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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査66巻8号

2022年08月発行

雑誌目次

今月の特集1 感染防御—免疫とワクチンの基本

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.897 - P.897

 COVID-19の病相はウイルスの変異により変容しつつありますが,重症化の脅威から救ってくれるのはワクチンであることに異論は少ないでしょう.COVID-19だけでなく,ワクチンによって私たちもこれまで多大な恩恵を受け,子どもたちにとっては将来の安全が保証されるといっても過言ではありません.

 一方で,ワクチンによる免疫についてはわかっているようで,実は簡単ではないことが多いことに気付かされます.そもそも,感染して得られる免疫とワクチンで得られる免疫はどう違うのか,ワクチンはどのように働いて免疫を付けてくれるのか,ワクチンにはどのような種類と特徴があってそれぞれどのように作製されるのか,ワクチンの副反応にはどのようなものがあってどう対処するのか,ワクチンの効果でもある抗体をどのように測定し意味付けるのか,などなど.

 特集では,基本的な理解の助けとなる貴重な解説をいただきました.最後に,COVID-19のワクチンの現状と今後についてまとめていただきました.

感染症における免疫—自然免疫,獲得免疫とその持続

著者: 森尾友宏

ページ範囲:P.898 - P.904

Point

●ウイルス感染症においては,局所感染細胞における細胞内センサーの役割と,それに引き続くtypeⅠインターフェロン(IFN)を中心とした自然免疫応答が重要な役割を果たす.

●ウイルス感染後には自然免疫系から獲得免疫系に橋渡しされ,ウイルス特異的免疫応答が成立する.獲得免疫では抗体〔免疫グロブリン(Ig)〕と細胞傷害性T細胞(CTL)が重要である.

●獲得免疫では免疫記憶が成立し,2度目以降の曝露では抗体によってウイルスの侵入や伝播を防御する.ウイルス特異的CTLは速やかにかつ強力に感染症に対応する.

●ワクチン免疫では,自然のウイルス感染症を模倣するかたちで免疫記憶の誘導に至ることが重要であるが,免疫記憶成立維持機構については継続した基礎・臨床研究が必要である.

ワクチンが働くしくみ

著者: 日置仰 ,   石井健

ページ範囲:P.906 - P.910

Point

●ワクチンは,あらかじめ病原体特異的な獲得免疫を誘導しておくことで,実際にその病原体に感染した際に即座に免疫応答を誘導し,病原体を排除することを目的としている.

●ワクチンには,病原体そのもの,もしくは病原体の一部を抗原として使用する従来のワクチンと,病原体の遺伝情報を用いる核酸ワクチンがある.

●ワクチンはアジュバントやドラッグデリバリーシステムとともに,自然免疫の活性化を介して抗原特異的な獲得免疫応答を誘導する.

ワクチン作製の基本と新技術

著者: 岡本成史

ページ範囲:P.911 - P.917

Point

●ワクチン作製に必要な条件は,①有効な感染予防効果,②ワクチン接種後の副反応や健康被害を最小限に軽減する安全性,③安定的にかつ安価に接種できる経済性である.

●ワクチンは抗原の性状から,弱毒性生ワクチン,不活化ワクチン,トキソイドに分かれる.近年,科学的根拠による感染予防効果の誘導と安全性の担保によって不活化ワクチンの開発・作製が盛んになっている.

●不活化ワクチンの多くは病原体由来の蛋白抗原であるが,近年,その蛋白を遺伝子組換えで作製したコンポーネントワクチンや,蛋白抗原をコードする遺伝子そのものを使用した核酸ワクチンが存在する.

ワクチンの副反応・有害事象とその対応

著者: 氏家無限

ページ範囲:P.918 - P.923

Point

●医療従事者は予防接種を実施するに当たって,生じうる副反応の機序および対処方法について事前に理解し,適切な対応のために準備を行っておくことが重要である.

●予防接種後に生じた有害事象に関して副反応が疑われる場合には,制度に基づいた被害救済制度について当事者などに説明する必要がある.

●予防接種後の副反応(疑い)については,規定に基づく医薬品医療機器総合機構(PMDA)への報告が予防接種法および「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)で医療従事者などに義務付けられている.

ワクチン誘導免疫を評価する

著者: 中釜悠

ページ範囲:P.924 - P.931

Point

●ワクチンと免疫学的検査は両者が表裏一体となって,感染症に対するpharmaceuticalな(医薬品を用いた)対策の一翼を担う.

●ワクチン接種後に獲得免疫の検査を行う目的は,ワクチンが目指すところの防御レベル抗体価が適正に構築されたかを評価することにある.

●臨床検査室における免疫学的検査法が多様化するなか,測定結果の標準化(ハーモナイゼーション)はますます重要な課題となっている.

COVID-19ワクチンの現状と今後

著者: 中野貴司

ページ範囲:P.932 - P.938

Point

●呼吸器感染症のワクチンは一般的に開発が困難であるが,新しいモダリティの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンでは高い発症予防効果が確認された.

●メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの有効率は高いが,予防効果は接種後,期間を経て経時的に減衰する.

●変異ウイルスに対しては,ワクチンの予防効果の低下が指摘されている.

●mRNAワクチン接種後の副反応である発熱は,1回目よりも2回目の接種後で頻度が高い.

●重篤な副反応として,アナフィラキシー,心筋炎/心膜炎(mRNAワクチン),血栓/塞栓症(ウイルスベクターワクチン)がある.

今月の特集2 医療従事者のためのワクチン接種アップデート

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.939 - P.939

 医療関連感染症対策の一環として,全ての医療従事者にはワクチンで予防可能な疾患(vaccine preventable disease:VPD)に対する基本的な理解が必要です.推奨されるワクチンと対象集団は経時的なリスク評価に応じて変化しており,定期的なアップデートが求められます.

 本特集は,臨床検査技師を含む医療従事者が知っておくべきVPDの基礎知識とワクチン接種について整理し,各医療機関における対応改善に役立てることを目的として企画しました.

 対象としたワクチン選択は,日本環境感染学会から発刊されている「医療関係者のためのワクチンガイドライン」の内容に準じています.各疾患の特徴,ワクチンの基礎知識,医療従事者における接種の概要,注意点や今後の課題などについて,造詣が深い先生方から幅広く解説をいただきました.あらためて医療従事者に必要なワクチンの知識を整理いただき,ご自身の接種状況を見直す機会としていただけるよう願っております.

麻疹・風疹ワクチン

著者: 森野紗衣子

ページ範囲:P.940 - P.947

Point

●麻疹,風疹ともに,近年の流行の中心はワクチン接種歴“なし”もしくは“不明”の成人へ変化している.加えて,流行するとワクチン接種前の1歳以下の児の罹患が多く報告される.

●いずれも有効な抗ウイルス薬がなく,時に重症な合併症を起こしたり,妊婦への感染で流産や先天性風疹症候群(CRS)など次世代への影響を及ぼしたりすることがある感染症である.

●1歳以上で2回のワクチン接種が推奨される.定期接種対象者をはじめ,“接種歴なし”あるいは“不明”の場合はワクチンによる積極的な予防の検討が望まれる.

●麻疹,風疹ともに標準予防策,飛沫感染対策,接触感染対策のみでの感染予防は困難であるが,ワクチンで予防可能な疾患であり,世界で排除が目指されている.

おたふくかぜワクチン

著者: 小川英輝

ページ範囲:P.948 - P.952

Point

●おたふくかぜは基本的には軽症疾患であるが,無菌性髄膜炎や感音性難聴の合併症の報告があり,不可逆的な後遺症もきたしうる.

●おたふくかぜワクチンは世界123カ国で定期接種ワクチンとして導入されている実績がある.国内においては任意接種ワクチン(標準的には1歳と5〜6歳で2回接種する)であり,これは先進国において唯一である.

●医療従事者におけるおたふくかぜワクチン接種は,原則的には抗体価にかかわらず,1歳以降に2回以上のおたふくかぜワクチンを接種していれば十分である.

水痘・帯状疱疹ワクチン

著者: 宇田和宏

ページ範囲:P.954 - P.959

Point

●水痘は空気感染対策が,帯状疱疹は接触感染対策がそれぞれ必要な疾患である.

●わが国の20歳以上では85〜90%が水痘罹患者であり,帯状疱疹発症のリスクをもつ.

●50歳以上の医療従事者には弱毒生水痘ワクチンまたは組換え帯状疱疹ワクチンの接種が推奨される.

B型肝炎ワクチン

著者: 生方綾史 ,   松尾裕央

ページ範囲:P.960 - P.964

Point

●B型肝炎ウイルス(HBV)は他のウイルスと比較して感染力が高い.感染した場合はときに劇症肝炎,肝硬変,肝細胞癌などの致命的な病態を呈することがある.

●患者の血液や体液に曝露する可能性のある全ての医療従事者はHBVワクチンを接種(0・1・6カ月後の1コース)することが望ましい.

●3回目接種の1〜2カ月後にHBs抗体検査を行う.10mIU/mL以上であれば免疫獲得と判定できる.

●医療従事者にHBV陽性者の血液や体液の曝露が起こった場合の対応の流れを知っておくことが重要である.

季節性インフルエンザワクチン

著者: 寺田教彦

ページ範囲:P.966 - P.970

Point

●インフルエンザは,健康な若年者では多くが自然に回復するが,高齢者や免疫不全者などでは肺炎,インフルエンザ脳症,心筋炎などの合併症を併発して重症化することのある疾患である.

●医療従事者や介護職員のインフルエンザワクチンの接種率が高いと,入所者のインフルエンザ罹患者数や死亡者数が減少すると報告されている.

●医療従事者はインフルエンザウイルスに曝露する機会が多い.自身が発端となってハイリスク患者に感染を伝播させないように,ワクチンを積極的に接種することが望ましい.

髄膜炎菌ワクチン

著者: 相野田祐介

ページ範囲:P.971 - P.973

Point

●髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症は国内で毎年,数十例の報告がある.

●国内でも集団生活やマスギャザリングイベントなどでのアウトブレイクが報告されている.

●「医療従事者のためのワクチンガイドライン 第3版」では,55歳以下の医療関係者にもワクチン接種が推奨されている.

破傷風トキソイド

著者: 吉田菜穂子

ページ範囲:P.974 - P.977

Point

●破傷風は世界では年間100万人が発症し,30〜50%が死亡する致死的な疾患である.

●破傷風トキソイド含有ワクチンによる予防が重要である.

●発症予防レベルの抗体価を維持するには,約10年ごとの追加接種が必要である.

●受傷時のトキソイド接種は創傷の状態と最終接種からの期間によって検討する.

百日咳ワクチン

著者: 荒木かほる

ページ範囲:P.978 - P.981

Point

●百日咳はワクチンによって予防可能な疾患である.ワクチン未接種の新生児・早期乳児が罹患すると重症化・死亡する場合がある.

●百日咳の感染力は非常に強く,感染後,無症状のまま他者へ感染伝播することがある.病院での集団感染事例が報告されている.

●重症化ハイリスク児と接触する機会のある医療従事者には三種混合ワクチンの接種が推奨される.

WITHコロナにおける検査室の感染対策・7

病理検査関連における感染対策

著者: 青木裕志 ,   外山志帆 ,   飯野瑞貴

ページ範囲:P.982 - P.986

はじめに

 新型コロナウイルス(以下,SARS-CoV-2)による感染症(coronavirus disease 2019.以下,COVID-19)の広がりは,われわれの日常生活のみならず,検査業務や検査体制においても大きな変化をもたらした.

 従来の感染対策は,検査材料からスタッフへの感染を想定した対策が主体であった.一方,COVID-19パンデミックにおいては,検査材料のみならず検体容器に付着したウイルスによる感染への対応に加え,万が一スタッフが感染した場合やスタッフが外で感染したウイルスを検査室内に持ち込んだ場合も想定した幅広い対応が求められるようになった.あるべき感染対策や作業手順が十分に定まらないなかで,試行錯誤を繰り返しながら感染の波を乗り越え,日々の検査業務の維持に苦労された施設は多いと思われる.

 本稿では,COVID-19パンデミックを経験し,その対応を通して得られた知見として,順天堂大学医学部附属練馬病院の病理検査室におけるCOVID-19パンデミック以前と以後の感染対策の違いや課題について述べる.

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目次

ページ範囲:P.894 - P.895

書評

著者: 松尾宏一

ページ範囲:P.988 - P.988

書評

著者: 齋藤琢

ページ範囲:P.989 - P.989

「検査と技術」8月号のお知らせ

ページ範囲:P.896 - P.896

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.917 - P.917

次号予告

ページ範囲:P.991 - P.991

あとがき

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.994 - P.994

 本号の特集はワクチンに関する2本立てです.ワクチン接種の目的は特定の病原体に対する免疫記憶の獲得ですが,“免疫記憶”という言葉から,免疫の研究にいそしんだ約20年前の米国留学の記憶がよみがえりました.

 留学先のフロリダ大学は当時,米国で5本の指に入る屈指の広さをもち,バスまたは自転車がキャンパス内の移動の基本です.亜熱帯故の半端ない暑さに加えてスコールでずぶぬれになるのが日常.おまけにフロリダは身近な水辺にワニがごく普通に生息しています.キャンパス内には湖が1つ,さらに複数の池や小川がありました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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