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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査66巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

今月の特集1 血液ガスの臨床

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.117 - P.117

 臨床検査技師は動脈血液ガスを直接採取することはないため,データの読み方に関して得意な方はあまり多くないのではないでしょうか? しかし,中規模病院以上の病院では臨床検査技師が血液ガスの機械メンテナンスを実施していることが多いと思います.ぜひとも,所見を判読できるようになってもらいたいと考えています.

 本特集では血液ガスについての基本的な考え方はもとより,各診療科の先生方はどのように判読をしているのか? というところにスポットを当てて,いろいろな診療科・視点からみた血液ガスの判読方法を解説いただきました.読者の方々には,臍帯血液ガスもなじみがあまりないかもしれません.しかし,とても重要なのことなので,その臨床的な意義などをご教示いただきました.精度管理に苦慮しているとの話もよく聞きますので,その点についてもISO 15189に関連して解説いただきました.

 本特集が読者の方々の知識のブラッシュアップにつながれば幸いです.

血液ガス分析の基礎

著者: 深野賢太朗 ,   讃井將満

ページ範囲:P.118 - P.124

Point

●酸塩基平衡

・まず水素イオン指数(pH)をみて,アシドーシスかアルカローシスのどちらが主要な変化なのかを判定する.

・動脈血二酸化炭素分圧(PaO2)と重炭酸濃度(HCO3)をみて,上記の主要な変化が呼吸によるものか代謝によるものかを判定する.

・代償性変化の程度を判定する.

●肺酸素化能

・動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素割合(FiO2)比を用いて肺酸素化能を評価する.

集中治療部からみた血液ガス

著者: 上田朝美

ページ範囲:P.126 - P.133

Point

●血液ガスは主に酸素化,酸塩基平衡の呼吸性,代謝性変化の評価に用いられる.

●動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は換気の評価に有用である.

●Stewart法を用いると蛋白質やリン酸を加味した酸塩基平衡異常の評価が行えるため集中治療に有用である.

PICUからみた血液ガス

著者: 清水寛之 ,   永渕弘之

ページ範囲:P.134 - P.141

Point

●小児集中治療室(PICU)では先天性心疾患の全身管理を行うことがあり,低酸素状態をベースにもつ患児がいる.

●低酸素になる循環動態,血液ガスの解釈,治療・管理などについて概説する.

●術後管理においてしばしば遭遇する血液ガス所見の解釈についてStewartアプローチを用いて検討する.

救急部からみた血液ガス

著者: 水野慶子 ,   杉田学

ページ範囲:P.142 - P.145

Point

●血液ガス分析は呼吸と循環の評価ができるだけでなく,結果がわかるまでが早いため,救急の現場では欠かせない検査である.

●乳酸アシドーシスの存在は,背景にある循環不全を示唆する.

●血液ガスの一部の項目は静脈血で代用することが可能である.

●代謝性アシドーシスの原因疾患を鑑別するためには陰イオンギャップ(AG)の測定が重要である.

●検査結果をみるだけでなく,患者の病歴や身体所見と併せて病態を鑑別する必要がある.

臍帯血液ガス測定の意義

著者: 新垣達也 ,   関沢明彦

ページ範囲:P.146 - P.151

Point

●分娩直後の臍帯動脈血ガス分析は非侵襲的であり,検査の実施が容易で,かつすぐに結果が得られるため,非常に有用である.

●臍帯動脈血液ガス分析結果から胎児のアシデミアおよびアシドーシスを評価して,それらの原因を推測することは,出生児の短期的な管理の指標となり,さらには長期的な合併症の予測につながる.

●分娩直後に正確かつ迅速に臍帯動脈血を採取し,分析することが重要である.

ISO 15189からみた血液ガス分析装置

著者: 藤澤真一

ページ範囲:P.152 - P.158

Point

●血液ガス分析装置は,メーカーが推奨する使用方法を順守することのみでISO 15189要求事項をおおむね満たしている完成度の高い測定システムである.

●測定のトレサビリティが確立しているため,導入時検証は,トレサビリティ体系図の入手および再現性を確認する程度で十分である.

●臨床上の必要性から連続稼働を前提としており,内部精度管理のあり方が懸念されるが,ISO 15189要求事項からみても,測定回数を増やすことは示唆されていない.

●文書や記録の管理は重要である.不具合の記録だけでなく,良好に維持できていることを立証する記録を蓄積することを意識する.

今月の特集2 血液凝固を阻害するもの

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.159 - P.159

 さまざまな“血液凝固を阻害するもの”が存在します.血液検体を凝固させないために使われるもの,血栓予防治療として投与されるもの,生理的に存在して過凝固から生体を守るもの,病的に出現して凝固異常をもたらすもの.これらの多くは,カルシウムやリン脂質の奪取あるいは活性部位への結合を介して活性化凝固因子による酵素反応を阻害することで“血液凝固を阻害するもの”として本領を発揮します.この共通点をよりどころに,本特集ではあえてひとくくりに取り上げました.一部については教科書的・古典的な内容の域に入っている感がありますが,活性化凝固因子による酵素反応を阻害する物質という切り口から,凝固検査の知識技術をあらためて見直してみる機会になるのではと考えます.

 多岐にわたる“血液凝固を阻害するもの”を同じ土俵に上げて,第一線のエキスパートの方々に解説いただきました.本特集が関連する知識の整理とスキルアップの一助となると幸いです.

検体前処理のための抗凝固剤

著者: 徳永尚樹

ページ範囲:P.160 - P.165

Point

●各種の採血管に含まれる抗凝固剤の種類と作用機序を理解し,目的とする検査に適した採血管に,推奨される順番で採血する.

●採血管に含まれる抗凝固剤の作用は,カルシウムイオン(Ca2+)キレート作用と凝固因子活性阻害の2種類である.

●凝固線溶検査や赤血球沈降速度(赤沈)検査の抗凝固剤として用いられるクエン酸ナトリウム(Na)は液状であるため,血液と抗凝固剤の比率が変わらないように規定の採血量を厳守する.

治療に用いられる抗凝固薬

著者: 橋口照人

ページ範囲:P.166 - P.170

Point

●ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子の産生を抑制する抗凝固薬であり,プロトロンビン時間(PT)によってモニタリングすることが可能である.

●ヘパリン,ダナパロイド,フォンダパリヌクスはアンチトロンビン(AT)の活性増強による凝固因子阻害活性を有する.

●直接経口抗凝固薬(DOAC),アルガトロバンは選択的凝固因子阻害活性を有する合成製剤である.

●過度の抗凝固状態あるいは残存凝固活性測定法の確立が今後の課題である.

アンチトロンビンその他の生理的抗凝固因子

著者: 鈴木伸明

ページ範囲:P.172 - P.177

Point

●血液凝固とのその制御はセリンプロテアーゼとセリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)からなる.

●アンチトロンビン(AT)によるトロンビンとFⅩaの不活化.プロテインC(PC)による活性化血液凝固第Ⅴ因子と活性化血液凝固第Ⅷ因子の不活化が主要な凝固制御経路である.

●ATはヘパリン類の存在によって,PCはプロテインS(PS)が補酵素として働くことによって,その酵素作用の増強に寄与している.

凝固因子インヒビターの検査診断

著者: 山﨑哲

ページ範囲:P.178 - P.181

Point

●原因不明の凝固時間の延長に際しては,クロスミキシング試験(CMT)を速やかに実施することが重要である.

●CMTやインヒビター測定は必ずしも標準化された方法ではないため,結果の評価には十分に注意する.

●臨床症状,経過などと併せて注意深く評価する必要がある.

凝固第Ⅷ因子インヒビター

著者: 天野景裕

ページ範囲:P.182 - P.187

Point

●先天性血友病Aインヒビター発生のリスクファクターには遺伝子的要因,環境要因,治療要因などが複雑に関係している.血友病Aの原因遺伝子異常を確認しておくことは重要である.

●第Ⅷ因子擬態製剤であるemicizumab(エミシズマブ)投与患者の血漿検体では,エミシズマブが第Ⅷ因子(FⅧ)と異なり不活化されないため,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が著明に短縮をきたすことに注意が必要である.

●凝固第Ⅷ因子インヒビターはタイプ1とタイプ2インヒビターに分類される.先天性血友病Aインヒビターではタイプ1,後天性血友病Aではタイプ2であることが多い.

●凝固第Ⅷ因子インヒビター存在下では,凝固一段法によるFⅧ活性測定は患者の出血傾向を必ずしも表現できないため,包括的凝固能検査の活用が重要である.

自己免疫性凝固第Ⅴ因子インヒビター

著者: 小川孔幸

ページ範囲:P.188 - P.192

Point

●自己免疫性凝固第Ⅴ因子(FⅤ)インヒビター(自己免疫性凝固第Ⅴ/5因子欠乏症.AiF5D)は希少疾病ではあるが,近年のわが国においては増加傾向にある.非専門医への疾患啓発と診療の均てん化が重要になってきている.

●AiF5Dの臨床症状は無症状から致死的出血をきたす症例まで多彩である.さらに血栓症をきたす症例も存在するため,出血と血栓の両面への注意を要する.

●AiF5Dは一過性で自然治癒する症例も存在するため,重篤な出血症状を呈する症例や出血リスクが高い症例に限り,自己抗体の根絶を目的とした免疫抑制療法を実施する.

●AiF5Dは自己免疫性凝固因子欠乏症の1分疾患として指定難病(288番)に認定されており,医療費助成の対象である.

自己免疫性凝固第ⅩⅢ因子欠乏症

著者: 惣宇利正善

ページ範囲:P.193 - P.197

Point

●自己免疫性凝固第ⅩⅢ因子(FⅩⅢ)欠乏症は,プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),血小板数などの一般的凝固検査では正常にもかかわらず,突然,大量出血する.

●Aサブユニット(活性サブユニット)に対する中和抗体(インヒビター)には,Bサブユニットとの複合体形成を阻害してFⅩⅢの活性化段階を妨害するAa型と,活性化したAサブユニットに結合して触媒反応を阻害するAb型がある.日本人症例の大半がAa型である.

●FⅩⅢの活性測定法によってAa型とAb型の阻害検出に違いが認められるため,注意が必要である.

ループスアンチコアグラント

著者: 野島順三

ページ範囲:P.198 - P.203

Point

●ループスアンチコアグラント(LA)は,個々の凝固因子活性を阻害することなくリン脂質依存性の凝固反応を阻害する免疫グロブリンと定義される.

●LAは,リン脂質濃度の限られた試験管内において凝固カスケードのリン脂質を介する反応(特にTenase複合体やProthrombinase複合体の形成)を阻害することによって凝固時間を延長させる.

●抗リン脂質抗体症候群(APS)診断基準(“Sapporo Criteria” Sydney改訂版)検査所見の1つであり,スクリーニング検査→クロスミキシングテスト→確認試験の3ステップで判定する.

●LAの多くは血栓形成の強力なリスク因子であるが,症例によってはLAHPSのように出血傾向をきたすこともある.

WITHコロナにおける検査室の感染対策・2

心電図関連検査における感染対策

著者: 中村香代子 ,   石井清 ,   小倉加奈子

ページ範囲:P.204 - P.206

はじめに

 心電図関連検査は患者への侵襲が少なく,簡便に用いられる検査である.循環器疾患が疑われての依頼や一般的なスクリーニングを目的とした依頼など,循環器内科を中心に各科からの依頼は多く,多様な患者を対象に検査を行っている.

 本稿では,心電図検査室で行っている感染対策について述べる.

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目次

ページ範囲:P.114 - P.115

書評

著者: 後藤温

ページ範囲:P.177 - P.177

「検査と技術」2月号のお知らせ

ページ範囲:P.116 - P.116

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.133 - P.133

次号予告

ページ範囲:P.207 - P.207

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.210 - P.210

 ここ1年半ほどの重苦しい状況で,日々活力を与えてくれた話題の1つはメジャーMVPの大谷翔平選手の活躍でしょう.野球に興味がなくても,彼の偉業を現地の実況アナウンサーが興奮した口調で伝える場面を視聴すると,うれしく,誇らしく,すがすがしい気持ちになったのではないでしょうか.メディアはホームランのタイトルや10勝到達に期待した伝え方でしたが,私たちはそんなことより,ただただ彼の活躍に心が和んでいたのではと思います.とにかく,いち日本人としては,春先からここまでありがとう,と感謝状を贈りたい気持ちです.

 もう1人,気持ちを明るくさせてくれたヒーローは将棋の藤井聡太四冠です.編集委員の河合昭人先生も以前に本欄で取り上げていました.私は対局をリアルで伝えるアプリがあることを知らず,昨年までの活躍は後日,ネットなどで知るだけでしたが,アプリを入れてから,時間をみつけて欠かさず彼の対局を見てきました.驚異的な勝率で気持ちがいいのは当たり前なのですが,プロの解説者の予想を上回る着手が多く,ヘボの私が見ても,次元の違う芸術のような印象です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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