのリンパ球の回収は種々の因子が関係しているため,検体は採血後すぐに処理するのが理想的であることが記載されており,それが不可能な場合は各施設において使用抗凝固剤,保存温度,試料調整法などについて新鮮検体と比較・検討しなければならないとしている.腫瘍細胞では,正常細胞と比べて細胞が壊れやすいことや検体材料によっても検体保存条件は異なることを理解しておくことが重要である.

 JCCLSのガイドラインでは,18〜22℃で保存して24時間以内に測定するのが望ましいと記載されているが,藤巻ら4)の報告では,24時間室温で放置した検体で死細胞比率の増加を認めたため,採血後6時間以内に測定することが望ましいとしている.特に7-AAD(7-amino-actinomycin D)を用いた死細胞の検討において,ヘパリン採血管と比較してエチレンジアミン四酢酸二カリウム塩二水和物(ethylenediaminetetraacetic acid dipotassium salt dihydrate:EDTA-2K)含有採血管が24時間後では死細胞が顕著となると報告している.

 今回,筆者らは,健常者の末梢血を用いて細胞内ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)およびリンパ球サブセット(CD3,CD19)の経時的影響について検討した.EDTA-2K含有採血管で採血した血液を室温保存(22℃),冷蔵保存(5℃),EDTA-2K全血へ10%ウシ胎仔血清(fetal bovine serum:FBS)+RPMI 1640培地等量混和後に冷蔵保存(5℃)した全血検体を0,6,24,48hごとの各抗原発現に対する経時的影響を調べた.室温保存(22℃)とした保存については,施設環境や気候によって異なるため22℃に設定したインキュベーター内へ検体を保管して検討した.

 室温保存と冷蔵保存における側方散乱(side scatter:SS)およびCD45プロット図では,冷蔵保存は各白血球の分画は保たれるが,室温保存では24時間後には好中球分画に対する影響が著しい.一方,冷蔵保存したEDTA-2K全血やRPMI 1640培地等量混和したサンプルでは各白血球分画は保たれていた.しかし,48時間後には冷蔵保存したEDTA-2K全血においても好中球分画が拡散する傾向を認めた.RPMI 1640培地等量混和して冷蔵保存したサンプルでは各白血球分画に対する影響が最も少なかった(図1).

標識蛍光色素選択やコンペンセーションの注意点

著者: 小川恵津子

ページ範囲:P.1164 - P.1167

はじめに

 フローサイトメーターと蛍光標識モノクロナール抗体が市販化されてから40年近く経過している.当初はフルオレセインイソチアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)とフィコエリスリン(phycoerythrin:PE)による2カラー解析が主流であったが,その後,新しい蛍光色素が次々と開発され,造血器腫瘍細胞タイピングにおいてはマルチカラー化が進み,測定精度が飛躍的に向上している1).とりわけ,治療後の寛解状態を把握するために有効である微小残存病変の測定では,高感度検出が必要であるため,フローサイトメトリー法による6カラー以上のマルチカラー解析が推奨されている2,3)

 本稿では主に造血器腫瘍細胞タイピングに使用されている標識蛍光色素の特徴と,パネル作製時に考慮すべき蛍光補正や蛍光染色パターンの広がり(スプレッド)について解説する.

ゲーティングによっては見落としてしまう腫瘍細胞

著者: 有賀祐

ページ範囲:P.1168 - P.1171

はじめに

 フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)法による細胞表面・細胞内抗原(マーカー)の検索は白血病やリンパ腫の診断に欠かせない検査の1つとされ,病型分類や治療効果判定を行ううえで有用である1).対象領域の絞り込み(ゲーティング)は,FCMの結果を理解しやすくするうえで,あるいは目的の細胞(主に腫瘍細胞)にフォーカスして解析を明確にするうえで重要な操作である.

 本稿では,注意すべきゲーティングのポイントについて,筆者が経験し教訓と感じた事例を用いて解説する.

細胞内抗原解析の注意点

著者: 林田雅彦

ページ範囲:P.1172 - P.1175

はじめに

 フローサイトメトリー(FCM)による造血器腫瘍細胞抗原検査は病型分類および治療方針や予後推定に重要である.しかし,急性白血病細胞は未成熟な段階であることから,細胞表面における系統特異的な抗原の発現が弱いもしくは欠失,腫瘍細胞であるが故に他の系統抗原の異常な発現を認めることがあり,系統帰属の決定に苦慮する.特に混合表現型急性白血病は,細胞内抗原と細胞表面抗原の多重染色が必要となる1).FCMの正確な測定は,さまざまな細胞および細胞成分によるバックグラウンド蛍光によって妨げられることがある.バックグラウンドの原因には,自家蛍光,蛍光スペクトルの重なり,非特異な抗体の結合や吸着が存在する.これらの要素を十分に理解し,バックグラウンドの最小化および抗原陽性と陰性細胞の確実な識別は,細胞表面および細胞内抗原の解析において重要である.細胞内抗原のための固定・透過処理は,抗体との親和性や特異性の低下の要因となり,さらに陰性閾値の設定が困難であることから施設間差の原因となる.

 本稿では,造血器腫瘍細胞抗原検査における細胞内抗原染色の注意点について解説する.

フローサイトメトリー検査と形態学分類による骨髄腫細胞比率の相違

著者: 永井直治

ページ範囲:P.1176 - P.1179

はじめに

 近年,フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)検査は,測定装置や抗体試薬の開発により,複数抗原を同時に染色するマルチパラメーターフローサイトメトリー(multiparameter flow cytometry:MFC)化が進み,形質細胞腫瘍の診断に効力を発揮している.MFCは対象となる細胞の抗原異常を複合的に評価できるため,特徴的な免疫形質を用いて腫瘍細胞を段階的に絞り込むことで,高感度かつ特異的に解析が可能となる.しかし,解析で得られる形質細胞比率はFCM検査と骨髄血目視分類での乖離をしばしば認める.

 本稿では,その原因および対策について解説する.

フローサイトメトリーと免疫組織染色の結果乖離

著者: 香月奈穂美 ,   中峯寛和

ページ範囲:P.1180 - P.1183

はじめに

 フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)は,未固定遊離細胞を試験管内で免疫反応にて染色(免疫細胞染色)し,流体力学的,光学的ならびに情報工学的にデジタルデータを得る検査である1).一方,免疫組織染色/免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)は,通常はホルマリン固定パラフィン包埋切片上で免疫反応にて染色し,担当者が光学(時には蛍光)顕微鏡下で観察することにより,アナログデータを得る検査である.

 本稿ではまず,結果乖離にかかわる両検査の違いについて整理する.次に,リンパ腫を例に結果乖離の一部について具体的に解説する.

診断に有用な異常発現(aberrant expression)

著者: 藤原亨

ページ範囲:P.1184 - P.1187

はじめに

 フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)を用いた表面抗原解析は造血器腫瘍の診断に必須の検査法である.造血器悪性腫瘍細胞は正常細胞の分化段階と同一の抗原を示す場合と,通常では発現しない抗原の異常発現を認める場合がある.特に後者については疾患特異的であることが多く,さらに治療後の微小残存病変(minimal residual disease:MRD)の評価にも有用である.

 本稿では,実際の症例提示を通じてFCM検査における造血器腫瘍の診断に有用な異常発現(aberrant expression)を述べる.

系列同定が悩ましい白血病細胞・リンパ腫細胞

著者: 池本敏行

ページ範囲:P.1188 - P.1191

はじめに

 成熟B細胞腫瘍の表面形質による細胞同定には,汎B細胞抗原であるCD19やCD20,CD22に加えてCD5やCD10,CD23,CD200などが利用され,リンパ腫細胞の同定には免疫組織染色による細胞内抗原も利用される1).成熟B細胞腫瘍の病型分類にはCD5とCD10の発現検索が有効であり,CD5B細胞腫瘍には慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)とマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)があり,通常CLLはCD5CD23,MCLはCD5CD23として区別されるがCD23を発現するMCLがある(表1)1).転写因子のLEF1(lymphoid enhancer-binding factor1)もCLLに特異性が高いとされるが,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)やgrade 3の濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)でも陽性になる症例がある(表2)2,3).表面抗原の発現量の違いもCLLと他の成熟B細胞腫瘍を鑑別する重要な情報であるが,CLLには非典型例も多く3),特に白血化あるいは骨髄浸潤したMCLとCLLの鑑別には苦慮することがある.

 本稿では特にCLLと白血化/骨髄浸潤したMCLの鑑別方法について述べる.

フローサイトメトリー法によるhematogonesと腫瘍細胞の鑑別

著者: 渡邉珠緒

ページ範囲:P.1192 - P.1195

はじめに

 hematogones(HGs.非腫瘍性Bリンパ球前駆体)は健康な子どもから大人までの骨髄検体でみられ,B細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia:B-ALL)細胞と形態学的特徴や免疫表現型が類似している.また,HGsは化学療法後や同種造血幹細胞移植後の再生期に多数認める場合があり,特にB-ALL症例では,回復期によるHGsか,再発による白血病細胞かの鑑別が重要となる.

抗体製剤の使用の影響

著者: 西川真子

ページ範囲:P.1196 - P.1199

はじめに

 抗体製剤は標的抗原に対する高い特異性と親和性を有し,単剤もしくは従来の化学療法薬との併用によって造血器腫瘍の治療成績を有意に向上させた.現在,抗体製剤は白血病,リンパ腫,骨髄腫などに対して広く用いられている.一方で,抗体製剤に対する耐性も経験される.

 本稿では,抗体製剤の使用によるフローサイトメトリー検査(flow cytometry:FCM)への影響について概説する.

4章 凝固

採血管不良によるAPTT延長事例を踏まえた異常値への対処方法

著者: 近藤宏皓 ,   久保田芽里 ,   大坂直文

ページ範囲:P.1200 - P.1202

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は,内因系凝固機能のスクリーニングや抗凝固療法のモニタリングなどの目的で日常的に測定されている項目である.測定原理は,まず試薬中の陰性に荷電した活性化剤によって凝固第Ⅻ因子を活性化させ,続いて第Ⅺ因子を活性化する.その後,カルシウムを加えることで第Ⅸ因子,第Ⅹ因子,プロトロンビンと続き,最終的に生成されるフィブリンによる性状の変化を検出する方法が一般的である.また,採血管の抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが用いられるが,これは血中のカルシウムをキレート除去することで抗凝固活性を発揮する.大阪医科薬科大学病院(以下,当院)では米国臨床検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute:CLSI)の提案に基づき,クエン酸ナトリウム濃度が3.2%の採血管を使用している.

 APTTが延長する原因には,未分画ヘパリンや直接経口抗凝固薬などによる抗凝固療法,血友病や抗リン脂質抗体症候群などをはじめとした患者の病態に起因するものが挙げられる.しかし,実際に検査を行うに当たっては,採血手技や各種の測定条件など結果に影響を及ぼしうる要因が多数存在する.したがって,APTTの延長を認めた場合は結果が妥当であるかどうかを見極める必要がある.

 本稿では,筆者らが以前に経験した採血管不良によるAPTT異常値多発事例について,原因の特定に至った過程を紹介し,またAPTT異常値に遭遇した際の対処方法について述べる.

未分画ヘパリンまたはヘパリン類似物質(低分子量ヘパリン・ダナパロイドナトリウム・フォンダパリヌクス)の混入によるAPTT延長

著者: 下村大樹

ページ範囲:P.1204 - P.1207

ヘパリンの種類と用途

 ヘパリンはアンチトロンビン依存性に抗凝固作用(抗活性化Ⅹ因子:Ⅹa,抗トロンビン)を発揮する.ヘパリンの種類には,未分画ヘパリン,低分子量ヘパリン,ダナパロイドナトリウムおよびフォンダパリヌクスがあり,それぞれ抗Ⅹa/トロンビン作用の比率,半減期が異なる(表1).ヘパリンの用途は,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の治療,血液透析・人工心肺などの体外循環装置使用時の血液凝固防止,血管カテーテル挿入時の血液凝固防止,静脈内留置ルートの血液凝固防止,血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症・肺塞栓症・脳塞栓症・四肢動脈血栓塞栓症・手術中・術後の血栓塞栓症など)の治療および予防など多岐にわたる.

—APTT試薬間での測定値の乖離—凝固因子感受性

著者: 桝谷亮太

ページ範囲:P.1208 - P.1211

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は,接触相の活性化を起点として始まる内因系凝固反応を反映する検査であり,血友病をはじめとする先天性内因系凝固因子欠乏症やループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA),凝固因子インヒビターの存在によって凝固時間が延長する.また,APTTは上記の凝固異常症以外にも,未分画ヘパリンや直接経口抗凝固薬などの抗凝固療法のモニタリングにも用いられており,施設内でも日常的に実施される有用な検査である.その反面,病態や疾患に対する感度・特異度における試薬間差が課題でありAPTTの直接的な標準化は困難である1).主な理由として,市場に流通しているAPTT試薬の組成や濃度が多岐にわたることが挙げられる.執筆時点における代表的なAPTT試薬の一覧を表12)に示す.

 APTT試薬は第1試薬として,陰性荷電物質である活性化剤やリン脂質を含む溶液と,第2試薬として塩化カルシウム溶液で構成される.この活性化剤およびリン脂質の種類や濃度がAPTTに影響を及ぼす要因として重要であり,APTT試薬間での測定値の乖離を生じさせる原因となっている.そのため,測定値の乖離を理解するためには,検査に用いるAPTT試薬の組成を把握しておくことが必須である.特にLAの検出においては用いるAPTT試薬によって感受性が大きく異なることが知られているが,これは本号の「ループスアンチコアグラント感受性」の項で詳細に解説されるためそちらを参照していただきたい.

 本稿では,APTT試薬間での測定値の乖離のうち,凝固因子感受性について解説する.

—APTT試薬間での測定値の乖離—ループスアンチコアグラント感受性

著者: 徳永尚樹

ページ範囲:P.1212 - P.1215

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は内因系および共通系の凝固因子活性を評価する検査であり,出血傾向のスクリーニング検査として用いられている.APTTが延長する疾患や病態は多岐にわたり,血友病を代表とする内因系・共通系の凝固因子欠乏や,抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies:aPL)症候群,ヘパリンなど抗凝固薬の投与,肝機能低下,播種性血管内凝固症候群などさまざまである.しかしながら,APTTは,その試薬組成の違いにより,病態によっては結果値が大きく異なる場合がある.現在,上市されているAPTT試薬は10種類以上あるため,APTT値の評価には注意が必要である.他院からの紹介時に記載されているAPTT値と自施設で測定したAPTT値が異なる場合もあり,試薬の特性を理解しておかなければ真の病態を見逃してしまう可能性がある.

 本稿では,APTTを延長させる要因の1つであるループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)におけるAPTT試薬間の測定値の乖離と,そこからわかる病態鑑別の方法について述べる.

—APTT試薬間での測定値の乖離—APTT試薬のヘパリン感受性の違い

著者: 鈴木典子

ページ範囲:P.1216 - P.1219

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は内因系血液凝固スクリーニング検査や,循環抗凝血素の検索,未分画ヘパリン投与の確認などを目的として検査が行われている.APTTの測定に使用されるAPTT試薬は,接触因子の活性化剤(シリカ,エラグ酸など)とリン脂質(合成,動植物由来)によって構成され,これらの種類,濃度などの違いにより凝固因子,ループスアンチコアグラント,未分画ヘパリンに対する感受性の違いがあることが知られている1〜4)

 本稿では,筆者らが行ったAPTT試薬の未分画ヘパリンに対する感受性について紹介する.

直接経口抗凝固薬(DOAC)使用時の凝固関連検査の乖離(AT活性およびPS活性検査試薬)

著者: 森下英理子

ページ範囲:P.1220 - P.1223

はじめに

 直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)は2011年に初めてわが国に導入され,現在までに4種類が使用可能となっている.DOACは標的因子の違いから直接トロンビン阻害薬(direct thrombin inhibitor:DTI.ダビガトラン)と直接活性型第Ⅹ因子(factor Ⅹa:FⅩa)阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)に分類される.DOACの作用機序からもわかるように,本剤は一般的に使用されているグローバルな凝固時間〔プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)〕や1),アンチトロンビン(antithrombin:AT)・プロテインC(protein C:PC)・プロテインS(protein S:PS)などの凝固阻止因子活性やループスアンチコアグラントなどの凝固検査に影響を及ぼす2,3).特に血栓症の原因精査の際,すでにDOACを内服している場合は,DOACの種類や測定法によっては凝固阻止因子活性値が偽高値となり,欠乏症の診断を見落とす可能性があるため,十分にその影響について熟知しておく必要がある.

 本稿では,特にAT活性とPS活性に及ぼすDOACの影響について自験例を含めて紹介する.

エミシズマブによるAPTTへの影響

著者: 山口知子 ,   長尾梓

ページ範囲:P.1224 - P.1227

エミシズマブとは

 血友病Aは血液凝固第Ⅷ因子(factor Ⅷ:FⅧ)の量的・質的異常に伴う出血性疾患である.治療として血液凝固第Ⅷ因子製剤の投与を行うが,静脈内投与が必要であること,重症患者では週に2〜3回の頻回な定期投与が必要であること,抗FⅧ抗体(インヒビター)による薬効の消失があるなどの問題点があった.

 エミシズマブは,活性型第Ⅸ因子(FⅨa)と第Ⅹ因子(FⅩ)とに結合する二重特異性抗体であり,活性型FⅧと同様に凝固作用を示す(図1)1).皮下注射が可能で,半減期が長いため,投与間隔を1〜4週に延長できることや,インヒビターの有無にかかわらず有効であることなどの利点がある.先述した血液凝固因子製剤の問題点を克服し,発売以降,世界的に広く使われ始めている.

小児の一過性APTT延長

著者: 岡田直樹 ,   藤澤麗子 ,   犀川太

ページ範囲:P.1228 - P.1231

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)に影響する病態は,APTT検査を構成する要素別に分けて考えると理解しやすい.APTT検査は,リン脂質依存性凝固時間の1つであり,被験者血漿中の凝固因子とAPTT試薬(凝固第Ⅻ因子と第Ⅺ因子の試験管内活性化を目的とした活性化剤,塩化カルシウムおよびリン脂質を含む)を用いて実施される.したがって,①内因系および共通系の凝固因子活性低下(凝固因子の量と機能の低下およびインヒビターの存在)と②抗リン脂質抗体の存在によりAPTTは延長する.具体的には,先天性凝固異常症として凝固第Ⅷ因子や第Ⅸ因子が欠乏する血友病と凝固第Ⅷ因子の運搬蛋白であるvon Willebrand因子の不足や機能異常が原因のvon Willebrand病があり,一方,後天性凝固異常症として凝固因子に対するインヒビターの出現やリン脂質に対する自己抗体が凝固反応を遅延させる抗リン脂質抗体症候群が知られている.

 本稿では,感染症を契機とした小児の一過性抗リン脂質抗体陽性について解説する.本病態では“APTT延長があるにもかかわらず出血症状や血栓症状は伴わない”という“検査結果と臨床症状の乖離”に直面する.自験例の臨床的特徴とその経過を提示し,小児の後天性APTT延長を認めた場合の対応について概説する.

—フィブリノゲンの偽低値—ヘパリン・トロンビン阻害薬の影響

著者: 藤森祐多

ページ範囲:P.1232 - P.1235

フィブリノゲン測定法

 フィブリノゲン測定法を表1に示す.日常の臨床検査で最も用いられているフィブリノゲン測定法はトロンビン時間法(Clauss法)であり,自動分析装置で実施することが可能である.トロンビン時間法は試薬としてトロンビンを血漿に加えフィブリノゲンからフィブリンが形成するまでの凝固時間を測定し,フィブリノゲン量に換算する比較的簡単な原理に基づく検査法である(図1).血漿に加えるトロンビン試薬は血漿中の抗トロンビン物質(アンチトロンビン,ヘパリンコファクターⅡ)の影響を抑えるために過剰量が含まれているものの,試薬ごとにトロンビン濃度が異なることが知られている.過剰量のトロンビンが血漿中のフィブリノゲンをフィブリンに変換するために,本来は生体内で生じる少量のトロンビンが凝固第Ⅷ因子や凝固第Ⅴ因子といった凝固因子を活性化することによって起こるトロンビンポジティブフィードバックは検査原理上,関与しない.

 本稿で最も伝えたいことは,フィブリノゲン測定試薬中には過剰なトロンビンが含まれていることから,トロンビン活性を阻害するような薬剤の影響に対しても比較的安定的に測定を行うことができるため,日常臨床でフィブリノゲン測定をするなかでトロンビン阻害薬によってフィブリノゲンが偽低値に測定されるという可能性をそれほど心配する必要はないということである.ただし,トロンビン活性を阻害するような薬剤が試薬のトロンビン活性を上回るほど血中に存在していた場合には,フィブリノゲンがフィブリンに変換されるまでの凝固時間が延長し,結果としてフィブリノゲンの偽低値を引き起こす可能性がある.日常の臨床で使用されるトロンビン活性を阻害する薬剤として,未分画ヘパリンや直接トロンビン阻害薬が挙げられる(表2).

—フィブリノゲンの偽低値—IgA M蛋白血症

著者: 新井慎平

ページ範囲:P.1236 - P.1239

はじめに

 フィブリノゲン(fibrinogen:Fbg)は血液凝固能を評価する際に測定される凝固スクリーニング項目の1つである.測定原理の異なる測定法がいくつかあるが,分析装置への適用性や測定に要する時間・試薬コストなどの観点から,日本国内のほとんどの検査室ではClauss法を原理とした方法で測定されている(Fbg活性値).

 Fbgは血中成分のなかで濃度の高い蛋白であり,さまざまな病態によって血中濃度は大きく増減し,基準範囲を超えた異常値と遭遇することはそれほど珍しくはない.臨床的には低値となる病態(後天的要因)の鑑別が重要視されることが多いが,凝固検査担当者はその低値が病態を反映した真値ではない,すなわち,偽低値の可能性を念頭に置いて鑑別する必要がある.直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)による偽低値(前項目「ヘパリン・トロンビン阻害薬の影響」参照)もあるが,検査室で遭遇するFbg偽低値の多くは採血不良による検体凝固やフィブリン(fibrin:Fbn)析出による吸引エラーなどの技術的要因である.一方,免疫学的測定法でたびたび問題となるような測定系に関連した異常反応はほとんど経験しない.

 多くの場合,後天的要因や技術的要因が否定された場合には先天性の異常Fbg血症を疑うことになる(次項目「フィブリノゲン分子異常」参照).筆者は,Fbg活性値が異常低値を示し先天性Fbg異常症が疑われた患者で,免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)AのM蛋白が関与した後天性Fbg異常症の症例を経験した.

 本稿では,偽低値を証明した精査方法とそのメカニズムについて解説していく.

—フィブリノゲンの偽低値—フィブリノゲン分子異常

著者: 鈴木敦夫

ページ範囲:P.1240 - P.1243

フィブリノゲン分子異常に起因する“乖離”

 フィブリノゲン分子異常は,遺伝子異常に起因する先天性異常症と,産生臓器である肝臓の異常に起因する後天性異常症に区分される.両者とも比較的まれな疾患であるが,前者については約半数が無症候性であり,把握されている患者数以上に潜在的な患者数が一定数存在していると考えられている.しかし,日常検査ではみつかりにくいことも相まって,はっきりとした有病率が把握できていない.

 2022年現在,日常検査としてほとんどの施設で採用されているフィブリノゲン検査法はClauss法と呼ばれる測定手法である.本稿では,フィブリノゲンの分子異常がもたらすフィブリノゲン測定における乖離現象を解説する.

—FDPやDダイマーの上昇—採血不良

著者: 高田章美

ページ範囲:P.1244 - P.1247

はじめに

 フィブリノゲン/フィブリン分解産物(fibrinogen/fibrin degradation products:FDP),Dダイマーは播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)や血栓症などのさまざまな疾患において高値を示す.しかし,まれに患者の病状や時系列結果から考えにくい検査値の上昇がみられ,偽高値を疑う症例に遭遇することがある.その原因として,採血手技の不備によるクエン酸ナトリウム(sodium:Na)血漿検体(以下,検体)の凝固による影響があり,まれであるが免疫学的測定の非特異反応による関与も考えられる.特に,凝固検査においては血液が凝固した検体での測定は不適切であることは周知の事実であり,検体が適切であると判断することが重要である.

 本稿では,採血手技によるFDP,Dダイマー偽高値の原因や対処方法について紹介する.

—FDPやDダイマーの上昇—腹水・胸水由来

著者: 窓岩清治

ページ範囲:P.1248 - P.1251

はじめに

 腹水や胸水貯留は,さまざまな疾患によって体腔内に生理的な量を超えて体液が貯留した病態である.腹水や胸水貯留は患者の循環器・呼吸器系に大きな負荷を及ぼすことがあるため,穿刺などによる迅速な診断と適切な治療が求められる.一方で,体液の貯留をきたす患者では,凝固線維素溶解(以下,凝固線溶)系の活性化の指標であるフィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products:FDP)やDダイマーの増加を示すことがある.腹水や胸水貯留の貯留をきたす基礎疾患は,同時に凝固線溶系の活性化を伴うような病態であることも多く,FDPやDダイマーの上昇のみから患者の凝固線溶病態を正確に把握することは容易ではない.

 本稿では,腹水および胸水貯留に伴う血液凝固線溶系の病態とともに,FDPやDダイマーの生成機序と解釈について概説する.

—FDPやDダイマーの上昇—IgA由来の非特異反応

著者: 勢井伸幸

ページ範囲:P.1252 - P.1255

はじめに

 フィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation product:FDP)やDD構造を有するフィブリン分解産物であるDダイマーなど,抗原抗体反応を測定原理とする免疫学的測定法は,測定系に用いる抗体により反応性が異なることを十分に理解しておく必要がある.測定値が非特異反応を起こす原因は種々あるが,桜井1)の調べによると,“Dダイマー測定系”異常反応の原因である免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)クラスは,吸収試験により異常反応の原因抗体がわかった件に関し,1996〜2003年の統計(全133ケース)において,検体Ig由来異常反応97件,直線性不良・FDP値とのバランス不良29件,その他の異常反応7件であった.検体Ig由来異常反応の内訳はIgG,IgA,IgMおのおの5,14,78件で百分率比はIgG:IgA:IgM=5:15:80であったとしている.

 Dダイマーの測定原理は,検体と抗Dダイマーモノクーロナル(マウス)感作ラテックスを混合すると,検体中の濁度が増加する.その濁度変化量を波長600〜800nmで測定する.また,同様に操作して得られた標準液の濁度変化量と比較することによって検体中のDダイマー濃度を求める2).Dダイマー測定において偽高値となる原因としては採血手技,試薬による非特異反応などが考えられる.そのなかで一番影響を与えるのは採血手技によるものであり,駆血帯の締めすぎや長時間駆血帯を巻くことによる採血管内での凝固線溶反応の亢進である.

 筆者は,患者血漿中のIgAがDダイマー測定用試薬(リアスオートTM・Dダイマーネオ.シスメックス社)と非特異反応を起こし偽高値となったと考えられた症例を経験したので,その原因,対策法などを症例提示しながら解説する.

—FDPやDダイマーの上昇—血管免疫芽球性リンパ腫の非特異反応

著者: 徳竹孝好

ページ範囲:P.1256 - P.1259

はじめに

 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma:AITL)は非Hodgkinリンパ腫の1.2〜2.5%に認められ,全身のリンパ節腫脹,肝脾腫,発熱,皮疹,自己免疫性溶血性貧血,高γグロブリン血症などを症状とする1).増加するγグロブリンは,B細胞性腫瘍の単クローン性と異なり多クローン性である.

 一方,血液腫瘍性の高γグロブリン血症では,しばしば抗原抗体反応を原理とする検査項目において非特異反応を示すことが報告されている2,3).フィブリン/フィブリノーゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation product:FDP)とDダイマー(D-dimer:D-D)測定においても抗原抗体反応が用いられているため,非特異反応の報告がみられる4〜6).これらの報告はモノクローナル蛋白(以下,M蛋白)を有するB細胞性腫瘍の症例が中心であり4,5),T細胞性腫瘍での報告は筆者らが報告したAITLの1例にとどまる6)

 今回,本症例のデータの見直しを行い,当初は増加した免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)Mが非特異反応の主要因と考えていた推測に,IgGの影響も加味される解析結果を得た.本稿では,希釈法やその他の原因究明法も含め,非特異反応の発見の経緯,対処法を述べる.

不適切な遠心処理による血漿中残存血小板が凝固検査,特にLA検査に及ぼす影響

著者: 小宮山豊 ,   松田将門

ページ範囲:P.1260 - P.1263

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)やプロトロンビン時間(prothrombin time:PT)など凝固時間検査(以下,凝固検査)は止血異常の有用なスクリーニング検査であるが,その標準化や精度保証はいまだ不十分である.特に遠心処理など検査前処理がどのように凝固検査結果に影響するかについて臨床検査技師や医師の知識や理解は不十分な部分があり,わが国ではこれらの議論に関するガイドラインも規定されていなかった.そのため,日本検査血液学会は,凝固検査の精度保証を目指した第一歩として「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」(以下,コンセンサス)を邦文と英文で作成し,適正な検査前処理の普及に努めている1,2)

 本稿では,①凝固検査が血小板由来のリン脂質の影響を受ける検査であること,②遠心処理後の血漿検体には血小板が残存しない前提で検査診断は進むが不十分な遠心処理では凝固検査に影響する血漿中残存血小板が存在すること,③院内で求められる迅速検査に対応しようと高速遠心処理してしまうとトロンビン活性化を招くこと,これらに対する不理解と現実を提示し,不適切な遠心処理を改善することによる血液検査結果乖離防止法を提示する.

組織液中の組織因子(TF)の混入による凝固時間を用いた検査への影響

著者: 松本智子 ,   下村大樹

ページ範囲:P.1264 - P.1266

はじめに

 生体内における凝固の引き金は血管壁が損傷し,血液が組織液中の組織因子(tissue factor:TF)と混ざることである.TFは血液が直接接する血管内皮や心内膜や赤血球には存在せず,血管外膜,心筋,表皮,大脳皮質,消化管粘膜などに存在する1).一方,TFが混入した血液検体では凝固検査に大きく影響する.これは診断や治療が変わってしまうため,検査結果の解釈に注意すべきである.

 本稿では,TF混入の影響について凝固時間を測定する検査を中心に概説する.

ヘマトクリットが凝固検査データに与える影響

著者: 谷田部陽子

ページ範囲:P.1268 - P.1271

はじめに

 凝固検査は,不安定な凝固因子を含む多数の因子が複雑に絡み合い活性化する凝固カスケードを測定する検査である.採血から測定前までにはいくつかの注意事項があり,それを怠ると測定結果に影響する恐れがある.凝固検査には,抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが添加されている採血管を用いる.クエン酸ナトリウムと血液の割合は1:9と決められており,規定量の血液を過不足なく採血管に採取しなければならない.しかし,規定量が守られたとしても,ヘマトクリット(hematocrit:Ht)値により抗凝固剤との割合が不適となるケースがある.

 本稿では,その原因と対策について解説する.

複数の凝固因子インヒビター陽性(LAHPS/LLS)

著者: 内藤澄悦 ,   家子正裕

ページ範囲:P.1272 - P.1275

はじめに

 ループスアンチコアグラント(LA)は抗リン脂質抗体(aPL)の1つであり,抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断的検査所見の1つでもある.また,LAを含むaPLはそれぞれが独立する血栓危険因子であるが,まれに出血症状に関与することがある.主に感染症や自己免疫疾患を基礎疾患とした小児および若年女性のLA陽性者に認められ,プロトロンビン活性の低下を伴う.プロトロンビンそのものに対するaPLではない自己抗体(anti-FⅡ Ab)が検出される場合が多く,LAHPS(LA-hypoprothrombinemia syndrome)と呼ばれている1).LAHPSは当初,感染症後の小児や膠原病に罹患した若年女性に多いとされたが,高齢者での報告も増えてきている2)

 プロトロンビン活性は正常で,その他の凝固因子活性が低下し,時に出血症状を認めるLA症例に遭遇することがある.LAHPSに類似した症例のため,LLS(LAHPS like syndrome)と呼ばれている3).LAの臨床的意義は血栓リスクであるが,LAを基本病態とするLAHPSやLLSは時として著しい出血症状をきたす極めてまれで複雑な病態と考えられている.

 本稿では,LAHPSやLLSの臨床症状や検査所見,後天性血友病A(AHA)との鑑別方法について解説する.

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目次

ページ範囲:P.1092 - P.1093

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.1276 - P.1276

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臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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