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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査66巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

今月の特集 「心不全パンデミック」を迎え撃つ!

心不全のリハビリテーション

著者: 牧田茂

ページ範囲:P.290 - P.298

Point

●心不全患者に対する運動療法には,長期的介入による自覚症状と運動耐容能改善,QOLの改善と再入院の減少,ならびに生命予後改善効果が認められている.

●心臓リハビリテーション(CR)には,運動療法を中心とした疾病管理プログラムも含まれており,多職種が参加する包括的介入が重要である.

●心肺運動負荷試験(CPX)の目的は,①労作時呼吸困難や運動制限の原因を検索する,②最も信頼できる運動耐容能の客観的指標として,手術適応の決定,予後の予測,治療効果の判定を行う,③心臓リハビリ・運動プログラムにおける運動処方の決定である.

わが国における心臓移植の現状と未来

著者: 簗瀬正伸

ページ範囲:P.300 - P.311

Point

●わが国では年間55例程度の心臓移植が行われているが,心臓移植までの待機期間(ステータス1)は平均4年半と長く,心臓移植までのブリッジとして植込型補助人工心臓を用いることが多い.

●わが国では脳死下臓器提供者(脳死ドナー)の不足は深刻であるが,ドナーのコンディションを保ち,臓器提供に結び付けるためにメディカルコンサルタント(MC)による支援を行っている.

●心臓移植患者の生命予後は比較的良好(10年生存率88.7%)であるが,免疫抑制療法は終生必要であり,拒絶反応や感染症をはじめ種々の合併症に注意して治療を続ける必要がある.

●提供された心臓の拒絶反応の診断は,わが国では心筋生検による病理学的診断が主流であるが,近年,欧米では血清や組織を用いた分子診断にて拒絶反応を診断しうる手法が新たに確立され始めている.

心不全のバイオマーカー

BNP/NT-proBNP—バイオマーカーを理解する

著者: 柏木雄介 ,   川井真

ページ範囲:P.226 - P.234

Point

●B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は心保護作用を有するペプチドで,ナトリウム利尿ペプチドファミリーの1つである.心不全などにおいて心負荷とともに心室から分泌されて血中濃度が上昇する.

●BNPとN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)はいずれも心不全の診断,管理を行ううえで欠かせないバイオマーカーである.心不全の予後を予測する際にも非常に有用である.

●BNPとNT-proBNPには生理的作用,測定条件,バイオマーカーとしての測定意義,その値を解釈するうえでの注意点など異なる部分がある.それらの違いを理解する必要がある.

●心不全管理中のBNPやNT-proBNP値は過去との比較が大切である.それぞれの症例に最適な値をみつけ,その値を維持するような生活習慣の是正や適切な薬物療法などの包括的管理を行うことが大切である.

心筋トロポニン

著者: 中尾元基 ,   永井利幸

ページ範囲:P.236 - P.242

Point

●心筋トロポニンは急性心筋梗塞の診断目的に開発されたバイオマーカーであるが,心筋障害を直接反映するため心不全患者でも微量の心筋トロポニンが検出される.

●近年,高感度心筋トロポニン測定系の登場によって,基準値以下の微量のトロポニン値も正確に測定することが可能となった.

●高感度心筋トロポニン測定系で検出される微量な心筋トロポニン値によって,心不全患者の予後予測だけでなく,心不全未発症患者の予後予測も可能であることが明らかとなった.

心不全を心エコーで診る

LVEFの低下した心不全(HFrEF)

著者: 泉佑樹

ページ範囲:P.244 - P.253

Point

●左室の形態評価から,原発性心筋症および二次性心筋症をある程度鑑別し,次の精密検査を考える.

●左室の機能評価としては,断層法による左室内径とbiplane disk summation法による左室容積および左室駆出率(LVEF)を計測する.

●左室機能の継時的な変化(左室リモデリング,リバースリモデリング)を評価する.

●右室・左房機能も予後に影響するため重要である.

LVEFの保たれた心不全(HFpEF)

著者: 菊池祥平 ,   瀬尾由広

ページ範囲:P.254 - P.261

Point

●HFpEFの定義は,臨床的に心不全症状を呈し,左室駆出率(LVEF)が正常もしくは保たれており,左室拡張機能障害を有することである.

●複数の心エコー図指標を利用した診断アルゴリズムが左室拡張機能の評価に推奨されている.

●HFpEFの発症には左室拡張機能障害に加えて,左房機能の低下,右室機能の低下,肺動脈圧の上昇,動脈スティフネスの上昇,冠微小循環障害や変時性不全などのさまざまな要因が関与している.

●HFpEF診断のアルゴリズム(HFA-PEFF診断アルゴリズム)によって精度よくHFpEFを診断することが可能となった.

心不全をMRIで診る

心不全診療における心臓MRIの有用性

著者: 石田正樹

ページ範囲:P.262 - P.268

Point

●心臓MRIでは包括的検査プロトコールを用いて一度に,シネMRIによる心機能評価,負荷心筋血流MRIによる心筋虚血の評価,遅延造影MRIによる心筋梗塞や線維化の評価が可能であり,心不全の原因疾患の評価に有用である.

●feature tracking法による心筋ストレイン評価,T1マッピングによる心筋のびまん性組織性状の評価が可能となり,心不全の原因診断の精度が向上している.

●収縮能の保たれた心不全(HFpEF)においてもfeature tracking法やT1マッピングによって,心筋ストレインや心筋細胞液分画などの客観的指標に基づく病態評価が可能になりつつある.

心不全に対する治療

心不全に対する薬物療法

著者: 菊池規子 ,   志賀剛

ページ範囲:P.270 - P.274

Point

●心不全患者の症状・QOL,また予後の改善のために薬物療法は必須である.

●左室駆出率を考慮したうえで薬物療法を検討する.

●左室収縮能の低下した心不全には有効性が確立された薬剤がある.

●この数年で新たに有効性を示した薬物が登場しており,さらなる予後改善効果が期待されている.

心不全に対する心臓再同期療法(CRT)

著者: 石川利之

ページ範囲:P.276 - P.281

Point

●心不全例においてはしばしば左室収縮の協調性が失われている(dyssynchrony).左室と右室をペーシングする心臓再同期療法(CRT)によって左室収縮の協調性が回復する.

●QRS幅の広い,特に完全左脚ブロックパターンを示す症例がCRTのよい適応となる.

●心不全は進行性の病態である.CRTをニューヨーク心臓協会(NYHA)Ⅰ〜Ⅱ度の早期の心不全から導入することで心不全の進行は抑制される.

●心不全症例は心室細動による突然死を起こすことがまれではない.CRTと植込み型除細動器(ICD)を組み合わせたCRT-Dが有効である.

心不全に対する補助人工心臓(VAD)

著者: 中村牧子 ,   絹川弘一郎

ページ範囲:P.282 - P.288

Point

●ステージD心不全では,心臓移植までのつなぎとして植込型補助人工心臓〔左室補助人工心臓(LVAD)〕が保険償還されていたが,2021年5月に,心臓移植を前提としない恒久的使用(DT)も認可された.

●経皮的に挿入可能なカテーテル補助人工心臓(VAD)であるIMPELLAも2018年に認可された.低侵襲で迅速に心原性ショックによる循環不全を改善することができるが,おおむね数日間の短期使用である.

●植込型LVADはポンプ血栓予防のため,通常はアスピリンとワルファリンによる抗血栓療法が施行される.定期的なプロトロンビン時間-国際標準化比(PT INR)の測定とワルファリン投与量の調整を行う.

●植込型LVADの合併症として右心不全と大動脈弁逆流がある.定期的な心エコー検査と,必要に応じて右心カテーテル検査を行い,投薬調整・LVAD回転数調整を行う.

WITHコロナにおける検査室の感染対策・3

採血室における感染対策

著者: 松田将門

ページ範囲:P.312 - P.317

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は2019年12月に中国で最初の症例が確認された呼吸器疾患であり1),severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)を病原体とする.最初の症例以降,世界中で急速に感染が拡大し,世界保健機関は2020年1月30日に“Public Health Emergency of International Concern”,同年3月11日に“Pandemic”と宣言した.本稿を執筆している2021年9月18日現在,世界中の感染者数は約2億2,694万人,死者数は約466万人とされる2).一方,感染拡大防止対策の中心であるワクチン接種は約56億回実施されている2).ワクチン接種を含むさまざまな対策そして人々の協力によって,本稿が掲載される2022年3月には感染が縮小さらには終息していることを切に願う.

 本稿では検査室のCOVID-19感染対策のうち,採血室における取り組みを紹介する.SARS-CoV-2の感染経路はウイルスの吸入と粘膜への付着に大別されるが3),採血室ではどちらの経路による感染も成立する可能性がある.患者の氏名やアルコール過敏の確認など採血者と患者の会話が不可避であり,呼気中の飛沫によるウイルス吸入や目の粘膜などへのウイルス付着が危惧される4).また,会話だけでなく咳やくしゃみによる飛沫も感染の原因とされ3),採血者と患者の間だけでなく,患者間の感染も危惧される.本稿では,COVID-19流行前から実施していた感染対策,そして流行後から実施した対策を列挙して振り返り,それを踏まえて今後の課題や必要な対策について考える.

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目次

ページ範囲:P.212 - P.213

書評

著者: 吉村芳弘

ページ範囲:P.318 - P.318

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.317 - P.317

次号予告

ページ範囲:P.319 - P.319

あとがき

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.322 - P.322

 当方が初めて「あとがき」を執筆したのは2020年の64巻3号で,本稿が掲載されるのも同じく3号です.この2年間は,まさにCOVID-19一色となってしまいました.感染拡大の第5波が落ち着いて新規感染者数も大きく減少し,飲食店やイベントなどの制限も緩和され始めてポジティブな気持ちになりましたので,ぜひとも3月という時期柄に合わせて筆を執るつもりで臨んでいた矢先に,今度は世界規模のオミクロン株の出現.来年のことをいうとウイルスが笑うとは考えていませんが,今思うことを徒然なるままに書かせていただくことにします.

 「ワクチンの普及と治療薬の導入で重症例・死亡例が減少してCOVID-19が普通の風邪になるまでwithコロナで頑張るしかない」というような言葉をしばしば耳にしますが,そもそも何をもって「普通の風邪になった」といえるのでしょうか? 風邪,すなわち「かぜ症候群」とは一過性の病態として終息する急性上気道炎であり,その70〜90%はウイルス感染とされています.代表的な原因ウイルスとして,ライノウイルス(30〜80%),コロナウイルス(SARS,MERS,COVID-19の原因ウイルス以外,15%),アデノウイルス(5%)が知られており,個々のウイルスにおいて多数の血清型が存在します.ウイルス分離同定をせずに感染を証明するには,PCRなどによるウイルスゲノムの検出または抗原や抗体の血清学的検出が必要となりますが,多様な原因ウイルスと血清型の存在に加えて,基本的に予後やQOLを左右しないこともあって,実際には感染検査診断法はありません.症状の長期持続や非典型的な症状の合併がなければ結果的に「風邪だった」ということになります.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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