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雑誌目次

論文

臨床検査66巻11号

2022年11月発行

雑誌目次

今月の特集 マイクロバイオーム

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1281 - P.1281

 マイクロバイオーム(microbiome)が人間の健康およびさまざまな全身性疾患に影響を与えることが知られるようになり,重要な学問領域として世界的に数多くの研究が行われています.一方,日常診療のなかで直接関与することはいまだに少ない分野であることから,その背景と考え方を系統的に整理する機会は乏しい状況です.

 今回の特集は,臨床検査技師を含む医療従事者を対象として,マイクロバイオームに対する基本的な理解を深めることを目的としています.

 総論では,マイクロバイオームの定義,関連する解析手法,免疫系の発達・成熟における役割について,わかりやすく紹介いただいています.各論では,マイクロバイオームと各種疾患の関連,特徴,検査・治療を含む臨床応用,研究課題の展望などについて,各専門分野の先生方から幅広く解説いただきました.今後,さらに期待される臨床応用に向けた理解の一助として,本特集を活用いただけるよう願っています.

Microbiomeとその生理作用

著者: 大野博司

ページ範囲:P.1282 - P.1288

Point

●ヒトを含む動物のからだと環境との境界をなす皮膚や粘膜面には膨大な数の細菌群,常在細菌叢が定着している.

●細菌叢は,ある環境中に共存して棲息している細菌群であり,microbiotaとも称される.これに対してmicrobiomeは,microbiotaの遺伝子や,時には代謝機能やその結果として産生される代謝物の情報をも包含した用語である.

●gut microbiomeは宿主の生理,病理に多大なインパクトを与えており,宿主との相互作用の分子メカニズムの理解は疾患の予防や治療につながる.

Microbiomeと感染症

著者: 嶋崎鉄兵

ページ範囲:P.1290 - P.1295

Point

●感染症診療とマイクロバイオームの世界は,似て非なるものである.

●16S rRNA菌叢解析のみでマイクロバイオームの全てを理解できるわけではない.

●マイクロバイオームを治療対象とした試みの現状を理解する.

●マイクロバイオームの評価がなぜ難しいかを理解する.

●マイクロバイオームが感染管理の未来にどうつながるかを理解する.

Microbiomeと呼吸器疾患

著者: 藤本源 ,   小林哲

ページ範囲:P.1296 - P.1300

Point

●従来は,下気道は無菌と考えられてきたが,最新のゲノム解析技術を用いて細菌由来の遺伝子配列を調べることによって,肺にも常在する細菌の集団(肺内細菌叢)が存在することがわかってきた.

●呼吸器疾患において肺内細菌叢を調べてみると,常在する細菌叢に乱れ(ディスバイオーシス)が生じている.腸内細菌叢と肺内細菌叢には密接な関連があり,疾患の発症や治療反応性に影響を与えている可能性がある.

●呼吸器疾患に特徴的な細菌叢を調べていく過程で細菌由来の代謝産物が疾患に関与している知見も得られてきているので,メタボロームの観点で研究を進めていく必要もある.

Microbiomeと炎症性腸疾患

著者: 柴田納央子

ページ範囲:P.1302 - P.1307

Point

●炎症性腸疾患は,腸内細菌のdysbiosisを含む環境因子に,粘膜免疫システムの異常をはじめとした遺伝的素因が加わることで発症する多因子疾患である.

●宿主粘膜免疫システムと腸内細菌叢の連携・相互作用は腸管恒常性の維持に不可欠であり,腸管恒常性の維持は炎症性腸疾患の発症・病態形成に抑制的に働く.

●炎症性腸疾患における腸内細菌叢のdysbiosisとして,Clostridium属の減少や,上皮細胞接着性細菌の増加が報告されている.

●潰瘍性大腸炎,Crohn病それぞれに関連がみられる特定の細菌種が報告されている.

Microbiomeとリウマチ性疾患

著者: 前田悠一 ,   真鍋侑資

ページ範囲:P.1308 - P.1313

Point

●関節リウマチ(RA)の発症の起源として粘膜病変が重要と考えられる.

●筆者らはRA特有の腸内細菌叢としてPrevotella属細菌を同定した.

●疾患モデルマウスを用いた研究によって腸内細菌叢の病態への寄与が評価できる.

Microbiomeと肝疾患

著者: 守屋圭 ,   永松晋作 ,   松尾英城

ページ範囲:P.1314 - P.1321

Point

●近年,わが国では非ウイルス性の慢性肝障害の割合が明らかに増加している.食事栄養ならびに嗜好物の摂取方法に関する見直しが求められる.

●慢性肝炎や肝硬変などの慢性肝障害を有する患者群においては,腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)が存在していることが明らかになっている.

●ディスバイオーシスの進行に伴い,産生される代謝物の質的・量的変化が各種病態の進行に影響すると考えられる.

●どのような細菌がどのような病態と結び付くのかに関しては,依然として不明な部分が多い.今後,このような観点からの研究成果が待たれる.

Microbiomeと悪性腫瘍

著者: 角田卓也

ページ範囲:P.1322 - P.1326

Point

●腸内細菌叢と悪性腫瘍は密接な関係があることがわかってきた.悪性腫瘍の発生,予後,治療効果の全ての分野に関係している.

●最近,特にがん免疫療法である免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の臨床効果を規定する因子として腸内細菌は注目されている.その機序として,腸内細菌が発酵によって作り出す短鎖脂肪酸の作用が重要であると考えられている.

●ICIの臨床効果は,腸内細菌の多様性を減少させるような抗菌薬の投与や安易なprobiotics服用は治療効果を減弱させる.

●腸内細菌を変化させることで治療効果を上げる試みが始まっている.短鎖脂肪酸を多く作らせるように,その原料となる食物繊維を1日20g以上摂取することによってICIの臨床効果が上がる報告がある.食事とがん治療の関係が注目されている.

Microbiomeと糖尿病

著者: 渡邊善之 ,   藤坂志帆 ,   戸邉一之

ページ範囲:P.1328 - P.1333

Point

●肥満や糖尿病といった病態では多様性の低下などの腸内細菌叢の破綻(dysbiosis)がみられ,糖代謝異常の発生や増悪の原因となる.

●短鎖脂肪酸,胆汁酸(BA),イミダゾールプロピオン酸をはじめとする腸内細菌由来代謝産物は宿主の耐糖能に影響を与える.

●ヒトの常在菌であるAkkermansia muciniphilaは腸管バリア機能維持に重要な役割を果たす菌であり,代謝異常への治療応用が期待されている.

Microbiomeと肥満症

著者: 羽石悠里 ,   宮本潤基 ,   木村郁夫

ページ範囲:P.1334 - P.1339

Point

●肥満者の腸内細菌はFirmicutes/Bacteroidetesの比率が増加する.

●腸内細菌の主要な代謝物である短鎖脂肪酸(SCFAs)はGPR41とGPR43を介して肥満症状を改善する.

●妊娠期における難消化性多糖やSCFAsの摂取は,次世代の出生以降の成長に伴う肥満に対して抵抗性に寄与する.

Microbiomeと神経疾患

著者: 竹脇大貴 ,   山村隆

ページ範囲:P.1340 - P.1345

Point

●さまざまな神経疾患での腸内細菌叢偏倚を示す研究成果が相次いで報告されており,腸内細菌叢検査の臨床診断への応用も視野に入りつつある.

●神経疾患の病態を悪化させる腸内細菌因子が明らかにされつつあり,腸内細菌叢を標的とした新規治療法の開発が進められている.

●腸内細菌叢偏倚を矯正する方法として,薬剤のほか食生活の改善,糞便移植,特定の菌種の補充・除去療法などがある.

●超早期に診断して適切に介入することで,将来的には神経難病の進行を抑制することが可能になると予想される.

Microbiomeと心血管系疾患

著者: 山下智也 ,   吉田尚史 ,   平田健一

ページ範囲:P.1346 - P.1351

Point

●循環器疾患でも,疾患に特徴的な腸内細菌叢が報告されている.

●腸内細菌は代謝と免疫機能への影響によって宿主の生体機能に影響を及ぼす.

●循環器疾患の発症や予後に腸内細菌代謝物(TMAO)が関係している.

WITHコロナにおける検査室の感染対策・9

健診部門における感染対策

著者: 林京子

ページ範囲:P.1352 - P.1356

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症パンデミックによって2020年4月7日に東京,神奈川,埼玉,千葉,大阪,兵庫,福岡の7都府県に緊急事態宣言が出され,さらには同16日に対象が全国に拡大された.東京慈恵会医科大学附属病院新橋健診センター(以下,当センター)では2020年4月6日から6月20日まで全ての健診業務を中止した.再開に当たっては,病院感染対策部の協力のもとで,来院前・来院時のトリアージや実際の業務中の対応について厳密な取り決めが行われた.2020年6月22日に定期健診業務,7月1日に人間ドック業務を再開した.特にエアロゾルが危惧された眼圧検査,内視鏡検査,呼吸機能検査のうち,眼圧検査は9月に,内視鏡検査は10月に再開した.

 毎年,国内で新規にがんと診断されるのは100万人ほどである.厚生労働省の全国がん登録(罹患数・率)報告(2019年)1)によると,がん検診・健康診断・人間ドックによって発見されたがんの比率は,前立腺(25.7%),乳房(女性のみ,24.9%),胃(19.3%),大腸(18.6%)などである.つまり,がん患者の約4〜6人の1人ががん検診や健康診断などをきっかけに発見されていることになる.しかし,COVID-19の拡大による外出自粛や,感染リスクへの不安などから,この数年間はがん検診や健診の受診を控える傾向にある.健診の受診を控えた結果,疾患を早期に発見できず,病気が進行する恐れもある.したがって,コロナ禍においても,病気の早期発見,早期治療のためにもCOVID-19に対する徹底した感染対策を行い,できるだけ多くの方に安心して健診を受けてもらうことが重要である.

 本稿では,日本人間ドック学会の勧告や健診関連団体の「健康診断実施時における新型コロナウイルス感染症対策」2),さらに,東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)の感染対策部からの意見をもとに決定した,当院の健診部門における感染予防対策について紹介する.

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目次

ページ範囲:P.1278 - P.1279

書評

著者: 岡田保典

ページ範囲:P.1358 - P.1358

書評

著者: 小杉俊介

ページ範囲:P.1359 - P.1359

「検査と技術」11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1280 - P.1280

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.1288 - P.1288

次号予告

ページ範囲:P.1361 - P.1361

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 4年に1度の祭典といえば1番目にオリンピック・パラリンピックを思い浮かべる読者の方が多いことと思います.2番目がサッカーワールドカップでしょうか? サッカーワールドカップは今年11・12月にカタールで開催されます.これまで6・7月に開催されていたものが今年は11・12月開催.やはり酷暑のなかでのサッカーは,プレーヤーも観客も大変だと思います.日程変更はサッカー業界では一大事だったことでしょう.ファンとしては各国のトッププレーヤーがしのぎを削るプレーが見られると思うと待ち遠しい限りです.

 さて,1年に1度の祭典といえば読者の皆さんは何を思い浮かべますか? 1年間隔だといっぱいありすぎて,どれにするか迷ってしまうと思います.私は,もちろん日本臨床検査医学会学術集会です(こじつけ感が強めですが)! 今年は第69回となり,大会長には当誌の編集主幹であります自治医科大学臨床検査医学の山田俊幸先生が就任されています.開催期間は2022年11月17〜20日で,会場は栃木県総合文化センターと宇都宮東武ホテルグランデです.テーマは“地域社会に貢献する臨床検査”となっています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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